僕達は小さなテーブルを囲んで座っていた。
部屋の隅には白いクリスマスツリー、テーブルの上にはシンプルなショートケーキ。どちらも彼女の好みだ。
天井の照明は落としてあって、
僕達の姿を照らすものはそれらを飾るささやかなイルミネーションと蝋燭の炎のみだった。
彼女は先程から顔を横に向けてずっと窓の外の暗闇を見ている。そして僕はずっと彼女の横顔を見ていた。
「さっきから外ばかり見ているね。もう夜なんだから何も見えはしないさ。」
「あぁ、ごめんなさい。なんだか今夜は…雪が降る気がして。」
そう言って彼女…雪華綺晶は微かに笑みを浮かべた。
「…君が言うと本当に降って来そうだね。
でもそうやって見ていたからってどうにもならないだろう?今は二人の時間を楽しまない?」
「ふふ。寂しい思いをさせてしまったでしょうか。紅茶が冷めてしまったようだし、淹れ直してきますね。」
彼女はティーポットを持ってキッチンへと行ってしまった。
僕は彼女がしていたように窓の外に視線を投げかけた。
いくら目を凝らしても、光一つ見ることはできなかった。
部屋の隅には白いクリスマスツリー、テーブルの上にはシンプルなショートケーキ。どちらも彼女の好みだ。
天井の照明は落としてあって、
僕達の姿を照らすものはそれらを飾るささやかなイルミネーションと蝋燭の炎のみだった。
彼女は先程から顔を横に向けてずっと窓の外の暗闇を見ている。そして僕はずっと彼女の横顔を見ていた。
「さっきから外ばかり見ているね。もう夜なんだから何も見えはしないさ。」
「あぁ、ごめんなさい。なんだか今夜は…雪が降る気がして。」
そう言って彼女…雪華綺晶は微かに笑みを浮かべた。
「…君が言うと本当に降って来そうだね。
でもそうやって見ていたからってどうにもならないだろう?今は二人の時間を楽しまない?」
「ふふ。寂しい思いをさせてしまったでしょうか。紅茶が冷めてしまったようだし、淹れ直してきますね。」
彼女はティーポットを持ってキッチンへと行ってしまった。
僕は彼女がしていたように窓の外に視線を投げかけた。
いくら目を凝らしても、光一つ見ることはできなかった。
僕はあまり生クリームが得意じゃない。ショートケーキを口に運びながら思った。
ふわっと消えてしまうような感触やほのかな甘みは嫌いじゃない。むしろ好きな方だ。
ただ何故か食べているうちに頭の真ん中辺りに鈍い痛みが込み上げてくるのだ。
それは吐き気を伴って肥大化していく。
チョコレートクリームやカスタードクリームでは絶対にならない症状。
夜闇に慣れた目がいきなり太陽光を浴びた時の感覚にも似ている、と思った。
或いは空中を漂ううちに溶けて形を失い、地面に叩きつけられてしぶきを上げる雪の結晶。
下らない妄想だ。詩人にでもなったつもりか。思わず溜息を吐いた。
「蒼星石。窓の外を。」
いけない。雪華綺晶をたしなめておいて、自分が物思いに耽ってるじゃないか。
軽い自己嫌悪に陥りながら目を向けると、
「雪…」
無数の小さな白い華が風に揺られて踊っていた。
「やっぱり降りましたね。」
彼女が得意気にこちらを見る。
そうか。さっき星の一つも見えなかったのは曇っていたからだったのか。
ふわっと消えてしまうような感触やほのかな甘みは嫌いじゃない。むしろ好きな方だ。
ただ何故か食べているうちに頭の真ん中辺りに鈍い痛みが込み上げてくるのだ。
それは吐き気を伴って肥大化していく。
チョコレートクリームやカスタードクリームでは絶対にならない症状。
夜闇に慣れた目がいきなり太陽光を浴びた時の感覚にも似ている、と思った。
或いは空中を漂ううちに溶けて形を失い、地面に叩きつけられてしぶきを上げる雪の結晶。
下らない妄想だ。詩人にでもなったつもりか。思わず溜息を吐いた。
「蒼星石。窓の外を。」
いけない。雪華綺晶をたしなめておいて、自分が物思いに耽ってるじゃないか。
軽い自己嫌悪に陥りながら目を向けると、
「雪…」
無数の小さな白い華が風に揺られて踊っていた。
「やっぱり降りましたね。」
彼女が得意気にこちらを見る。
そうか。さっき星の一つも見えなかったのは曇っていたからだったのか。
「綺麗…だね。」
「ええ。言葉に出してしまうのが勿体無いくらいに。」
「でも…短い命だよね。宙を舞っている間だけ、一度地面についてしまえば泥に塗れるばかりだ。
今は僕達から地面が見えないから、美しい所だけが見えているだけさ。」
まるで人と人との繋がりみたいだ、ふとそう思ったが、口には出せなかった。
僕達がそうだとは思いたくなかった。
「…そうでしょうか?雪は時に地面を優しく覆うものですよ。そして私達の心も温めてくれます。」
その言葉が何を意味しているのかはよく分からなかった。でも、彼女の瞳には戸惑いの色が混じっていて、
「何だか余計な心配かけちゃったみたいだ。ごめんね。」
「いえ。蒼星石が笑顔で居られることが私にとっても幸せですから。」
「…優しいね。雪華綺晶は。」
「ええ。言葉に出してしまうのが勿体無いくらいに。」
「でも…短い命だよね。宙を舞っている間だけ、一度地面についてしまえば泥に塗れるばかりだ。
今は僕達から地面が見えないから、美しい所だけが見えているだけさ。」
まるで人と人との繋がりみたいだ、ふとそう思ったが、口には出せなかった。
僕達がそうだとは思いたくなかった。
「…そうでしょうか?雪は時に地面を優しく覆うものですよ。そして私達の心も温めてくれます。」
その言葉が何を意味しているのかはよく分からなかった。でも、彼女の瞳には戸惑いの色が混じっていて、
「何だか余計な心配かけちゃったみたいだ。ごめんね。」
「いえ。蒼星石が笑顔で居られることが私にとっても幸せですから。」
「…優しいね。雪華綺晶は。」
「…雪、止んじゃったみたいですね。」
「ああ、本当だ。丁度いい頃合だし、そろそろ帰ろうかな。」
もしかしたら…もしかしたら、今外に出れば、一面に広がる白銀を見られるかもしれない。
足を動かすたびに小気味いい音を立てて、僕の心を躍らせてくれるかもしれない。
いつまでも雪華綺晶を愛せるだけの、眩い光を正面から受け止められるだけの心を持てるようになるかもしれない。
ドアノブに手をかける。
「蒼星石。」
「何?」
「メリークリスマス。」
優しさに満ちた笑顔だった。
僕も笑顔でそれに応える。扉を開いた。
「ああ、本当だ。丁度いい頃合だし、そろそろ帰ろうかな。」
もしかしたら…もしかしたら、今外に出れば、一面に広がる白銀を見られるかもしれない。
足を動かすたびに小気味いい音を立てて、僕の心を躍らせてくれるかもしれない。
いつまでも雪華綺晶を愛せるだけの、眩い光を正面から受け止められるだけの心を持てるようになるかもしれない。
ドアノブに手をかける。
「蒼星石。」
「何?」
「メリークリスマス。」
優しさに満ちた笑顔だった。
僕も笑顔でそれに応える。扉を開いた。
(了)