心の行き着く先 ◆6XQgLQ9rNg
星たちが散らばる天空が、目も覚めるような蒼穹に塗り替えられていく。
浮かんでいる雲は白く、回遊する鯨を思わせるほどに雄大だった。
朝の空気に微かな焦げ臭さが入り混じる。
とはいえ悪臭というほどに強烈ではない以上、さほど気にはならなかった。
既に鎮火し、立ち上っていた煙も薄くか細くなっていて、すぐに消え行くだろう。
焼け焦げた草花の中心に、ぼろぼろになったハーレーが横倒しになっている。
残骸のそばにしゃがみ込み、使えそうな部品がないか探していたシュウが手を止めたのは、声が唐突に響き渡ったからだ。
それは、魔王の声音。この殺し合いが始まってから、六時間の経過を示すものだ。
表情を変えずに、地図を取り出した。
告げられていく禁止エリアの場所、時間を書き記していく。
そして、続けられる声を耳にする。
一番最初に告げられた名は、よく知ったものだった。
リーザ。
それは、リーザ・フローラ・メラノに相違ないだろう。
無表情だったシュウの眉間に、皺が寄る。
睨み付けるように見上げた空は、嫌味なほどに澄み渡っていた。
自分やエルク、トッシュに比べれば、彼女の戦闘能力は決して高くはない。
とはいえ、だ。
共に多くの死地を潜り抜けてきた仲間である彼女が、そう簡単に殺されるとは思えなかった。
この発表が虚偽の可能性が、ふと脳裏を過ぎる。
これはあくまで『ここで殺し合いが行われている』ということに真実味を持たせ、参加者の恐怖や不安、絶望感を煽り上げるためのハッタリではないのだろうか。
そんな思考を許さないように、魔王の声は告げていく。
そのいくつかを、シュウは知っている。
トルネコ、アリーナ、レイ・クウゴ、リルカ・エレニアック。
直接の知り合いではないが、打倒魔王の力になってくれそうな者たちの名だ。
もしもオディオが事実だけを告げているのならば、もたもたしてなどいられない。
オディオの言のごとく、憎悪や怨恨を燃え滾らせた者が増えれば、それだけ殺し合いは加速するだろう。
――あいつは、大丈夫だろうか。
ふと過ぎった心配の種は、炎使いの少年のことだ。
真偽はどうあれ、リーザの死を告げられたら、あの激情家は落ち着いてなどいられないに決まっている。
もし、『エルク』という人物がシュウのよく知る少年だとすれば、急いで合流しなければならない。
もう少しハーレーの残骸を調べたいところだが、まずはマリアベルたちと落ち合うべきだろう。
彼女らも仲間の名を呼ばれている。取り乱しはしないとは思うが、心配なことに変わりはない。
踵を返し、爆発点から立ち去ろうとして――。
シュウは、一つの影を発見する。
◆◆
石製の建物のとある一室には、ベッドがいくつも並んでいる。
宿として使われていたらしいその建物の中、ベッドの上に、二つの人影が並んで腰掛けていた。
オディオの声が過ぎ去って、数分。
静けさに満ちていた石の部屋に、小さな声がぽつりと生まれた。
「アリーナさんは、明るくて、前向きで、強い方でした。
一国の姫君だというのに、少しも気取らなくて、とても魅力に溢れた女性でした」
訥々と語るのは、豊かな桃色の長髪と、尖った耳が印象的な女性だ。
エルフであるロザリーが、俯き加減で語るのは、人間のこと。
「トルネコさんは、面白くて、お話が上手で、優しい方でした。
彼の周りにいるだけで、思わず楽しい気分になってしまう、素敵な男性でした」
全てが過去形で語られる言葉は、物悲しく沈痛だった。
その声を、緑髪の愛らしい少女は黙って聞いている。
手の中にあるクレストグラフが、やけに冷たくて硬かった。
「二人だけじゃありません。あのとき、蘇生を試みたクリフトさんだって、とても素晴らしい方でした。
なのに、なのに……っ!」
寒さに凍えているかのように自身を掻き抱くロザリーの手が、小刻みに震えていた。
その小さな唇は戦慄いていて、途切れたままの声の、続きを産み落とさない。
少しだけ迷ってから、ニノはおずおずと、自身の手をロザリーの手に重ねる。
ニノの方が安心感を覚えてしまうくらいに、ロザリーは温かくて柔らかかった。
エルフの女性が、手を握り返してくる。応じるように、指の力を少しだけ強くしてやる。
すると、悲痛に、悔しげに、ロザリーは、呟いた。
「涙、出ないんです。一滴も……」
ニノはちらりと、ロザリーの瞳を見る。ルビーの涙は、少しも落ちてはいなかった。
それでも、少女は手を離さない。
「私は、最低です……」
続けるロザリーの声に、ニノは首を横に振って応じた。
同意するつもりなど欠片もない。
ロザリーの声が、横顔が、瞳が、深い哀しみに沈んでいるのが分かる。
涙など落とさなくても、ロザリーが胸のうちに深く濃い悲しみを湛えていると、分かっている。
「そんなことない。今のロザリーさん見て、最低なんて誰も思いっこないよ」
だから言う。嘘偽りのない本心を、真っ直ぐに告げる。
繋いだ手は離さない。痛いくらいの力が返ってきても、構わない。
その手からも、想いを伝えたかったから。
今度はロザリーが、首を横に振っていた。
「だって、だって、私は……思ってしまったんです!」
弾かれたように、ロザリーの顔が上がる。
その美しい容貌はくしゃりと歪んでいて、今にも泣き出しそうなのに、彼女は、涙を湛えてはいなかった。
痛々しさすら感じられる表情から、ニノは目を背けない。
「多くの方が亡くなったのに!
素晴らしい方々や、サンダウンさんにマリアベルさん、シュウさんのお仲間が命を落とされてしまったのに!
私は、私は……ッ!」
堰を切ったように、ロザリーはまくし立てる。
その感情の出所がどこで、源泉が何なのか。
どんなことを想い、感じ、抱き、何を言おうとしているのか。
なんとなく、察しがついた。
「ピサロ様のお名前が呼ばれなかったことに、安堵してしまいました……。
それが嬉しくて、堪らなく安心できて、亡くなってしまった方々へ、涙を流すことすら叶わないのです……!」
懺悔するように、心情を吐露していく。
あまりに馬鹿正直なその態度のロザリーを、ニノは責められなかった。
手にロザリーの爪が食い込んでくる。その痛みに、ニノは逆らわない。
何故ならば。
「……あたしも、同じだよ」
ロザリーが言いたかったことを察せたのは、ニノが胸の奥で、同じことを思っていたからだ。
だからこそ。
罪悪感を帯びたロザリーの視線から目を背けない。
背けるつもりもない。背けたいなど、思うはずもない。
彼女が抱いている罪悪感を、共有できるのは、きっと自分だけだから。
目を見開いたロザリーに、ニノは小さく頷いた。
「正直、あたしもホッとしちゃったんだ。
フロリーナも、リンも、ヘクトルも、あたしの知ってる人じゃないかもしれないけど、エルクも。
そして誰より、ジャファルも。
みんな、みんな無事なんだって分かって、すごくホッとした」
心からの安心感を吐き出すように、ニノは溜息を漏らす。
それは、仲間たちが無事だったことへの安心感だけがもたらしたものではない。
「不謹慎だけどさ、安心してるのがあたしだけじゃなくて、嬉しかった」
「ニノさん……」
ニノが目を細めると、ロザリーの表情が少しだけ和らぎ、手を握る力が緩まっていく。
同じ罪の意識を共有することで、肩に圧し掛かる罪の重みを軽くしようとする。
それは傷の舐め合いでしかない。罪を正面から受け止められない、弱さの証明だ。
だとしても、彼女らを責める権利は、誰にもない。
大切な人たちの無事を願い、望み、喜ぶことは、決して、許されざる罪悪などではないのだから。
◆◆
太陽が昇り、日差しが徐々に強くなっていく。
明るさを増していく世界を、城下町にある宿屋のロビーから、奇妙な着ぐるみが眺めている。
着ぐるみの中、マリアベル・アーミティッジは、不機嫌そうに眉根を寄せていた。
苦手な日光に恨み言を漏らそうとしているわけではない。
今はもう聞こえない、魔王オディオの声。
その憎悪に溢れた音によって告げられた死者の名が、頭の中をぐるぐると回っていた。
隣室から、ニノとロザリーの話し声が微かに届いてくる。
それを聞かないようにして、マリアベルは振り返った。
椅子に、一人の男が座っている。
彼――サンダウン・キッドは、テンガロンハットを深く被り、俯いていた。
二人の間に会話はない。
サンダウンという男が、もともと寡黙なのだということは既に理解していた。
マリアベルは知っている。
一人ぼっちで自分の内に全てを溜め込むことの辛さと、無意味さを。
マリアベルは、重そうな着ぐるみを纏っているとは思えない足取りで窓際から離れると、サンダウンの向かいに座る。
「未熟なひよっ子じゃった。じゃが、いつも一所懸命で、どんなときも諦めない、強い心の持ち主であった」
サンダウンからの返事はない。だが彼は、いつしか帽子を持ち上げ、マリアベルへと視線を注いでいた。
「まだまだ未来があったというのに。頑張りすぎたんじゃろうな。バカチンが」
吐き捨てるような口調だが、言葉に込められているのは揶揄ではなく、悲しみだ。
「わらわよりも長生きしろとは言わぬ。じゃが、まだ逝くには早すぎるじゃろうに……」
親しい者や大切な人の死は、何度経験しても寂しく、辛い。
だからといって、慣れたいとは思わない。慣れてしまったら、きっと、もっと寂しいと思うから。
「……そのように思われる……リルカ・エレニアックは幸せ者だ……」
サンダウンの短い言葉に、マリアベルは哀しげに、それでも、小さく笑う。
湿っぽい気分をずっと引きずっていても、あの魔女っ子は喜ばないと思うから。
「違いないのう」
その言葉を最後に、沈黙が戻ってくる。
サンダウンを促したりはしない。そんなものが必要な子供ではないのだ。
やがて、男は声もなく立ち上がる。見上げたマリアベルの視線に、サンダウンは小さく口を開いた。
「偵察にしては遅い……様子を見てくる……」
「シュウか。奴なら大丈夫だと思うが、確かに遅いの。わらわが行こう。お主は休んでおれ」
立ち上がろうとしたマリアベルを、サンダウンは手で制す。
「お前は……二人を守ってやってくれ……。彼女らに何かあったとき、お前の方が力になれる……」
言って、男はドアに手を掛けた。そのまま開け放つ前にマリアベルを振り返ると、呟いた。
「……簡単に死ぬつもりはない。安心して……待っていてほしい……」
静かながら力が篭った言葉だった。
それは虚勢なのかもしれない。張りぼてでしかないのかもしれない。
それでも、そう言われるだけで、十分だった。
「よかろう、約束じゃ。絶対に、シュウを連れて戻ってくるのじゃぞ。
――できるだけ、早くの」
サンダウンは、マリアベルに声を返さない。
だが、彼は口角を小さく持ち上げ、余裕に満ちた不敵な笑みをマリアベルに見せ付ける。
笑みだけを残して、背中を向けてドアを開け放つ。
四角く切り取られた朝の光は、マリアベルには少しばかり眩い。
それでも彼女は、目を閉じることも細めることもせずに、その背中を見送った。
ドアが閉ざされると、マリアベルは、勢いをつけて椅子から降りる。
客室にいるロザリーとニノと、今後の方針を相談するつもりだった。
事態は、確かに動いている。
シュウとサンダウンが戻ってから案を出しているようでは、遅くなる可能性が高い。
マリアベルはふと、もう一度出入り口のドアを見やり、サンダウンの背中を思い出す。
うっとりメロメロ級にはまだ遠い。
だが、ナイスミドルであることは認めてやってもよいかと、そう思った。
◆◆
後ろ手に、静かにドアを閉めると、大きな城下町が広がっている。
朝の空気は、殺し合いの場にはそぐわないほどに澄み渡っていた。
それでも、この爽やかさや清涼感は、仮初でしかない。
透明感溢れる空気の向こうには、鮮血と肉片と屍の臭いが漂っていて、憎しみと嘆きと恨みが溢れかえっているに違いない。
そんな中、サンダウンは、表情を変えずに、確固たる足取りで石畳を歩いていく。
既に、十一人もの死者が出ている世界を、進んでいく。
死者の中には、容易に死を迎えるなどとは思えない人物も含まれていた。
レイ・クウゴも、そんな人物のうちの一人だ。
銃がなければまともに戦えないサンダウンとは違い、武芸に秀でた彼女にとって、その身に染み付いた技こそが最大の武器だ。
それはつまり、支給品が、戦闘能力にそれほど影響を与えないということを意味している。
多くの参加者に引けを取らない実力者である彼女は、しかし、殺害されてしまったという。
仲間の強さを、サンダウンはよく知っている。
だが、それ以上の強者が、この島で暴れている事実を、間接的にだが思い知らされてしまう。
今まで以上に、仲間との合流を急ぐべきだった。
手が震えそうになる。油断すれば、歯の根が合わなくなりそうにさえなる。
原因は無力さによる不安と、喪失感による恐怖だった。
この使い捨てである銃一丁しか、まともに使える武器を持っていない自分が、どこまで戦えるのか。
足手まといにしかならないのではないか。
一人、仲間が殺された。これから、その人数がどんどん増えていってしまうのではないか。
仲間や知人を守りきれず、力になれずに死ぬのは、怖い。
いや、見知らぬ他人だとしても同様だ。
理不尽な暴力に晒されて、嘆きを抱いて死んでいく様を見せ付けられるのは、堪らなく恐ろしい。
じわじわと広がっていく感情は、サンダウンの精神を削り取ろうとする。
だから、ロザリーとニノの護衛をマリアベルに任せ、行動することにしたのだ。
もしもあの場に残っていたら、情けない顔を見せてしまったかもしれないから。
それでも、進むサンダウンの顔は、いつもと変わらない無表情だ。
震えなど微塵も感じられない。怯えなどおくびにも出さない。
弱い心に負けないために、ただひたすら、サンダウンは往く。
レイのことを、心の拳の強さを思い出し、敬意と哀悼の意を表しながら。
【J-9 城下町にある宿屋 一日目 朝】
【ロザリー@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち】
[状態]:健康
[装備]:いかりのリング@ファイナルファンタジーⅥ、導きの指輪@ファイアーエムブレム 烈火の剣、 クレストグラフ(ニノと合わせて5枚)@WILD ARMS 2nd IGNITION
[道具]:エリクサー@ファイナルファンタジーⅥ、アリシアのナイフ@LIVE A LIVE、双眼鏡@現実、基本支給品一式
[思考]
基本:殺し合いを止める。
1:ピサロ様を捜す。
2:シュウの報告を待つ。
3:ユーリル、ミネアたちとの合流。
4:サンダウンさん、ニノ、シュウ、マリアベルの仲間を捜す。
[備考]
※参戦時期は6章終了時(エンディング後)です。
※クレストグラフの魔法は不明です。
【ニノ@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:健康
[装備]:クレストグラフ(ロザリーと合わせて5枚)@WILD ARMS 2nd IGNITION
[道具]:フォルブレイズ@FE烈火、基本支給品一式
[思考]
基本:全員で生き残る。
1:ジャファル、フロリーナを優先して仲間との合流。
2:シュウの報告を待つ。
3:サンダウン、ロザリー、シュウ、マリアベルの仲間を捜す。
4:フォルブレイズの理を読み進めたい。
[備考]:
※支援レベル フロリーナC、ジャファルA 、エルクC
※終章後より参戦
※クレストグラフの魔法は不明です。
【マリアベル・アーミティッジ@WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:健康
[装備]:マリアベルの着ぐるみ@WILD ARMS 2nd IGNITION
[道具]:ゲートホルダー@クロノトリガー、基本支給品一式 、マタンゴ@LIVE A LIVE
[思考]
基本:人間の可能性を信じ、魔王を倒す。
1:シュウ・サンダウンを待つ間、ロザリー、ニノと共に今後の方針の相談。
2:元ARMSメンバー、シュウ達の仲間達と合流。
3:この殺し合いについての情報を得る。
4:首輪の解除。
5:この機械を調べたい。
6:アカ&アオも探したい。
7:アナスタシアの名前が気になる。 生き返った?
8:アキラは信頼できる。 ピサロに警戒。カエルに一応警戒?
[備考]:
※参戦時期はクリア後。
※アナスタシアのことは未だ話していません。生き返ったのではと思い至りました。
※レッドパワーはすべて習得しています。
【I-9 一日目 朝】
【サンダウン@LIVE A LIVE】
[状態]:健康
[装備]:使い捨てドッカンピストル@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本:殺し合いにのらずに、ここからの脱出
1:シュウを捜索し、合流後、マリアベルたちの待つ宿へ戻る。
2:ピサロの捜索。
3:ロザリー、ニノ、シュウ、マリアベル、自分の仲間(アキラ、高原日勝)の捜索。
4:まともな銃がほしい。
5:アキラを知るストレイボウにやや興味有り。
[備考]
参戦時期は最終編。魔王山に向かう前です。
◆◆
夜が明けた。
陽光は生命力に溢れていて、輝かしい希望を象徴し、明るい未来を予感させる。
だがその輝きは、強く眩し過ぎると、彼は思う。
朝の日差しを受けて、こんな感想を抱いたのは初めてだ。
何もない平野のど真ん中でうなだれる彼は、カエルの姿をしている。
バイオネットを担ぎ、ゆっくりと歩く彼の身は震えていて、弱弱しい印象を与えてくる。
余りにも、余りにも早すぎて、あっけなすぎた。
エイラのために――引いては国のため、守りたいもののために戦おうと決意したばかりなのに。
騎士として生きる道を閉ざし、自分のための戦いの道を選択したばかりなのに。
大切な国を守るための手段が、手の中から滑り落ちてしまう。
もしもこの、手袋に包まれた手が粘膜に塗れていなければ、しっかりと握っていられただろうかと、思う。
――下らない。
そんな仮定をしたところで、何の足しにもなりはしない。
変わりはしないし揺らぎもしないのだ。
エイラが死んだという事実は、変わりはしない。ガルディア王国の消滅は、約束されてしまった。
死を『なかったこと』にできる方法を、カエルは知っている。
だがそれは、現状で取ることのできる手段ではない。
今、時を超えることなど不可能だし、よしんば出来たところで、『エイラが死ぬ瞬間』に戻ってこられるとは限らない。
ならば。
――ならば、どうしたら王国を守ることができる?
自問する。
答えなど、分かっているにも関わらず。
――本当に、それでいいのか?
自問する。
迷いと躊躇いが、答えをブレさせる。
太陽は確かに昇っていて、時は前へと進んでいる。迷っている時間は、多くない。
光の中に、ずっといたいと願う。
顔を、上げる。
空は高く青く広がっていた。
何もかもを照らし出すように、映し出そうというように、広がっていた。
浮かぶ雲へと、手を伸ばしてみる。
そんなことをしたって、掴むどころか、届きさえもしないのだ。
だけどもし、届かせる手段があるのなら。
あらゆるものを、仲間の生命でさえ踏み台にすれば、届くのならば。
かざした手を、握り締める。
空から前へと戻したとき、人影が目に映った。
そいつも、ほぼ同じタイミングでこちらに気付いたらしい。
「お前は……」
呟いた先にいる男――シュウは、感情の読み取れない瞳をカエルへと投げかけている。
直立し、微動だにしないシュウから感じられるのは、お世辞にも友好的と呼べる雰囲気ではない。
だからといって、強い敵意が感じられるわけでも、ない。
『急いで行きたいところがあり、別行動を取った』と、ストレイボウからは聞いていた。
にもかかわらず、別行動を取った男が、出会った城からそれほど離れていない場所にいる。
これはつまり、ストレイボウが嘘を吐かれたか、あるいは、自分がストレイボウに嘘を吐かれたか。
しかしそんなことは、どちらでもよかった。
どちらにせよ、ストレイボウを責めるつもりなどない。
友を想い、そのために行動しようとする彼を、今の自分が糾弾できるはずがないのだ。
そして、眼前にいる男を責めるつもりもまた、ない。
信頼を得られなかったのは、きっと、理由があるに違いないのだ。
その心当たりだって、ある。
一定の距離を置いて、カエルはシュウと対峙する。
バイアネットの刃が届く距離ではない。
だが、カエルのジャンプ力を以って思い切り踏み込めば、一気に詰められる距離だ。
シュウは黙っている。黙したまま、警戒心を露にするその男は、一分の隙さえ見せはしない。
この男に剣を向けてしまったら、もう戻れなくなる。
下り坂を転がり落ちて、勇者でも騎士でもない、外道に身を落とすだけ。
だが、だとしても。
もう、縋るものがそれしかないのなら。
雲を掴むために、仲間も、誇りも、全て捨て去らなければならないのなら。
覚悟を、しなければならない。
良心、情け、甘えを完全に吐き出し、ただ一つのもののために、自分の手を汚す、覚悟を。
光の中にいられない、覚悟を。
深く酸素を吸い込む。
冷たい空気が、胸中に漂う靄を拭い去っていく。
カエルは、バイアネットを跳ね上げ、右手だけで器用に回転させる。
そして。
その鋭い刃を、切っ先を、勢いよく。
自らの左腕に、突き立てた。
粘膜を、皮膚を、筋肉を、刃が貫いていく。
硬く冷たい異物が入り込んでくる不快感と、筋繊維と血管が纏めて千切られる激痛が、腕の中で暴れ回る。
その全てを、カエルは、声を出さず目を閉ざさず、飲み込んだ。
左上腕が裂かれ、垂れ落ちた血液が、べっとりと衣服を汚していく。
ゆっくりと、引き抜いた。血液がごぽりと吹き出るが、構わない。
「許しを請うつもりなど、欠片もない……。
罪から逃れるつもりなど、塵ほどもない……!」
カエルは呟いて、血塗られた刃を、呆然とするシュウに、向ける。
「俺は、これより外道となろう。
無慈悲に一方的に身勝手に、全てを奪い尽くす悪鬼となろう!
国のためなどと言い訳をせず、俺自身の意志で、仲間すらもこの手にかける魔王となろうッ!」
そのための覚悟は、完了した。
全てが終わった後に、審判を受ける覚悟さえも、もう済ませた。
かくして勇者は騎士の称号を捨て、修羅の道へと足を踏み入れる。
踏み外したわけではなく、誰かにそそのかされたわけでもなく、自身による選択の結果だ。
故にその決意と信念と覚悟は、硬く強く揺るぎがない。
「止めるつもりならば――」
静かに臨戦体勢を取るシュウに向けて、カエルは、大気を震わせて一喝する。
「――命を奪いに来いッ!」
【I-8 西部 一日目 朝】
【シュウ@アークザラッドⅡ】
[状態]:健康
[装備]:パワーマフラー@クロノトリガー
[道具]:エリクサー@ファイナルファンタジーⅥ、紅蓮@アークザラッドⅡ、リニアレールキャノン(BLT1/1)@WILD ARMS 2nd IGNITION、基本支給品一式
[思考]
基本:殺し合いには乗らない、オディオを倒す。
1:カエルの撃退。
2:撃退後、マリアベルたちの元へ合流。
3:エルクたち、マリアベル、ニノ、サンダウン、ロザリーの仲間と合流。
4:この殺し合いについての情報を得る。
5:首輪の解除。
6:トッシュに紅蓮を渡す。
7:カエル、ピサロは警戒。アキラは信頼できる。
[備考]:
※参戦時期はクリア後。
※扇動を警戒しています。
※時限爆弾は現在使用不可です。
※『放送が真実であるかどうか』を疑っています。
【カエル@クロノトリガー】
[状態]:左上腕に『覚悟の証』である刺傷。
[装備]:バイアネット(射撃残弾7)
[道具]:バレットチャージ1個(アーム共用、アーム残弾のみ回復可能)、基本支給品一式
[思考]
基本:ガルディア王国の消滅を回避するため、優勝を狙う。
1:シュウの殺害。
2:仲間を含む全参加者の殺害。
3:できればストレイボウには彼の友を救って欲しい
[備考]:
※参戦時期はクロノ復活直後(グランドリオン未解放)。
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最終更新:2010年06月29日 22:23