春一番作戦
「春一番作戦」は、2018年11月から翌19年3月にかけて春闘対応を目的として実施された各作戦の総称。激化の一途を辿る春闘に対応する為に労働省労働局・警視庁・神奈川/千葉県警・海上保安庁・陸上自衛隊の合同による執行部隊(*1)が首都圏広域管区第1方面~第4方面に編成され、これらの任務部隊を中心に春闘への対応が実施された。
背景と概要
労使内戦の進展
多数の死傷者・逮捕者を出した2009年春闘(詳細は血の春闘を参照されたい)以後も日本労働組合総同盟(同盟)は小早川グループの系譜にも連なる強硬派の板垣運輸労連中央執行委員がイニシアチブを握り、小早川元自動車総連中央執行委員の提唱した武力闘争の更なる進展を主張していた。[1]それに対する日本経済連盟(経連)も大久保会長が千代田暴動被害者追悼式典の場で「労組側の一方的な脅迫には応じない」とスピーチするなど同盟との対決姿勢を鮮明にし、[2]両陣営は2010年以降も激しい攻防を繰り広げていた。
このような状況下で2017年5月に天童機械製作所労働組合が全日本金属産業労働組合連絡会傘下のJFMに加盟。天童機械製作所は国内外の法執行機関向けにAR15クローンほか各種小火器類の販売等を手がける軍需関連メーカーであり、同社労働組合が強硬派本流とも言われる全日本金属産業労働組合連絡会の指導下に入った事で同盟の行動グループが同社製の火器・爆発物を装備する可能性を国家公安委員会が指摘する事態に陥った。2017年12月には関係者の内部告発を基に実施された強制臨検作戦(降誕祭作戦)にて数十万ドル規模の小火器を押収し2018年春闘で計画されていた破壊行動の封殺に成功したものの、国家公安委員会の警告を受けてなお事態を楽観視していた経連指導部も「2009年春闘の再来」を差し迫った危機として認識するに到った。
このような状況下で2017年5月に天童機械製作所労働組合が全日本金属産業労働組合連絡会傘下のJFMに加盟。天童機械製作所は国内外の法執行機関向けにAR15クローンほか各種小火器類の販売等を手がける軍需関連メーカーであり、同社労働組合が強硬派本流とも言われる全日本金属産業労働組合連絡会の指導下に入った事で同盟の行動グループが同社製の火器・爆発物を装備する可能性を国家公安委員会が指摘する事態に陥った。2017年12月には関係者の内部告発を基に実施された強制臨検作戦(降誕祭作戦)にて数十万ドル規模の小火器を押収し2018年春闘で計画されていた破壊行動の封殺に成功したものの、国家公安委員会の警告を受けてなお事態を楽観視していた経連指導部も「2009年春闘の再来」を差し迫った危機として認識するに到った。
赤坂会談
2018年5月、大久保経連会長、高山国家公安委員会委員長、藤堂総務大臣、毛利労働大臣の四者が赤坂にて会合。大久保会長より「2019年春闘における関係者・関係企業の生命および財産の保護についての要請」が行われたといわれる。[3]本会合で話し合われた詳細は現在まで明らかになっていないが、数日後に開催された国家公安委員会・総務省・労働省・国土交通省(オブザーバーとして法務省・防衛省)の次官級会議を皮切りに驚異的なスピードで骨子が固まり、6月末には春闘対応を目的とした諸作戦群の計画立案および実行にあたる合同執行部隊の編成が決定された。
CEF指揮権問題
合同執行部隊(以下CEF)は労働省労働局・警視庁・神奈川/千葉県警・海上保安庁の要員を基幹に4個編成し、各部隊に陸上自衛隊の連絡要員を分派する(*2)事で合意が得られたが、その後は指揮権の行方を巡って会議は紛糾した。
警視庁は各方面に分派する警備部機動隊の指揮官をそのままCEF指揮官に据える事を主張し国家公安委員会もそれに賛同。その一方で労働省側から「本件の中心はあくまで労働行政であり、所管省庁である労働省が指揮権を持つべき」との意見が出たほか、CEF3-93(3方面担当)に人員を派遣する神奈川県警ならびにCEF2-92(2方面担当)とCEF4-94(4方面担当)を担当する千葉県警から3・4方面の指揮についての申し入れがあった事で議論は複雑化し平行線を辿る事となった。
結局この指揮権問題は労働省が作戦期間中の各CEF活動拠点を提供する事、そして経連側から労働省主導についての支持表明が出された事で決着し、服部国家公安委員を議長とする六者会議(*3)の助言の下で労働省労働局統括本部内の方面協力・統合調整タワーが調整と発令を行い、CEF指揮官には各方面を管轄する労働基準監督署の副署長が指名される事となった。
警視庁は各方面に分派する警備部機動隊の指揮官をそのままCEF指揮官に据える事を主張し国家公安委員会もそれに賛同。その一方で労働省側から「本件の中心はあくまで労働行政であり、所管省庁である労働省が指揮権を持つべき」との意見が出たほか、CEF3-93(3方面担当)に人員を派遣する神奈川県警ならびにCEF2-92(2方面担当)とCEF4-94(4方面担当)を担当する千葉県警から3・4方面の指揮についての申し入れがあった事で議論は複雑化し平行線を辿る事となった。
結局この指揮権問題は労働省が作戦期間中の各CEF活動拠点を提供する事、そして経連側から労働省主導についての支持表明が出された事で決着し、服部国家公安委員を議長とする六者会議(*3)の助言の下で労働省労働局統括本部内の方面協力・統合調整タワーが調整と発令を行い、CEF指揮官には各方面を管轄する労働基準監督署の副署長が指名される事となった。
執行対象選定と作戦計画
6月末には大まかな枠組みが完成したCEF構想であったが、執行対象の選定は依然として確定しておらず、国家公安委員会と警視庁が主張する「過激労組を狙撃する」か、労働省が主張する「悪質事業者と諸共に一掃する」かで六者会議は再び鋭く対立した。
◆国家公安委員会・警視庁の主張
- CEF構想は「春闘における労働者側の違法行為の防止と摘発」を出発点としている
- 使用者側の違法行為がある実態を認めた上で、リソース分散による作戦行動の不徹底を危惧
- 経連との協調が崩れ、三つ巴的な混迷状態に陥る可能性
◆労働省の主張
- 労組の狙撃は同盟のみならず全国民に誤ったメッセージを発信しかねない
- そもそも2000年代以降の労使内戦は使用者側の野放図の結果であり、使用者側の違法行為を是正しなければ根本的な解決は不可能
両者の対立は経連も交えた論争となり、交渉と調整は連日に及んだ。結局、経連側のリストアップした「違法行為の疑いがある事業者」に対するCEFの強制執行が認められ(*4)、労働省側の危惧した労組狙撃は回避される事となった。[4]
作戦計画も対象選定同様に白紙状態であったが、選定方針の決定後は各組織で既に収集されていた情報と作戦計画を持ち寄り、それらの統合と利活用によって作戦立案の迅速化が図られた。
7月には方面協力・統合調整タワー内部にCEFの指揮統制に専従する特別チームが開設され、9月から各CEF指揮官と幹部に対するブリーフィングを順次開始。10月上旬には支援体制の構築ならびに各CEFの編成が完結した。
作戦計画も対象選定同様に白紙状態であったが、選定方針の決定後は各組織で既に収集されていた情報と作戦計画を持ち寄り、それらの統合と利活用によって作戦立案の迅速化が図られた。
7月には方面協力・統合調整タワー内部にCEFの指揮統制に専従する特別チームが開設され、9月から各CEF指揮官と幹部に対するブリーフィングを順次開始。10月上旬には支援体制の構築ならびに各CEFの編成が完結した。
第1方面担当:CEF1-91"ヒバリ"
第1方面(東京都中心部)における作戦行動の為に編成されたCEF1-91には労働省から新宿労働基準監督署の武力交渉対策機動隊を基幹とする執行部隊が、警視庁からは警備部第1・第4機動隊を基幹に組織犯罪対策部と公安部からそれぞれ少数の要員を加えた部隊ならびに東京湾岸警察署水上安全課が、自衛隊からは第1師団の将校数名が参加し、新宿署の太田副署長が指揮官に就任した。
経連本部を包囲され市街戦まがいの擾乱が起こった苦い過去を繰り返す事だけは阻止すべく労働省・警視庁共に精鋭を配置し、18年の11月から武装労組や暴力団の摘発・無力化を開始した。[5]
経連本部を包囲され市街戦まがいの擾乱が起こった苦い過去を繰り返す事だけは阻止すべく労働省・警視庁共に精鋭を配置し、18年の11月から武装労組や暴力団の摘発・無力化を開始した。[5]
第2方面担当:CEF2-92"ツバメ"
第2方面(東京湾沿岸北部)を担当するCEF2-92は台場湾岸署・江東署の強執課を中心とする武装臨検担当官と台場湾岸署船舶隊、警視庁警備部第2・第5機動隊、千葉県警警備部、海上保安庁東京海上保安部を基幹に編成され、指揮官には江東署の大関副署長が補された。
CEF2-92では巡視船おおすみを指揮船とした水上監視部隊が編成され、第3・第4方面で同様に編成された舟艇部隊と共に昼夜を問わない湾内警備が実施された。これら水上部隊の努力は羽田・成田空港での水際作戦と同様に首都圏銃器ネットワークの阻塞という形で実を結び、(間接的ではあるが)陸上部隊の強制執行を支援した。また、慢性的に渋滞を起こす帝都高速道路を回避する為に小型艇による水上機動が多様され、その機動力は本方面での作戦展開に大いに寄与した。
CEF2-92では巡視船おおすみを指揮船とした水上監視部隊が編成され、第3・第4方面で同様に編成された舟艇部隊と共に昼夜を問わない湾内警備が実施された。これら水上部隊の努力は羽田・成田空港での水際作戦と同様に首都圏銃器ネットワークの阻塞という形で実を結び、(間接的ではあるが)陸上部隊の強制執行を支援した。また、慢性的に渋滞を起こす帝都高速道路を回避する為に小型艇による水上機動が多様され、その機動力は本方面での作戦展開に大いに寄与した。
第3方面担当:CEF3-93"セキレイ"
第3方面(東京湾沿岸西部)を担当するCEF3-93は3方面管轄各署の武装臨検担当官、警視庁警備部第7・第9機動隊ならびに東京空港警察署、神奈川県警警備部、海上保安庁横浜海上保安部に若干の支援要員を加えた形で編成され、品川署の大道寺副署長が指揮官に指名された。
羽田空港を経由する違法ビジネスの水際阻止、および春闘突入後における空港の治安維持が主任務の一つに置かれ、19年2月下旬には空港労組に対する強制臨検が実施された。この強制臨検は空港施設内での銃撃戦にまで発展し数日港内業務が停止する事態に陥ったが、複数の火器・爆発物の押収に成功した。[6]
羽田空港を経由する違法ビジネスの水際阻止、および春闘突入後における空港の治安維持が主任務の一つに置かれ、19年2月下旬には空港労組に対する強制臨検が実施された。この強制臨検は空港施設内での銃撃戦にまで発展し数日港内業務が停止する事態に陥ったが、複数の火器・爆発物の押収に成功した。[6]
第4方面担当:CEF4-94"メジロ"
第4方面(東京湾沿岸東部を含む千葉全域)での作戦を展開したCEF4-94は3方面管轄各署の武装臨検担当官、航空支援教育グループのヘリ、舟艇行動教育グループの小型舟艇、警視庁警備部第3・第6機動隊、千葉県警警備部、海上保安庁千葉海上保安部を中心とする実働部隊を基幹として編成された。指揮官には津田沼署の多賀谷副署長が就任。
成田空港を経由する非合法ビジネスを巡って反社組織や傭兵集団との交戦が発生した他、港湾エリアでの強制執行を多数実施し、展開中は陸海空の諸部隊による文字通りの総力戦が展開された。
成田空港を経由する非合法ビジネスを巡って反社組織や傭兵集団との交戦が発生した他、港湾エリアでの強制執行を多数実施し、展開中は陸海空の諸部隊による文字通りの総力戦が展開された。
作戦の結果と影響
春一番作戦に参加した4つのCEFは約5ヶ月の実動期間中に計300回以上の強制執行を実施。逮捕者は500名以上(執行後の捜査による通常逮捕を含む)に上った。[7]
およそ6割の強制執行が労組側を対象としたものであったが、その一方でCEF1-91による天童機械製作所東京本社に対する執行やCEF2-92・CEF3-93の合同によるケイヒン海送に対する執行など、事前協議の通りに事業者側への強制執行も実施されており、春闘対応のみならず企業犯罪の摘発にも一定の成果を挙げた。
およそ6割の強制執行が労組側を対象としたものであったが、その一方でCEF1-91による天童機械製作所東京本社に対する執行やCEF2-92・CEF3-93の合同によるケイヒン海送に対する執行など、事前協議の通りに事業者側への強制執行も実施されており、春闘対応のみならず企業犯罪の摘発にも一定の成果を挙げた。
同盟強硬派はこの期間で多数のメンバーと銃器を含む物資を喪失。2019年春闘は穏健派を中心とした攻勢色の薄い展開となり、労働者側は事実上の敗北を喫した。
企業側もCEFの活動によって多数の事業所が「損害」を被ったが、その大半は事業者に雇われた反社組織・中小事業者・大企業子会社であっても非コア事業の担当であり、経連を利益代表とする大企業群はほぼ無傷に近い状態で2018年度の冬をやり過ごす事ができた。当初の目論見通りに2019年春闘は経連が主導権を握り、同盟ほか弱体化した労働者側の要求は殆どが握りつぶされる結果となった。[8]
企業側もCEFの活動によって多数の事業所が「損害」を被ったが、その大半は事業者に雇われた反社組織・中小事業者・大企業子会社であっても非コア事業の担当であり、経連を利益代表とする大企業群はほぼ無傷に近い状態で2018年度の冬をやり過ごす事ができた。当初の目論見通りに2019年春闘は経連が主導権を握り、同盟ほか弱体化した労働者側の要求は殆どが握りつぶされる結果となった。[8]
2019年春闘後、同盟強硬派の内部から更に戦闘的な労使闘争を主張するグループが分派し、組織内での対立と独断専行の末にガーネット・ユニオン・ジャパン本社爆破事件に代表される凄惨なテロ行為が連続して発生していく事態へと繋がっていった。
脚注
[1]月刊労働者スクラム 2011年4月号
[2]経日ジャーナル 2014年4月号
[3]週刊見聞 2018年6月第1週号
[4]CHASER 2019年4月第2週号
[5]『東都日報』「官憲執行部隊出陣式 標的は労組か」2018年11月8日朝刊1頁
[6]CEF3-93スポークスパーソン発表(2019年1月22日)
[7]労働省発表(2019年4月1日HP掲載)
[8]日本労働組合総同盟 2019春季生活闘争まとめ(2019年8月23日HP掲載)
[2]経日ジャーナル 2014年4月号
[3]週刊見聞 2018年6月第1週号
[4]CHASER 2019年4月第2週号
[5]『東都日報』「官憲執行部隊出陣式 標的は労組か」2018年11月8日朝刊1頁
[6]CEF3-93スポークスパーソン発表(2019年1月22日)
[7]労働省発表(2019年4月1日HP掲載)
[8]日本労働組合総同盟 2019春季生活闘争まとめ(2019年8月23日HP掲載)