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『籠ノ鳥』

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rozen-yuri

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『籠ノ鳥』


「ありがと、本当助かったわぁ」
「これくらい、良いよ」

 夏の猛暑の日。熱されたアスファルトの上を歩く二人の女性。黒いノースリーブとジーパンを着こなす水銀燈と、白いシャツにベージュの半ズボンの蒼星石であった。

「これで、今年の夏休みは遊べるわぁ」
「去年の夏休みの最終日は宿題地獄だったもんね」
「…あんたも意外と酷い奴ねぇ…」

 クスクスと笑みを溢す蒼星石に、水銀燈の表情はムッとしていた。水銀燈にとってあまり思い出したくない記憶を掘り返されたからだ。

「ごめんごめん。じゃあ、僕は帰るね」
「えぇ。今日は付き合わせて悪かったわぁ。翠星石との大切な約束を潰しちゃって」
「え?翠星石と約束なんてしてないけど……」

 蒼星石はきょとん、とした表情で言った。彼女には、思い当たる節が無かった。

「あらぁ?翠星石が言っていたんだけど……」
「そっか…。後で聞いてみるよ。また明日」
「またねぇ」

 蒼星石は沈む夕陽に消えていった。水銀燈はいつもの様に、その後ろ姿に軽く手を振った。
 これが、最後の会話だった事も知らずに。

「ただいま」

 家の戸を開くと、陽が沈んでいるというのに、明かりは一つもついていなかった。

「あれ?翠星石?」

 呼び掛けても、返事は無かった。不思議に思い、二階の翠星石の部屋へと向かった。

「翠星石、いる……っ!?」

 部屋に入った途端、口に何か押し付けられ、意識は闇に沈んでいった。

―――――

「ん…………」

 ふと目が覚めると、部屋の天井が目に入った。感覚から、自分がベッドの上に横たわっているのが分かった。だが、すぐに違和感に気付く。

「…あ、れ……?腕が…動、かない…?」

 両腕は頭の上で拘束されており、身動きが取れない状況だった。

「目…覚めたですか?」
「! 翠星…石…」

 話し掛けた本人、翠星石はベッドの横の椅子に座っていた。だが蒼星石から見て、翠星石の表情は普段から想像もつかない程、暗いものだった。

「す、翠星石…これ外して……」
「それは出来ないです…」
「ど、どうして…!」
「また、翠星石を置いていくつもりですか…」

 気が付けば、翠星石は蒼星石の上に馬乗りになっていた。

「また、置いて行くんですか!翠星石を、置いて…っ」

 ポロポロと、雫が蒼星石の頬に落ちた。目の前には自分の半身が涙を流していた。

「翠せ……っ!?」

 言いかけた蒼星石の言葉は、翠星石の唇によって塞がれた。抵抗する間もなく、舌が侵入してきた。

「ん……はっ…!」

 翠星石の舌に、蒼星石は少なからず反応した。その証拠に頬は赤みを帯びていた。

「なん、で…」
「覚えてますか?昔の事……」

 ふと、遠い眼差しで語り始めた。

「今から十年くらい前の時……蒼星石が好きって言ってくれた事……」
「え……?」

 何故そんな話を、と言いたげな蒼星石の表情に、翠星石は少しだけ自虐的に笑った。

「覚えてる訳ないですよね…そんな昔の事……けど、翠星石は嬉しかったんですよ……」

 一瞬だけ、優しい笑みを浮かべた。蒼星石を抱き締める体制になり、再び口を開いた。

「でも、蒼星石は翠星石だけを見てくれなくて……周りばかり見ていて……我儘なのは分かってるけど、抑えられないんですよぉ…!」

 蒼星石を抱き締める力が強くなった。苦しそうな表情の蒼星石を見た翠星石は、すぐに腕の力を弱めた。

「けほ…!…翠、星石だって…ちゃんと、見ている…よ…」
「…優しいんですね……だったら…翠星石だけを、見てください…!」
「……それは、出来ない…」

 翠星石の表情が、こわばった。

「もし、そうしたとしても…君の為にはならない…」
「…………」
「それに僕達は、ふた……っ!?」
「もう、いいです」

 俯いた翠星石は、再び蒼星石の唇を塞ぎ、舌を無理矢理ねじ込んだ。

「ふぁ…っ」
「………なら、貴方を私のものにすれば、貴方は何処にも、行かないでしょう?」
 
 
 
――籠の中の鳥は、厳重な鳥籠に入れられました。
――もう外の世界に飛び立つ事は、出来ないのです。


end
 
 

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