静かな森を蹂躙する、獰猛な機械の唸り声。
それはモビルスーツが猛り狂う轟音。戦いの音色。
統一連合の治安警察が誇るピース・アストレイはAI制御による自律行動を可能とした最新鋭のモビルスーツだ。
それが数機。『彼ら』は単純な作戦しか実行できないが、それでも数を揃えれば十分な脅威となる。
『彼ら』は機械の腕で銃を構え、狙いを定め――そして一斉に放たれるピース・アストレイのビームガン。
二桁以上の数にも上る、破壊の光線。それは森の木々を薙ぎ、砕き、進路上にあるものを空気でさえ焼き払う。
しかし当たらない。四機のモビルスーツにはビームがかすりもしない。
驟雨のごとく横殴りに吹き荒れるビームの雨を、姿勢を低くして避け、跳んで避け、四機は決して止まることなく駆ける。
それはまるでダンスのよう。巨大な人影が駆ける姿は、まるで巨人がダンスを刻むよう。
「数だけは多いな、まったく……!」
いつも軽口を叩いている少尉だが、こういう時はさすがに悪態を吐くしかない。
当たらない。とは言え、乗って操縦している方はかなり必死だ。
何しろ装甲が薄いのだ、ピース・アストレイのビームガンは強力ではないが、それでも当たり所によっては致命傷になる。
「装甲が厚い機体に乗ってるお前が羨ましいな、シン! 一発や二発当たったところで大丈夫だしなあっ!」
「当たるなんてヘマするかよ。アンタじゃあるまいし」
「何だとコラ!」
「やめろ、馬鹿もん。――そろそろ打って出るぞ、このままではらちがあかん。シンと少尉は突っ込め。こちらが援護する」
大尉の言葉が合図となった。罵り合っていた二人は表情を厳しくし、本格的に反撃を開始する。
ダスト・ガンダムのビームライフル、その銃口が火を噴く。
狙われたピース・アストレイの一機は直前に察知して回避運動を行おうとしたが――絶望的にのろい。
狙いをつけて撃つ事は出来るが、臨機応変に回避する事は難しい。搭載しているAIの、そこが限界だった。
結果として、撃たれた胸の中心から火花を散らし、呆気なく倒れるピース・アストレイ。
倒れた機体は無様にも、横に居たもう一機を巻き込んで爆発した。
それをきっかけに、ほんの少しだが彼らの陣形が乱れる――
「行くぞ!」
それをシンは見逃さなかった。もちろん、他の三人もだ。
少尉が駆るシグナス、シンが駆るダスト・ガンダムの脚部が力強く地を蹴り、一足飛びにピース・アストレイの集団へと肉薄する。
もちろん敵はそれを黙って許してはくれない。破壊目標の接近に対応し、ピース・アストレイの人工知能も対処法を弾き出す。
シンが手近の敵機へと狙いを定め、ビームサーベルを抜き放ったのと、ピース・アストレイがビームサーベルを構えたのは同時の出来事――
しかし、そこからの速さが桁違いだった。
ろくな動きも出来ないままに、ピース・アストレイは右肩から左側の腰にかけて切り捨てられる。
爆発、四散するモビルスーツ、そしてそれを成したシンの背後から、ピース・アストレイは好機とばかりに襲い掛かる。
掲げられるビームサーベル。だがそれがダストガンダムの背部に振り下ろされる事はなかった。
中尉のシグナスが発射したビームは正確無比にピース・アストレイの腕と胸を貫き、吹き飛ばす。
「残りは三機……」
――いや、四機、と。シンは認識を改めた。
他の木偶とは動きが違うモビルスーツが一機、こちらにビームライフルの銃口を向けていた。
激しく光る銃火。焦がされる空気。シンは横に跳ぶことで辛うじてそれを避け、そして続く足元への銃撃に舌を打つ。
少尉と中尉のシグナスが援護射撃を行う。だが、それを敵機は難なく避けてみせる。
シンは敵機の様子が変わった事に気づいた。
先程までは人形の動きだった。数を揃えてもこちらの敵にはならない相手だった。
それはつまり有人機と無人機との差。
それが、新たなモビルスーツの登場とともに対応速度が速まり、やりにくい相手となっている。
「マサムネを出してきた……あっちもちょっとは警戒してたってわけか」
「不穏分子は徹底的に叩いておきたいんだろう。――ご苦労様な事だ」
シンの言葉に応える大尉はビームサーベルを抜き、接近戦に備える。
敵は指揮官専用のマサムネ一機と、その前面を守護するように配置されたピース・アストレイ三機。
睨み合っていた時間は一瞬。そして、両者の間にあった微妙な均衡は崩れた。
示し合わせたかのように同時に散開し、
シンは弾けるように横に跳びつつビームライフルを乱射するも、動きが良くなった敵機には当たらない。
先程までとは雲泥の差だ。反応の良さに悪態を吐き、更に跳躍。
ただし今度は前方に向かって。まさかここでビームの雨が降り注ぐ方に跳ぶとは思わなかった敵は狼狽し、反応が遅れた。
マサムネに乗っているのは訓練された正規兵。その指揮官が統率しているAIも決して馬鹿ではない。
うろたえ、躊躇ったのは一瞬のようなものだ。……だが、それでも、一瞬だろうと隙は隙。
慌てて上空を狙ったビームなど当たるわけがなく、シンは空中でライフルを構える。
狙いは一つ。厄介なマサムネ、敵のリーダー。
「こんのおおおッッ!」
そして上空から放たれる三発のビーム。一発はマサムネの足元の地面を抉り、一発は盾を弾き飛ばし、
そして最後の一発は指揮官であるマサムネをかばって飛び出したピース・アストレイの頭部を吹き飛ばす。
地面に叩き付けられて行動不能となるピース・アストレイには一瞥もくれず、残った三機はシンの着地を狙う。
だが、それは横手からのビームに阻まれた。中尉と大尉が放ったものだ。
「こちらの事も忘れてもらっては困るな」
「そんでもって、おいしいところはこの俺がいただきだ!」
吼える少尉が土煙を巻き上げてマサムネへと接近。マサムネのパイロットは前方のシンをピース・アストレイ二機に任せると、
自身は少尉のシグナスへと向き直る。素早く狙いをつけるビームライフルの銃口が、シグナスを捉える。
「しゃらくせえっ……!」
姿勢を低くしたシグナスの頭部を何本かの熱線が掠め、そしてマサムネのパイロットは再び驚く。
ライフルの銃口を向けられているのに、それでも突っ込んでくる――こんな奴等は、想定していない。
慌てたパイロットができた事と言えば、ビームサーベルを掲げる事だけ。
それを一閃。少尉が振るったビームサーベルはマサムネのそれごとコクピットを薙ぎ払い、指揮系統を沈黙させた。
これにより二機のピース・アストレイは指揮官を失い、弱体化する――もっとも、それでなくとも勝負はついていたが。
こちらもビームを掻い潜り肉薄したシンは、マサムネの破壊とほぼ同時にピース・アストレイ達を対艦刀で纏めて斬り払っていた。
それはモビルスーツが猛り狂う轟音。戦いの音色。
統一連合の治安警察が誇るピース・アストレイはAI制御による自律行動を可能とした最新鋭のモビルスーツだ。
それが数機。『彼ら』は単純な作戦しか実行できないが、それでも数を揃えれば十分な脅威となる。
『彼ら』は機械の腕で銃を構え、狙いを定め――そして一斉に放たれるピース・アストレイのビームガン。
二桁以上の数にも上る、破壊の光線。それは森の木々を薙ぎ、砕き、進路上にあるものを空気でさえ焼き払う。
しかし当たらない。四機のモビルスーツにはビームがかすりもしない。
驟雨のごとく横殴りに吹き荒れるビームの雨を、姿勢を低くして避け、跳んで避け、四機は決して止まることなく駆ける。
それはまるでダンスのよう。巨大な人影が駆ける姿は、まるで巨人がダンスを刻むよう。
「数だけは多いな、まったく……!」
いつも軽口を叩いている少尉だが、こういう時はさすがに悪態を吐くしかない。
当たらない。とは言え、乗って操縦している方はかなり必死だ。
何しろ装甲が薄いのだ、ピース・アストレイのビームガンは強力ではないが、それでも当たり所によっては致命傷になる。
「装甲が厚い機体に乗ってるお前が羨ましいな、シン! 一発や二発当たったところで大丈夫だしなあっ!」
「当たるなんてヘマするかよ。アンタじゃあるまいし」
「何だとコラ!」
「やめろ、馬鹿もん。――そろそろ打って出るぞ、このままではらちがあかん。シンと少尉は突っ込め。こちらが援護する」
大尉の言葉が合図となった。罵り合っていた二人は表情を厳しくし、本格的に反撃を開始する。
ダスト・ガンダムのビームライフル、その銃口が火を噴く。
狙われたピース・アストレイの一機は直前に察知して回避運動を行おうとしたが――絶望的にのろい。
狙いをつけて撃つ事は出来るが、臨機応変に回避する事は難しい。搭載しているAIの、そこが限界だった。
結果として、撃たれた胸の中心から火花を散らし、呆気なく倒れるピース・アストレイ。
倒れた機体は無様にも、横に居たもう一機を巻き込んで爆発した。
それをきっかけに、ほんの少しだが彼らの陣形が乱れる――
「行くぞ!」
それをシンは見逃さなかった。もちろん、他の三人もだ。
少尉が駆るシグナス、シンが駆るダスト・ガンダムの脚部が力強く地を蹴り、一足飛びにピース・アストレイの集団へと肉薄する。
もちろん敵はそれを黙って許してはくれない。破壊目標の接近に対応し、ピース・アストレイの人工知能も対処法を弾き出す。
シンが手近の敵機へと狙いを定め、ビームサーベルを抜き放ったのと、ピース・アストレイがビームサーベルを構えたのは同時の出来事――
しかし、そこからの速さが桁違いだった。
ろくな動きも出来ないままに、ピース・アストレイは右肩から左側の腰にかけて切り捨てられる。
爆発、四散するモビルスーツ、そしてそれを成したシンの背後から、ピース・アストレイは好機とばかりに襲い掛かる。
掲げられるビームサーベル。だがそれがダストガンダムの背部に振り下ろされる事はなかった。
中尉のシグナスが発射したビームは正確無比にピース・アストレイの腕と胸を貫き、吹き飛ばす。
「残りは三機……」
――いや、四機、と。シンは認識を改めた。
他の木偶とは動きが違うモビルスーツが一機、こちらにビームライフルの銃口を向けていた。
激しく光る銃火。焦がされる空気。シンは横に跳ぶことで辛うじてそれを避け、そして続く足元への銃撃に舌を打つ。
少尉と中尉のシグナスが援護射撃を行う。だが、それを敵機は難なく避けてみせる。
シンは敵機の様子が変わった事に気づいた。
先程までは人形の動きだった。数を揃えてもこちらの敵にはならない相手だった。
それはつまり有人機と無人機との差。
それが、新たなモビルスーツの登場とともに対応速度が速まり、やりにくい相手となっている。
「マサムネを出してきた……あっちもちょっとは警戒してたってわけか」
「不穏分子は徹底的に叩いておきたいんだろう。――ご苦労様な事だ」
シンの言葉に応える大尉はビームサーベルを抜き、接近戦に備える。
敵は指揮官専用のマサムネ一機と、その前面を守護するように配置されたピース・アストレイ三機。
睨み合っていた時間は一瞬。そして、両者の間にあった微妙な均衡は崩れた。
示し合わせたかのように同時に散開し、
シンは弾けるように横に跳びつつビームライフルを乱射するも、動きが良くなった敵機には当たらない。
先程までとは雲泥の差だ。反応の良さに悪態を吐き、更に跳躍。
ただし今度は前方に向かって。まさかここでビームの雨が降り注ぐ方に跳ぶとは思わなかった敵は狼狽し、反応が遅れた。
マサムネに乗っているのは訓練された正規兵。その指揮官が統率しているAIも決して馬鹿ではない。
うろたえ、躊躇ったのは一瞬のようなものだ。……だが、それでも、一瞬だろうと隙は隙。
慌てて上空を狙ったビームなど当たるわけがなく、シンは空中でライフルを構える。
狙いは一つ。厄介なマサムネ、敵のリーダー。
「こんのおおおッッ!」
そして上空から放たれる三発のビーム。一発はマサムネの足元の地面を抉り、一発は盾を弾き飛ばし、
そして最後の一発は指揮官であるマサムネをかばって飛び出したピース・アストレイの頭部を吹き飛ばす。
地面に叩き付けられて行動不能となるピース・アストレイには一瞥もくれず、残った三機はシンの着地を狙う。
だが、それは横手からのビームに阻まれた。中尉と大尉が放ったものだ。
「こちらの事も忘れてもらっては困るな」
「そんでもって、おいしいところはこの俺がいただきだ!」
吼える少尉が土煙を巻き上げてマサムネへと接近。マサムネのパイロットは前方のシンをピース・アストレイ二機に任せると、
自身は少尉のシグナスへと向き直る。素早く狙いをつけるビームライフルの銃口が、シグナスを捉える。
「しゃらくせえっ……!」
姿勢を低くしたシグナスの頭部を何本かの熱線が掠め、そしてマサムネのパイロットは再び驚く。
ライフルの銃口を向けられているのに、それでも突っ込んでくる――こんな奴等は、想定していない。
慌てたパイロットができた事と言えば、ビームサーベルを掲げる事だけ。
それを一閃。少尉が振るったビームサーベルはマサムネのそれごとコクピットを薙ぎ払い、指揮系統を沈黙させた。
これにより二機のピース・アストレイは指揮官を失い、弱体化する――もっとも、それでなくとも勝負はついていたが。
こちらもビームを掻い潜り肉薄したシンは、マサムネの破壊とほぼ同時にピース・アストレイ達を対艦刀で纏めて斬り払っていた。