灯火よ、迷えるものを導け ◆iDqvc5TpTI
太陽が重い腰を上げ、世界に光が満ち始めたことで、川の水は漸く本来の煌きを取り戻しつつあった。
愛憎渦巻く殺し合いの場には似つかわしくない清流。
その傍らにはこれまた爽やかな景色には相応しくない光景が。
「おらっ、せい、でやっ!」
掛け声と共に武器を振るい宙を裂くは一人の男。
もしも貴公子と言うに相応しい彼の親友が同じことをしていたのなら、絵になる構図だっただろう。
しかし、男の外見も彼の得物も日の光を受け汗を舞い散らせるには粗暴で無骨すぎた。
「うおおおおりゃあああああああ!」
雄たけびを上げ戦斧を振り下ろしつつ男――
ヘクトルはイメージする。
闇夜の中戦った一人の戦闘狂を。
ヘクトルの知る限り無手の格闘術をあそこまで昇華した例は存在しなかった。
度々戦乱が起こり平和が長続きせずにいたエルブ大陸だ。
武器を集団に持たせて手軽に戦力を増強する気風が、時間をかけ形成されていたのかもしれない。
(重量や柄の長さで取り回しに癖がある斧や槍じゃ不利だ。踏み込みは相手の方がはええ上に、密着さると捌きづれえ)
一度身体の動きを止め頭を回転させることに集中する。
懐に入られると上手く刃を当てられなくなるのは、ある程度の長さを持つ柄付きの武器の共通の弱点だ。
槍にしろ斧にしろ柄による打撃でもダメージを与えられなくはないが、やはり出は拳より遅い。
(逆に距離を開けての攻撃、特にあの硬い篭手や筋肉の鎧に影響されない魔法なら一方的優位に立てそうなんだが……)
打開策も浮かびはしたが、あいにく弓も魔法もヘクトルには使えない。
それなりに扱え、武闘家相手でも目立った弱点は見られない剣で立ち向かってもあのざまだ。
アルマーズ級の武器ならともかく、このまま斧を手に再戦してもむかつく話だが分が悪い。
故にヘクトルは未だ目覚めぬ男の回復を待つ傍ら修行することを選んだのだ。
(めんどくせえ! ようは懐に入られるより早く一撃で切り捨てりゃあいいだけだろが!)
シンプルイズベスト。
単純極まりない結論に達したヘクトルは訓練を続行する。
より速く、より強く。
そんな彼に握られた斧の刃に施された細工が陽光により浮き彫りになる。
どこかゼブラの模様に似た装飾通りにゼブラアクスと名づけられたその斧の本来の担い手は二人。
一人は奇しくも同じ時刻、同じ島で、付き合いでとはいえ修行をしている少年。
そしてもう一人は彼の未来の仲間である『ブラキアの英雄』。
だからだろうか?
ブラッドは夢を見た。『英雄』の夢を見た。
▼
夢だということにはすぐに気付けた。
ここには居ないはずの男が、立つこともままならない男が、生き残っただけでも奇跡的な男が、健康そのものの姿で立っていたからだ。
『スレイハイムの英雄』。
真にその名で呼ばれるべき男を、俺は、そいつとの絆の証である名前で呼ぶ。
「ビリー……」
「ああ、お前が『ブラッド』だ」
ふと、デジャビュを感じた。
眠りについていた『勇気』のガーディアンロード、ジャスティーンを蘇らせた時のことだ。
あの時も自分は親友と対峙していた。
違うとすればただ一点。
今の俺は迷っているということのみだ。
「辿り着いたんだろ、俺のじゃない、お前自身の結論に」
そのことも、あいつはどうやらお見通しらしい。
「『英雄』なんてものは存在する必要なんてない、か」
かって目の前の親友に誇示した言葉だ。
何も『英雄』が不要な存在だということではない。
『英雄』とは『勇気』を引き出す為の意志の体現であり、迷いを振り払い、踏み出し進むべき道を示す導であるべきだという俺の持論だ。
与えられるのを待つのではなく、すがりつくのでもなく、人々がまとまり一つの目的を共にして未来を手に入れる。
そんな未来が俺にとっての願いであり、その願いに向かって俺は戦い続けた。
そして遂に、一瞬だけでも世界中の人々が心を一つに繋げ焔の厄災を打ち破ったことで、その導としての役割さえ『英雄』は――俺は終えたのだ。
我ながら幸せなことだと思う。
友と掲げた馬鹿げた理想を叶えることができたのだから。
だが、願いの成就は戦うことしか知らない俺から戦う理由を奪ってしまった。
青空に照らされた日常の下で戦い以外の生き方を知ろうとしていた最中今回の事件だ。
結果は先刻の通り。
闘争心の核を失ったふぬけた俺では魔王相手に手も足も出なかった。
「でも、この島なら、日常から外れた非日常の世界でなら、どうだ?」
魔王オディオにより強制された殺人遊戯。
イカレタ世界、いつかのように首にぶら下がる爆弾。
否応なしに俺にARMSとして戦った日々を思い出させる。
あの頃の俺は何の為に戦っていた?
アシュレーやティム、リルカのように愛する人のためか?
カノンやアーヴィングのように血の宿命に沿ってか?
マリアベルのように古き約束を守ろうとしてか?
違う。
オデッサの壊滅に伴い、過去は全て清算した。
既にあの時に、一度俺の戦いは終わっていた。
ならば何故、戦い続けた?
世界の平和を、人々を守るために戦ったのではなかったのか。
「そうだな。皮肉にも、どうやら答えは探すまでもなく与えられていたみたいだな」
ゲームマスターとは異なる魔王は言っていた。
失ったものを取り戻す、と。
裏を返せば、あの魔王はオディオに願いを叶えてもらう気さえなければ、普段は人を殺さぬ者かもしれないということだ。
いや、何はどうあれ魔王を名乗る人間相手にその考えが甘いというこは分かっている。
ただ、道に迷い誤った方向へと突き進みつつある者達や、望まぬ偽りを抱いてしまった者達もいるかもしれないことが分かれば十分だ。
説得する気は更々ない。
それは、俺の役目ではないからだ。
俺にできるのは戦うことのみ。
オディオの誘惑に屈することなく、人々を守るためにオディオとこの殺人遊戯相手に戦おうッ!
「行くのか?」
「ああ」
今一度、力そのものではなく力を束ねる象徴として。
『英雄』の勤めを果たしに。
何者にも負けない心の力、全ての人々に同じ力が備わっていることを知らしめよう。
俺達の望む明日は、英雄や魔王に与えられるものではなく自分達の手で掴み取るもの。
オディオの甘言に揺れる者達にそのことを身をもって示す。
それが、俺の新しい戦いだ。
▼
斧の柄の上方を持ち突き出す。
斧の刃は厚く、こうすることで
まるで小さな盾が出現したように正面からなら見えよう。
本来は剣や槍や棍棒などの攻撃を防ぎ、受け流す為の動作だ。
攻撃の練習をひとしきり終えたヘクトルは、今度は仮想の拳撃相手に防御の特訓に取り掛かったのである。
襲いくる目に焼き付けた猛攻を受け流す。
砲弾の如き掌打を、死神のカマを思わせる真空二段蹴りを、脳天を揺るがす大打撃を。
受け流し受け流し受け流し――キレた。
「ああっ、めんどくせええええ! だいたい俺は守るより攻める方だろがあああああ!」
斧を大きく振りかぶり、一閃。
空想の敵は瞬く間に霧散し無へと帰す。
元来ヘクトルは気の長い方ではない。
加えて、彼は友か世界かと問われれば迷いなく友を選ぶと実の兄に評された男だ。
いわんや愛する者となら言うまでもない。
ネルガルとの戦いに明け暮れていた頃の彼なら、まず間違いなく見ず知らずのブラッドを置いてでも、
フロリーナ達を探しに行っていた。
ここまで思いとどまってこれたのは、兄の後を継ぎリキアの盟主になったことで生まれた自制心、何よりも、命を救って果てた魔女の存在があってこそ。
けれども、それももう限界だ。
「待ってろよ、みんな! つるっぱげ、てめえもだ! 今度はさっきのようにはいかねえ、必ずぶっ倒す!」
右に斧を担ぎ直し、開いた左手で呑気に気を失ったままの首根っこを掴む。
少々荒っぽいことをしてでも叩き起こす、駄目だったなら担いででも行けばいい。
がっしりした身体つきのヘクトルをしても199cmを誇るブラッドの巨体を運ぶのは一筋縄には行きそうにないが、本人はどこまでも本気だ。
いや、ヘクトル自身からすればどうしてこの妙案にすぐに至らなかったのか不思議なくらいである。
「女一人守れなかったからって自信でも喪失してたのかよ、俺は。クソッ、らしくもねえ。最初っからこうするべきだったってえのに!」
思わず自分への愚痴が漏れる。
どこか弱気になっていたのかもしれない。
そんな考えを打ち破ったのは予想だにしていなかった人物の声。
「……即断は時に大切なものを見落とすことがある。
見直し、下準備をして臨めば、出遅れることはあっても得られるものは大きい」
見ると、今にも拳を叩き付けられんとしていた眠り姫ならぬ眠り野郎は地面とのキスも待たずに目を覚ましていた。
「なっ、てめえは!」
よくよく考えれば非常に誤解され兼ねない状況なのだが、お構いなしに斧を構えるヘクトルにブラッドは諸手を挙げる。
戦う意思のないことの表明だと見て取れるが、
リーザやセッツァーの情報により媒介なしで魔法を使える人間がいることを知ったヘクトルは緊張を緩めない。
が、ブラッドは気にすることもなく口を開く。
「俺は『てめえ』なんて名前でもなければそこまで軽い人間でもない」
ヘクトルのぼやきから殺し合いに抗う意思を感じていたからだ。
魔王にやられたはずの傷の痛みはいささか退いているのも彼のおかげだろうと判断し、ブラッドは名乗る。
「俺はブラッド。スレイハイム軍の、そしてARMSの『ブラッド・エヴェンス』だ」
その名乗りを聞き、どうしてだろうか、ヘクトルは直感で理解した。
ブラッドが自身が目指す兄、前オスティア侯ウーゼルと同様、多くの人々の心を背負った人間なのだと。
大切な誰かの後を継いだという共通点から、何か感じるものがあったのかもしれない。
(これじゃあエリウッドの奴を笑えねえな)
すぐに他人を信じがちな親友の顔を思い浮かべ、ヘクトルも構えを解き笑みを浮かべる。
「そうかい。俺はヘクトル。オスティア候ヘクトルだ。よろしくな」
「ああ、こちらこそよろしく――ってとこかな?」
まあ、たまにはこういうのも悪くない。
にやりとしつつ返事をする男にデイパックを投げてよこしながらヘクトルはそう思った。
【H-6 北部、川辺 一日目 早朝】
【ヘクトル@
ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:全身打撲(小程度)
[装備]:ゼブラアックス@
アークザラッドⅡ
[道具]:聖なるナイフ@ドラゴンクエストIV、ビー玉@
サモンナイト3、
基本支給品一式×2(リーザ、ヘクトル)
[思考]
基本:オディオをぶっ倒す。
1:仲間を集める。
2:ブラッドと情報交換しつつ、フロリーナ達を探す。つるっぱげも倒す
3:セッツァーをひとまず信用。
[備考]:
※フロリーナとは恋仲です。
※鋼の剣@ドラゴンクエストIV(刃折れ)はF-5の砂漠のリーザが埋葬された場所に墓標代わりに突き刺さっています。
※セッツァーと情報交換をしました。一部嘘が混じっています。
ティナ、エドガー、
シャドウを危険人物だと、マッシュ、ケフカを対主催側の人物だと思い込んでいます。
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最終更新:2010年06月28日 23:10