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『明けない夜』

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rozen-yuri

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『明けない夜』


 日と日の境目の一瞬を過ぎて、暫く経った。
 雲から漏れる微かな月の明かりが、窓越しに部屋を照らす。その部屋のソファには、一人の少女、否、一体の人形が座っていた。普段頭の上にある帽子を膝に乗せ、静かに瞼を閉じていた。
 ふと何処からか、紅茶の香りが漂ってきた。

「飲む?」

 湯気が上る紅茶が入ったティーカップを持った、もう一体の人形が、ソファに座った人形に歩み寄る。
 驚く事に、二体の人形は瓜二つだった。双子とか、そういうものではなく、まるで鏡の様に同じだった。

「…頂くよ」

 問いに答える様に、閉じていた瞼をゆっくりと開き、紅茶を持ってきた人形を同じオッドアイで見つめた。

「はい」
「…ありがとう」

 差し出されたティーカップを受け取ると、そのまま口元に持っていき、カップを傾けた。

「…相変わらず、美味しいね」
「あ、ありがと…」

 微かに頬を赤く染めて、視線を反らした。そんな反応に、くすっ、と笑みが溢れた。心の中の、あるものが反応して――。 

「あぁ、そうだ。君も飲む?」
「え……――!」

 問いの意味を理解する前に、唇は塞がれた。その代わり、まだ熱い紅茶の味と香りが口の中に広がった。

「ね、美味しいでしょ?」
「な…な…!!」

 先程のシリアスな雰囲気は何処へやら、悪戯っ子の様な笑みを浮かべる“蒼星石”と、顔を真っ赤にさせる“蒼星石”。
 二人は同じ存在であり、違う存在でもあった。

「も、もう…!」
「怒らないの。折角夢で逢えたんだから、ね?」
「そ、それとは関係…」

 言い終わる前に突然抱き締められ、続きの言葉が紡がれる事は無かった。

「ちょ、ちょっと…」
「久し振りの再会なんだから、もう少しこうさせて?」

 より強く抱き締められ、胸はさらに高鳴った。
 自分と同じ筈なのに、表情も、香りも、見つめる瞳も、全て違う。

「……相変わらず甘えん坊だね、ラピスは…」
「君に言われたくないな」
「えっ?」
「甘えた表情と声でおねだりを……」
「わー!わーー!」

 ラピスと呼ばれた蒼星石が呟いた瞬間、大声を上げて言葉を中断させた。やっと赤みが引いた顔が、再び赤くなった。

「……ん?そろそろ目覚めの時間の様だね…」
「え…?もうそんな時間なんだ……」

 先程のやりとりとはうって変わって、お互い寂しげな表情を浮かべた。

「……また、逢えるよね?」

 俯いた顔を上げ、ラピスを見つめた。

「きっと逢えるよ。君が僕を望んでくれる限り」
「……うん!」

 お互い微笑んだ。
 次の瞬間、蒼星石の姿はすぅ、と消えた。

「……現実の世界に戻ったみたいだね」

 一人残されたラピスは、窓越しに空を見上げた。空には相変わらず月が輝いていた。

「……君は、迷っているのか…」

「最近夢の世界には、太陽が昇らなくなってしまった」

「それは、君が朝を望んでいないと言う事」

「………僕は、どうすれば良い…?」

「君にはちゃんと現実の世界で生きて欲しい………でも………僕は………」

『閉じ込めてしまえば良いじゃない…永遠の夜に……』

「なっ…!?君は……!!」



――――― 


「ん……此処は……夢の世界…?……」

 再び夢の世界に足を踏み入れた蒼星石。しかし、前と比べると世界が変わっていた。
 世界が影に包まれた様だった。

「一体……?」
「蒼星石……」
「! ラピ…ス…?」

 愛しい人の声がして振り返ってみると、そこにはラピスが俯いて立っていた。けれど、明らかに様子がおかしい。

「ラピス……何があったの?」
「…………」
「ねぇ……ラピ…!?」

 名を呼ぶ前に塞がれた唇。だがいつもの温もりは感じられず、何処か冷たい唇だった。
 抵抗しようとするが、突然舌を入れられて、どうする事も出来なかった。

「んぅ…!んんっ…」
「はっ……蒼星石……」

 瞳をうるませ、必死に呼吸を整える。頭がボー、としていたせいか、手足に絡む茨に反応が遅れてしまった。

「っ……これは……」
「…………」
「…君は…本当にラピスなの…?」
「そうだよ」
「っ…!?」

 ラピスの言葉が合図になったかの様に、周りの茨は二人を徐々に捕える。

「ぐっ…!」
「…………」
「ラピス!目を覚まして!」
「………め……」
「え……?」
「…ごめ…んね…」

「…ラピ…ス…」
「ずっと君と一緒にいたかった……そんな弱味につけこまれて…」
「…!」
「この夢の主は……僕だった……」
「ラピ…!」

「明けない夜を望んでいたのは、僕だったんだ」

 この言葉を最後に、二人は完全に茨に飲み込まれてしまった。

『おやすみなさい……良い夢を……』



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