どこを向いても奴がいる ◆KGveiz2cqBEn



どこまで走っても彼女はついてくる。
木にもたれかかっても、草に足をとられて転んでも。
背後に、足元に、眼前に。
太陽の光が当たることはない彼女がそこにいる。

彼女も私であり、私も彼女である。
そして私も彼女も、アティである。

じゃあ、私であることを証明するにはどうすれば良いのだろう?
アティという名前や容姿。それらはただの容器でしかなく。
傍から見れば私も彼女もなんら差はないのだ。

私と彼女。両方を知る人ならが見れば中身の区別がつくかもしれない。
先ほどの見知らぬ剣士のようにアティの言動が異常なら見抜けるかもしれない。
私と、彼女の間に決定的に違うものがそこにあるからだ。



if...
彼女がただ暴れるだけではなく、ごく普通に私のように振舞うことが出来たなら?
狂気を内側に秘めつつ私として過ごすことが出来るとすれば。
実は既に彼女が私として振舞っているなら――――――



とにかく、今は誰にも会いたくなかった。
今アティという入れ物に入っているのが彼女だったなら、また誰かを傷つけてしまう。
どこでもいい、誰一人として人がいない。ひっそりと過ごせる場所へ。



…………ああ、じゃあ「私」って何だろう?



ふと、そんな疑問が浮かんだときだった。
視界にぼんやりと黒い人影が映り、ゆっくりと振り向いてアティと向き合う。
気がつけばそこに立ち止まっていた。目に映る全てがスローモーションになる。
じわり、じわり。黒い人影を中心に視界が黒く染まっていく。
やがて視界全てが真っ黒に染まったとき、人型の口と思わしき場所が動く。

「ねえ」

全身が跳ね上がる。

「その体を」

目を閉じ、両手で耳を塞いだ。

「ちょうだい」

喉が潰れるほど、空気を引き裂くほどの大声で叫んだ。





「いやあああアアアアアァァァァァァッッ!!!」





人の気配を感じ取り、振向いたセッツァーを出迎えたのは叫び声。
そこにいたのは目を閉じ耳を塞ぎ蹲りながら叫ぶ女性。
突然の事態に思わず一歩退いてしまう。

女性が、ゆっくりと目を開く。
セッツァーの顔をまっすぐに捉え、一歩ずつ退こうとする。
が、何らかの理由でその足は動くことはなかった。
「い、いや……来ないで!」
怯えきった目と声で女性はセッツァーに訴える。
セッツァーは戦闘の態勢を解き、女性に話しかける。
「お、おい待ってくれ。何もアンタを取って食ったりなんて――――」
「違う!」
セッツァーの弁明が一喝される。
一瞬の気迫にもう一歩退いてしまった。

どうにも様子がおかしい。セッツァーは目の前の女性に違和感を感じずにいられなかった。
「早く、早く……早くどこかへ行って下さい!」
「……納得できないな、だったらなんでアンタが逃げない?」
セッツァーはふと浮かんだ疑問を女性にぶつけた。



理由はセッツァーだ。
アティの目に映るセッツァーが小刻みにもう一人の誰かへと姿を変えていく。
セッツァー、誰か、セッツァー、誰かと。
その誰かがアティの両足にに釘を刺したようにその場へと縛り付けているのだ。

ならば視界にセッツァーが入らなければいい。
身を翻しその場から逃げれば良かったのだが、セッツァーが視界に入らない真後ろに進んでいくのも抵抗があった。
先ほど自分を救ってくれた剣士がいるからだ。
いまはあの剣士に顔を合わせたくない。
彼女が動けないのは、そういうことだ。



しかしその理由が語られることは……無かったのだが。

「じゃあ質問を変えるか。どうして俺は逃げなくちゃいけない?
 いかにも無害そうなただ泣いてうろたえてる女性から俺はどうして逃げなくちゃいけない?」

一瞬だけ流れる沈黙を打ち破ったのは女性。

「貴方を、あなたを傷つけたくないんです。私が、私の知らない私になったらあなたを傷つけることになる。
 だから……私が変わってしまう前にあなたに逃げてほしいんです」

迫りくるかもしれない危機を伝えるために女性は口を開く。
目の前にいる人物を、傷つけないために。

「じゃあ、死ねよ」

一瞬目の前の人物が何を言っているのかわからなかった。
全く予想できない言葉、理解することもできない言葉が飛び出した。

「傷つけたくない? だから逃げてくれ? もう一人の自分が何をするかわからない? 全部アンタがやってることじゃないのか?」
止まらない、セッツァーの口は止まらない。
「傷つけたくないと思うならその原因を断てばいい、その原因がわかってるんだろ?
 ならどうしてそれが出来ないんだよ!? あんたがウダウダやってるうちに誰か傷つくんだろうが!
 傷つけたくない傷つけたくないと言っててもあんたがやってることは誰かを傷つけるかもしれねえんだ!」
セッツァーの言葉が、槍のように深く突き刺さる。
「仮にだ、あんたが生きたいとしても。誰かを傷つけるかもしれないリスクを乗り越えてまで成し遂げる何かがあんのか?!
 危険性を理解した上で何かを成し遂げる覚悟があんのか?! なぁ?! どうなんだよ!!」

怒号。
そうともとれるセッツァーの言葉が終わる。

ゆっくりと、ゆっくりと女性が足から崩れ落ちる。
「私は……私は、私は! 私は!」
再び耳を塞ぐ、歯を鳴らしながらその場に座り込む。
「違う、そうじゃない。私は、違うの! 私は!」
崩れる。何かが音を立てて。
「あ……あ、うああああああああああああァァァァッ!!」
「俺はセッツァー、セッツァー=ギャッビアーニ」
槍を握り締め、女性へ近づく。
「一度はアンタのように何の目的もなく生きている人間だった」
目が濁り、全身の力が抜けている女性へと近づく。
「だが、今の俺は違う。俺は夢を取り戻すために今はやるべきことがある!」
届かない、その言葉は届かないと分かっている。
「そのための覚悟もした、リスクや代償なんざ承知の上だ……」
そして、ゆっくりと槍を構える。
「はっきりとやることもない、自分が誰かもわからなくなるような今のアンタは死人同然だ」
鋼鉄の甲冑すら貫く槍が、背中から女性の心臓を貫く。
「俺はしっかり止めを刺させてもらう」
血が吐き出される音を聞いた後、セッツァーは無言で槍を引き抜きその場を立ち去る。
何かが倒れたような音にも決して振向かない。死人をちゃんと死人にしただけである。
躊躇うことは、ない。



「悪いな、俺はアンタみたいな傲慢なヤツじゃないんでね」



【D-6北東部 一日目 昼】
【セッツァー=ギャッビアーニ@ファイナルファンタジー6】
[状態]:若干の酔い
[装備]:つらぬきのやり@ファイアーエムブレム 烈火の剣、シルバーカード@ファイアーエムブレム 烈火の剣、
    シロウのチンチロリンセット@幻想水滸伝2
[道具]:基本支給品一式×2(セッツァー、トルネコ
[思考]
基本:夢を取り戻す為にゲームに乗る
1:扱いなれたナイフ類やカードが出来れば欲しい
2:手段を問わず、参加者を減らしたい
※参戦時期は魔大陸崩壊後~セリス達と合流する前です
ヘクトルトッシュ、アシュレーと情報交換をしました。




暗黒。

先ほどよりも一層深みを増した黒の中で彼女は目を覚ました。

ここはどこなのだろう? 一体自分はどうなったのだろう?

そんなことを考える余裕などあるはずもなかった。

「あああアアアアアアアぁぁぁぁァァァァァ!!!!」

闇の中で見たソレ。

ソレは死後の彼女さえも襲っている。

彼女は誰も聞こえない場所で、一人叫び続ける。

「ソレ」に、見つめられながら。



【アティ@サモンナイト3 死亡】
【残り32人】 


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072:曇りのち嵐のち雨のち―― セッツァー 094:銀の交差
075:Trust or Distrust アティ GAME OVER


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最終更新:2010年07月01日 22:22