瓦礫の死闘-VS黄龍・反撃は雷のように- ◆wqJoVoH16Y
物真似師ゴゴが目を覚ましたのはつい先ほどのことだった。
ローブ越しにも砂まみれになった顔を擦り、周囲を見渡せば先ほどまでは無かった石の林が広がっている。
一体何が、と擦った左手を頭に当てたとき、自分の異常――否、正常に面食らった。
頭が軽い。思考は真水のようにクリアで、肉体的ダメージはあるもののローブの裾を引っ張り続けていた粘り気が無くなっている。
あの物真似をしてからずっと、それこそアガートラームにて封印をしてからも自分の中に蠢いていたオディオの存在が無いのだ。
何故、と問う頃には記憶が砂を馴らすように整い、その終りである、紅い魔剣を担った魔王の後姿が思い浮かんだ。
ジョウイ=ブライト。自分の中のオディオを奪い取った人物に、ゴゴは思いを馳せる。
(……不思議だな。今一つ物真似する気になれない)
理解は物真似師にとって物真似と同義だ。癖や思考のルーチンなど、対象のあらゆる情報を得て、理解することで物真似を成す。
その物真似の頂点であるゴゴが物真似をする気になれないというのは、ジョウイという人物を理解し切れていないということだった。
もっと正確に言えば、材料不足。仮に物真似をしても、絶対に紛い物にしかならないという確信がある。
(ああ、あの時のリオウに似ているのか)
ゴゴは自分の中にあるジョウイに、“あの時”――
ナナミの亡骸を抱いていたリオウを思い出した。
溢れ出さんばかりの感情を皮一枚のところで気密させたリオウ。
ルッカの物真似を以て“ツマラナイ”と思えたほどの無表情。
リオウはそれを僅かに漏らしていた。その隙間から漏れる心があった。
だが、ジョウイの気密はリオウのそれよりも神経質で徹底していたのだ。
リオウの“無表情”が心の窮地に対して生ずるとすれば、ジョウイの“仮面”は常時取り付けられているといっていい。
オンとオフがリオウと逆なのだ。“彼は常に強大な何かに耐えていた”。
故に、オフの状態に立ち会っていないゴゴは彼の物真似をする気になれなかった。
(だが、お前たちはそれでも迷わず奴をジョウイと呼んだのだな)
銀髪の異形と化したジョウイは、どこか蒼炎のナイトブレイザーを想起させた。
ロードブレイザーの炎とウィスタリアスの蒼を収めた、あの力強くも危うい存在によく似ているとゴゴは思う。
元のジョウイを知っていても、即座にその姿を受け入れることは難しいだろう。
だが、彼の中のナナミは迷わずに彼の名を呼んだ。淀みなく、気安く、いつもの通りに呼んだ。
ゴゴにはジョウイの心はまだ分からない。だが、ナナミが信じる以上アレがジョウイという人間なのだろう。
(今はまだ、だろうがな)
オディオの抜けた空洞を物真似で満たすように胸を摩りながら、ゴゴはジョウイが奪ったオディオを思う。
それに落ちた自分だからこそ理解できる。あれは誰の手にも余るものではない。
リオウとナナミへの理解から、ジョウイが無為に命を散らせるような人物でないことは分かっている。
きっと何らかの勝算を以てオディオを奪ったのであろう。だが、あの憎悪は何れ必ずジョウイを乗っ取るはずだ。
「ならば……“救わず”にはいられないな」
自身の駆動を確かめ終わったゴゴは壁の向こうを見据えた。
石壁の砕ける音、銃火乱れる音、その中で抗う叫びが聞こえる。仲間たちが劣勢にあるのは疑いようもない。
「俺が生み出した憎悪で、誰かが死ぬのは、もう見たくないんだよ。だから――」
すでに成したいことを終えたと思ったのか、ナナミの物真似も世界の奥深くに沈んでいる。
だが、きっと彼女らならば、そしてリオウもまたジョウイがこうあることを望まないだろう。
何れ、必ずやジョウイは止めなければならない。そしてその為には――
「――守りましょう、この今を」
掴みしは勇者剣ブライオン。それを振るうべく物真似を纏う。
いずれ救うためにも、今を救う。不器用だとしても、まず目の前にあるものを、己が向き合うべきものに立ち向かう。
世界中の誰よりも自分の命を渇望し、そしてそれ以上に誰かの命を願った、最高の守護者の物真似を以て。
「全てが救われる未来に繋がる、この現在をッ!!」
ソードセイントを纏ったゴゴは左手に握ったブライオンでゴーストロードの一撃を防ぎ切る。
剣の聖女と勇者の剣の相性は予想以上に良く、その“守りたい”という意志がそのまま剣の力と化したかのようだ。
「ゴゴおじさん!!」
「随分と心配かけちゃったわね、
ちょこちゃん。でももうビン☆ビン☆よ。色んな意味で」
ゴゴの無事を見て枯れた花が咲くようにちょこの表情が明るくなる。
それはアキラも同じだったようで、紅の暴君を突き立てられ死にかけた仲間の復帰に気分を持ち上げる。
ストレイボウも内心でその無事を寿いでいた。
イスラだけは険とした表情を変えなかったが、ゴゴの復調はパーティの中の陰鬱なサイクルを断つだけの力を有していた。
「旦那ァ!! ブッ貫けェッ!!」
その転換を肌で感じ取ったか、セッツァーがらしからぬほどの叫びで
ピサロに攻撃を指示する。
ピサロは何事か、と問いをかけようとするが、焦りすら浮かぶセッツァーの表情を見て砲撃をチャージする。
ピサロの顔を立てて“頼む”形で指示をすることすら忘れてのセッツァーの“命令”してしまうほどにセッツァーは急いていた。
恐れる必要もない三流である“べき”下劣、その男の纏う雰囲気が変化している。
その登場が、この優勢を根こそぎ打ち砕く予感がする。そうなる前にもろとも消し飛ばさなければならない。
「……充填完了。フルフラット・ジゴスパークッ!!」
ピサロの号令とともに砲口から地獄の黒雷が放たれる。
砲身内で圧縮されたピサロの最大火力はその射線にある障害物を全て砕きながら、目標に向けて進み、巨大な爆炎を生じさせる。
ここまでの攻防で『ピサロたちは壁を破壊できない』と思い込ませた上での一撃はまさしく完璧な不意打ちだった。
ヘクトルを使い捨てるのは少々もったいなかったが、流れの切っ先を崩せるのならば釣りがくる。
自身の内に渦巻く悪寒の基を断てたと、薄まる土煙とともにセッツァーは溜飲を下げた。
「!?」
だが、煙の向こうに覗いたのは彼らの屍ではなく、銀色の壁だった。
あれだけの一撃を受けてなお傷一つなく輝く壁が、突如として存在している。
「天空の――――盾!?」
ピサロが瞠目して叫ぶ。この地獄を完全に防ぎ切る概念など、それくらいしか思い浮かばなかった。
ユーリルが担ったあの伝説の武具を、勇者以外に扱えるものがいたというのか。
「剣よッ!!」
遥かな高みから、凛とした女の声が空気を震わせる。
誰もが見上げたところには、石壁の高さを優に超えた超巨大な聖剣ルシエドの柄に乗って腕組みをしたアナスタシアがいた。
地面に突き立てられた聖剣ルシエドによってジゴスパークは二股に分かれ、剣の影にいた者たちはその被害を免れていた。
「バカデカいってレベルじゃねーぞッ!!」
「これが私の“欲望”の大きさ! 目に映るものを守りたい、失わないと決めたからッ!!」
アキラの突っ込みに、アナスタシアは至極真面目に応じた。ルシエドの大きさはミクロンから無限大――限界無き欲望そのもの。
故に、その守りたいという欲望を形にした聖剣ルシエドもまた巨大となる。
ゴゴという守り手を得て両腕を空けたアナスタシアは、アガートラームでは出来ない芸当をもう一つの聖剣で成したのだ。
「あと、そこのパチモン!! 物真似するなとは言わないけどもう少しなんとかならないのッ!?
それじゃ私ただの色情魔みたいじゃないッ!! 風評被害って結構バカにならないのよッ!!」
「え、でも実際そんな感じじゃ……えーっと、ちょい待ち。
他には確か……ねえちょこちゃん! 私が知らない他のわたしって無いの!?」
「え、んーとね……海をみてうずうずしたりとか……あ、たしか『ちょーじしょー』」
「いよおおおおおおおっしッッ!! 手も空いたことだしそろそろ反撃いってみましょうかァァァァァッ!!」
アナスタシアに自分の物真似を駄目だしされたゴゴは、ちょこに自分の足りない部分を尋ねた。
だがちょこが特大級の地雷を掘り起こすよりも早く、アナスタシアは跳躍し、聖剣より魔狼へと戻ったルシエドへと中空で騎乗する。
「イスラ君、アキラ君」
「ちょこちゃん」
アナスタシアは騎乗したままアガートラームを構え、ゴゴは亡将との間合いを開いてブライオンを握り直す。
「私は、貴方たちに何かを言える立場も資格もない」
「だから、私は私のできることをするわ」
慰めも、叱咤も、激励も、今まで何もせず、ただ全てを批判してきただけのアナスタシアから吐けるものではない。
だから、戦う。己が願いのために、守りたいという願いのために、いつも通り自分自身のために戦う。
「貴方たちは、貴方たちのできることをしなさい!」
「私みたいなロクデナシなんかより、できることがいっぱいあるでしょう!!」
その叫びとともに、ゴゴは再びブライオンを亡将にぶつけ、
アナスタシアは空に幾振りもの小柄な聖剣ルシエドを具現し、ピサロ達に降らせる。
捨石になるつもりなど更々ない。だが、どうか輝きを取り戻してほしい。
私が守りたいと思ったことが、間違いじゃないと信じさせてほしい。
その為ならば、この生死の境で、抗い続けられるから。
降り注ぐ剣の雨を、残った石壁に身を隠しながらセッツァーは頭皮がめくれんばかりに掻き毟った。
セッツァーの苛立ちはこの島に降り立って以来の頂点に達していた。
攻守逆転し、今度は自分たちが庇に隠れなければいけなくなったことに?
「珍しいな、お前がそこまで苛立ちを露わにするとは」
同じく壁に隠れたピサロが、至極どうでもよさげにそう言った。
そう、苛立つだけならともかく、その程度でその苛立ちを表に晒すなど、セッツァーには考えられないのだ。
「……日差しがうっとおしいからな。丸二日シャワーも浴びてないと痒くもなるさ」
「苛立ちの理由を当ててやろうか。格付けが外れて恥ずかしいのだろう」
ピサロの放言に、セッツァーの眉根が締まる。
そう、再び戦場に戻った物真似師は、様相こと異なれどその威容を変化させていた。
そこには、セッツァーが安堵した無能さ、三流臭さがなくなっていたのだ。
「はん、旦那も見る目がない。どう足掻こうが物真似は物真似。一流<ホンモノ>以上にはなれない二流以下だよ」
「ならば何故ことここに至って狼狽する?」
続いたピサロの問いに、流石のセッツァーも言葉を失ってしまう。
ゴゴの姿がこれまで見えなかったのだから、ゴゴが増援として参じることは容易に想像がつく。
目を覚ます前に探し出して潰すこともできなくはなかったし、それが無理でも覚悟はできたはずだ。
常のセッツァーならば決してありえぬ瑕疵の源泉は一体何か。
「――お前は、あの物真似師を低く見積もり過ぎだ。否、“低く見積もりたがっている”」
恐れるに足りぬと。屑と。三流と。そう断じたがっている。
故に、放置すれば害なりと分かっていても、軽く見積もってしまう。
セッツァーの中に渦巻く名前のない感情が、あの物真似師に対する判断を狂わせているのだ。
「…………たった1度のミスでえらい謂われだな」
「ミスを許容できる同盟だったか?」
豆腐を斬るような調子でセッツァーの諧謔を絶ったピサロは物陰から姿をさらし、マヒャドを放つ。
砲に込められなかった氷塊は広域に散り、襲い来る欲望の刃を打ち落としていく。
「貴様があの物真似師にどんな感情を抱いているかなど私は興味はない。
だが、私が力を貸してやったのは貴様ではなく貴様の才であることを忘れるなよ」
遠回しな同盟破棄の宣言に、セッツァーは何も抗弁しなかった。
寡勢が大勢に挑んだ以上、時間がたてば連携は分断されていく。
ジャファルも表返り、魔王・
カエルの姿も見えず、ジョウイが独自行動を取った今、協力関係にあるのは彼ら2人しかいない。
ヘクトルを利用することで何とか協力のメリットを作ってきたが、
それさえあの三流の登場で絶たれた今、ついに潮時が来てしまったのだ。
「……どうやらあの娘、私が所望らしい。“いよいよ見くびられたな”。
流れ弾には注意しておけ。一応気は遣ってやるが、巻き込まない理由はもうないのでな」
アナスタシアの視線とピサロの視線が交錯する。一応に連携して戦っているものの、火力の要はピサロだ。
ピサロさえ潰せば、最後のマーダーチームは実質的な機能不全に陥る。
その程度には、セッツァーは見くびられているということだ。
「……世辞にも長いつきあいとは言わないが、一応、礼をいうぜ。ついでだ……餞別代わりに、あの栞残らず返しちゃくれねえか」
ピサロの言に誤りは1つもなく、慰留の余地もメリットもないと断じたセッツァーはそう言った。
ピサロは僅かに懸念した後、最後には手持ちの花の栞を全てセッツァーに渡した。
「ラベルを剥がせ、セッツァー。お前が私が狩るべき鷹か、ただ死体を漁る鴉なのか……その血、本物ならば
ロザリーへの祝杯としてやろう」
「ああ、俺も最後は旦那の命で飛んでやるよ」
願わくば、最後の2人にならんことを。
ピサロが襲い来るアナスタシアを迎撃しに向かい、銀髪の殺害者達はついに袂を分かった。
約6時間ぶりに1人となったセッツァーはいつもの癖で運試しを試そうとするが、ポケットの中のダイスは既に真っ二つに割れていた。
どうやらそんなことすら忘れてしまうほど耄碌したらしい。
(ルーキーが場を荒らして五分。あの三流を見逃してさらに二分。3:7で俺が不利ってところか)
右手に収めた銃器の具合を確かめながら、セッツァーは自分の置かれた位置をそう判断する。“十分勝ちにいける”状態だ。
(三流は腐れヒヨコにかかずらって動けねえ。カチ込めば獲りにいけるだろ)
もしも仮に自分を脅かす可能性があるとすれば、確たる意志を持ったピサロ、
妥協してルーキーとはいえ己の領域に足を踏み入れたジョウイ、そして万歩譲って、あの正体不明の三流野郎だけだ。
うち二人との距離を保てている今、あの野郎さえ消せれば不安要素は消える。
「と、いうわけでだ。お前等と遣る気はまだないんだ。帰って仲良くミルクでもしゃぶっててくれよ」
そして、それを防ぐために何人かが足止めに来るのも分かり切っている。
「はいそうですかって行かせる訳ねぇだろがッ!」
「おじさまのところには行かせません、セッツァー!!」
現れたのはサイキッカーと魔族の娘。己が成すべきとして、セッツァーの足止めと捕縛を選んだ者達だった。
「ゴゴの顔を立てて、殺しはしねえ。だが、ヘクトルを殺した落とし前は付けさせてもらう!」
「アシュレーさんのケジメも、付けさせてもらいます!」
セッツァーは2人の怒りをはらんだ言葉もどこ吹く風と、銃を片手に、カードを片手に構える。
どうやら自分を生かして三流野郎の元に引きずり出したいらしい。
疲労した状態でもそれくらいならできると判断したのか。
こちらは殺害上等で、向こうは常に死なない程度に加減してくれると。
甘い。甘さが爆発しすぎている。そんな風にカードを晒されたら、根こそぎ刈り取ってしまいたくなるではないか。
「生憎と食い終わったカモの名前なんざいちいち覚えちゃいないな!!」
その言霊とともに、アキラに銃撃が、ちょこにカードが襲いかかる。
アキラもちょこもそれを避け、攻撃へと動き出す。
2対1。誰もが一目見ればセッツァーに不利な状況と見るだろうが、
とうの本人はそんな意識などさらさらなかった。
「俺が見るのは今生きている奴だけだ。だから生きている奴には自己紹介するぜ。
俺はセッツァー、セッツァー=ギャッビアーニ!! 夢を取り戻すために生きている男だッ! あんた等も名くらいは教えてくれよ!!」
カードと銃弾をバラマきながら、セッツァーは2人の戦い方を見極める。
まずはアキラと応じた青年。中距離を維持して走る中、呼吸にどこかしら歪を感じる。
恐らく、あの距離からでも届く技――そして、相応の集中を要する技をしかけようとしている。
ならば、その呼吸の溜めを見逃さず、耐えず集中を散らしてやれば恐れるに足りない。
次いでちょこと名乗る異形。どうやらあの子供の姿は擬態だったらしく、
なるほどその白翼から生まれる速度もそこからの体当たりの威力もなかなかのもの。魔法に至っては言うまでもない。
だが陳腐。中身が何一つ変わらず子供のままだ。
どれだけ威力が高かろうが大雑把なモーションの体当たりを避けられぬ理由はなく、
魔法はインパクトの瞬間にアキラに近づけば巻き添えを恐れて撃てなくなる。
つまり、ちゃんと見て弁えて動けば、とりあえず死ぬことはなく――会話する程度の余裕は生まれるのだ。
「アキラに、ちょこね。なあ、お前たちの夢はなんだい?
オディオを倒すとかそんな目先じゃなくて、魂全部で追っかけて叶えたい願いがあるかい!?」
攻撃の立ち回りをしながらもそんなことを聞いてくるセッツァーに、アキラもちょこもその真意を測りかねる。
話に聞く限り、セッツァーは誤情報を撒き散らして暗躍をしていたらしい。
となればその舌峰をこそ警戒し、付き合うなど以ての外と思える。
「『ヒーロー』志望だ。文句あるか」
「みんなで一緒に、帰ります。そして、アナスタシアさんと、『けっこん』し続けます」
だが、アキラもちょこもその問いに毅然と応じた。
理由は曖昧模糊だが、ただ一つ予感がある。その問いに答えられないようでは、セッツァーに敵とすら認めてもらえないという予感が。
「――ふん。その中身までは分からねえが、本気なのは分かった」
開口一番、否定にかかるかと思いきや、セッツァーは銃を持ったまま拍手を打つ。
それは当然だ。あの死体と違い、夢を語る彼らには熱がある。夢に向かおうという真摯な想いがある。
誰よりも夢を重んじる彼が、その想いを見誤ることはない。
「本気だ。実に本気で――――――生臭ぇよ。息するなお前ら」
だからこそ、セッツァーは汚物を見るような視線とともにカードを投擲する。
動揺で回避を鈍らせ、肌を血で濡らすちょこもアキラも、セッツァーの言葉の意味さえも理解できていない。
「ああ、こりゃ駄目だ。話にならねえ。自分の体臭とはいえ気づかない鼻なら削ぎ落とせよ。
――――お前らの夢への想いは本気だ。だからありえねえんだよ。その夢は、今ここで吐けるものじゃないのさ」
セッツァーが指弾したのは、アキラ達ではなくアキラ達が抱く夢そのものの歪さだった。
「自分の救いたいものを救う『ヒーロー』? みんなで一緒に帰る?
おいおい、まさか今しがた思いついた戯言じゃないだろ。そうじゃないのは眼を見れば分かる。
たぶん、この世界に来る前から、少なくとも始まった時には抱いてた夢だ。
だったらお前ら、まさかここまで40弱が死んでる中に、救いたかった奴らも、一緒に帰りたかった奴もいなかったのか?」
銃弾よりも鋭く、カードよりも鋭利な刃が青年と少女の心臓を穿つ。
無法松。アイシャ=ベルナデット。
ミネア。
あ、と声にならない嗚咽とともに漏れたのは、彼のヒーローにして彼がヒーローになりたかった者たち。
アシュレー=ウィンチェスター、ユーリル。
目には見えぬ血液と流れたのは、お家に帰してあげたかった人たち。
アキラはもう彼らのヒーローになれはしない。ちょこは彼らをお家に帰せない。
――――彼らの夢は、とっくの昔に破綻していなければならないのだ。
「そいつら以外、って自覚してるなら分かる。その為に一回優勝してオディオに生き返らせるなら納得できる。
そうでもなく、お前らはそんな夢を抱き続けていやがる。そんな芸当をするのに、方法なんて一つしかない」
それは、削ること。
救いたいものの中から、救えなかったものを削ぎ落とすこと。
帰してあげたい人の中から、もう帰れない人たちを帰さないこと。
「ああ、お前らは夢に真摯だよ。軽いのは、夢そのものだ。だから簡単に弄れる。手が届く範囲に誤魔化せる」
叶いませんでした。残念でした。次は頑張ります。残ったもので頑張ります。出来る範囲で頑張ります。
最初は遥か高みにあったはずの夢をそうやって妥協して妥協して、
なんとか手が届いた範囲で、ほら、夢に届きました――――莫迦にするな。
「削ってんのさ、夢を。腐り落ちたところを殺いで、瑞々しいところだけ見て、抱き続けてるのさ。
“とっくに死んでんだよ”。蛆塗れの死体抱いて楽しいか? 屍体愛好者<ネクロフィリア>ども」
その言葉に、若き二人の柔い臓腑が縛り上げられる。
夢が死んでいる。あるいは、死んでいるのに気付かないフリをしている。それがセッツァーの癇に障った。
自分という人物を理解し、反芻し、それでも自分の出来そうな領分を弁えたうえで、
これだけは必ず成そうと決意して設定された
トルネコの夢の重み。彼らの夢にはそれがない。
無論、その重みをモラトリアムの中にある小僧小娘に架すのも酷ではあるが、ここまで死山血河を見ておいて吐ける夢ではない。
「これと一緒だよお嬢ちゃん。手前の都合で勝手に形を変えて、自己満足の悦に浸る」
頃合い良しとセッツァーはちょこの前に再びあの栞を見せびらかす。
燃やされたと思っていたそれをちょこが認識した瞬間、他愛なく握り潰す。
「夢はな、抱いた時のままの姿が、一番綺麗なんだよ」
それをポン、と中空に飛ばす。あれだけ大切そうにしていたものをこうもされれば、視線は否応にもそちらに向くはず。
誤誘導を仕掛けたうえで、セッツァーは拳銃を構えた。その程度の夢で、俺に張り合おうなど――――
「違います! 夢は、願いは、いつだって綺麗なんです!!」
引き金を引いたセッツァーが見たのは、銃弾を避けて猛スピードで突進するちょこだった。
その視線は栞ではなく、銃弾とセッツァーをしかと見据えている。
「莫迦な、なんで折れない!?」
「アシュレーお父さんの温かさ。ユーリルお兄さんの輝き。
アナスタシアお姉さんのカッコよさ。そして、ゴゴおじさんの優しさ。
色んな光が、闇の中の私を照らしてくれている。
悩んで、苦しんで、それでも掴み取ったあの光が、綺麗じゃないなんて言わせない!!」
ちょこを取り巻いた彼ら大人たち。彼らの夢も、きっと傷ついている。傷のない宝石ではないだろう。
だが、それでも、あの究極の光が、勇者の雷が、聖なる一刀が綺麗でなかった訳がない。
「あなたは、かわいそう。みんなの夢を傷つけて、自分の夢を自慢するだけ。
傷の一つすら誇れない、誰も照らせない貴方の夢なんかに――――負けませんッ!!」
ちょこの体当たりはセッツァーに回避しきることを許さず、盾代わりに出した蛮勇の武具とソウルセイバーを砕ききる。
「ぬ、ぐおぉっ!!」
吹き飛んで大地を転げまわったセッツァーがおそらく初めてこの島で正真正銘の苦悶の唸り上げる。
セッツァーのポーカーフェイスを破ったのは、ちょこの夢に照らされた自分の夢の亀裂だった。
彼は常に誰かの夢を問い続けてきた。ある者の夢には寿ぎ、またある者の夢に呪いを与えてきた。
だが、彼は今初めて……自らの夢を問われた。問われてしまった。
転げ終わったセッツァーは傷も厭わず、崩れた表情を隠すように顔を手で覆う。
なんだ、なんなのだ。旦那でもルーキーでも、ましてやあの3流でもないただの小娘に何故動揺する。
駄目だ。駄目だ。その先の答えに行きついてはいけない。誰でもいい、早く、早く。
じゃり、と砂を踏む音と自分を包む影に、セッツァーは光を遮るアキラを見上げた。
自分を見下し、自分と空の間を遮るかのようなアキラに、セッツァーは言いようもない吐き気を覚えた。
俺を見下すなと、俺よりも空に近い位置にいるなと。湧き上がる嚇怒と共に、セッツァーは最強の手札を切った。
「ああ、そういえば思い出した。アキラってどこかで聞いた名だと思えば、お前無法松の知り合いか!
あの夢も何もない、ただの死体の!!」
アキラの体が僅かに震える。その震えを見逃さず、セッツァーはここぞとばかりにBETを投入する。
「傑作だったよ。莫迦の一つ覚えみたいにお前の名を呼んでいた。
アキラが、アキラならって、他の誰のことも顧みず、迷子の餓鬼が母親の名を連呼するように!
その為なら死ねる、命を張れるって――――はっ、とっくにンなもの無いってことにも気づかずにな!!」
限りなく淫らに、あらん限りに低俗に、セッツァーはアキラの心の大いなるものを踏みにじる。
その中でもアキラに気づかれぬよう、背中に炎の槍を忍ばせる。
「それでもアキラ、アキラって……お前見捨てて正解だよアキラ。あんな燃えカス『ヒーロー』が救う価値もねえ!!」
そんな哀れな死体さえも、お前は救えなかった。
究極絶対の亀裂をつくように、セッツァーはフレイムトライデントをアキラに突き出した。
鮮血が顔を血でぬらす。視界が赤く染まる。対アキラの最高のカードを切った結果としては最高といっていい。
「その臭ぇ口で、『ヒーロー』を語るな」
ならば何故、この槍が貫いた手ごたえがない?
その疑問が浮かぶよりも早く、自分の顔に減り込んだ拳の痛みが正解を告げた。
「が、で、めぇ……じょ、りょ、く……」
「お前みたいな糞、読む気も起きねえよ。言ったろう。俺は、ゴゴの顔を立ててやるつもりだったんだ」
陥没して折れた鼻から血を撒き散らしながら喘ぐセッツァーに、アキラは酷薄に吐き捨てた。
確かにセッツァーが繰り出したカードは最強だった。ことアキラを動揺させるのであればこれほどのカードは無いだろう。
だが、いかな最強の切札であっても、それが来るタイミングが分かっていたのならば何の脅威にもなりはしない。
アキラは、否、仲間たちの誰もが聞いていたのだ。座礁船にいたはずの無法松を殺したのが誰なのかを。
セッツァー=ギャッビアーニこそが、アキラがけじめをつけさせるべき怨敵であることを。
それをあえてアキラは抑えていた。ゴゴという仲間のために、それを後回しにしておこうと思ったのだ。
だが、セッツァーからそれを切り出されてしまえば、アキラに否応はない。
転げ落ちた炎の槍を、怒りに満ちた足で圧し折る。
毒の熱も、茹だる思考も、腹の底から湧き上がる怒りに焼き尽くされる。
無法松がどんな風に殺されたのか容易に想像がつく。こうやって心を踏みにじられ、圧し折られ、不意を打たれて殺されたのだと。
「生きるってのはな……すげえ、大変なんだよ。
ガキの面倒をみたり、鯛焼き売ったり、飯作って、洗濯して、布団干して……その日一日を生きるって、すげえキツいんだよ」
回復魔法を使おうとするセッツァーの顔面をさらに打ち抜く。
フィジカルに優れていないアキラの一撃など致命傷にはならないが、セッツァー相手ならばそれで十分だった。
殴られればこれほどに痛い。それが生命だ。弱く、儚い生命は、精一杯に生きている。
精一杯で、精一杯で、夢を見ることすら忘れてしまうくらい、生きることは辛い。
「松はな、そんな中で、生きて、生き抜いて、その上で、他の奴らの面倒まで見てたんだ」
その背中を覚えている。そんなキツイものを何個も背負って、それでも走り抜けた男の背中を覚えている。
「燃え尽きた? ああ、そうだろうよ。余すことなく、燃やし続けた。だから今でも、あの熱さを覚えてる」
“たら”も“れば”も、一切の余地を残さぬ人生の完結。あの魂の炎こそが、真に“生きた”ということだ。
「燃え尽きた? いいじゃねえか。そんだけ本気で走り抜けたんだ。少しくらい休んでも、次の夢を探してふらつくのも」
全力で走れば、いつかは息が切れる。その時、人は少しだけ止まる。
そして、その走り抜けた先を振り返るのも、再び走り出すのも本人の自由。否、真摯に生を駆け抜けた者だけに与えられる褒美だ。
「分からねえだろうな。何でもかんでも斜に構えてあーだこーだ人様の生き様にケチをつけてるだけで、本気で生きてないお前じゃ」
無法松の生が、燃え尽きた灰だとするならば、セッツァーの生など生木の半端な燃焼だ。
それをセッツァーは“ただ今自分が燃えているから”という理由だけで無法松の灰に熱がないと断じたのだ。
「そんな手抜き野郎の夢に、松の炎は穢させねえ!」
アキラが拳に力を宿す。超能力も何もない、ただ想いだけを乗せた渾身の一撃を放つ。
松よ。あんたに熱が無くなったわけじゃない。あんたの熱はここにある。俺が、俺たちがもらったんだ。
だから、その熱で――――
「沈めやキリギリス。夢の有り無しでしか人を見られないような、
夢を言い訳にしなきゃ叶えられないようなくだらない夢なんざ――――――“ここでぶっ壊れろ”ォォォォ!!!!」
アキラの右ストレートが、3度セッツァーの顔面を打ち抜く。
不細工に響いた破砕音は、頬骨の砕けた音か、それとも、誰も触れてこなかった無垢なる夢の崩れる音か。
ひび割れた酒瓶より、滴が漏れる。亀裂は進み、酒はどんどんと零れ落ちて、セッツァーを沈めていく。
――――――――貴方達のお酒が最後にどんな味になるか……機会があったら呑ませて頂戴な。
割れた瓶から漏れた酒は、冷めた鼻血の味がした。
苛立ちを押し殺すように顔をしかめたピサロは、既に何度目かになる魔砲を放つ。
その速度、威力とも回数を重ねども劣化など微塵もなく、必殺を誓い目標に向かい着弾した。
爆煙が周囲を包み込む。ただの人間であったならば、その熱風でも重い火傷を負うだろう。
それほどの威力を直撃すれば、どんな英雄・勇者であろうとも一たまりもあるまい。
「一体、何をすればそれほどの力を得られるのだろうな?」
だが、ピサロは不敵に、あるいは自嘲するように尋ねた。その煙の先に返答を確信した問いだった。
「さぁ? (男と)ゴハン食べて、(デートで)映画見て、(ホテルで)寝る。乙女のサプリなんてそれで十分よ」
その煙を割って、束ねた蒼髪を靡かせながらアナスタシアが踊り出る。
衣服は砂煙にまみれボロボロであったが、地面までつかんばかりの艶髪だけはこの戦場でも瑞々しく輝いていた。
疲労も銃創もどこ吹く風と、エネルギーを迸らせている。
アナスタシアはただの女性でありながら世界の全てに匹敵する欲望を内包する聖者という両極端な存在だ。
聖剣によって欲望を変換させたその『戦闘力』は、あのロードブレイザーを封印したことからも言うまでもない。
だが、同時にそれまで剣も握ったこともないただの女性であるアナスタシアには『戦闘技術』がない。
故に、ロードブレイザーより劣化しながらもカエルの剣技を持った紅蓮や、
死してなおその筋骨に積載された戦技を振るうゴーストロードと相対したとき、素人である彼女はその力を生かしきれない。
しかし逆に言えば、ロードブレイザーや魔王のようにその絶対的な『力』を前面に押し出す敵が相手であれば、
『技』の介在する余地のない純然たる『パワー勝負』であれば、彼女を真っ向から崩せるものはそういないのだ。
「……なんかまるで脳筋みたいにバカにされた気がするけど……ルシエド!」
ブツブツと妄言を放ちながらも、アナスタシアはルシエドに跨り、一直線にピサロに斬り込む。
「貴方の理由は聞いているわ。ピサロ。それでも私は守ると決めた。
貴方が奪うもの、私が守りたいもの――――交わるならば排撃の道理ッ!!」
影狼の疾走を捉えきることは難しく、ピサロは砲剣を盾にガードした。
加速をつけた一振り。単純故に崩しようもない一撃を前に、ピサロはたららを踏んで後退する。
(なんだ、この力は! 魔力でもない、筋力でもない。出鱈目にもほどがある!!)
ピサロは肩で息をつきがら、目の前の脅威を凝視した。
これまで、さまざまな人間と相対してきた。その誰もが決して弱くなく、人間だからと侮ってはならぬと心に刻んでいる。
だが、目の前の存在を果たして“人間”とカテゴライズしていいものか、ピサロには即断できなかった。
剣を通じ無尽蔵と思えるほどに垂れ流されるエネルギーの奔流は、人というよりも恒星のそれに近い。
あれは、人の形をした太陽だ。雲に陰らぬ限り、慈愛の陽光と苛烈な灼熱を振りまく星なのだ。
ピサロに打つ手がないわけではない。見る限り剣術は素人同然。魔剣士である彼は剣技にも精通している。
いずれも大味である修めた剣技の全てを捨て、細かく刻んでいけば勝利への道もある。
「認めてるなるか! 私の力が! 私の『愛』が!! この程度の力に後れを取るなどとッ!!」
自らの中に湧き出た姑息を追い払うように、ピサロは得物を砲剣からヨシユキとヴァイオレイターへと変えて突撃する。
これを愚かというならばそれは人間の理屈だ。小手先で勝てばよいという問題ではない。
悲しいかな。ピサロはどうしようもなく魔族であり『魔』が、『力』及ばぬということを例え仮定でも認められない。
セッツァー達と手を組んだこともあくまでも無駄を省くためであり、同盟ならずとも彼は残る人間を戮殺するつもりだったのだ。
そうでなくば、辿り着けない。全ての障害を破砕出来ぬようでは、彼女へ至れないのだから。
故に、姉への道を信仰した魔王同様――――彼はその『力』への信仰に殉ずるしかない。
「……マテリアライズ・ガーディアンブレード。償いじゃないけど、彼の代わりに、この剣で終わらせるわ、魔王ピサロ」
アナスタシアの掌に再び聖剣が宿る。大上段に構えられたその剣を見て、ピサロは歯を軋らせた。
そうだ、あの剣も認められない。天空の剣の如き神剣などと、今だ立ちはだかるというのか、勇者よ。
「天空の剣に、私が敗れるわけにはいかんのだ! 消えよ勇者の影がァァァァァァ!!!!!!」
「彼の救ったものは壊させない! 終りだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!」
怒りと共に振り下ろされた聖剣の一撃が、二刀を、そしてピサロの力を打ち砕く。
真っ向からの打ち合いでの競り負け。言い訳の余地もないその差に、その力への矜持は霧散した。
魔王は、聖女に、勇者に勝てないということなのか。
(足りんというのか……このままでは……この『力』では……あの小僧のように……進むしかないのか……)
一度バウンドしてから再び地面にたたきつけられたピサロ。
しかし、魔王とは異なり、その信仰までは砕けていなかった。
白銀の髪を纏った剣の魔王を思い出す。そのままでは叶わぬ願いのために、二度と降りれぬ高みへと登った人間を。
その望みが、今のままで叶わぬというのならば、変わるしかないのだ。
(勇者を、超える、力を、さらなる領域へ…………『進化』を……)
目の前の『勇者』に憎悪を剥き出しにしたピサロがうわ言のように何かを唱えると、ピサロの中で何かが鳴動する。
魔王に『約束』があったように――――ピサロには『秘法』があった。
錬金の原則、等価交換の理の極限。己が己であるための一切を対価とした、大禁術。
黄金の腕輪による闇の力の増幅などなくても成せるという確信だけは最初からあった。
なぜならばこの島は憎悪の地獄。増幅するまでもなく、この世はオディオに満たされている。
(力を、力を、人間を殺せ、憎み殺せ……その為の進化を、果てない進化を……ッ!!)
「ドワォッ! 一体、何が……!?」
アナスタシアの驚きも、もはやピサロの耳には憎悪で聞こえなくなっていた。
湧き上がる黒き憎悪がその心身を塗り替え、生命の本質へと近づけていく。
剣を振る腕が足りないのならば増やせ。装甲が薄ければ継ぎ足せ。牙も生やさず戦うつもりか。
口が1つでブレスが吐けるか。眼が足りぬ。人の器なぞ不合理極まる。全部挿げ替えろ。
足せ、積め、生んで生んで殖いで登れ二重螺旋の果ての最強の力へ。
憎めよピサロ! そして成れ――――『進化の秘法』を以てオディオを纏い、
デスピサロへとッ!!
あと数度の変態を経て、銀髪の偉丈夫は醜悪なる化身へと変身……否、回帰する。
元より、戻れぬ身。ならばこのピサロこそがただの幻だったのだ。
夢は終わり、現実へとデスピサロは舞い戻る。
ああ、でも、夢の中で誰かが言っていたような気がする。
受け取れと、忘れるなと。
きっと、それは――――私が、かつて忘れて、そして二度と忘れてはいけないものだった。
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最終更新:2012年10月08日 12:30