ヒカリ「この物語はフィクションです。実際の私ならもう少し社交辞令ができます」
ヒカリ「だから、お返しです。この前のチョコレートの」
マトリ「いや、それは分かるが、何というか、返ってくるとは思わなかった」
ヒカリ「
マトリさんに施しを受けたままなのは気分が悪いので」
ヒカリ「ちゃんと3倍用意しました。大きな間違いはないと思いますが、一応確認してください」
ヒカリ「……?」
マトリ「……普通、こういうものは現金で返したりしないんだ」
ヒカリ「何がいいか分からなかったので」
マトリ「まあ、いい。貰い物にケチをつけるのは失礼だったな、すまない」
マトリ「それで……このコメントのしづらい金額は一体どういうことなんだ?」
ヒカリ「材料費と
マトリさんの人件費を配布人数で割って計算しました。あとプレミア分で少し上乗せしてます。材料と人数はヴィスタリアに確認したので正確ですし、人件費とプレミア分も大きくは変わらないはずです」
マトリ「そうか、キミがそういうなら間違いは……というか、別にそこは間違えるとかそういう話ではないんだが……」
マトリ「いや、すまない。また要らないことを言ってしまったな。とにかく、ありがとう。何であれ、君がお返ししてくれたのは嬉しいよ」
ヒカリ「はあ、そうですか。では、そろそろ行きますね」
ヒカリ「そうだ、言い忘れてましたが美味しかったですよ、チョコレート」
マトリ(何だろう、人の心が分からないだけで、根は悪くないのかもしれないな)
ヒカリ「ヴィスタリア、お返しです」
ヴィスタリア「まあ! まさかあの反応でお返しがあるとは思いませんでしたわ」
ヒカリ「不要な贈り物でも受け取ってしまった以上、何もしないというのも良くないかと思いまして」
ヴィスタリア「妙にトゲがある言い方ですが、とてもマトモな思考回路ですわね」
ヒカリ「ということなので、どうぞ」
ヴィスタリア「あら、貴方のことですから『現金です』とか言うかと思いましたが、ちゃんと選んできてくれましたのね」
ヒカリ「ええ、あなた相手にそんなことはしませんよ。それに、渡すものはすぐ思いつきましたしね」
ヴィスタリア「気になりますわ。開けても宜しくて?」
ヒカリ「どうぞ、帰ったらぜひ使ってください」
ヴィスタリア「……これは、料理本?」
ヒカリ「はい、もらったチョコレートを一粒食べた瞬間、いやもう見た時点で決まりました」
ヴィスタリア「……」
ヒカリ「贈り物なんですからせめて見た目くらい整えましょうよ。あれじゃ失敗した余り物押し付けてますって言っているようなものですよ」
ヴィスタリア「…………」
ヒカリ「まあ、私相手ですし、そこには目を瞑りましょう。まさか
マトリさんにあんなの渡してないでしょう?」
ヴィスタリア「ええ、まあ……」
ヒカリ「問題なのは味でしたね。微妙な不味さでした。ああ、前に食べられたものではないと言ったのは言い過ぎでした。すみません。『決して食べたいとは思わないが、大声で不味いと言うほどでもない』味でした。例えるなら蛮族肉ですね。あるいは毒性のない雑草」
ヴィスタリア「………………」
ヒカリ「そんなものを贈り物だと渡されたら、反応に困りますよね?」
ヴィスタリア「……
マトリは、美味しいと言ってくれましたわ」
ヒカリ「でしょうね。彼女は優しいから、あなたを傷つけたくないから。きっと無理して笑顔を作っていたと思いますよ」
ヴィスタリア「……っ、…………ぐっ」
ヒカリ「どうしてひとりで作ろうと思ったんですか? 一緒に作ればよかったのでは? あなたが慣れない手つきで頑張って作る姿を見せられては、嘘でも美味しいと言うでしょうね。まあ嘘なんですけど」
ヴィスタリア「……うっ、なにも、そこまで……っ」
ヒカリ「泣いてます? 大衆を味方につけるのが上手いですよね。さすが貴族様」
ヒカリ「……なんか雰囲気悪いんで、そろそろ帰りますね。来年はちゃんとしたもの作れるように頑張ってください」
ヴィスタリア「……っ! あなたにはもう二度と渡しませんわ!!」
ヒカリ「その言葉が聞けて良かったです」
ヴィスタリア(ホントに、どこまでも……! きっと人の心がないに違いありませんわ!)
材料費 1,200G
人件費 6,000G(ヴィスタリアに聞き取り。2時間分)
配布人数 24人(同上。パーティメンバーと孤児院関係者分)
プレミア 2,000G
合計額 2,300G
プレミア分については、「もし
マトリのチョコレートの配布イベントを自分がプロデュースするなら、参加料はこれくらい取れる」とヒカリが考える額です。
最終更新:2021年03月14日 00:28