セッツァー、『山頂』で溺れる ◆Rd1trDrhhU
一目で分かった。
その城は戦場だったのだ、と。
眼前に佇むは、無残に蹂躙された白き巨城。
城壁、柱、モニュメント。その全ては嬲られるがまま無残に破壊されていた。
それらの傷が主張するのは、ここで大規模な争いがあったという事実。
砕け落ちた建造物の残骸も、除去されることなく大地に散乱している。
おそらくこの空間は、争いが終わったその瞬間の状態のままで、野ざらしにされていたのだろう。
足元に視線を移せば、長らく手入れされる事もなく放置されていた石造りの大地には、緑の雑草が生い茂っている。
そして、雑草が生い茂っているという事は、ここには太陽の光が降り注いでいるという事になる。
ここが『地下の城』であるのにもかかわらず、だ。
それは明らかな矛盾のように思えるが、上を見上げればその謎は容易に解き明かされる。
そこに存在するはずの青空は当然なく、視界を覆うのは茶色の岩肌。
しかし、その隙間から白い光が差し込んでいるのが確認できる。
どうやら、この空間は地下の中でも、非常に地上に近い位置に存在しているらしい。
ここの雑草たちはその光を吸収して自らの生存活動に利用しているのだ。
「ったく……妙なモン造りやがるぜ」
紅い髪をたなびかせ、廃墟に立ち向かうは炎の侍。名を
トッシュと言う。
彼が零した不満は、おそらくこの殺し合いの主催者に向けたものであろう。
尤も、この廃墟自体はオディオが造った物でなく、一部の参加者たちが住んでいた世界から『持ってきた』物であるのだが、そんなことは彼の知ったことではない。
「人っ子一人いねェか……」
ジャリジャリと瓦礫を踏みしめて城に近づく。
城外から探る限りでは、城内に人の気配はない。もちろん、人以外の生き物の気配も感じられない。
握り締めていたひのきの棒をディパックに収め、一応の警戒を解く。
危険人物がいない事にホッとするが、同時に人がいない事を残念に思う。
山中でまさかの洪水に見舞われた彼は、何がなんだか分からないままこの城へ辿り着いてしまったからだ。
正直言って、彼は頭が悪い。
それは彼自身も分かっているだろう。
だから、効率よく地上へ帰るために、頭のよいパートナーが欲しかったのだ。
「あの隙間から出られる……わきゃねぇよな……」
岩の天井から差し込む光を見て溜め息をつく。
ここは巨大な城が丸々入るほど大きな空間である。
その天井が相当な高さとなっているのは子供でも分かる。考えなくても分かる。
流石に、あの遥か高い出口を目指してロッククライミングをするほど彼も愚かではない。
そのうえ、あの細長い隙間も人が通り向けられるほどの幅はない。
「仕方ねぇ、素直に来た道を……ん?」
聞こえた……ような気がした。
人の気配のない城に背を向け、再び地下水路へと踵を返した彼を呼ぶ声。
鼓膜を振るわせるのではなく、直接脳に響く声。
それは、彼がいた世界での精霊達の言葉に似た声だった。
「あぁ? ンだよ……」
不機嫌そうに振り返り、声の発信源を目で探る。
この城には入り口(らしきもの)が3箇所存在する。
向かって中央に、城の正門として使用されていたであろう巨大な扉。
そしてその両脇に小さな扉が1つずつ。
声がしたのは左側の小さな扉。
トッシュが意識をその扉に向けると、そこから異様な気配が放たれているのが感じられる。
それは、一流の剣士が放つ殺意に似ていた。
「へぇ……面白そうじゃねぇか」
自分に全力で向けられた敵対心に怯むことなく、彼は笑った。
強敵の予感に高揚した彼は、先ほど拾ったまま左手にずっと握っていた魔石を上空に放り投げた。
碧色に美しく光る石は、数メートルほど上空に投げ出されると、重力に逆らうことなく落下。
落ちてきたソレを、トッシュは殴りつけるが如く荒々しくキャッチした。
大切な石であることを理解しつつも、その扱いに丁重さが一切見当たらないのは彼らしい。
「鬼が出るか、蛇が出るか……ってなァ」
ポンポンと魔石を投げては受け止め、投げては受け止め……を繰り返しながら扉に近づく。
恐らく石の中の『彼女』は、激しい怒りと吐き気に見舞われていることだろう。
扉に手をかける。
中からは凄まじい覇気は感じられるものの、実体が感じられない。
ウィルオーウィスプやゴーストのようなモンスターであろうか。
勢いよく扉を開け放ちながら、そんな予感を脳内で否定する。
これはそんなキメラが放つ殺気ではない。
歴戦の剣士が放つものだ。
自分やモンジと同質の……。
暗い室内に光が差し込む。
長い事封鎖されていた室内は冷たく、少しだけカビの臭いがした。
「…………誰も、いねぇ……か……」
部屋を見渡しても、どこには人の姿はない。
狭い室内には隠れられる場所はなく、部屋の隅にある宝箱も既に開けられて中身は空だ。
「気のせい……かよ。気張り過ぎ、か……」
どこか詰まらなそうに吐き捨てた。
狂皇ルカと剣を交え、
ナナミともはぐれた事で少し過敏になっていたのだろう。
頭を数回掻いたあと、チィと舌打ちを残して部屋を後にした。
さて、今トッシュが出てきたこの部屋で、かつてのエドガーたちはあるモンスターと対峙した。
部屋の隅に放置してあった宝箱に、その怨念が封印されていたのだ。
結果としてエドガーたちは、その暗殺剣と回避力に大いに苦しめられつつも、自縛霊サムライソウルを撃破した。
トッシュが感じたのは、その怨念の残りであろう。
同じ剣に生きるものとして、トッシュと刀を交えたかったのかもしれない。
もし彼が違う時代、違う世界に生きていたら、トッシュと戦うこともあったのかもしれない。
「ったく……面白くねぇ。…………って、お?」
とにかく地上へと脱出しようと、古城に背を向け地下水路へと繰り出そうとした。
しかし、なにか呪いでもあるのだろうか、彼はまたもや足止めを食らう事となる。
地下水路の入り口に、人が倒れているのを見つけた。
銀髪の男。ずぶ濡れになっているということは、トッシュと同じでさっきの洪水で流されてきたのだろう。
「……めんどくせぇ」
不満を漏らしながらも、息絶えていないのを確認すると、取り合えず古城の前の広間まで運ぶ。
介抱しようにも回復魔法も医学の心得も持ってないので、そこは自然治癒に任せる事にした。
死にはしないだろうと高をくくり、硬い地面に男を放置する。
男が起きるまではする事もなく暇なので、男の持っていた支給品を覗かせて貰う事にした。
◆ ◆ ◆
時刻は、黎明まで遡る。
偽報という置き土産を残して
ヘクトルに別れを告げたギャンブラーは、孤島の中央に鎮座する山の頂上を目指していた。
取り合えず向かう宛てもなかったので、高い位置から会場の状況を見渡そうという魂胆らしい。
尤も、その理由よりも単に『出来るだけ空に近い場所に行きたい』という願望が大きかったのだろうが。
「さて、あの巨木の辺りが頂上らしい……」
セッツァーは地図を広げながら自分の現在位置を確認する。
一際大きな樹木を見つけ、それが地図上に示されている『巨木』だと分かると、地図を綺麗に折りたたんでディパックに仕舞う。
ここまで歩いている間に、彼はこれからの事を思案した。
この殺し合いで優勝する為に、自分が取るべき行動についてだ。
今、自分に最も必要な事は、戦力の確保であろう。
扱いには長けている槍を保有してはいるので、丸腰というわけでは決してない。
だが、それだけでは心許ない。
ケフカや
シャドウ、エドガーたちと互角に渡り合う為には、自分が最も得意とするカードやダイスなどの武器が必要となってくる。
だから、当面の目標は、戦闘よりも武器の捜索という事になるだろう。
だが、それらの武器が他の参加者に支給されているかも分からない。
どうやらこの殺し合いの優勝への道のりは、相当険しいものになっているらしい。
「そうでなくちゃな……」
それでもセッツァーは笑ってみせる。
前途多難な状況を目の当たりにしてそれでも……いや、だからこそ気分が高揚しているのだ。
ギャンブラーと名乗っている以上、賭け事に関してはかなりの場数をこなして来た。
そんな彼でも、こんな分の悪い賭けは初めてだ。
命をベットし、気の遠くなるほど長い綱渡りを終えた先に待っている報酬を思えば、ギャンブラーの血が自然と熱を帯びてくる。
「さぁ、頂上だ。これから……」
巨木へと歩み寄り、山の上から日の出でも拝もうかと考え、その腰を緑の大地に下ろした。
……その時であった。
「…………こ、これは……!」
セッツァー己の目を疑う。
口をポカンと開け、目を見開いたその表情は驚愕と言う以外他はない。
それも無理はない。
彼の眼前で起こっている『事実』はあり得ないことなのだから。
水は低きに流れる。
こんなことは普通の世界ならば、人間が人間らしく暮らす事ができるような世界であれば、絶対の普遍の真理である。
セッツァーが今まで歩いてきた山道に流れていた川も、頂上から裾に向かって流れていた。
それは当たり前のことであり、今更確認するほどの事でもないはずである。
「ば……馬鹿、な……!」
では、セッツァーの目の前で起こっているコレはなんなのだろうか。
山の頂上に向かって、大量の水がドドドドド……と流れてきている。
いや、『登ってきている』のだ。
つまり彼は、なんと山頂で洪水に遭遇したこととなる。
「ふ、ざ、け……がぁぶ……」
腰を持ち上げ、迫り来る水の大群から逃げようとする。
だが、恐ろしい速度で襲い掛かった災害に、セッツァーは成す術なく飲み込まれてしまった。
グルグルと規則性もなく流れ続ける水に翻弄され、槍とディパックを強く握ったままでその意識を手放す。
抜剣者アティが生み出した大量の水が引いたその後には、巨木だけが『何事もなかった』と言わんばかりに堂々とそびえ立っているのだった。
「……ここは?」
セッツァーが目を覚ますと、目の前には廃墟が広がっていた。
取り合えず、支給された時計を見て時間を確かめる。
どうやら、洪水に巻き込まれてから大した時間が経過したというわけではないらしい。
と、言う事はここは山頂からそう遠くない場所に位置していると考えていいはずだ。
だが、湿った地図に目をやっても、この廃墟らしき場所はどこにも記されてはいなかった。
北の城や南の城にしては移動した距離が大きすぎるし、神殿だとすると、その神殿の周囲にあるはずの泉がどこにも見当たらない。
夢か幻でも見ているのではないか。
セッツァーからしてみれば、それが一番納得できる答えだっただろう。
「はぁ! ……せぁあ!」
「…………カイエン……? いえ、違う……か」
聞こえたのは荒々しい声。かつて世界を焼き尽くした紅蓮よりも熱い声だ。
その声のする方向、つまり古城より後ろに振り返る。
信じられない速さで剣を振るう男の姿がそこにあった。
その刃の軌道と、その溢れ出る闘志から、かつての仲間であるカイエンの事を思い出す。
が、名簿に載っていないはずの彼が、ここにいるはずもない。
よくよく目を凝らしてみると、それは全く違う人物であった事が分かる。
ボンヤリと、やがてクッキリと目に映ったその男の姿は、声を聞いて抱いた印象をさらに何十倍にも凝縮したような風貌。
もしも世界中の魔法使いが同時にフレアを唱えたらこのような色になるのではないか、と思えるほど真っ赤な髪の毛。
そして『ベヒーモスの親玉だ』と言われても信じてしまいそうになる、あの暴力的な目つき。
「おぅ。目ぇ覚ましたか」
目覚めたセッツァーに気付いた男は、素振りをしていたその手を止める。
こちらに歩いてくる男は敵意さえないものの、全身から相当な威圧感を発している。
そして彼が乱暴に肩に担いでいるその剣は、セッツァーの持ち物だ。
正確には、彼本来の支給品ではないのだが。
彼が殺した
トルネコという商人。
彼の支給品中に1本の剣があった。
セッツァー自身は使う事はないだろうと思い、ディパックに仕舞ったままにしておいたもの。
彼に剣の心得がなかったこともある。
だがそれだけでなく、彼は説明書を読んだ瞬間に、この武器は自分に扱えるものではないと理解する。
果てしなき蒼(ウィスタリアス)。
適格者に強大な力を与える魔剣である。
魔剣という説明文が気になったので、軽く握って数回振るってみた。
だが特に変わった現象は起こらず、自分に力がみなぎった様子もなかった。
おそらくセッツァーは適格者ではなかったのだろう。
それ以来ディパックに収めて、二度と出すつもりはなかったのだが……。
「あぁ……コレ、借りてるぜ」
セッツァーが剣に注目しているのを見た剣士が、差し込む朝日に蒼剣を掲げて言う。
勝手に人の持ち物を漁っておいて、特に悪びれる様子もないが、セッツァーもそれを咎める気は更々ない。
あの剣士から見たら、セッツァーは殺し合いに乗ってるかどうかも分からない人物である。
これで警戒しない方がおかしいという物。
その人物の持ち物くらいチェックして当然というわけである。
現にセッツァーは、既に他の参加者を殺害して2人分の基本支給品を持っているのだから。
「果てしなき蒼、ウィスタリアスだったかな。なかなかいい剣だな」
そう言って男は、コンコンと剣で石の大地を叩く。
剣の名前を知ってるという事は、説明書を読んだという事だろう。
「どうやら魔剣らしいが……何か分かったか?」
「いーや。そっちはちっとも分かんねぇな」
少しだけ笑みを浮かべながら、ドカンと地にあぐらをかく。
自分だけ武器を持っているという強みからだろうか、警戒心は薄い。
だが事実、先ほど剣を振るっていた様を見る限りでは、この男の実力は相当なもの。
マッシュならともかくセッツァーが素手で敵う相手でもなさそうだし、魔法だって詠唱し切る前に切り殺されてしまうだろう。
「どうやら助けられたようだな。礼を言おう」
「別に俺はなにもしてねぇよ」
余程剣が好きなのだろう。座ったままで果てしなき蒼を何度も振るう剣士。
どう考えても真っ赤なイメージのこの男には、蒼い魔剣はちょっと似合わない。
だが、その扱いは慣れたもので、不安定なはずの体勢からブンブンと恐ろしい速さで剣を振るっている。
おそらくこの男、カイエン以上の剣の腕前だ。
「俺はセッツァー。セッツァー=ギャッビアーニだ」
「俺はトッシュだ。苗字は……忘れちまった」
分かりやすい嘘をつく男だ。
名簿を見れば、ちゃんとフルネームで書いてあるだろうに。
偽名かと思ったが、それならば覚えられないような名前などわざわざ名乗らないだろう。
単に口に出したくないだけか。何故だかは分からないが。
「でよぉ、セッツァー。さっきお前の支給品を見させて貰ったらよ……」
「分かっている。『支給品がなぜ2人分もあるのか?』だろ?」
彼が言い淀んだ質問を補完すると、トッシュはばつの悪そうに「おぅ」とだけ呟いた。
普通、こういった質問をするときは、誰だって警戒をしてしまうものだ。
だが彼は、聞きにくそうな素振りさえ見せたものの緊張した様子はなく、剣を握る手にも大した力は入っていないようだ。
いつ襲い掛かられたって迎撃できるという自信の表れだろうか。
「中年の太った男。名前も知らない……誰が殺したかも分からない……。
俺が見つけたときにはもう死んでいたんだ」
悲しく目を伏せ、言い難そうな雰囲気を出しながら嘘をつく。
殺害犯をでっち上げるのは避けた。
既にトッシュがその人物と出会ってしまったりしていたら、嘘がばれてしまうからだ。
それを聞いたトッシュは、「そうか……」とだけ返事をした。
やけにあっさりだな……とセッツァーは疑問に思う。
「俺が言うのも変な話だが……疑ったりしないのか?」
素直に信じてくれるのはありがたいのだが、これではやけに張り合いがない。
嘘だと見抜いた上で泳がされている……なんて事はありはしないだろうが。
「正直な話……騙しあいとか、駆け引きなんざぁ俺にはさっぱり分からねぇからな」
言いながらトッシュは立ち上がる。
紅い長髪が炎のように揺れた。
「お前が『乗ってない』って言うんなら信じるさ」
そう言いながらセッツァーに背を向け、スタスタと歩いていく。
内心で『そんな無用心でいいのか』と突っ込みを入れたが、口に出す事はしなかった。
そして、倒れていた場所のまま放置していたセッツァーのディパックと槍を拾い上げる。
「よっ!」っと小さく声を上げつつ、その2つをこちらに投げて寄こした。
槍は宙を踊り、セッツァーの目の前にカランと音を立てて転がった。
「もし騙し討ちしたいんなら、いつでもかかって来やがれ」
首をしゃくって、「拾え」と合図を送るトッシュ。
トルネコの命を一瞬で奪い去ったその槍をゆっくりと拾い上げる。
確か、槍の長所の1つに『リーチの長さ』があったはずだ。
だが、トッシュと対峙しながら眺めた槍は、とても短く感じた。
「その首……切り落としてやるからよ」
剣をこちらに向けて告げる。
その顔に笑みはなく、眼光は第2の刃となって銀の勝負師に突き刺さる。
男を睨んで、セッツァーは溜め息を吐き出す。
なんと馬鹿げた思考なんだ。
だが、こういうタイプが一番騙しにくいというのも事実だ。
心理戦を放棄しているのだから、直接斬りあう他にない。
そして、そういう輩に限って……とんでもなく強いのだ。
「その剣は、俺のものなんだがな」
両手を挙げ『敵意はない』と伝えながら、セッツァーは静かに笑う。
彼のツッコミに、トッシュは「す、すまねぇ」と剣を差し出してきた。
どうやら、セッツァーを切り伏せるつもりはないらしい。
「冗談だよ。持っていけ。助けてくれた礼だ」
どうせ、自分には無用の長物。
ならば信頼を得る為に役立てられればそれで良い。
トッシュならば、魔剣としての力は引き出せなくとも、単なる名刀として使いこなせるはずだ。
ゲームの破壊を目的としているだろう男に戦力を与えるのは、多少不安だが……。
「そうか、悪いな……」
「なぁに、俺にはどうせ使えんからな。
それでだ、ここいらでお互いの情報を…………」
信頼を勝ち得たところで、情報交換を提案した。
トッシュの持っている情報を得つつ、こちらの偽報も流すいいチャンスだ。
トッシュの返事を待たず、セッツァーはディパックを拾い上げ、中から名簿と筆記用具を取り出そうとした。
その時だった……。
『さて、時間だ……始めよう』
魔王オディオの声だ。
最初の定時放送が孤島に響き渡る。
空から降り注いだ絶望の波長は、天井の裂け目を通り抜けて、セッツァーやトッシュの耳にも届けられた。
◆ ◆ ◆
「ここが出口か……意外と近くにあったんだな……」
呟いたのは、地下水路を抜け全身に朝日を浴びたギャンブラー。
あの放送の後、セッツァーはトッシュと情報交換を行う事に成功する。
トッシュから得られた情報は多く、かなりの数の参加者について知ることができた。
その内数人は放送で呼ばれた名前であったが、特にショックを受けた様子も気に病んだ様子もなさそうであった。
彼は意外とドライな性格なのかもしれない。
こちらからの情報は、自分の仲間の情報だけに絞って、ヘクトルの仲間の情報は伝えてはいない。
自分の仲間たちについては、ヘクトルに話したものと全く同じ嘘を伝えた。
ただ、トッシュは
無法松という男からティナの事を善人だと聞いていたらしく、こちらもそれに合わせてティナの事は善人だと伝えるのも一つの手だったであろう。
だがしかし、ヘクトルの情報とトッシュの情報が食い違ってしまっていては、上手く嘘が広まったときにその効果が薄くなってしまう恐れがあった。
だから、ティナのことは『無法松が騙されたのか、ティナが改心したのか、俺にも分からない』と誤魔化した。
こんな状況である。どんな善人が人殺しをしても、どんな悪人が人助けをしても、全く不思議じゃない。
情報交換の後、トッシュとは別行動をとることにした。
彼はあの場所で少し休むとセッツァーに告げたのだ。
魔導アーマーに
ルカ・ブライトなどといった強敵との連戦だったらしく、彼にも疲労が蓄積したのだろう。
だが、セッツァーには武器の入手に参加者減らしと、やるべき事が山積みなのである。
洪水に流された後気絶したおかげで体力も余っていたので、一刻も早く地下から脱出したかったのだ。
水路は思っていたよりは入り組んでおらず、古城から出発してそれほど歩かずに出口まで辿り着く事が出来た。
しかし、途中で道が分かれていて、その先に広がっていた洞窟は随分と入り組んでいるようではあったが……。
「しかしあの廃墟、なぜ地図に載ってないんだ……」
地図と今来た道を見比べると、そんな疑問が脳裏に浮かんできた。
セッツァーがあの廃墟にたどり着けたのは、原因不明の洪水に巻き込まれたからで、最初からあそこを目指していたわけではない。
それはトッシュも同じだったらしく、彼も流されるがままにあの城に着いたらしい。
自分が今立っているこの地下水路の出入り口だって、地図にでも載ってなければ見つけようがないのではないだろうか。
では、なぜ魔王オディオはあの廃墟とこの地下水路、そして洞窟を地図から除外したのだろうか……。
可能性として考えられるのは、まず「わざわざ地図に記す必要がなかった」という事。
だが、地図には「巨木」や「座礁船」、果ては「小屋」まで記されているのに、あの巨大な古城を記さないというのは気がかりである。
地下だからと言うことも考えられるが、それならばこの出入り口くらいは示しておくべきだろう。
次に考えられるのは「あえて『地図にない施設』を造った」という事だ。
これも可能性としては低い。
こんな発見しづらい施設など、参加者が引きこもりを誘発するに決まっている。
殺人鬼に遭遇するリスクが極端に低くなる施設……。
そんなもの、この殺し合いのルールにそぐわない。
「ただの、気まぐれか……」
ならば残った選択肢が答えなのだろう。
オディオはそこまで考えておらず、適当に地図から除外した。
そんな事があるのかと思うだろうが、オディオはこんな殺し合いを主催する人物である。
そんな人物の考えなど、既存の物差しで測れるはずがない。
「くだらない事を考えていても仕方ない。俺は俺のすべき事をするだけだ」
今はただ、夢に向かって進むだけだ。
戦って勝つ事だけを考える。
そう心に誓って、セッツァーは槍をもう一度強く握り締めると、またどこかへ向かって歩き出したのだった。
【D-7 地下水路入口 一日目 朝】
【セッツァー=ギャッビアーニ@ファイナルファンタジー6】
[状態]:若干の酔い
[装備]:つらぬきのやり@ファイアーエムブレム 烈火の剣、シルバーカード@ファイアーエムブレム 烈火の剣
[道具]:トルネコのランダムアイテム1個(セッツァーが扱えるものではない)、基本支給品一式×2(セッツァー、トルネコ)
[思考]
基本:夢を取り戻す為にゲームに乗る
1:扱いなれたナイフ類やカード、ダイスが出来れば欲しい
2:手段を問わず、参加者を減らしたい
※参戦時期は魔大陸崩壊後~セリス達と合流する前です
※名簿を確認しました。
※ヘクトルの仲間について把握しました。
※トッシュと情報交換をしました。
◆ ◆ ◆
「あンの馬鹿……」
堅い地面に寝転がり、トッシュは朝日の差し込む天井を眺めていた。
彼の心にいつもの激情の炎はなく、怒りも悲しみも排除した穏やかな顔のままで、ただ呼吸だけを繰り返す。
「散々人のこと振りまわしといて……勝手に逝くんじゃねぇ……」
死んだ少女に向けて、恨み節を吐き出す。
セッツァーは、彼がナナミの死をそれほど気に留めていないと見たようだが、そんなことはない。
ただ、不器用な彼は、悲しみ方が下手糞なだけだ。
彼には護りたいものがあった。
一つは誇り。
自分の師であるモンジはトッシュにとって誇りであり、彼に託された剣術も彼の誇りであった。
だがそれは、この殺し合いに召喚される前に既に失われてしまった。
殺人マシーンとなった恩師を、未だに受け入れられない自分が惨めに思える。
先ほどセッツァーに名前を聞かれたとき、『トッシュ・ヴァイア・モンジ』というフルネームを名乗る事が出来なかった。
それは、この名前を名乗るのを苦痛に感じたからなのだろうか、それともあの男の名を忌々しいと思ったからだろうか。
その理由は自分自身にさえ分からなかった。
一つは仲間。
アークや
エルクたち。トッシュにとって彼らは自分の命を賭してでも護りたい仲間だった。
エルクや
シュウ、ちょこなんかはそう簡単に死ぬ連中じゃあないだろう。
だが、
リーザは違う。
優しい彼女は、独りでこの殺し合いを生き残れるほど強くはない。
誰かが護ってやらなくちゃならなかったはずだ。
そしてもう一つ。この殺し合いで出会った少女。
別に彼女に対して特別な感情があったわけじゃない。
ただ、この殺し合いに召喚されて最初に出会った人物というだけだ。
だが……だからこそトッシュが護ってやらなくちゃならなかったのだ。
彼女は最初からトッシュを信頼し、無理やりにでも彼の行く道を示してくれた。
彼女は震える手で、自分の背中を押してくれていたのだから。
「何やってんだよ……クソッ……」
そんな大切なものを……護れなかった。
いや、違う。
『護るチャンスさえ得られなかった』のだ。
モンジとの決闘は魔王オディオによって強制終了させられ、その決着をつけることも許されなかった。
リーザは、自分の剣の届かないところで死んだ。護る機会など存在してはいなかった。
そしてナナミは、自分とはぐれた直後に死んだ。
「だったら……こんなもん……」
静かに起き上がると、セッツァーから受け取った魔剣を握り締める。
剣は驚くほど軽い。
さっき振るったときとは、まるで違う感触。
まるで中身を空洞にしたレプリカなのではないかとさえ思えてしまう。
「なんの意味もねぇじゃねぇか……!」
叫びと共に投げつけられた蒼剣は、回転しながら空を裂く。
グルグルと飛行しながら徐々に高度を落としていき、瓦礫の山に突き刺さってやっと停止する。
ウィゼル・カリバーンによって生を受けた剣は丈夫で、こんな手荒い扱いを受けてもその身には傷一つついてはない。
だが朝日を受けた刀身は、淡く蒼い光を悲しげに発している。
「なぁ……アークよぉ」
立ったままで、天井を見上げる。
空の裂け目に、シルバーノアが見えないだろうか……。
そんな期待を持ちながら。
強ければ、誰にも負けなければ、それでいいと思っていた。
目の前に立ちふさがった全てを切り伏せれば、護りたいものには傷一つ付かないと思っていた。
だが、そうじゃないのだ。
彼が今まで、そうやって生きてこれたのは仲間がいたから。
彼が切るべき敵を、仲間達が示してくれたからだ。
「誰かを護ンのは、難しいな……」
アークは凄い。
今更ながらそんなことを思う。
レジスタンスを率いた過去を以ってしても、自分はアークを越えられない。
剣技じゃない。魔法じゃない。
誰かを護るための力と、その使い方。
護れなかったときの苦しみに耐える心。
それらを兼ね備えているからこそ、アークは勇者足り得るのだろう。
「俺にゃぁ……コイツは振るえねぇ」
拾い上げた魔剣をディパックに仕舞う。
代わりに取り出したひのきの棒が、今の自分に相応しい。
ウィスタリアスを引き抜いた場所で白い瓦礫がガラガラと音を立てて崩れていくのを、トッシュは背中で感じていた。
【D-6 地下にある城(古代城@ファイナルファンタジーⅥ) 一日目 朝】
【トッシュ@
アークザラッドⅡ】
[状態]:疲労(小)
[装備]:ひのきの棒@ドラゴンクエストⅣ
[道具]:不明支給品0~1個(確認済)、基本支給品一式 、ティナの魔石 、果てしなき蒼@サモンナイト3
[思考]
基本:殺し合いを止め、オディオを倒す。
1:出口を探す。
2:果てしなき蒼は使わない。
3:必ずしも一緒に行動する必要はないが仲間とは一度会いたい(特にシュウ)。
4:ルカを倒す。
5:第三回放送の頃に、A-07座礁船まで戻る。
6:基本的に女子供とは戦わない。
7:あのトカゲ、覚えてろ……。
[備考]:
※参戦時期はパレンシアタワー最上階でのモンジとの一騎打ちの最中。
※紋次斬りは未修得です。
※ナナミとシュウが知り合いだと思ってます。
※果てしなき蒼@サモンナイト3はトッシュやセッツァーを適格者とは認めません。
※セッツァーと情報交換をしました。ヘクトルと同様に、一部嘘が混じっています。
エドガー、シャドウを危険人物だと、マッシュ、ケフカを対主催側の人物だと思い込んでいます。
【地下の施設について】
※D-7南部には地下水路入り口があり、D-6の古代城@ファイナルファンタジーⅥに繋がっています。
さらに地下水路は途中で古代城への洞窟@ファイナルファンタジーⅥに分岐します。
洞窟がどこに繋がっているのかは不明。
※これらの施設は全て地図には載っていません。
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最終更新:2010年06月29日 22:30