勇者の強さ、人の弱さ ◆iDqvc5TpTI
かちこちと、かちこちと。
進むは秒針、刻むは時間。
ゆらゆらと、ゆらゆらと。
揺れるは心、鈍るは信念。
俺はどうすればいい……。
当初の目的である北の城を目指し、南東の城を後にしてからずっと、
カエルは俯き悩み続けていた。
自分が想像してしまった最悪の可能性――即ち
エイラの死に伴う時空改変についてを。
それはほんのわずかな可能性。
今まで度重なる過去への干渉を行ってきたが、自らを含むガルディア王国の存在が揺るがされたことは一度たりともないのだから。
しかしである。
1%とといえど、その確率があるのなら。
カエルには到底無視できるものでは無かった。
全てが、消える?
友が命を賭けて守った王国も、彼と築いた想い出も、自身が護りたかったものも全て?
全てが全て、輝かしい時間では無い。
カエルと化した身が象徴するように、友との死別を初め辛く苦いことも多々あった。
一時は酒に溺れ、大事な友の形見を手放したこともあるくらいだ。
それでも。
手に握られたバイアネットの刀身が震える。
いや、震えているのは己が腕だ。
失いたくはないと思ってしまう己が心だ。
いつも道を示してくれた友はもう居ない。
常に皆を引っ張って来た青年も傍らには居ない。
手を汚すか、汚さないか。
決めるのは俺の……意思……!
俺は、俺は、俺はーーー!!
エイラは心身ともに強い。
簡単に遅れをとるとは思わない。
だったら俺が考えていることは杞憂なのでは?
本当にそうか?
名簿にはあの魔王の名も載っていた。
あいつなら目的のために優勝を目指すことも厭わない。
魔法が相手ではエイラも分が悪い筈だ。
俺の存在が消えていないのだから、現時点では無事だろうが。
待て、オディオはわざわざ殺し合いをさせる為に集めたのだ。
万一エイラが死亡したところで、他参加者が連鎖的に消滅したりしないよう何らかの手を打っていてもおかしくない。
それどころか俺が優勝し、エイラを生き返らせたという未来が反映され、結果、歴史が変動せず、俺も健在だすれば。
もう何度目になるか分らない思考のループに突入しかけた時、カエルは見た。
隣を歩む
ストレイボウの手に、馴染み深いものが握られているのを。
そのアイテムを目にして、カエルの覚悟は決まった。
歯がゆかった。
シュウ達と接触して以来、カエルの様子がおかしいことはストレイボウにも分っていた。
彼は嘘と欺瞞に満ちていた自分とは違い真っ直ぐな人間ならぬ蛙のようで、表情にありありと考えていることが出ているからだ。
大本の原因は分かっている。
名簿だ。
そこには彼の本当に大切な仲間の名前が書かれていたという。
なら、驚き、心配するのは当然だ。
あくまでも推測にしか過ぎないが、カエルは今にでも仲間達の元へと走り出したいのかもしれない。
苦悩する彼にかける言葉を持ち合わせていない自分が何よりも情けなかった。
分らないのだ、何と言って勇気づければいいのか。
知らないのだ、友を傷つける言葉しか。
いつもいつもいつもいつも。
自分が抱いていたのはオルステッドへの嫉妬と逆恨みの感情だけで。
真に彼を労わって声をかけたことなんて一度もなかったのだから。
どれだけ努力しても自分はオルステッドを超えられない。
誰もがオルステッドの方を見て自分の方には目などくれない。
欲しいものを全てを奴は持っていってしまう。
地位も、名誉も、姫の心も、全て、全て、全て。
そんなどす黒い負の念に染まった俺が、カエルの奴の心をどうすれば少しでも軽くできるというのだろうか。
ギリリッ。
自責の念にかられ、歯を食いしばり、手を強く握り締める。
と、カエルがこちらを見ているのに気付く。
いや、正確には手持無沙汰な自身の心の慰めに掌の中で転がしていた例のマジックアイテム、どう見てもただのバッジにしか見えないそれをだ。
「ストレイボウ、その手に持っているものは?」
「ああ、これか。なんだろな、支給品なんだが」
剣のことでばつが悪いとは思いつつも、俯きっぱなしだったカエルが興味を持ってくれたことが嬉しくて聞いてみる。
こんななんてことの無いバッジがきっかけで少しでもこいつが元気を取り戻してくれるなら、俺の意地なんてお安いものだ。
けれど、
「……勇者バッジ」
返ってきたのは予想外の答えで。
聞かされた名前に含まれたその言葉に呆然と意味に呆然としてしまう。
勇者、だと?
「ストレイボウ、覚えていてくれ。そいつは勇者バッジ。勇者の証と言われるものだ」
「嘘、だろ? こんなおもちゃみたいなバッジが、勇者の証、だって?」
「ふっ、信じられないかもしれないがな。そのバッジは勇者の剣に力を与えてくれる」
俺を見返すカエルの顔はどこまでも真剣で、冗談を言っているわけでは無いのを理解する。
重い。
数刻前まではなんてことの無かったバッジが、今は俺の手には重すぎる。
お前はこんな重圧を背負って、魔王山へと向かっていたのか、オルステッド!
「待て、これを知っているということはお前に縁があるもんなんだろ、だったら!」
やはり俺は変わることなんてできないのか。
それは建前として口にしているような善意だけによるものでは無い。
剣とバッジ、二つに課された重さに打ちひしがれていた俺は少しでも楽になりたかった。
押しつけようとしたのだ。
ふつふつと心の奥底で暗い自己嫌悪の炎が煮えたぎりだし、
「いや……。これからの俺にそれを持つ資格は無い」
またしてもカエルより返された思わぬ返答に一瞬にして鎮火された。
俺のようにあいつにも後ろめたいことがあるのだろうか?
即座に否定する。
カエルは『これからの』と言った。
まさか、あいつは、本当にシュウが言ったように!?
疑うまいとしていた弱き心は、付きつけられた現実を前にもう根を上げる。
後は役立たずと化すのみだった。
「カエル? まさか、お前!?」
「……グレンだ」
強い意思の籠った言の葉をぶつけられた弱い俺の心は圧され黙っていることしかできない。
動くことすら忘れた俺を背に、カエルは歩く速度を上げる。
一歩。
大きく前へと踏み出す。
「俺は、かってを失い、だからこそ多くの物を手に入れた今と決別する!!
己が意思で、友のため、王妃のため、国のため、騎士として、否、ただのグレンとして」
二歩。
腕に掲げた特異な剣を、騎士の宣誓のように天へと突き立てる。
「邪悪なる魔王オディオを倒すよりも、俺の全てを守る戦いを優先する!!」
三歩、四歩、五歩。
そのまま奴は駆けだして行く。
一度も振り返ることなく。
赤いマントを翻す異形の騎士にして、新たなる友は。
――罪滅ぼしのためでは無く、お前の意思で友を救えよ
その友が魔王オディオのことだとも知らずに。
最後にそう別れを告げて。
俺の元を、去った。
【I-9 城より西 一日目 早朝】
【ストレイボウ@
LIVE A LIVE】
[状態]:健康、呆然
[装備]:なし
[道具]:ブライオン、勇者バッジ、基本支給品一式
[思考]
基本:魔王オディオを倒す
1:カエ、ル?
2:戦力を増強しつつ、北の城へ。
3:勇者バッジとブライオンが“重い”
参戦時期:最終編
※アキラの名前と顔を知っています。
※アキラ以外の最終編参加キャラも顔は知っているかもしれません(名前は知りません)。
優先すべきは魔王の打破ではなく、エイラの生存。
故に選んだ手段は殺し合いを行う気のある者の駆逐。
それが例え不本意ながらの行動だとしても、加減はしない。
彼らを排除して行けば、エイラの身に及ぶ危険は減っていく。
まず向かう先は、煙の昇る西の方角だ。
火の無い所に煙は立たぬ。
危険人物がいる可能性は高い。
この選択自体は間違っているとは思わない。
だがしかし、全てがエイラを守るためだというのなら。
放送で彼女の名が呼ばれた時、或いは、誰一人死なずにその時を迎え皆の首輪が爆破されんとしたら、俺は……。
だから、ストレイボウとは一緒には居たくなかった。
あいつは、言葉の届かない場所に行ってしまった友に詫び続け、逃げたことを悔い続けた、かっての自分自身なのだから。
願うのなら。
願ってもいいのなら。
ストレイボウには彼の友を救って欲しいと、カエルは平野を疾走しつつ思う。
勇者バッジを託したのは騎士の誇りとの決別としての意味もあるが、純粋に彼の進む道を照らして欲しいという気持ちもあった。
俺はもう歩けないかもしれぬ正しき道を、だ。
「サイラスよ、俺は行く。許せとは言わない。せめてものはなむけに魔王はここで討とう」
――長い時間をかけてえたお前の強さは本物のはずだ……
幻聴だろうか?
聞こえてきた友の声に自嘲する。
本物なものか。本物なものか、サイラス!
国を、リーネ様を守るといいながらも、未だに戻れる位置に未練たらしくぎりぎりで踏みとどまっているのが何よりの証拠。
エイラの、仲間の強さも信じられず、全てを捨て切ることもできずに。
放送で彼女の名が呼ばれないことを、俺が間違った道に進まないでいいことを心の底では望んでいる。
俺は、弱い……。
【I-9 西】
【カエル@クロノトリガー】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:バイアネット(射撃残弾7)、バレットチャージ1個(アーム共用、アーム残弾のみ回復可能)、基本支給品一式
[思考]
基本:エイラを最終的に生存させる
1:火の手の上がる西の方角へ。
2:殺し合いに乗っている人物の排除。
3:エイラの名が放送で呼ばれるか、死亡確認、更には死者が出ない状況が二十四時間続いた場合は……
4:できればストレイボウには彼の友を救って欲しい
参戦時期:シルバード入手後・グランドリオン未解放のどこか。他は後の人にお任せします。
※エイラが死んだら、王国が消滅するかもしれないと思っています。
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最終更新:2010年06月27日 21:32