今日は部活が無く、久々に早く帰れる。
帰ったら今日は雛苺とのりに会いに行こうかな、そんな事を思いながら巴は校門へと向かっていた。
どっちかと言えばメインは雛苺よりのりだったりするのだが。
ちなみにジュンなんて正直どうでも良い、のりの服に付いてるホコリみたいな物だ。
「あれ…?」
やがて校門まで来ると、そこに見間違えるはずの無い愛しいのりの姿が合った。
少し駆け足でそこまで駆け寄っていくと、のりが気が付いてくれて手を振ってくれた。
「こんにちは…もうこんばんはかな? 巴ちゃん」
「こんばんは、のりさん。どうしたんですか?」
「私も今日部活休みで、早く帰れたから迎えにきたのよ」
「え…迎えに、ですか?」
のりが迎えに来てくれた、その事で幸福感が胸が満たされていく。
今日が部活休みで本当に良かった、一緒に下校できるなんて夢みたいだ。
「あ、のり!」
「え?」
そんな夢心地でいると、不意に後ろから第三者の声が聞こえて来て誰かが巴の脇をすり抜けて行った。
それはそのままのりに駆け寄り、のりも幸せそうな笑顔でその女性の頬を撫でる。
いきなりの第三者出現に、巴は頭が追いつかずその女性とのりを交互に見比べる。
「のり、来てくれたのね」
「ええ、部活も無かったから。今日は一緒に帰ろうねめぐちゃん」
「あの…のり、さん? その人って…」
ようやく口を開けることが出来、そう尋ねるとめぐちゃんと呼ばれた黒髪の女性が巴の方を向いた。
その顔にはどこか見覚えがあるような気もするが今一つ覚えていない。
「…あなた、えーっと…」
「? のり、この人ってどちら?」
「めぐちゃん、会った事無い?」
「…ちょっと記憶に無いわね」
こっちは薄っすら覚えている気があるのだが向こうは全く記憶に無いらしい。
ちょっとムカついた。というかさり気無くのりの腕に抱き着いてるし。
「この子は巴ちゃんって言う、ジュン君の幼馴染なのよ」
「…じゃあのりの幼馴染、と言うことでもあるわけね」
のりって、呼び捨てか。そんな事を心の中で毒づく。
そんな心中もつゆ知らずのりは顔をめぐから巴に向けてきて、巴は即座に笑顔へ戻す。
「この子は柿崎めぐちゃんって言うのよ。数ヶ月前に退院して学校に戻ってきたんだけど…」
「そう言えばそんな生徒がいるって聞いたような…。…それで、二人はどういう…」
そんな人とのりがどうして知り合いなのか。
巴がそう尋ねると、めぐは更にのりと密着度を高めて笑顔で口を開いた。
「私達、付き合ってるのよ」
「…そう、付き合って…えええぇぇ!?」
めぐの発言を聞いて、巴はまるで鈍器で思いっきり殴られたようなショックを受けた。
固まっている巴に気付く様子も無く、めぐはのりを見上げる。
「そろそろ帰りましょうよ。お腹空いちゃった」
「そうね。それじゃ、またね巴ちゃん」
何とか意識を戻し、手を振ってきたのりに巴もロボットのように手を振る。
「はい、また今度…」
別れの挨拶を交わすと、のりとめぐは巴に背を向けて腕を組んだまま遠ざかっていく。
「めぐちゃん、今日もうちで晩ご飯食べていくでしょう? 何食べたい?」
「う~ん…じゃあ、グラタンが食べたいかな。マカロニの」
「分かった。途中で買い物してくけど、いい?」
「もちろんよ。楽しみだなぁ」
キャッキャウフフ、そんなピンクのオーラを撒き散らしながら小さくなっていく二人。
冷たい北風が吹き、残された巴は風に吹かれながらその場に固まったままだ。
「あれ? 柏葉じゃないか。どうしたんだそんなとこで…ヒィッ!!」
やがてジュンが校門まで来て巴に気付いたが、怒りのオーラを発する巴に恐怖を感じてしまった。
「…許せない…のりさんは私がずっと狙ってたのに…それをいきなり出てきて奪うなんて…許せないわあの泥棒ネコ…」
「柏葉…柏葉、さん…?」
恐る恐る、と言った様子で話し掛けて来たジュンに気が付き、怒りの篭った視線をソレに向ける。
目で殺す、という言葉が事実ならば間違いなくこの視線でジュンは殺されていただろう。
巴はジュンの両肩を掴むと、さっきと変わらぬ視線で目を覗き込んだ。
「ヒッ…! ぼ、僕が何か…」
「…桜田君。これから言う事に正直に答えなさい。嘘吐いたり誤魔化したりしたら私の閻魔刀(=竹刀)が血を吸う事になるわ…」
「は、はい!」
死にたくない一心でジュンは何度も首を縦に振る。
「…一つ。あのめぐとか言う女とのりさんが付き合ってるって言うのは本当? 本当だったらいつ頃から?」
「ほ、本当だ! 確か夏休みぐらいから…」
「夏休み…そんな前から…全然気が付かなかったわ…」
巴の両肩を握る手に力が篭り爪が食い込んでいく。
「い、痛い! 手を離して…!」
「…まだ話は終わっていないわ。あなたや真紅達は誰も反対しなかったの…?」
「べ、別に姉ちゃんの恋愛事情なんて僕も真紅達も関係無い…イタタタタ!」
関係無い、と言った所で更に力が強まる。
「…何で止めなかったの…! 何で私に言わなかったの…!!」
「何でって、わざわざ言う必要も無いかなと思って…!」
「…そう…」
そこで手を離し、ジュンは痛む肩を擦りながらもやっと解放された事に心底安堵した。
しかし巴は肩に下げていた竹刀袋から竹刀を取り出し、腰に構えてジュンを見据える。
約束とは違う巴に、ジュンは恐れをなして後退りしていく。
「安らかに眠るがいいわ…」
「か、柏葉! ちゃんと答えただ…」
「恋路を邪魔する者には死を!!」
ジュンの言う事も聞かず、巴の疾走居合が炸裂しジュンの断末魔が辺り一帯に響き渡った。
―※―※―※―※―
翌日、めぐが昼休みにクラスメートと談笑してると声を掛けられた。
「柿崎さん、他のクラスの人が呼んでるわよ」
「私を?」
クラスメートが指差す方向には確かに黒髪の女生徒が立っていて、彼女は確か昨日校門で会った人物だ。
その女生徒は険しい表情でめぐを睨んでいるように見えて、めぐは少し首を傾げる。
めぐは話していたクラスメートに手を振り、彼女が待っている廊下へと出て行った。
「私を呼んだかしら? えっと、確かあなたはのりの幼馴染の…」
「…柏葉巴、よ。柿崎めぐさん」
名前を覚えていなかったのが癪に障ったのか、一層表情が険しくなる。
「そうそう柏葉さん。それで、何か…」
「…話っていうのは、のりさんの事なんだけど…」
「のり? のりがどうかした?」
「…のり、のりって、あなたのが年下なんだからせめて“さん”付けぐらいしたらどうですか…?」
最初は何で怒っているのか全く分からなかったが、のりについて食って掛かって来る態度を見て、ははあと合点がいった。
つまり、この巴も自分と同じ。違うのは付き合うことが出来たか出来なかった事。
めぐは少しだけ口の端を上げると澄ましたように口を開いた。
「別に良いじゃない。カップルでお互いどう呼び合おうが勝手じゃない」
「親しき仲にも礼儀あり、って言葉知らない?」
「だって会った時からのりって呼んでるのよ。今更変えるのもおかしな話だわ」
「会った時からね…。言っておくけど、あなたより私の方がよっぽどのりさんとの付き合いが長いんだから」
「恋人の座は私が貰ったけどね」
「ぐっ…!」
勝ち誇っためぐの台詞を貰って巴の表情が歪んだ。
だがそれでも巴は口撃を止めようとしない。
「…で、でも、私は昔の可愛い可愛いのりさんの姿を見てるんだから。幼稚園の頃ののりさん、可愛かったなぁ。今でも可愛いけど」
「それなら前にアルバムで見せてもらったわ。確かに可愛かったわね」
「だけど、結局写真でしょう? 私はリアルタイムよ」
「…リアルタイムね…」
どこか勝ち誇ったような巴だが、めぐは大して興味を抱かず聞き流していた。
その態度が気に入らず、巴はカチンと来てめぐの顔を睨む。
「…何よその態度。何とも思わないの?」
「過去は過去、今は今でしょう? 違わない?」
「っ…! ま、負け惜しみね」
「負け惜しみを言ってるのはどっち?」
相変わらず余裕たっぷりのめぐに、巴の血管はブチ切れ寸前だ。
今ここに竹刀を持ってこなかったことを心底後悔していた。
ふと時計を見ると、もうそろそろ昼休みが終わる時間。
こんな不毛な言い争いをしていてもしょうがないと、めぐが勝ち誇った笑みを浮かべて口を開いた。
「じゃあ、あなたは生まれたままの姿をしたのりを見たことある?」
「…生まれたままの…って、な、な、な…!」
めぐの台詞を聞いて、巴の顔が一気に真っ赤になっていった。
それを見て笑みを深くし、更に追撃を行なっていく。
「のりの肌はやわらかくて温かくて…。顔を胸に埋めるだけで天にも昇るような気分だったわ」
うっとりした表情をして巴の顔を覗き見ると、赤かった顔が更に赤くなっていっている。
めぐは頬に手を当てて恍惚とした表情で続けていく。
「手を動かすと可愛い声で『めぐちゃん、めぐちゃん…』って潤んだ目で私を求めてきて…あの時ののり、本当に可愛かったなぁ…」
そこで区切って巴を見ると、顔はこの上なく赤く目は焦点が合っておらず、どこを見ているのか分からない常態になっていた。
この辺にしておいてあげるか、とめぐは巴の肩を叩いた。
「お子様には刺激が強すぎた? ま、そう言う訳だから。それじゃあね」
耳元でそう呟き、意気揚々とクラスに戻っていった。
残された巴は未だに脳がショートし、何も考えられない状態だ。
やがて予鈴が鳴り、巴を探しに来た由奈が見つけて駆け寄ってきた。
「巴、何してるの? もうすぐ授業始まるわよ」
「…のりさんが…のりさんがそんな…」
「…巴?」
「…生まれたままののりさん…裸の…」
刹那、破裂音が鳴り響き大量の鼻血が巴から噴水のように噴き出した。
そのまま巴は後ろへぶっ倒れ、危うく頭を打ち付けるところで由奈に抱きかかえられた。
「と、巴ー!! 誰か保険医の先生呼んでー!!」
「…のりさんが、そんな…すごく、いやらしいです…」
―※―※―※―※―
貧血で部活を休み、フラフラしながら校門に向かうと昨日と同じようにのりが校門に来ていた。
違うのは、既にめぐがのりと一緒にいるところだ。
人目も気にせずイチャイチャするな、そんな事を思いながら校門に向かう。
「あら、巴ちゃん。…どうしたの? 顔色悪そうだけど…」
「いえ…大丈夫です…」
ふとめぐを見ると、見せ付けるかのようにのりと腕を組んで密着度を高めてニヤニヤと笑みを浮かべている。
それにカチンと来て、巴は真剣な表情になるとキッとのりの目を覗き込んだ。
「…私、諦めませんから」
「え?」
「いつか、必ず私に振り向かせてみせますから。…それじゃのりさん、柿崎さん、失礼します」
宣戦布告、そんな台詞を吐いて毅然とした態度でその場を後にした。
残されたのりは頭にハテナマークを浮かべて巴の後姿を見つめる。
「どういう意味…? めぐちゃん分かる?」
「さあ。のりは深く考えなくいて良いわよ。それより、早く帰りましょう」
めぐがのりの手を握ったまま先に歩き出し、それにつられる様にしてのりも歩き始めた。
その手の感触を感じながら、さっきの巴に心の中で返答する。
(奪える物なら奪ってみなさい。その勝負、受けて立つわ)
と。
ちなみに、めぐが巴に言ったのりのエッチな話は今の所フィクションである。
想像しての内容だったが、巴には効果てきめんだったようだ。
そしてこれがノンフィクションになるのは、もう少し先の話…。
終わり