追憶 ―悪鬼の日々―

床に就けば、思い出すこともある

ゆっくりとドアを開ける。
真っ暗な部屋の中は、静寂に包まれていた。
ドアから差し込む僅かな光が、山に積まれた麻袋と、
棚に並んだ瓶の数々を顕わにする。
さほど広い部屋でもなかった為か、
その明かりだけを頼りに、男は部屋を周り始めた。
袋と瓶。ここに特別珍しいものがある訳でもない。
ただ、確信があった。
"奴"は上手くやっているつもりだろう。
だが、本人の意図せぬ所に、手掛かりは残るものなのだ。
奴を終わらせるため、スゥと息を取り込む。
今、男の眼前には、麻袋が一つ。

「みぃぃぃっっっつけぇぇぇたぁぁぁ!!!」

だだっ広い屋敷に、ゲームセットのコールが響く。

―――
――

強い日差しの正午。
庭園の木陰には、涼しさを求める若者たちの姿があった。

「甘ぇ甘ぇ。この俺の上手を行こうなんざ百年早ぇぜ。」
「うぅ…ぐすっ。」

成人した一人の男と、幼い少年少女たち。
彼らは、先ほどの遊戯について語らい合う。
男が鬼の"かくれんぼ"の結果は、
子供たちの大敗に終わってしまったようだ。
開始して数分、遠くから次々に聞こえる「見つけた」の声は、
隠れる者に何の希望も与えないだろう。
余りの大人げなさに、泣き出す寸前の子も見える。
だが男が悪びれる様子はない。

「木箱の中ぁ?そんなしょーもない所に隠れとるから見つかるんだ。」
「…だってぇぇ。…だってぇぇ。」
「啖呵切ったお前たち見て、今日こそ"負けかー"思ったんだがなぁ。」
「勘違いだったな!はっはっは!」

子供を相手に煽る煽る。
この如何な光景は、屋敷では決して珍しいものではない。

「ケ~イ?」

そして天狗になった男が、とある女に逆らえないことも。
子供たちは、悪鬼を退治せんとする、勇敢なヒロインを歓迎する。
いつか自分たちで、この男を絶対に負かしてやろうと決意して。
今日も平和な田舎の屋敷に、男の絶叫と、子供の歓声が響き渡った。
最終更新:2021年08月01日 10:57