「お前のMSを廃棄するさいにでてきた余剰パーツだ。餞別代わりに持っていくがいい」
「……余剰パーツ?」
「ああ。 おまえもオーブの民なら、モノには魂がやどると聞いたことがあるだろう?」
父だったか、教師だったかの説教で聞いたような言い回しだ。とりあえず首を縦にふる。
「あのMSはぼろぼろになりながらお前をここまで導いたのだ。きっとお前をまもろうという意思があったのだろう、
そう考えて大事にしてやるのがオーブ流のものの考え方、だ」
そのミナの言葉に、俺はうなずいた。
「……余剰パーツ?」
「ああ。 おまえもオーブの民なら、モノには魂がやどると聞いたことがあるだろう?」
父だったか、教師だったかの説教で聞いたような言い回しだ。とりあえず首を縦にふる。
「あのMSはぼろぼろになりながらお前をここまで導いたのだ。きっとお前をまもろうという意思があったのだろう、
そう考えて大事にしてやるのがオーブ流のものの考え方、だ」
そのミナの言葉に、俺はうなずいた。
オーブ。俺の育った国。そして俺の家族を守ってくれなかった国。
「本当は、オーブのことが好きなんじゃないのか?」
そんなことを言ってくれた奴もいたが、自分でもそれはわからない。
懐かしい気分は確かにある。だがその国を統べる者の名は、今でも俺の心の中に尽きぬ怒りを呼び起こしているのだ。
アスハは許せない。アスハを褒め称え続け、そのアスハに「殺された」人たちを「理念に殉じた」などと飾ろうとする今のオーブの民も許せない。
……だが、オーブで暮らしていた頃の日々までもを、憎んでいるわけではない。
その日々の最後の名残り……妹、マユの遺した携帯電話。それが俺の「家族」の魂の最後のかけらだと、俺は内心そう思っていた。そう思うことで、一瞬にして全てを亡くしたショックから自分を守っていたのだろう。
そして今、俺はこの女……ロンド・ミナ・サハクから、俺の機体・デスティニーの残骸が入ってるというトランクを受け取った。それが、ミネルバでの日々、そしてミネルバでの仲間たちの魂の、最後のかけらだと信じて。
「本当は、オーブのことが好きなんじゃないのか?」
そんなことを言ってくれた奴もいたが、自分でもそれはわからない。
懐かしい気分は確かにある。だがその国を統べる者の名は、今でも俺の心の中に尽きぬ怒りを呼び起こしているのだ。
アスハは許せない。アスハを褒め称え続け、そのアスハに「殺された」人たちを「理念に殉じた」などと飾ろうとする今のオーブの民も許せない。
……だが、オーブで暮らしていた頃の日々までもを、憎んでいるわけではない。
その日々の最後の名残り……妹、マユの遺した携帯電話。それが俺の「家族」の魂の最後のかけらだと、俺は内心そう思っていた。そう思うことで、一瞬にして全てを亡くしたショックから自分を守っていたのだろう。
そして今、俺はこの女……ロンド・ミナ・サハクから、俺の機体・デスティニーの残骸が入ってるというトランクを受け取った。それが、ミネルバでの日々、そしてミネルバでの仲間たちの魂の、最後のかけらだと信じて。
手にしたトランクに視線を落としていた俺は、ミナがまだ目の前から立ち去っていないことに気づく。
奴は……いや、俺が彼女にしてもらったことを考えたら、こんな言い方は絶対にしちゃいけないんだろうが、ほかにどう呼ぶのも気が引けるのだ……ずっと俺を見ていた、ようだ。
センチになってた自分を見られるのは、なんとなく気恥ずかしい。それが俺に荒い言葉を吐かせる。
「な、何だよ……まだ、居たのかよ」
「旅立つ少年の顔にしては元気が無かったようなのでな、心配して見ていたのさ。
顔も上げずに出ていくのが許されるのは、せいぜい家出少年くらいのものだ」
「……な、」
「そう、それくらいのほうが良い。 ……お前がこれから挑むモノのことを考えたら、それくらいの元気がなくてはな」
からかわれている、と反射的に怒りの顔を向けたことまで、からかわれるネタにされている。
……この女は、苦手だ。
ルナ以上に大人で、艦長以上に余裕があり、ステラよりもさらに謎めいている。
そばに居ると、自分が何も知らないちっぽけな子供のようにしか思えなくなってくる。
奴は……いや、俺が彼女にしてもらったことを考えたら、こんな言い方は絶対にしちゃいけないんだろうが、ほかにどう呼ぶのも気が引けるのだ……ずっと俺を見ていた、ようだ。
センチになってた自分を見られるのは、なんとなく気恥ずかしい。それが俺に荒い言葉を吐かせる。
「な、何だよ……まだ、居たのかよ」
「旅立つ少年の顔にしては元気が無かったようなのでな、心配して見ていたのさ。
顔も上げずに出ていくのが許されるのは、せいぜい家出少年くらいのものだ」
「……な、」
「そう、それくらいのほうが良い。 ……お前がこれから挑むモノのことを考えたら、それくらいの元気がなくてはな」
からかわれている、と反射的に怒りの顔を向けたことまで、からかわれるネタにされている。
……この女は、苦手だ。
ルナ以上に大人で、艦長以上に余裕があり、ステラよりもさらに謎めいている。
そばに居ると、自分が何も知らないちっぽけな子供のようにしか思えなくなってくる。
と、次の瞬間。
俺の視界を一瞬黒いものがさえぎった。全身を包む……人肌のぬくもり。
見開いた目からの情報が何を意味するのか、俺の脳みそがフルパワーで空回りを続ける中、俺の唇にぶつかる柔らかくあたたかな感触。
……一瞬前に目前を過ぎ去ったルージュの紅。きめ細かな白い肌、照明をうけて光る頬の産毛。
ちくしょう、今頃になって自分が『何を見たのか』に気づくなんて。
俺の視界を一瞬黒いものがさえぎった。全身を包む……人肌のぬくもり。
見開いた目からの情報が何を意味するのか、俺の脳みそがフルパワーで空回りを続ける中、俺の唇にぶつかる柔らかくあたたかな感触。
……一瞬前に目前を過ぎ去ったルージュの紅。きめ細かな白い肌、照明をうけて光る頬の産毛。
ちくしょう、今頃になって自分が『何を見たのか』に気づくなんて。
俺より頭ひとつぶん高い「奴」は……その外套で俺を包み込むように、俺を抱きしめ……そして、くちづけ、を。
ふたつのやわらかな圧力が俺の胸を圧す。
怜悧な外見、冷たい表情からは思いもよらなかった感覚が俺を包む。 暖かい。柔らかい。心地良い。
そう、こいつのことで……俺は、ほんとうの意味で、忘れていたことがあったんだ。
ロンド・ミナ・サハク、こいつは、おんな、なんだ。 頭でではなく、体で、それに気づく。
ふたつのやわらかな圧力が俺の胸を圧す。
怜悧な外見、冷たい表情からは思いもよらなかった感覚が俺を包む。 暖かい。柔らかい。心地良い。
そう、こいつのことで……俺は、ほんとうの意味で、忘れていたことがあったんだ。
ロンド・ミナ・サハク、こいつは、おんな、なんだ。 頭でではなく、体で、それに気づく。
鼻腔にかすかに甘い香りを残し、す、と彼女は身を離す。
「シン・アスカ、今のは私個人からの餞別だ。
次に生きて出会う日には、もうすこし私に楽をさせてくれよ? 心も体も、私が楽をできるように、な」
身をかがめて俺の唇を奪うために、だいぶん彼女が苦労しただろうことは、あとから気づいた。
言いたいことを言ったのか、外套を翻して彼女は去る。呆然としたままの状態から慌てて後を追う側付のソキウスたち。
「シン・アスカ、今のは私個人からの餞別だ。
次に生きて出会う日には、もうすこし私に楽をさせてくれよ? 心も体も、私が楽をできるように、な」
身をかがめて俺の唇を奪うために、だいぶん彼女が苦労しただろうことは、あとから気づいた。
言いたいことを言ったのか、外套を翻して彼女は去る。呆然としたままの状態から慌てて後を追う側付のソキウスたち。
地球行きのシャトルのシートに身を沈めても、俺の鼓動はいっこうにおさまらないまま、だった。
それを彼女に告げることが出来る日は、俺に、やってくるのだろうか……。
それを彼女に告げることが出来る日は、俺に、やってくるのだろうか……。
- この当時のシンにはこーいうおねーさんが必要だったんじゃないかと思ってみたり。
転んで泣いて立ち上がってまた走る。男とはそうやって造られるものです、ええ。 -- 書いた奴 (2005-11-01 02:16:42)