44.
雛銀「うわぁー、すごい雲なのぉ」
窓の向こうを雛銀燈が指差し、その方を見ると積乱雲が空を覆い始めたところだ。
湿った風も吹いてきて、一雨来るのを予感させる。
銀「ほんとねぇ。これは夕立が来るわねぇ」
雛銀「雨降るのぉ?」
銀「ええ。すごい雨が降るわよぉ」
雛「大変、洗濯物をしまっとかないと…」
そう言って慌てて庭に出て雛苺は洗濯物を仕舞い始めた。
その間にも当たりはどんどん暗くなっていく。
雛銀「お外が真っ暗になってきたのぉ」
銀「そうねぇ。雷も鳴るわねぇきっと」
雛「雷…」
水銀燈の台詞を聞いて、雛苺は天を仰いだ。
それから数分経ってからバケツをひっくり返したような大雨が降り出した。
雛銀「降ってきたのぉ!」
銀「とうとう降って来たわねぇ。すごい雨だわぁ」
ソファに座りながら窓の外を眺める二人。
その傍らで、雛苺は黙々と洗濯物を畳んでいる。
その様子に気付いた水銀燈が声を掛けた。
銀「…雛苺、顔青いけど大丈夫ぅ?」
雛「え…ま、まだ大丈夫なの」
銀「本当?」
雛「うん、まだ…」
そう言った瞬間に窓の外が光って少し後に雷鳴が聞こえて来た。
それに雛苺は一瞬身震いする。
雛「っ!」
銀「来たわねぇ」
雛銀「雷さんなのぉ!」
銀「雛銀燈、怖くない?」
雛銀「うん、平気なのよぉ」
銀「強いわねぇ。…あらぁ?」
さっきまで洗濯物をしていた雛苺が水銀燈の隣に来ていて、その服の裾をギュッと握った。
その顔は今にも泣き出しそうだ。
雛「…そろそろ、駄目かもなの…」
銀「ふふ…こういうとこは昔と変わらないわねぇ」
雛「だって…」
そこまで言った時にまた雷が光って雷鳴が響いた。
そこで思わず水銀燈に雛苺は抱き付いた。
雛「ひぃっ! だ、だって…これはしょうがないの…!!」
水銀燈の胸に縋りつきながら涙声で搾り出すかのように答える。
そんな震える雛苺を水銀燈は片手で抱きしめた。
銀「しょうがないわねぇ。鳴り止むまでこうしててあげるわぁ」
雛「そうしてなの…!」
雛銀「あー、雛ママだけずるいー! わたしもだっこなのぉー!」
そう言って今度は雛銀燈も水銀燈に抱きついてきた。
銀「はいはい。まるでおしくらまんじゅうねぇ」
雛銀「えへへぇ」
雛「うん…こうしてると安心するの…」
夕立が止むまで3人とも一緒に固まってました。
45.
雛銀「ごちそうさまぁー」
そう言って雛銀燈が夕食を食べ終えテーブルから離れた。
だがそのお皿を見て雛苺が声を掛ける。
雛「雛銀燈、ピーマンがまた残ってるの」
雛銀「もういらなぁーい」
銀「そう言ってまた残す気でしょお。好き嫌いはダメよぉ」
雛銀「だってもうお腹いっぱいなのよぉ」
雛「お腹いっぱいって言ったって、あと一口だけなのよ。ほら、あーんなの」
雛苺が残ったピーマンを箸でつまんで雛銀燈に差し出す。
だが、それに対してプイッと顔を背けた。
雛「雛銀燈、好き嫌いは許さないのよ。あーん」
雛銀「う、うう…」
銀「好き嫌いしてるとずっと小っちゃいままで大人になれないわよぉ」
雛銀「…だったら小っちゃいままでいいもぉん! おやすみぃ!」
雛「あっ、こら!」
そう捨て台詞を吐くとピーマンを食べずに駆け出して、そのまま寝室へ行ってしまった。
残された雛苺はやれやれといった様子でイスに掛け直す。
雛「雛銀燈の好き嫌いにも困ったのよ…」
銀「子供に好き嫌いが多いのはしょうがないけどねぇ…」
雛「何か良い方法は無いの?」
銀「うーん…」
雛苺にそう言われて水銀燈は少し考える。
しばらくしてある考えが浮かんで水銀燈は顔を上げた。
銀「…上手くいくか分からないけどぉ…」
雛「なになに?」
翌朝、水銀燈が会社に行く準備をしていると雛銀燈が興奮した様子で紙切れを持ってきた。
雛銀「銀ママぁ! これ見てぇ!」
銀「どうしたのぉ?」
雛銀「くんくんから手紙が来たのよぉ! 読んでぇ!」
当然これは昨晩に水銀燈が書いたものである。
雛「本当? すごいのよ」
銀「分かったからちょっと貸しなさぁい」
手紙を受け取り、水銀燈はそれを読み始めた。
銀「なになに、『雛銀燈ちゃん、いつも応援してくれてありがとう。嬉しいよ』ですってぇ」
雛銀「へへへー」
更に続きを読む水銀燈。
銀「…『でも、雛銀燈ちゃんはピーマンが嫌いなんだって? 残念だなぁ、もっと良い子だと思ってたのに』」
雛銀「え…」
銀「『好き嫌いの無い良い子だったら、もっと雛銀燈ちゃんのことが大好きになれるのに…』…雛銀燈、どうするぅ?」
水銀燈にそう尋ねられ、雛銀燈は困ったようにうんうんと唸り始めた。
その様子を見ながら更に続ける。
銀「『好き嫌いが無くなったら、きっともっと探偵を頑張れるんだ。好き嫌いがなくなるのを願ってるよ』…だってぇ」
雛銀「うう…くんくん…」
銀「どう? くんくんの為にもピーマン食べるぅ? 大変みたいよぉ」
そう言って目を覗き込む水銀燈。しばらくして雛銀燈は顔を上げた。
雛銀「…食べるのぉ」
銀「本当?」
雛銀「くんくんのためなのぉ!」
銀「嘘じゃないわねぇ。ちゃんと食べるのよぉ」
雛銀「うん!!」
力いっぱい頷く雛銀燈を見て、水銀燈と雛苺は『作戦通り』とウインクしあった。
時間は流れて夕食。
雛銀燈は残った野菜炒めのピーマンを見つめてなかなか動こうとしない。
雛銀「うう…」
銀「どうしたのぉ? くんくんのために食べるんじゃなかったぁ?」
雛「くんくんとの約束、破っちゃうの?」
雛銀「…た、食べるもん!」
そう意を決すると、残ったピーマンを一気に口の中に放り込み、2,3口噛んで飲み込んだ。
雛「よく出来たのよ!」
銀「食べれたじゃなぁい。偉いわよぉ」
形はどうあれ食べた事に二人は褒めた。
雛銀「くんくんのためだもん!」
銀「そうねえ。…じゃ、私もごちそうさまぁ」
そう言って水銀燈も食べ終わったが、雛銀燈が水銀燈のお皿を見てトマトが残ってるのに気が付いた。
雛銀「銀ママ、サラダのトマトが残ってるのよぉ」
銀「え…い、今お腹いっぱいでぇ…」
雛「…水銀燈…」
雛銀燈とさして変わらない言い訳をする水銀燈をジト目で睨む。
そこで雛苺はいたずらっぽい笑みを浮かべた。
雛「雛銀燈、水銀燈は甘えんぼさんだからあーんして食べさせて欲しいのよ」
銀「んな、違…!」
雛銀「そうなのぉ? はい銀ママぁ。あーん」
トマトをフォークで刺して水銀燈に差し出す雛銀燈。
雛「まさか断るつもりじゃないのよねー?」
銀「う…た、食べるわよぉ、食べれば良いんでしょう!?」
そう言って出されたトマトを口の中に入れ、殆んど味わないで少し噛んでお茶で流し込んだ。
銀「ど、どう…?」
雛銀「食べたのぉー! はい、もう一個あーん」
銀(…カンベンしてぇ…)
涙目で夕食を食べ終えた水銀燈だった。
46. 番外編
銀「どう、仕事終わったぁ?」
紅「ええ、やっと終わったわ。…もうこんな時間…ごめんなさい、こんな時間まで付き合わせて…」
時計を見てみるともう既に九時近くまでなっていた。
当然他の社員は既に帰宅している。
銀「良いわよぉ別にぃ。…だって、今ここでその待機料を貰うからぁ…」
妖しい目をしてそのまま真紅に深いキスをする水銀燈。
いきなりの事に真紅は驚いたが、それに抵抗せず真紅からも舌を絡め合わせる。
しばらくお互いの口を堪能した後に口を離し、銀色のアーチが二人の口を繋ぐ。
紅「…いいの? 雛苺と雛銀燈ちゃんが家で待ってるんじゃない?」
銀「大丈夫よぉ。バレなければどうってことないわぁ」
紅「…困った主人ね」
銀「貴方が誘うから悪いのよぉ」
そう言って再び口付けをし、更に服の中に手を入れ真紅の胸を
雪「…で、ここからどうなるんですか?」
やや興奮気味で真紅に尋ねる雪華綺晶。
それを制すように真紅はパソコンを打ち続けていく。
紅「落ち着きなさい、ここはこうなって…」
雪「まぁ、いきなりそう来るなんて…銀お姉さまも大胆ですわ」
紅「まだまだこんな物じゃないのだわ。これから更に…」
雪「ええ!?{ピー}をここで使うんですか!?」
紅「ふふふ、これだけじゃ収まらないのだわ。こんな物も使うのだわ」
雪「そんな、{バキューン}まで!?」
紅「なかなか面白いのが出来そうだわ。後はこれを元にネーム書いて…」
そんなふうに興奮気味に二人が騒いでいると、例の如く水銀燈が音もなく背後に現れた。
そしてそのパソコンの文章を読み始める。
銀「……」
紅「よし、次の新刊はオフィスラブ&不倫で行くわ! 帰ったら早速取り掛からないと…」
雪「紅薔薇お姉さま、完成したら私にも見せてくださいませ」
紅「いいわよ、楽しみにしてなさい」
銀「…私にもくれるぅ?」
紅「ええ、もちろん…て、水銀燈!?」
そこでやっと真紅は引き攣った笑顔を浮かべている水銀燈に気付き、一気に全身から血の気が引いていった。
銀「…あなたも本っっ当に懲りないわねぇ…職場を何だと思ってるのぉ…?」
紅「いや、あの、これはその…」
銀「…言っとくけど私は家族一筋だし、まずあなたみたいなオタクに興味はないからぁ…」
紅「は、はい…」
銀「…それでもお望みなら…その小説どおり胸揉んであげましょうかぁ?」
紅「へ、い、いや、それは結構…」
銀「遠慮するんじゃないわよぉ!」
言うや否や、真紅の胸を揉む…というか全力で握り潰そうとする。
紅「痛い痛い痛い!! 胸が潰れるー!」
銀「いっそマイナスDカップになるまで揉んであげましょうか!?」
紅「それ揉むじゃなくて抉るだからああああごめんなさーい!!」
ちなみに雪華綺晶はこっそりと逃げてました。
47.
今日は七夕という事で、雛銀燈が幼稚園で作った笹飾りを持って帰ってきた。
今それはリビングのガラス戸のところに飾られている。
銀「綺麗に出来たわねぇ」
雛銀「うん、みんなと一緒に作ったのよぉ」
雛「飾りとかもカラフルで立派なの」
夕食を食べた後、みんなでその笹飾りをじっくりと鑑賞する。
小さいながらもしっかりと作られていて可愛らしく出来ている。
銀「雛銀燈はどんな願い事書いたのぉ?」
それに掛けられている短冊の一つを水銀燈が手にとって良く見ようとした。
だがその手を叩いて短冊を落とさせた。
銀「あいた、何するのよぉ」
雛「叩いちゃダメなのよ。どうしたの?」
雛銀「見ちゃダメなのぉ」
銀「どうしてぇ?」
雛銀「…恥ずかしいのよぉ…」
ちょっと頬を赤くして拗ねたように目を逸らす雛銀燈。
銀「か、可愛いわぁ~…。じゃなくって、少しぐらい良いじゃなぁい」
雛「一枚だけなの、ね?」
雛銀「ダメなのぉ!」
頑なにそう言う雛銀燈に、二人は目を見合わせてやれやれと苦笑いを浮かべた。
雛「分かったの。もう誰も見ないのよ」
雛銀「本当?」
銀「本当よぉ」
雛銀「なら良いのよぉ」
雛銀燈がそう言って、3人ともソファに戻って行った。
その日の深夜、雛銀燈を寝かしつけた雛苺がリビングに戻ってきた。
銀「寝たぁ?」
雛「うん。ぐっすり寝てるの」
銀「そう。…じゃあ、今のうちに」
雛「親としてやっぱり気になるのよ」
雛銀燈が寝たのを良いことに二人ともこっそりと笹飾りを見に行った。
その短冊を一つずつ手に取って拙い文字を解読していく。
銀「『くんくんにあいたい』…可愛らしいわねぇ」
雛「これは…『うにゅ~とヤクルトいっぱいほしい』って書いてあるの…」
銀「あっはは、子供らしいわぁ」
雛「次は…えーと…『およめさんになりたい』…だって…」
それを聞いて一瞬水銀燈のこめかみが動いた。
銀「…雛銀燈は嫁に出さないわよぉ…」
雛「ま、まぁ子供の書くことだから…それに何年先の事だと思ってるの」
銀「そうだけどぉ…」
雛「そう本気にならないのよ。…これが最後なの、なになに…」
それを解読した雛苺の顔が、より一層ほころんでいった。
雛「…水銀燈。これ見るの」
銀「なにぃ?」
そこには拙い文字でこう書かれていた。
――ひなママやぎんママみたいなひとになりたい――
雛「雛銀燈…」
銀「…本当に、良い子に育ってくれたわねぇ…」
雛「うん…!」
嬉し泣きしそうな雛苺の肩を水銀燈がそっと抱いた。
二人とも最高に幸せな気分だ。
そう嬉しさに酔っていると、あることに気が付いた。
銀「…あらぁ? 何か小さく書いてあるわぁ」
雛「ホントなの。大きさの配分考えてなくて書けなかったのよきっと。…なになに…」
――でもぎんママみたいなヘタレになりたくない――
銀「……」
雛「……」
銀「……あは…」
雛「す、水銀燈?」
銀「あは、あははははは…」
雛「…なんかごめんなの…」
さっきとは違う意味で泣きながら笑うしかない水銀燈に雛苺は一応謝った。
おまけ 大人たちの願い事
銀&雛:家族全員幸せで暮らせますように
蒼&翠:元気な赤ちゃんが生まれますように
金&みつ:ずっと仲良しで居られますように
雪 :美味しい物をたくさん食べたい
薔薇:きらきーお姉ちゃんの大食いがもう少し落ち着きますように(家計が…)
紅 :お金が欲しい あとのりと結婚したい
の「私はついでなのね…」
紅「いや、そういう訳じゃ…」
48.
http://rozen-thread.org/2ch/test/read.cgi/news4vip/1213881306/12-14 の前日。
いくら仲が良くても何年も一緒に暮らしてりゃ喧嘩もする。
雛「…やっぱ赤字…今月ちょっと遊びすぎたのよ…物価もガソリン代も上がってるし…」
家計簿を付けながら頭を抱える雛苺。
何回計算してみても赤字は覆らなく、必然的に機嫌が悪くなってくる。
銀「ひ・な・い・ち・ごぉ~♥ 肩凝ってなぁ~い?」
その後ろから水銀燈がいつもより五割増の猫撫で声で名前を呼んできた。
こういう時は大抵二つのパターンが考えられる。
何か怒らすようなことをしたか、何かお願い事をするか。
雛「凝ってないけど、何か用なの? 用があるならさっさと言ってなのよ」
ピリピリしたまま水銀燈の方を向かないで言う。
銀「それじゃあねぇ、お小遣い5000円借し…」
雛「ダメ、なの」
その間一秒足らず。あまりの即答に水銀燈も少しムッとした。
銀「…そんな即答しなくても良いじゃなぁい」
雛「そんなこと言ったって、無理な物は無理なのよ」
銀「せめて少し考える仕草見せてくれたりしても良いんじゃないのぉ?」
雛「この家計簿見てたらそんな事考える間も無くダメになるのよ」
銀「なによぉ、それは私の稼ぎが悪いって言うのぉ!?」
雛「別にそう言ってないのよ! 何でそんな卑屈に捉えるの!?」
銀「なによぉなによぉ! つまんなぁい!! ケチンボ!!」
雛「ケチで悪かったねなのよ! これが主婦の仕事なの!」
一気に口論はヒートアップし今にも掴みかからん程だ。
だが、雛銀燈はそれを見て特に慌てた様子は無い。
雛銀(…巻き込まれないように寝る部屋に行ってるのぉ…)
そう思って寝室へと逃げ込んだ。
その十分後。
銀「痛い痛い痛い! 軽はずみな事言ってごめんなさい!!」
雛「家にはいま余裕が無いの、分かった!?」
銀「分かりましたから耳を引っ張るのは止めてぇ~! 許してくださいぃぃ!」
雛銀(…また銀ママごめんなさいしてるのぉ…)
戻ってみると案の定水銀燈が負けていた。
雛銀(銀ママ、ファイトなのよぉ)
口に出すととばっちりが来そうなので心の中でそう応援した雛銀燈だった。
頑張れ水銀燈、雛苺に勝てるその日まで!