昭和の男とエルフの願い ◆SERENA/7ps
無法松は今時珍しく、精神論や根性論を頑なに信奉している人物だ。
困難があろうとも根性で乗り切り、難関には気合で立ち向かう。
1に男気2に気合い、3、4がなくて5にド根性、そういう男だ。
それが、変わり行く現代の価値観には合わぬことも、松は当然知っていたが、それを変えようとは微塵も思ったことはない。
それでいいのだ。
変わっていく世相の中で、自分だけは変わらず馬鹿正直に自分というものを貫き通す。
汗臭い男だと言われようが、古臭い男だと言われようが構わない。
他人から理解を得ようと思ったことなどない。
流行り廃りなど、どうでもいいのだ。
そうして、松は世間の目など気にすることもなく己の肉体を鍛え続けた。
それは自分自身のためではなく、強きを挫き、弱きを助けるためのものだった。
弱き者――それは子供や老人、そして女だ。
戦う術を持たない人や弱き人を助けるのが自分の、いや男の役目だと信じて鍛えた。
今の世の中、男女は平等だと云う。
そうかもしれない、確かに男と女の社会的立場に上下があってはいけないだろう。
法整備が整い、肉体労働ではなくデスクワークも増えた。
女が男以上の能力を発揮できる環境もたくさん増えた。
そういった社会で、並の男では一生かかっても稼ぎきれないお金を稼ぎ出すやり手の女も現れ始めた。
男を下に見る女も増えてきただろう。
それは一向に構わない。
それでも、無法松は男は女を守るものだと、女は男に守られるものだという自己の主張を取り下げることはなかった。
男女平等というのは、法の整備が整った現代でしか通用しないと思っているからだ。
ここで一つの仮定をする。
年齢が同じ男と女が腕相撲をした。
さて、勝つのはどっちだろうと聞かれた場合、多くの人は男が勝つと思うだろう。
そう、法律ではいくら男女平等だと言われようと、フェミニストや人権団体が何と言おうと、男と女の間には力の差というものが純然たる事実としてあるのだ。
もちろん、今は女が男に勝つ方法はいくらでもある。
銃を持てば、女だって男に勝てるかもしれない。
銃じゃなくても、自分の得意分野に持ち込めば、勝てることは多いかもしれない。
しかし、男と女という以前の問題の前に、人間には絶対不変の真理がある。
人は皆、裸で生まれてくるのだ。
刀も鎧も、ましてや銃なんて持って生まれてこない。
それが、無法松にとって、何よりも大切なことだった。
本当に人が平等の状態に陥ったら、身を守る武器も衣服もなく、社会的に守ってくれる法律も仲間もいなかったのなら、女は男には勝てない。
ならば、男である自分が女を守るのは当然のことだと、松はそう思った。
稲妻のごとき鋭さを持ったアッパーも、燃えるド根性を込めた蹴りも、己の鍛え上げた肉体から繰り出される武器だ。
竹刀や木刀、銃には頼らない。
己の武器がなんらかの事情で没収された場合、守れるものも守れなくなる。
いや、一時期銃を手にしていた時もあった。
だからだろうか、その時期に犯してしまった罪は今でも無法松の中で消えることなく存在している。
守るはずのための行動が、いつから奪うための行動になっていたのか。
それに気づいたとき、無法松はクルセイダーズの組織を抜けた。
身寄りのない孤児たちの生活を救うために、タイヤキ屋も始めた。
今度こそ、この手で守りたいものを守るために。
そして、守れた。
本望だった。
死ぬのを怖いとは思わなかった。
そして、当然のように、今度も誰かを守れるのだと、根拠もなく信じていた。
だが、現実はなんと残酷なことか。
「ちくしょう……」
それは昭和の男が出すような気合の入った声ではなかった。
無法松が嫌っている軟派な人間が出すような、弱々しい声だった。
今の感情はそう、あの時と同じ。
ブリキ大王を動かそうと勇んで壽商会に乗り込んで、結局駄目だった時に感じた無力感に再び襲われていた。
守るものと決めていた女に、逆に守られたのだ。
それも二度。
無法松にとっては、これ以上ないほど屈辱的で、痛烈な仕打ちだった。
「情けないじゃねえか……」
遥か天空から降り注ぐ流星は容赦なく草も木も、そして人間でさえも押しつぶし、滅ぼしていた。
大気圏との摩擦熱で熱せられた隕石群はまだ熱を残しているのか、辺り一帯は熱気を保っている。
隕石との衝突で出来上がった数々のクレーターが、いかに凄惨な威力を持っていたかを物語っている。
そんな今だ戦場の熱が残った跡に、無法松がいた。
6時間ぶりに忌々しいオディオの声を聞いた後も、松は一歩も動くことはなかった。
意気消沈した昭和の男の背中は、とても小さく見える。
アズリアが死んだ。
アズリアが捜していた
エルクが死んだ。
男の契約をした
ビクトールさえも死んだ。
この拳をどこにぶつければいいのか、この怒りをどこに持っていけばいいのか、それすらも分からない。
また一人ぼっちになってしまった。
それどころか、人がたくさん死んだことで、状況は振り出しに戻ったどころかさらに悪化している。
無理だったのかもしれない。
オディオに反抗しようとすること自体が、そもそも間違いだったのかもしれない。
仲間を集めることができず、そして敵を打ち倒すことすら適わず。
あろうことか、仲間に守られてばかりだ。
守るために鍛えた強さも、ここでは何の役にも立たない。
それは、無法松という男を全否定するかのような事実だった。
もうどうでもいい。
どこかで酒でも呑んで自暴自棄になりたい、そんな衝動すら襲ってくる。
しかし、そこで松はようやく動き出した。
かつて、無力感から自棄酒を呷った経験があったからだ。
そんなことをしても何もならないことを、無法松は己の経験談として知っている。
あの経験がなければ、松はまた愚行を繰り返していたかもしれない。
そして、オディオを倒すという目標も、ビクトールと交わした約束が消えてなくなった訳ではない。
たとえ残り一人になったとしても、松はオディオに対して戦いを挑む。
倒すことはできなくとも、せめて死んでいった者たちの無念を奴に刻み付けてやりたかった。
ビクトールは死ぬ直前まで、大勢の仲間を集めて座礁船に行くよう言っていたかもしれない。
自分だって
トッシュという男にそれを伝えているのだ。
ビクトールは死んだが、ビクトールと交わした男の約束はまだ死んではいない。
信じるのだ、ビクトールと、ビクトールの約束を。
座礁した船に希望を持った者たちが集まるのを。
そして、自分の弟分をもう一度守るのだ。
自分がこの手で殺してしまった男の息子が、今もまだこの島のどこかで生きている。
アキラも、超能力が使えるが、この島では強い方ではない。
無法松と同じくらいか、あるいは接近戦に至っては無法松より弱いかもしれない。
そう、まだ無法松の戦いは終わってはいない。
希望が全て潰えた訳ではない。
「行くか……」
後悔は終わりにして、無法松は動く。
6時間後には座礁船に戻らないといけないから、あまり遠くへは行けない。
それでも、限りある時間を無駄に過ごしたくはなかった。
足が棒のようになるまで駆けずり回って、誰かを探して保護か、倒すかしないといけない。
そう決意して走り出そうとしたとき、アガートラームのことを思い出した。
「……」
無言で考える。
皮肉な話だ、人を護るべき剣だけは無傷で、それを使う人は無残に死んでいくとは。
無骨で肉厚な灰色の剣は、大地に墓標のように突き刺さっていた。
あれだけ驚異的な死を撒き散らす破壊の魔法を受けても、剣は傷一つ付いてない。
剣に八つ当たりしたい気分にさえなる。
何故アズリアを護ってくれなかったのか。
何故自分はアズリアを護れなかったのかと。
剣の握りの部分を掴み、しばしそのまま立ち尽くす。
これを持って行くべきか?
持って行くのが当然の考えだ。
無法松は剣を扱えないが、ビクトールやトッシュのような男にとって、刀剣類はありがたい武器かもしれない。
メテオを受けても傷一つつかないほどの業物だ。
必ずや志を同じくする同志の心強い戦力になるだろう。
それに、ここに置いたままにすると、志を異にする者が持って行ってしまうかもしれない。
それは脅威だ。
そう、無法松の理性が持って行けと命ずる。
「……うるせぇッ!」
だが、松はアガートラームから手を離し、叫んだ。
「あいつはな、俺を助けるために死んだんだよ!」
芯から軍人だったアズリアのことを想う。
巨大な隕石に押しつぶされたアズリアの肉体は、見るも無残な肉塊になっていた。
降ってきた隕石の中でも、とりわけ巨大なものに押しつぶされてしまったのだ。
僅かに見える服装の切れ端や肉片と思われるものだけが、そこでアズリアが死んだことを示す何よりの証拠だった。
無法松にはこの隕石をどかすことも壊すこともできない。
「なら……ならよッ! 墓標の一つでもねえと、あいつが報われないだろうがッ!!」
そう、無法松は理屈より感情を取る男だ。
全てを理屈や計算で動かそうとするのなら、それはもはや機械か何かだ。
例え、これを積極的に殺し合いをする者がもっていく可能性を考慮しても、松はここにアガートラームを置いていくことを選んだ。
神や死者のために祈る言葉も持ち合わせてない松ができる、最大の弔いがこれなのだ。
もちろん、オディオも倒す。
倒して、アズリアやビクトールの仇も討つ。
無法松はまだ諦めない。
守るものがまだ残っている限り、無法松は無法松でいられる。
決意と拳を固くを握り締め、無法松は走った。
【B-7 一日目 日中】
【無法松@
LIVE A LIVE】
[状態]ダメージ(中)、全身に浅い切り傷、やるせない思い
[装備]壊れた蛮勇の武具@サモンナイト3
[道具]基本支給品一式、潜水ヘルメット@ファイナルファンタジー6
[思考]
基本:打倒オディオ
1:とにかく行動あるのみ。暗殺者とその協力者(
ジャファル、
シンシア)も追うかは不明?
2:アキラ・ティナの仲間・ビクトールの仲間・トッシュの仲間をはじめとして、オディオを倒すための仲間を探す。 ただし、約束の時間が近いので探すのはできるだけ近辺で。
3:第三回放送の頃に、集めた仲間と合流するためA-07座礁船まで戻る。
[備考]死んだ後からの参戦です
※ティナ、ビクトール、トッシュ、アズリアの仲間について把握。ケフカ、
ルカ・ブライトを要注意人物と見なしています。
ジョウイを警戒すべきと考えています。
そして、そんな無法松が去った後の戦場跡に、突然三人の少女たちが突如出現した。
突如出現したという言い方に語弊はない。
クレーターがある場所に、突如として揺らめく空間が発生し、そこから少女たちが現れたのだ。
「ここも違う……」
先頭に立っていたノーブルレッド、マリアベルが一人ごちる。
その声には明らかに落胆の色が含まれていた。
「じゃあっ! もう一回!」
緑の髪にあどけさなを残した顔の少女、ニノが言う。
ニノの顔にも焦燥感が浮かんでいる。
しかし、マリアベルはその提案を打ち切った。
「いや、もういい……これ以上は無駄じゃ」
「私はまだ大丈夫です」
マリアベルに対してそう答えたのは桃色の髪をしたエルフ、
ロザリーだ。
顔色は蒼白を通り越して土気色にまでなっており、明らかに体調を崩しているのが分かる。
自分が気遣う故の、マリアベルの提案だと思ってロザリーは言ったのだが、そうではないとマリアベルは言う。
「見てみよ、ここは戦場の熱気もおさまらぬ戦場跡。
もう終わってはいるようじゃが、わらわたちを狙う不届き者がまだいるかもしれん。 とりあえず移動じゃ」
オディオの声を聞いたマリアベルたちは重大な事実を知った。
シュウ、
サンダウン、
フロリーナ、エルク、
カノンが死んだのだ。
シュウとサンダウンを殺した下手人については
カエルが真っ先に浮かんだが、確証がないだけで今は保留。
さらに、まだ再会してなかったフロリーナ、カノン、エルクなど、信用できる仲間がどんどん死んでいく。
これは方針転換したほうがいいかもしれないと、マリアベルは開けたクレーターの地から森の中へ身を隠し考える。
シュウも死んで、さらにシュウ本人が自分と同等、あるいはそれ以上に強いと断言したエルクまで死んでるのだ。
いや、エルクがシュウの知っている方かニノの知っている方かは分からないが、どちらも並大抵のことでは死んだりはしない実力の持ち主だ。
思った以上に強い輩がそこら中を闊歩しているのかもしれない。
「もうシュウとサンダウンを探すのは止めじゃ」
「そんな!」
「私のことなら気にしないでください」
二人の反論を聞きながら、マリアベルはシュウが死んだのは自分のせいかもしれないと思った。
あの時、まだシュウと二人で行動してた時のことだ。
マリアベルの隣にはシュウがいたが、シュウの隣には誰もいなかった。
マリアベルにとってはシュウは味方だったが、シュウにとってマリアベルは味方ではなく、中立の存在だったのだ。
こいつの信頼を得るのは今すぐはできないだろうと思った。
シュウはマリアベルがいつ敵になっても対応できるような距離をとって歩き、如何なるときもマリアベルや皆に対して警戒していた。
ニノもロザリーも気づいてなかっただろうが。
それは宿屋にいた時も、カエルや
ストレイボウに初めて会った時もそうだ。
だから、別れた。
サンダウンに任せた。
いや、押し付けた?
マリアベル自身でもよく分からない。
何百年生きてようと、自分の気持ちさえ分からぬ時だってある。
それは心というのが深遠のごとき深みと広さを持っているからなのか、他のノーブルレッドに比べてマリアベルが未熟な若輩者なのだからか。
たぶん両方なんだろうとマリアベルは思った。
サンダウンもそれには気づいてたんだろう。
任せろと、あの時マリアベルにだけ言っていた。
「いや、ロザリーよ、何もお主を気遣ってのことだけではない。
考えてもみい、わらわたちはもう何回ゲートホルダーを使った? 何度目的の場所にいけずに地団太を踏んだ?」
「でも、次は行けるかもしれないよ!」
「そうじゃな、次は行けるかもしれん。 じゃがその確率は低い」
ニノの提案を再度マリアベルは退ける。
ゲートホルダーを使って教会から移動すれば、元の宿屋に戻るのが道理だと思うだろう。
だが、そうはならず、使った先はどこともしれぬ森の中。
それから何度もゲートを使って移動し、草原の中、砂漠の中、あるいはどこかの建物の中に移動したが、ついぞ宿屋に戻ることはできなかった。
ゲートの移動先が完全ランダムなのか、あるいはA、B、C、以下DEFというゲートがあったとして、AからBへ、そしてCへ、最後にFからまたAに戻るループ形式なのかすら分からない。
あるいは、時間に応じて行き先を変えるのかもしれない。
まったく判断が付かないのだ。
「ロザリーに無理をさせる訳にもいかん」
「私は大丈夫です」
未だ落ち着かぬ呼吸を繰り返すロザリーを、話は最後まで聞かんかと諭す。
何も、もうこの先ゲートホルダーを使わないというのではない。
ただ、シュウとサンダウンを探すために、ゲートホルダーを使って移動するのは止めようという話だ。
「ロザリーの体調、そしてゲートの行き先の法則が不明なこと。 以上からシュウとサンダウンの捜索は打ち切りじゃ。
酷なようじゃが、シュウとサンダウンが死んだのはもう決まっているのじゃ。 どうすることもできん……。
それに何度も転移を繰り返すと、今回は戦場跡じゃったが、戦場のど真ん中に出ることだってあるかもしれん」
「それはそうだけど……死んだっていうのが嘘の可能性もあるし…」
「それなら尚のこと無駄じゃ。 シュウとサンダウンが生きておるのなら、もうとっくに宿屋から離れとるわい。
今更宿屋に行ったって追いつけぬ」
もうロザリーもニノも反論はできなかった。
黙り込んで立ち止まってしまうと、ニノは死んでしまった人たちのことを思わずにはいられない。
ロザリーも、再び感じたあの感触を思い出さずにはいられない。
マリアベルも、わらわの許可なく死ぬなと言ったではないかと、シュウとサンダウンに悪態をつかずにはいられない。
カノンも積極的に戦う性格だ。
どこかで無理をしてしまったのだろうと、ぼんやりと予想できた。
もっと大勢で歩くべきかもしれない。
気を取り直して、マリアベルが今後の方針を練り直す。
ノーブルレッド一人はおろか、複数人で行動しても危ない状況なのかもしれない。
ストレイボウは生きているようだが、行方が知れないし、そもそも落ち合う約束すらしていない。
と、そこで戦場跡らしきクレーターで何かが光るのをマリアベルは発見する。
茶色の大地が広がる中で、灰色のそれはよく目立つ。
しかも、それはマリアベルにとって因縁あるものだった。
「お主ら、ここに少し待っておれ」
そうニノとロザリーに告げた後、クレーターの中へ走り出す。
人差し指ほどの大きさに見えなかったものが、段々と大きく見える。
それに近づくほど、マリアベルは己の確信を深めた。
「アガートラーム……」
そう、かつて剣の聖女が使った伝説の剣が、この不毛の大地と化した場所に突き刺さっているのだ。
よく見れば、近くには血痕らしきものや、焦げて押しつぶされた肉片らしきものが残っている。
肉片からは血の匂いはするがまだほとんど異臭はしないし、ここには未だに戦場の熱が残っている。
おそらく、この肉片は少し前まで人間だったもので、アガートラームはその人が使っていたに違いない。
でも、そこまで考えてふと疑問に思い当たる。
「使えたのか……?」
死んだ人物はアガートラームを使えたのか疑問だ。
その昔、アガートラームはロードブレイザーを封印後、大地に突き刺さったままになったのだ。
大地に刺さったアガートラームを引き抜くことはいかなる英雄豪傑、奸賊でも適わず、周囲の岩盤ごと掘り返されて、剣の大聖堂に安置されていた。
アシュレーの運命の輪が回り始めたのは、そんなアガートラームを抜き、自身の事象の彼方に宿したからだ。
大きく喉を鳴らして、マリアベルがアガートラームに手をかける。
そこまで力を入れずとも、アッサリとアガートラームは地面から抜けた。
剣に拒否されることも考えて身構えていたマリアベルは、思わず拍子抜けしてしまう。
繁々と、マリアベルは全容を現した聖剣を見る。
記憶にあるものと寸分違わぬ大きさと見た目。
マリアベルはかつての焔の災厄を思い出さずにはいられない。
アガートラームを持ったアナスタシアの姿がまざまざと瞼に甦る。
この剣を持ったアナスタシアは美しく、そして儚かった。
悠久の日々を生きて、なお忘れることのない遠き日々。
これを抜けたということは、マリアベルはアガートラームに選ばれたのかという疑問も当然発生する。
しかし、剣は何も応えてはくれない。
マリアベルの手の中で輝きを放つだけ。
「まぁよいか……」
レプリカだろうが本物だろうが、持っていて損はない。
レプリカならそのまま使うことなく、デイパックの中で眠ってるだけ。
本物なら、これを然るべき人物に届けるだけ。
デイパックの中にアガートラームを収める。
アガートラームの強大さを知っているマリアベルは、そんなもの支給するはずがないからレプリカの可能性が高いと踏んでいたが。
無法松がアズリアの墓標に使った剣だが、それはマリアベルの知るところではない。
むしろ、アガートラームという剣に関しては、マリアベルは無法松以上に縁があるのだ。
例え無法松の行動を知ったとしても、マリアベルは持っていくことを主張しただろう。
在りし日のことを思い浮かべながら、マリアベルはニノとロザリーの下へ戻っていった。
◆ ◆ ◆
そして、その間ロザリーは何をやっていたかというと、己の不甲斐なさに臍を噛む思いを抱えていた。
寒い、そう感じた。
例えて言うなら、心臓に直接氷水を浴びせられたかのような。
冷たい霧のようなものが肌にまとわりつき、身震いを抑えることがきなかった。
どこともしれぬ閉ざされた空間から聞こえてくるのは、怨嗟と怨念と憎しみの合唱曲。
気のせいだと信じたかった。
でも、ゲートを何度も通る度に、それはロザリーの心の底にある恐怖を煽った。
何をやっているんだろうか、そんなことさえ感じてしまう。
ニノやマリアベルは何も感じてないのに、自分はあるかどうかも分からない幻覚、はたまた酔いに翻弄されている。
あろうことか、二人の足を引っ張っているのが心苦しい。
今回も大勢の人が死んだ。
その中にはエルフや人間以外の他の種族もいたかもしれない。
ピサロは生きていたし、それはいいことだ。
でも、ピサロはきっと、いや、間違いなく殺しをしているのだろう。
一人でそれを成し遂げるだけの実力が、あの最愛にして魔界の若き王にはある。
自分も何かしたい。
皆に、力を合わせるように声をかけたい。
ピサロに自分は無事だと、だから殺しをしているのなら止めて欲しいと伝えたかった。
「ロザリーさん、大丈夫?」
体調を心配してか、ニノが声をかける。
ニノだって、フロリーナという友達が死んでいる。
「私は大丈夫。 ニノちゃんは?」
友達が死んで悲しい思いをしているであろう子供にまで、気遣われている。
それがまた、ロザリーの心を苦しめる。
「あたしは……あたしは大丈夫。 だってあたしだって黒い牙だもん。 もう慣れっこだよ……」
どこか諦めたような表情で、ニノが言った。
やっと友達になれそうだった女の子が死んでしまった。
天馬に跨って、大空を駆ける少女と話したいことがたくさんあった。
ニノはフロリーナと何か特別なことをしたかった訳ではない。
一緒に朝ごはんを食べて、
一緒に昼ごはんを食べて、
一緒に夕ごはんを食べる。
そして、一緒に遊んで最後に『さようなら、また明日ね』って言う。
ただ、それだけでよかったのだ。
それはとてもとっぽけな願望だ。
それでも、それだけで幸せを感じることができるのがニノという少女なのだ。
「慣れちゃいけないことだってあるのよ……」
ロザリーは思わず、ニノを抱きしめてしまう。
そうなのだ、ニノはまだ子供なのに、時々すごく物分りがいいことを言うのだ。
そんなこと、思ってはいけないのに。
子供が、そんなことに慣れてはいけないのだ。
この子は、人の死に慣れすぎている。
それが、とても不憫だとロザリーは思った。
「でも、フロリーナを殺した奴は絶対に許せない……!」
ニノの心に灯ったわずかな憎しみに、ロザリーは気づく。
進化の秘法を使って、怪物になり果てたピサロを見たときのことをロザリーは思い出した。
あのような憎しみに囚われてはいけない。
憎しみの行き着く先を知っているが為だ。
ニノの体を離し、ロザリーが言う。
「憎しみに囚われちゃだめよ。 そうなってしまった人の末路を私は知っているから……」
「……うん」
とりあえず頷いただけなのがロザリーにも分かった。
ニノの心からはまだ憎しみと怒りが消えてはいない。
この子にこんな瞳をさせてはいけないと、ロザリーはそう思った。
でもそのために何ができる?
言葉以外に、何をしてやれる?
どうすれば、殺し合いを止められる?
そんなことを考えていたときだ、ロザリーがある方法を閃いたのは。
「あった……!」
それはかつて、勇者ユーリルの集団と自分を引き合わせることができた方法だ。
やれる、自分にも今すぐできることがある。
ゲートを通り抜けるときに感じていた寒気も、吹き飛んだ。
これを使って、皆に呼びかける。
そう、人間を滅ぼそうとしていたピサロを止めるため、誰かに届けようと祈った想い。
あの時の力をもう一度使おうというのだ。
「済まぬな、ちと待たせた」
「あ、マリアベル。 何してたの?」
「なに、武器を見つけたから持ってきただけよ」
丁度そこにマリアベルが戻ってくる。
ニノの質問に対し、アナスタシアに関する思い出話は抜きにして、とりあえず事実だけをマリアベルは述べた。
そして、どこへ移動しようか、その前に今いる場所の確認が先か、そんなことを話す。
そこに、ロザリーは今思いついたことを話してみた。
「なぬッ!? そのようなことができるのか?」
「はい、もう一度やってみます」
テレパスマジックのようなことが感応石もなしにできるというロザリーに、マリアベルは聞き返さずにはいられない。
できるのなら、現状ではこれ以上ない便利な意志伝達方法だ。
「あ、でも寝てる人にしか聞こえないんだよね。 それなら夜にでもした方がいいかも……」
「大丈夫、これは使った後しばらく効果は残ります。 今やったとしても、今日の夜に寝た人だって聞こえます」
ニノの当然の疑問に、ロザリーは問題ないと答える。
効果がある程度持続するのなら、伝言メッセージを伝えるようなもの。
今度はマリアベルが新たな質問をした。
「範囲はどうなのじゃ? それをやったとして、この島のどの辺まで聞こえるのじゃ?」
「それはやってみないと分かりません。 全体まで聞こえるかもしれないし、エリア一つ分にさえ届かないかもしれません」
どっちにしてもやる分に損はしないということだ。
マリアベルはGOサインを出した。
「よし、やるぞ。 ただしわらわたちの居場所を言うのはなしじゃ。
よからぬ輩が来る可能性もあるし、ここにいるから待っていろと言った場合、わらわたちは移動ができぬ。
今寝てる者にも夜に寝た者が聞いても問題ないことだけ伝えるのじゃ」
「はい」
ロザリーは大きく深呼吸をする。
今から大切なことを伝えるのだ。
自分にもやれることがあるのだと、気力が湧いてくる。
深呼吸を五回ほど繰り返して、ロザリーはこの声を聞いてくれる人がいることを願う。
ロザリーの、一世一代の大舞台だ。
人の悲しみが分かる優しさと
人の悲しみを救える勇気と
人の悲しみに打ち勝つ力を持った人を探して。
ロザリーの願いがこの島に響く。
【B-7 一日目 日中】
【ロザリー@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち】
[状態]:疲労(中)衣服に穴と血の跡アリ、気分が悪い (若干持ち直した)
[装備]:クレストグラフ(ニノと合わせて5枚)@WA2
[道具]:双眼鏡@現実、基本支給品一式
[思考]
基本:殺し合いを止める。
0:殺し合いを止めるようメッセージを伝える。
1:ピサロ様を捜す。
2:ユーリル、
ミネアたちとの合流
3:サンダウンさん、ニノ、シュウ、マリアベルの仲間を捜す。
4:あれは、一体……
[備考]
※参戦時期は6章終了時(エンディング後)です。
※一度死んでいる為、本来なら感じ取れない筈の『何処か』を感知しました。
※ロザリーの声がどの辺りまで響くのかは不明。
また、イムル村のように特定の地点でないと聞こえない可能性もあります。
【ニノ@
ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:疲労(中)
[装備]:クレストグラフ(ロザリーと合わせて5枚)@WA2、導きの指輪@FE烈火の剣、
[道具]:フォルブレイズ@FE烈火、基本支給品一式
[思考]
基本:全員で生き残る。
0:これが終わった後は現在位置の確認をして、周囲の探索
1:ジャファルを優先して仲間との合流。
2:サンダウン、ロザリー、シュウ、マリアベルの仲間を捜す。
3:フォルブレイズの理を読み進めたい。
[備考]:
※支援レベル フロリーナC、ジャファルA 、エルクC
※終章後より参戦
※メラを習得しています。
※クレストグラフの魔法はヴォルテック、クイック、ゼーバーは確定しています。他は不明ですが、ヒール、ハイヒールはありません。
【マリアベル・アーミティッジ@
WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:疲労(小)
[装備]:マリアベルの着ぐるみ(ところどころに穴アリ)@WA2
[道具]:ゲートホルダー@クロノトリガー、基本支給品一式 、マタンゴ@LAL、アガートラーム@WA2
[思考]
基本:人間の可能性を信じ、魔王を倒す。
0:まずは現在位置の確認。
1:付近の探索を行い、情報を集める。
2:元ARMSメンバー、シュウ達の仲間達と合流。
3:この殺し合いについての情報を得る。
4:首輪の解除。
5:この機械を調べたい。
6:アカ&アオも探したい。
7:アナスタシアの名前が気になる。 生き返った?
8:アキラは信頼できる。 ピサロ、カエルを警戒。
9:アガートラームが本物だった場合、然るべき人物に渡す。
[備考]:
※参戦時期はクリア後。
※アナスタシアのことは未だ話していません。生き返ったのではと思い至りました。
※レッドパワーはすべて習得しています。
※ゲートの行き先の法則は不明です。 完全ランダムか、ループ型なのかも不明。
原作の通り、四人以上の人間がゲートを通ろうとすると、歪みが発生します。
時の最果ての変わりに、ロザリーの感じた何処かへ飛ばされるかもしれません。
また、ゲートは何度か使いましたが、現状では問題はありません。
※『何処か』は心のダンジョンを想定しています。 現在までの死者の思念がその場所の存在しています。
(ルクレチアの民がどうなっているかは後続の書き手氏にお任せします)
時系列順で読む
投下順で読む
最終更新:2010年07月14日 16:13