「機動戦士GUNDAM SEED―Revival―」@Wiki

第22話「その名はストライクブレード」エピローグ

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「このタイミングで撤退命令だと、何を考えていやがるんだ! 俺たちはほぼ九割方勝っていたんだぞ! 」

「せっかく、せっかくあいつらをあそこまで追い詰めたのに!」

「上の連中は底なしの間抜けか? 間抜けでも構わないが、せめて俺たちの足を引っ張らないでくれよ……」

 通信で散々文句を言っている部下たちの声は、イザークにも届いていた。上層部批判を本来ならば咎めるべきなのだろうが、釈然としない気持ちはイザークとて彼らと一緒である。

《おい、そろそろ教えてくれてもいいだろ……何があった?》

 すぐ側を走る緑色のSBから、ディアッカが問いかける。彼も『撤退命令が出た』以上のことはまだ聞いていないのだ。

「詳細は分からんが、本隊がレジスタンスに急襲されたらしい。かなり慌てた様子だったな。敵の殲滅を目前にしている、とこちらの状況を説明したが、マルセイユ中将もジアード中将も異口同音に、とにかくすぐに合流しろ、と絶叫していた」

 ディアッカのため息は、通信機越しでもはっきりと聞こえてきた。遠征軍の二大派閥であるマルセイユ派からもジアード派からも疎んじられ、ろくな扱いを受けていなかった自分たちが、いざとなると頼りにされるというのは、なんともやりきれない気持ちなのだろう。しかしそれよりも……

《あれほど邪険にしていた俺達に、なりふり構わず助けを求めてきたか。情けないといううよりは、それほどまでに自軍は危機的な状況ということか》

 イザークは無言の形でディアッカの言葉に同意した。マルセイユにしろジアードにしろ、遠征での軍功を喉から手が出るほど欲しているはずなのだ。にもかかわらず、恥も外聞も無くイザークたちに救援を求める時点で、よほど事態が切迫しているのだろう。

(この戦いは負けるかもしれないな)

 考えてみれば兵力以外は、天の時、地の利、人の和のことごとく統一連合軍はレジスタンスたちに劣っていた。今後改めて体勢を立て直し、東ユーラシアに侵攻することになるにせよ、今回の遠征そのものは失敗する見込みが高いとイザークは考える。

 そうなれば、失敗の責任の一端をイザークがとらされることもありえるだろう。たとえ自分自身がベストを尽くしたとしても、戦いは結果論でしか語られない。無様な負けをさらせば、処罰されるのは軍人として当然の扱いだ、そのことに不満は無い。

(ならば、せめて部下たちは無事に本国に連れて帰ってやりたい)

 イザークが撤退命令に素直に従った理由のひとつはそれである。リヴァイブの抵抗が思いのほか強く、合流が遅れた等いくらでも言い訳はできただろうし、個人的な軍功のみを求めるのならばそうしてリヴァイブ殲滅を優先するという選択肢もあっただろう。しかし、それでは命令違反の責を部下たちにも負わせることになりかねない。窮鼠猫を噛むのことわざもあるとおり、リヴァイブの最後の抵抗で自軍に被害が出ることも十分にありえる。

《いろいろと気苦労が絶えんね、お前さんも》

 そんなイザークの思いを感じ取ってか、ディアッカが親友同士の気安い口調に戻って言った。イザークもそれにあわせて、憎まれ口で返す。

「だったら、少しは気苦労を分かち合え。お前は副官だろう」

《いやあ、俺みたいな軽い男はそんな責任なんて負えないから。やはり真面目なイザーク殿にお願いしないと》

「ぬかせ」

 イザークは笑った。ディアッカとの気取らない会話のおかげで、少しは気持ちが晴れたようだった。

 そしてふと、さきほどまでの戦闘に思いを馳せる。

(まさか、こんなところでシホと再開するとはな)

 ディアッカを除けば、ともに戦ってきた部下たちの中では一番印象に残る人間だった。優秀な部下でもあり、魅力的な女性でもあった。ラクス=クラインの治世に疑問を持ち、姿を消した後でも、その消息を気にかけてはいたのだが。自分の手で彼女に引導を渡さなかったことに、安堵しているのも正直な気持ちである。

(ただ、もはや会うこともないだろう)

 イザークはそれを限りにシホのことを考えるのはやめにした。

 彼にはまだやらなければならないことがあるのだ。自軍を救援し、部下たちをこの負け戦から無事に連れて帰るという、大事な仕事が残っているのだから。






 スレイプニールの艦内では、物言わぬ骸となった乗員がハンガーの脇に並べられている。粗末な毛布をかけられただけで放置されていた。手厚く葬ってやりたいのはやまやまだが、生きている者たちにはまだその余裕は生まれていなかった。

「……ひでえ」

 シゲトはそれだけしか言えなかった。戻ってきたMSの惨状を目の当たりにして、パイロットに犠牲者が出なかったのは僥倖に過ぎないことを思い知らされる。

 シンのダストガンダムは左腕を失い、腰部や脚部にもダメージが残ったままである。

 大尉のシグナスは全身が細かい傷だらけ。中尉の方はライフルの砲身が熱でゆがんでしまっている。少尉の機体は両腕が破壊され、本格的な修理をしなければ自立歩行すら無理な状態だ。シホ機も装甲のところどころに焼け焦げが残り、シールドもボロボロだった。

 しかし、満身創痍のMSを修理している余裕はリヴァイブにはない。苛烈な攻撃を受けたのはスレイプニールも同様だ。機関部への直接のダメージこそなかったものの、修理を施さなければ通常の運航もままならない状態なのである。

今この状況で、敵の攻撃を受ければ抵抗する術は無い。ともかく艦が動けるようにすることが最優先と、サイをはじめメカニック陣はスレイプニールの修理にかかりきりになっている。コニールたちもそれを手伝っている状態だ。犠牲者たちを弔い、生還したパイロットたちをねぎらうことすら誰もできなかった。

 大尉と中尉と少尉は憮然とした表情のまま、ハンガーに座り込んでいる。

 シホは満身創痍の愛機にもたれかかりながら、イザークへの複雑な感情を整理しきれず唇を噛んでいる。そのシホを何一つ援護できなかったヨーコとリュシーは自分たちの不甲斐なさを悔い、彼女たちの隊長の姿を遠めにおろおろと眺めるばかりだ。

 そして、シンは、帰還後もコクピットから降りることなく、ずっとその中で押し黙ったままだ。



《シン、少しは休まんと、身体が持たないぞ》

 レイが忠告するが、シンはじっと、暗転したモニターを見つめるままだ。そして呟く。

「俺は、何もできなかった」

《……どういうことだ? 》

「俺は、何もできなかった。無様に敵に翻弄されて、いいようにやられるばかりだった」

 シンは拳を握り締める。こめられた力が震えとなって現れていた。

「第三特務隊を倒したときの力も出せなかった……あの力が出せていれば勝てていたかもしれないのに。皆が危機に陥っていたのに、皆を守らなければいけなかったのに! 」

 強敵を前にしたとき、生命の危機に瀕したとき、幾度と無く彼を守り、敵を打ち破ってきた力。まさしく種子が弾けて中から無尽蔵の力が溢れ出すような感覚。それがとうとう、この戦いでは出てこなかった。

シンがその力を自由に出せるわけではない。今回の敗北はそもそも作戦の甘い見通しに起因しており、シン一人の責任というわけではないだろう。しかし彼は自分自身を責め続ける。

(俺は、仲間の仇を討つどころか、今この瞬間に、皆を守ることすらできないのか? )

 シンの心を深い闇が占めつつあった。そんなシンにかける言葉をレイは見つけられなかった。






「そんな無茶な、こっちだってダメージが大きいんです! 少しはこちらの事情も斟酌してください……だめだ、聞く耳を持ってくれない! 」

 ロマは通信機を叩きつけるようにして戻した。傍らのラドルがロマに尋ねる。

「ローゼンクロイツは何と? 」

 ロマは現在の窮状を友軍に訴え、支援を要請した。しかしながら返答はあまりに過酷なものだった。

「……『当方に支援の余裕無し。現在、統一連合軍を相手に一斉攻撃を仕掛けている。リヴァイブもすぐに参加せよ』返事はそれでした」

 ラドルは絶句した。支援が期待できないであろうことまでは予測もできたが、この状態でさらなる作戦への参加を命じられるとまではさすがに思わなかった。

「幾らなんでも無茶だ。スレイプニールだって動くのがやっとの状態なのに。ましてや戦闘に参加するなんて」

 ラドルもロマの弱気な台詞に同調したかった。しかし、あえて表情を厳しくして言う。

「しかしここで参加要請を無視すれば、後でローゼンクロイツからそれを咎められるでしょう。苦しいのはどこも同じ、リヴァイブは自分たちが特別な存在とでも思っているのか、と」

 ロマもラドルの指摘に頷かざるを得ない。散々ローゼンクロイツがリヴァイブを便利使いし、危険な任務に就かせて酷使し続けてきたという裏事情はあるにせよ。

「とりあえず艦は何とか動くまでには回復させます。クルーには無理をかけますが、できるだけ早く本隊に合流しましょう」

 悲壮な決意を見せるラドル。ロマも覚悟を決めた。艦内に放送を流す。絶望的な気持ちをなるべく表に出さぬよう努めながら。

「ロマだ。各員は艦の修理に専念してくれ。終了しだい、リヴァイブはローゼンクロイツ本隊に合流する。繰り返す、艦の修理が終了しだい、我々はローゼンクロイツ本隊に合流する」

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