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明日はバレンタイン

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rozen-yuri

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だれでも歓迎! 編集

「出来た…」
 顔や手にチョコを付け、半日掛かりで作り上げたそれを見てめぐは溜息を吐いた。
 明日はバレンタイン、それでのりへのバレンタインプレゼントを作っていた所だ。
 作ったのは生地にチョコを混ぜ込んだチョコレートカップケーキ。
 あれこれ試行錯誤を繰り返し、試作品を幾つも作っては作り直し、やっと納得の行く物が出来上がった。
「…やっと出来たぁ…?」
 声を掛けられて振り向くと、ゲンナリした様子の水銀燈がテーブルに突っ伏している。
 その様子を気にするでもなく、めぐは満足げに微笑む。
「ええ、納得の行くのが出来たわ」
「そう、良かったわね…」
「良かったら食べる? 一つぐらいならあげるわよ?」
 出来上がったケーキを一つ摘まんで水銀燈に見せてみせるが、水銀燈はそれに全力で首を横に振る。
「冗談! もう一ヶ月ぐらい甘いものなんて食べる気しないわぁ!」
 水銀燈はこの半日、試作品をいくつも試食させられていた。
 最初の方は割りと美味しく楽しんでいたが、ずっと続けば当然苦しくなってくる。そして今はもう限界状態だ。
 めぐはその様子を見て、苦笑いを浮かべケーキを元に戻した。
 それからケーキをラッピングして冷蔵庫に入れて片づけに取り掛かった。
(のり、喜んでくれるかな…)
 そんな事を思いながら。

―※―※―※―※―

 翌日。
 当然授業なんて手に付くはずも無く、学校が終わるのが待ち遠しくてソワソワしたままだ。
 そのまま一日分の授業を無駄に流して、やっと一日分の授業が終わった。
 確か今日はのりも部活が無いから迎えに来てくれるはず。
 少し早足で校門へ行くと、想像通りのりが迎えに来てくれていた。
 弾む思いでのりのもとへ足を早めると向こうもこっちに気が付いて微笑んだ。
「待った?」
「ううん。ちょっと前に来た所だから」
「ありがと、迎えに来てくれて。…あら、それ…」
 ふと見ると、のりの手に学生鞄とは違う少し小さめの紙袋が提げられているのに気が付いた。
 のりもその様子を見て、ああと口を開いた。
「これ、学校の友達から貰ったのよ。いわゆる友チョコ、ってやつかな」
「友チョコ…ねえ…」
 のりの無邪気な言葉とは裏腹に、めぐは紙袋の中のラッピングされた包みを見て少し心に黒い靄が掛かるような気がした。
 のりは鈍感だから気が付いて無いだろうが、のりはこう見えて男女関わらず結構もてる。
 この貰ったチョコもいくつかは本命の物だろう、ラッピングの繊細さからはそう感じ取れた。
「あっ、のりさん!」
 溜息を心の中で付いたと同時に後ろから声が聞こえて来てその方を見ると、巴がはにかんだ笑顔で向かって来ている。
 あんな笑顔を誰かに向けているのは見たことが無い。
 巴はそのまま二人の間に割り込んでのりと向き合い、めぐは後へ追いやられてしまった。

「あの、のりさんその…これ、どうぞ!」
 そう言って差し出したのは、めぐの予想通りラッピングされた包み。
 差し出されたのりは一瞬驚いたような表情を浮かべたものの、すぐ笑顔になってそれを受け取った。
「ありがとう、巴ちゃん。嬉しいわ」
「いえ、そんな…。喜んでもらえて嬉しいです」
 のりの表情は純粋に嬉しそうで、巴も恥ずかしながらも喜んでいる。…見ていて面白くない。
 これ以上良い雰囲気にさせてたまるかと、ワザとらしくのりの腕に抱きつくと巴の表情が一瞬凍りついた。
「のり、そろそろ帰りましょうよ。暗くなっちゃうわよ」
「あ、うんそうね。それじゃあね、巴ちゃん」
 驚いた様子ののりだったが、めぐの言う事に納得して巴に手を振った。
「ええ…それではまた、のりさん。…それと柿崎さん」
「じゃあね、バイバイ柏葉さん」
 二人の間に見えない火花を散らす事数秒。
 めぐが先にのりをリードするように歩き出しそこを後にした。

「…嬉しそうね、チョコ貰って」
 歩き始めて数分後、めぐは少し拗ね気味で口を開いた。
 のりはその様子に気付く様子も無く、笑顔で答えた。
「まあ、貰って嫌な気はしないしね」
「…そ」
 屈託の無い笑顔。それがますますめぐを面白くなくさせる。
 あれほど待ち侘びていた今の時間が何だか虚しくなってしまった。
 恋人が人気者なのは嬉しいが、同時に嫉妬が働いてしまう。
 そんな自分に気が付き、心の中で何度目かの溜息を吐いた。

―※―※―※―※―

 結局それからあまり楽しい気分になれないままのりの家に着き、のりの部屋に通されても気は晴れなかった。
「じゃあコーヒーでも淹れて来るから、ちょっと待っててね」
「うん」
 そう言ってのりは部屋を出て行き、後にはめぐだけが残される。
 一人になっためぐはそのままベッドに背をもたれさせて天井を仰いだ。
(素直に喜んじゃって…のりのバカ…)
 巴から包みを貰った時ののりの笑顔が目の前に浮かんで、やれやれと思う。
 あの純粋で優しい性格に惚れたのだが、同時に自分にだけ笑顔や素直さを見せて欲しいという欲求が渦を巻く。
 唯のワガママ、と言えばそれだけだが。
 そうモヤモヤしているとノックが聞こえ、返事をするとお盆と小さな紙袋を持ったのりが部屋に戻って来た。
「お待たせ。はい、コーヒー」
「う、うん…」
 持ってきた紙袋に目が少し行きつつも、差し出されたコーヒーカップを受け取る。
 さっきまでクサクサしていたのに、紙袋で少しドキドキしてしまう。
 コーヒーに砂糖を入れて一口啜ると、のりもその視線に気付いたのか少し顔を赤らめて紙袋を差し出してきた。
「めぐちゃん、はい。バレンタインのプレゼント」
「あ、ありがとう」
 差し出された紙袋を受け取ると、何だかんだ言って結局嬉しい。我ながら現金だ。
 それを脇に置き、今度は自分の包みを差し出した。
「じゃあお返しに、バレンタイン」
「わあ、ありがとう。嬉しいなぁ」
 のりは満面の笑みを浮かべてそれを受け取ってくれた。
 しかしその笑顔を見て、巴に浮かべていた笑顔がフラッシュバックされて一瞬苦い思いがした。

「開けてみても良い?」
 その質問に、めぐは少し照れながらも頷いた。
 それを確認するとそれを開け、中身を見ると驚いたような、そして嬉しそうな表情を浮かべる。
「チョコケーキ…作ってくれたの?」
「うん。綺麗なのを選んだつもりだけど、どうかな?」
「すごく美味しそうよ。食べても良い?」
「良いよ、食べてみて」
 めぐは頷き、のりは中から一つケーキを取り出してそれを一口食べる。
 しっかり味わうように咀嚼して飲み込むと、笑顔でこっちを向いて来た。
「美味しい」
「本当?」
「ええ、本当に美味しいわよ」
 嘘を含んでないその笑顔に、めぐの緊張感が少し解ける。
 正直言って料理の腕ではのりには到底及ばないと思っている。
 それだけに昨日はより気合を入れて取り組んだのだ。
 それからのりはケーキを食べ終えコーヒーを一口飲むと、少し真面目な表情に戻った。
「そういえばさ」
「何?」
「今日帰るとき、めぐちゃん…怒ってなかった?」
 不意にあの時の事を尋ねられて、一瞬驚いた。
「何だかそう見えたんだけど…私、何かしたかな…?」
 心配そうなのりの表情…鈍感なんだか敏感なんだか、よく分からない。
 めぐは少し呆れたような溜息を吐き、コーヒーを一口飲んだ。

「…正直言うとさ、のりが他の人からチョコ貰ったりするのはあまり面白くなかった」
 溜息混じりにそう前置きして話し始める。
「友チョコを貰ったって言った時も、柏葉さんからチョコを貰った時も…正直、少し辛かった」
 ポツリポツリと呟くように、めぐは続けていく。
「のりがみんなに優しいのは知ってる。…けど…私って意外と独占欲強いみたいでさ…」
「……」
「…何だかおかしいよね。みんなに優しくて素直なのりが好きなのに…その優しさも笑顔も、他の人には向けないで欲しいって…」
 一気に喋ったことで喉が少し渇き、コーヒーを飲むといつの間にか大分冷めてしまっていた。
「ずっとそれで拗ねてて…のりと、そんな自分にもイライラしちゃって…ごめん」
 のりの目を見て軽く頭を下げると、カップを握っている手をそっと握られた。
 見てみるとのりも真面目な表情で自分を見つめているのが目に入った。
「ううん…私の方こそ、無神経でごめんね…。めぐちゃんの気持ちも考えないで…」
 持っていたカップをテーブルの上にどかされると、そのまま抱き寄せられて二人の息が掛かるほど距離が縮まった。
「…でもね、私は他の誰から貰った時よりも、めぐちゃんから貰った時の方が凄く嬉しかった」
 耳元で囁かれるように話し始め、それをしっかり聞いていく。
「どんなにたくさんの人から貰っても、もしめぐちゃんから貰えなかったら凄く悲しかったと思う。…本当に」
「うん…」
「私はね、他の誰よりもめぐちゃんからのチョコを楽しみにしてたわよ。…昨日からずっとね」
 少しはにかんだような表情を見せて、それにめぐも少しフッと笑う。
 言いたい事を全部吐き出したのと、のりの話を聞いた事でいつの間にか心の中の靄は全部消えていた。
 のりの首に腕回し、それでお互いしっかり見詰め合う体勢になってのりの目に自分の顔が見えるぐらいだ。
「…鈍感な恋人を持つと苦労するよ」
「苦労させてごめんね」

 数秒ほど見つめ合い、そのまま顔を近付けて唇と唇を重ね合わせる。
 やわらかくて温かく、さっきのケーキで少し甘い唇を食べるように何度もついばむ。
 チュ、チュ、と音を立ててキスをし、このまま先へ行こうと舌をのりの口に伸ばそうとした。
『のりー、お腹空いたのー!』
 だがその瞬間に部屋の外から雛苺の声と足音が聞こえて来て、思わず二人とも一気に体を離してしまった。
 それとほぼ同時に扉が叩かれ始め、二人とも真っ赤な顔のまま息を整えようと唾を飲む。
「ちょ、ちょっと待ってねヒナちゃん、今から晩ご飯の用意するから…」
『うゆ、分かったのー』
 息も絶え絶えにのりがそう言うとドアを叩くのも止み、足音が少しずつ小さくなっていった。
 二人とも顔を見合わせ、苦笑いを浮かべて肩を竦める。
「…ビックリしちゃったね…」
「そう、ね…」
 あと少しで先まで行けたのに、と溜息を吐いてうな垂れる。
 そんなふうにしょげていると不意にのりの唇が頬に触れて、見上げるとまだ少し頬が赤いのりと目が合った。
「続きは夜に、ね…」
 そう言うとのりは先に部屋を出て行き、残されためぐはやれやれと肩を竦める。
「…何だか、今日はのりに振り回されっぱなしね…」
 とは言うものの満更でもなく、めぐは父親に“今日のりの家に泊まってくから”とメールを打ち始めた。

終わり

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