【名前】黒死牟(継国巌勝)
【性別】男性  
【出典】鬼滅の刃
【スタンス】対主催

【ロワでの動向】

原作において死亡した後からの参戦。であるため会場に集められた時点で生きている自身の現状に混乱し、ユーハバッハと天津垓の血戦開幕宣言で見せしめに鬼舞辻無惨が殺されたのを目撃して半ば錯乱(ヤケクソ、もうどうにでもなぁ〜れ☆)しており、情緒不安定なままスタートを切った。

そんな状態だからこそ、会場に転送された当初は縁壱の存在を認識してもなお、殺し合いに乗る気もないどころか、もはや生きる気力すら湧かない状態であった。最初の遭遇者である「白坂小梅」にしても、二次SS出展であるため原作とは違いクズである剣心を撃退して助けたことがきっかけで同行するが、助けた主な理由はなんとなく。であり、剣心が侍のような格好で刀を振り回すクズムーヴへの怒りを大義名分にした、半ば八つ当たりでもあった。

白坂小梅に対して鬼である異形の自分が受け入れられるとも黒死牟は思っていなかったが、小梅はその体質から幽霊を見慣れていることもあり、六眼の顔に驚きはしたものの怖がることもなく同行を申し入れてきたのだった。
黒死牟は特に嫌がることもなく(というかそこまで思考が回っていない)これを受け入れた。



この出会いが、黒死牟を──継国巌勝を変えて行くことになる。



道中、無惨が死んだことで支配から解放されたことも含めて、上述の理由から思考や思想も自由になった代わりに生きる目的すら失った黒死牟に、小梅は彼女なりに、ひっきりなしに質問をまくし立てた。

「こ、黒死牟さんは……えっと、あの……」

しどろもどろながら、あんまりに一生懸命に聞いてくるため、黒死牟はこれまた自棄っぱちになって自らの恥部を、ことの顛末を自嘲気味に語った。弟への想いを拗らせ、その力に羨望し嫉妬に塗れ、外道に身を堕としたこと。妻も子も捨て、その顔すら思い出せない無様さを、あるいは自身への憎しみを滲ませて語った。おおよそ全てを終えた時、黒死牟は小梅に蔑まれる事を覚悟していた。それでいい、笑いたければ笑えと思っていた。もうこの身に失うものはない。本来地獄に焼かれて消え去るハズだったのだ、怒りに任せて格好つけて助けたものの、先の剣士など比較にならない畜生が己なのだ。人の心さえ枯れ果てた自分には、罵詈雑言こそ相応しいだろう。

しかし、小梅は笑わなかった。

それどころか顔を伏せてその目から悲しみを啜り出した。予想外の反応に、思わず黒死牟は言った。

「……なぜ泣く」

と。
小梅は鼻を鳴らして首を振った。肩が震えていた。傍目から見ても声を出せるような状態ではなかった。黒死牟は混乱を深めた。なぜ……なぜこの小娘は泣くのだ。自分の話を聞いただけだ。全く関係のない世界の、哀れで惨めな男の話だ。一体どこに泣くことがあるというのか……?

「み、醜くなんてないと思いますよ……? わ、私は、ちょっとかっこいいって思うし……えへへ……」

(このような……鬼の風貌を賞賛し、あげく泣き出すとは……子供の感性とは分からぬ……何故だ……)

やっと絞り出した言葉がこれであったため、黒死牟はもはや声も失った。わからない、理解できない。だが、なぜか目を背けることもできなかった。無視することができなかった。

小梅が泣き止むまで、しばらく時を要した。その間黒死牟は、混乱に立ちすくむことしか出来なかった。


→【殺戮遊戯異聞 月下鬼刃譚】


その後は、「あの子」についての問答やお互いの世界、時代の話などにほどほどに花を咲かせていた。アイドルというものについて「要は見世物か」と黒死牟が結論づけた時は、小梅はアレコレと例え話を持ちだして真っ向から否定した。

喧騒が轟いたために赴くと、五頭応尽立花響と柳生九兵衛の戦闘に出くわす。応尽を「こちら側」と認識した黒死牟は、小梅に、関わらずに撤退することを推奨するも、「2人を助けてあげて欲しい」という小梅の願いを返される。そのためか本人も理性では訳も分からずに戦闘に介入。唐突な人外の闖入者に驚く三者だったが、しかし応尽も黒死牟を「鬼」と見抜き、即座に体勢を立て直す。

が、

「な、なんでェそのバカでかい刀は!? そんなの振れンのかァ!?」
「さぁな……おそらく妖刀の類であろうが……鬼の膂力を見誤るな」

身の丈を超える、斬馬刀とすら呼べぬ巨大な刀──『斬月』を自在に振るい、月の呼吸による面攻撃によって倒せないまでもこれを撃退する。

響と九兵衛から謝辞を述べられる前に退散しようとする黒死牟だったが、小梅が2人と接触して話し合いを始めたため仕方なく同席する。
小梅以上に自身の容姿に怯えない2人に「なぜ?」と疑問を投げかけたが。

「天人(あまんと)には複眼や多腕など珍しくもない。むしろ人の原型を保っているのだから怖いとは思わない。数が揃わないことが不気味なら僕も目は一つだ」
「ノイズに比べたらシルエットからしてちゃんと人ですし。フィーネや司令と違って明確に人じゃない人が人じゃない力を持ってるので分かりやすくていいと思います!」

と斜め上の返答をもらい、この辺から脳内で整理がつき始めて「なんか自分の悩みって……」とちょっと思い始めていた。



→【終焉を望む者、終焉に臨む者】



黒死牟は、応尽に押されていたとはいえ明確に高い戦闘力を持つ2人に小梅を預けたかったのだが、小梅はこれを頑として(彼女なりに、であるが)断り、仕方なく響と九兵衛と別れ再び小梅との2人旅となる。

次に出会ったのは神代美耶子、桜川九郎の不死コンビであり、特に小梅ともども九郎のおぞましい見た目に警戒しつつも情報交換の内に、両者が不死者であることを知り「鬼になる意味とは……」と内心で無惨に八つ当たりするのであった。


→【ツナガルカイイ】


ほのぼの(殺伐)とした雰囲気だったが、その気配を察したのかスペクターへと変身した深海マコトが襲撃する。小梅を庇って斬月を叩き落とされたためピンチに陥るが、入れ替わりに受け取ったゴーストドライバーでまさかのダークゴーストに変身する。

しかし、刀を用いた戦いを主にする黒死牟ではライダーの戦い方とうまく噛み合わず、制限によって体内刀も再生力も強く封印されていたために大苦戦する。

そのまま鬼の耐久力でなんとか堪えてはいたが、ほぼサンドバック状態だった。美耶子の支給品のスゲーナ・スゴイデスによって小梅がグラブルコラボの状態へと変身し、マコトにデバフを、黒死牟にバフをかけたお陰でなんとか撤退まで追い込むことに成功するも、黒死牟は撤退の最中にも殺意を向け続けるマコトになんともいえぬ情感を抱いたのだった。

なお、この後移動のために「禰豆子が入ってた木箱」に体を縮めて入り、九郎に背負われる屈辱を味わい、さらにロワ会場では日の光を浴びても死ぬことはなかったとあとで知ることになりお労しや案件になってそれどころではなくなるのだが……。

九郎「おー、ほんとに小さくなりましたね」
美耶子「……もう突っ込む気にもならない」
小梅(ちょっと可愛いかも……)

黒死牟(小)「侍の姿か? これが……(以下略」

読み手「お労しや兄上……」

黒死牟「(何という屈辱……)」プルプル

なお、この状態の黒死牟に屈辱の追撃をかましたのは小梅であった。

小梅「か、かわいいよ……? あの子もそうだそうだって言ってるし」

読み手「お労しや兄(ry


→【迷走!迷いと嫌悪!】


そんなこんなでほのぼのしていた一行だが、突如として現れた異常な殺気にいち早く気づいた黒死牟は、箱から飛び出して斬月を構えた。その視線の先に、「怪物」が現れた。

優勝を狙い皆殺しのために動いていた斧神だった。

その手に自身を滅ぼした一刀、「悲鳴嶋行冥の日輪刀」を持ち、黒死牟が遙か見上げる巨躯を軽やかに動かす斧神。そこに自身とよく似た臭いを感じ取り、反射的に月の呼吸を振るう。

だが、斧神の特性である「鋼鉄の肉体」は黒死牟の斬撃をたやすく弾き返した。再びスゲーナ・スゴイデスによって援護に入ろうとする美耶子らを、斧神はハンマーを打ち鳴らして牽制する。

「力無き人間モドキが邪魔をするな……!! これはこの男との殺し合いだ……」

斧神は黒死牟との一騎討ちを望み、それどころか己が黒死牟を討ち倒したならば、お前たちはこの場では見逃そう、とまで言ってきた。

黒死牟は少なからず高揚した。月の呼吸で斬れぬ相手など初めてだった。そして決闘に対する気高さは武人のそれだ。その手の立ち合いは、黒死牟にも望むところであった。

幾ばくかの撃ち合い。三日月の斬撃が乱れ咲く。その中を、まるで泳ぐかのように斧神は突き進む。それは悲しいことに、当人にとっては武人の決闘のつもりだが、傍目から見れば「怪物」と「怪物」の戦い以外の何者でもなかった……。

しかし、月の呼吸によって斧神の被り物が弾け飛んだ時、黒死牟の高揚は一気に形(なり)を潜めたのだった。

「……な、なんという」
「化け物……か……!」

斧神の顔を見て、その形を幻視して、美耶子たちがそう言うのも無理はなかった。斧神の顔は化け物と形容するしかない、醜悪そのものの体現だった。そして黒死牟の落胆もそれに起因する。黒死牟も数多の鬼を見てきた。しかし、ここまで醜い形の鬼は見たことがなかった。美耶子や九郎、応尽らの人外たちが綺麗な人型であったため、人外のモノに対する美醜感覚が麻痺していたこともある。

「醜い……」

黒死牟が無意識にそう呟くのも無理はない。

「はは……何を期待していたのだ、私は……。月の呼吸を持ってして、斬れぬ身体だ。化け物に決まっている……。武人を気取ろうと、強さを求める果てはやはり『これ』なのか……」

そして、呼水となって滲み出したのは縁壱への羨望と嫉妬。
やはり縁壱だけが特別なのだ。神に愛されたモノだけが、人のまま、美しいまま、強くあれるのだ、と。

しかし、斧神は黒死牟の思想を、もはや信仰に等しい「醜悪への嫌悪」を、徹底的に拒絶する。

「お前の『醜い』とは心の有り様だろう、姿形や身の上のみを見て醜いと切り捨てるその言葉こそ、醜いと気付け」

自らが忠誠を誓いし主君のために強くなること。そのためならどんな姿になることも厭わぬこと。強さと忠誠に命を捧げたならば、そこに「醜さ」が介入する余地はないと、斧神は言った。

「黙れ……! 知った風な口を叩くな。貴様は人に生まれながら、神の寵愛を受けた化け物を知らぬだろう。その化け物に並ぶために、この身を悪鬼に貶めざるを得なかった者の苦悩を、届かぬと知りながら、太陽に手を伸ばす者の足掻きなどわからぬだろう!!」

焦燥を隠すことも忘れて激昂し、なおも醜悪さへの嫌悪にしがみつく黒死牟に、斧神は言う。

「分からんな。お前の気持ちなど何も分からん。神の寵愛など受けぬとも、ただの人の身に生まれながら、強靭な意志と鍛え上げた肉体で数多の化け物を斬り伏せる『人間』を俺は知っている。仲間も愛する者も失い続け、それでも届かぬ敵を斬るために、怒りも涙も、敵の無念さえも背負ってただ進み続ける人間を知っている。あの男に比べれば、貴様は己の弱さを人のせいだと言い訳ばかりしているようにしか見えん」

「──っ!!」

斧神の魂に座す、1人の男。静かに、しかし重々しく大気を震わせる言葉には、その男の立ち姿すら知らない4人にも分かるほどの、男の強さ、逞しさに対する「敬意」が込められていた。

そして、黒死牟は斬月を持ったまま立ちすくみ、ぐちゃぐちゃになった感情に六眼を「醜く」歪めていく。黒死牟の脳裏に、記憶に、そんな人間はいない。みな、死んでいった。みな、自分と無惨が殺した。あるいは鬼殺隊にはいたかもしれない。しかし、顔が分からない。自身を殺した柱たちですら、一人で己と戦い殺せるほどの猛者はいない。これほどの武人にこうまで言わせる者はいない。

みな殺したのだ、この手で……。

縁壱と無惨以外の、すべてを。

そのままだと、黒死牟は、あるいは叫び出したかもしれない。あるいは、そこで精神が崩壊していたかもしれない。最後にすがる『武人の精神』すら、己より醜い化け物に否定されたのだから。

しかし、そうはならなかった。

「こ、黒死牟さんは、よ、弱くも、み、醜くもありません……!」

小梅が黒死牟の隣に立っていた。

「わ、わた、私には侍とか、主君とか、ぜ、全然分からないし、黒死牟さんにとっては、ただの、あ、足でまといですけど。……で、でも私は、最初に黒死牟さんが助けてくれたとき、凄く、かか、かっこいいって思ったんです……!」

「ひ、響さん達と別れた時も、い、一緒に居る事をゆ、許してくれて、とっても嬉しかったんです……!」



「だ、だか、ら、黒死牟さんの事を、そんな風に言わないで……!!」



懸命な言葉だった。押し殺されそうな恐怖を乗り越えて、小梅は斧神に啖呵を切った。その宣言は、小梅にとってなんら得にはならないモノだ。こうして戦場(いくさば)に身を乗り出したなら、女子供も関係はない。斧神は等しく死を与えるだろう。それを前にして、あろうことか小梅が口にしたことは、つい先程出会ったばかりであるハズの、黒死牟への称賛であった。

「クク……ハハッ! いい度胸だ……小娘……。そこの鬼より、よほど度胸がある……!」

斧神がハンマーを振り上げる。型もクソもない腕力で振り回すそれは、恐ろしいスピードで真っ直ぐに小梅へと伸びた。

小梅に当たる三歩前で、ハンマーは弾けた。思わず斧神が体勢を崩すほどに、強い力だった。

黒死牟が、斬月を振るっていた。その眼から一筋の涙が溢れていた。ハンマーを弾き飛ばしたのは、脇構えからの最速の一刀だった。それは居合の所作によく似た、月の呼吸の最も基本的な動作。この撃ち合いの中ですら、幾度となく見せたモノ。

しかし、その鋭さ、その速さ、その強さは最速最強の一撃であった。あるいは、黒死牟の長い生の中に置いてすら、そうであったかもしれない。

斧神がククッと笑みをこぼした。再び山羊の被り物を被り、自らの左隣りでハンマーを振り回した。

「ハ……! さぁ、これからが本当の殺し合いだ……!!」

怪物が2人、血に塗れて斬り結ぶ。
もはや鋼鉄の肉体は意味をなさない。日輪刀は鬼の体を酷く痛めつける。

しかし、両者の「貌」は苦悶を見せない。
2人の眼(まなこ)が映し出すはお互いの魂の形、力の結晶、磨かれた技。「醜さ」など入る隙の無い純粋さ。すなわち「純然たる戦いの世界」……。

一手、黒死牟が遅れた。それを見逃さず、斧神はより深く踏み込む。上段から振り下ろされた一撃は黒死牟の肩の肉へと心臓目掛けて食い込んでいく。

だが、黒死牟の眼は燃えていた。
覚悟と決意に燃えていた。練り上げられた呼吸には些かの乱れもない。斧神は刹那の一間にそれを見た。そして、ククッ、と笑みをこぼした。

そして、斧神は崩れ落ちた。
黒死牟は、日輪刀が身体を両断するより疾く、斧神の身体を斬り上げた。踏み込みが深く、一撃が重くなっていたために、斧神は避けることもままならず、その身体で斬月を食い止めることもかなわず、両断されたのだ。

天に向かって血潮が吹き昇る。

斧神の被りものは吹き飛び、その貌(かお)が露わになった。
しかし、もう、黒死牟はそれを醜いとは思わない。仰向けに倒れ伏す斧神を、じっと見下ろした。

斧神はもはや言葉も喋れない。しかし、その眼が雄弁に物語っている。足掻いて見せろと、強くなれ、と。お前たちを忘れない、と……。

黒死牟は斬月を地面に立て、そして両の手を合わせた。その隣に、小梅と、美耶子と、九郎が並んで、同じように手を合わせて、祈りを捧げた。



→【強くなれる理由を知った/変わっていけるのは自分自身だけ】



斧神を手厚く弔った後、しばしの休息を取っていたところで奇声のごとき声で九郎を呼ぶ岩永琴子がすっ飛んで来て、それを追ってきた霧切響子と依田芳乃と合流する。
黒死牟の容姿にやはり最初は警戒されるものの、主に九郎の説得によって一団体としてまとまっていった。

途中トリックスターを自ら名乗り黒死牟たちにニヤけ面で接触してきたロキとも会話を交わす。しかし、この時は意外にもロキはなんの掻き回しも意味深なミスリードもせず、単に黒死牟のことを「好みのタイプだ」と告げて去っていった。


→【ふざけないなんてつまらない】


各々の持つ世界情勢と身の上、ここで得た情報を織り交ぜて霧切が牽引して推察が進む。それを見て、黒死牟は思う。ここに揃うものは自分以外は力無き者だ。しかし、己のできることを各々が見つけ出そうともがき、助け合う。そしてその輪の中に自分がいるという事実。黒死牟は目を細めた。彼らの顔をじっと見る。今度は何があっても忘れないように。

感傷に浸る黒死牟だったが、突如として降り注いだ謎の圧力にその背筋が凍った。その感覚を味わったのは黒死牟だけではない。一同が驚愕する中でただ一人、九郎だけがいち早く立ち上がって声をあげようとした。

しかし九郎の声が大気を震わせるより疾く、閃光が彼を貫いた。というより、包みこんで消しとばした。それはそのまま地面を大きく抉り、底の見えない深淵を作り出した。

「九、郎……さん……? いっ、嫌ああああああああああああああっ!!!」

数瞬後、現実に理解が追いついて琴子が叫んだ。それを小梅たちが必死で抑えている。

黒死牟だけはそれに加わらず、斬月を抜いて空の一点を見つめていた。そうしていないと、全員がなす術なく死ぬことは明白だったからだ。

「それ」は空に立っていた。白い男だった。服の色も、肌の色も、顔に付いている骨のようなものも、そしてその胸には空洞が──『孔』が空いていた。

「ゴミが群れているだけだと思ったが、貴様は違うようだな」

その男──ウルキオラ・シファーは剣を抜いた。その声も所作も、淡々としていてまるで隙が無かった。体の大きさ(太さ)で言えば黒死牟とあまり変わらない。まだ黒死牟の方が厚みがある。斧神とは比べものにならないほど細身だ。

だが、その身体が発する圧力は、黒死牟ですらかつて経験したことがないほどおぞましいものだった。

合図はない、戦いが始まった。

黒死牟はたった一合、刀をあわせただけで悟る。


これは、「勝てる相手ではない」と。



→【愉快な怪異の密室事件】


それでも、黒死牟は引くわけには行かなかった。九郎は不死身だと聞いていた。実際、わざと指を切って、それが鬼顔負けの速度で治癒するさまを黒死牟は見せられていた。にもかからず、ウルキオラの虚閃は九郎の存在そのものを消しとばして見せた。

圧倒的な「力」だ。

縁壱とはまるで種類が違うが、自身を遥かに凌ぐという意味では同じだ。この力ひとつとっても黒死牟の勝算は低い。が、なによりスピードが違いすぎた。
巨躯を誇った斧神も、戦闘速度という意味では決して遅くは無かった。アマルガムの膂力で打ち出される一撃一撃の速さは黒死牟と互角に剣戟を繰り広げるレベルにあった。

だが、ウルキオラは違う。視界から身体ごと消えている。そして、次に六眼がその姿を捕らえる時には、皮一枚のところまで鋒が迫っている。それを全霊の力を込めて紙一重で受け流す。どんな達人でも受け流され重心が崩れれば次の動作まで隙ができるのだが、ウルキオラはこの時点で黒死牟の意識から消えているのだ。故に、追撃ができない、間に合わない。単純に速度についていけていないのである。まるで次元の違う疾さだ、絶望的なほどに開きがある。

それでもなんとか戦いが成立しているのは、一つは黒死牟が戦国の時代にきちんとした剣術を学び、実践を経て磨き、さらには鬼となって身体機能が向上し、透明な世界で僅かな機微を察知し、斧神との戦いを越えて月の呼吸が更なる進化を果たしたことなど、黒死牟が歩んだあらゆる経験が総動員され、ここで身を結んでいるからであった。

そして今一つは、ここで自分が殺されたならば、この男は造作もなく小梅たちを殺すという確信があったからだ。

負けられない。その想いが黒死牟に限界を超えた力をもたらしている。

突如としてウルキオラが攻撃の手を止めた。
黒死牟は動揺する。ウルキオラは氷のような冷たさと、奈落の底のような眼でこちらを見ている。そこには感情も思想も感じられない。……というより、黒死牟をして、ウルキオラは「生きている」存在なのか疑問に思うほど希薄な存在に思えた。

ウルキオラは斬月を指して言った。

黒崎一護の霊圧を感じる。それは斬月だな? なぜ始解していない?」
「始解……?」
「斬魄刀は本来の持ち主でなければ始解できんが、斬月は常時開放型の始解だと藍染様から聞いている。それがなぜ、そうも不格好な形のままなのかと聞いている」
「……? なんの、ことだ……?」

聴き慣れない単語に、黒死牟は戸惑った。これが妖刀の類であることは承知している。だが、ウルキオラの言葉の意味は何一つ理解できない。

「どうやら始解の道理すら知らんようだな。もういい、終わらせる」

ウルキオラは一時の後、失望を口にした。
そして、あの異常な圧力が、更なる重さを伴って黒死牟を包み込む。斬月を正眼に構えて、透明な世界を展開する。集中力を極限まで高めた。筋一本の動きも見逃すまいと。

ウルキオラが指先から虚閃を放つ。黒死牟はそれに「陸ノ型 常世孤月・無間」をぶつけて相殺する。

「しまっ……!!」

爆発が土埃を舞い上げた。爆煙がウルキオラの存在を視界から消した。それが狙いだった。

次の瞬間に黒死牟が見たのは、爆煙から伸びた刀に貫かれて折り砕かれる斬月と、その鋒が自分の喉を貫いて血塗れになっている光景であった。

どばっ、と血を吹き出した。全身から力が抜けていく。小梅たちが叫んでいたが、それが天地の果てにあるようだった。視界に帳(とばり)が降りる。暗黒に意識を投げ出す瞬間、『チッ』と誰かの舌打ちを聞いた。

黒死牟が目覚めた時、その体は五体満足であった。その目覚めを、一人の男が待っていた。

『起きたか、継国巌勝』

全身黒ずくめの男だった。長身の男だった。長髪で、髭が濃く、鋭い眼をしていた。荘厳な声であった。どこか見覚えのある男だった。2人は、無限城の中の、だだっ広い空間で対面していた。


→【Raid in the After Dark】


一方、ウルキオラは目を見開いてそれを見ていた。
黒死牟をだ。
喉を貫いた。その上で横薙ぎに斬り捨てた。致命傷だ。手応えはあった、間違いなく。しかし、倒れ伏した黒死牟はあっさりと立ち上がり──。

その顔の半分に、自身の口や耳から湧き出た霊力でできた三眼の仮面を被り、あり得ないほど巨大な霊圧を吹き出していた。

ウルキオラは言った。

「虚化か──? いや、この霊圧は虚のものじゃない……」


……鬼は、基本的に人を喰った分だけ強くなる。
黒死牟は戦国から大正まで、長きにわたり多くの人間を食ってきた。幾百もの血と肉を、つまり命の資本を、魂の一部を己のものとしてきた。だからこそ長きにわたり上弦の壱に君臨できたのだ。
それは奇しくも、幾百の魂の欠片が折り重なり混ざり合うことで生まれる(厳密には違うが)、巨大な力を持つ大虚(メノス・グランデ)の特性によく似ていた。

鬼になったものは人間であった頃の人格と記憶を失う者がほとんどである。しかし、黒死牟は縁壱への強い負の情念により、記憶の精密さはともかく人格と記憶の大筋は継国巌勝の一部を保っていた。
それは奇しくも、最下級大虚(ギリアン)から中級大虚(アジューカス)となるものの特性に似ていた。

つまり──此度の変容は……

「莫迦な……。この霊圧に、その仮面……これは破面化……か……? つまり……」

黒死牟が手をかざすと、離れたところに落ちた斬月が跳ねるように跳んで、その手に収まった。

「死神化……だと……?」

ウルキオラの言葉に呼応するように、黒死牟は叫んだ。貫かれたはずの喉の『孔』は、ボコボコと細かい血の泡を吹いて微弱な再生を始めていた。それゆえか、形容し難い声だった。侵食された空気が不気味に歪むようだった。

黒死牟は半分に折れた斬月を強く握っている。指から血が滴るほどに。

ウルキオラは目を細めた。

「どうやら、悠長に戦える相手ではないらしい」

剣を水平に構えた。そして、言った。



「──鎖(とざ)せ」



「黒翼大魔(ムルシエラゴ)」



ウルキオラが刀から湧き出た霊圧に包み込まれ、その姿を変えていく。二対の漆黒の翼、触覚のような仮面の一部。その身に纏う霊圧量は比べものにならないほど上昇していた。

ウルキオラは霊力で作られた剣を握った。
黒死牟はウルキオラに向かって吠え、斬月を掲げた。

そして同時に駆け出した。
撃ち合わせた剣戟の爆風に暴力的な霊圧が乗って、周囲に台風のような衝撃をもたらしていた。

しかし、それは長く続かなかった。
半分に折れた斬月、暴走して精密さの無くなった黒死牟は、スピードやパワーは跳ね上がったもののウルキオラの斬撃をまともに食らっていく。

そしてついにフルゴールで胸を貫かれ、黒死牟は倒れ伏した。確実な止めを刺すために歩み寄るウルキオラ。

それを止める声。ウルキオラは振り向いた。決死の覚悟で前に出た霧切がアナザーWに変身し、ウルキオラに向かっていった。


「お前は……あの刀だな……」

謎の男と対峙する黒死牟は、本能的にそれが何者であるかを察した。付喪神、という概念がある。物宿る神のことだ。愛着を持たれた物が、持ち主の魂の生き写しとなり意思を持ったり、あるいは全くの無から自我を生み出すというものだ。

男は沈黙を持ってその問いを是とした。

『生きたいか? 戦いたいか? それとも勝ちたいか? ……どれだ?』
「勝てる……のか!? あの男に……?」
『どれだ?』
「……教えてくれ……! あの男に……勝つ方法を!!」
『……ならば、打ち勝って見せろ。まず、お前自身に』

無限城の床が爆発した。そこから、1人の男が飛び出てくる。黒死牟の前に立ったその男は、『白い黒死牟』そのものだった。

「あんなみっともねえ戦い方しかできねぇんなら! 俺が代わりに身体を使ってやるよ!!」

邪悪な笑みを浮かべて、『白い黒死牟』は斬りかかってきた。その手には巨大な出刃包丁のような刀が握られている。その一撃は到底受けられるものではない。距離をとった。すると、その男はあろうことか、全く同威力だろう、月の呼吸を使いこなし撃ち出してきた。

とっさに同じ呼吸をもってそれを迎撃する。斬撃が激突し、爆炎を巻き上げた。次弾を打ち出すべく構えた黒死牟は、射抜く視線の先の先、はるか向こうから『白い黒死牟』が掲げた出刃包丁に、青い光が集まっていくのを見た。

「◾️◾️◾️◾️!!!」

白い黒死牟は何かを叫んだ。刀を振った。すると、刃先から超高密度の、巨大な斬撃そのものが飛んできた。それはこちらの斬撃を容易く消しとばし、黒死牟の身体に炸裂した。

「が……はっ!!?」

崩れ落ちる黒死牟の頭を、何者かが鷲掴みにした。顔を上げると、そこには無惨がいた。

『何をしている。後ろの奴らを喰えばいいだろう。強さを極めたいのではなかったのか? 今更侍を気取るなよ。弱者がなんだという。そんなものは要らないと捨てたのはお前だろう?』

もうひとりの自分に混じって声がする。鬼の始祖。強くなるために魂すら売り渡した男。
言葉は正しい。人間をやめてまで強さを求めた。それは偽りなく自分の意志であり、否定できるわけがない。

そうだ。私は、俺は強くなる。後ろにいる人間、不死の血を喰らえばあの男にも勝てる。弱者の庇護? 侍の矜持? 知ったことか。そうして強くなり、あの白い男を殺し、そして、

縁壱を─────


『……兄貴ってのが……どうして一番最初に生まれてくるか知ってるか……? 後から生まれてくる……弟や妹を守るためだ!!』

知らない男の声がした。

『助けて欲しいと思ったらこの笛を吹け。兄さんが助けてやる』

知っているはずの声がした。

『みんなを助けて……黒死牟さん』

自分を呼ぶ、声がした。



一瞬動きが止まり、その隙に振り降ろされた刃を素手でがっちりと受け止めながら静かに言った。

「……私は人であった頃よりずっと迷走し続けてきた。弟に嫉妬し、鬼の甘言を受け入れ、生き恥を晒し続けてきた……」

「この地に呼ばれた時もそうだ……。一度死んでも己の弱さを直視できず、逃げ続けていた……」
「……だが、そんな私をあの娘は、目を逸らさず見てくれた。身も心も醜く堕ちていた私を、認めてくれたのだ……」
「その娘が……己が死んでもおかしくないというのに……他者を、私を助けたいと願ったのなら、その思いを切り捨てる事こそ……何よりも醜い所業だろう……!」

『白い黒死牟』の刀の鋒が、徐々にヒビ割れていく。刃を掴む黒死牟の手から血が吹き出す。今まで黙っていたもう一人の男が問うた。

『ならば……お前は何のために戦う? 何のために勝ちたいのだ?』
「もう一度……この手で……守りたいものを……護るためだ……!!」

黒死牟の体から圧力が湧き出る。それは、男にとって懐かしさを覚えるものであり、男は一瞬嬉しそうに、寂しげに目を細めた。

「ならば……ならば叫べ! 我が真名を!!」

「お前の名は……!」
「我が名は……!」


        『斬 月』


無限城が吹き飛んだ。空へと、黒死牟が昇っていく。新たな相棒を手に。

それを、男はいつまでも眺めていた。
黒死牟がこの世界から消えていっても、ずっと、ずっと。



→【chAngE】



小梅が死んだ。ウルキオラの虚閃は彼女たちの抵抗を事もなく捻り潰した。迫りくる絶望の化身を前に、諦めがよぎる。

黒翼大魔の翼が斬り裂かれた。
ウルキオラが体勢を崩して吹き飛んでいく。霧切たちの前に、黒死牟が立った。

その容姿が変わっている。服は、黒を基調として白を目立たせる着物となり、六眼の眼は仮面となっていた。なにより違うのは、彼が握る刀である。

それは分厚く、広く、戦斧のような形状となっていた。鍔も無く柄もなく、とても刀とは思えない形だったが、やけに黒死牟に馴染んでいた。

「始解したか。だが、始解ごときで俺を斃せると思うな」

言葉と共にウルキオラがフルゴールを振りかぶる。それを、黒死牟は容易く、素手で受け止めた。

「……! 莫迦な……!?」

そして、至近距離から、ウルキオラにとっても見覚えのある斬撃が飛んだ。

「月牙天衝」

空に突き抜ける巨大な斬撃。ウルキオラが吹き飛ばされる。それを、黒死牟は空を蹴って追った。

──何だこの力は……? 何故卍解でもない、ただの始解でここまでの動きができる……? 何がこいつをそこまで変えた? 

まさか、たかが人間の小娘が死んだ程度でか?

「──ルス・デ・ラ・ルナ」
「月の呼吸、拾玖の型──月牙天衝」

霊圧で形成した光輝く槍と、三日月の巨大な斬撃がぶつかり合う。

(重い……このままでは押し負ける……だと? この、俺が……! 霊力の収束率は黒崎一護よりも上か……だが……!)

ウルキオラは戦法を切り替える。霊力を強く固めるなら、こちらはそれを上回る霊力を収束して一撃を見舞う。第二階層時ほどでは無いが、この場でウルキオラが出せる全力の一撃だ。それを真っ向から受け、徐々に黒死牟は後退しそうになる。

だが。

──ズ キ ン

(なん、だ……? この、痛みは……?)

ウルキオラは突然の鋭い痛みにほんの少しだけ気を取られた。痛みの発生源は右腕。そこはついさっき殺した少女が、最後の足掻きで黒い影の攻撃を放った箇所。再生することもないため、取るに足らない無駄な足掻きと思っていたそれは、確かにウルキオラに届いていたのだ。

(まさか、あの小娘が──)
「う、お、おお、おおおおおおおおおっ!!!」

ほんの僅かな隙も黒死牟にとっては千載一遇の好機。力の均衡が崩れた瞬間、雄たけびと共に振り下ろされた刃は光の槍と、槍を放った破面を斬り裂いた。

斬月に断ち斬られたウルキオラ。地に落ち、膝をつく。一瞬、勝った。と誰もが思った。しかし、ウルキオラはいとも容易く立ち上がった。

「無駄だ、俺には超速再生がある。この舞台では多少再生力は落ちているようだが……」

ウルキオラの身体から、波を引くように傷が消えて行く。そんな……その場にいる誰が言ったか、あるいは誰もが言った。ウルキオラは霧切たちの絶望を見ても、表情は変わらない。

「虚無」を存在意義とする十刃の彼は、絶望する弱者を見て愉悦に歪むことも、慢心することもないのだ。

しかし、次に放たれた黒死牟の言葉には、流石に驚きを見せた。

「先ほどまでの……月牙天衝は、かつての持ち主の月牙天衝だ」
「なに……?」
「私に力をもたらしたこの刀。この力を磨き上げていた者に、敬意を示した……」

ウルキオラの脳裏に浮かぶは、オレンジ色の髪の死神であり、人間である男。

黒死牟は、無論殺す気でやっていた、とも付け加える。

「これから放つものが……私の月牙天衝だ!」

霊圧が膨れ上がる。大気を灼き切らんとするほどのそれを刀身に纏わせ、黒死牟はふるった。

「月の呼吸──真・『拾五』の型。月牙天衝!!」

巨大な銀色の斬撃が飛んだ。しかし、ウルキオラは両手を持って受け止める。

「単に威力が増しただけか。芸がない──!!?」

突然、月牙が砕けた。ウルキオラが破壊したのではなく、勝手に砕けた。それは、三日月型の小さな──圧倒的な霊圧密度の──斬撃の一群となり、四方八方からウルキオラを包むように炸裂した。

「ぐっ……! だが甘い!!」

ウルキオラの「鋼皮(イエロ)」はもやは何の意味をなさず、全身がズタズタに斬り裂かれた。だが、斬撃の弾幕を力ずくで突破する。

そこに、剣を振りかざす黒死牟が現れた。

「月牙──」

そして、刀に纏う、その霊圧。
今度は『黒崎一護の月牙天衝』だった。

「天衝!!」

防御にかざしたウルキオラの両腕ごと、斬月の一閃が両断した。

彼の胸の孔が、斬撃の渦に飲まれて、砕けていった。

終わった。ウルキオラは塵となって消滅する自分を冷静な顔で受け入れていた。完全に消え去る直前、黒死牟と目を合わせた。虚無を体現するその眼の奥に、黒死牟はかすかな淀みを見た。

しかし、それがなんであるかを理解する前に、ウルキオラは消滅した。



→【THE DEATH AND MOON RETURNS】



「あやつは……己が殺された事への恨みや……現世への未練でもなく、お前の事を頼むと私に頭を下げたのだ」

「やつの考えが全て理解出来るなど、傲慢な事を言うつもりは無い。だが……お前ならば、この下らぬ催しを終息に導けると信じたからこそ……後を託したのではないか?」
「な、ん、ですか、それ……。そんな、の……そんなの! ずるいですよ……!!」

いまだ泣き止まぬ琴子へ声をかけ、霧切から小梅の死を知らされる。虚閃に包まれたため、痛みを感じる間もなく即死したのだという。

血に濡れて横たわる小梅を見た途端、臓腑を焼き焦がすような痛みに襲われた。それは時透無一郎の赫刀を受けた時に近い。だが、全く別種の痛みだった。

「……そうか」

体の何処とも言えない痛みがする箇所に、その胸を強く握りしめて、死神となった黒死牟はひとり、理解した。

「これが、心か」


→【Because of My Heart…】



その後、霧切が主体となって他の対主催と連絡を取り、主催の本陣へと乗り込む算段がついたと連絡を受ける。

アークグレンに集合した黒死牟は、そこで運命に再会した。

「あ、兄上っ……!」
「縁壱……か……」

数百年前の、だが今も記憶に焼き付く弟の姿を、黒死牟は思いの外落ち着いて見れた。幼い姿という驚きこそあったが、あれほど抱いていた骨肉を焦がす嫉妬が薄れていたのを感じたからだ。

例え童子の頃だろうと、その時点で己の心を掻き毟った天倫に翳りはない。黒死牟自身が、もし縁壱を見たら「やめろ、その目で私を見るな」と吐き捨てると思っていた。気味の悪さに刃を抜くと予見していた。

だが、そうはならなかった。

「……縁壱」

あらためて弟の名を呼ぶ。初めて自分は縁壱を見た気がした。小さい。それは幼子だからではない。小さく、怯えている。恐怖を感じている。同時に、感嘆を覚えているのだ。その振る舞いは、小さな1人の人間そのものだった。近づく者を焼いてしまう太陽の煌めきも、その熱も感じない。

そう感じるのは自分があれから遥かに強くなったからだろうか、その差が少しでも縮まったからだろうか? ……それもあるだろうが、それは決定的な理由ではない。

「私に構うな……私はもう、お前の兄であった男ではない……」

拒絶は心理であり、真理であり、事実だ。
人をやめて、鬼でもなくなり、巡り巡って今は死神となった数奇な運命。しかしその過程で人を殺し、喰らった過去は消えない。かつては恥にも思わなかったが、今は罪悪感と、別種の嫌悪感が、心を痛めている。

「お前は、お前を慕う者の側に行くがいい……」
「──いいえ」

縁壱は微笑んだ。日向に当たっているような、暖かみのある顔だった。

「兄上は、兄上です。私にとっては、今でも日本一の侍です」

懐から、宝物を扱うように一本の笛を取り出してそう言った。

『助けて欲しいと思ったら吹け、兄さんが助けてやる』


→【手を伸ばせばきっと届くから】


静かに時間が流れる。
黒死牟は何も言わない。
ただ、顔にかけられた六眼の仮面の奥で、一粒だけ、水滴のこぼれる感触があった。

その後、アークグレンの調節を終えて起動する前に、黒死牟は周りを見渡した。

ここに集うは強者ばかりだ。長い金髪を靡かせるキリシュタリアという南蛮人、サノスという威風堂々を絵に描いた異星人、ベジータという逆立った髪の人間、絡繰の結晶とは思えぬ生きた眼を持つゼロ、そして、ウルキオラより遥かに強いという、スタークという男。

彼らだけではない。ここにいる子供も、女も、老人も、人外も、集う全てのものが、覚悟を秘めていた。神に齎(もたら)された苦難を乗り越えていた。

黒死牟は彼らの顔を忘れまいと、じっと、見つめていた。


→【Share The World】
→【ターニング・ポイント】



黒死牟は夢の世界で、鬼狩りのトップとして縁壱と並び立つ。命乞いをする鬼舞辻無惨を2人で斬り捨て、鬼を滅ぼした。
痣による寿命は優れた妙齢の医師(くすし)が治し、2人は全てが終わったその日、祝福するような三日月の下で、静かに微笑みあった。

そこに、1人の男が立っていた。

髪を伸ばし、髭が濃い。全身、墨をぶちまけたような真っ黒な服を着ていた。その眼は鋭く、継国巌勝を射抜いている。

「起きろ、継国巌勝」

男は言った。巌勝には意味がわからなかった。
何から覚めろというのか、ようやく全てが終わったのだ。むしろ、これからゆっくり眠るところだというのに。異様な気配、こいつは鬼の生き残りか?

巌勝は剣を抜いた。

「そうだ、剣を抜け。私を──」

──斬月を。

「!?」

巌勝の持つ刀が、日本刀から、斧のような無骨なものに変わっていた。同時に、巌勝の記憶が……いや、黒死牟の記憶が蘇る。

「私は……夢を……」

そうだ。と言った。気づけば、縁壱は消えていた。景色さえも、あの、無限城の崩壊後になっていた。

「すまぬ……私はまた、惑わされるところであった……」
「お前が内在世界に来たことは、こちらには都合がいい。お前に授けたいものがあった」
「何……?」
「本当は早すぎる。短期でそれを学べば、更木剣八のようにその力がお前自身を壊しかねない」

だが、ここで出し惜しむことはしない。

「お前に教えるのは、斬魄刀戦術における一つの究極」

「卍解だ」

無数の剣が突き刺さる無限城の跡。
斬月は黒死牟に告げた。

『始解状態の斬月の姿が、一護が振るっていた時とは違うように、卍解もまた然り』

『今の斬月はお前の魂に応じて形を新たに変化させる』

斬月は言う。

『己の辿ってきた軌跡をもう一度思い出せ。人であった頃、鬼であった頃、そしてこの地に来てからのことを。それら全てがお前の糧となり、答えを示すはずだ』

『故に探し出せ。お前だけの斬月を』

継国家の長男だった頃、鬼となってからの殺戮と鬼殺隊に敗れた最期、この地での出会いと喪失それら全てが今の自分を、黒死牟を、継国巌勝を形作っていると、改めて己の過去と向き合った。そしてそれを受け入れる。

『流石だ。継国巌勝……』

「斬月よ……」

それを抜いた時、黒死牟の姿は変わっていた。そして、斬月の姿が消えていく。驚きはなかった。手にある斬月を通して、『全て』を理解していた。この男もまた、無念と無力に苛まれていたのだと。

かつての持ち主、【黒崎一護】を護れなかったことを心の底から悔いているのだと。

『後は……任せた。ユーハバッハを、必ず……』

内在世界が滅びていく。しかし、悲しみはない。滅びる世界は黒死牟の中に還っていくからだ。全ては一つ。斬月の無念も、生まれた心も、全てはユーハバッハを倒すために。

現実世界で、ゆっくりと黒死牟が起き上がった。

「おや起きましたか。ですが貴方の力は既に抜き出した。最早抜け殻に商品価値はないのですよ」

無手で呆然と立ち尽くす黒死牟に、天津垓は余裕綽々で待ち構える。天津は自身が扱える極限まで改造したサウザーとなっている。その時点で、彼の中では黒死牟に勝ち目はゼロ! 1000%、自身の勝利は明白なのだ。

だというのに。黒死牟の手から『生えた』斬月に、その自信はサウザンドジャッカーごと打ち砕かれた。

「抜け殻は……その力の方だ」
「なん……だと……!?」
「時間が惜しい。すぐに済ませよう」

おもむろに腕を前に出し、剣を構え、その言葉を唱えた。

「卍 解」

卍解。あるいは破面における刀剣解放・第二階層(レスレクシオン・セグンダ・エターパ)。
黒崎一護の卍解は身に纏う死覇装まで含めてひとつの卍解だった。
ならば黒死牟の姿は。黒く重厚で、さながら武者の甲冑のようにも見える装甲。罅割れた仮面の奥からは人間の頃の貌。かつて無価値と切り捨てた過去と、理想とが混じり合った姿。

あり得ないと喚き一目散に逃げる天津を黒死牟は一瞥もせず、縁壱すら気づかぬ速度で恭也の隣に立った。黒死牟は天を見上げる。

「あんた、大丈夫なのか……」
「無論……世話になった」

簡素に謝辞を述べると、黒死牟はもう一本の刀を抜いた。おそらく脇差しに値するそれは、細く紅黒い刀だった。それをすっ、と横薙ぎに振った。

「月の呼吸、真・拾五の型……月牙天衝」

鋒が描いた部分が膨らんで、巨大な銀色の刃になった。それは、白い兵士を斬り潰すように真っ直ぐに飛び、巨城の外壁を突き破った。

「うおぉ……」
「あにっ、兄上……!」
「縁壱」

「いくつか、頼みが……ある。聞いてくれるか?」
「はい!」

黒死牟は振り返らなかった。

「お前はいずれ必ず……宿敵と相見える。狡猾で下劣な鬼だ。まず……そのものと対峙したならば、問答のいとまも無く、全霊を持って斬り続けるのだ」

縁壱は頷いた。

「そして……そのあと、妻を娶り、子を育て、1人の人間として……生きるがいい。決して、私のように……なるな……」
「…………」

黒死牟の言葉はそれまでだった。彼は刀を握り直し、鞘に納め、再びふい、と視線を上にやった。縁壱たちも釣られて見上げた。その先には、敵がいる。この邪悪な催しを是とする輩が。諸悪の根源が……。

「兄上!!」

黒死牟の覚悟を止める気は、緑壱にはなかった。
ただ、本心からその言葉は漏れた。

「また一緒に……凧揚げをしてください……」

一時の間の後、ほんのわずかに黒死牟は振り返った。

「……ああ」

その時、仮面の下がどういう表情だったのか、疲れからか透明な世界ですら読み取れなかった。しかし、そんな必要などない、兄がどんな顔をしているのか、縁壱にはわかる気がした。確信に目を見開いた。

「いってらっしゃいませ。兄上……」

遠くなる弟の声を、黒死牟ははっきりと聞いた。

その眼は、ただ真っ直ぐに見つめる。

己の『敵』が待つ場所を。


→【紅蓮の刃よ斬り開け】


「侍の義によって……助太刀致す」

床を貫き、とうとうその男の前に立った。
体から砕けていく青年。腹から血を流す右腕のない巫女、仰向けに倒れた魔法使い。怒りをも奪われつつある妖魔。

彼らが、そしてユーハバッハの視線が、黒死牟に集められた。

「来たか、私の残した唯一の残骸。愛すべき息子よ」
「ユーハバッハ。……事情は全て……夢で聞いている。なればこそ、お前に引導を渡すのは私だろう……」

斬月と同じ顔をした男が、くっくっくっ、と肩を揺らす。何がおかしいと黒死牟は問うた。

「ここまで順調に育ってくれるとは、全く一護もお前も、孝行息子だ」
「?」

ユーハバッハは語る。黒死牟にとって、信じがたい事実を。

「黒死牟、いや継国巌勝。お前はまさか、その力を己の力で手に入れたと思ってはいまいな?」
「……思ってなどいない! この力は……この舞台にて、さまざまな者に与えられたもの。お前を倒すべく託された私に対する恩恵に他ならぬ……!」
「そこがズレているのだ、継国巌勝。……お前は疑問に思わなかったのか、鬼の剣士であるお前の支給品が私に由来する斬魄刀、斬月であったことに。最初に戦ったものが、覚悟を秘めた異形の怪物。斧神であったことに……」
「っ!? な、何を……!?」

それは、思いもよらぬ言葉であり、最も聴きたくない【運命】。

「お前は斧神との戦いで不安定だった魂魄を安定させ、ウルキオラ・シファーとの戦いで始解と、死神化へと至った。そして我が居城に入り、卍解……つまり、帰刃に至り、その霊圧はかつての一護に勝るとも劣らぬ領域に至った」
「まて……では、あの娘は……」

絞り出すような声だった。

「あの娘を殺すように仕向けたのは、お前なのか……!!」
「そうだ」

ユーハバッハの即答と同時に、響転を用いて斬月を振るう。怒りすら遥か置き去りにした、反射的な暴発だった。しかし、斬月はユーハバッハの作り出した「斬月によく似た霊子の刀」にいともたやすく止められた。

「なっ……!」
「お前の誤算を教えよう、継国巌勝。一護にあってお前にないもの。それは純粋なる滅却師の血! 故にお前は私の「奪う力」には抗えぬ! 力を貰うぞ!! 継国巌勝!!!」
「ぐっ!! ぐぁあああああああああっ!!!!!!」

力が消えていく。
奪われていく。
全てが掌の上だったのか。

運命……も……心も。

すべて……ユーハバッハの……。

鎧が剥がされ、地面に転がった。ユーハバッハが何か言っている。倒れ伏すものに浅く一礼すると、ユーハバッハの体から溢れ出す影が天蓋を包むように破壊し始めた。

強すぎる。

ヤツは神そのものだ。
世界の創造も、破壊も意のままだ。

ユーハバッハの前では、縁壱ですら、私と違いはないのだろう。
どちらも等しく黒蟻のごとき小さきものなのだろう。

だからと言って。

「諦める……ものか……っ!」

例え全てが仕組まれていたとしても、奪われた力が偽りだとしても、この心は本物のはずだ。斬月の無念は本物のはずだ。黒崎一護がいた世界はあったはずだ。あの娘が……いや、「白坂小梅」が生きていたことは、神にも曲げられぬ事実なのだ!

失わせるわけにはいかない。奪われるわけにはいかない! 彼女がいた事実を。彼らがいた世界を。それができるのは、彼らにすべてを託された自分でなければならない!!

黒死牟の意気に呼応するように、天蓋を覆い尽くす影がひび割れて壊れていく。そして、奪われたはずの力が注がれていく。

視線の先に、狼狽るユーハバッハがいた。さらにその先に、サノスと謎の男がいた。

再び卍解を発現させる。自身の霊圧に体が軋む。だが、その痛みに構う暇はない。

黒死牟は他の誰よりも早く、ユーハバッハに斬りかかった。

しかし見え見えのそれはユーハバッハに簡単に受け流される。体勢を崩され受けかけた追撃を、金色に輝くベジータが受け止めた。

「フン、ようやくお目覚めか? 散々焦らしやがって、戦えるんだろうな?」
「勿論だ……期待には応えてみせよう……!」

最後の戦いが始まった。

黒死牟とベジータに続き、魔理沙が、七夜が、靈夢(先代巫女)が、多くのものが走る。

運命を打破するために。

『連携が取れてる、とは言い難かった。目的が対主催と反目する者や、敵として暗躍していた相手も混じっていた。だがこの時、この瞬間に魂を込めた。彼らの意志はただひとつに結集していた』


確かに死神の力はウルキオラとの戦いで斬月に与えられたものだ。この身で磨き上げた技ではない。

確かに、この覚悟は斧神と戦って練り上がったものだ。この身だけで培ったものではない。

確かに、この心は白坂小梅に与えられたものだ。自分はここに至るまで、ユーハバッハに踊らされていたのだろう。

だがそれでも、己をここまで押し上げたのは断じて奴ではない。

敵がいた。譲れぬものをかけ互いの魂をぶつけ合った。
家族がいた。憎み続け、憎み切れなかった弟と奇妙な形でまた共に戦えた。
仲間、と呼ぶべきかはわからない。今でもその言葉に抵抗はある。
だが、捨てられなかった。忘れるわけにはいかなかった。痛み(こころ)を抱え続けたからこそ、ここまで来れた。歩みを止めることなく!

「月の呼吸・壱ノ型───闇月・宵の宮!」

既に卍解は解けている。死覇装はボロボロだ。死神の力も、虚の力もほとんど残っていない。故に、死神も虚もない。鬼ですらない、ただの人間の継国巌勝の渾身の一振り。

『まず何よりも先に─────』
『お前を倒す!!』

『斬る』
『殴る』
『蹴る』
『撃つ』
『薙ぎ払う』
『消し去る』
『とどめを刺す』
『殺す』

「だからどうした! そんなもので私が斬れると思うか!!」

止められる。当然だ。そんなものはわかりきっていた。
必要なのは意志だった。止められ、砕かれても、その歩みが次に繋がると示す、刃だった。

──悪鬼滅殺。

それは、たった1人だけで成し遂げられるものではなかったのだ。

「そうか……」

倒れ伏す自身の後ろから、その脇を抜けて、ユーハバッハの首を狙う者が彼に迫る。ユーハバッハはその大半は防げても、その全てを躱(かわ)す術は失われている。

──悪鬼滅殺。

たとえ斃れても、受け継ぐ者が現れれば、その意志は消えず、不滅となる。歩みは続き、己がこの世界にいたことは永遠の道標となるのだ。

『誰かが倒れ、誰かが届かない』
『誰かが倒し、誰かが届いた』

『その果ての、変わらぬ未来(さき)に──』

「縁壱、これがお前の見た──」

割れた仮面の先の景色は、かつてないほど透き通った、朝焼けのようだった。


→【お先、真っ暗、真っ逆さま
及び
→【乱舞のメロディ】


ユーハバッハの手から、霊子の剣が砕けた。

終わった。しかし、ユーハバッハは笑う。
「私の勝ちだ」確かにそう言った。

ユーハバッハの体そのものが影となった。そして、その領域そのものを覆った。力が奪われていく。

「世界を奪えぬなら、まず貴様らから奪い尽くしてやろう! そのあとで私の死を改変し、再び世界を……『全ての世界を一つにしてやろう』死も、生もない世界を作ってやろう!!!」

空間そのものを奪ったユーハバッハが叫ぶ。皆、倒れ伏した。黒死牟はそれでも、斬月を離さなかった。

『ここだ』

斬月が囁いた。

『ここしかない。ヤツに滅びを齎(もたら)すには、この瞬間しかない』

しかし、体が動かんのだ。

『継国巌勝。いや、黒死牟。お前ならできる。不死身の鬼である、お前なら……私の最後の力を【与え】られたお前なら……!』

斬月が黒死牟の肩に手を置いた。ずっ、と黒死牟の体に力が流れ込む。最後、最期。
これは……黒崎一護の力。

継国巌勝は、黒死牟として立ち上がった。

そして──

「私を、ここまで……導いたのは、たしかに『お前』だった。『ユーハバッハ』よ……」

斬月はユーハバッハの胸に吸い込まれるように突き刺さった。吐き出したそれは万感の思いを込めた言葉だった。

「黒、死……牟……!!」
「そうだ、私は黒死牟。ただの人より、少しばかり生き汚い、不死身の鬼だ……!!」

斬月に霊圧を注ぐ。正真正銘、最後の一撃。
ユーハバッハの眼が、黒死牟を『視』た。

「月牙──天衝!!!」

「私(黒死牟)」の、「彼(黒崎一護)」の、そして「彼ら(斬月たち)」の魂が、全知全能の神を撃ち落とした。


→【THE END OF GOD】


動かなくなったユーハバッハを、満身創痍の黒死牟たちは見下ろした。安堵に心を落ち着かせたが、事態は急変する。

アンチスパイラルの出現。そして今度こそ世界の崩壊が始まったのだ。

そして、それに乗じてファニー・ヴァレンタインが牙を剥く。

それらについては、黒死牟ではなく、他のものたちが決着をつけた。

全てが終わり、生き残ったものはサノスによって一箇所に集められた。
あとは彼が指を鳴らすだけで全員、望む世界に帰還できるとのことだった。

その前に、冥府の神ハデスが解放された死者の魂を生存者の、黒死牟らの前に導いた。
その中には当然、白坂小梅の魂もあった。

「白坂、小梅」
「お前との出会いも……全てはユーハバッハが仕向けた事だったのだろう……」
「だが、それでも……お前が私を認めてくれたこと……私に向けた言葉の全ては……断じて否定しない……」
「お前がいてくれたから…私は再び立ち上がれた…。だから……礼を言わせてくれ……」


「ありがとう」


深々と頭を下げる黒死牟へ優し気な声が掛けられる。

「初めて……名前、呼んでくれましたね」

顔を上げると嬉しそうに微笑む少女の姿があった。

「私も、黒死牟さんと会えて、良かった……」

「……っ! お前を忘れない! 決して!!」

「うん! 私も、私も忘れない……さよなら黒死牟さん。ありがとう……」

その言葉と共に消えていく少女を、黒死牟は静かに見送った。


→【じゃ!】


そしていよいよ帰還とする時に、四楓院夜一が声をかけてきた。

「護廷十三隊の管轄外に、死神がおるというのも難儀な話よ。どうじゃ? おぬし、ワシらの世界に来ぬか? お主なら隊長格になることも容易かろう」

黒死牟は言った。

「そうしよう。だが、護廷十三隊とやらに行くのは、しばし時間を貰いたい……」

再生する世界を旅したい。と言った。
夜一はにかりと笑った。

「良いぞ。なぁに、どうせ十三隊も建て直しから始めねばならぬ故、色々面倒くさいじゃろうし。ワシも帰ったらひとまずどこぞの駄菓子屋に隠れて過ごすつもりじゃ。喜助のことじゃからおめおめと死んではおるまい」

それよりいいのか、と夜一がいう。
彼女が指し示す先には、観柳らと話終わり、疲れ果て眠る縁壱の姿があった。

かまわぬ、と黒死牟は言った。
必要なことは話した、と。

夜一は少しんー、と唸ったあと、まぁ話がついておるならそれでいいか、と言った。

そして、彼らはこの世界から姿を消した。



全てが終わり、そして始まりを迎えた後、彼は白い羽織を翻し、地獄蝶を伴って現世の門を開ける。

その先に、老人が待っていた。

約束を果たすために、黒死牟は再び、弟に会いに行ったのだった。



◾️◾️◾️◾️◾️◾️
原作の、非業に満ちて地獄の業火に焼かれる最期を迎えた黒死牟からすれば、当ロワにおける救いのある活躍ぶりと果たした役割はあまりにも大きく、賛否はあるだろうがほとんど主人公と言っていい立ち振る舞いを完遂した。

「歪められた並行存在」や「運命の打破」、「未来への反抗」「心」と言ったオールジャンル3のテーマ性をすべて体現し、「全てを奪う神」を「全てを与えられた者」が撃ち破るという構図からもその重要性が窺える。

この黒死牟は、オールジャンル3を代表する名キャラクターといっても過言ではないだろう。
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最終更新:2024年01月19日 11:25