黒のジョーカー ◆FRuIDX92ew



水が透き通って晴れていればそこが見えそうなくらいほど綺麗な川。
その川の流れはゆっくりと、かつ確実に南へと進んでいく。
ブラッドという大きな船を浮かべながらゆっくり、ゆっくりと進んでいく。

どれくらい流れているだろうか? ブラッド自身は一向に目を覚ます気配は無い。
ただ、彼は幸運なことに大きな岩に引っかかることができ、流れることを止められたのだ。
しかし、彼はまだ目を覚まさない…………。



鎧には数々の打痕。酷い所は金属が拉げてしまっている所まである。
しかし鎧を着込んだ本人、ヘクトルに目立った外傷はない。
それもそのはず、彼が今背負っている女性が傷を治したからだ。
……自らの命を賭してまで。
もう動かない女性は担いでみてもやはり異様なまでに軽かった。
死人はこんなにも軽いものなのか、と不思議な感覚にすら陥りそうなくらい。
なのに軽いはずの女性が、ヘクトルに重い重圧を与え歩みを鈍らせる。

ふと気がつけば、ヘクトルの目の前には砂漠が広がっていた。
もとより目指していたわけだが、半ば無意識に足を進めていたためどれくらい歩いていたのかの自覚は無かった。
ヘクトルが此処に来た理由は一つ。
「すまねえ、本当はしっかり埋めてやりたいんだが……」
ヘクトルは少しへこんだ所に彼女を寝かせ、上から周りの砂を被せていく。
時間はかかるものの、穴を掘るよりかは簡単に済む埋葬だった。
砂が彼女の全身を覆いつくすように被さった所で、ヘクトルは刃の折れた剣をそこに突き刺す。

「ホルンの魔女……リーザ。アンタの分まで俺はあの野郎をぶっ潰す。
 アンタが成し遂げられなかった分まで……俺に任しとけ」
その言葉と共に、彼女のデイバッグに入っていた透明の球体を天に掲げる。
数秒その姿勢で固まった後、墓というには簡素すぎたそれに背を向けて走り出した。
今のヘクトルにはグズグズしている時間は無い、ましてや後ろ向きに進むなんてもってのほかだ。
振り返っている時間はない、今は一秒すらも惜しい。
このフザけた殺し合いを止めるための仲間を探すために、自然とヘクトルは駆けていた。



外に出て数分、ふらふらとした足取りのセッツァーは回収したトルネコのデイバッグを手に取った。
デイバッグを二つ持つのも億劫だったので、中身を全て自分のデイバッグに移し変えることにしたのだ。
トルネコのデイバッグの中身は一切確認していない、ひょっとすればこの槍より扱いやすいものが入っているかもしれない。
期待を膨らませながら中を漁ってみるも……セッツァーにはとても扱えたものではない物が二つほど。
唯一使えそうだったのが銀色に輝く一枚のカード。硬さは申し分ないがいつも使っているトランプよりかは扱いづらい。
無いよりはマシと言い聞かせカード以外の物を自分のデイバッグに仕舞い込み、銀色のカードをコートのポケットに押し込んだ。
そして、荷物を移し変える際に気がついた一冊の本に目を通す。
不幸にもこの殺人ゲームのチップとなってしまった者たちの名前が並べられている。
もちろん自分、「セッツァー=ギャッビアーニ」の名前も。

驚いたのはそこに並ぶ他の名前である。
ティナ・ブランフォードエドガー・ロニ・フィガロマッシュ・レネ・フィガロ、シャドウ、ゴゴ、ケフカ・パラッツォ
ケフカとゴゴという人物以外はかつてセッツァーの仲間だった人間だ。
ケフカに至ってはあの瓦礫でできた塔でお山の大将を気取っているが、力は本物である。
この五人の強力さは自分も良くわかっている、真正面から殺害するとなると多少無理がある。
しかし、ゲームに勝利し配当を頂く上では避けては通れない壁である。
どんな手段を使ってでも、この五人はできるだけ早めに排除しておきたい。

ありとあらゆる手段を考えているうちに、気がつけば目の前に一本の川があった。
何の変哲も無い……筈だったが、どういうことか全身にやけどを負った男が倒れこんでいる。
セッツァーは槍を手に持ち、男へと足早に近づく。
どうやら男は気絶しているらしい、ここで心臓を一突きにすればいとも容易く殺せる。
しかし、此処でこの男を殺したところでメリットはアイテムが増える程度だろう。
もし殺す瞬間を誰かに目撃されたとなれば自分が人殺しになっていることがバレるかもしれない。
その上この怪我である、放って置けば勝手に死にそうでもある。
後始末、その点を如何に綺麗にできるか。
まだまだ敵を作る状況ではない、正面から戦闘を挑まれ続けてはさすがに生き残れない。
「シャドウ……ヤツなら、どうするだろうな」
こういう場面に場慣れしていそうな仲間だった男の名前を呟く。
槍の構えを解き、怪我の男を川から引き上げようとしたその時。
「おい、アンタ」
見知らぬ方向から唐突に声をかけられた。
声の方向へ振り向くと、微かに息を上げた男が立っている。
「単刀直入に聞く、あんたは殺し合いに乗ってるのか?」
ナイフを構えながら鎧の男はセッツァーに問いかける。
自分の得物は槍、相手はナイフ。
武器のリーチ、攻撃力を取れば自分が上かもしれないがどうやら戦闘経験の差は大きそうだ。
相手の体格、構えからしてもなかなかの熟練者だと感じられる。
無駄に戦闘をして体力を削られるのは避けたい。
その上鎧の男はセッツァーを見る前に怪我をした男にも目を配っていた。
セッツァーはそれを見逃してはいなかった、警戒されているのは間違いない。
無駄に敵を作るのは……やはり賢明ではない。
「まさか……冗談じゃない」
セッツァーは槍を投げ捨てやれやれといったポーズをとり、笑った。
ヘクトルの構えが解かれるのも、すぐの事である。
「いきなりこんなところに連れて来られて、歩いていたら川に人がぶっ倒れてたんだ。
 様子を見に来ないほうがおかしいだろ、それで今どうしようかと……な。
 ちょっと手伝ってもらってもいいか? 俺一人じゃ完璧に引き上げるのは難しそうだからな」
その言葉を聴き、鎧の男はセッツァーへと歩み寄る。
そして、二人そろって川に浮かぶ男の体を掴む。
「せー……のォッ!!」
水しぶきを上げながら一人の男が川を脱出し陸へと上がる。
躍り出る男はまるで鮭のように地面へと放りだされた。
未だに目が覚めない男を目にして、二人は無性に笑いがこみ上げてきた。
「……しっかしひでぇ怪我だな」
セッツァーがそう呟くのも無理はない、怪我の男の全身の火傷は皮膚の色を変色させるほどの強烈なものだった。
幸い川に漬かっていた事で悪化はしなかったようだが、それでもひどい怪我であることには変わりない。
セッツァーは静かに覚えた魔法の一つ、ケアルラを詠唱し始める。
柔らかな光がブラッドを包み込み、ブラッドの火傷が少しだけ回復しているように見える。
二度目の光景ではあったが、鎧の男はやはり驚きを隠さずにいられなかった。
「……アンタもか。 なんで杖もなしに回復魔法が使えるんだ?」
セッツァーは別段驚きもせずに、静かに鎧の男のほうへ向く。
「あー、これにはそのいろいろ理由があって……えーと?」
セッツァーが頭に手をやっていることに気がつき、鎧の男は急いで口を開く。
「あ、ああ。俺はヘクトルだ。あんたは?」
「……セッツァー、夢を追い続ける男セッツァーだ」
ヘクトルは何気ない自己紹介だった。
だが、セッツァー違った。もう一度確認するため。自分の意思を揺らがせないためでもあった。



「……で、リン、フロリーナ、ニノってのがアンタの仲間でジャファルってのが一応気をつけるべきなんだな?」
互いの世界、魔法のこと、さまざまなことを交えながらの軽い自己紹介の後にお互いの情報交換を始めることにした。
「ああ、リンはこんな状況でも人を斬るってのはよっぽどのことじゃない限りねえ。
 ニノはまず無いな、あいつも人を殺すようなヤツじゃない。ジャファルの野郎もニノのおかげでマシになりつつあるが……気をつけたほうがいい。
 フロリーナも……大丈夫だ、殺し合いに乗る人間じゃない」
ヘクトルは一切嘘を交えずセッツァーに話す。ジャファルに気をつけたほうがいいというのは的確な情報ではあった。
しかし、現実は残酷なことにそれ以外にもリン、フロリーナの二人が殺し合いに乗っていることを知らない。
「そうか、わかった。俺が知ってるのは……」
セッツァーも名簿を片手にヘクトルに話す。
「まず、ティナだ。コイツはヤバイ。かつて魔導アーマーっていう兵器を使って敵軍の兵士を何十人も殺戮したことがある危険なヤツだ。
 しかも俺より魔法の知識に秀でているから戦闘になるのは避けたほうが良さそうだぜ」
セッツァーは喋る、かつての仲間のことを。
「エドガー、こいつもヤバい。国王なんだが自分の国を機械で埋め尽くしてそのうち世界を征服しようだなんて考えてるタマだ。
 けったいな機械を使ってあたりのやつらに攻撃を仕掛けてるかもしれないな」
セッツァーは喋る、かつて仲間だったもののことを。
「マッシュ、こいつは安心だ。エドガーの弟なんだが兄貴のやり方に嫌気が差して国を抜け出したらしい。こういう殺し合いには乗らないタチだとは思うぜ」
セッツァーは喋る、排除すべき存在のことを。
「シャドウ、一番危険だな。受けた仕事は必ずこなす。たとえそれが殺人だったとしても……人を殺すことに躊躇いはねえ、近づくのはやめたほうがいい。」
セッツァーは喋る、己の夢のために。
「ケフカ、絶対に安全だ。魔法の知識も豊富だ。こういう殺し合いにはまず乗らないヤツだしな。この忌々しい首輪もなんとかしてくれるかもしれねえ。こいつを最優先で探したほうがいいいかもしれない」
セッツァーは喋る。若干の嘘を交えて。嘘と真実を交差させ、嘘を目立たなくさせる。
結果的にヘクトルには嘘が真実だと刷り込まれていくだろう。
ギャンブルでも使うブラフのテクニック、相手が見抜けるかどうかの問題だ。
「こいつらの特徴だが……」
ここから先は嘘を交えずに述べる。
特徴で嘘をつくメリットは無い。が、本人像で嘘をつくメリットはある。
ティナが殺戮兵器だったのは事実だ、そこを見知らぬ人物に突かれれば多少ひるむことはあるだろう。
エドガーはこの首輪を真っ先にどうにかしそうだ、このゲームを壊されてはせっかくの夢もかなわない。
ヤツの首輪解除というイカサマを真っ先に防がなければならない。
マッシュは……特に気を配る必要も無いだろう。
シャドウが危ない人物なのは事実だ、正体がつかめない。早めに消えておいてほしい人物だ。
ケフカは真っ先に取り除いておきたい、だがヤツに他の人物をぶつければヤツはきっと利用しつくすかその場で殺すだろう。
効率はいいとは言い切れないが、このゲームの参加者を減らしてくれるには違いない。
「とまあ、こんな感じだ。分かったか?」
ヘクトルは頷く、それをみてセッツァーは親指を立て、笑顔を作る。
ヘクトルは知らない、その笑顔の下に潜むものを。
「さて……俺はそろそろ行くぜ。止めなくちゃいけない奴等がいっぱいいるからな」
セッツァーは槍を手に持ち、ゆっくりと進みだそうとする。
「おい、待てよ。俺も一緒に行くぜ」
ヘクトルがセッツァーの肩を掴み、セッツァーを引き止める。
セッツァーはゆっくりと手を振り払い進み始める。
「悪いな、これはちょっと俺の問題でもあるんでな。俺ひとりにやらせてくれ。それに――」
セッツァーは指を指す。ヘクトルの背後で倒れている男に向けて。
「あいつ、あのままほっといてたら死ぬかもしれないだろ? どうか面倒見てやってくんねえか?」
ヘクトルはその言葉に多少たじろぐが、最終的にはセッツァーの肩から手を離した。
「分かったよ……その代わり、絶対死ぬんじゃねえぞ」
「ああ、分かってる」
ヘクトルと拳を突き合わせ、別れの合図を交わす。
今から歩き出そうとしたその時、セッツァーの歩みが止まる。
「そうだ、コレ。置いてくから使ってくれ。どうにも俺には扱えないんでな」
セッツァーのデイバッグから出てきたのは一振りの斧。
それを地面に突き刺し、セッツァーは闇へと向かう。
「じゃあな」
短く交わす別れの言葉。
「生きてたら会おうぜ」
「ああ、お互いな」
その言葉が宿す真意に、当分気づくことはない。

【G-6 南部、川辺 一日目 黎明】
【セッツァー=ギャッビアーニ@ファイナルファンタジー6】
[状態]:若干の酔い
[装備]:つらぬきのやり@ファイアーエムブレム 烈火の剣、シルバーカード@ファイアーエムブレム 烈火の剣
[道具]:トルネコのランダムアイテム2個(セッツァーが扱えるものではない)、基本支給品一式×2(セッツァー、トルネコ)
[思考]
基本:夢を取り戻す為にゲームに乗る
1:手段を問わず、参加者を減らしたい
2:扱いなれたナイフ類やカード、ダイスが出来れば欲しい
※参戦時期は魔大陸崩壊後~セリス達と合流する前です
※名簿を確認しました。
※ヘクトルの仲間について把握しました。



「さて……と」
斧を地面から引き抜き、ヘクトルは倒れている男のそばによる。
万が一この男が起き上がりざまに襲ってきたときのために、武装は剥がしておきデイバッグは没収しておいた。
そして座り込み考える。セッツァーが信用に足る人物かどうかを。
通りすがりだった自分をいとも容易く信用し、さらに名も知らないこのけが人に回復魔法をかけるほどのお人よしだ。
確かに何か考えているかもしれない、しかし現在のヘクトルにはセッツァーを悪と断定する要素はない。
相手にわざわざ武器を渡し、戦力を増強させるのは並みの考えではない。
しかし可能性を考え始めればいくらでもセッツァーを疑う要素は見つかる。
「あー……めんどくせえ」
が、ヘクトルはそんな難しいことを考えるのは得意ではなかった。
未だ起きない男の隣で、ヘクトルは一人夜空を見上げる。
リーザの遺品のガラス玉を突き上げてみる。光はない夜空だというのに、妙に輝いて見える。
キラキラと、キラキラと。幻のようにビー玉は輝く。
まるでヘクトルを見守るように。

【H-6 北部、川辺 一日目 黎明】
【ヘクトル@ファイアーエムブレム 烈火の剣
[状態]:全身打撲(小程度)
[装備]:ゼブラアックス@アークザラッドⅡ
[道具]:聖なるナイフ@ドラゴンクエストIV、ビー玉@サモンナイト3、ブラッドの不明支給品1~2個、ドラゴンクロー@ファイナルファンタジーVI
     基本支給品一式×3(リーザ、ヘクトル、ブラッド)
[思考]
基本:オディオをぶっ倒す。
1:仲間を集める。
2:ひとまずブラッドの保護、目を覚ますまでは一応そばにいる。
3:セッツァーをひとまず信用。
[備考]:
※フロリーナとは恋仲です。
※鋼の剣@ドラゴンクエストIV(刃折れ)はF-5の砂漠のリーザが埋葬された場所に墓標代わりに突き刺さっています。
※セッツァーと情報交換をしました。一部嘘が混じっています。
 ティナ、エドガー、シャドウを危険人物だと、マッシュ、ケフカを対主催側の人物だと思い込んでいます。

ブラッド・エヴァンスWILD ARMS 2nd IGNITION
[状態]:気絶、全身に火傷(多少マシに)、疲労(大)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:主催者を倒す。
1:気絶中。
[備考]
※参戦時期はクリア後。

時系列順で読む


投下順で読む


009:遺志を継ぐもの ヘクトル 054:灯火よ、迷えるものを導け
013:ブラッド、『炎』に包まれる ブラッド
011:夢をもう一度 セッツァー 062:セッツァー、『山頂』で溺れる


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最終更新:2010年06月25日 22:54