心の行く先 ◆xFiaj.i0ME



四とは、最小の合成数である。
素数である2と3、素数ですら無い0と1の次に来る、最初の数。
無でしかないゼロ。
点としてのみの一次元。
平面として存在する二次元。
厚みを持ち、生命の存在する三次元。
では、四次元とは?
縦横高さの他に、『時間』を加えた概念とされる事もある。
四次元存在とは、時間をも超越した存在であると。
ただ、いずれにしろソレを証明する手段は無い。
二次元を俯瞰するのは三次元の存在であるように。
四次元の存在を知るのは、それ以上の次元を知る者のみだろう。

別に、たいして意味のある話ではない。
ただ、『四』ならばたどり着けただろう、という話。
推測でも理論でもなく、唯の事実。
舞台の中の存在には知りえずとも、舞台を俯瞰する位置からなら知りえた事実。
仮に『四人』であったなら、知る事の出来た事実があった。
ただ、それだけのもの。


闇の中にまたたくは青白き灯火。
僅かにカビの匂いの漂う薄暗き回廊。
苔すら生えぬ石床には生命の気配すらなく。
多量の水気を含んだ空気は、どこまでも寒々として。
湿った空気の元である水路は何処から何処へ流れ行くのか。
ところどころ朽ちた石壁は、打ち捨てられた廃墟のそれであり。
その地に相応しい住人達は、そこにありながら最早誰にも省みられる事も無く。

手で触れども何も帰るものは無い。
この世の理は何一つ変わらない。
訴えかけられる無念を、誰が聞き届けようか。
後悔と悲しみは、唯一つの言葉を崇めるのみ。

そこにあるのは、憎しみ。
死者たちの声は、賛美歌のように唱和され、
『オディオ』という、至高の存在にして感情を崇め続ける。

だが、その声すら、誰にも届くことも無く。
時の流れすら無縁な墓所は、ただ静かに佇むのみ。


そんな光景を、目にした気がした。

「ここは、何処じゃ」
「何処かの建物の中、みたいだけど」

一瞬の情景。
白昼の幻。
目の前に広がるのは確かに石壁だが、そこには温かみを感じる。
朽ち果てるには未だ数十年の年月を必要とする建物。
ほんの数日前までは、明らかに人の手の入っていたと思しき建造物。
並べられた長椅子は、人の来訪を待ち望み続けている。
未だに生の脈動を感じさせるもの。

「あの……今のは」
「うむ、中々貴重な経験をしたの。 ライブリフレクターとはまた趣の異なる、わらわも今まで味わった事のない感覚であった。
 それほど嫌な感じは無いし、謀られたと思ったがこれはなかなかどうして、拾い物かもしれんの」
「あたしは、似たような感覚を知っているかな。
 ワープとかレスキューがあんな感じで。 でも感じる力はもっとずっと大きかったかな」
「むむ、そなたはあの『うにょーん』として『ふわっ』で『ぴょん!』という感覚を知っているというのか?」
「うん、あたしの知ってるのは『うにょーん』はそんなに感じないけど『ぽわっ』てして『ぴょん』て感じかな」
「ふむ、わらわの知っている装置だとああでは無いのじゃ。
 こう、『ピリッ』ときて『ビューン』として『ボワッ!』という感じがするもので……」

戸惑うロザリーを他所に、ニノとマリアベルはたった今通過したゲートの雑感を述べ合っている。
意味が判るような判らないような擬音をぶつけあう二人だが、ロザリーにも一応その意味は感じ取れる。
ちなみに、ロザリーの知る旅の扉は『ぐにょぐにょ』で『ふにゃふにゃ』という感じなのだが、今の彼女の関心はそこには無い。

「嫌な感じでは……無い?」

その、最大の関心事は、その『ふわっ』と『ぴょん!』の間に感じた気配。
判りやすく言うならば、黒であって黒では無い奇妙な空間を通過する最中。
心の芯までも凍てつくような、寒々しい気配に対するもので。

「うむ。 わらわは別に何とも感じなかったが……酔いでもしたか?」
「酔うって、お酒じゃないんだし」
「いや、そなたらの知る技術においてはどうだかは判らぬが、実際にああいう転移装置に酔うという事はあるのだぞ」
「へー……ってあたし酔った事無いからわからんないや」
「ふむ、お子様じゃな。
 と、まあそれはさておき本当に酔ったのかロザリーよ。 顔色が悪いぞ?」
「い、いえ、酔ったという訳ではなくて……その」

マリアベルの心配も当然だろう。 今のロザリーの顔色は、重度の貧血でも起こしているかのように青白い。
まさか、何処か傷でも負っていたのかと、後ろでニノも、心配そうな表情を浮かべている。

「あの、お二人は、何か、その……墓……廃墟のような景色を見ませんでしたか?」
「廃墟?」

躊躇うように、恐れるようにロザリーが告げる。 その声には、微かな怯えが篭っていた。
だが、それはマリアベルにはまるで思い当たらない事。 隣のニノに顔を向けたが、彼女も首を横に振るだけだ。

「うーん……一瞬の事だったから、もしかしたらあたし達は見逃ちゃったのかもしれないけど」
「いや、わらわは目を瞑ってはおらんかった。 折角の経験なのじゃからそのような勿体無い事など出来んしの」

ニノの思いつきは、瞬時に否定される。
つまり、あの光景はロザリーのみが目にしたものである、という事になる。

「ふむ……そなたを疑う気はないが、慣れぬ感覚に幻覚でも見たという可能性もある。
 あまり気にすると余計に気分が悪くなる、という事もあるぞ?」

ロザリーはそのような嘘を付くような性格では無い事はこれまでで知れているし、顔色が悪いのも事実である。
だが、マリアベルとてはもう1つの現実的な意見を述べる事も忘れない。
実際、酔って具合の悪くなることも、幻覚を見るという事も、多々あるのだから。

「それなら、もう一度通ってみるとか?」
「それはイヤじゃ」
「え、何で?」
「わらわ達は今こっちに来たばかりなのじゃぞ。 こんなにすぐに戻ってみよ、シュウサンダウンに笑われるわ。
 『寂しかったのか?』などと言われてみよ、わらわの誇りはどうなるのじゃ!
 それに、原因が明白な以上、それを繰り返すというのはいかがなものか」 

非常に簡単な提案に対して、誇り高きノーブルレッドとしてそんな子供みたいな事は出来ん。 と主張するマリアベル。
どちらかと言うとそんな事を気にする方が子供っぽいと思ったが、ニノは黙っていた。 実に大人である。
とはいえ、マリアベルの言葉にも一応の意味はある。
ロザリーの症状がもし、『転送酔い』ならば(実際にそのような症状があるのかはさておき)もう一度それを行なうのは症状の悪化を招きかねない。
かといって、実際に何も感じなかったニノやマリアベルだけが再びゲートを潜ったとして、結果がある可能性はそう高く無い。

「……そうですね。 確かに私が幻をみたという可能性はあるかもしれません。
 それに、どうせあれを使用する機会はまだあるでしょうから、今すぐ確かめる必要は無いと思います」

どうするべきかと思案する二人に、多少顔色の持ち直したロザリーが言う。
後ろ向きな意見ではあるが、現状では他に良案があるという訳でもない。
何より、当人であるロザリーが酔いかもしれないと言うのだから、本当にそれだけなのかもしれない。

「ふむ、わらわとして賛成じゃな。 そなたにこれ以上体調を崩されても困る。
 一先ずわらわとニノが近くを見てくるから、そなたはここで休憩しておくのじゃ」
「ロザリーさん……顔色凄く悪いし、ゆっくりしててよ」
「ええ、申し訳ありませんが、お言葉に甘えさせていただきます……」

心配そうなニノの言葉に微笑みを返して、ロザリーは並べられている長椅子に座り込む。
天窓から僅かに差し込む日の光に、飾り気の無い木目調の椅子、身体を冷やす心配は無いだろう。

「それにしてもここは何処なのかのう。
 見たところそこそこ大きそうな建物であるし、この地図にも載っている施設だと思うが」
「ここは多分、教会、かな?
 あたしが知ってるのはこんなに大きく無いんだけど、雰囲気が似てるかな。」
「ふむぅ、わらわの知るものとは多少違うが、ニノが知る知識でそれに近いならそうなのかもしれんな。
 教会、と……これかのう。 町の中にある可能性もあるが、わざわざ地図に書いてある教会があるのじゃし、こっちの可能性が高いか。
 しかし、そうなるとここは島の反対側になるの。 移動手段としては便利じゃな」

すぐに戻るから、とだけ告げて地図を取り出しながら、廊下へと向かう二人。
教会というなら、宿泊施設とまでは行かずともそこで寝泊りする人間の部屋は必要な筈。 ならばロザリーを休ませることもできるだろう。
それなりの大きな教会ではあるが、大声を出せば建物内ならどこにいても判るだろう。
ゲートホルダーをマリアベルが預かっている以上、これ以上の体調の悪化は起きまい。
ほどなくして、二人の声は遠くで響くのみとなり、ロザリーの側には少しの静寂が齎される。

そうして、そこでロザリーは小さく身震いをした。
幻覚?
ほんとうに、そうであって欲しい、そう考えながら。
出来るなら、もう一度あれを通りたいとも思えない。

あれはそう、
かつて味わった。

明確な、『死』の感触だったから。


【F-1/教会 一日目 午前】


【ロザリー@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち】
[状態]:疲労(中)衣服に穴と血の跡アリ 気分が悪い
[装備]:クレストグラフ(ニノと合わせて5枚)@WA2
[道具]:双眼鏡@現実、基本支給品一式
[思考]
基本:殺し合いを止める。
1:ピサロ様を捜す。
2:ユーリル、ミネアたちとの合流
3:サンダウンさん、ニノ、シュウ、マリアベルの仲間を捜す。
4:あれは、一体……

[備考]
※参戦時期は6章終了時(エンディング後)です。
※一度死んでいる為、本来なら感じ取れない筈の『何処か』を感知しました。

【ニノ@ファイアーエムブレム 烈火の剣
[状態]:疲労(大)
[装備]:クレストグラフ(ロザリーと合わせて5枚)@WA2、導きの指輪@FE烈火の剣、
[道具]:フォルブレイズ@FE烈火、基本支給品一式
[思考]
基本:全員で生き残る。
0:付近の探索を行い、情報を集める。
1:ジャファルフロリーナを優先して仲間との合流。
2:サンダウン、ロザリー、シュウ、マリアベルの仲間を捜す。
3:フォルブレイズの理を読み進めたい。
[備考]:
※支援レベル フロリーナC、ジャファルA 、エルクC
※終章後より参戦
※メラを習得しています。
※クレストグラフの魔法はヴォルテック、クイック、ゼーバーは確定しています。他は不明ですが、ヒール、ハイヒールはありません。

【マリアベル・アーミティッジ@WILD ARMS 2nd IGNITION
[状態]:疲労(小)
[装備]:マリアベルの着ぐるみ(ところどころに穴アリ)@WA2
[道具]:ゲートホルダー@クロノトリガー、基本支給品一式 、マタンゴ@LAL
[思考]
基本:人間の可能性を信じ、魔王を倒す。
1:付近の探索を行い、情報を集める。
2:元ARMSメンバー、シュウ達の仲間達と合流。
3:この殺し合いについての情報を得る。
4:首輪の解除。
5:この機械を調べたい。
6:アカ&アオも探したい。
7:アナスタシアの名前が気になる。 生き返った?
8:アキラは信頼できる。 ピサロ、カエルを警戒。
[備考]:
※参戦時期はクリア後。
※アナスタシアのことは未だ話していません。生き返ったのではと思い至りました。
※レッドパワーはすべて習得しています。

※南東の城下町のゲートはF-1教会に繋がっていました。 再び同じ場所に戻れるのかは不明です。
 原作の通り、四人以上の人間がゲートを通ろうとすると、歪みが発生します。
 時の最果ての変わりに、ロザリーの感じた何処かへ飛ばされるかもしれません。
 また、ゲートは何度も使えるのか等のメリット、デメリットの詳細も後続の書き手氏に任せます。
※『何処か』は心のダンジョンを想定しています。 現在までの死者の思念がその場所の存在しています。
(ルクレチアの民がどうなっているかは後続の書き手氏にお任せします)


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066-5:Alea jacta est! マリアベル 088-1:有限世界の少女たち
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最終更新:2010年07月02日 15:34