瓦礫の死闘-VS鬼神・泣き止んだ僕が願ったこと- ◆wqJoVoH16Y



アナスタシアの大斬撃は他の戦場にまで影響を及ぼしていた。
「ぬおおうッ!?」
突如、巨大な衝撃波2度も地面を切り裂き、それまで柳の如く捌き通していたカエルの体幹が崩れる。
だが、持ち前の筋力と体重を発揮したゴーストロードは地震に耐えきり、体勢を崩したカエルにラグナロクの一撃を放つ。
「ファイアッ!!」
だが危地を見逃さなかったストレイボウが、フォルブレイズを開いて魔術を行使する。
異界の魔導書を精読するにはあまりに時間がなく、魔導書の真の技を解き明かすに達せていない。
だが炎魔術の触媒として使うにはそれで十分事足り、脳裏に浮かぶ未知の知識を再現する。
今のところファイガまでしか復元できていないが、今はこれで十分だ。
生じた火炎は蛇のようにゴーストロードを襲い、ラグナロクを弾く。
「この魔法は? おいストレイボウ、まさかスペッキオがこの島に――――」
「その話は後で……前だ、カエルッ!!」
ストレイボウのフォローで一呼吸を入れようとしたカエルに、マーニカティの刃が襲い掛かる。
これまで互いにほぼ無呼吸で撃ち合っていたため、流石のカエルも互いに一呼吸を入れると思ってしまったのだ。
だが、互いに騎士といえど、死に体と死体には巨大な差があり、呼吸の概念がないゴーストロードはカエルより半歩先手を取る。
限界ギリギリの反応でカエルは一の太刀を弾くが、これまでの疲労から威を流しきれなかったカエルの体が浮いてしまう。

「カエルッ!!」

ストレイボウは急ぎ詠唱を行おうとするが、自身の呪文よりも先に撃鉄を叩く音が耳に入った。
反射的にストレイボウが振り向いたその先には、ドーリーショットを構えたイスラがいた。
イスラが立ち上がったことにストレイボウは顔を綻ばせようとしたが、すぐに怪訝へと変化した。
(構造から見てあの銃は大口径弾か、散弾。どちらにしたって、あの距離じゃ命中するかどうか。
 いや、それどころか下手したらカエルを――――)
浮かぶ記憶とこれまでの戦いから、イスラの持つドーリーショットが接近戦用の銃であることは理解している。
構えるイスラは銃をゴーストロードの方向へと銃口を向けてこそいるものの、接近する気配はない。
まさか、ヘクトルを助けるためにカエルを討つつもりか、それともやはり自殺をするつもりか――――
(いや、違う! あの眼、あの瞳はッ!!)
だが、その思考はイスラの瞳に掻き消された。
全を見失った盲目の黒ではない、意志の込められた闇があった。
ストレイボウは、その瞳に吸い込まれそうな気分を覚えた。その胸に抱いた勇者バッジの淡い輝きにすら気づかないほどに。

――――銃を使ったのは初めてか? だとすれば、筋は悪くない。

そういわれたのは、ケフカを撃ったときだったか。
砲身と引鉄に手を添えながらイスラはそんなことを思い出していた。
銃。引鉄を引いて、火薬に火をつけ、爆発力で弾を発射して、仕留めるこの武器が好きにはなれなかった。
勿論、帝国軍・無色の派閥ともに銃撃員はいるし、
この支給品をして当たりと判断した自分がその有用性・効力について異を挟む気はない。

ただ、僕は剣の方が好きだった。相手の武器を紙一重で躱して殺す。
そうすることで、自分が死に近づけているような気がするのだ。
だから、撃たれて遠くの誰かが死ぬことが、自分が安全な距離にいることができる銃が、少し好きではなかった。

――――そこまで世の中は甘くない。一朝一夕で上手くなるなどとは思うな。
    最後に恃むのはやはり自分が一番慣れた得物だ。

それを察したのか、銃器の扱いに長けた彼は特別自分に何かを教えることはなかった。
筋が少し良かろうが、本人の気質と噛み合わなければ教える価値もない。

――――だが、最初と最後の一歩は覚えていて損はない。
    ARM使いのまじない……言葉遊びのようなものだ。そもそも何故これがARMと呼ばれるか?

だから、きっとこの言葉はほんの気まぐれだったのだろう。
何かの理由で、この銃を恃まなければならなくなったときのために、ほんの少しの力となるようにと。
きっとその時は、銃を握る者の何かが変わっているだろうから。

「わかってるのに見えないふりを続けると大事な物を見失う」
眼を見開き、イスラは目の前の光景を見据える。
カエルが、ストレイボウが戦っている。己が終わりに辿り着くために、今を懸命に生きている。
そして、今、危地に陥っている。今を懸命に駆け抜ける死体の手によって、潰えんとしている。
「曇りを払い自らの瞳で世界を見据え真実を捉えろ」
かつてヘクトルが夢見て、自分が憧れた理想郷の成れの果てが、今を生きる者たちを脅かしている。
その真実を、イスラはついに直視する。他ならぬ、二人の英雄達の言葉に支えられて。
「今、分かったよ、おじさん。銃も剣も、同じなんだ。距離は関係ない。
 この目に映るものに、触れたいと、関わりたいと思う気持ち。それを形にする」
イスラの意識が澄み渡り、純粋なる力へと変換されていく。
引鉄をにかかる金属の質感、銃身の重さが意識に溶けて、まるで自分自身になっていく。
これより行うは弾を飛ばすことではない。手を伸ばすこと。

「掴み取るものを見つめて、延ばす。この銃は……僕の“腕<ARM>”の、延長――――ッ!!」

発射された弾丸が、まるで生きているかの如く軌跡を描いてマーニカティに直撃し、刀身を真っ二つにした。
見つめた真実に眼をそむけることなく、手を伸ばそうとする意志の体現。
それこそがフォース・ロックオンプラス――――ARMの原点にして真髄だ。
「お前に助けられるとは……だが好機! そっちの神剣も落としてもらおうかッ!!」
その隙を見逃さず、カエルは剣閃をラグナロクへ走らせる。
だが、ゴーストロードは剣で向かい合うことなく、腹に一撃を許した。
その様に驚愕に喉を鳴らす。いくら死体だとしても武器で撃ち合えばいいものを、何故体を張ってまで左手を避けるのか。

「奪ワセナイ……侵サセナイ……」

深く、昏い場所から、せせりあがるように言葉が漏れ出す。
臓腑を捩じり絞って吐き出されたのは後悔と決意だった。
「アイツガ……アイツラガ……一緒ニ……イラレル国……ヲ……」
また一人、喪ってしまった。受け継いだはずの緑色の祈りさえ、零れ落ちていく。
だからこそ、もう喪えない。約束まで奪わせない。
身体なんていくらでもくれてやる。だが、この指輪と左腕だけは許さない。
「戦ワセロ……終ワレナイ……俺、ハ……此処ニ、イル……イルンダ……ッ!!」
失われた左眼の虚空から、全てが漏れ出す。
『意志』が、『願い』が、『夢』が、『約束』が、『誓い』が。
彼が失ってきたもの全てが呪いの闘気となって、支配する領域を拡大する。
ここにいるのだ。剣を振るい抗い続けているのだ。
まだ終わっていないと、高らかに笑い続けて、何も終わっていないと、その証を大地に刻むように。
(なんて、重み! これが……国の重みッ!!)
距離をあけているはずのストレイボウさえも、心臓を鷲掴みにされる。
人の命を数で数えてはいけないと分かっていても、その背負ったモノの桁の違いに気が遠くなる。
ルクレチアを滅ぼしてしまったストレイボウには、その重みが押し潰されそうなほど理解できた。
ならば真正面でそれを受けるカエルがどうなるかなど言うまでもない。
これは、鬼だ。屍を抱えて阻むもの全てを滅砕する、鬼の戦神。
この鬼神こそが、カエルがなろうとしたものの極みなのだから。
たとえ目の前でラグナロクを震われようが、首を差し出すしかない。

「我ガ名ハ、アルマーズ……我ガ名ハ、ヘクトル……ッ!! 我ノ、我等ノ『理想郷』ハ……終ワラナイ……!!」
「それでも、終わらせなければならないんだ!!」

だが、その黒き闘気の領域を一筋の黒い刃が切り裂いていく。
魔界の剣を突き立てて、カエルの前にでた男がラグナロクを受け止めた。
「イスラ!?」
ストレイボウは戦いに割って入ったイスラに驚愕した。
接近戦ではあの領域の前に、勝ち目がない。だから銃を使ったのではないのか。
「生きたいとは、まだ思えない。消えてしまえるものならすぐにでも消えてしまいたい。
 でも、ここで何もしなかったら、僕はきっと死ぬことも出来ない!!」
そんなストレイボウの不思議など構いなしに、イスラは剣越しにゴーストロードの目を見つめた。
眼の無い左目も、白濁した眼球が見るもの全てを呪い殺そうとする右目も、決して目を逸らさず見つめた。
「わかってるのに見えないふりを続けると大事な物を見失う。
 貴方が教えてくれた言葉だ。だから、見るよ。貴方を見る!」
そのためにイスラはここまで来た。
彼を見るために。全てを受け止めて、己の生死を定めるために。
どれほどの戦慄が立ちはだかろうとも、この胸に抱く英雄の勇気を抱いて前に立つ。
「誰もが笑いあえる国を創るっていったじゃないか。なのに、あんたが笑えなくちゃ、意味がないだろう!!」
見て、答えはもう決まっていた。
たとえその体の中にどれほどの想いがあろうとも、失われた残骸が必死に身を寄せ合っている最後の場所だとしても。
そこはもう理想郷ではない。ヘクトルが夢見たのは、オスティアの全てが笑いあえる国なのだ。
オスティアの『全て』――――ならば、誰よりも笑っていなければいない人物がいるのだ。
「今更偽るなよ。僕とあんたじゃ、笑顔を張り付けてきた年季が違うんだッ!!」
だから、イスラは亡霊の願いを否定する。
たとえどれほどに全てを捨てて、楽園を作る一本の剣となって笑い続けても、オスティア候ヘクトルが笑えるはずがないのだ。

「それでもまだ続けるなら……僕が、僕が……」
「僕たち、だろう」

ストレイボウとカエルが口ごもるイスラの前に並び立つ。
イスラの勇気、勇猛果敢の意志が2人にも伝わり、この闘気の渦の中でもなんとか動けるようになっていた。
「もう手は握れん。だが、肩を並べ戦うことはできるだろう」
カエルが天空の剣を構え直す。理想の極みを見た以上、成すべきことはきまっている。
「補助魔法なんて初めてなんだ。精度は期待するなよ」
2人より数歩後ろに下がったストレイボウが詠唱を行うと、カエルとイスラにプロテクトの障壁が形成された。
この亡霊の後ろには魔剣が、そして新たな魔王がいる。ならば、この亡霊すら倒せないようではなにもできはしない。

3人の揺るがぬ決意を感じ取ったか、ゴーストロードはついに右手に力を込める。
幾つものナイフを失い、精霊剣マーニカティを失った今、残るは2本。
神剣ラグナロク、そして、亡霊を形作る核たる天雷の斧アルマーズ。
右に雷鳴を轟かせ、左に灼熱を震わせて、ついに鬼神がその真なるを顕す。
「魂を灼かれた後に、亡霊退治とはな。なかなか体験できるものではない」
「……亡霊退治なら、後でやってるよお前。で、どうするイスラ」
ストレイボウが最後にイスラの背中を押す。
カエルも虫の息で、ストレイボウでは正面を晴れない。
そしてやはりというか、他も同じだろうが、援軍も期待できない。
勝負の要は闘気を無効化できるイスラとなる。ならば、その始まりは彼が告げるべきだ。

「お前はどうするイスラ。自滅まで待つなんて甘い考えじゃこちらがやられる。お前はどうしたい?」
「終わらせる……!」

イスラは間断なく応じた。誓いを確固たるものとするように繰り返す。

「ヘクトル。僕は行く。貴方の理想郷を、終わらせる」

すでに涙は止まっている。やるべきことは、もう決まっていた。
誰よりもその理想郷に憧れたから、そこに生きることを夢見たから。

「それが……! 貴方への最後のはなむけだ!」

どうかお願いします。それを、僕の大切な終わりとさせてください。


【カエル@クロノ・トリガー
[状態]:書き込みによる精神ダメージ(大)右手欠損『覚悟の証』である刺傷 瀕死 疲労(極大)胸に小穴
[装備]:天空の剣(開放)@DQ4 覆面@もとのマント
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本:燃え尽きた自分を本当の意味で終わらせる
1:亡霊を倒す
2:友の願いは守りたい
[参戦時期]:クロノ復活直後(グランドリオン未解放)
[備考]
※ロードブレイザーの完全消失及び、紅の暴君を失ったことでこれ以上の精神ダメージはなくなりました。
 ただし、受けた損傷は変わらず存在します。その分の回復もできません。(最大HP90%減相当)

イスラ・レヴィノス@サモンナイト3】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(極)心眼 勇猛果敢@ゴーストロードの闘気を無効化 
[装備]:魔界の剣@DQ4、ドーリーショット@アークザラッドⅡ
[道具]:確認済み支給品×0~1、基本支給品×2、
[思考]
基本:生きたいとは思えないが、終わり方に妥協はしない
1:ヘクトル、貴方を終わらせる……ッ!
[参戦時期]:16話死亡直後(病魔の呪いから解かれている)
[備考]:高原、クロノ、マッシュ、ユーリル、ヘクトル、ブラッドの仲間と要注意人物を把握済み。
    フォース・ロックオンプラスが使用可能です。

【ストレイボウ@LIVE A LIVE
[状態]:ダメージ(小)、疲労(極)、心労(中)勇気(大)ルッカの知識・技術を継承
[装備]:フォルブレイズ@FE烈火の剣
[道具]:勇者バッジ@クロノトリガー、基本支給品一式×2
[思考]
基本:魔王オディオを倒してオルステッドを救い、ガルディア王国を護る。  
1:急ぎ天雷の亡将を倒し、他の仲間達の援護に向かう
2:ジョウイ、お前は必ず止めてみせる…!
参戦時期:最終編
※アキラの名前と顔を知っています。 アキラ以外の最終編参加キャラも顔は知っています(名前は知りません)
※記憶石によってルッカの知識・技術を得ました。
 ただしちょこ=アクラのケースと異なり完全な別人の記憶なので整理に時間がかかり、完全復元は至難です。
 また知識はあくまで情報であり、付随する思考・感情は残っていません。
 フォルブレイズの補助を重ねることで【ファイア】【ファイガ】そして【プロテクト】は使用可能です。

※首輪に使われている封印の魔剣@サモナイ3の中に 源罪の種子@サモサイ3 により
 集められた 闇黒の支配者@アーク2 の力の残滓が封じられています
 闇黒の支配者本体が封じられているわけではないので、精神干渉してきたり、実体化したりはしません
 基本、首輪の火力を上げるギミックと思っていただければ大丈夫です

※首輪を構成する魔剣の破片と感応石の間にネットワーク(=共界線)が形成されていることを確認しました。
 闇黒の支配者の残滓や原罪によって汚染されたか、そもそも最初から汚染しているかは不明。
 憎悪の精神などが感応石に集められ、感応石から遥か地下へ伸びる共界線に送信されているようです。


【天雷の亡将@???】
[状態]:クラス『ゴーストロード』 左目消失 腹に傷 戦意高揚 胸に穴
    アルマーズ憑依暴走 闘気(極) 亡霊体 HP0%
[装備]:アルマーズ@FE烈火の剣(ミスティック効果中。耐久度減。いずれにせよ12時までに崩壊)
    ラグナロク@FF6 勇者の左腕
[思考]
基本:オワレナイ……ダ、カラ……レ、ヲ……戦ワセロ……ッ!
1:戦う
2:肉を裂き、骨を砕き、生命を断つ
3:力の譲渡者(ジョウイ)には手を出さない

 *聖なるナイフ@DQ4、影縫い@FFVI、アサシンダガー@FFVI マーニ・カティ@FE烈火の剣は破壊されました
 *ラフティーナが周辺にいる影響で、賢者の指輪を介し、魔力ステータスがニノ相当になっています

 *アナスタシアの二撃により、石細工の土台が破壊され、他の戦場間に隆起が生じました。
 他の戦場への移動は困難です。


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144-7:瓦礫の死闘-VS女神・無職葬送曲- アナスタシア 144-9:瓦礫の死闘-VS魔神・ゴゴ、『黒の夢』に……-
ちょこ
ゴゴ
カエル
セッツァー
ピサロ
ストレイボウ
アキラ
イスラ
ジョウイ


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最終更新:2012年08月26日 00:24