瓦礫の死闘-VS女神・無職葬送曲- ◆wqJoVoH16Y
ピサロの一撃を食らったアナスタシアは、その胸に袈裟を斬るように血を流し倒れていた。
結わえたポニーテールはリボンがはずれ、富んだ髪は放射状に広がっていた。
完敗であった。生きて誰かを守りたいという、アナスタシアが唯一持つ欲望の力。
それが目の前の男には通じない。その力――否、その愛は既にアナスタシアと五分の領域に達している。
抱く力が五分であるならば、アナスタシアはただの娘でしかない。
地力の差が、全ての結果に現れていた。
(かて、ないか……な……)
顔面を蒼白にしながら、アナスタシアは力なく笑った。
もとより多大な失血をしていたのだ。意識がバラバラになっていくのを留める術はなかった。
笑みが浮かんだのは、調子に乗って1人でピサロに向かった自分の愚かさ故か。
(勇者の、影、か……やっぱ、ばれるものね……)
バラバラになる意識の音が、鼓膜の内側に響く。
ザアザアとふりめくその音は、まるで雨のようだ。
その雨の中、光も失ったアナスタシアは目蓋の裏側に、1人の女性を見た。
美しい女性だと思った。シルエットも、ブロンドの髪も、とがった耳さえも綺麗だと思った。
だが、何よりもその心が綺麗だった。
私は、行くのかと尋ね、彼女は迷わず首を縦に振った。その仕草さえ艶やかだった。
大丈夫だと言った彼女は、水底まで見渡せる澄み渡った湖のようだ。
守りたいと言った彼女をみた私は、その湖に自分の醜さが映った気がした。
かつて私が抱き、呪った欲望を、彼女は愛おしそうに抱きしめていたから。
あの時は、ただ仲間が戦っているから自分も戦いに行くのだと思っていた。
だが、あの瞬間が過去となった今は、彼女が何をしたかったのか知っている。
だから、思うのだ。もしも、あの時、行くの?ではなく行かない方がいい、と引き留めていたならば――――
或いは、自らの罪を明かし、ユーリルが何故こうなっているのかを彼女が知っていれば――――
せめてもう少し救いのある話になっていたのではないだろうか。
彼女は、彼女が引き起こした罪の連鎖を瀬戸際で留める最後の機会に立ち会っておきながら、それさえも手放したのだ。
その結果が、ここにある。アナスタシアが見過ごした罪の結果として、この純粋なる愛の怪物は存在しているのだ。
そう……アナスタシアがピサロに1人向かったのは、戦術によるものではなかった。
アナスタシアは、1人でピサロに向かいたかったのだ。
己が犯してしまった罪、その最後に向かい合うために。
聖女の代わりに、勇者の代わりに、この怪物を救いたかったのだ。
(ごめんなさいね、
ロザリーさん。やっぱ、私には貴方みたいには無理よ)
アナスタシアの顔に影が覆い被さる。ピサロの砲口が、アナスタシアに止めをささんとエネルギーを充填し始める。
まったくの無表情でそれを行うピサロに、アナスタシアは脱力したように苦笑した。
聖女だと思った。何かの手違いと無意識の悪意で生まれたような私なんかより、彼女はよほど聖女だと思う。
そんな彼女が救いたかった人、そして、本来ならば勇者がそれを叶えるべきであった人。
その祈りを閉ざしてしまった自分だから、ピサロを救いたかった。
思わず笑みがこぼれてしまう。今更天空の剣をかざして勇者や聖女の真似事をしたかったのか。なんて、なんて。
(救いたいとか――――“そんな理由じゃ戦えない”)
反吐が出る。
「ぬぅッ!?」
その瞬間、ピサロの視界が真っ赤に染まった。
アナスタシアの口から血が飛んできたのだ。傷によって口腔にたまった血液を吹き出したのだ。
攻撃を仕掛けようとしていたピサロはインビシブルを展開しておらず、
その余りに女性らしからぬ不意打ちに直撃してしまった。
目を拭ってみると、そこにはアナスタシアがいない。
周囲を見渡しても崩れかかった石壁ばかりで誰もいない。
「あ~~~~~あああッ!!」
その叫び声に、ピサロが上を向くと、その上空には、聖剣を振り下ろし巨大な衝撃波を生み出したアナスタシアがいた。
天より地に落ちる銀ノ一閃。だが、ピサロは冷静にインビシブルを展開し、一撃を無効化する。
周囲の石壁全てに亀裂が走り、刃を受けた大地が隆起するほどの一撃。
それでも、ピサロの絶対防御を崩すことなどできはしない。
「ふん、この程度で私を――――なにッ!?」
「フンヌラバァァァァァァ!!」
だが、アナスタシアの一撃は終わっていなかった。
英雄? 聖女? 何それ焼きそばの具? と言わんばかりの悪鬼かくやの形相で振り抜いた聖剣を掴み直す。
本来ならば聖剣の大きさに振り回されるところだが、アナスタシアは聖剣の腹を左手で握りしめて制動を押さえ込む。
「~~~~~~!!!!!」
握力を込めようとしたとき、アナスタシアの左肩に激痛が走った。
銃弾を摘出したとはいえ傷は傷。力を込めた左腕が沸騰するように痛む。
だが、アナスタシアは力を込めることをやめなかった。
痛みよりも内側で燃え上がるある感情が、両手持ちしたアガートラームの力となっていく。
「んだらっしゃあああああああッッッ!!!!!」
威力を倍増させた銀ノ一閃は、先ほどとは比べものにならない力を放ち、
先の一撃で亀裂の入った石壁の全てを滅ぼし、斬撃に沿って地面を破って隆起させたのだ。
「…………なるほど、狙いはセッツァーらとの分断か。或いは、他の連中が奴らを倒して逃げる時間を稼ぐためか?」
舞い散る砂煙が収まりゆく中、ピサロが姿を現す。
石細工の土台が軒並み消し飛び見晴らしのよくなった荒野を見渡すと、
隆起した大地がセッツァーやゴーストロードとの戦場を隔てるように屹立していた。
登るにせよ迂回するにせよ、別の戦場に向かうには少し手間になるだろう。
「だが1手遅かったな。既に盟約は破棄されている。お前を潰して、奴諸共ゴミを潰すことに何の感慨もない。
そして、あれはお前たちには倒せん。あの黒鷹にとっては貴様等などエサとすら思われまい」
だが、これほどの一撃を持ってしてもピサロの優雅さは少しも崩れていなかった。
相も変わらず傷もないその佇まいは、最早神々の砦とさえ思える。
「違うわよ。これは、私の姿を
ちょこちゃんや、誰にも見せないため」
その砦に挑むかのような強い声が残る砂煙の向こうから放たれる。
ピサロはその語調に少しだけ眦を絞り、煙を睨みつけた。
「何世紀ぶりかしらね……この姿を取るのは。
これ、アシュレー君にも見せたことのない“とっておき”なのよ?
内なる力に語りかけ、その力を引き出す――――このフォームは」
煙がはれていき、彼女の足から徐々に煙がはれていく。
エプロンドレスは血にまみれていたが、どうやら止血だけは出来たようだった。
だが、空気を通してピサロを刺す気配は比較にならなかった。
それは最早殺気と言ってもよかった。
「見なさい。これが私の“アクセス”――――ダンデライオンッ!!」
煙が完全に晴れ、アナスタシアの姿が晒される。
ざんばらに散ってしまったその長き蒼髪を、左右のサイドに束ね、2つにまとめているのだ。
片方はちょこのリボンで、また片方は止血に使ったエプロンの切れ端で束ねられることで得られた力により、
放物線を描いて地面に垂れる髪は、一度天を目指し進んだ双龍が地に伏す無情観をを顕しているのか。
いずれにせよ美術館に展示される絵画のような煌びやかさに、
頭に乗っかった鳩さえ飛んでいってしまいそうなほどの決意が込められているッ!!
これこそが隠しに隠し通したアナスタシアの切り札、必殺の型――――
「……髪型を変えただけで何がどう変わったのだ?」
のようなツインテールを、ピサロは心底怪訝そうな表情で見つめた。
纏う殺気こそ異なれど、特にそれ以上の魔的変化は無く、
ピサロにとっては、戦闘中に髪で視界が隠れることを避けるという意味合いしか考えられなかった。
「……だから貴方はだめなのよ、ピサロ」
だが、アナスタシアは心底失望したような瞳でピサロを睨みつけた。
「確かにこれは諸刃の剣。ちょこちゃんのようなラブリースタイルならともかく、
下手に手を出そうものなら痛さ爆発よ。それでもなおこの髪型にしたこと――――
何より、女の子が髪型を変えることの意味を理解できない時点で“なってない”のよ」
そういいながら、アナスタシアはちょこのことを思い出す。
先ほど中空でちらと見た限りでは、ちょこも、誰もかもが危地にいた。
直ぐに駆けつけたいと思う。かっこいい私、であるならばそうしなければならない。
だが、だめなのだ。こいつだけは、アナスタシアが向かい合わなければだめなのだ。
だからアナスタシアはこの髪型にした。
ちょこのように、己が感情を偽らないように、内側に残る“女性”としてピサロに向かい合うために。
「認めてあげるわ。貴方の想いはすごい。ラフティーナを顕現出来たことといい、
貴方がどれだけ彼女を思っていたのか……今の貴方なら、聖剣すら抜けたかもしれない。私のように」
こいつの愛はすごい。かつての自分同様、どこまでも自分勝手に世界を凌駕する。
「でもそこまでよ。聖剣を抜けても、私たちはあの雷にはなれない」
だが所詮それは独りよがりの愛だ。
ロザリーが危険を冒してでもピサロ達に会いに行ったのは何のためか。
もう少し待てば、次の機会を待てばよかったはずなのに彼女が走ったのは何故か。
出会えたあの瞬間を愛したからだ。
愛した人に会えたから、伝えたいことがあったから。
たとえもう二度と会えなくなっても、会えないままでいたくなかったから。
今会えたこの愛が嬉しかったから、あの雷の中を疾走したのだ。
なのに目の前の男は、出会えたことよりも、会えないことを想い続けている。
私のように、失った後で失ったモノを嘆き続けている。
「初めてなのよ。守りたいと思わずに、戦いたい――――ぶっ潰したいと思ったの。“貴方みたいな最低の男”」
こいつはあの瞬間の彼女を今も踏みにじっている。
許せぬ、度し難い。女をなんだと思っているのだ。
彼女はお前を慰める玩具ではない。血肉通った娘なのだ。いずれ土塊に還る輝きなのだ。
「っていうか……どんな愛だろうが“年頃の女の子の珠肌を傷つけるような変態なんて、死んでいいでしょ”」
エゴだと、時代錯誤と笑いたければ笑え。己に言う資格がないことなど百も承知。
だが、それもまた理屈ではない。
こちとら彼氏いない歴が年齢以上な、既に時代に取り残された身なのだから。
論理ではない。道理でもない。ただの倫理の問題だ。
アナスタシアという女が、ピサロという男を許せぬ。それだけなのだ。
「ならばどうする。そのボロボロの有様で」
ピサロはアナスタシアの言を鼻で笑い、無様な有様を吐き捨てる。
アナスタシアの言葉を理解できていないわけではない。
だが、その程度の侮蔑如きに揺らぐほどピサロの愛は脆弱ではない。
この絶対防御のごとく、その愛、不朽不滅――――
「ッ!?」
ピサロは己の頬を伝った滴を拭い、その腕を見て驚愕した。
汗と思って拭いたはずの手は、僅かに赤く染まっていた。
その頬には薄皮一枚の小さな傷から血が滴っていた。
放たれた銀閃は僅かに、しかし確かに神々の砦に傷を穿っていたのだ。
「野暮を言わないでよ。男と女が、こうして1対1で向かい合う。やることは1つだと思わない?」
アナスタシアはせせら笑うように、ピサロを睨みつけた。
己の状態は分かっている。失血と傷の熱で意識は今にも飛びそうで、
無茶をしたからか左肩から左手の指先まで感覚はない。あの大振りはもうできないだろう。
なにより、自分でも欲望が薄れているのが分かる。
今はルシエドも剣も呼び出せる気がしないし、
仲間のいる人生に満たされてはじめている自分は、もうあの世界にも帰れないだろう。
(ゴゴくん。ちょこちゃんを頼むわね……こいつは、こいつだけは、私がなんとかするから……)
それがどうした。私はここに生きて、まだ抗い続けているのだから。
「なるほど。少し削れたところで山は山か」
ピサロは冷静に頬に回復呪文をかけ、傷をふさぐ。
インビシブルも決して完全ではない。その絶対は、己の愛によって成り立つらしい。
そして、砲に愛を込めながらピサロは眼前の敵を見つめた。
勇者の衣を脱いだ今の状態の方が、よほど恐ろしい。だが、それでも障害はすべて粉砕すると決めている。
「だが、我が切先は生死の境――――冥道なり。
冥界の三角さえも断ち切るこの一閃を恐れぬならば来るがいい」
砲剣を構え、意志をたぎらせるピサロに応じ、アナスタシアもまた右手で聖剣を握り直す。
もしも彼女がまだ『剣の聖女』であったならば、もしも彼がまだ『魔王』であったならば、
この戦いは、人類の未来と世界の命運をかけた荘厳にして聖なる戦いとなっただろう。
かつてこの空に輝いた雷に匹敵する、神に捧げる雅楽となったろう。
だが、この場に英雄も魔王もおらず。ただの男と女がいるのみ。
ならば捧げるはありふれた日常、猥雑なる喧噪だ。
「去勢の時間よ、女の敵。このアナスタシア=ルン=ヴァレリアが
今生最後の女であることに、五体投地でむせび泣いて枯れ落ちろッ!!」
「今の私にとって女とはロザリーだけだ。木端に散れよ、あばずれが。
冥界の閨で永遠に勇者でも客に引いていろッ!!」
その身一つで世界に匹敵する二人の男女<いきおくれ>の死闘<まぐわい>を以て――――勇者と女神の歌劇に幕を引こう。
【
アナスタシア・ルン・ヴァレリア@
WILD ARMS 2nd IGNITION】
[状態]:ダンデライオン@ただのツインテール ダメージ(極)
ピサロへの怒りで疲労一時無効、胸部に重度裂傷、重度失血 左肩に銃創悪化(左腕の感覚がない)
[装備]:アガートラーム@WA2
[道具]:感応石×3@WA2、ゲートホルダー@クロノトリガー、基本支給品一式×2
[思考]
基本:“自分らしく”生き抜き、“剣の聖女”を超えていく。
1:他の仲間達が他の敵を片付けるまでピサロを食い止める
2:ゴゴを護り、ゴゴを助ける
3:ジョウイのことはとりあえずこの場が全部終わってから考える
4:今までのことをみんなに話す
[参戦時期]:ED後
[備考]:
※名簿を未確認なまま解読不能までに燃やしました。
※アナスタシアの身にルシエドが宿り、聖剣ルシエドを習得しました。大きさや数ついてはある程度自由が利く模様。
現在、セッツァーが欲望の咢を支配しているため、剣・狼ともどもルシエドを実体化できません。
【ピサロ@ドラゴンクエストIV】
[状態]:クラス『ピュアピサロ』 ダメージ(大) ニノへの感謝 ロザリーへの純粋な愛(憎しみも絶望感もなくなりました)
[装備]:クレストグラフ(5枚)@WA2 愛のミーディアム@WA2 バヨネット
[道具]:基本支給品×2、データタブレット@WA2、双眼鏡@現実
点名牙双@幻想水滸伝Ⅱ、解体された首輪(感応石) 天罰の杖@DQ4
[思考]
基本:ロザリーを想う。優勝し、魔王オディオと接触。世界樹の花、あるいはそれに準ずる力でロザリーを蘇らせる
1:アナスタシアを殺す
2:
ヘクトル(?)、セッツァーを利用し、参加者を殲滅する
3:セッツァーはとりあえず後回し
4:ジョウイは永く保たないはずなので、放置する
[参戦時期]:5章最終決戦直後
[備考]:*クレストグラフの魔法は、下記の5種です。
ヴォルテック、クイック、ゼーバー、ハイ・ヴォルテック、ハイパーウェポン
*バヨネットはパラソル+ディフェンダーには魔導アーマーのパーツが流用されており魔導ビームを撃てます
*ラフティーナの力をバヨネットに込めることで、アルテマを発射可能です。
*ヴァイオレイター@WA2、ヨシユキ@LALは破壊されました
【石の女神@WA2】
メイメイさんのルーレットダーツ3等賞。メイメイさんが見つくろった『ピサロにとって役に立つ物』。
進化に逆らってまで貫いた愛が貴種守護獣・ラフティーナを顕現させ、ミーディアム『愛の奇蹟』となった。
1ターンの絶対防御『インビシブル』も使用可能。
ただし、制限によりその絶対防御の固さは使用者の愛の固さと相手の想いの強さに依存する。
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最終更新:2012年08月26日 00:03