聖女のグルメ ◆wqJoVoH16Y



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干し肉(固い)
パン(丸い)
ほしにく(量多め)
麺麭(ごつくて拳みたい)
☆肉(別にハイパーではない)
ブレッド(ジャムくらい寄越せ)
燻製肉(保存は利きそう)
水(炭酸ではない)
干しにく(投げたら誰か仲間にならないだろうか)
バケット(一応麦っぽい)
ぱん(武器に使えそう)
水(味はしない)
ほし肉(そもそもこれは豚なのだろうか、牛なのだろうか……)
ウォーター(魔法で精製したというオチはなかろうか)
くんせいにく(考え出すと、この燻製、何の植物でやったのだ……?)
アクア(そうか……すべては……そういうことだったのか……)
小麦粉でつくられ通常はイースト菌でふくらまされそれから焼かれる食物(ならばすべてはおそすぎる……)
数日間塩につけた後一晩水につけて塩抜きをしてから水を拭きひもで縛って吊るし、
金属の缶に包んだうえで底部に乾燥した木片を撒いて燃やし噴煙を浴びせた肉
(宇宙の全てが…うん、わかってきたぞ……そうか、空間と時間と俺との関係はすごく簡単―――――


「うわあ なんだか凄いことになっちゃったわ」

目の前に燦然と輝くその光景に、アナスタシアはそう感嘆せざるを得なかった。
肉、肉、肉。パン、パン、パン。肉パン、パン肉、にくにーく。
そんなものが眼前に広がっているのだ。彼女がそう漏らすのも無理は無かった。
「うーん、パンとパンとパンとパンとパンとパンとパンとパンとパンと
     パンとパンとパンとパンとパンとパンとパンとパンとパンと
     パンとパンとパンとパンとパンとパンとパンとパンとパンと
     パンとパンとパンとパンとパンとパンとパンとパンとパンと
     パンとパンとパンとパンとパンとパンとパンとパンとパンと
     パンとパンとパンとパンとパンとパンとパンとパンとパンと
     干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と
     干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と
     干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と
     干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と
     干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と
     干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と干肉と干肉がダブっちゃったか」
胡坐をかいて腕組みをしながら、アナスタシアは唸る。
落ち着いて考えてみれば、何の不可思議もないのだ。
ここに集まった6人、そして先の戦いで命を落とした者達、そして彼らが歩んだ道程で
手に入れたデイバック、かき集めて18人分。
そして1人のデイバックには成人男性相当で2日分の糧秣が入っており、
実質あの夜雨以降、まともに食事をとる余裕は誰にもなかった。
平均して、どのデイバックにも後1日3食分の糧秣は残っていた。
このパンと干し肉の海はできるのか。できる。できるのだ。
18人の3食分を全部同時にぶちまけるという狂気を容認するという条件下において。

(あせるんじゃないわよ)
瞼を絞りながら、眼前の肉林を睨み付ける。
3食分ほど出して、パンと肉が連続した時点で、その無音の警告を感じるべきであった。
あのオディオが、人の食事に頓着するわけもないのだ。
その次は別の食物がでるだろうなどと、甘い考えを抱いたのが失着だったのだ。
全員に支給されたのはパンと干し肉と水のみ。
その考えに辿り着かず、行きつくところまで行った結果が、この肉林である。
(わたしは血が足りないだけなんだから)
自省しながらもその思考はやはりいろいろ足りていないのか、
するりと右手がパンを掴み、左手の指がつまんで千切り、口の中へパンを入れていく。
(ただおなかが減って死にそうなだけなんだから)
脳内でモノローグを終えるときには、既に3つのパンが眼前から消えていた。
「なにこのパン。グレた田舎小僧みたいな硬さ。こっちの干し肉は……おばあちゃん。うん、おばあちゃん」
ふうわりとは程遠い食感は、保存性以外の全ての美徳を投げ捨てていて、
表面に塩と固まった脂を浮かせた肉は、水気の欠片もない。
そんな、誰からも嫌われそうな食料であったが、アナスタシアの食するスピードは落ちなかった。
所作こそは貴人のそれを踏襲しているが、鬼気すら感ぜられるその食事は、優雅とは程遠い。
この世界には、彼女とパンと肉しかないのではないかとさえ思えるほど、唯一に閉じていた。

「よお」
その閉じたテーブルの対面に、1人の男が座る。
引いた椅子で床を鳴らすような無神経に、アナスタシアは僅かにパンを運ぶ手を止めて前を見た。
対面に胡坐をかいて座るは、天を衝くが如き怒髪の男アキラ。
その瞳には、いつもの真っ直ぐな気性には似合わぬ、僅かな陰りが感じられた。
「がつがつ、ぐぁつぐぁつ」
が、そんな所感などこの食事を妨げる理由にはならず、アナスタシアは再び肉とパンを喰らっていく。
思うに、この男は生き残りの中で今一番彼女と縁遠い。確かに2、3の語らいはしたが、
それこそ“状況が語らせた”ものに過ぎないのだ。
故に、アナスタシアは食事に没頭する。
少なくとも、目の前まで来て言葉に窮する男にかけてやる言葉など、彼女は持ち合わせていない。

実際、アキラの胸中はアナスタシアの見立てに近い。
アキラを羽虫か何かのように一瞥した後、アナスタシアはひたすら食事をしている。
まるでアキラのことを存在しないと思い込んでいそうなほど、その隔絶は明確だった。
その孤独の密度を前に、アキラの脳裏に影が過ぎる。幸運の怪物、蒼空の特異天。
あの悪夢が目の前の少女にダブったのは、気のせいだろうか。

(クソ、なんでこいつのところに来ちまったんだ)

アキラは頭を掻きながら、ここまで自分を運んだ己の足を罵る。
だが、その罵倒が筋違いであることもアキラは承知していた。
そう、承知している。アキラは己がなぜここに出向いたかを承知している。
苦手に思う理由は山ほどある。
ユーリルの心を捕えていた茨の源泉である彼女に、好意を抱ける道理はない。
が、それを圧してでもアキラは彼女に言わなければならなかった。

(だけど、どう切り出すかな)
しかしいざ面を向かえば、苦手が顔を出す。
本題の中身が中身故、直球を投げるのも心苦しかった。
かといって好かぬ奴原と世間話をできるほど、腹芸が達者でもない。
(あー、もう、めんどくせえなあ)
そのため、ちらちらと飯を食うアナスタシアを横目にみることしかできぬアキラだった。
が、ふいに、アナスタシアを――アナスタシアの額に気づいた。

「あ、消えてら」
「――――ぶぁ(は)?」

アナスタシアがパンと肉を頬張ったまま間抜けな音をあげ、口からパンくずを溢す。
『なにを?』とか『なにが?』とか言うよりも、パンくずが地面に落ちるよりも早く。

「わたしの顔に落書きした屑野郎だァァァァァァァ!!!!!!!!」

鬼面の女が迷うことなく手近な石をブン投げてきた。
「危っ!? おいテメ、いきなり石投げる奴があるか!?」
慌てて投石を回避するアキラに、アナスタシアはさらに追撃を仕掛ける。
「だまらっしゃい! 善因には善果在るべし、悪因には悪果在るべしッ!!
 清きの柔肌に墨塗るような奴は焼いて砕いて轍になるべしッ!
 因果応報天罰覿面の道ォォォォォォ理ィッ、聖女<おとめ>の理此処に在りッ!!」
質量のある残像! 全身27ヶ所の関節を同時加速! 聖拳<ディバインフィスト>が火を噴くぜ!!
「いい加減にしやがれぇぇぇぇ!!!!!」
「痛っイイ!! お…折れるう~~~~!!!!!」
その幻想は、とっさにかけられたアームロックによってぶち殺されましたとさ。
まあ、全うなケンカもしたことのない小娘が近未来で生き抜いてきたアキラに素手ゴロで勝てるわけもなし。

「ど、どうかこの瞬間に言わせてほしい……『それ以上いけない』」
「お前が始めたんだろうがああああああああ!!!!」

ろくに力も込めていないアームロックを掛けながら、アキラは呆れた気分になった。
セッツァーと同等に見た自分が恥ずかしい。こんなバカなヤツに何を遠慮する必要があるのだ。
ただ、ただ謝らなければならないことを伝えるだけなのだから。


「モノを食べる時はね、誰にも邪魔されず、自由でなんというかミナデインしなきゃあダメなのよ」
「頼む、お前、もうホント黙ってくれ……」
干し肉を噛み千切りながら鼻を鳴らすアナスタシアに、アキラはぐったりと項垂れた。
「しっかし単調な味。ヘタクソなお遊戯みたい。バターかジャムかマヨネーズくらいないのかしら……
 あによ、不満そうに。悪かったっていったでしょうよ。お礼だってしてあげたでしょ?」
「それはアレか。あのヘタクソな味噌汁作るパントマイムのことか……ってンなことはいいんだよ!」
アナスタシアの応答を断つように、アキラは首を振った。
この女は泥沼だ。もがけばもがくほど、構えば構うほど引きずり込んでくる。
戯言に関しては全部無視するくらいが丁度いいのだ。
そうでなくては、この戯言に甘えて、永久に言えなくなりそうで。

「――――すまねえ」

咀嚼が途絶える。頭を下げたアキラのつむじが、アナスタシアからはくっきりと見えた。
「私が謝ることはあっても、貴方が私に謝ることなんてないと思うんだけど」
パンの切れ端で唇の脂を拭いながら、アナスタシアは距離を測るように言った。
その眼には退廃こそあれど、享楽はない。
ちょこを、守れなかった」
絞り出されるように喉から吐き出されたのは、1人の少女の死。
その手に差し出されたのは、一枚の楽園。
夢に挑み、夢を歌い、そして夢を吸い尽くされた少女の成れの果て。

「助けられなかった。俺が、あいつを助けられなかった……!」
彼が頭を下げるべき話ではない。彼がどの程度疲弊していたかは言うまでもなく、
その中で彼は己が持てる者も、借りた力も全て使っている。
もうあれ以上に彼ができることなど、探す方が酷だ。
だが、それは彼にとって慰めにもならなかった。
あの時も、かの時も、そしてこの時も、彼だけが生き残った。生き残ってしまったのだ。
目の前の少女があの小さな子供を、どれだけ大事に思っていたかも知っている。
その上で今、目の前にあるものが全てなのだ。

アナスタシアはそっとカードを拾い、じっと見つめる。
怒っているのか、泣いているのか。濁った瞳は今一つ判別がつかない。
空いた手で手近な水筒を掴み、口の中のものをゆっくりと流し込む。
ぷは、と空いた水筒を煩雑に投げ捨て、言った。
「不思議なものね。もう少しクると思ってたんだけど」
2本の指で抓んだカードを揺らしながら、アナスタシアは嘆息した。
過程が抜け落ち、ただ結果のみ残された死は、アナスタシアに激情も落涙も齎さなかった。
あるいは、その現場を目撃すれば、せめて、放送の前にこの話をしている余裕があれば。
泣き叫び、狂い呻き、その死を受け入れなかっただろう。
時間とは残酷で、彼女の死はアナスタシアが否定も肯定もするまえに消化され<うけいれ>てしまった。

「ねえ、私の顔を見てくれない? 何も感じてないように見えて、実は涙を流してるとかそういうの、ある?」

アキラが顔をあげた先には、アナスタシアの薄気味悪い笑みしかなかった。濁った瞳には涙の跡もない。
マリアベルが喪われようとした時に見せた、あの感情も拒絶をどこに置いてきたと聞きたくなるほどに。
「ない、か。これってひょっとして、どうでもよかったってことかしらね?」
「おい」
「ちょこちゃんには悪いことしたわね。わたしって、わたしが思ってる以上に薄情だわ」
「おい」
「ああ、まだ居たの。はいはい伝えてくれてサンキューね。用が済んだらオトモダチのとこに帰んなさい」
アナスタシアは速やかに会話を打ち切るべく、シッシと排斥を促す。
だが、アキラはその手首をつかみあげ、アナスタシアを強制的に立ち上らせる。
2人の視線が交差する。1つは退廃に濁り、もう1つは怒りに輝いていた。
「痛いんだけど。あなた、私に謝りに来たんじゃないの? 態度違わなくない?」
「……そのつもりだったがな、手前の腐り顔見たらその気も失せた」
確かに、アキラがここに来たのは、アナスタシアに謝るためだ。
ちょこがどれだけ、この女のことを信頼し、好意を抱き、共にありたいと願っていたか。
それを誰よりも知っているからこそ、それを叶えてやることのできなかった自分を許せず、
こうしてアナスタシアに頭を下げに来たのだ。
だがどうだ。目の前の女は、果たしてそれに値するのだろうか。
ちょこが抱いたイノリを受け止めるに値するほど、この女は良い女と言えるだろうか。
「手前はちょこに大した想いも持ってなかったかもしれないがな、
 あいつは最後まで、最後の最後まで、お前のことを想ってたんだよ!!」
アナスタシアを掴んだアキラの手が淡く輝く。ちょこをいやした時に掴んだ、
ちょこが抱くアナスタシアのイメージを、アナスタシアに送ろうとする。
「だから、分かれよ。ちょこがどれだけお前を想っていたのか、分かってやれよ!!」
「要らないわよ。そんな手垢のついたイメージなんて」
だが、突如バチリと力が奔り、アキラの手が弾き飛ばされる。
吹き飛ばされたアキラは一瞬驚愕し、そして再び怒りを浮かべた。
何のことはない。アナスタシアにイメージを注ぎ込もうとした瞬間、
接続された回路から、アナスタシアの思想が逆流したのだ。
アナスタシアの身体全てに染み渡り、詰め込まれた「生きたい」という唯一の想いが。

「聖剣貰う時に一回させてあげたからって、私が簡単に暴ける女だと思った?
 私の想いに干渉したかったら、ファルガイアを滅ぼす覚悟で来なさい」

せせら笑うアナスタシアに、アキラは怒りと苦渋を混ぜた表情を浮かべるしかなかった。
自分も満足な状態とはいえないが、それを差し引いてもここまで想いの密度が異なるとは。
私らしく生きたい。マリアベルに恥じないように生きたい。かっこいいお姉さんとして生きたい。
枝葉末端は異なれど、どの想いにも通ずるのは「生きたい」。アナスタシアを満たすのはその一念のみ。
アキラはやっと彼女がセッツァーに似ていると思った理由が、分かった気がした。
たった1つ懐いた感情――『欲望』ただそれだけで世界を捩じ伏せる。
『夢』と『欲望』。種類は異なれど、その在り方は紛れも無きあのセッツァーと同質だ。

「手前は、それでいいってのか。生きたい、死にたくないってばかり言いやがって。
 守りたいものが無くなっちまったらそれで終わりか?
 ちょこのために、何かをしようって気にはならねえのかよ!!」
「少なくとも、今取り立てて思い浮かぶことは無いわね。貴方を砂にしても憂さも晴れるとは思えないし。
 それにね、『何がしたい』っての、今はそういうの考えたくないのよ。皆、ストレイボウに毒され過ぎよ」

まるで自分以外のものを蔑にするかのようなアナスタシアに吠えたが、
その返事として突然現れたストレイボウの名に、アキラは面食らう。
「したいことを決めたとしましょう。そのために生きようと思う。そこまではいいわ。
 その『したいこと』が強い想いであればあるほど、なるほど、その生は輝くわね。
 ……じゃあ、それが終わってしまったら? したいことをしてしまったら?」
意地悪く問いかけるアナスタシアの濁った瞳に、アキラはイスラを思い出した。
そして、その妖艶な笑みに、ユーリルの記憶の中で見たアナスタシアが重なった。
「『何かをするために生きる』ことは最後には『何かをするために死ねる』ことに至るのよ。
 だから、今は……いや、これからも本気で考えたくはないわね……
 何かをするために生きてるんじゃない。生きている私が何かをするの。私は、墓穴探して生きるわけじゃないのよ」
したいという願いは、いずれ人を死に誘う。純粋過ぎる生は、死と表裏一体なのだ。
故に誰よりも生を欲した欲界の女帝は生を濁す。輝かなければ、光は決して消えないと信じるように。

「不思議だな……ユーリルよりかは話が分かりそうなもんだが、あんたの方があいつよりクソに見える」
近くに並べられていたパンと肉を拾いあげ、アキラは怒りと共にそれを呑みこむ。
勇者と聖女。こうして2人の想いに触れたからこそ分かる。
アナスタシアとユーリルは置かれた立場は似ていても、その受け入れ方が真逆なのだ。
ユーリルは『自分は勇者だ』というところから始まり、
逆にアナスタシアは『私は英雄なんかじゃない』というところから始まっている。
そんな真逆なのに、アナスタシアがユーリルに同意を求めればどうなるかなど決まっている。
その答えがアナスタシアの思想に侵食されたあの茨の世界だったのだろう。
そう思えば、判別のつかない怒りがアキラに渦巻いてくる。
もし、あの時ユーリルに言った叫びをこの女に浴びせたところで、河童に水をかけるようなものだろう。
むしろ、好き勝手やった破綻者という点においては、アキラとして共感すべき点もある。
「死にたくねえから本気にならねえって言う奴よかは、あの雷<ヒカリ>の方がよっぽどマシだ」
だが、今のアキラには、アナスタシアの在り方は許容できないものだった。
勝手にしろと吐き捨てることが何故かできないほどに、アキラを苛立たせている。

「それでいいのよ。貴方たちは貴方たちのために『したい』ことを探しなさいな。
 私は私が生きるために、目先の首輪を外すために全力を注ぐ。それでいいでしょ」
だが、そんな苛立ちすらアナスタシアには届かない。
問答はそれで終わりだと、聖剣を背にアナスタシアがどっかりと深く座る。
アキラもまた、それで終わりにすべきだとアナスタシアに背を向ける。
あの時、ちょこを戦いから引き離しておけば――そんな慙愧すら、あの女には勿体無い。
もはやアキラには、アナスタシアを気にする理由など、何一つあるはずも――

「あんたは、寂しくねーのかよ」

首だけで振り向いて、捨て台詞を吐く。
それは、アキラの言葉ではなかった。黒の夢を最後まで憐れんでいた一人の少女の切なる願いだった。
「一人で生きて、生きて……あんた、今、幸せか?」
ひとりじゃいやだと、あの子は最後まで言っていたのだ。
お前はどうなのだ。そんな子供と『けっこん』しようとしたお前は、それで幸せなのかと。

「そんなの決まってるでしょ」

そんなぶっきらぼうな問いに、ふう、と微かなため息をついて、彼女は微笑んだ。
退廃のままに、ただ、先ほどまでよりほんの少しだけ、熱を残して。

「幸せになりたいから、私は生きてるのよ」


アナスタシアと別れて砂埃舞う荒野を歩きながら、アキラは思う。
イスラがアイツを嫌う理由がよく分かった。
アキラもアナスタシアとは、99%相容れないだろう。
分かり合えるとも思えないし、また、その気もない。
「それでも、寂しいって言えるなら、アンタはまだまともなんだろうよ」
だとしても、少なくとも、アイツはセッツァーとは違うのだ。
それだけは、アキラにとって喜ぶべきことだった。

「って、なんでンなことで安心してるんだ俺は……って、ああ、そうか」

不可思議な感情を辿り、アキラはその答えに辿り着く。
最後に見せたアナスタシアの眼が、ほんの少しだけ似ていたのだ。
水底に沈める前に眼帯を外したときに見た、あの彼女の瞳に。
機械仕掛けの英雄に遺された、唯一の人間に。


「あんたも、寂しかったのか――――なあ、アイシャ」


口にした名前と共に、アキラの脳裏にこれまでの道程が浮かび上がる。
ボロボロになって、能力を限界以上に使って、
そうやって歩いた道には、守れなかったものがあちこちに転がっていた。
一体、自分は何を成せたというのだろうか。
アキラのしたいことなど、最初から決まっている。『ヒーローになる』ことだ。
だが、『どうなっても大切なものを取りこぼさない者』が『ヒーロー』だというのならば、
果たして今の自分にそれを目指すことができるのだろうか。

「省みろ、か……」

ふいに、潮の匂いとともに僅かに冷たい北風がアキラの鼻を擽った。
北の大地をみつめながら、アキラは思う。
取りこぼしたもの、守れなかったもの、残ったもの、失くしたくないもの。
そして、それでも今ここに生きている自分。今こそ、それを見つめなければならないのかもしれない。
これからも、『ヒーロー』を目指すために。


【アキラ@LIVE A LIVE
[状態]:ダメージ:中、疲労:大、精神力消費:大
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:本当の意味でヒーローになる。そのために……
1:『その時』にむけて、したいことをしよう
[参戦時期]:最終編(心のダンジョン攻略済み、ストレイボウの顔を知っている。魔王山に挑む前、オディオとの面識無し)
[備考]:超能力の制限に気付きました。テレポートの使用も最後の手段として考えています。
カノンの名をアイシャ・ベルナデット、リンの名をリンディスだと思っています。
※松のメッセージ未受信です。


アキラの失せた荒野に、もぐもぐと咀嚼音だけが消えていく。
そこには道化めいた言葉も、作ったような表情もない。ただ無表情に滋養をかき集めている生き物がいた。
呻くような狼の鳴き声がする。紫の毛並を泳がせて彼女の横に侍ったのはルシエドだった。
セッツァーの幸運圏も収束し、実体化させられるほどにはアナスタシアも回復したらしい。
アナスタシアは何も言わず、ペットボトルの口を開いてルシエドの口元に流す。
ルシエドも何も言わず、それを舌で舐めていた。特段の意味は無い。ただの気分に近い。
「失望してる?」
主語も目的語も飛ばしたアナスタシアの問いは、今のくすんだ自分を嘲笑ったものだった。
明日を、未来を見つめない欲望は、ルシエドの好むところではない。
そう分かっていても、今のアナスタシアは――否、今のアナスタシアだからこそ、見つめたくは無かった。
「――私だってね。こんなしみったれた食事はごめんなのよ。
 もう少し、素敵なところで、おいしいランチを所望したいところ」
目を閉じて思う。例えば、美しい渓流の下で、水のせせらぎを聞きながら、
焼きたてのスコーンや卵のたっぷり入ったサンドイッチ、香ばしいアップルパイを食べたいものだ。
「でもその隣には、マリアベルも……あの子も、いないの」
それをみんなで一緒に食べられたら、どれだけ素晴らしいだろうか。何と輝く一枚の想い出になるだろうか。
だが、それはもう叶わない。彼女たちと共に歩む未来は、もう来ない。
あの子がいなくてもお腹は減るけど、あの子と一緒にご飯を食べることは、永遠にない。

「アキラに言われなくたって、分かってるのよ。
 あの子が最後まで何を想っていたかなんて。きっと最後の最後まで、私を想ってくれた。
 そんな、あの子に、応えてあげたいと思う。何かしてあげたいと思う」

地面が、僅かに湿った気がした。水気にではなく、アナスタシアの懐く想いを吸収するかのように。
「でも、ダメなのよ……そう思ったら、どんどん、弱くなってくる。
 一人ぼっちで生きるくらいなら、って、思い始めてる……!!」
幸せになりたかった。今もなりたい。その欲望は今も高まり続けている。
ちょこを想えば想うほど、明日が色褪せていく。この先の人生に、共に寄り添ってくれると約束した少女はもういない。
強く明日を想えば想うほど、描かれる未来に欠けるものがくっきりと映ってしまう。
「マリアベルも、あの子も、そんなの望まない。だから私は生きたいって願うの」
ストレイボウのいう『したいこと』。
もしも、それを見つけてしまったら、私はきっとそれを叶えるだろう。
この欲望をその一点に集中させて、あらゆる障害を――オディオさえも――打ち砕いて叶えるだろう。
「したいことなんて、無いわ。理由をつけなきゃ生きられない人生なんて、それだけで不純よ。
 私は生きる。理由が無くても、未来に誰も待っていなくても、今に寄り添う人がいなくても」
そう想わないように、強く願う。
生きたい。生きたい。ただそれだけの想いを燃やし尽くす。
他は何も見ない。未来を想わない。したいことなんてない。死にたいなんて想わない。
例え、この青空の下に、あの小さな小さな光がもうないとしても、私は生きていく。
寄り添うと誓った良人として、ただ一人、バージンロードを歩いていく。

「きっと、それだけが、あの子に捧げられる返事なのよ」

ルシエドの毛並に己が身体を預け、アナスタシアは空を見上げた。
アナスタシアの感情に同調するように、空の感情にアナスタシアが同調するように、
澄んだ青空のはずの空が、くすんで見える。
きっとこの空が青空を取り戻すことはないだろう。
あの子のいない空はまるで夜のように暗くて、私はこれからそんな空の下を歩いていく。

少し、しんどい。


アナスタシア・ルン・ヴァレリアWILD ARMS 2nd IGNITION
[状態]:首輪解除作業中 ダメージ:中 胸部に裂傷 重度失血(補給中) 左肩に銃創 精神疲労:中
[スキル]:せいけんルシエド 
[装備]:アガートラーム@WA2
[道具]:ラストリゾート@FF6
[思考]
基本:生きたいの。生きたいんだってば。どうなっても、あの子が、もういなくても。
1:『その時』にむけて、したいことをしよう
[参戦時期]:ED後

<リザーブ支給品(全てC-7とD-7の境界(C-7側)に集められている)>

【ドラゴンクエスト4】
 天空の剣(二段開放)@武器:剣 ※物理攻撃時クリティカル率50%アップ
 魔界の剣@武器:剣
 毒蛾のナイフ@武器:ナイフ
 デーモンスピア@武器:槍
 天罰の杖@武器:杖

アークザラッドⅡ
 ドーリーショット@武器:ショットガン
 デスイリュージョン@武器:カード
 バイオレットレーサー@アクセサリ

【WILD ARMS 2nd IGNITION】
 感応石×4@貴重品
 愛の奇蹟@アクセサリ:ミーディアム
 クレストグラフ@アクセサリ ※ヴォルテック、クイック、ゼーバー、ハイ・ヴォルテック、ハイパーウェポン
 データタブレット×2@貴重品

【ファイアーエムブレム 烈火の剣】
 フォルブレイズ@武器:魔導書

【クロノトリガー】
 “勇者”と“英雄”バッジ@アクセサリ:クリティカル率50%アップ・消費MP半減
 パワーマフラー@アクセサリ
 激怒の腕輪@アクセサリ
 ゲートホルダー@貴重品

【LIVE A LIVE】
 ブライオン@武器:剣
 44マグナム@武器:銃 ※残弾なし

【サモンナイト3】
 召喚石『天使ロティエル』@アクセサリ

【ファイナルファンタジーⅥ】
 ミラクルシューズ@アクセサリ
 いかりのリング@アクセサリ

【幻想水滸伝Ⅱ】
 点名牙双@武器:トンファー

【その他支給品・現地調達品
 召喚石『勇気の紋章<ジャスティーン>』@アクセサリ
 海水浴セット@貴重品
 拡声器@貴重品
 日記のようなもの@貴重品
 マリアベルの手記@貴重品
 バヨネット@武器:銃剣
 ※バヨネットはパラソル+ディフェンダーには魔導アーマーのパーツが流用されており魔導ビームを撃てます
 双眼鏡@貴重品
 不明支給品@魔王が初期に所持していたもの
 デイバック(基本支給品)×18*食品が現在アナスタシアが消費中


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151:世界最寂の開戦 アナスタシア 156:罪なる其の手に口づけを
アキラ 159-1:みんないっしょに大魔王決戦-魔王への序曲-


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最終更新:2014年01月12日 15:34