『貴方に魔法を』
「翠星石って本当に髪長いね」
暖かな陽を浴びながら、のんびりと過ごしていた午後の事。ベッド上に腰かけ、退屈そうな表情の翠星石の、隣に座っていた蒼星石が口を開いた。と、同時に、立てば下につくくらいはあるであろう長い髪を、自分の指に通した。
「そうですか?」
「うん。…少しだけ羨ましい」
ポツリ、と呟かれた言葉に、翠星石は少しだけ驚いていた。
「羨ましい?」
「だって、色々出来るでしょ?……お洒落、とか」
お洒落、と言う時に、少しだけ視線をずらした。本人としては、ちょっとだけ恥ずかしいらしい。
一方翠星石はというと、先程よりも驚いたのか、目を真ん丸にして蒼星石を見つめていた。
「……まさか、蒼星石がお洒落に興味を持ったとは…」
「……悪い?」
「いえ。今までとくに興味無さそうでしたからね」
翠星石は嬉しいですよ、と一言加えて、にっこりと笑った。
「でもさ、僕は髪短いし…」
「そんなの関係ねぇ!です。寧ろ短いからこそ可愛く出来る筈ですよ!」
若干何処か壊れてきている姉。そんな姉の迫力に、妹は言葉を発する事が出来なかった。
「ちょっと待ってるですよ!」
そう叫ぶと、風の様な早さで(勿論実際は違うが)、部屋を出ていった。一人ポカンとする蒼星石を置いて。
暫くすると、風の様な早さで(勿論実際は(ry)帰ってきた。小さめの箱を持って。
「な、何それ?」
「翠星石のお洒落BOX(仮)ですぅ。さ、覚悟するですよぉ~…」
「だ…誰か助け…!」
目をキランと光らせ、怪しい手の動きをさせながら蒼星石に迫っていた。
背後に逃げる蒼星石だが、徐々に距離を詰められ、降伏を余儀なくさせられた。
―――――
「完成ですぅ!」
櫛を片手に何かをやり遂げた表情で、翠星石は高らかに言った。
鏡の前に座っているのは、羞恥の色に顔を染める蒼星石だった。
「……や、やっぱり変だよ……」
「んまっ!翠星石の最高傑作にケチつける気ですかぁ!?」
「そ、そっちじゃ無くて……短いのを無理矢理結ぶのは……」
蒼星石の頭の上には、ちょこんと出た髪の束が左右にあった。
「……僕には似合ってないよ……」
「…はぁ、相変わらずネガティブですねぇ。……………じゃあ」
悩むそ振りを見せて、暫くすると口の端が釣り上がった。
「可愛くなる魔法、かけてあげます」
「え……?」
問おうとした蒼星石の唇は、翠星石の唇によって塞がれた。
「…………ふふ、可愛くなったですぅ」
「…な…なな…っ!!」
魔法によって、真っ赤になった蒼星石を見て、翠星石はにこにこと笑っていた。
end
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