エドガー、『夜明け』を待つ(後編) ◆Rd1trDrhhU




……そのはずだった。

問題は『固定観念』。

先述したように、フロリーナはシャドウの事を『ジャファルのようなアサシン』と認識していた。
機動力で相手をかく乱し、奇襲や暗殺などで確実に仕留めるタイプのアサシンだと。
その認識には一切の誤認はないだろう。
事実、シャドウはそのような戦術を得意としていた。

だが、それだけではないのだ。
先ほどのジャンプ攻撃もそうだ。
彼女の『アサシン』の認識を超えたような攻撃をシャドウは繰り出してきた。
そしてジャファルには出来ないが、シャドウには出来る攻撃がまだ幾つか存在していた。

その1つが投合。
野性の女戦死を仕留めた、シャドウの真骨頂だ。
彼にとっては暗殺以上の……言わば切り札。
その精度はウィルの弓矢以上に正確だ。

「……え?」
自分の顔面目がけてクルクルと回転しながら飛んできた短剣。
誰が? どこから?
そんな疑問がフロリーナの意識を支配する。
暗殺者の右腕に、あの短剣がないことを確認するまでは。

「く……! そんな……!」
咄嗟にシャドウへの攻撃を中断。
無理にでも体をくねらせて跳んできた刃の軌道から顔を反らす。
無理な体勢に腰が少しだけ痛んだが、そんな事を嘆いている場合じゃない。
出来るだけ体を捩ったつもりであったが、ナイフの先端がフロリーナの頬に赤い筋を刻んだ。
傷そのものは浅くダメージと呼べる程ですらないが、フロリーナの精神に与えたショックは大きい。
ツゥ……っと血が頬を垂れるのを感じながら、フロリーナは考えを巡らせる。
目の前の男は、宙に浮かされた不安定な状態から、あのような正確な投合を繰り出してきたというのか。
大した予備動作もなしに。
フロリーナに感づかれないほど素早く。
単なるアサシンの技能の1つと呼ぶにはあまりにも高いレベルの攻撃。
恐らく、これはシャドウが人生をかけて磨き続けた切り札……!
今のような窮地から脱却する為の隠し玉だ。
現にシャドウはこの投合でフロリーナの攻撃をやり過ごす事に成功している。
そして、これはフロリーナの『アサシンは近接攻撃しか持たない』という固定観念が生んだ失策でもある。

「……ま、まだッ!」
意外な攻撃に一瞬だけ臆したものの、直ぐに体勢を立て直して追撃の準備に入る。
相手は未だ宙に浮いた状態。
しかもその武器は先ほどの投合で失ってしまっている。
相変わらずアドバンテージは自分にある。
シャドウの脇腹めがけて槍を振るった。

さて、問題は『固定観念』だ。
シャドウにあって、ジャファルにない攻撃がもう1つある。
それが……。

「……サンダラ」
……魔法だ。
シャドウもナイフを避けられるのは予想していた。
だが、相手は確実に怯む。
その時間を使って呪文を詠唱してみせたのだ。

「……?」
フロリーナは自分の周りに黄色い蛇のようなものが旋回している事に気付く。
そして一歩遅れて悟る。
これは電気だと。
パチパチと音を鳴らし走る蛇は、次第に太く大きくなっていき……。
遂には天から雷を召喚した。

「ぐ……きゃあああああああああああ!!!」
バチンと破裂音と共に、フロリーナの体を電流が暴れまわる。
攻撃動作に入っていたはずの体は「気をつけ」の姿勢で伸びきり、力の入らなくなった指からデーモンスピアが零れ落ちた。

彼女の世界では魔法とは魔術師が魔道書を読んで初めて使用できるものである。
しかし、シャドウの世界では違う。
魔石を持っていれば、誰でも魔法を習得する事が可能なのだ。
『アサシンは魔法が使えない』。
これもフロリーナが持っていた固定観念である。

「そん……な……」
シャドウはティナやセリスほど魔法を得意としてはいなかった。
よっていくらクリーンヒットしたとはいえ、彼のサンダラに一撃で致命傷を与えるほどの威力はない。

だが、シャドウにしてみればそれで充分だった。
元より魔法で止めをさす気など、彼には更々なかったのだから。
サンダラの雷が止む。
それを確認し、体制を立て直したシャドウは、足元がふらついたフロリーナに瞬時に接近する。
そして彼女の腹部に重い拳をめり込ませた。

「がはっ!」
魔法で体力が削られたところに更なる一撃。
たまらずフロリーナは膝をつき、手をついてゲホゲホと咳き込むしかない。

しかし、冷徹な暗殺者は苦しむ少女の口元を覆うように右手で彼女の顔を掴むと、そのまま体を持ち上げた。
「むぅ……!」
苦しげに歪む顔とは対照的に、だらりと伸びきる手足。
先ほど食らった魔法のせいで、その皮膚はところどころ焦げている。

(苦しい……! これは……私への罰なの?)
エドガーを見捨てて自分だけ逃げようとした。
この仕打ちは、そんなフロリーナへの罰なのか。
切られた頬から流れる血液に混じって、涙が彼女の頬を濡らした。

(助けて……ヘクトル様……!)
そんな願いも空しく、シャドウは彼女が落としたデーモンスピアを拾い上げる。
フロリーナも何とか逃げ出そうと試みるが、口元を塞がれ呼吸が出来ない苦しさと、戦闘のダメージで手足が思うように動かない。
そして暗殺者は一言も発することなく、彼女の心臓に狙いを定めて槍を振りかぶり……。

(誰か……助けて!)
そのまま……。

……。

ピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨ

「……ッ!」
(……え?)
受け入れる事ができない現実に絶望する少女を目覚めさせたのは、なんともファンシーな泣き声。
そう。横から飛んで来たのは、彼女のトラウマと言うべき……。

……大量のヒヨコ。

ピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨ

銃口から産み出されたヒヨコたちは、ペシペシと暗殺者の腕に特攻を繰り返ては地面に落ちていく。
1匹1匹は大したダメージではなくとも、こうも連続でぶつかられるとその合計ダメージは馬鹿にはできない。

ピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨ

「……!?」
驚いたシャドウはヒヨコが跳んでくる方向である右を向いて、それを放っている犯人の顔を確認しようとする。
しかし、迫り来る黄色い雛鳥が邪魔で相手の顔も、その正確な位置すらも確かめる事ができない。
仕方なく、フロリーナを放してヒヨコの軌道から逃げ、犯人の顔を確認しようとした。

ピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピ……

だが、次の瞬間にその必要はなくなった。
ヒヨコ部隊の怒涛の攻撃が止んだ次の瞬間……。

「ブリザラ!!!!」
シャドウにとって聞き馴染んだ声が響き渡る。
それと同時に青白い冷気がシャドウの黒衣を包み込み……。

「……しまッ!」
シャドウが始めて驚きの声を上げた。
だが、遅い。魔法は既に発動している。
カキィン! と心地よい音。
シャドウの全身を氷塊が閉じ込め、パキィン……と割れる。
魔法の直撃を受け、よろけたシャドウに乱入者の追撃が襲い掛かる。

彼の手から槍をもぎ取ると、その柄で彼の腹部を思い切り殴りつける。

「ぐが……!」
鎧のない体にクリーンヒットを受け、後方に勢いよく吹き飛ばされてしまう。
2バウンドした後、地面に転がって敵を仰ぎ見る。
追撃をしてくるのではないかと心配したが、どうやら少女の方へ駆け寄っていったようだ。

(甘いな……お前は。…………だが……)
吹き飛ばされた先には、幸運にも先ほど投げた短剣が転がっていた。
それを一目散に拾い上げると、体を起こし、膝をついて、息を整える事に集中した。
まだ……戦いは終わってはいない。


「大丈夫か? フロリーナ。よく頑張ったな」
シャドウを吹き飛ばした乱入者が倒れた少女に駆け寄る。
抱え起こすと少女の手首を取り、脈があるかを確認する。
トクトクと一定のリズムを確認すると、ふぅ……と安堵の溜め息を吐き出した。

「ヘクトル……さ、ま……?」
朝日の逆行で乱入者の顔が見えない。
朦朧とした意識の中、その姿を必死で確認しようとする。

「残念だが、俺は君の愛する王子様じゃない」
男の声がフロリーナの期待を打ち砕く。
残念な気持ちがフロリーナの心を満たしたが、不思議と不快感はない。

「もっとカッコいい王様さ」
前言撤回。
ニヤリとわらうキザ男に、多少の不快感を覚えた。

「なぁ、んだ……エ、ドガー、さ……ん……かぁ……」
そこまで言い終えると、少女は安心したのか、フッと気を失ってしまった。
少女の無事を確認したエドガーは、「ツレないなぁ……」と嘆きながらも彼女を大地へ静かに横たわらせる。

「堅い地面で申し訳ないが、もう少しだけ我慢してくれ。
 さて、シャドウ……」
血と涙で汚れた少女の頬を拭ってやると、立ち上がり、かつての仲間に呼びかける。
その視線は未だフロリーナを見つたままで、暗殺者には背を向けた状態だ。

「飛び道具での不意打ち……もとい、奇襲だったが……」
重くて使いにくいアルマーズを地面に投げ捨てる。
そして、シャドウから取り上げたデモンスピアを2,3回振るい、その具合を確かめた。

「まさか、卑怯とは言うまいね?」
シャドウの方を振り向くことなく、そう訊いた。

「…………」
対する暗殺者は何も答えない。
答えなどわざわざ言わなくても分かっている。

「そうか……。じゃあ、もう1つ訊いておこうか……」
そこまで言い放つと、今度はゆっくりとシャドウの方へと向き直った。
徐々に明らかになるその表情は……。

「なぜフロリーナから狙った?!!! 答えろッ!!!!」
……明らかな怒りで満ちていた。
あの状況……エドガーを追い詰めたあの状況で、シャドウはエドガーを放置してフロリーナを襲った。
戦局を考えれば、先にエドガーを殺したほうが得なはずだ。
なのに、わざわざエドガーに回復する間を与えてまで、少女を殺す事を選択したのだ。
そのことにエドガーは怒っていた。

「…………貴様が……」
問いかけられたアサシンは、今度は口を開いた。
ゆっくりと立ち上がったその暗殺者の顔が朝日に照らされる。

「貴様が、腑抜けの顔をしていたからだ……!」
彼の目もまた、怒りで満ちていた。

彼が……シャドウが殺害対象に余計な感情を抱いた事はただの一度としてなかった。
殺すものと殺されるもの。
その関係のみを見つめ、相手が誰であろうと殺すべき相手はその刃の下に切り伏せる。
それは相棒が死に、自らを『シャドウ』と名乗ったあの日から変わる事はない。

だが、先ほどエドガーと剣を交えたとき、彼の心は震えた。
殺す相手と見定めたはずの男。
しかしそれと同時に、その男は一緒に世界を救う旅をしてきた男。
ケフカを倒すたびをしていく中で、シャドウはエドガーの事を自分達のチームのリーダーだと見定めていた。
常に仲間の事を気にかけ、国王という立場にいながら決して驕らず、自分達と一緒に時を刻むことを選択した。
それは、シャドウにとってみれば、かつての相棒ビリーや、シャドウとなってからも心を許したインターセプターと同じ仲間。
信頼できる仲間だったのだ。

それこそ命を捨ててまで助けるほどに。

「それが、俺には許せなかった……」
だが、さっきのエドガーの振るった斧は『ブレて』いた。
自分達のリーダーとして剣を振るっていたときの真っ直ぐさはなく、そこにあったのは迷いに揺れた刃のみ。
自分の信頼した男は、国を失い、敵を見失い、目標を見失って……腑抜けていた。
自らの生き方に従い、この殺し合いに乗ると決めたシャドウにとって、それはとても許せる事ではない。
たとえ、それによってエドガーという強敵を容易く撃破できたとしても、だ。

だから、フロリーナを殺す事で、彼の怒りを誘発しようとした。
自分を憎ませてでも、かつての彼に出会いたかった。
あの頃のエドガーでなくては……戦う意味がないのだ。


「…………そうか……」
シャドウの言わんとしている事は分かる。
エドガー自身にも思い当たる節があったから。
『国王』としての自分の喪失、信頼していた仲間達との離別。
それにより、自分が成すべき使命を見失っていたのは事実。
目の前の男は、修羅の道に落ちようとも自分の人生を歩んでいる。
それに比べたら、今の自分はなんと情けない事か。



「だが…………」
シャドウが再び口を開く。

「さっきとは違い、今のお前には迷いがない」
「あぁ、お前とフロリーナに教えられたよ」
エドガーがデーモンスピアを高く掲げる。
その切っ先が朝日を反射し、鋭く輝く。
クルリと槍を半回転させると、そのまま勢い欲大地に突き刺した。

「俺はこの殺し合いに参加させられた、フロリーナのような若いやつらを導く!
 命を落とそうとも! 全てを失おうともだッ!」

金色の王は高らかに宣言した。
シャドウがフロリーナを殺すイメージが脳裏をよぎったとき。
彼は自分の使命を悟る。
かつてのように彼自身がリーダーになるのではない。
新たなリーダーを、新たな戦士を導く為に自分はいるのだと。
だから、彼はここで命を捨てる事を覚悟する。
若き者たちを導き、見守って、死のうと決心した。

「そしてこれが、その決心をした俺の最初の仕事だ」
ツカツカとシャドウの方へ歩み寄る。
地面に刺した槍を拾うことなく、丸腰の状態で。
対するシャドウも持っていた短剣を地面に捨て、彼が近づくのを静かに待った。

エドガーがシャドウの眼前で立ち止まる。
一瞬だけ。
拳を強く握り締めると、シャドウの頬目がけて渾身のパンチをお見舞いする。
「……ぐッ!」
「お前はフロリーナを傷つけ、殺そうとした! それだけは許せない。
 そのケジメだけはつけなきゃならないからな。
 …………そして……」
首を掲げ、シャドウの方へ左の頬を向ける。
そして左手の親指を立て、その頬を指差した。
エドガーの拳を食らってよろけていたシャドウだが、それを確認すると咳き込みながらもエドガーに向き直る。

シャドウもまた右の拳を強く握り締め、エドガーの顔に重いパンチをブチ込んだ。

「……ッつ~!」
「…………これが……腑抜けていたお前へのケジメというわけか……」
口の端からツゥ……と血が流れ落ちたが、それを気にかけることなくニィと笑うエドガー。
それを確認したシャドウの口元、布で覆われてよく確認できなかったが、彼の口元が笑顔になった気がした。
このふざけた殺し合いの破壊を誓った男と、参加者の皆殺しを誓った男。
選んだ道は違えども、共に世界を救った絆はそう易々と千切れるものではなかった。



……と、その時だった。
その小汚い歌声が響き渡ったのは。

「『と』~は、ト~カゲの『と』~!」

荒野の空気が一変した。
シャドウとエドガーが作り出したシリアスな空気はその一言で吹き飛ばされ、空間を支配したのはなんとも言えない独特な空気。

「『か』~は、カマドウマ~!」
朝日が昇ってから数時間は経過したはずである。
エドガーとフロリーナがフィガロ城を出発したときからずっと、辺りの空は白く周りの景色を見渡すのには何の支障もない。

「『げ』~は、ゲスタパ……」
「誰だッ!!! ケフカか?!!!」
しかし、今叫んだエドガーの目には、真っ赤な背景に立つ真っ黒い怪獣が映っていた。
まるで戦隊モノの特撮で、怪獣が登場するシーンのような……。

「ケフカ? 毛~深~? 確かに我輩の科学を愛する心は、情熱という羽毛で包まれているトカいないトカッ!
 だがしかし諸君の愛してくれた我輩のボディは、ツルッツルのピカッピカの穢れ泣き豊満ボディッ!!」
ズシン……ズシン……と銀色の巨体がその姿を現す。
その頂点の操縦席には、緑色のなんとも気色の悪い生命体が鎮座していた。

「見よッ! このめくるめくハードSFの世界ッ!
 皆大好き銀色チャ~ミングメカッ!
 プルコギドン~? 知らんなそんなボンコツ眠り姫など!!
 これこそが、星の海へと帰るためッ! 我輩が造りし最高傑作ッ! その名も……」
「…………魔導アーマー……」
「なんだ、魔導アーマーか」
それはエドガーにもシャドウにも馴染み深い機械。
ガストラ帝国の技術の結晶。
魔法という奇跡を科学で再現した人類の英知の結晶である。

「わ~~おッ! エスパーなんて非科学的ッ! ステキッ!
 そうッ! これは皆さんお馴染みスター街道まっしぐら猫まっしぐらの人気メカッ!
 その名も……マ、マドゥ~……? ……マジカル……」
「……魔導アーマーだ」
「そうッ! それそれッ! その味ッ! 魔導アーマーであるトカないトカッ!」
両腕を振り上げ、ガシィン……とポーズを決める魔導アーマーとその上の爬虫類(?)。
どうやら未知の科学との出会いが、彼のブッ壊れた精神を更におかしくしてしまったらしい。
エドガーたちの世界では、そこそこメジャーな発明だったりするのだが……。

「悲しいかな……科学の発展に尊い犠牲はつき物ッ!
 そうッ! これこそが正に尊厳死ッ! 感動で我輩、涙ちょちょ切れちゃうッ!
 と、言うわけで……我輩の優しさビーム発射~ッ!」
人差し指(らしきもの)を天空に向けて掲げ叫ぶ。
叫び終わるのと同時に指を振り下ろし、赤のボタンを勢いよくプッシュした。
キュゥゥゥ……と心地の良い音と共に、赤みを帯びたエネルギーが魔導アーマーの胸部に集まっていく。
そして打ち出されたのは同じく赤色に光るレーザー。
炎の魔法の力を秘めた、ファイアビームである。

目の前のトカゲモンスターの狂人っぷりにポカンとしていたエドガーとシャドウ。
そんな2人の元へ一直線にビームが飛び込み……。
ドガンという爆発音とともに、巻き上がる土煙。

「さらば科学の子供達ッ! 君達の墓標を我輩の故郷に掲げる事を約束しようッ! それもアイスの棒で作った特大サイズッ!
 あぁ、なんという科学の礎ッ! 我輩の優しさの三角フラスコより深い事ッ!広い事ッ!
 死ぬほど感謝して死ねーッ!」
モクモクと立ち込める土煙に向かい叫び続ける異星人。
あまりの興奮に、椅子から立ち上がって操縦席に足を乗っける始末。
本当に科学に対する敬意があるのかは疑わしいところである。


「…………俺がいて……」

ふと、声がした。
未だ止まぬ土煙の中から。

「……んまッ、あれでまだ生きてるトカ~!」
「…………そして隣にお前がいて、そして目の前に立ちはだかるのは魔導アーマーか……」
煙の中から現れた影。
何がおかしいのだろう。エドガーが笑っていた。

「……なつかしいな」
そしてシャドウ。
彼の表情は読み取れないが、その声のトーンは先ほどよりも一段高くなっているような気がする。

「殺し合いに乗った男と手を組むつもりは毛頭ないが……」
「…………当たり前だ。お前の協力などこちらから願い下げだ」
そしてエドガーの手には、先ほど地面に突き刺した槍。
シャドウの手には短剣アサッシンズ。
眼前の敵を見据え、構えを取ると、かつての光景が今にも浮かんできそうだ。

「『たまたま』息が合ってしまうことは……」
「…………あるかもな!」
合図もなしに、2人で同時に走り出す。
狙う敵は勿論……。

「ひ、人を呼ぶわよッ! この恐れを知らない十代めッ!
 ならば食らうがいい。思い出ビームッ! 微笑みビームッ!」
青色のブリザービームと黄色のサンダービーム。
そして先ほどのファイアビーム。
三色のビームが荒野に次々と穴を開け、土煙を舞い上がらせていく。

「……くだらん」
跳んでくるカラフルな光を最小の動作で避けていくのはシャドウ。
最強の暗殺者にして投合のプロフェッショナル。
この殺し合いでの優勝を誓った男。
カラフルなレーザーの大群もそんなシャドウの突進の前には、その速度を遅らせる程度の役割しか成していない。
そして彼は相手に肉薄しつつも、口元で別の作業を行っていた。
走りながら、彼は呪文を唱えているのだ。

「はら~~~~~ッ! 何か来たわッ! 変態よーッ!
 退避ーッ! 科学的撤退~ッ!」
肉薄してくる忍者に怯え、方向転換をして逃げようとする。
ガギギギギ……と機械的な悲鳴が響き渡ると、魔導アーマーはスタコラサッサと走り出す。

「どこへ行くんだ? 君が誘ったパーティーじゃないか」
トカが逃げようとした方向に彼はいた。
エドガー。
シャドウがリーダーだと認めた男。
この殺し合いを破壊する『若き力』を導こうと誓った元国王。
シャドウがレーザーの囮になっている間に、彼も魔導アーマーに近づいて魔法を唱えていた。
奇しくもシャドウと同じ魔法を。

「うっひょ~ッ! 暴力反対トカッ!
 ここは言葉の殴り合いでなんとか穏便に……」

「「サンダガ!!!」」
トカが命乞いのセリフを言い終わる前に、その轟雷が彼を包み込む。
エドガーもシャドウも魔法を得意とはしていない。
それでも2人で同時で、しかも上位魔法のサンダガである。
死にはしないものの、かなりのダメージになることは予想できる。

「あばばばばばばばばばばッ!!
 長い長い走馬灯の旅へ出発トカ~~~!!!」
気絶する直前まで口を閉じる事はなかった科学者。
クルクルと椅子の上でバレエを踊り、そのまま操縦席に倒れ付した。
その直後、ズシンと大きな音を立てて魔導アーマーも一時の眠りにつくのだった。

「ふぅ……終わった……ようだな」
エドガーは自分達の生み出した雷が止むのを確認する。
どうやらあの妙な生物も死んではいないようだ。
あの緑色は自分達に敵意を持っていたことは確かだが、どうもその真意がつかめなかった。
だから土煙の中でシャドウに殺すことは避けて欲しいと頼んだのだ。
無駄な死体が増えないに越した事はない。

シャドウが殺し合いに乗ってる以上、聞き入れてくれるかは不安であった。
が、今だけはかつてように仲間として行動していてくれたようで、エドガーの願いをすんなりと聞き入れてくれた。


「…………」
「もう……行くのか?」
そそくさと立ち去ろうとするシャドウを確認して駆け寄る。
ゆっくり茶など楽しもうなどとは流石に言わない。
だが、連戦なうえ、慣れない魔法を連発したシャドウの疲労は大きい。
もう少しだけ休んで言ってもいいのではないかとエドガーは思う。
それに……。

「……忘れたか? 俺は殺し合いに…………」
「改心する気はないのか?」
休んでいる間になんとか説得できないかと考えていたからだ。
シャドウやかつての仲間達がいれば、たとえケフカが立ちはだかったとしても、こんな殺し合いなど容易く破壊できる。
そう信じていたのだ。

「残念だったな。俺は既に女を1人殺している。
 それにお前に……貴様に言われて改心するくらいなら……最初からこんな道は選ばない」
「そうか……そう……だな……すまない」
シャドウが説得でどうにかなる男じゃない事は、分かっていたが、いざ面と向かって突きつけられると流石に堪える。
エドガーのいつものニヤついた笑顔の端っこに、悲しみの色が滲み出ているのがシャドウにさえ分かった。

「貴様にもあるんだろ? 自分の信じた生き方が?」
「……! あぁ、そうさ! 俺は俺の信じた生き方を貫く!」
「……そうだ。それでこそ俺の……」
シャドウの言葉の最後の部分は小さくてエドガーの耳には聞こえなかったが、何を言っているのかくらいは容易に想像がついた。
エドガーが元気を取り戻した事を確認すると、シャドウはまたどこかへとその足を進める。
数歩歩いたところでまた立ち止まり、エドガーのほうに少しだけ振り返った。

「……次に会うときは容赦はしないぞ」
「あぁ、俺も本気で戦わせて貰う!」

「「戦友よ」」
お互いの誓いを聞き入れたところで、シャドウは大きくジャンプし、またどこかへと消え去ってしまった。
エドガーもそれを見送ると疲れたような表情で辺りを見渡す。
倒れたフロリーナと緑色の生き物。
見比べると、一瞬の躊躇もなくフロリーナに駆け寄ったのだった。

(幸い、重い怪我はしていないようだ。
 どこかゆっくり休めるようなところを探すか……)
山火事も鎮火したようだし、今更山の方へ向かっても仕方のない事だ。
フロリーナの症状を確認しケアルラをかける。
しかし、傷の直りが遅い。
いつもならば疲労はどうにもならないまでも、このくらいの傷なら簡単に直せるはず……。
オディオとやらが何らかの細工でもしたのだろうか。
そんな事を考えていると……。

「……ッ!」
跳んできたレーザーをアルマーズで受け止める。
この斧、かなりの強度らしく、あと何十回打ち込まれても傷がつく気配すらない。

「もう目覚めたのか?! あの緑色……なんてタフな……」
「なっとく、いかーんッ! なぜ科学の結晶である魔導アーマーがあんなチンケな魔法なんぞにッ!
 身震いするほど腹が立つッ!
 だがここは逃げるのが善しッ! 我輩らはここでオサラバだ。
 ……では、引き続き、金髪の悪魔が少女にイタズラをするシーンをお楽しみください……」
「……だ、誰がそんなこと!」
ついエドガーが突っ込みを入れてしまったその隙に、トカを乗せた魔導アーマーは地平の彼方へと走り去ってしまった。
気絶したフロリーナのこともあり、深追いするのは諦めるしかない。

「……なんだか酷く疲れた」
あのモンスターのせいで目まぐるしく変わる世界観に、翻弄されまくったエドガーであった。


【B-4 荒野 一日目 早朝】
【トカ@WILD ARMS 2nd IGNITION
[状態]:疲労(大)、尻尾にダメージ小。 科学的な武器ゲエエット!
[装備]:エアガン@クロノトリガー 、魔導アーマー@ファイナルファンタジーⅥ
[道具]:クレストカプセル×5@WILD ARMS 2nd IGNITION(4つ空)、基本支給品一式
[思考]
基本:リザード星へ帰るため、優勝を狙う。
1:他の参加者を殺し生き残る。
2:あの金髪キザ野朗~~~!(エドガーのことです)
[備考]:
※名簿を確認済み。
※参戦時期はヘイムダル・ガッツォークリア後から、科学大迫力研究所クリア前です。
※クレストカプセルに入っている魔法については、後の書き手さんにお任せします。
※魔導アーマーのバイオブラスター、コンフューザー、デジュネーター、魔導ミサイルは使用するのに高い魔力が必要です。


◆     ◆     ◆


「…………」
森の中。
木の上でシャドウはエイラという女性の事を考えていた。
あの女を殺さなかったら、自分はエドガーの誘いに乗ったのだろうか。
彼の誘いに乗って、この殺し合いの破壊の為に動いたのだろうか。

「…………考えても……仕方ない」
それはもう過ぎた事。
彼は戦友に誓ったのだ。自分の生き方を貫くと。
戦友の頬を殴った以上、もう迷っていられない。

「誰一人……生かしては帰さん」
シャドウのその目が黒く光る。
だが、連戦の疲れが彼を襲う。
一先ずは気配を消して眠りにつこう。
誰かの気配を察知してもシャドウならすぐに目覚めて反応できる。
体力を回復したら、また狩りを再開しよう。

それが戦友に誓った、俺の生き方だ。

【C-3 森林 一日目 早朝】
【シャドウ@ファイナルファンタジーVI
[状態]:疲労(大)、左肩にかすり傷、腹部にダメージ(中)
[装備]:アサッシンズ@サモンナイト3、竜騎士の靴@FINAL FANTASY6
[道具]:エイラのランダム支給品1~3個(未確認)、基本支給品一式*2
[思考]
基本:戦友(エドガー)に誓ったように、殺し合いに乗って優勝する。
1:放送まで寝る。
2:参加者を見つけ次第殺す。ただし深追いはしない。
3:知り合いに対して……?
[備考]:
※名簿確認済み。


◆     ◆     ◆


「……うぅ……ん」
「起きたか、フロリーナ」
「エ、エドガー……さん……?」
フロリーナが目覚めるとそこは、背中の上だった。
どうやらエドガーに背負われているらしい。

「あの……私……」
「大丈夫だ、まだ疲れてるだろ? 寝ていていい」
「ありがとう……ございます……」
今はエドガーの優しさに甘えることにした。
あのシャドウとか言う暗殺者はどこへ行ったのだろうか。
エドガーがやっつけてくれたのだろうか?

「……!」
シャドウの事を思い出すと、殺されかけた恐怖までもが甦ってきた。
苦しくて、怖くて、痛い。
あんな敵がいるのに、自分はこれから生きていけるのか不安で仕方がない。
もしかしたら……リンもヘクトルも……もう……既に……。
そう考えると途端に不安が彼女の心を締め付ける。
このままでいいのか?

   『おまえ、さ。
    なんかほっとけねぇよな』

ヘクトルが自分にかけてくれた言葉を思い出す。
その言葉に報いるには自分は何をすればいいのだろう?
エドガーと協力してゲームを破壊する事?
殺し合いに乗ってヘクトルの敵を1人でも減らす事?
どちらが彼のためになるのだろう?
彼女の中の天使と悪魔の争いは、未だその決着がつかないまま、長い長い延長戦へともつれ込んでいた。

(……あとで考えようか……今は、なんか……疲れちゃった)
その争いは頭の隅の隅に追いやって、今はこの背中で再びの眠りにつこう。
答えは、後で出せばいいのだから。
そこまで考えると、彼女はその意識を深い闇に沈ませた。


(眠ったか……)
寝息を立て始めたフロリーナを見る。
彼女がギュっと強く右手を握り締めたのにエドガーは気付いていた。
おそらく、シャドウに襲われたときの事を思い出していたのだろう。

(アイツもやっかいな置き土産を……)
彼女の中の恐怖が、これからの火種にならなきゃいいのだが……。
フロリーナのなかでの葛藤はまだ続いているようだ。
殺し合いに乗るのか、それとも魔王オディオに立ち向かうのか。
善と悪というよりは、『ヘクトル』とやらの利となるのはどちらかが判断基準ってところだろう。

(ま、それを導くのが俺の使命さ)
この殺し合いに参加させられた者たちの中には、フロリーナのような若い命がたくさんある。
そいつを正しい方向へと導き、新しい世代に運命を託す。
それが彼の使命だ。
たとえ自分が死ぬことになろうとも……。

「マッシュ……お前は『親父臭い』なんて馬鹿にするんだろうな……」
弟の馬鹿にしたような顔を思い浮かべ、クスリと笑う。
親父臭いのは仕方がない。もう二十代後半なんだから。

空を見上げると、すっかり朝の光が空を青々と照らしていた。
もうこの会場には朝が来ている。
しかし、まだこの忌まわしい首輪は希望の光を遮っていた。
絶望の夜はまだ続いているのだ。
この夜は果たして明けるのか……。

「明けない夜は……ないよな?」
誰かに問いかけるように呟いた。
大丈夫だと言い聞かせる。
誰かが、この夜を明かしてくれるはずだ。
新たな『王』にふさわしい人物が、太陽となってこの夜を照らしてくれるはず。
ならば自分はそいつを導こう。

それが戦友に誓った、俺の生き方だ。



【B-5 北東部 一日目 早朝】
エドガー・ロニ・フィガロ@ファイナルファンタジー6 】
[状態]:疲労(中)
[装備]:アルマーズ@ファイヤーエムブレム烈火の剣、デーモンスピア@ドラゴンクエスト4
[道具]:昭和ヒヨコッコ砲@LIVEALIVE、基本支給品一式
[思考]
基本:戦友(シャドウ)に誓ったように、若きものを正しい方向へと導く。
1:村へ行き、休める場所を探す。
2:フロリーナを更正させる。
3:仲間と合流・戦力の結集。
4:首輪の解除。そのための資材・人材の調達。眼鏡の少女(ルッカ)が気にかかっています。
5:フィガロ城起動を試みる
6:ヒヨコッコ砲の改造?
7:ケフカ、シャドウを警戒・打倒
[備考]:
※参戦時期はクリア後
※フロリーナの真意に漠然と気付いています
※A-3の城はどうやらフィガロ城と瓜二つのようです。蒸気機関が動作するかは分かりません。
※コインが没収されていることに気がつきました。
※回復魔法に制限がかかっていることに気付きました。


【フロリーナ@ファイアーエムブレム 烈火の剣
[状態]:疲労(大)、顔面に軽度の腫れ
[装備]:ダッシューズ@FINAL FANTASY6
[道具]:不明支給品1個(確認済。武器は無し)、基本支給品一式
[思考]
基本:ヘクトルに会いたい
1:寝る。
2:殺し合いに乗るかどうか、もうすこし悩む。
[備考]:
※ニノとは支援が付いています。
※ヘクトルとは恋仲(支援A)です。


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051-1:エドガー、『夜明け』を待つ フロリーナ 071:暗殺者のおしごと-The style of assassin
エドガー
シャドウ 070:風雲フィガロ城
トカ


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最終更新:2010年06月28日 20:57