無法松、『酒』を求める ◆Rd1trDrhhU
大海原をたゆたういくつもの波。
空を漂ういくつもの雲。
無法松は、無心でそれらを眺めていた。
彼の前を通り過ぎた波、雲。
彼は気づくことはなかったが、その総数はそれぞれ二十九だ。
それは、この殺し合いで今までに散っていた魂の数。
「……誰も、来ねぇな」
座礁船の甲板から海を眺める。
海面に反射した太陽の【光】が、無法松の目に【槍】のように突き刺さった。
チクリと網膜に痛みを覚えて、思わず瞳を【拳】で拭う。
数秒の後に視界を取り戻した無法松は、遥か西で紅く【燃える】太陽を改めて見る。
まるで、待ちぼうけを食らっている事をあざ笑われたような気がして、彼は【心】に苛立ちを覚えた。
【光】……この殺し合いが始まった直後、ある魔女も
ヘクトルという男を救うために癒しの光を放った。
その代償として彼女は死んでしまうが、その意思はヘクトルにうけ継がれる事となった。
【槍】……導かれし者たちの一人、中年の商人。彼をギャンブラーの槍が貫いた。
商人は優しい父親だったが、他でもないその優しさこそが勝負師を殺し合いへと導いてしまった。
【拳】……導かれし者たちの一人である少女が使う武器。彼女の拳はとても強かった。数々のモンスターを倒してきた。
だが、道化師の魔法の前にはそれも通用せず、彼女は巨大な氷に包まれて命を落としてしまう。
【燃える】……燃える森の中で、一人の少女が絶命した。幻獣と人間の間に生まれた美しい娘だ。
彼女は無法松に全てを託し、たったひとりで狂騎士に戦いを挑んで倒れた。
【心】……心山拳という拳法がある。その拳法の師範代である少女は、とても強い心を持っていた。
彼女は最期まで人間の心を信じて、人間への憎悪を燃やす魔王と戦い抜いたのだった。
「…………あー! なんだってんだよ一体よぉ!」
イラつくあまり、海に飛び込みたい衝動に駆られる。
だが、そのまま流されて、【禁止エリア】に進入して死亡などとなっては、冗談では済まない。
さすがの無法松も、そんな【原始人】の様な真似をするほど馬鹿ではなかった。
地団太を踏み、船に八つ当たりする。
座礁船はビクともせず、男のやり場のない怒りを全て受け止めた。
【禁止エリア】……最強を目指す格闘家も、禁止エリアには勝てなかった。
首輪が起こした爆発は小さなものではあったが、確実に彼の命を吹き飛ばした。
【原始人】……原始に生きる女性。時空を旅して、世界を救った者たちの一人だ。豪快で優しく、そして強い人であった。
彼女を殺したのは、漆黒の暗殺者が投擲した一本の槍。
「
トッシュ、何かあったんだな……」
太陽が沈み【夜空】が訪れると同時に、無法松も冷静さを取り戻す。
彼が待っていたのは、トッシュという侍。
座礁船への集合を呼びかけた中で、唯一生き残っている人物だ。
しかし彼は、約束の時間である【魔王】オディオによる第三回放送を過ぎても、一向に姿を見せない。
トッシュは、約束を違えたり【嘘】をつくような男には見えなかった。
ならば、彼は厄介ごとに巻き込まれてしまったのだろう。
この会場には、【平気で人を殺すような外道】が大勢いるのだから。
【夜空】……ある少女が、夜空に消えた。彼女は、魔剣に封じられし力を引き出し……我が物とした。
しかし、強大な力は少女すらも食いつくしてしまう。彼女は消えゆく身体を奮い立たせ、最期まで魔王と戦いぬいた。
【魔王】……ある魔王の剣が、少女を貫いた。彼女は幼いが芯が強く、召喚師としての多大なる才を秘めた娘であった。
落ちゆく意識の中で彼女はずっと、自分の恩師を心配していた。
【嘘】……少女の死を前に、ある物真似師が自らのポリシーに反してまで嘘をついた。その少女は姉であった。
命が燃え尽きるその瞬間まで、姉であり続けた。その死は、実に多くの参加者に影響を与えることとなる。
【平気で人を殺すような外道】……灯台で少年に殺された男も、こういう人間であった。人の命を命だとも思わず、弄んで楽しむような男。
最期は豚の真似をさせられて殺されるという、なんとも彼らしい終わり方だ。
「……仕方ねぇな」
ただ、待ち続けているだけでは、時間の無駄である。
何かすべきことはないものかと考えた無法松は、自分が船の上にいることを思い出した。
もしかしたら、【酒】でも積んでいるのではないか。
そんな【甘い】期待に背中を押されるようにして、無法松は船の内部を捜索することにした。
船内に潜んでいるかもしれない敵からの【奇襲】には、十分気をつけながら。
【酒】……超能力少年が、酒を湖に注いだ。命の歯車を止めた、機械仕掛けの女性への手向けだった。
英雄になることに、人生をかけて拘り続けた女性。彼女は最期の最期で、少年から英雄と認められたのだった。
【甘い】……天馬騎士見習いの少女が、甘い夢を見たまま逝った。彼女は自分が死んだことにも気づかなかった。
気弱な少女にとっては、むしろその方が幸せだったのかもしれない。
【奇襲】……世界を救った者たちのリーダーだった国王。彼も暗殺のプロの奇襲には太刀打ちできなかった。
しかし、彼は絶命してもなお、手にした刃を振り続けた。
戦友への誓いを、心の中で叫びながら。
「……ほぅ、意外と広いもんだな」
カツカツと階段を下った先には、だだっ広い空間。
木製の床は、歩くたびにギチギチと軋みをあげた。
どこかから、隙間【風】が吹き込む。
こんな安い作りでちゃんと【嵐】の海を抜けることができるのか、と無法松は心配になった。
【風】……風を従えたハンターがいた。世界一疑り深い男。なのに彼は、起きるはずのない嵐を命がけで待ち続けた。
嵐は現実のものとなり、男はその奇跡を起こした相棒に報いるために魂を燃やした。
【嵐】……あるガンマンが起こした奇跡の銃技。男は、白い花が好きだった。そして彼は相棒と共に全てを賭けて最強の魔導師に挑む。
あと一歩と言うところまで道化師を追い詰めたが、最期は少女を見守って力尽きた。
「さて、鬼が出るか、蛇が出るか……ってなぁ」
通路を【盾】のように塞いでいる蜘蛛の巣を払いのけて、無法松は幾つかある扉のうちのひとつを開ける。
部屋の中は、特に目ぼしいものはなく、布団や空瓶などが【乱暴】に投げ捨てられていた。
扉の近くに落ちていた【眼鏡】を踏み潰して、中に入る。
壁にかかっているドクロマークを発見して、無法松はこれが海賊船であることを知った。
【盾】……フィガロ城で死んだ少年。彼の腕で輝く紋章は、盾であった。誰かを守りたいという少年の思いを具現化したようでもある。
そして彼は、その願いの通りに、紅き侍を癒して空へと旅立った。
【乱暴】……無法松と、この座礁船で合流する約束をした男。彼は乱暴な性格だった。約束をよく破る男でもあった。
異形の騎士と魔王を前に、彼は倒れた。この約束を守ることも、できなくなってしまった。
【眼鏡】……眼鏡の少女。知性に溢れていたが、しかし彼女は優しさも忘れることはない。
殺し合いに乗ったかつての仲間たちを止めるために自ら戦場へと向かい、最期は心地よい緑の光の中で眠りについた。
「……海賊なんてもんまで存在してやがんのかよ…………」
無法松のいた世界で海賊行為などを行えば、たちまち【軍部】によって粛清されてしまう。
おそらく、この海賊船のいた世界は、無法松のいた日本とはまったく違う常識を持っていたのだろう。
【軍部】……無法松を守って死んだ女性は、軍人だった。男であるとか、女であるとか関係ない。
民間人を守ることに全力を注いだ。隕石に押しつぶされるその瞬間まで。
「いろんな世界があるんだな」
以前の彼ならば異世界の存在など信用できるはずがなかった。
が、【魔法】なんてものを散々この目に見せられては、もうその存在を信じざるを得ない。
ふと、金髪の男が【召喚】した隕石を思い出して、無法松は今一度悔しさを滲ませた。
彼にとって、【女に犠牲になられる】ことは、とても許せることではない。
【魔法】……炎の少年が、魔王の放った魔法を受けて消滅した。その幼い心は、やがて成長して世界を救うに至る。
しかし、運命の輪は、彼にその機会を一切与えなかった。
【召喚】……召喚師の女性。彼女は、最初からずっと逃げ続けていた。己の内にある感情と向き合うことを避け続けた。
ギャンブラーは、それを良しとはしなかった。彼女を殺したのは彼女自身の弱さだったのだろう。
【女に犠牲になられる】……メガザルという魔法を使う女性がいた。自らを犠牲にして他人を守る。彼女の優しさを体言するかのような魔法。
そして彼女は、傷ついた仲間を救うため、何のためらいもなくその魔法を唱えて……力尽きた。
「ま、今は前に進むしかねぇよな」
感傷的になった自分に気づいて、無法松は踵を返した。
他の部屋を調べるため、次なる扉へとその足を伸ばす。
彼女を犠牲にして生き延びてしまったことは、もう仕方のないこと。
ならば、今は彼女の分まで戦うべきだ。
それが、【命を託した】彼女の願いなのだろう。
【命を託した】……スパイラルソウル。メガザルと同じ効果を持つが、少し荒々しい技。その使い手も、これまた荒々しい男。
彼は、最強最悪の敵を前に、この技を使用。仲間に全てを預けて荒野に倒れた。
「この部屋は、酒蔵か?」
次に踏み込んだ部屋は、【馬鹿】にたくさんの樽が積まれている部屋。
辺りに漂う心地よい匂いに、無法松は【雷】に打たれたように跳ね上がって喜んだ。
この中のどれかに酒が残っているかもしれないと、ひとつひとつ中身を確認していく。
【馬鹿】……文字通り、馬鹿がいた。どうしようもないほどの馬鹿なのだ。それゆえに、全てを吸収できる男だ。
彼もまた、仲間に命を託して倒れた。相棒がやったのと同じように。
【雷】……無口な少年の得意魔法は雷。その得意技のせいで、ある勇者を絶望に追い込んでしまう。
仲間から命を預かった彼は、死にゆく身体で必死でその勇者のところまで這い進み、最期の思いを手渡そうとした。
「これで、【ご馳走】でもありゃあ最高なんだがなあ」
などと、贅沢を口にしながら、樽を持ち上げていく無法松。
思わず垂れてきた涎を飲み込む。
半分ほど調べたが、今のところ全ての酒樽は空であった。
だが、もう無法松には、酒が飲めないなどとは【信じられない】。
どれかに必ず【本物の】酒が入っていると信じ、次々と酒樽をチェックしていく。
【ご馳走】……少女は、争いが嫌いだった。みんなと笑顔でご馳走を食べることを望んでいた。
その優しさは、狂人の壊れきったはずの心に孔を穿つ。貫かれた少女の思いは、確実に何かを変えたのだった。
【信じられない】……『シンジラレナーイ』。狂った道化師の口癖。彼の心に、ある『毒』が注入された。
その感情は彼を蝕み……そしてついに道化師は蝕まれるまま、絶命するに至る。
【本物の】……モシャス。誰かのニセモノになる魔法だ。少女はソレを駆使して幼馴染の少年を助けようとした。
彼女はたった一度だけ、本物の思いを少年に伝える。しかし彼の『返答』は、彼女を粉々に砕いてしまった。
「ん? なんだこりゃ?」
部屋の隅に置いてある樽を持ち上げたときだった。
無法松は、その下の床に、何か絵のようなものが描かれていることに気がついた。
蛇の這った跡のような、筆で適当に書きなぐったかのような不思議な模様。
「落書き……か?」
無法松はよく分からないソレを無視して、アルコール探しに戻る。
もう、彼の目には酒しか映ってはいなかったのだから。
男は、目的のものを探して進む。
明日のために、座礁船で仲間を待ち続けながら。
たったいま目の前を通り過ぎた二十九には、気づくこともなく。
さて、無法松が見たこの模様。
これは落書きでもなければ、絵ですらない。
実は、紋章である。
転送の魔法が封じ込められた、紋章だ。
この船は、ファーガスという海賊が所持していた船。
ヘクトルたちが、『魔の島』へ渡るために乗った船でもある。
この船は海賊船として活動しているかたわら、武器屋や道具屋を乗せて商売もさせていた。
そして、この紋章もまた、ある店への入り口である。
ヘクトルたちが使うことのなかった、ある店への。
この紋章のことを魔王オディオが知っているかどうか。
この先に通じているのが何なのか。
それは、まだ誰にも分からない。
しかし、たった一つだけ…………。
セッツァー=ギャッビアーニが現在所持しているメンバーカードにも、全く同じ紋章が描かれている。
それだけは、確実なことであった。
【A-7 座礁船内部 一日目 夜】
【無法松@
LIVE A LIVE】
[状態]健康、全身に浅い切り傷
[装備]壊れた蛮勇の武具@サモンナイト3
[道具]基本支給品一式、潜水ヘルメット@ファイナルファンタジー6
[思考]
基本:打倒オディオ
1:酒を探す。
2:アキラ・ティナの仲間・
ビクトールの仲間・トッシュの仲間をはじめとして、オディオを倒すための仲間を探す。 ただし、約束の時間が近いので探すのはできるだけ近辺で。
[備考]死んだ後からの参戦です
※ティナ、ビクトール、トッシュ、アズリアの仲間について把握。
ルカ・ブライトを要注意人物と見なしています。
ジョウイを警戒すべきと考えています。
※A-7 座礁船の酒蔵の隅に、秘密の店への入り口があります。その先に何があるかは不明。
時系列順で読む
投下順で読む
最終更新:2010年07月15日 14:15