光の『英雄』、闇の『勇者』 ◆jtfCe9.SeY



「な、なんでぇ……」

可笑しい、可笑しいよ。
あたし――ニノが馬鹿だからってこれが可笑しい事ぐらい理解できる。

「ねえ、なんでよ……ジャファル……」

あたしは目の前にいる大好きなひと、ジャファルに話しかける。
でも、彼は無表情のままで、黙っていたままだ。
その事が、凄く哀しい。
やっと人に戻れたのに。
また、人形のようになっている。

「どうして……よぉ」

あたしの呟きが震えている。
頬には涙が伝っている。
哀しかった、理解したくなかった。
今、彼が行っている行動が。

「ねえ……ってば………………ねぇ」

最初からわかってた。
解らない事がいっぱいだけど、これだけはわかった。
だって、あたしは彼の傍に居たんだもん。
ずっとずっと、黒の牙から離れた時から。
ジャファルの傍に付き添っていたんだから。
だから、だから。

――彼の強さぐらい、当に解っているんだから。

死神と呼ばれたジャファルの強さは誰にも負けないくらい強い。
あたしの傍に居る時は、絶対に負けなかった。
それぐらいに、彼は強いんだもん。
だから、あたしがいくら本気になってもジャファルには敵わない。
それくらいは解ってる。
でも、でも、あたしは彼を止めたかったんだもん。
本気だった。
敵わないと思っても、ジャファルの事を止めたかった。
だって、大好きだから。
世界一、大好きなんだから。

でも、でもね、ジャファル。

「メラ」

あたしは覚えたての魔法を放つ。
火の粉は真っ直ぐジャファルに向かって――

「……っ……ジャファル……」

彼は避けようとしなかった。
手を広げて、火を受け止めた。
苦悶の表情を浮かべながらも、彼は立っている。

さっきから、ずっとそうだ。

彼は、あたしの魔法に一切抵抗しない。
避けようとも、防御しようともしない。
全てを受け入れるように、何度も何度も魔法を受けている。

「なんでよ、なんでえ……」

嗚咽の混じった声にジャファルは何も反応しない。
あたしも、少しムキになっているのかもしれない。
避けようとしないで攻撃を受けている彼が。
なのに、私の言葉には一切口を開かない彼が。

よく解らなくて、理解したくなくて。

彼を止めようと思っているのに、哀しくなってしまう。

どうして、どうして、大好きな人は黙っているの?
どうして、どうして、大好きな人は動かないの?


このままじゃ、このままじゃ……


「ジャ……ジャファル……し、死んじゃう……よぉ」


大好きな人が、死んでしまう。
でも、あたしが攻撃をやめてしまったらならば、大好きな人はきっと去ってしまうだろう。
それだけは、嫌だった。

あたしはジャファルが好き。
だから、此処でジャファルを止めたいと思う。
そして、一緒に帰りたい。
ちっぽけな願いだけど、でも、それが大切なんだ。
ジャファルが好きだから。

だから、だから……

「ジャファル、聞いて」

あたしは唯一使わなかったクレストグラフを取り出す。
これは、強力すぎるから。
「ハイヴォルテック」というヴォルテックを強くしたもの。
そんな、危険すぎるものをあたしは使う。

「今から使うのはとても危険なの。だから覚悟して」

言葉は強いものだけど、本当は避けてほしいと願って。
避けたからどうなるものでも無いと思う。
けど、きっと今の状況から動くと思うから。
そう思って、あたしはハイヴォルテックを使う。

ヴォルテックを凌ぐ強烈な風刃がジャファルに対して向かっていく。
目の前の彼を切り裂こうと強風がうなっている。
それなのに、彼は一歩も動こうとしない。
全てを受け入れるかのように、その場に佇んでいる。


…………い…………いや……いやぁ…………


ジャファル……
ジャファル……


「お願いだから……避けてえええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」



…………これは罰なのかもしれない。
…………ジャファルの無事を祈りながらも、攻撃を続けたあたしへの。

ジャファルの想いすらも無視したかもしれないあたしへの、重い罰かもしれなかった。


でも……でもぉ……


こんな、終わり方は嫌だよぉ……


ジャファル…………お願い……死なないでぇ……



けれど、そんなあたしの願いなどおかまいなしに


全てを切り裂く風刃は無慈悲に、容赦なく。


大好きな彼の身体を蹂躙していった。







     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇







「ケアルラ」

その一言と共に、ヘクトルの傷ついた身体が少しづつ癒えていく。
先程、ジャファルによって突き刺された傷も大分よくなってきている。
それも、呪文を唱えてくれた男、セッツァーのお陰だった。

「ありがとな、セッツァー」
「これぐらい大した事はないさ」

実際、セッツァーとしても大した事ではない。
これぐらいで信頼を勝ち取れるのならば、回復ぐらいはしてやるつもりだったからだ。
セッツァーはリンの支給品を回収した後、直ぐジャファルの元へ駆けつけようとしたヘクトルを一旦制して、回復に専念させていた。

セッツァーの見た所、ヘクトルの累積した傷は行動に支障をきたすレベルまで発展していたのだ。
ヘクトル自体がどうにかなろうとセッツァーにとっては知ったこっちゃなかった。
だが、ヘクトルがジャファルとの戦闘で死んだ場合、次に刃が来るのは自分自身だ。
そうなるならば、不慣れな武器でジャファルと戦うと言うのは明らかに危険である。
ならば、ヘクトルを回復させ、戦闘に持ち込ませた方が自身の生存率を押し上げる結果にもなるのだから。

だからこそ、直ぐにでも飛び出しそうなヘクトルを抑え、回復させたのだ。
ニノがジャファルにとって護る相手だからこそ、危害が及ばないなどと論じ、論破した上で。
それに、だ。

「どうした、ヘクトル?」
「……あ、ああ別に何でもない」

ヘクトルが何処か気まずそうに頭を振る。
そう、これだ。
セッツァーがヘクトルに隠しこんだ嘘。
もしかしたらだが、ばれている可能性がある。
ヘクトルがどうにも自分を怪しがっているのだ。
彼自身は疑ってない風にしているが、賭け事を生業にしている自分としてはバレバレである。
直情的なこの男にはポーカーフェイスは無理かとも思い、セッツアーは心の中で少し笑う。

だからこそ、ここでなるべく信頼を得た方がいい。
そう考えた上での行動だ。
まだ、自分が善人である事をヘクトルに示しておいた方がいい。
そう、セッツアーは思いながら口を開く。

「なあ、ヘクトル」
「何だ?」

それは、唯一セッツァーが彼に聞きたかった事。
リンからその事実を聞いたからこそ、セッツァーには理解できなかったヘクトルの行動。

「お前、恋人をあの男に殺されたんだよな」
「…………ああ」
「なら、憎くないのか。殺したいと思ってないのか?」

フロリーナを殺され、また目の前でリンをジャファルに殺されたヘクトル。
だが、まだそれでもジャファルを殺さないと言うヘクトルがセッツァーは信じられなかった。
この男は誰かの為なら、自分の願いや夢を捨てられるのかと。
自分の願いすら押し殺すのかと、セッツァーは思い、ヘクトルに問う。

「そりゃあ……ふざけんなと思うぜ。憎くない……といったら嘘になるな」
「なら……」
「だけど、それで殺すなんて事できるか。ニノが哀しんじまう」
「何故だ?」
「そりゃあ、ニノは俺達の仲間だしな。だからあの馬鹿をぶん殴って言う事きかせないとな」

そんな風にあっけからんと言うヘクトルが信じられなかった。
仲間の為に自分の感情を押し殺す事を平気で行うヘクトルが。
そして、何よりもその強さがあまりにも光り輝いているようにも思えて。
ヘクトルは王として、仲間を信じ目的を達成しようとする。
その影で自分の思いや感情を潰してでも。

「そうか」
「ああ、だから、もういくぞ」

そう言ってヘクトルは歩き始める。
頼もしさが溢れるヘクトルを。
王として歩き出すヘクトルを。
『光』を背負って進むヘクトルを。

セッツァーは侮蔑の篭った瞳を静かに向けていた。

ヘクトルの考えに嫌悪感すら浮かべながら。






     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






「あ……ジャファル……」

強大な風刃を喰らってもなお、ジャファルは立っていた。
身体には無数の傷が刻まれながらも、沢山の血を流しながらも、決して地に伏せはしなかった。
ジャファルを支えていたのは揺るがぬ信念と大切な想い。
そして、痛みに堪えながらも優しい視線をニノに向けていた。

「ジャファル……ジャファルぅ……」

ニノの縋るような声が雨の中、響く。
結局の所、ニノ自身も気付かない所で手加減を加えていたのだった。
ジャファルを傷つけたくないという本心から、自然と。
何故なら、ニノはとても優しい子なのだから。

「…………だいじょうぶ? ジャファル」

ニノは不安そうな声をあげ、ジャファルに寄っていく。
ジャファルは最初から解っていた。
ニノが優しい子だからこそ、手加減をすると。
そういう子だから、だからこそ、好きになった。

「……ニノ」

初めてジャファルは大好きなニノの名前を呼ぶ。
だからこそ、ここで伝えなければならない。
彼女が優しいからこそ、自分の殺人を許せない。
彼女が自分を好きだからこそ、自分を許せない。
そういう子だからこそジャファルは


「俺を許すな」


徹底的に、突き放す。




「俺は約束を破る。これからも人を殺す。何故ならば、俺は『闇』だから」

ニノと約束した、優しい約束。
それすらも、破る。
そして、死神に戻り、闇に沈む。
全ては愛する人の為に。

「俺はお前に会う前は死体だった。だから、お前の手で終われるならそれでいいと思っていた」

ニノの攻撃を受けていたのもその為だった。
もし、あの場でニノが殺す気だったのだったら、それでいいと。
闇に落ちるしかない人間が、最もやすらげる人の手で死ねるならばそれが最大の幸福なのだから。
だけど、ニノは殺さなかった。

「言い訳は、もうしない」

だからこそ、もう言い訳はしない。
きっとニノはジャファルの考えなど受け付けないだろう。
それこそがニノであるのだから。
そんなニノだからこそ、好きになったのだから。

「皆を殺して、ニノを世界に帰す。たとえ、傍に俺が居なくても……大丈夫。ニノの傍にきっといい人が現れるから」

ニノがジャファルに言った言葉をそのまま、対になるように返す。
それがどんなにジャファルのエゴであっても。
そのエゴを最後まで貫くまで。

「ニノは幸せになれると……信じている」
「……なんでよぉ」

ニノの泣き声が聞こえる。
傷ついた自分の身体に縋りながら、ジャファルを引き止めるように。
そんなニノに心を痛めながら、返事を返す。


「俺が……幸せだったからだ」


ニノと過ごした時間。
ニノが傍に居た時間。

殺す機械だった自分が、感情を取り戻せて人になれたのだ。

「俺すらも幸せできる子だから……ニノが他の人を幸せにする事は簡単だ。その人が幸せにしてくれる」

たとえエゴと罵られようとも、そう信じている。
詭弁かもしれない。実際ソーニャには届かなかった。
だけど、ジャファルは信じたい。
ニノが幸せになれると。
そうでなければ、殺しなどしないのだから。


「ニノ、ありがとう。感情を教えてくれてありがとう。温もりをありがとう」


感謝しても、感謝しきれないだろう。
闇の中に生きたジャファルに光の温もりを少しでも教えてくれたのだから。
光を教えてくれた、ニノには生きてほしい。そう思うから。
だからこそ、


「俺は、感情を捨てる。深い闇に戻るよ。其処が俺の住む世界だから」
「えっ……」


与えられた、優しさ。
与えられた、やすらぎ。
全て、捨てる。
夢のような時間は、もう終りなのだから。
住むべき世界に戻る、それだけ。
せめて、その世界にニノだけは戻らせないと想いながら。

「ニノ。お前には闇は似合わない。俺と関わり過ぎると、きっと闇に落ちる。だから……俺を忘れろ」

出来る事なら、自分を忘れて欲しい。
そうすればきっと幸せになれるはず。
盲目的な想いを抱えながら、ただそれだけを願う。

「エゴだよぉ……それはジャファルのエゴだよ……」
「そうだな……俺のエゴだ。でも、俺はお前に生きて欲しい」

例え、それがエゴに塗れたものでも。
例え、それがニノの為になるといえなくても。

ただ、ニノに生きて欲しいから。


「これは、俺の本当の願いだから。ニノに生きて欲しい」


本心から、心の底から、それだけを願う。


「その為に、殺す。お前を生かす為に」

ただ、ただ殺す。
それがニノを生かす事になると信じて。


だから


「ニノ、ありがとう。さよなら」


ここで、永遠の別れを誓う。
二度と逢わない方が、きっとニノの幸せに繋がると信じて。

これまでの宝物のような日々にありがとうと。
そして、大好きな彼女にさよならを。


「ニノ、ずっとずっと大好きだった」


最後に、不器用な笑みを、浮かべた。
それは『死神』に戻る前に、ニノだけにあげる、『人間』の象徴である心からの笑顔だった。


「あ……ジャファル……ぅ……」


ニノの頭をくしゃと一撫でして、ジャファルは森の中を駆け出していく。
ニノは、手を伸ばそうとして、でもそれは届かず宙を切る。
そして、ひとりぼっちに。


「違うよ……違うんだってばぁ……」


ニノの嗚咽が雨の中、響いて。
正しく伝わらない想いが、苦しくて。


「あたしは……あたしは……たとえ闇に落ちても……」


ジャファルと過ごした日々は本当幸せで。
例え、それがいつか闇に呑まれても。
きっときっと


「ジャファルと過ごした、日々は…………幸せなんだよ…………ジャファルが居るから幸せなのよぉ……なんでぇ……気付かないのぉ」


想いは正しく、伝わらない。
ニノの想いは、ジャファルに届かない。


「あたしは……ジャファルの傍に居たいよぉ……ジャファルと一緒に生きたいよぉ」


ただ、傍で生きたいだけなのに。
その願いは雨にかき消され。


「違うんだってぇ……ジャファルのばかぁ……あたしだって……大好きなのに……すきなのにぃ……うぁああああああああああ!!!」



ニノの深い慟哭さえも、雨は閉じ込めてしまう。


赤子の様なニノの泣き声が、雨音と一緒に延々と鳴り響いてた。








     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇








「ちょっと待てよ。ジャファル」
「……オスティア候」

逃げようと森を駆けていたジャファルの前に、現れた二つの影。
それはジャファルを止めようとするヘクトルとセッツァーだった。
ジャファルが歯噛みをしながら、ヘクトルを睨む。

「ニノを任せたい……逃がしてくれないか?」
「何馬鹿言ってんだ。てめぇは。というかニノとは、どうした?」
「……別れてきた。俺はあいつを生かすだけだ」

別れてきたという言葉に目を見開くヘクトル。
ジャファルがニノを生かすそれだけに全てを捨ててきた事を知り、激昂する。

「てめぇ……何を考えてる! ニノがどれだけ哀しむか知ってやったのかよ!」
「……ああ。でも俺はニノを生かす……それだけだ」
「くだらねえ……エゴだ」
「何が悪い。好きな人を生きて欲しいという願いを持ってはいけないのか?」
「それでニノを哀しましたらしょうがねえだろうが!」
「……しょうがないだと? ニノに生きて欲しい。俺はニノが好きだ。その為だったら何でもする。たとえ嫌われてもな」
「てめえ……」

ジャファルのそんな願いをただのエゴだとヘクトルは切り捨てる。
でも、大切な人に生きて欲しいという願いは誰もが持っているものだろう。
それで例え、大切な人が哀しんだとしても生きているならば、それこそ未来が繋がっているのだ。
エゴだと切り捨てるヘクトルを、セッツァーは強者の傲慢だと思う。
誰もが、ヘクトルみたいに大切な人を失って強い訳ではないのだから。
ヘクトルのような、王の思考など理解できるものか。

対してジャファルはどうであろうか。
考えは確かにエゴ塗れかもしれない。
だが、純粋に大切な人を護りたいと思う心は悪なのだろうか。
大切な者の為、全てを捨てて、自らもてるものすべてを懸ける事が出来るのは素晴らしい願いではないのか。
大切な人の為に、例えエゴだとしても貫く。
その方が、よっぽど人間らしいし理解できるとセッツァーは思う。


「オスティア候こそフロリーナを失ってまだ前を向いてられるのか?」
「当たり前だ。俺はあいつらの為にも諦める訳にはいかねえんだよ」
「……やはり『光』だ。貴様はまばゆい『光』だ」

蔑むように、ジャファルはヘクトルを睨む。
対極であるヘクトルを睨むかのように。

「なんだと?」
「『光』だと言っている。貴様は王だ。個を捨て、仲間の為に、世界の為に戦う事ができる。例え自らを捨てても」
「……それがどうしたんだよ」
「その行動に人々は賞賛するだろう。まばゆい光を見るように」

ヘクトルは光だとジャファルは称す。
王であるヘクトルは、仲間の為に、国の為に、世界の為に戦うのだろう。
其処には揺るがぬ信念と確固たる意志を持って。
その為に自らを捨てる事は厭わない。
だからこそ、人々は賞賛する。
光を見るかのように。

そして、その類稀なる王の器持つ彼は歴史を作り、人々に『英雄』と呼ばれることになるだろう。

「…………だが俺は『闇』だ」
「何?」
「『闇』は、俺達のような暗殺者は決して表にではしない。影の中で戦い、影の中で消えていく。人々に見られることはなくな」
「…………」
「そして、闇に追われるものは決して闇から出られない」

そして、ジャファルは闇だ。
暗殺者であるジャファルは、命令により、汚い仕事を行っていく。
決してその行動は人々に賞賛されず、また表に出ることもない。
そして、闇の中にまた消えていくのが、闇に生きる者の定め。
だが、闇に生きる者達は精一杯戦っている。
表に、出なくても、国を護り、そして、歴史を裏から支えているのだ。


「『光』が『闇』に生きる人間の弱さと脆さを理解できるのか? オスティア候」
「…………てめぇ。俺が理解できないとでも言うのか!」
「個を殺した貴様に言われる筋合いは……無い!」
「ジャファル!」
「憶えておけ、オスティア候。光は強くなっていくに従って、闇も色濃くなっていくものだ」

ヘクトルでは理解できないとジャファルは言い捨て、逃げ去ろうとする。
だが、その背に向かって、逃がすわけには行かないヘクトルは聖なるナイフを投擲した。
予想外の攻撃に、ジャファルは咄嗟にナイフで弾くが、その際にデイバックを落としてしまう。
そして、デイバックが導かれるように地面にバウンドし、ヘクトルの前に来る。

「しまった……!」

思わず、ジャファルは声を上げてしまう。
渡してはいけないものが、其処に入っているからだ。
そう、それは

「アルマーズ!?」

竜をも屠る神将器、アルマーズ。
そして、ヘクトルはアルマーズに認められたのだ。
だからこそ、ヘクトルはその神将器を取り、叫ぶ。

「力を貸せ! アルマーズ!」

ヘクトルは、そのまま、斧を地面に打ち付けるだけ。

それだけの事だ。


だが、その瞬間、地は大きく揺れ、打ち下ろした地点から地に皹が入っていく。
土煙と共に地面が割れていき、打ち下ろした一帯が崩落していった。
土煙が晴れた頃には、ヘクトルが打ち下ろした前面に小さなクレーターが出来ていた。

「……ちっ……逃がしたか」

だが、其処にはジャファルの姿は無かった。
ジャファルを殺さないように手加減を加えたせいで、隙をつかれて逃げられてしまったようだ。
ヘクトルは追おうとして、違和感に気付く。

(……なんだ? この感覚は)

嫌な感触が体に残る。
まるで、アルマーズに飲み込まれているような。
そんな感覚が、ヘクトルを襲った。
その違和感に戸惑っていると

「ヘクトル。俺がジャファルを追う! ニノを頼むぜ」

傍に居た、セッツァーがジャファルを追う様に森を駆けていく。
ヘクトルはそのセッツァーの行動を止める事が出来ずに去っていくのを見ているだけ。
未だにセッツァーの疑惑が晴れないこともあり、思わず溜息をついてしまった。

「……ジャファル」

そして、思い浮かぶのはジャファルの言葉。
光や闇とか述べて、明確にヘクトルに敵対した。
だが、その一方でニノを託すとも言ったのだ。
つまりだ、

「お前……まだ未練があるんじゃねえか」

きっと、未練があるのだ。
ニノと一緒に居る事に。
ニノの事に、未練があるのだ。
ならば、ヘクトルがやることは一つ。

「なめんじゃねえぞ……『光』は『闇』を消し去る事もできるんだ。絶対てめえをこちら側に連れて帰る!」


ニノの為に、ジャファルを連れ戻す。


その背は正しく、英雄になるべき、王の姿だった。



【C-7西側の橋より少し西 一日目 夜】
【ヘクトル@ファイアーエムブレム 烈火の剣
[状態]、疲労(極大)、アルテマ、ミッシングによるダメージ、
[装備]:ゼブラアックス@アークザラッドⅡ、アルマーズ@FE烈火の剣 
[道具]:、ビー玉@サモンナイト3
     基本支給品一式×4
[思考]
基本:オディオを絶対ぶっ倒す!
1:ニノの元へ向かう
2:ジャファルは絶対止める
3:リン達やブラッドの仲間、セッツァーの仲間をはじめとして、仲間を集める。
4:つるっぱげを倒す。ケフカに再度遭遇したら話を聞きたい。
5:セッツァーを信用したいが……。
6:アナスタシアとちょこ(名前は知らない)、シャドウ、マッシュ、セッツァーを警戒。
[備考]:
※フロリーナとは恋仲です。

【ニノ@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:深い悲しみ、なんらかの補助魔法。
[装備]:クレストグラフ(ロザリーと合わせて5枚)@WA2、導きの指輪@FE烈火の剣
[道具]:フォルブレイズ@FE烈火、基本支給品一式
[思考]
基本:全員で生き残る。
1:?????????????
2:サンダウン、ロザリー、シュウ、マリアベルの仲間を捜す。
3:マリアベルたちのところに戻りたい。
4:フォルブレイズの理を読み進めたい。
[備考]:
※支援レベル フロリーナC、ジャファルA 、エルクC
※終章後より参戦
※メラを習得しています。
※クレストグラフの魔法はヴォルテック、クイック、ゼーバー、ハイヴォルテックは確定しています。他は不明ですが、ヒール、ハイヒールはありません。
 現在所持しているのはゼーバーとハイヴォルテックが確定しています。








     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇








「……グッ……くっ……」

逃げていたジャファルだったが、積み重なったダメージによって思わず膝を突く。
ニノの攻撃が思いのほか身体にきていたようだ。
こんな所で、倒れてはいけない。
ニノを生かす為に、まだやらねばいけないのだ。
けれど、身体を動かそうにも動かない。
まだ、何も為してないのに。

そう、思った矢先だった。


「ケアルラ」

癒しの力が身体を少しだが癒していく。
身体に付いた傷が少し消えて、大分身体が楽になっている。。
ジャファルが驚き振り向くと其処には、銀髪の男が立っていた。

「例え、それがエゴだとしても、自分の信念、自分の意志を変えずにひたすらに突き進む者、進む事を止めない者、最後まで諦めない者……」

その男は笑いながら、ジャファルに語っている。
何か、納得したように。

「その者を、人は『勇者』と呼ぶのだろうか。ならば、お前は『勇者』に相応しいのかもな」
「お前は……?」
「セッツァー。ギャンブラーさ」
「そのギャンブラーが何故俺を助ける?」

ジャファルを勇者と呼んだセッツァーの行動がジャファルには読めない。
この男はヘクトルに与してたはず。
なのに、何故自分を助けるのだろうか。

「お前は、自分の手でその願いを、叶えようとしている。例えエゴと言われようとそれを止めない」
「……」
「自分を捨てる奴から見れば……こっちの方がよっぽどいいさ」

元々、限界を感じ始めていた。
自分の嘘がばれかけている事がヘクトルの解りやすい行動によって理解できたのだ。
そろそろこの殺し合いも終盤戦。新たに自分のみの振り方を考えなければならない。
その上で、ヘクトルの考え方にセッツァーは嫌悪感を示していた。
故に、ヘクトルについていくのは無理と思い始めた所に、ジャファルが現れた。
ジャファルの考えに、セッツァーは理解し、共感した所もある。
だからこそ、

「俺はこの殺し合いでお前と共に戦う事に賭ける! ベットするのは俺の命!」


今、ジャファルに全てを賭ける。

この殺し合いで最大の賭け。

彼が断れば、多少傷ついてるとはいえジャファルに勝てはしないだろう。
故に自分の命を賭けた、最大の賭け。



「伸るか反るか! どうする! ジャファル!」



そのセッツァーの言葉にジャファルは考える。
治癒していた事、そしてセッツァーが語る言葉。
全てを考え、そして。



「……乗った」



セッツァーは最大の賭けに勝ったのだ。







     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇







「よし、こんなものだな」

セッツァーの声と共に、暫くの間続いた魔法が止まる。
ジャファルに堆積していた傷と疲れは、セッツァーの力によって大分回復していた。
ジャファルは腕を軽く回し、身体が十全である事を確認すると、既に次の行動を起こしていた。

「助かる。セッツァー、俺達は何処に行く?」
「そうだな……俺がどうやって行動していたか聞いてたよな?」

ジャファルは首肯し、少し前の話を思い出していた。
傷ついた身体の回復を行っていた間、少しでも時間を無駄にしない為にも情報交換を行っていたのだ。

そのセッツァーはジャファルがエドガーらしき人間を殺害したと聞いた時、驚いた。
驚いたと同時にこの男の強さも再び認識した、エドガーを殺せるような人間なのだ。相当な実力者である事には違いない。
エドガーが殺された、その事実は特にセッツァーを大きく動かす要素は無かった。
ちょっとした感傷はあったが、それまで。
何故ならば、セッツァーが今手に入れるべきは、大切な夢なのだから。
最悪自分の手で始末しなければいけない相手だった。
だからこそ、他人の手で死んだ事を幸運に思うべき。
そう、思って、セッツァーはエドガーの事を考える事をやめた。

今はそれよりも、夢をかなえるべきなのだから。


「……南から北上したと言ったな」
「ああ、東から来たというお前の行動も考えると、一つ提案がある」
「なんだ?」

セッツァーが思うにこの殺し合いは、もう既に後半戦に入っている。
殺し合いに乗る者、背く者どちらもかなりの数が減っているだろう。
その上で、自分達が勝ち抜く為に自分達が取るべき選択肢を考える。

「まず、もう無為な探索は止めだ。いくら行ってないとはいえ、今更南西の方向にいってもしょうがないだろう?」
「ああ、そうだな」
「ならいっそ此処の周りをメインに動くとして……拠点を作らないか?」

そう、セッツァーが示したのは戦闘拠点だ。
殺しを行うにしても、何かしら休める場所、落ち合う場所があると非常に便利である。
それは殺し合いに背く者だけは無く、殺し合いに乗っているものも一緒だ。
例えはぐれたとしても、其処に行けばまた再びあえるだろう。
また、其処での篭城戦も可能である。
その事を、ジャファルもすぐに理解し、頷く。

「じゃあ、決まりだな」
「場所は何処にする?」
「……そうだな、まず北東の都合のいい位置にある座礁船に向かってみるか。それでどうだい?」
「構わない」
「よし、ならそれでいこう」


そして、進路は座礁船へ。
二人の男は北に向かって駆け出していく。


そう、全ては


「さあ、叶えようじゃないか。俺達の夢を、願いを、な」


叶えたいものの為に、彼らは歩みを止めず


――そして殺していく。



【C-7 北部 一日目 夜中】
【ジャファル@ファイアーエムブレム 烈火の剣】
[状態]:健康
[装備]:影縫い@FFVI、アサシンダガー@FFVI、黒装束@アークザラッドⅡ、
[道具]:聖なるナイフ@ドラゴンクエストIV
[思考]
基本:殺し合いに乗り、ニノを優勝させる。
1:ニノを生かす。
2:セッツァーと組む。まず拠点探しの為に、座礁船へ。
3:参加者を見つけ次第殺す。深追いをするつもりはない。
4:知り合いに対して躊躇しない。
[備考]
※ニノ支援A時点から参戦
※セッツァーと情報交換をしました

【セッツァー=ギャッビアーニ@ファイナルファンタジー6】
[状態]:絶好調、魔力消費(中)
[装備]:デスイリュージョン@アークザラッドⅡ、つらぬきのやり@FE 烈火の剣、シロウのチンチロリンセット@幻想水滸伝2
[道具]:基本支給品一式×2(セッツァー、トルネコ)、
    シルバーカード@FE 烈火の剣、メンバーカード@FE 烈火の剣
    マーニ・カティ@ファイアーエムブレム 烈火の剣、バイオレットレーサー@アーク・ザ・ラッドⅡ、拡声器(現実)
    毒蛾のナイフ@ドラゴンクエストⅣ 導かれし者たち、フレイムトライデント@アーク・ザ・ラッドⅡ、天使ロティエル@サモンナイト3
[思考]
基本:夢を取り戻す為にゲームに乗る
1:ジャファルと行動。まず拠点探しの為に、座礁船へ。
2:手段を問わず、参加者を減らしたい
※参戦時期は魔大陸崩壊後~セリス達と合流する前です
※ヘクトル、トッシュ、アシュレー、ジャファルと情報交換をしました。


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108-2:暴かれた世界(後編) ジャファル 116:闇からの呼び声
セッツァー
ヘクトル 120:泣けない君と希望の世界
ニノ


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最終更新:2010年12月08日 23:14