Another Disk Edition〝第三幕〟九野 月流子&アルバート 【Story line】収録『プロローグ』 第二版
朝の通り。
様々な人間が行きかう中、異様な影が一つあった。
様々な人間が行きかう中、異様な影が一つあった。
羽織る黒のローブは法儀済みの由緒あるものだが今は見る影もないほどにと ころどころが擦り切れている。それはもう、質屋に入れたところで一銭にもならない程に。
そのフードの奥の素顔を黒いバイザーで隠した〝聖堂騎士〟はあまりにも朝の通りからかけ離れている存在だった。
何度も周りを見回してからブツブツ言って再度見回すその挙動はあまりに不審すぎる。
そのフードの奥の素顔を黒いバイザーで隠した〝聖堂騎士〟はあまりにも朝の通りからかけ離れている存在だった。
何度も周りを見回してからブツブツ言って再度見回すその挙動はあまりに不審すぎる。
「チッ、転移索敵にも霊視にも魔力感知にも引っかからねえ………が、それらしい痕跡はあるな………」
ぼやくバイザー。
ぼやくバイザー。
アルバート=C=E=ファイレクシア、それがその男の名前だ。
その機関に属する聖堂騎士は交易都市ロスタニスで人を探している。たった 一件の、非常にくだらない目撃情報を受けて。
その機関に属する聖堂騎士は交易都市ロスタニスで人を探している。たった 一件の、非常にくだらない目撃情報を受けて。
その話はこんなものだった。この地域にしては珍しい黒髪で、被召喚者の周りに見られる常に微々たる次元の歪みがあったという。
そしてそんな女性が天から落ちてきて、何事も無かったかのようにショッピングしているそぶりを見せて何処かへ去っていったという。
そしてそんな女性が天から落ちてきて、何事も無かったかのようにショッピングしているそぶりを見せて何処かへ去っていったという。
バイザーの所属する機関はそんな高等なジョークに反応するほど馬鹿ではない。冷やかしに悪戯、プロパガンダ。糞真面目に反応していたらラチがあかない。
今回バイザーが動く破目になったのは上司にあたるミシュアルの命令によるものだ。
ある程度高い役職になると直下の部下に個人の判断で命令権が与えることを許される。本来自分にその命令権を行使できるのは直下の上司レオンハルトだけなのだが、レオとミシュアルは仲が良い。アルバート自身ミシュアルには世話になっているため断るつもりは無かったのだが………話の中身を事前に知ってたら投げ出していたと推測される。
今回バイザーが動く破目になったのは上司にあたるミシュアルの命令によるものだ。
ある程度高い役職になると直下の部下に個人の判断で命令権が与えることを許される。本来自分にその命令権を行使できるのは直下の上司レオンハルトだけなのだが、レオとミシュアルは仲が良い。アルバート自身ミシュアルには世話になっているため断るつもりは無かったのだが………話の中身を事前に知ってたら投げ出していたと推測される。
そんなこんなで、目撃情報に沿って早朝、交易都市ロスタニスへと足を運んだのだが。
「………………だりぃ」
早くもやる気を無くしていた。
第一、本当に被召喚者が居るのか解らない。
第二に、本当に居たとしてもそこらをふらついているわけが無い。
これらの要素をアルバートの思考ミキサーでミックスすればだるい、となるようだ。
第一、本当に被召喚者が居るのか解らない。
第二に、本当に居たとしてもそこらをふらついているわけが無い。
これらの要素をアルバートの思考ミキサーでミックスすればだるい、となるようだ。
しかしだからと言って全く仕事をしないのも不味い。
こんな無理難題かつ面白くない仕事は完璧にこなして花まるの満点を貰おうとは思わない。ならばせめて精一杯やったというようにアピール出来ればそれで十分。
こんな無理難題かつ面白くない仕事は完璧にこなして花まるの満点を貰おうとは思わない。ならばせめて精一杯やったというようにアピール出来ればそれで十分。
それはバイザーの軽い思考の中で養われた人間関係の見極めと機関と言う環境で完成された処世術だ。
「………さて、とりあえずはこんなところでOKだな。あとはどう時間を潰すか………それにこの忌々しいバージョンアップ済みの記録(レコーダー)をどうやり過ごすかも考えなきゃな」
何も、この手の仕事は実際に精一杯やらなくてもいい。
『やられたらやりかえす』のと同じように、理不尽を押し付けられたら理不尽な手段を取ってもいい。バイザーの軽い思考、その象徴なのかもしれない。
『やられたらやりかえす』のと同じように、理不尽を押し付けられたら理不尽な手段を取ってもいい。バイザーの軽い思考、その象徴なのかもしれない。
「まずは………こいつを片付けるか………」
そう言って記録(レコーダー)―――教団側直属の任務の場合の時につけさせられる腕輪。単独任務の場合は当事者が、複数人での任務の場合副官がつけ、会話を逐一記録させられる代物―――と格闘する。
そう言って記録(レコーダー)―――教団側直属の任務の場合の時につけさせられる腕輪。単独任務の場合は当事者が、複数人での任務の場合副官がつけ、会話を逐一記録させられる代物―――と格闘する。
一見腕時計に向かって悪態をつく様はその風貌も相まって不審さ倍増。
人の流れは川の清水が岩を避けるが如く、バイザーを避けて通る………筈だった。
人の流れは川の清水が岩を避けるが如く、バイザーを避けて通る………筈だった。
突然ふわり、と。風が急に柔らかく感じられた。
ふとバイザーが顔を上げる。
白いブラウスの女性が、当たり前のようにバイザーと人の流れの間に出来た空間を真っ直ぐに通過していた。
一般的な考えというものを常識とするのなら、この女性は異常と言ってもいいのかもしれない。
そして―――ここがバイザーにとって大事なことなのだが―――何処か遠くを見ているような雰囲気を携えたその女性は〝黒髪〟だった。
珍しいとは言ってもまったく見ないわけではない。しかし、感じた違和感とその〝黒髪〟は彼の関心を引くには充分すぎるほどのものだ。
ふとバイザーが顔を上げる。
白いブラウスの女性が、当たり前のようにバイザーと人の流れの間に出来た空間を真っ直ぐに通過していた。
一般的な考えというものを常識とするのなら、この女性は異常と言ってもいいのかもしれない。
そして―――ここがバイザーにとって大事なことなのだが―――何処か遠くを見ているような雰囲気を携えたその女性は〝黒髪〟だった。
珍しいとは言ってもまったく見ないわけではない。しかし、感じた違和感とその〝黒髪〟は彼の関心を引くには充分すぎるほどのものだ。
バイザーの直感が告げる―――もしかして俺はとんでもなく幸運なのかもしれない。
だからと言って冷静さを欠き、この場で話しかけるほどバイザーも馬鹿ではなかった。
万が一に賭けて尾行し、接触のタイミングを見る。流石にこの場所で今話しかけるのは不味すぎる。
この目立つ格好では細心の注意を払わなければならない。静かに、怪しまれないように尾行を続けるバイザー。
下手すれば通報モノだ。娯楽漫画にはよくある内容だが、実際のこととなると洒落にならない。
万が一に賭けて尾行し、接触のタイミングを見る。流石にこの場所で今話しかけるのは不味すぎる。
この目立つ格好では細心の注意を払わなければならない。静かに、怪しまれないように尾行を続けるバイザー。
下手すれば通報モノだ。娯楽漫画にはよくある内容だが、実際のこととなると洒落にならない。
「聖堂騎士がストーカー!」
一面を飾ること請け合い。聖堂騎士としてのプライドと機関の尊厳は木っ端微塵だろう。
そして何よりレオとミシュアルに殺される。
この上官二人がキレたところを見たことは無いが、キレたとなれば必ず殺される。
言葉通りに一刀両断されたりクビを切られたり串刺しになることは想像に難くない。
一面を飾ること請け合い。聖堂騎士としてのプライドと機関の尊厳は木っ端微塵だろう。
そして何よりレオとミシュアルに殺される。
この上官二人がキレたところを見たことは無いが、キレたとなれば必ず殺される。
言葉通りに一刀両断されたりクビを切られたり串刺しになることは想像に難くない。
バイザーが物騒極まりない予想をしている間に先ほどの場所から随分離れていた。ここなら問題ないだろう。
接触を図るにあたりバイザーは考える。相手の性格は全く外面から見て殆ど掴めない。だが、ここで引いたらそれこそ失格だ。まずは軽く挨拶代わりの第一声を軽く頭の中で構築し、相手に叩きつける。
接触を図るにあたりバイザーは考える。相手の性格は全く外面から見て殆ど掴めない。だが、ここで引いたらそれこそ失格だ。まずは軽く挨拶代わりの第一声を軽く頭の中で構築し、相手に叩きつける。
「そこのお嬢さん?私の探している方に………よく似ておられるようだ………」
散々梃子摺らせてくれてどうもありがとう。逃げんな、逃げんなよ? 信じてる、ああ信じてるとも。
その想いは果てしなく切実なのだが同情する気になれない。
散々梃子摺らせてくれてどうもありがとう。逃げんな、逃げんなよ? 信じてる、ああ信じてるとも。
その想いは果てしなく切実なのだが同情する気になれない。
その随分とトチ狂った第一声に一瞬きょとん、として。
「初めましての相手に言うのもなんだけどさ。その格好、とっても危ういよ」
……正直、もう少し。もう少しあれな性格を期待していたなんてことはな い。決してそんなことはない、動揺もしてはいない。
「初めましての相手に言うのもなんだけどさ。その格好、とっても危ういよ」
……正直、もう少し。もう少しあれな性格を期待していたなんてことはな い。決してそんなことはない、動揺もしてはいない。
「はは、失敬。何しろこれが正装なもので。まぁ、確かにこれはいささか」
「バイザー装着が正装っておかしいよ、それ。」
弁解の速度を高速とするなら追い討ちの速度は音速に等しく、反撃の余地を与えない。厄介にも程がある、とんだじゃじゃ馬だ。
「バイザー装着が正装っておかしいよ、それ。」
弁解の速度を高速とするなら追い討ちの速度は音速に等しく、反撃の余地を与えない。厄介にも程がある、とんだじゃじゃ馬だ。
「そんなことは無いさ。これは黒水晶で作られた由緒正しいバイザーに魔力加工を加えたもの。霊視から暗視、さらにはお日様まで直視出来る優れ物です。何か問題でも?」
完璧。まるでバックにキラキラと何かが浮かんできそうな点でバイザーの発言は完璧だ。
完璧。まるでバックにキラキラと何かが浮かんできそうな点でバイザーの発言は完璧だ。
「何か私悪いことしたかなぁ……」
わざと聞こえるように呟く女性。
その表情と声の含みは何処か楽しげだ。あくまで自分は一般人と公言しておきながら、こうして会話をしている実際との相違に自分で笑っている、というような笑みを浮かべる。
そしてそのままその口は次の一手を放つ。
わざと聞こえるように呟く女性。
その表情と声の含みは何処か楽しげだ。あくまで自分は一般人と公言しておきながら、こうして会話をしている実際との相違に自分で笑っている、というような笑みを浮かべる。
そしてそのままその口は次の一手を放つ。
「いい病院知ってるけど、紹介しようか?」
今のは少しカチンと来た。実際のところは結構カチンと来ている。抑えろ、抑えるんだ畜生。
そうだ、この会話は記録(レコーダー)に収集されている―――――!
今のは少しカチンと来た。実際のところは結構カチンと来ている。抑えろ、抑えるんだ畜生。
そうだ、この会話は記録(レコーダー)に収集されている―――――!
「病院、と。生憎目は何処も悪くありません。むしろ保護のためにつけていますが……ね?」
「例えば、一般市民から投げられる石からとか?」
プツン。何かが切れた。
「例えば、一般市民から投げられる石からとか?」
プツン。何かが切れた。
「喧嘩売ってるのか?」
思わず、脊髄からの条件反射が声を紡ぐ。
聞こえたのか聞こえてないのかは知らないが女の表情は変わらず、楽しげだ。ちぃ、非常にいけない、完全に相手ペースだ………このままでは地が出るのも時間の問題だろう。
思わず、脊髄からの条件反射が声を紡ぐ。
聞こえたのか聞こえてないのかは知らないが女の表情は変わらず、楽しげだ。ちぃ、非常にいけない、完全に相手ペースだ………このままでは地が出るのも時間の問題だろう。
「……コホン。聖堂騎士とは民衆から敬愛されるべき存在です。つまりは、 「皆で石遠投大会」の石が当たったら大変と。まあそうですね」
「それってさ、どんな大会なの?」
即帰ってくる一手。
「それってさ、どんな大会なの?」
即帰ってくる一手。
「石を遠くに投げるんです」
「それでどうするの?」
バイザー自身も理解している。この勝負は既に負けているのだと。
「それでどうするの?」
バイザー自身も理解している。この勝負は既に負けているのだと。
「記録を計るんです」
「そr」
「優秀者は表彰するんです。さあ、行きましょうか。言ってる意味、解りますよね?」
ちっ、我ながら無茶だったか。でもいいよな? な? というオーラを全開。何かがやばい、何かが崩れる寸前まで来ている。
「そr」
「優秀者は表彰するんです。さあ、行きましょうか。言ってる意味、解りますよね?」
ちっ、我ながら無茶だったか。でもいいよな? な? というオーラを全開。何かがやばい、何かが崩れる寸前まで来ている。
「ねぇ、何が悲しいのか知らないけど……自分で言ってて虚しくない?」
チェックメイトがかかった。もう逃げ場は無い。
チェックメイトがかかった。もう逃げ場は無い。
「頼む、触れるな。自分でも後悔している」
まだ俺は終わらないとばかりに苦し紛れの一撃は地を出すという失態に終わる。
まだ俺は終わらないとばかりに苦し紛れの一撃は地を出すという失態に終わる。
「教会に行って懺悔でもして来たら?」
「前言撤回します、聖職者に置いての「後悔」の念。其即ち「咎」…です」
それらしく取り繕う。言ってる自分が白々しい。
「前言撤回します、聖職者に置いての「後悔」の念。其即ち「咎」…です」
それらしく取り繕う。言ってる自分が白々しい。
「何かキミ、格好含めて色々無理してない?やっぱり病院に行った方がいい、かも。
無理、ですか。無理、ねえ。男に無理の二文字は無えッ!
レッツゴーパッション、魂の叫びとは裏腹に限界はちらちらと見えてくる。
無理、ですか。無理、ねえ。男に無理の二文字は無えッ!
レッツゴーパッション、魂の叫びとは裏腹に限界はちらちらと見えてくる。
「………無理なんてしてませんよ?」
バイザー改心の笑み。その顔にバイザーがくっついていなければもう少しまともに見えたであろうに、バイザーでは逆効果を生みマッドな笑みにしか見えない。ほぼ確実に俗に言う放送禁止顔というヤツに分類される。
バイザー改心の笑み。その顔にバイザーがくっついていなければもう少しまともに見えたであろうに、バイザーでは逆効果を生みマッドな笑みにしか見えない。ほぼ確実に俗に言う放送禁止顔というヤツに分類される。
「……………………」
少し眉を顰め、如何にも危ない物を見たように僅か顔を傾け横目でバイザーを凝視する。
その視線が衝突した瞬間、『ママー、あの人バイザーつけてるよー』『シュウちゃん、指差しちゃいけません』だの『メルメルメー(僕の名前はシュナイダーだよ)』だの『しまった! 逃げろ、ハンス! ルアゴイフだ!』だの、様々なものを連想させる。この瞬間、バイザーにとってその女性は一般大衆の意思の具現となった。
少し眉を顰め、如何にも危ない物を見たように僅か顔を傾け横目でバイザーを凝視する。
その視線が衝突した瞬間、『ママー、あの人バイザーつけてるよー』『シュウちゃん、指差しちゃいけません』だの『メルメルメー(僕の名前はシュナイダーだよ)』だの『しまった! 逃げろ、ハンス! ルアゴイフだ!』だの、様々なものを連想させる。この瞬間、バイザーにとってその女性は一般大衆の意思の具現となった。
「……………………」
「……………………♪」
同じ沈黙だと言うのにその雰囲気は焦燥と余裕、全くの正反対。
そう、勝負は決した。
「……………………♪」
同じ沈黙だと言うのにその雰囲気は焦燥と余裕、全くの正反対。
そう、勝負は決した。
ピキン。………沈黙から6秒経過、バイザーの中で大切な何かが音を立てて決壊した。
「………俺だって上(レオ)直々の指定が無ければ普通に話すさ!あの野朗、どっかで記録(レコーダー)提出した後にクスクス笑うんだろうな……クソっ!OK、これが本来の喋り方だ、文句無いだろう?あ゛あ゛!?」
吐き出される言葉は瀑布の如く。心の壁を決壊させたTUNAMIはもう止まらない。
吐き出される言葉は瀑布の如く。心の壁を決壊させたTUNAMIはもう止まらない。
「うん、これで文句無し」
一連の流れに満足したように笑う目の前の女性。
一連の流れに満足したように笑う目の前の女性。
その余韻も覚めやらぬまま、突然何か大切なことを思い出したように女性は少し顔を傾け、悩んでるようなそぶりを見せ。
「それで、君………誰?」
今更、そんなことを口にした。
今更、そんなことを口にした。