曇りのち嵐のち雨のち―― ◆iDqvc5TpTI
(気持ち悪い)
身体の内側に巣くうその熱を形容するのに、これほどぴったしの言葉はない。
熱いでもなく、焼かれてしまいそうだでもなく、ただひたすらに気持ち悪いという異物感。
一瞬でも気を抜いてしまえばどろどろに溶かされ、ぐちゃぐちゃに混ぜられた上で、肌が裏返ってしまいそうだった。
そしてそれはあながち間違ってはいない。
アシュレーの身に宿った魔神は虎視眈々と意識を取って代わる瞬間を狙い続けているのだから。
「ぐッ……、がッ……」
聖剣が無き今、人の苦しみを糧とする魔神が大人しいままでいるはずがなかった。
打ち寄せては退き、打ち寄せては退き。
波を思わせる感覚で襲い来る不快感。
見守るというロードブレイザーの言葉に間違いはない。
確かにこの不快感は魔神による破壊衝動の押し付けとは別物だ。
その方がどれほど気楽だったことか。
――ガ、ぐおあ、ぎぃァおどかおdjぱおjでぃぱんそdこp@あs-ーーッ!!!!――
それは何処かの誰かの言いえぬ恐怖
――ぎお、あ……あsにp、l;d…………あああああああああアアアアアアアアアアッ!――
それは何処かの誰かの声無き嘆き
――……◆■■@、………ーーーひふぉsdjllfぢおfjぢ;……クッ、おおおおおお――
それは何処かの誰かの抱えた後悔
それら、自分のものともロードブレイザーのものとも違う感情が、
アシュレーの心へと――正しくはアシュレーの内的宇宙に宿ったロードブレイザーの中へと吸い込まれていく。
いや、吸い込むなんていう生易しいものじゃない。
喰らっているのだ。
ロードブレイザーはこの地に渦巻く負の念を。
(強く、もつんだ。心を、強くッ!)
誰かに不幸が降りかかるたび、誰かが悲しみに暮れる度。
ロードブレイザーは歓喜する。
暗き炎は水では渇きを満たせない。
悲鳴、憎悪、失望をこそ薪として自身にくべる。
悲壮な決意を唾液で汚し。
罅割れた幻想に牙を突き立て。
絶望の淵に沈む心を噛み砕く。
ぐしゃり、ぐしゃりと口内いっぱいに広がる苦渋の味を魔神は至上の甘露として飲み干すのだ。
果ては、紛いなりにも死という終焉をもって苦しみから解放されたはずの魂すらも逃がすことなく貪り嚥下する。
他人の不幸は蜜の味。まさにロードブレイザーの為にある言葉だった。
焔の厄災。かって一度は乗り越えたはずの恐怖。
倒せることは証明されているのだ。ならばもう一度乗り越えればいい――とは楽観できない。
考えても見て欲しい。
例えば娯楽であるお化け屋敷やホラーゲームの場合なら、一度経験していれば、次の時には何が起こるかわかっており大なり小なり怖さは減るだろう。
しかしこれが命の危機に関わるも回避しがたいものならどうか?
一度治療が上手くいき回復したはずの癌に再度かかったとしたら?
誰が今度もまた大丈夫だと楽観的になれようか。
むしろようやく乗り越えたはずの恐怖に再度苛まれる絶望は言葉に表せないほど大きい。
事実、アシュレー達が為した事は奇跡としか言いようがなかった。
ある男による仕込みがあったとはいえ結果的に一つの惑星に住む全ての人間が国家や民族の枠を超え、
心を繋げ数多の災いに立ち向かい勝利したのだから。
国家間の争いや侵略行為ばかりを目にしてきた
ヘクトルやエドガー達が知れば目を剥いたことだろう。
それがこの地ではどうか。
数億どころかたった数十の人々が絆を育むことなく殺しあっている。
既にアシュレーは二人の少女が志半ばで命を落としたことを知っている。
裏を返せばそれだけ殺し合いに乗った人間もいるということだ。
ロードブレイザーが力を増していく頻度からも、一人や二人の話ではない。
何人もの人間が人を殺すことをよしとし、幾多もの悲劇が既にして生まれ出ている。
果たしてこのような様でロードブレイザーに、しいては魔王オディオに勝てるのだろうか。
人も、時間も、足りなさ過ぎるこの世界で。
(弱気になるなッ、アシュレー! 僕は、帰るんだ。みんなと、あの場所へッ!)
不信感を募らせてばかりだったケフカとの会話の影響もたかってか悪いほうに悪いほうへとばかりものを考える自分を叱咤する。
刻みなおすは二つの約束。
思い浮かべるのは帰るべき場所である最愛の女性と、欠けてはダメだと誓った大切な仲間達。
だというのに、そんな時に限ってこそ悪魔は心を砕きにかかる。
『そうはうまくいくかな?』
どういうことだと意味ありげな問いに対して深く聞き返す間すらアシュレーに与えず、
――さて、時間だ……始めよう。
『さあ、待ちに待った放送の時間だ』
ロードブレイザーは、魔王オディオは運命の時を告げた。
ロードブレイザーは笑う。
『心地いい、心地いいぞ! 『お前』も『私』なら感じるだろう? この湧き上がってくる力をッ!』
黒く、黒く、どす黒く。
『友の、仲間の、恋人の悲報を耳にし嘆き悲しむ人間の声をッ! オディオも粋なことをしてくれる』
死を、悲しみを、嘲笑う。
『命が燃え尽きる間際と、否応無く知らされる瞬間……一度の死をもって二度も人間どもから負の念を搾取する機会を与えてくれたのだからなッ!』
言葉の通り、アシュレーの内側で灯火程度だった魔神の気配が地獄の業火もかくやという程に膨れ上がる。
死に際の人間が残す未練や怒りに比べれば僅かながらに質は劣るも、その分量が段違いだ。
生存者達にとっては禁止エリアと死者の名前を継げる忌まわしい放送でも、ロードブレイザーからすればデザートの時間を告げる鐘の音といったところか。
会場中に蔓延する不安や疲労感等の細々とした負の念さえも取りこぼすわけにはいかない傷ついた魔神には、
一定時間ごとに大多数の人間から糧を得られる放送の存在はこの上なくありがたかった。
更に至れり尽くせりなことに、初回には付き物の特典までついているのだ。
笑うしかあるまい。
「リル……カ?」
想像通り。
ほくそ笑むロードブレイザーが居座る内的宇宙に超新星爆発でも起きたのかとばかりに莫大な思念が激流となって流れ込む。
驚愕、衝撃、動揺、戸惑い、疑念、混乱、緊張。
仲間の死を告げられた人間が抱くには当然の感情だろう。
しかし、最もあるべきものが欠けていた。
見ず知らずの誰かが呼ばれている時に感情の大部分を占めていた怒りや悲しみがそこにはなかったのだ。
何故か?
簡単な話だ。アシュレーには少女の死が信じられなかったのだ。
(……嘘だ)
聖剣が間に入っていない今、アシュレーの心の声はロードブレイザーへと筒抜けだった。
(嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だッ!)
理性が働き出すよりも速く、感情がすぐさま仲間の弔報を否定する様が面白いほど見て取れる。
まあ、アシュレーが仲間の死を信じられないのは無理も無い。
一度目はブラッド、次はアシュレー自身。
今まで二度もARMSはメンバーが欠ける危機を回避してきたのだ。
二度あることは三度あると儚い希望に縋ってしまうのも無理は無い。
(いや、そうではないか……)
ロードブレイザーは考え直す。
これは喪失を受け入れられないが故の都合のいい逃避の類の弱さではない。
絶望的な状況でも仲間の力を、はてはその生きた道のりを本気で信じぬける強さだ。
放送直後であるからこそ、心に乱れは生じているが、このままでは後数分もせずに落ち着くだろう。
リルカ・エレニアックという人間を心の底から信じているからこそ、その生死に関わらず
アシュレー・ウィンチェスターは止まらない。
死んだということを認めざるを得ない状況になっても、少女が望んだように一刻も早くオディオを倒すことこそが弔いになると一層覚悟を強めるだけだ。
悲しくないわけが無い。苦しくないわけが無い。それでも、楽しかった思い出を曇らせることなく、希望を持ち続けることのできる人間。
それがアシュレー・ウィンチェスターだ。
異心同体として共にすごし、危うく最後には討滅されかかったロードブレイザーは、そのことを嫌でも知っていた。
(……それではつまらんな)
幸せというぬるま湯に浸っている最中、突如殺し合いの場にいざなわれたこと。
二人の少女を救えず、あまつさえ滅ぼしたはずの脅威の再来。
魔剣から逃げるがままに北上してきたものの、倒すべき殺人者にも、守るべき人々にも会えないままでいる徒労感。
加えて仲間の死を知らせる放送。
これだけの出来事が立て続けに襲い掛かってきたからこそ、少なからずもアシュレーは揺れている。
落ち着かせる暇を与えては再度追い詰めることは難しくなるだろう。
カードを切るには今しかなかった。
『嘘ではないさ。そのことは貴様もよく知っているはずなのだがな?』
「どういう、意味だ……ッ!?」
放送前の時となんら変わらない詰問を放るアシュレー。
『では聞こう。デイパックの中の首輪は誰のものだ?』
されど今度は黙止することなくロードブレイザーは面白そうに問い返す。
実体を伴っていたのなら、口元を邪悪に歪めた笑みを浮かべていたに違いない。
「まさ……かッ」
知れずアシュレーの口から乾いた声が漏れる。
途端にデイパックがやけに重く感じられた。
待て、どうしてだ。あの中には何が入ってった?
まさか、まさか、まさかッ!
そんなはずは無いと、あってたまるかと。
どれだけアシュレーが思い込もうとしても、手は止まらずデイパックから目当てのそれを探り当て取り出してしまう。
黒く焼け焦げた誰かの首に巻きついていたはずのその円環を。
リルカ・エレニアックの首輪を。
『その通りだよ、アシュレー・ウィンチェスター。それはあの小娘――リルカ・エレニアックのものだよッ!
気付かなかったか? 見えなかったか? クックック、よくよく目を凝らせば炭化した肉片くらいなら見つけれたかもしれぬぞ?
まあ、大切なお仲間の墓標を前にして花を供えることも無く、経をあげることもせず、私と魔剣から逃げ出しただけのお前には気付けというほうが無理だったか。
ククク、フハハハハ、アハハハハハハハッ!!』
沈静などさせてなるものかッ!
ロードブレイザーの胸中を激情が荒れ狂う。
矮小だと見くびっていた人間達に絶望を味わわされた屈辱は、都合のいい寄り代としてしか見ていなかったアシュレーへの復讐心へと魔神の中で転じていた。
聖剣による束縛が無いことも相まって、常に無い程饒舌にロードブレイザーはアシュレーをせせら笑う。
効果は覿面だった。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!
――ロォォォーードッ、ブレイザァァァアアアアア!」
カイーナとの一件もあり、魔神を抱えた身での感情の爆発がどれほど危ういものなのかアシュレーには理屈では無論分かっていただろう。
繰り返し落ち着くんだと宥めにかかる冷静な部分も認識していたはずだ。
けれども無力感に打ちひしがれていたアシュレーの心は、行き場を得てしまった怒りを抑えるだけの強靭さを保てていなかった。
そしてそれは。
魔神を制御することに必須である仲間を守るという感情を欠いた純粋な憎悪の奔流は。
人間に絶望し、世界を呪った魔王の名の由来たる負の念の吐露は。
ロードブレイザーが付け入る恰好の隙となるッ!
『そうだ、それでいい。それでこそ『私』だ。一体化しているからこそ、お前の生み出す負の感情は私にとってこの上ない餌となるッ!!』
蓄えていた力を解放し、アシュレーの四肢へと意識を伸ばす。
一本ずつ、一本ずつ、神経の端々へと同調していく。
さもアシュレーが魔神の力を引き出さんとしていた時のように。
『――アクセスッ!』
あらん限りの皮肉を込めてロードブレイザーは叫んでいた。
その意味にアシュレーは気付き昂る心を抑えようとするももう遅い。
――さて、ここでクエッション。
未だ聖剣を宿していない身で復活したてのロードブレイザーに憑かれてしまった時、アシュレーは一体どんな姿になってしまったのだったか?
黒騎士ナイトブレイザー?
不正解。
灼熱騎士オーバーロードブレイザー?
大間違い。
焔の厄災ロードブレイザー?
惜しいッ!
剣の英雄アシュレー・ウィンチェスター?
失格ッ!!
答えは簡単。
聖剣による加護もなく、しかれども魔神もまた不調だった結果。
――怪物になったのだ。
人でもなく、怪人でもなく、英雄でもなく、魔神ですらもないただのモンスターに。
異常発達した僧帽筋に広背筋。
常人の二倍はあろうかという長く伸びた両腕。
形成し切れなかった胸部粒子加速砲器官。
何よりも目を惹くのは皮を剥がされた人間を思わせる白いボディに剥きだしの紫色の筋肉。
「ああッ、ああああああああああああああああああああ……ッ!」
誰がそれを人間だったと判断できよう。
誰がそれを心は人間のままであると判断できよう。
さらにロードブレイザーは突きつける、アシュレーの心に負い目として残っていた一つの過去を。
『お前には力がある。私という力が。帰りたいのだろう、生きてあの女のもとへと。ならば……
何をはばかることがある? 同じではないか、生き残るために私の力を使い化け物となった特殊部隊の仲間達を皆殺しにしたあの時とッ!』
表向きはテロリストの襲撃として事実を握りつぶされていた為に、誰からも責められることなく、一人ずっと抱え続けていた罪がアシュレーを犯した罪が苛んでいく。
魔族を降ろされたのは皆同じだったのに何故お前だけが生き残り幸せになっているのだと怨嗟を漏らす声が責め立てる。
本来ARMSと呼ばれるべき部隊に所属していた隊員達。
仲間だったと言いながらも帰りたい一心で引き裂いてしまった者達がぎらついた目でアシュレーを見下ろし、一斉に口を開く。
『潰せ……ッ!』
化け物として、怪物として、彼らを殺したときのように。
『壊せ……ッ!』
そしてお前もこっちに来い。化け物としてむごたらしく殺されろ。
『破壊せよ……ッ!』
そうだ、真に、真に破壊されるべきは。
『『『お前自身だ、アシュレー・ウィンチェスターッ!!!』』』
亡者達の合唱を受けアシュレーが膝を突き、頭を抱える。
まるであの運命の日の再現のように。
只一つ足りないのは縋る寄る辺たる銀の腕。
「そレでも……。ソレデモ僕は僕としテ日常に、マリナの傍ニ、帰りタイんだッ!」
だからこそ銀の輝きには到底及びはしないくすんだ白き左腕にありったけのフォースを込めて自身を殴りつけ、強引に魔神の力を押さえにかかる。
一切の手加減を排除した本気の拳の直撃にアシュレー自身も地を転がったが、内部の魔神も堪ったものではなかった。
殴られた箇所からロードブレイザーに明日への希望を失わない心が浸透してきたからだ。
『ふん、僅かながらの力を取り戻したに過ぎぬというのに調子に乗りすぎたか。いいだろう、私はまた黙っているとしよう』
所詮は全盛期には程遠い状態。
本体は概念存在であるもののアシュレーの身体に受肉してしまっているロードブレイザーにとって、この一撃のダメージは思いのほか大きかった。
アクセスを続行したままでいるにはたかが会話にも無駄なエネルギーを裂いている余裕はなくなってしまった。
『ああ、そうそう。精々気をつけるのだな、アシュレー。
外見のせいで誤解でもされようものなら、善人ですら貴様を襲うかもしれん。
私を押さえ込め切れない今、うっかり自衛で殺してしまうかも知れぬぞ?』
最後に不安を煽るようありったけの悪意をのせた嘘を残して、魔神は再び闇へと沈む。
もう少し殺し合いが進めば話は別だが、魔神は悟られないようにしてはいるが、一方的に強行しての『アクセス』では精神はおろか肉体すらてんで支配できていない。
表象的に魔神よりにひっぱってくることっだけで精一杯だったのだ。
とはいえ実際に無理やりアクセスされてしまったアシュレーに魔神のはったりを見抜けというのも酷な話だ。
魔神の脅威を身に染みていたこそ騙されてしまった。
「――よお。誰だい、あんたは? いや、なんだいって聞いたほうがいいのか?」
だからこそ魔神との問答が終わるのを狙っていたかのように声をかけて来た灰髪の男の登場に、
「逃げてクレ……ッ!」
アシュレーは悲鳴のような唸りを上げて後ずさった。
地下水路を抜けてしばらく経った時、セッツァーがそれに気付いたのは偶然でもなんでもなかった。
骨のような白と血肉を思わせる赤で彩られたプロトブレイザーの姿は、緑の木々の中では目立ちすぎたのだ。
おまけにはたから見れば宙に話かけているようにしか見えないのだから、怪しいことこの上ない。
普通なら
(首輪はついてはいるがモンスターか?)
むしろ幻獣に似た何かを感じる。
セッツァーの知るシヴァ達とは違って随分凶悪な姿この上ないが、不思議とそう思えてならないのだ。
そこまで考えて一つの可能性に思い至る。
トランス。
死した
ティナ・ブランフォードが存命時に振るっていた力。
幻獣と人間のハーフであることが可能としたその能力を発動しているときのティナも人間離れした姿へと変身していた。
もっとも人間から皮だけを剥ぎ取ったようなグロテスクな化け物とは違い、ティナの変身体は神秘的な妖精じみたものではあったが。
(自然に得た力ではなく、セリスやケフカ同様、人工魔導士という線もあるな)
それならばあの醜悪な姿も納得だ。
人工魔導士とは文字通り人為的に幻獣から取り出した力を注入することで魔法を扱えるようになった者達のことだ。
無論、本来宿ることの無い強大な力を付加されることに、なんら副作用がないはずはない。
ケフカが精神に異常をきたしたように、初期の被験者なら外見が醜く変異していることも充分ありうる。
一時期トランスしたままのティナが暴走状態に陥っていたという話も踏まえると、あながち間違った推測には思えなくなってきた。
(気になるな……)
いつしかアシュレーの方へとセッツァーは踏み出していた。
普通に考えれば優勝狙いの人物がとるには余りにもリスクが大きい行動だ。
見かけで判断すれば間違いなくプロトブレイザーは言葉が通じず戦うしかない相手だったからだ。
それでも元来のギャンブラー気質がセッツァーに退くことを選ばせなかった。
首輪がついていることからいずれ戦う羽目になる可能性もあると判断。
未知を未知として放っておいて予期せぬピンチにあうよりも覚悟して事前に下調べしておい。
何よりもセッツァーは賭けた。
ギャンブラーとして磨いた観察眼が怪人に見た化け物らしからぬ苦悩の表情に。
そしてセッツァーは賭けに勝った
幸い怪人ことアシュレーの暴走は現状では肉体変化だけに止まっていたようで、精神面は消耗してはいたが健全そのものだった。
こちらを傷つけたくないから近づかないでくれと気遣われたくらいだ。
とんだお人よしだったとセッツァーは思い返してほくそ笑む。
件のティナの話を引き合いに出しなんとか納得してもらって得た情報はどれも中々に興味深いものだった。
中でもガーディアンのことは幻獣といくつか共通点がるとこじつけることで、アシュレーの誤解を深めるいいきっかけになってくれた。
「ケフカに会ったのか。あいつは暴走した幻獣を沈静化する方法にも長けていた。
もしかしたらデミガーディアンとやらにもその技術は有効かもしれないな。
少々というか、かなり臆病で気難しくてひねくれた人間なのが欠点なんだが」
ガストラ皇帝にしたように上手く立ち回る気なのか、はたまたアシュレーが馬鹿なだけなのか。
ケフカは現時点では分かりやすく大暴れというわけではないらしい。
ケフカの白黒を判断しかねていたアシュレーを騙そうと、特別に追加して与えた情報を復唱してセッツァーは自嘲する。
臆病で気難しくてひねくれてはいるけど本当はいい奴なんだぜ?
我ながら定番でぞんざい過ぎる嘘だ。
もっとまともなものを言えなかったのかと思う反面、どれだけ自分の口が回ろうと流石にケフカを擁護しつくすのには無理があるかと納得してもいる。
まあ何もかもが嘘というわけではない。
確かにケフカは暴走した幻獣を沈静化していたとも。
無理やり石化するという暴挙をもって。
(後はケフカ次第だ。あいつのことだ、いいようにアシュレーを利用しつくしてくれるだろ。
……もっとも、順当に地下のほうに行けばケフカとアシュレーが再会する可能性はぐんと減るんだがな)
アシュレーに教えたのはケフカの偽情報だけではない。
人目につかず精神を集中できそうな場所として脱出したばかりの地下水路の存在を真っ先に挙げておいたのだ。
トッシュのことも心強い人物だと知らせてある。
地下水路のことよりもそっちこそがメインといってもいい。
(三闘神の力を手に入れたケフカに、俺にとって相性最悪のトッシュ。どちらも俺が優勝するにおいて大きな壁になる)
故に押し付けようと画策した、アシュレー・ウィンチェスターといういつ爆発するかも分からない爆弾を。
(どちらが抱えることになっても俺には悪くない展開だぜ)
当然ながらヘクトルのことや、彼が介抱していたブラッドらしき人物の情報は一切渡していない。
この島に来る前からの知り合いの偽情報を渡した後すぐにアシュレーとは別れた。
暴走による他人への被害を恐れていたアシュレーも別行動に異論は無く願ったり叶ったりだった。
(山で洪水にあった時には俺の運も尽きたかと思ったが、どうやらそうでもないみたいだな)
上機嫌でアシュレーとの接触における一番の成果を指で弾く。
使い道の無かった
トルネコの支給品と交換して手に入れたチンチロリンセット付属のダイス。
陽光に照らされて輝く3っつの正方形は存外綺麗に思えた。
【D-7 一日目 午前】
【セッツァー=ギャッビアーニ@ファイナルファンタジー6】
[状態]:若干の酔い
[装備]:つらぬきのやり@ファイアーエムブレム 烈火の剣、シルバーカード@ファイアーエムブレム 烈火の剣、
シロウのチンチロリンセット@幻想水滸伝2
[道具]:基本支給品一式×2(セッツァー、トルネコ)
[思考]
基本:夢を取り戻す為にゲームに乗る
1:扱いなれたナイフ類やカードが出来れば欲しい
2:手段を問わず、参加者を減らしたい
※参戦時期は魔大陸崩壊後~セリス達と合流する前です
※ヘクトル、トッシュ、アシュレーと情報交換をしました。
ティナ・ブランフォード。
愛を知らず魔導アーマーという兵器を使って敵軍の兵士を何十人も殺戮したことのある危険人物。
帝国を襲い、世界を滅ぼしかけた幻獣と呼ばれる生物の血を引き、その絶大な力に呑まれてしまい暴走を引き起こした少女。
アシュレーがセッツァーから教えられた情報は大体以上のものであった。
意図的に編集されてはいるが、断片的に見ればどれも事実であり、ティナのことをよく知らない人物からすれば充分な説得力があっただろう。
現にアシュレーもセッツァーの話したティナの情報に一切疑いを抱いてはいなかった。
その上で他人と話をしたことで少し落ち着けたアシュレーは思う。
多くの人間を虐殺し、けれど最後にはトッシュという人物が聞いた話では一人の男を助けて命を散らせたという。
彼女はどんな気持ちで人を殺してきたのだろうか。何を想って最後に人を助けたのだろうか。
せめて死ぬ間際には己を取り戻せてたのだとしたらそれは少女にとって救いだったのだろうか。
(……違う。これからだったんだ、ティナ・ブランフォードは。
血の呪縛から解放されたのなら一人の少女として幸せな日常を生きられたんだ。
そこには見たことのない明日が広がっていたはずなのにッ!)
――アシュレー、大好きだから遠くに行っちゃいやだよ?
そう言ってくれた少女は、自分を置いて先に逝ってしまった。
遠く、遠く、もう会えないところへと。
でもきっと。
逢えなかったらもっと悲しかった。
ティナを初めとして多くの人間が死んだことは悲しかった。悲しいだけだった。
悲しみとしてしか記憶にこの先も残らない。
――そんなことしたらほんとに……ほんとに悪者になってしまうんだよッ!! だから、やめてッ!!!
ほら、こんなにも残してくれた言葉がある。
リルカの死はとてもとても悲しいけれど。
悲しいことだけじゃなくて、幸せな思い出でも満たしてくれる。
生きていたらこんなにも嬉しい出会いがあるんだって教えてくれた。
だから、大丈夫。戻れないところに行ったりなんてしないから。
「へいき、ヘッチャラ」
知れず目から涙が零れる。
せっかくセッツァーから譲ってもらったリルカの傘はちっとも涙雨を妨げてはくれなくて。
握りつぶしてしまわないよう優しく掲げたそれは空に虹をかけるばかりだった。
【D-7 一日目 午前】
【アシュレー・ウィンチェスター@
WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:プロトブレイザー。怒り、後悔、無力さを感じている。少し持ち直した?
[装備]:ディフェンダー@アーク・ザ・ラッドⅡ、レインボーパラソル@WA2
[道具]:天罰の杖@DQ4、ランダム支給品0~1個(確認済み)、基本支給品一式×2、焼け焦げたリルカの首輪
[思考]
基本:主催者の打倒。戦える力のある者とは共に戦い、無い者は守る。
1:地下水路で精神を集中してロードブレイザーを抑える
2:ブラッドら仲間の捜索
3:トッシュ、ケフカら他参加者との接触
4:
アリーナを殺した者を倒す
※参戦時期は本編終了後です。
※島に怪獣がいると思っています。
※内的宇宙にロードブレイザーが宿ったため、アクセスが可能になりました。
ロードブレイザーからの一方的な強制干渉は身体のプロトブレイザー化が限度です。現段階では。
※セッツァーと情報交換をしました。一部嘘が混じっています。
エドガー、
シャドウを危険人物だと、マッシュを善人だと思い込んでいます。
ケフカへの猜疑心が和らぎ、扱いにくいが善人だと思っています。
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最終更新:2010年07月01日 13:16