車内から晴れ渡る空を眺めて、カガリは薄く口元を笑みに歪めた。
(やっと、そうやっとだ。やっとこの日が来た)
ずっと望んでいた、レジスタンスを始めとする抵抗勢力の中でも元締めに当たる勢力との協和。
今日は極秘裏ではあるがその話し合いの場なのだ。
この、カガリの乗る車の後ろの車にはラクスが、空から先を行く機体にはキラが乗り込み、協議の会場へと向かっている。
今日は極秘裏ではあるがその話し合いの場なのだ。
この、カガリの乗る車の後ろの車にはラクスが、空から先を行く機体にはキラが乗り込み、協議の会場へと向かっている。
(ホントはお前も、一緒に出席して欲しかったんだけどな)
ふと、胸ポケットに忍ばせたペンダントにポケットの生地越しに触れる。
そのロケットの中には、今はもう居ない「お前」と自分の幸せな姿が収まっている。
そのロケットの中には、今はもう居ない「お前」と自分の幸せな姿が収まっている。
(ああ、憎しみからは何も産まれない。私たちは7年前と5年前にそれを学んだんだ。これでカタチだけでも平和になれば、お前も許してくれるよな……?)
つい先日レジスタンスとの戦闘で亡くなった「お前」に問いかける。
当然答えは無い。それでも。
当然答えは無い。それでも。
(うん。私はお前が望んだ、私とアイツ等の望む世界を創ろう。お前への、私からの餞だ)
もう一度空を仰ぐ。目から頬へ引かれた化粧が、乾いてくれるように。
波の音が遠く聞こえる。
話し合いの場に指定されたのはオーブ国内の海岸沿い、終戦の記念碑が立つ場所にある一般向け施設だった。
その小ホールを貸し切り、協議を行うのだと言う。
昼の内に現場には入ったが、開始時間は夜だった。
併設したホテルの部屋を控え室として借りて休んでいると
話し合いの場に指定されたのはオーブ国内の海岸沿い、終戦の記念碑が立つ場所にある一般向け施設だった。
その小ホールを貸し切り、協議を行うのだと言う。
昼の内に現場には入ったが、開始時間は夜だった。
併設したホテルの部屋を控え室として借りて休んでいると
「カガリ様、お時間です、ホールへどうぞ」
「そうか、すぐに行く。 ああ、ラクスとキラには私が声をかけて行くから気を回すな」
「そうか、すぐに行く。 ああ、ラクスとキラには私が声をかけて行くから気を回すな」
SPにそう告げ、目を控え室の外に向ける。
(いよいよ、いよいよだ)
逸る心と震える身体を押さえつけて控え室を出、向かいの控え室へ声をかける。
「おい、ラクス、キラ。時間だそうだ、行こう」
『はい、少しだけ待ってくださいね』
『うん、わかった』
『はい、少しだけ待ってくださいね』
『うん、わかった』
ドア越しに返答が返ってくる。
この二人の控え室はあえて一緒にした。
キラは地上でPGの隊長職、ラクスはプラントの議長と、普段ほとんど会う機会のない二人のために気を回したのだ。
こうして、三人は話し合いが行われる小ホールへ向かった。
この二人の控え室はあえて一緒にした。
キラは地上でPGの隊長職、ラクスはプラントの議長と、普段ほとんど会う機会のない二人のために気を回したのだ。
こうして、三人は話し合いが行われる小ホールへ向かった。
『パンパカパーン』
何かのイベントとかち合ったのだろう。壁越しでも耳を貫く華やかさに、キラ・ヤマトは僅かに眉を顰めた。
(……予想はしてたけど、これだけ騒がしいと、異常が起こった時対応しきれるかな…?)
統一連合の力の象徴であるPGの隊長、実質的には統一連合の軍部のトップに立つキラがこの話し合いに参加しているのは2つの理由からだった。
1つはもちろん統一連合の代表の一人として。
もう1つは「ラクスとカガリのボディガード」として。
後者については本人が勝手にそう決めただけだが、事実、スーパーコーディネーターである彼は過信でもなんでもなく下手なボディガード10人分以上の働きが出来る。
しかし、研ぎ澄ませた聴力を以ってしてもここは騒がしすぎる。
1つはもちろん統一連合の代表の一人として。
もう1つは「ラクスとカガリのボディガード」として。
後者については本人が勝手にそう決めただけだが、事実、スーパーコーディネーターである彼は過信でもなんでもなく下手なボディガード10人分以上の働きが出来る。
しかし、研ぎ澄ませた聴力を以ってしてもここは騒がしすぎる。
(これじゃ…)
そう思った時、より大きなファンファーレと共に、女性の声が開幕を告げる。
『大変長らくお待たせ致しました。これより…きゃっ!?』
案の定、唐突に途切れたアナウンスに会場は騒然とする。
同時に落とされるホールの照明。ありがちな手だが、目が慣れるまでは間違いなくその場の全ての人間の視力を奪える確実な手段だ。
同時に落とされるホールの照明。ありがちな手だが、目が慣れるまでは間違いなくその場の全ての人間の視力を奪える確実な手段だ。
「ッ、ラクス!カガリ!」
「キャッ!」
「うわ、お前ッ!」
「キャッ!」
「うわ、お前ッ!」
咄嗟に隣に立っていたラクス、ラクスと自分の間から一歩踏み出した位置に居たカガリを床に伏せさせる。
ターン、ターン
響く銃声に顔を上げると、捉え切れはしないがいくつかの影が多方からこちらに襲い掛かって来ていた。
「このぉっ!」
懐に手を入れる暇は無い。
伏せたまま正面の影の脚を払い、そのまま跳ね起きて倒れかけの相手を蹴り飛ばす。
同時に両側から迫ってきた影の頭を両手でそれぞれ掴み双方を激突させ、意識を刈り取る。
伏せたまま正面の影の脚を払い、そのまま跳ね起きて倒れかけの相手を蹴り飛ばす。
同時に両側から迫ってきた影の頭を両手でそれぞれ掴み双方を激突させ、意識を刈り取る。
「うおぉぉお!!」
もう片方を巻き込み背負い投げの要領で投げ飛ばし、
片方をその場に倒して立ち上がらないよう膝で押さえつける。
と、同時に照明が回復した。
片方をその場に倒して立ち上がらないよう膝で押さえつける。
と、同時に照明が回復した。
「死ねぇ!悪魔共が!!」
「ッ、う」
「ッ、う」
眩む視界の中に捉えたのは、最初に蹴り飛ばしたと思しき黒服がこちらに銃を向ける姿。
「まッ、ず」
反射的に横に跳びかけた身体を強引に戻す。後ろにはラクスとカガリが居るのだから、自分が飛退く訳には行かない。
両手を広げ、二人の盾としてその身体を捧げる。
両手を広げ、二人の盾としてその身体を捧げる。
ターン、ターン、ターン
再び響く乾いた音に、思わず目を閉じる。
(────?)
一刹那、襲ってこない衝撃を不審に思い目を開ける。
そこには
そこには
「……え?」
今、自分が取ったポーズと酷似した姿勢で立ちふさがる白い軍服。
「カ、」
金の髪が儚く揺れて。
「カガ、リ?」
自分に頭を向けて仰向けに倒れたその白い軍服は赤に染まって。
「へ、へへ、弟と、友達くらい、守ってやらないと、な」
そんな事を言って、姉は瞼を閉じた。
「…ん」
重い瞼を開けると、懐かしい顔がのぞき込んでいる。
「ぁ、なんだアスラン。こんな所に居たのか。聞いてくれ、私達は、平和を…」
アスランは掌を向けて言葉を制し、指で遠くを指し示す。
その先では初老の男性が優しく微笑みを浮かべて立っている。
その先では初老の男性が優しく微笑みを浮かべて立っている。
「お父様!アスラン、なんでお父様が!?」
「カガリ、もういいんだ。お前は頑張ったよ」
「カガリ、もういいんだ。お前は頑張ったよ」
アスランとウズミの声が重なってカガリを包み込む。
「もう、いいんだ。俺達と一緒に行こう。お互い、一休みだ」
「あぁ、そういえば、眠くて…」
「そうだ眠れ。もう悩まなくていいんだ」
「あぁ、そういえば、眠くて…」
「そうだ眠れ。もう悩まなくていいんだ」
「ちくしょう、ちくしょう」
とにかくシートにカガリを座らせて、傷口を圧迫しないよう気を付けて固定する。
そしてシート脇に身体を滑り込ませ、OSを機動。
そしてシート脇に身体を滑り込ませ、OSを機動。
「オート制御システム起動キャンセル スラスターリミットカット 飛翔 全武装への送電カット……」
(いらない、いらない!速く、カガリを一秒でも速く病院へ!それ以外の機能なんて、能力なんていらない!)
カガリが見上げていた空に、機影が線となって飛び去る。
カガリが見上げていた空に、機影が線となって飛び去る。
数時間後、オーブの獅子の忘れ形見は息を引き取る。
これを機に統一連合は対抗勢力との対話、取引を避けるようになり、
レジスタンスの活動も統制を無視した破滅的な物へと変わっていく。
それはまた別のお話。
これを機に統一連合は対抗勢力との対話、取引を避けるようになり、
レジスタンスの活動も統制を無視した破滅的な物へと変わっていく。
それはまた別のお話。