薔薇は真紅に染まる

その花言葉は"存在しない"


紅い霧が立ち込めていた。

麗しい緑の庭園。傲慢に構える大きな洋館。
踏み入れば、これまた広いロビーに、長い廊下。
豪勢な調度品は、古今東西からの逸品ばかり。
柔い絨毯の上を、使用人がせわしく行き来する。
正確な時刻の中で、支配者は優美な日常を送る。
古びた記憶はそう語る。これは過去の話。
たった少し前の、とある洋館の光景。
瓦礫と煤と黒染みばかりの一帯が、
ほんの少し前まで"そうだった"という話。
彼らが勝手に巻き込んで、壊し尽くしただけ。
先に言いたいことだけ言って、後はひたすら耐えた。
―――『姉を笑うな』と。
だから辺りと同様にひしゃげて、赤黒くなって。
でもあれだけ激しかった衝撃は、今はもう止んでしまった。
事は終わり、ようやく彼女が倒れ伏す。
紅い霧も、やがて晴れるだろう。
最終更新:2021年08月13日 21:39