「機動戦士GUNDAM SEED―Revival―」@Wiki

愚か者の宴

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集
量子通信機というものは、正しく使えばほぼ盗聴が不可能なシステムである。
だが、それは同時に「直接通話していた」と言う状況証拠にもなり得る。

大西洋連邦大統領、ジェームス=ジェファーソン=ジョンソン
東ユーラシア共和国大統領、セルゲイ=ノヴィッチ=ボラーゾフ
通話の内容が漏れれば、二人とも政治的、否、社会的に抹殺されるだろう。
量子通信機で直接通話となれば、誰かをスケープゴートにも出来ない。

だが、その密談は両者にとって起死回生の奇策の為に必要だったのだ。

「…本当に、構わないのかね?」
3Jが念押しする。
「他に手はない。どのみち…」
セルゲイは通信機の向こうでひどく昏い笑みを浮かべた。
「このままだと国内各地で大量の餓死者が出る。ガルナハンの連中は自分たちの方が可愛いのだろう」
「そこまでひどい状況とは…報道ではもっと」
「お国とは違う…」
セルゲイは自嘲気味に呟く。
「オーブのセールスマンどもの尻を蹴飛ばして追い出して、弱りきった国内産業を食い荒らすハゲワシを追いまわして、なんとか確保した予算で農業振興に励んでも、限界は有る」
「…」
「多少回復した今でさえ、なるべく地方での餓死者を出さないのが精一杯なのに。『なるべく』だ、『一人も』ではなく!」
音声のみの通話だが、3Jはセルゲイの視線を感じた。羨望に満ちた「持たざるもの」の視線。
「かててくわえて、今度の地熱プラント制圧だ。…正直、見込みが甘かったのだろうな」
深い、深い溜息。
「よもや、他の地域に全くと言って良いほど回ってこないとは思わなかった」
それは、仕方が無いのかもしれない。いくら地熱発電プラントとして優秀でも、東ユーラシア全域はカバーできない。
そして、ロマの予想を完全に裏切って、ローゼンクロイツは明確に供給先を選別した。
自分達にとって、役に立つか否か。極論すればそう言う事だ。
「どのみち、大規模な飢饉で餓死者が出るというのなら、生き残るべき国民は選択されてしかるべき、と言うのは傲慢かね」
「…私がソレに答えられると?」
「済まない…忘れて欲しい」
セルゲイの謝罪を3Jは快諾する。
「人間、愚痴りたい時も有る。私なぞ隣の補佐官殿が厳しい人でね。愚痴もこぼせやしない」
そう言って笑う3Jにつられてセルゲイも微笑んだ。が、すぐに顔を引き締める。
「では、例の件、よろしく頼む」
「判った。明日の夕刻にはアクションを起す。後はそちらにお任せするよ」

3Jとセルゲイのプランは、一言で言うなら「PGを誤情報で出動させ無関係な民間人を殲滅させる」と言うものだ。
まず、大西洋連邦が「大規模破壊兵器をレジスタンスに強奪された」と言う偽情報を流し、同時に東ユーラシア共和国の官憲が「レジスタンスが何かを持ち込んだ」情報を掴み、ガルナハンのレジスタンスが「受け入れた」と発表する。
ガルナハンのレジスタンス、と言えば誰もがローゼンクロイツを連想するだろう。
当然の事だがローゼンクロイツは即座に否定するだろうが、同時にソレを否定する材料も無ければ、証拠も無しに信じる者もいない。
オラクルによる傷跡は誰の記憶にもまざまざと刻まれているのだから。
そして、東ユーラシア共和国がPGに出動を要請したところで、「大規模破壊兵器による住民殺害」が起きる。犯人は…ローゼンクロイツだとPGも判断するだろう。
そして、バードクーペに立て篭もったレジスタンス側から攻撃すれば。

大西洋連邦の発表後、二人の描いた絵図面の通りに事態は動いていった。
まるで、ラクスやキラとも打ち合せていたかのように。
(ここまで順調というのも不安を煽られるものだな…)
だが、ここから3Jとセルゲイの予想を超える事態が生じた。
PGの半数以上の投入。
そして、バードクーペの周辺へのライフラインの破壊。
結果として、かなりの数の東西ユーラシア国民がバードクーペへ難民となって雪崩込んだ。
(なんだ、これは?)
まるで、セルゲイと3Jの二人の策に乗じて…
セルゲイの脳裏に、二年前の苦い記憶が蘇る。
あの、仕組まれた飢餓を。
(これではまるで…我々の策を使った間引きでは無いか!)
事ここに至って、ようやくセルゲイはPGの意図に気付いた。
緩やかな死を、バードクーペにもたらそうと言うのだ。
レジスタンスの支配力の強い地域からエネルギー等を根こそぎ吸い上げ、他の地域に分配する。
レジスタンスの勢力を削ぎ、若しくは組織自体を解体でき、飢えに苛まれている地域を救える妙案ではある。極めて非人道的だが。
今や、バードクーペはディスポーザーにも等しい立場に有った。
そこに集った、希望に満ちた人々とは裏腹に。

そして、後に「バードクーペの悪夢」と言われた日。
『ガルナハン地方で、テロ組織「ローゼンクロイツ」とその机下の組織が保有していた生物兵器が漏洩した事により、致死性の細菌が蔓延する危険性が…』
その、ガルナハンを『生物兵器による汚染を防ぐ』目的でPGが死体焼却の為にバードクーペを焼き払ったニュースが流れた日。
セルゲイと3Jは、俺が愚かさを呪った。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー