Avengers ◆iDqvc5TpTI


空気が通るように積み上げた太い薪に囲まれて炎が踊る。
洪水の余波で常以上に新木は湿気てしまっていたが、火床として並べた紙が期待通り一役買ってくれていた。
ランタンに付属していた油を使用したことも上手くいった一因だ。
着火に成功したミネアは最後の仕上げとして火力を上げにかかる。

大切な人達の名前が書かれた名簿が燃えていく。

これから何かと不便になりそうだが仕方が無い。
濡れた状態で触ってしまい無為にした分を補うためには、後少し紙が足りなかったのだ。
ただでさえ血を流し冷たくなっていた少女。
自分はともかくこれ以上彼女の体温を低下させるわけにはいかない。
緑の髪を束ねていた飾り布も含めて、下着以外はすべて脱がせた。
空の色を写し取ったかのような蒼い衣服は絞って広げれ、火の傍に置いて乾かしている。
ミネア自身の服もまたしかり。
炎は命ある者にも無き物にも平等に暖を与えてくれる。
運よく拾った剣で切り落とした枝を火にくべる。
勢いを得た赤は相手が新木であろうとも容赦せず飲み込んでいく。
助かる。
流石に地図まで燃やしてしまっては、うっかり禁止エリアに入り込んで爆死してしまいかねない。

ふと思う。
空に浮かぶ城に龍の神。
御伽噺のような存在が実在していたのだから、天国もあながち人間の幻想ではないのではないか。
だったらこの昇り逝く煙は、いつしか父の、そしてクリフト達の待つ場所へと辿り着くのかもしれない。
下手すれば自分達のもとに危険人物を呼び込みかねない煙が、少し羨ましくなった。

ついさっき流れた放送。
どこからと知れず響く声が告げた死者の名前。
トルネコ、アリーナ、そしてアリーゼ
多くの苦楽を共にした二人の仲間、出会ったばかりの一人の少女。
彼らは死んだ、居なくなってしまった。
無駄だと分かりつつも占った結果は単に事実を強調するばかり。
デスイリュージョンの名が示すとおり、めくったカードの絵柄は死神。

「オディオ、あなたはわたしに恨まれる理由をいくつ増やせば気がすむのかしら」

煙が目に沁みて押し留めたはずの涙が出そうになる。
お転婆だけど正義感が強くて父親や国民達を大事にしていたアリーナ。
お気軽で小心者で、でも、夢に向かってひたすら努力し、それ以上に家族想いだったトルネコ。
もう永遠に彼らに翻弄されることも、笑顔をもらうことも無いのだと思うと悲しかった。

「慣れないものよね、ほんと」

大切な人を理不尽に失うことは何も初めてではない。
クリフト以前にも父を裏切られ殺されたことがミネアにはある。
あのときに味わった絶望、怒り、悲しみ、憤り、喪失感。
それが立て続けにミネアの心に飛来していた。
唯一つ、最も強い感情を欠いた形で。

「アリーゼちゃんのこと、せめてそのアティ先生に伝えてあげないと」
「……うっ、く」

会って間もない少女のことに思いをはせていると、自分のものとは違う声が鼓膜を打った。
煙を追って空を見上げていた瞳を地に戻し右へとずらす。
助けた少女が身じろぎし、目を覚ましていた。
身体を起こしたばかり少女の見上げてくる視線と交差する。
あと少し待ってくれたら腫れたままの目を見せずに済んだのだが、仕方が無い。
こういう時はおはようございますでいいのかなっと変なことを考えつつ、口からは別の言葉が漏れ出ていた。

「人はどんな時に復讐に走りたくなるのでしょうか?」

それこそが『かって』と『今』の差異を端的に表す問い。
仕掛け人はオディオでも、仲間の命に直接手を下した別の誰かがこの地にいるはずなのに。
誰とも知らない彼らへの復讐心だけは湧き上がっては来なかった。





意味のない戦いだった。無価値なる戦いだった。
王の愛する者を奪ったのは人間ではなくて。どころか人の護り手である勇者によって再び命を得てこの地でも生きている。
教師が護れなかった生徒は、限りなく近く、極めて遠い世界の人間で、互いにすれ違いに気付かないまま。
オディオが掲げた勝者への権利を目指してでもなく、大事な人を救いうる道にも関せず、ただ殺す。ただただ殺す。
もしもピサロが名簿を一目でも見ていれば、人間への憎悪は消えなくとも、殺す以上に護ることを優先したかもしれない。
もしもアティが剣に身を委ねていなければ、この哀れな魔王の言動から事情を察し、救おうとしたかもしれない。
されどIfは現実の前には風の前の塵に同じ。
抑揚の効かない衝動じみた復讐心の赴くままに傷だらけの道化達は踊り狂う。

剣閃が舞い、殺意が飛び交う。
大切な者を失った二人の復讐者が己が喪失を埋めんと互いに傷を広げ合う。
吐き出された憎悪の言葉は、全て我が身に跳ね返る。
それでも。止まらない、止まらない。怨嗟の念を、後悔の叫びを。
湧き出るがままに浴びせていく。

「アナタガ、アリーゼちゃんヲ、レイさんを、殺したあああぁぁあアアアアアアァAAAAAAAAAAAッ!!!」

――私が弱かったから。私の心が、弱かったから。きれいごとばかりを夢見たから

剣の憎しみと同調した伐剣者が横薙ぎに剣を放つ。
煌くは碧の殺意。
弧を描き、禍々しい光を纏った刃が若き魔界の王へと襲い掛かる。

「……黙れ。黙れ、人間が! 私からロザリーを奪った身で何をぬけぬけと!」

――守れるだけの力はあった。なのに何故私はロザリーの傍らに居なかった!? 何故!

王は激昂をのせて上段からヨシユキを叩きつけ、シャルトスを撃墜。
すかさず左の手に持ったバイオレイターを繰り出し、心の臓を抉りにかかる。
が、不発。
切り払われ地に堕ちゆくのみだったはずの魔剣が宙空で消失。
身軽に腕が唸りを上げ、再度主の前に顕現した剣によって短剣の穂先を阻む。

「「ううう、あああああああああああああああああああああああああああっ!!」」

暗い、クライ、Cry。
守れなかったという事実に力なき人間も、力ある魔族も関係ない。
血の涙を流し、慟哭の声を上げることしか許されない。

「「があああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアア嗚嗚嗚嗚嗚ッ!!」」

剣の魔力が天を軋ませ空に悲鳴を上げさせる。
王の魔力が地を揺るがし星は嘆き泣き叫ぶ。

「コロ、ス……ッ! ブチノメスッ!! ハカイシテヤルッ!!」

――今更過ぎる力。もうそれしか使い道がないのだから。

天候さえ操る碧の賢帝が起こした嵐が銀髪の男を飲み込まんと顎を開く。

「滅びろ、人間っ! ジゴスパアアアアアアアアアアアアック!!」

――滅ぼさなければ、ならない。そうでなければ、ロザリーは何のために死んだ?

地獄より呼び起こされた黒き稲妻が地面ごと異形の女を砕かんと猛進する。

無色の風と漆黒の雷。
真逆の様をなす二つの力がぶつかり爆ぜる。
暴風が吹き荒れ、火災により朽ちた木々が粉砕される。
散弾銃で撃たれたかのような有様だ。
狂える雷神が落とした鉄槌も負けてはいない。
山をも砕き、抉られた大地は地層すら見えている。
咲き乱れる死の華が。
相殺されたにも関わらず圧倒的なエネルギーは消滅しきらずに二人を取り巻くように渦巻きだす。
常人では近づくだけで命を奪われかねない圧倒的な力の渦。
極光に覆われた破滅の世界。
それらを次の一撃で一瞬にして霧散させ、ピサロとアティは自らへの苛立ちを、外敵への憤怒をぶつけ続けた。




懐かしい夢を見た。
夢という形で過去の自分と交差した。
ラウス侯ダーレンに攻め込まれるよりずっと前。
マークに出会い、自身が公女だと知るよりもさらに前。
リンにとって最初の始まりとも言うべき出来事。
少女の部族は山賊団に襲われ、父と母とを失った。
守りたかった父が治めていた部族も、小さな少女には誰もついてはこなかった。
抱いたのは、怒り。
卑怯な手で全てを奪っていった山賊への。
弱かった自分自身への。
故に誓ったのだ。
いつか強くなってみんなの仇を取ってやるって。

それも今となっては昔話。
一時たりとも忘れることのなかった深い傷痕は。
もう、叶うことのない夢のまた夢。

「わかってくれたかしら。これが私の知っている限りの事の顛末なんです。私達の世界の武器が迷惑をおかけしてすみませんでした」
「そんなことないわ。剣に負けてしまったのは私の弱さのせいなんだし。とにかく、助けてくれてありがとうミネア」

乾いた服に腕を通す。
剣に憑かれている間の記憶はぼんやりとだが覚えていた。
神殿で意識が覚醒しかけた時のこともだ。
神秘的な褐色の肌の女性からもたらされた情報から推察するに、皆殺しの剣に拭いきれない憎悪の記憶を掘り起こされ利用されていたのだろう。
無理に殺意を植えつけるより、元からある憎しみを伸ばす方が遥かに効率がいいのは、言うまでも無い。
今のリンを形成している根底の一部に土足で入り込まれたことと、いいように操られた自分の不甲斐なさが堪らなく悔しかった。

「ミネア、最初の質問の答えだけど」
「ごめんなさい、いきなり変なことを聞いてしまって。独り言みたいなものですから気にしないでくださいね」

ミネアの生い立ちは聞いていた。
よっぽどばつが悪かったのか、起き抜けの問いの後、聞いてもいないのに話し出してくれたからだ。
神官の人も入れて三人の仲間を亡くしたばかりであることもだ。
運がよかったとリンは思う。
気絶していた自分を見つけたのが殺し合いにのっていない人物だったこと。
その人物が占い師で記憶力には自信があったこと。
彼女から聞かされた放送の内容には、リンの仲間の名前は含まれていなかったこと。
その全てが幸運だった。
そんな自分が、ミネアが求める答えを出せるかは分からなかったけれど。
草原の民は受けた恩を忘れない。
リンは、かって復讐を草原で一人生き残る為の力にした少女は、少しでもミネアの力になろうと口を開く。

「私も長いこと復讐を志していたわ」

語る、自らの過去を。
呪われし剣に冒されたそれを、自分のものとして取り戻すために。
一言一言過ぎ去った日々を言葉にしながら噛み締めていく。

「リンさんとわたしは似たもの同士ですわね」

似たもの同士。
そうかもしれない。
親を殺されたことも。
復讐を誓って生きてきたことも。
結果世界を救うことになったことも。
全部が全部、似通っていた。
でも違う。
リンはついぞ復讐することができなかったのだ。

「ワレスさんっていう父さんの友人で、私の力にもなってくれた人がいたの」

スキンヘッドで厳つい外見と、それに似合う頑固で無茶苦茶な性格の人物。
彼の方向音痴や新兵訓練趣味にはリンも何度も困らされた。
キアランへの帰国途中でまた道に迷い、北国へと辿り着いてしまったという噂を思い出し、自然と笑みが浮かぶ。
どうやらこれから話すことを根には持っていないらしい自分にどこか安堵した。

「その人に横取りされちゃったわ。私がぐずぐずしているうちにね」

真に主君を想う騎士の中の騎士。
どれだけ言葉を尽くしても、ワレスの芯はそこにある。
そんな彼はリンの心が過ぎた憎しみに囚われ、歪められてしまうことを良しとしなかった。
敵討ちではなく、リンに幸せになって欲しい。
その一心でリンの意に反してまで人知れず盗賊団を壊滅させていたのだ。
己が、本当に主君のためになる行動をしているかどうか。
常にそのことを考え続けていた男らしい行動だった。

「正直恨みさえしたわ。あいつらは私の仇だった。私が、この手で、殺したかった。
 そうじゃなかったら意味がないってっ!」

当時は訳が分からなくなった。
復讐のために鍛えたはずの力は行き場をなくし、ワレスに怒りをぶつけようにもリンには彼を嫌うことはできなかった。
世界を滅ぼさんとする巨悪との戦いの最中だったこともあり、できるだけ考えないようにしていた。

「でも、今は少しだけ違う。ネルガルと戦い終えて、平和な日々を過ごしてた今なら」

あの時流れた血も、死んだ父さんたちのことも覚えてる。忘れられるわけが無い。
けれど、一つ新しく分かったこともあった。

「あいつらが生きてる限り、私は前に進めないと思ってた。それが私にとっての復讐の理由。
 それは裏を返せば、私が前に進めるのなら復讐は必ずしもする意味はないということ……」

元気を取り戻した祖父と一緒に話した、散歩した、音楽を聴いたりした日々。
念願だった母の愛した草原を共に歩いた時、リンは紛れもなく幸せだったのだ。

「山賊団達が生きたままだったら気が気じゃなくておじいさまともあんなにも平和な日々を送れなかった……。
 目先の復讐に明け暮れていたら後々後悔していたかもしれないわ」

ワレスが危惧していた心が曇るということはきっとそういうこと。
リンに復讐を否定するつもりはない。
未だ彼女の心のうちから憎しみは消え去っていないから。
ただ、肝には命じておくことにした。
復讐に縛られ、新しく得た者や、手の内に残っているものまでも取りこぼしてしまわないように。
そのことをミネアに告げ、リンは彼女なりの答えを出す。

「人はその人にとっての全てを亡くした時に、亡くしたと思った時に、復讐に生きようとするのだと思う」

いわばパンドラの箱の逆定義。
心という入れ物から全ての希望が抜け出た後に残るのは絶望という名の空っぽの入れ物。
その空白を満たそうと人は復讐という獣を飼う。
注意すべきは、その獣は希望さえも食い物にして育つという点。
見逃していた、見ようとはしなかった希望を、新たな絶望の苗床と化してしまう。





魔王の称号は伊達ではない。
ピサロには他の者の追随を許さないだけの魔力と剣技があった。

「――イオナズン」

超新星爆発。
宙に連なる星々が命を燃やし尽くすその一瞬の輝きの如き爆発がかっての森を埋め尽くす。
たとえ屈強な戦士であろうともまとめて5人は葬れるであろう殲滅魔法。
されど、その女は己が纏いし一枚のコートすら傷つけることなく爆炎を抜ける。

「AAああAaaaAaaAAあAAAaaあAaaAAああAaaッーーー!!!!」

女――アティを抱きしめ守護するは天使ロティエル。
本来なら召喚し憑依させようにも剣の意思にはじかれてしまう筈のサプレスの住人。
その欠点を剣はアティが左手に抱きかかえたままのアリーゼの死体に降ろすことで解決したのだ。
ロティエルがアリーゼの死体ごと光壁でアティを囲い魔法を弾く。
ピサロの全身から放出されたオーラが天使を吹き飛ばすころには、アティは彼の懐へと飛び込んでいた。

斬ッ!

殺意に駆られても帝国軍学校主席を勝ち取った足運びや身のこなしは身体が覚えている。
迸る魔力による身体能力・加速力のブーストもあいまって、女性とは思えない重い攻撃だった。
その一撃でさえピサロの技巧の前には届かない。
両の剣を交差させ受け止めた上でのサマーソルトキック。
意識を刈る蹴りがアティの顎下を打ち付ける。
だが足りない。その程度では今のアティを殺すには威力が足りなさ過ぎる!
アティの左腕の水の紋章が輝く。
世界を構成する5つの要素を司る真の紋章が一つ、真なる水の紋章の紋章の眷属たるその力。
制限された状況下とはいえ、大したダメージを受けていなかったアティを癒すには充分。
ピサロの蹴りの戦果は、吹き飛ばしたアティの眼鏡一つで抑えられる。

開戦以来この繰り返しだ。
レイ戦のダメージが残っていることもあり、防御を打ち崩しきれないピサロ。
回復魔法も扱える相手に対し決定打に欠け、地力でも劣るアティ。
このまま戦い続けてもジリ貧なのは明らかだった。

「バイキルトっ!」

状況を打開せんとピサロが動く。
破壊衝動に動かされ、やみくもに死を振りまくだけのアティと違い、ピサロには理性が残っていた。
この地に巣くう命を皆殺しにするためにも、一人にばかり時間を取られているわけにはいかないと判断したのだ。
短剣をしまい、刀の柄を両の手で握り大上段へと構える。
一人の格闘家を死に至らしめた魔人の洗礼。
攻撃補助呪文を受けたそれは、更に重く、更に鋭い。
当たればいかな魔剣の主でも、剣の加護ごと両断されるは必須。
あくまでも、当たればの話だが。
疲労こそしているものの、レイとは違いアティに動きを阻害するほどの外傷は無い。
ピサロの腕を以ってしても、伐剣者相手に命中させれる確率は五分と五分。
全力での一撃が故に、外した時の隙は致命的なまでに大きい。

ピサロは勿論、アティもまたそのことを理解していた。
猛り狂っていたのが嘘のように、静かに、優しく、傷痕の無くなったアリーゼの遺体を地に降ろす。
僅かに残っていた優しさが為せた業なのかは分からない。
あくまでに勝つために必要だったからかもしれない。

「ォォォオオオオオ……」

空いた左腕が取り出したのは破壊の鉄球。
強化された腕力が難なく腕一つで自在に振るうことを可能にしていた。
鉄鎖が円を描き、鉄球が風を喰らう。
頭上を守る位置で回転しているそれが、今か今かと獲物に向けられる時を待つ。

当てられるか、かわせるか。
ピサロには次が無い。
バランスを崩した状態では出の遅い鉄球ですら避けること能わず。
アティには先が無い。
素早さで劣る以上、かわさなければ反撃も叶わず断ち切られるのみ。

静寂。
荒野と化した地に、たった一度の静寂が訪れる。
相手の挙動を伺い、必滅を期す両者が睨みあう。
永遠とも思える刹那。
時計の針を動かしたのは一陣の風。
軽い音を立てて、少女が死した後も先生の命を守っていたサモナイト石が血の通わぬ手から転がり落ちる。

瞬間。
ピサロが地を蹴り、神速に神速を重ね太刀を振り下ろす。
アティが予測に従い身体の軸をずらそうとしながらも、同時に鉄球を打ち出す。

――そのどちらが届くよりも速く。
二人の間に衝撃波と、続く人影が割って入った。





「会ったことはないけれど分かります。リンさんは元の世界の人たちに、本当に愛されていたのですね」

火を消し、立ち上がったミネアがリンに笑いかける。
数分前にもらったリンの返答はミネアにとってすとんといくものだった。
そういうことなら復讐心が沸くはずはない。
彼女にとっての一番大切な人は。
たった一人の姉妹はこの殺人遊戯には巻き込まれていないのだから。
姉だけではない。
オーリンも、ペスタも、コーミズ村の人々も元の世界で平和に暮らしているはずだ。

「いえ、むしろピンチよ、これは。いけないわ、姉さんを一人にしていたら。
 誰も止めてくれる人がいなくてまた借金が!」

余計なことにまで思い至ってしまったミネアは、今一度オディオ討伐の決意を固める。
復讐に意味はない。
使い古された言葉だが、半分嘘で、半分正解。
ミネアは復讐を遂げたことで確かに前へと進むことができたのだ。
多分、自分の選んだ道もリンが掴んだ結果も、どっちも間違ってはいない。
止められるべき復讐があるのだとすれば、それは先のない復讐のことかもしれない。
ミネアの中で整理がついた。

「大変ね、あなたも」

苦笑しながらリンはミネアからうけとったばかりの剣に目を落とす。
精霊剣マーニ・カティ。
流された時にいた神殿付近に戻ろうと話し合って決めた時に、丸腰だと辛いだろうとミネアが渡してきたのだ。
正直、少しその剣に触れるのに躊躇した。
占いで善人と出ただとか、どうせ拾ったものだからとか、ミネアは気を遣ってくれてはいたが、そういうことではない。
愛剣にして精霊に祝福された宝剣を前にして、呪われた剣に魅せられ、いいように使われた自分を恥じたからだ。

「大切にするって決めてたのにね。ごめんなさい、マーニ・カティ。私だけの剣」

二度と同じ過ちは繰り返さないと鞘を握り締め、リンは誓う。
洪水の原因、リンを襲った男、アリーゼを殺した人物。
神殿近くに行くと二人が決めた理由は多々あれど、リンにとっては皆殺しの剣の存在が大きかった。
誰しもリンのように大した被害を出してしまう前に剣から解き放たれるとは限らない。
意図せぬ惨劇で誰かが傷つくのも、剣に呪われた者が悔いることになるのも、リンにはごめんだった。



――であるからこそ、その光景を前にして、二人は迷わず止めに入った。



「そうか、やはりあの雷は勇者の仕業だったか。死ね、ロザリーを殺した人間どもの使いめがっ!」

ブラストボイスで横槍を刺し、戦いに介入したミネアはいぶかしむ。
今のピサロの様子はどう見ても、ロザリーを失い嘆き悲しんでいた時の彼に他ならない。
しかし放送ではロザリーの名前は呼ばれていなかった。
放送後すぐに殺された?
呼び出された時系列の違いに気付いていない占い師からすれば妥当な判断だった。
恰好の容疑者がピサロを挟んだ向かい側、見覚えのある少女の死体よりやや離れたところにいるのだから。
もっとも、アリーゼに意図的に情報を隠されていたミネアには、それが少女の先生だと気付くことはできてはいなかったが。

「死ね死ねシネしね死ねシネ死ね死ネしね死ねぇぇぇえええええええええええええええ!」

碧色に輝く紋様に右半身を侵食されつつあるアティの剣をマーニ・カティで受け流す。
右腕に一体化している剣が怪しいのは見るからに明らかだ。
だが原因を知ったところでリンに解呪魔法は使えない。
知るもんか。
僅かに浮かんだ弱気な考えを一蹴。
簡単な話だ、元凶である剣を折ればいいだけのことと、気合を入れなおす。

「リンさん、魔法が利き辛いみたいですし、主にその人をお任せしてよろしいでしょうか?」
「言われなくてもそのつもりよ! なんだか知り合いみたいだけど、そっちこそいけるの?」
「ピサロさんの手は一応知り尽くしていますから」
「分かったわ! こっちは任せて! 剣を折ってでも助け出す!」

互いに背中を預け、ミネアがピサロと、リンがアティと対峙する。

デスピサロ
名前も、あるべき姿も、思い出も、愛する者のことさえ忘却した憎しみの果て。
全てを失い、全てを捨てた、先の無い復讐の終わり。
ミネアの知るすべも無い本来ありえた報われぬ未来。

伐剣者。
言葉を捨て、心を閉ざし、笑顔を生贄に力を得た理想の残骸。
復讐を為したところで彷徨える日々しか訪れない悲しき亡霊。
彼女の腕の中で息絶えた少女が望まなかった宿業の明日。

「止めましょう、哀れなデスピサロを」
「そして呪われた魔剣に父なる大地の怒りをっ!」

バッドエンドを打ち砕かんと、かっての復讐者二人が、今の復讐者二人へと立ちはだかる!




【C-7 荒野(元・森) 一日目 朝】
【アティ@サモンナイト3 】
[状態]:抜剣覚醒。コートとパンツと靴以外の衣服は着用していない。
    強い悲しみと激しい自己嫌悪と狂おしいほどの後悔。コートとブーツは泥と血で汚れている。
    水の紋章が宿っている。 暴走。 疲労(中)ダメージ自体は目だってなし。
[装備]:碧の賢帝@サモンナイト3、白いコート、はかいのてっきゅう@ドラクエⅣ
[道具]:基本支給品一式
    モグタン将軍のプロマイド@ファイナルファンタジーⅥ
[思考]
基本:????
1:AaaAAああAaaッーーー!!!
[備考]:
※参戦時期は一話で海に飛び込んだところから。
※首輪の存在にはまったく気付いておりません。
※地図は見ておりません。
※暴走召喚は媒体がないと使えません。
※アリーゼの遺体、天使ロティエル@サモンナイト3、アティの眼鏡がアティの後方に転がっています


【ピサロ@ドラゴンクエストIV 】
[状態]:全身に打傷。鳩尾に重いダメージ。
    疲労(大)人間に対する強烈な憎悪
[装備]:ヨシユキ@LIVE A LIVE、ヴァイオレイター@WILD ARMS 2nd IGNITION
[道具]:不明支給品0~1個(確認済)、基本支給品一式
[思考]
基本:優勝し、魔王オディオと接触する。
1:皆殺し(特に人間を優先的に)
[備考]:
※名簿は確認していません。またロザリーは死んでいると認識しています
※参戦時期は5章最終決戦直後


【ミネア@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち】
[状態]:精神的疲労(中)
[装備]:デスイリュージョン@アークザラッドⅡ
[道具]:基本支給品一式(紙、名簿欠落)
[思考]
基本:自分とアリーゼ、ルッカの仲間を探して合流する(ロザリー最優先)
1:リンと共に目の前の二人を止める(主にピサロ担当)
2:ロザリーがどうなったのかが気になる
3:ルッカを探したい。
4:飛びだしたカノンが気になる
[備考]
※参戦時期は6章ED後です。
※アリーゼ、カノン、ルッカの知り合いや、世界についての情報を得ました。
 ただし、アティや剣に関することは当たり障りのないものにされています。
 また時間跳躍の話も聞いていません。
※回復呪文の制限に気付きました。
※ブラストボイス@ファイナルファンタジーⅥは使用により機能を停止しました。


リン(リンディス)@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:腹に傷跡
[装備]:マーニ・カティ@ファイアーエムブレム 烈火の剣
[道具]:なし
[思考]
基本:打倒オディオ
1:殺人を止める、静止できない場合は斬る事も辞さない。
2:目の前の女性(アティ)を剣から解放する。
[備考]:
※終章後参戦
※ワレス(ロワ未参加) 支援A

※C-7西部の森や山の一部が吹き飛びました

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046-2:本気の嘘(後編) リン 075:Trust or Distrust
ミネア
アティ
ピサロ


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最終更新:2010年06月29日 22:30