世界最寂の開戦 ◆wqJoVoH16Y
波打たぬ響きが止み、静寂が訪れる。
都合六度ともなる放送だが、その威は何ら衰えることはない。
むしろ告げられ名が一つ増えるたび、音に乗るその感情は火にかけた鍋が煮詰まるように純粋に、強大になっていく。
【にくい】
水気のない砂や枯れた草は微風に巻き上がり、不規則に散乱した石や岩の破片は天頂に昇った太陽に煌々と灼かれている。
置換も代替も出来ぬ奔流の通り過ぎた先には、やはり死せる沈黙が広がっていた。
「……つー訳だ。あいつらは、死んだよ。俺が起きた時には、もう」
その沈黙を揺らすように、アキラがぼそりと呟く。
崩れた石礫の中に交じる、明らかに人工物めいた調度の石細工の破片。
その一つに背を預けて座り、アキラは大きく息をついた。
再び、沈黙が大気に淀んでいく。立ち尽くす者も、アキラと似たような岩に背を預けている者も、
震えと共に五指を握りしめるか、顎に汗を伝らせながら喉を鳴らすか、
それに準ずる動作をするばかりで、言葉を発する者はいない。
天頂の陽光は白く、熱い。
「……で、そろそろ教えてくれねえか。なんでそいつらここにいる」
嘆息の後、沈黙を破ったアキラの声が、ここにいる5人のうち、3人の身体を残る2人――
ピサロと
カエルに向けさせる。
2人はアキラへと身体を向けたまま不動をつらぬく。
「黙ってねえで、なんとか言えよ。何があったかは知らねえがこっちは――う”、ぬぃ……」
起き上がろうとしたアキラの体が、尻が地面から浮くか浮かないかというあたりで再び沈む。
腿の銃創や後頭部の瘡蓋など、あちらこちらの傷が陽光に劣らない熱を放っていた。
「ヒールタッチじゃ、限界かよ……」
「お、おい! 大丈夫か――」
ストレイボウがアキラに駆け寄ろうとするのを阻むように、カエルが一歩前に出る。
それとほぼ同時に、ピサロもまたアキラへと近づいた。
イスラとアナスタシアは座ったまま、微動だにしない。
「ケアルガ」「ベホマ」
ストレイボウが合間に入ろうとするよりも速く、2人がアキラの傷に掌を重ねると、二つの魔力光がアキラを包む。
柔い光、最上級の回復魔法の中で、アキラの傷から熱が霧散していき、そして傷そのものも幾分かに減じていく。
「お前ら……いや……そういうことかよ……糞……」
敵意をひとまず散らしたアキラがそう吐き捨てると光は収まり、死闘に傷んだアキラも半ば回復した。
それに代わりピサロとカエルの上体が崩れ、地面に手を付く。
「おい、無理をするなカエル! あれだけの召喚をした後にそんな――」
「構うな。自分にかけても意味もないのだ。ならばこれでいい」
肩をストレイボウに支えられて喘鳴するカエルの表情は覆面に隠れて判然としない。
「……便利だね。回復手段がある奴は、ご機嫌取りが楽で」
鼻を鳴らす先には、地面に腰掛けるイスラ。薄い悪意の籠る冗談を飛ばしながら、イスラは横目にアナスタシアを見た。
地面に突き立てたアガートラームを背もたれにして書をめくる聖女は、何の反応も見せない。
「……とりあえず、アンタらが認めたんだ。お前らがここにいることにとやかくは言わねえ。で、こっからどうする?」
アキラの問いに再び沈黙が流れる。だが先ほどまでと異なり、沈黙が破られるのに時間はかからなかった。
「5時間後には禁止エリアで埋まっちまう。なんとかしねえと全滅だ」
「全滅ではあるまい。名が呼ばれていなかった以上、あの小僧、恐らく首輪を外しているぞ」
ピサロの指摘に、膝を抱えたイスラの爪が肉に食い込んだ。
「ジョウイ=ブライト。紅の暴君を奪い……否、変生させて逃げた男、か」
「ってことはなにか? ジョウイが生きてるの分かっててオディオは俺たちを殺しに来たってことか?
手でも組んだってのか? いくらなんでも、ぞっとしねえぞ」
「――違う。アイツは言った。愛も勇気も欲望も希望も――そして、理想も、と。
誰も彼もを憎むアイツは、誰とも組まない。裏切られることの意味を、知ってるから」
そう言ってストレイボウは太陽を仰ぎ見た。陽の光に灼かれたまま、空を睨み付ける。
「……ジョウイとオディオは繋がっていない、としてだ。じゃあジョウイとオディオは敵対してるのか?」
「どうだろうな。だが、仮に奴がオディオの敵だとしても、
お前たちの味方だとするなら、あのような大立ち回りをする理由もないだろうが」
地面の石と砂を掴んで弄びながら問うが、南の森に向いたピサロはにべもなく吐き捨てる。
「その思惑がなんにせよ、小僧をこのまま放置する訳にもいくまい。
奴が、遺跡を――否、“その下に眠る力”を掌握しようものならば、な」
「……ジョウイ……ジョウイ=ブライト……ッ!」
「それに、オディオも放っておけねえ。俺たちを潰しにかかってるんなら、もう受け身に回ってる時間はねえよ」
頭巾の緩みを絞りながら応ずるカエルの言に、イスラの拳が血を流すほど固く引き絞られる。
「あの小僧、そしてオディオの打倒。まあ、方針はそれしかあるまいな。
とはいえ、小僧のいるであろう遺跡に行くにせよ、オディオの居場所を探すにせよ、
禁止エリアから出ねば話になるまい。となれば、首輪を外さねばならんが」
「…………」
「外せるだろう人はね……マリアベルは、死んだんだ。今更、誰のせいだなんて、言う気もないけどね」
「――ああ……俺が、殺した。言い訳の余地など微塵もない……ッ!」
「うだうだ今更言っても仕方ねえだろ。何とか外して、俺たちはあいつ等をぶちのめすしかねえんだ」
ピサロが纏め、アナスタシアが沈黙し、イスラが指摘し、カエルが認め、アキラが確かにする。
五者はそれぞれが別の方向を向いて動きを止める。
風が大地の砂を撫でて、再び静寂が訪れる。高き場所の雲だけが微速で動いていた。
乾いた凪の荒野には、無だけが広がっている。
「違う。それじゃ、きっとダメだ」
その荒野に、湿り気が混じった。
くたびれ、擦り切れたローブの裾で砂を切りながら、ストレイボウは一歩踏み出す。
「……どういう意味だ、魔術師。首輪を外す妙手でもあるということか?」
「それとも、ジョウイやオディオと戦いたくないってこと?」
ピサロが、イスラが、ストレイボウの言葉に疑問を返す。
「あ、いや……そういう意味じゃ、ないんだ……その、なんていうか……」
だが、とたんに音は縮れて掠れ、喘鳴のように醜くなっていく。
前に突きだした手は虚空を泳ぎ、汗ばんだ指を踊らせる。
「おい、いったい……」
立ち上がろうとしたアキラをカエルの腕が制する。
しばし浮かせた腰を、アキラは再び落とした。
「落ち着け。伝えようと思うのならば、伝わる」
カエルの言葉の後、数分。
喘鳴は少しずつ収まり、最後の深呼吸と共に消えた後、ストレイボウは再び言葉を紡いだ。
「ピサロにはまだだったし、カエルも直接は言っていなかったな。
丁度いいから、もう一度聞いてくれ。あの時の、ルクレチアの話だ」
今一度語られるのは、ルクレチアの英雄伝説。
オルステッドとストレイボウの、永遠に忘れられないであろう物語。
数人にとってはもう既に聞き終えた話であったが、合いの手を挟むものは誰もいなかった。
「……」「そうか……貴様が、な」
カエルは無言で、ピサロは腕を組み一言だけ漏らす。
だが、それ以上の動作は今のところなかった。
「で、もう一度聞かされて、だからどうだっていうのさ」
「あの時、魔王山で隠された抜け道を見つけたとき、俺の中で全部が爆発した。
今ならオルステッドを出し抜ける。このチャンスを逃せば、俺は一生オルステッドの引き立て役だ。
誰も気づいていない今なら。これは俺に与えられた正当な権利なんだと。
アリシアを隣に侍らせ、オルステッドの上に立つ唯一無二の機会だと」
ストレイボウは震える両手で顔を覆い、眼窩に指を食い込ませる。
だが、言葉だけは止めなかった。
「後は、前に言ったとおりだ。悦楽が更なる喜悦を呼び“行くところまで行き着いた”。
その先に何があるのかなんて考えもせず、俺は俺の感情を止めることができなかった」
そこでストレイボウは言葉を区切り、もう一度深呼吸する。
肺を限界まで膨らませ、すべてを排する。
「――――だから、もうあんなのは嫌だ。
今しかないとか、こうしなきゃいけないとか、自分に縛られて、何もかもを見失うのは、嫌なんだ」
その有らん限りの、『後悔』と『決意』を。
「俺はあの時まで、オルステッドに対するの感情を認めることができなかった。
そんなときに、チャンスを与えられたら、もう止まれなかった。
それしか見えなくなった。それしか考えられなくなった」
両の手をゆっくりと顔から離しながらストレイボウは“省みる”。
己の行いを、己が悪いと断じ、そこで止めてしまった思考を再起動する。
「今もし、首輪を外すことができる手段が落ちてきて、
オディオのいる場所への階段でもいきなり現れたら、俺たちはきっとそこに飛びつく。
きっと信じられない位の勢いで突き進むだろう。あの時の俺のように、終わりまで一直線だ」
目的に対し、降って沸く解法。たどり着くべき結末へと遡るだけの作業。
今しかないと、これが天命なのだと思いこみ、走り抜ける。否、流される。
それがストレイボウの、罪人の歩んだ道の全てだ。
「だったら結局どうしろって言うんだよ!」
そこまで誰もがストレイボウの言葉を聞くばかりだった中で、ついに叫びが生ずる。
髪を掻き揚げながら立ち上がったイスラが、堰を切ったように喚く。
「首輪を外すな、ジョウイを倒すな、オディオを倒すなってことか?
あんたの言ってることは全部観念ばっかで、何一つ具体的じゃない!!
人生の反省会をしたいなら一人でやってろよ!!」
己の中で沸き立つ怒りに似た感情のまま、イスラはストレイボウに噛みつく。
だが、その瞳には戦いの後に絶えて久しい輝きが僅かに見えていた。
「ああ、もちろん、そういう意味じゃない。
具体的な案ももちろん、無い。俺が言いたいのは最初から一つだけだ」
その視線を受けとめてから、ストレイボウは口内で言葉を選びながら返す。
ストレイボウが歩んだ道と彼らのこれから進む道は全く違う。
ただ、一つだけストレイボウが言えるとすれば。
道が違えど、歩き方が変わらないのであれば、
結末ががオルステッドの救いであれ、オルステッドの死であれ、
彼らの死であれ、彼らの生であれ――そこにある結果を受け入れるしかないということだ。
「イスラ、アナスタシア、アキラ、ピサロ、カエル。
俺は、おまえ達に、俺のようになって欲しくない。“したいようにあってほしい”。それだけなんだ」
全員を見渡しながら、ストレイボウは願う。
機会を得て、感情に従って突き進んだだけでは、掴めないものがある。
場の状況に、己の感情に流され続け、あの結末を後悔し続けてきたストレイボウだからこそ言い切れる祈り。
それは、その場の誰もの心臓を穿った。
「首輪の解除法も、ジョウイ=ブライトの目的も、オディオの真意も分からない。
この状況下で“足を止めろ”というのか、お前は」
カエルが呆れたような調子でストレイボウを揶揄する。
だが、覆面に覆われたその表情は、心なし笑っているように見えた。
そして背を向け十数歩ほど歩き、手頃な岩影に寝転がる。
「……何やってんだよ」
「正直、立っているのも億劫だったのでな。休めるうちに休むのは兵の常道だ」
イスラの問いに、何を当たり前という調子でカエルは応じた。
完全に弛緩したその体躯からは、戦闘への意識は微塵もない。
「おい、ンな悠長なことでいいのかよ……5時間後には禁止エリアで埋まっちまうってのに」
「逆を返せば、5時間はあるということだ。本気で潰そうと思えば、3時間あれば潰せるところを、な」
奇異と首を傾げるアキラの横を通り、ピサロは彼らから少し離れたところで、膝ほどの高さの石に腰掛ける。
カエルほどではないが、やはりその緊張は緩和されている。
ストレイボウを信頼したというよりは、
こいつらの行く末を案じて自分一人気を張るのも馬鹿らしいという調子だった。
「……アホくせ。おいイスラ、どうする?」
「どうするも、こうするも……ジョウイがいつ襲ってくるか分からないってのに、なんでこうも悠長にしてるんだか」
一番外様で肩身の狭いはずの2人が率先して休憩に入るこの状況に、
アキラもイスラも苦い顔をするしかなかった。
だが、途端に肩に重たいものを感じる。
緊張の糸が切れた途端、栓が外れたかのように、体中から泥のような疲労が表出する。
思えば、あの夜雨から半日近く戦いっぱなしだったのだ。
大なり小なりの休憩があったとは言え、マーダーへの対処や拘束したユーリル・アナスタシアへの警戒、
今後の対策などするべきことは山ほどあり、何のしがらみもない休憩など、最後はいつだったかも思い出せないほどだった。
だが、ここで意識を途切れさせては不味い。ここをジョウイに突かれたならば、為す術なく敗北するだろう。
それに対して答えたのは、ストレイボウだった。
「……なんとなくだがな、しばらくは来ない気がするんだ。今、来なかったから」
「どういう意味だ?」
「奇襲するなら、このタイミングを逃がす訳がないということだ。俺たちがそうであったように」
アキラの疑問に、ストレイボウの代わりに答えたのはカエルだった。
紅蓮やセッツァー、ピサロ、ゴーストロードとの死闘を重ね自分達は疲労している。
対して、ジョウイはその死闘から巧く自分を逃がしている。
ならば疲労に塗れた彼らがオディオの放送を仰ぎ聞く瞬間こそ、ジョウイにとって絶好の奇襲点であったはずだ。
あの機を逃さず魔剣とオディオを奪ったジョウイが、そのタイミングを見誤るはずもない。
だからこそ、ピサロもカエルもそれを警戒していたのだ。
だが、ジョウイは来なかった。
それはカエル・魔王が既に奇襲を仕掛けて警戒されたと判断したからか、奇襲するだけの余力がないからかは分からない。
「カードを切り損ねる奴ではない、ということだ。セッツァーの言葉でいうならば、な」
はっきりと分かるのは、ジョウイは奇襲というカードを捨てたということ。
今、切らなかったからだ。
「……ま、いいや。どうせ、今の俺たちからあいつを捜すのは無理なんだしな」
その言葉に納得したのか、アキラも腰を落ち着ける。
一人、また一人と弛緩していく中で、イスラの眉間の皺が限界まで潰れた。
「どいつもこいつも、何でそんな暢気なんだよ……これじゃ僕が――」
「――――まったくもって、馬鹿馬鹿しいわね」
誰一人として理解者もいないと絶望しかかったイスラに、こともあろうか聖女の手がさしのべられた。
イスラは疑うような視線でアナスタシアを見つめる。
これまで一言も喋らず、黙して本を読んでいたはずのアナスタシアの言葉に、
身体を休めた3人も、ストレイボウも、注目を集める。
「お題目は立派だけど、現実問題として首輪を解除しなきゃどうしようもな無いわよね?」
書から視線を外すことなく、独り言のように吐き捨てられる言葉は、これまでのやりとりを台無しにするものだった。
「時間をかけて、心の整理をつけて、いろいろな納得したけど手がかりはありませんので死にましたとか……何それ」
そういってアナスタシアは、スケベ本の中の袋とじが期待はずれだったような顔を浮かべる。
「私は厭よ、そんなの。死<納得>なんて、絶対にしない。
私は生きる。生きて生きて、したいことをするのよ。どんな死だろうと私は受け入れない。
激流の中で藁が一本でもあったら迷わずつかむ。
誰が置いたかなんて考えない。死んだらそれすら出来ないんだから」
アナスタシアの言葉に、誰もが厭そうな顔を浮かべた。
それは彼らに水を差したからだけではなく、彼女の言葉もまた一つの真実であったからだ。
ストレイボウの後悔も、アナスタシアの後悔も、どちらも真実であり、故に譲る余地がない。
アナスタシアが本からストレイボウへ視線を移す。互いの視線に火花が見えた。
「貴方たちに、この状況を何とかする気が無いのはよく分かったわ。なら勝手にしなさい。私も勝手にするから」
互いに譲れない価値観。ならば、その結果は至極当然で、アナスタシアはため息を一つついて、その本を閉じた。
「―――――――勝手に、首輪を外させて貰うから」
だが、そこで放たれた言葉は、全く以て彼らの想像を超えていた。
「「「ちょっと待てぇッッ!!」」」
「「…………は?」」
アナスタシア以外の誰もが頓狂な声を上げる。
アナスタシアと共にあった3人は当然、声を上げ、
彼女をよく知らない2人も、彼らの会話から首輪解除の手段が根絶しているものだと思っていたからこそ、そう漏らすしかなかった。
「~~~うるさいわね。何よいきなり大声だして」
「お、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお前」
「く、くく、くくくくくくくくくくくくくくくくくくく
くくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくくく
くくくくくくくくくくくくくくくくくくくくく首輪を」
「はは、ははははははははははははははははははははは
はははははははははははははははははははははははは
はははははははははははははははは外せるのかッ!?」
ストレイボウたち3人はアナスタシアに詰め寄り、
古代文明を目の当たりにしカルチャーショックを受けた現代人のように舌をもつれさせながらかろうじてそう問いかけた。
彼らにしてみればアナスタシアは、ことあるごとにネガティブな発言をして何もせず引きこもっているか、
脳に重篤な危機を持った発言をして聖剣片手に阿修羅のように暴れるだけのボンクラでしかなかったのだ。
それが今になって首輪の解除出来ますと言っても、にわかには信じがたい。
「いきなり何よ眼を血走らせて……はっ! ま、真逆私に乱暴する心算じゃないでしょうね、
スケベ本みたいに、スケベ本みたいにッ!!」
「そういうことを言うから信用できないんだよお前はッ!!」
自分の身体を庇うように抱きしめるアナスタシアに、イスラは心の底から怒り叫んだ。
一笑に付そうにも、無視するには余りに大きすぎる事実だった。
「で、出来るのかアナスタシア。本当に?」
「…………実は私、聖女やる前は首輪屋さんで働いてたの。首輪解除の免許あるのよ」
「首輪屋ってなンだよッ!! ンなピンポイントな免許ねーよ!!」
「というか、確か下級貴族と聞いたぞマリアベルから!」
「え、首輪解除って貴族の嗜みじゃないの?
私、+ドライバーと-ドライバーより重たいもの持ったことがございませんの」
「どんな貴族だよ! そんな技術大国があったら逆に見てみたいよ!」
不毛すぎるやりとりがしばし続く。アナスタシアは出来ると一点張りだが、
そう信頼するだけの材料が無いため、妄言の応酬にならざるを得なかったのだ。
「とにかく外せるんですー! トカゲ如きに外せるものが私に外せないわけないんですー!!」
「ぐ、確かにアシュレーはトカゲが外したって言ってたしな……!」
口を尖らせて拗ねるアナスタシアに、アキラがついに折れる。
アシュレーが真面目にそう言い、マリアベルもそれを納得していた。
アイシャも凄まじい技術で作られていたことを考えれば、
ファルガイアはトカゲでも技術に優れた、生命体レベルで技術溢れる科学世界なのかもしれない。
「か、仮にそうだとして、じゃあ何で今まで言わなかったんだ!?
聞かれてなかったからとかは無しでだ!!」
「親御さんに教えて貰わなかったかしらァ!? 最後の最後まで切り札は取っておくものよ、坊や」
呼吸を落ち着けながら問うイスラに、アナスタシアは嘲るように応ずる。
「今! この場でッ!! 首輪に対し処方できるのはッ!!
天上天下に我、アナスタシア=ルン=ヴァレリア唯独りッ!!
その事実を理解する脳味噌があるのならば、頭を垂れて尊ぶがよろしくってよッ!!」
立ち上がり、手頃な岩に登って見下ろすようにアナスタシアは5人を睥睨する。
頭を垂れるかどうかはさておき、その意味を理解できないものはいない。
今、彼ら6人の生殺与奪を決めるのは、アナスタシアの細腕一本なのだということを。
「……やっぱり僕は、お前が大嫌いだアナスタシア……!」
「最高の評価をありがとう。美少年が悔しそうに見上げるだけでご飯が食べたくなるわね」
ふわりと岩から飛び降り、アナスタシアはイスラの横を通り過ぎた。
そのまま、手頃に置かれたデイバックをつかみ、東に歩く。
「という訳で、私は大変お腹が空いております。手持ちのデイバック全部よこしなさい。
散逸したものもすべて。道具も武器も、身ぐるみ総て余すことなく。
血が足りない。私は渇えたり、私は餓えたり。
私を満たしてくれるならば、褒美に貴方たちの首輪も外してあげましょう」
誰もに、誰もに伝わるように、汚れた聖女は神託を告げる。
「ま、ただの実験台って意味だけどね。
間違えないで。今貴方たちに必要なのは、私の貴方たちに対する好感度よ。
そうね……ご飯食べてお腹休めて……3時間ってところかしら。バッドエンドに行かないよう、せいぜい励みなさい」
哄笑しながら、アナスタシアは彼らの元を離れようとする。
そして最後にストレイボウの横を通り過ぎようとした。
「どういうつもりだ、アナスタシ……ッ!」
問いただそうと肩を掴もうとしたストレイボウの手が止まる。
肩に触れようとした指の腹が、その痩身が震えきっているのを感じたのだ。
「――――肩を治して、血を足して、勘と指の駆動を取り戻して、空いた首輪で練習して……
時間はいくらあっても足りないけど、何とか、3時間でもっていく」
ストレイボウにしか聞こえない音量で、アナスタシアが喋る。
喉から震えているのが、音にまで反映されていた。
「ほんと、貴方があんなこと言わなきゃ、こんなことするつもりなかったのに。まあ、休みながら私も考えてみるわ」
目線を会わせることなく、疎ましそうに聖女は魔術師に文句を垂れる。
そして、ストレイボウが何かを言うよりも早く、アナスタシアはその書物をストレイボウに渡した。
「やってやる。やってやるわよ。ブランクなんか知ったことか。
信じてくれたんだもの、ここでやらなきゃ、私が廃る」
誓いを刻みつけるように呟きながら、アナスタシアはその場を離れた。
誰もが思い思いに散る中で、ストレイボウはふいに空を見上げた。
(悪いな、オルステッド。もう少しだけ待っていてくれないか)
放送を聞いて、確信したことが一つ。オディオは待っている。今か今かと、自分の元へ来いと待ち焦がれている。
手を伸ばせば届きそうな空を見て、終着点が近いと確信する。
「お前のことだ。俺たちがもしも逃げても、見逃してくれるんだろう」
逃げたのならば、彼の友はその背中を永遠に笑い続けるだろう。
ここまで来て逃げ出した愚者よ、癒えぬ傷を抱えて惨めに這い蹲っていろと。
「俺たちがお前と戦っても、勝っても負けても、まあそれなりに慰めにはなるだろうさ」
屍の上にオルステッドが立つか、彼らが立つか。違いはその程度だ。
どう転んでも、オルステッドの――オディオの掌からは逃れられないのだろう。
「今度はちゃんと考えてから決める。
俺たちのしたいことを、俺の意志で、彼らの願いで、本気で考えてから」
ならば、せめて今度こそは、納得のいく答えを出そう。
あんな不意打ちの再会ではなく、全てを約束した上で。
「お互い気の遠くなるほど待ったんだ。後少し、待っていてくれよ、オルステッド」
天に掲げた手を握る。掴んだ空は、どこまでも蒼く突き抜けていた。
【C-7とD-7の境界(C-7側) 二日目 日中】
【カエル@
クロノ・トリガー】
[状態]:瀕死:最大HP90%消失 精神ダメージ:中 覆面 右手欠損 左腕に『覚悟の証』の刺傷
疲労:大 胸に小穴 勇気:真
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:俺がしたいこと、か……
1:『その時』にむけて、したいことをしよう
[参戦時期]:
クロノ復活直後(グランドリオン未解放)
【イスラ=レヴィノス@サモンナイト3】
[状態]:ダメージ:大、疲労:大
[スキル]:心眼 勇猛果敢 フォース・プリズナー№666(Lv1~4)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:僕が、今更……したいことだって……?
1:『その時』にむけて、したいことをしよう
[参戦時期]:16話死亡直後(病魔の呪いから解かれている)
【ストレイボウ@
LIVE A LIVE】
[状態]:ダメージ:中、疲労:大、心労:大 勇気:大
[スキル]
ルッカの知識(ファイア、ファイガ、フレア、プロテクト)*完全復元は至難
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:決めよう。今度こそ、本当の意志で――
1:『その時』にむけて、したいことをしよう
[参戦時期]:最終編
※アキラ以外の最終編参加キャラも顔は知っています(名前は知りません)
【アキラ@LIVE A LIVE】
[状態]:ダメージ:中、疲労:極、精神力消費:極
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:俺がしたいこと? そんなもん――
1:『その時』にむけて、したいことをしよう
[参戦時期]:最終編(心のダンジョン攻略済み、ストレイボウの顔を知っている。魔王山に挑む前、オディオとの面識無し)
[備考]:超能力の制限に気付きました。テレポートの使用も最後の手段として考えています。
※
カノンの名をアイシャ・ベルナデット、リンの名をリンディスだと思っています。
※松のメッセージ未受信です。
【ピサロ@ドラゴンクエストIV】
[状態]:クラス『ピュアピサロ』 ダメージ:大 ニノへの感謝
ロザリーへの純愛 精神疲労:大
[スキル]:魔封剣、デュアルショット、アルテマバスター*いずれも要バヨネット装備 ミーディアム:ラフティーナ
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:問うまでもないと思ったが……さて……
1:『その時』にむけて、したいことをしよう
[参戦時期]:5章最終決戦直後
<リザーブ支給品(全てC-7とD-7の境界(C-7側)に集められている)>
【ドラゴンクエスト4】
- 天空の剣(二段開放)@武器:剣 ※物理攻撃時クリティカル率50%アップ
- 魔界の剣@武器:剣
- 毒蛾のナイフ@武器:ナイフ
- デーモンスピア@武器:槍
- 天罰の杖@武器:杖
- ドーリーショット@武器:ショットガン
- デスイリュージョン@武器:カード
- バイオレットレーサー@アクセサリ
【WILD ARMS 2nd IGNITION】
- アガートラーム@武器:剣
- 感応石×4@貴重品
- 愛の奇蹟@アクセサリ:ミーディアム
- クレストグラフ@アクセサリ ※ヴォルテック、クイック、ゼーバー、ハイ・ヴォルテック、ハイパーウェポン
- データタブレット×2@貴重品
【ファイアーエムブレム 烈火の剣】
【クロノトリガー】
- “勇者”と“英雄”バッジ@アクセサリ:クリティカル率50%アップ・消費MP半減
- パワーマフラー@アクセサリ
- 激怒の腕輪@アクセサリ
- ゲートホルダー@貴重品
【LIVE A LIVE】
- ブライオン@武器:剣
- 44マグナム@武器:銃 ※残弾なし
【サモンナイト3】
【ファイナルファンタジーⅥ】
- ミラクルシューズ@アクセサリ
- いかりのリング@アクセサリ
- ラストリゾート@武器:カード
【幻想水滸伝Ⅱ】
- 召喚石『勇気の紋章<ジャスティーン>』@アクセサリ
- 海水浴セット@貴重品
- 拡声器@貴重品
- 日記のようなもの@貴重品
- マリアベルの手記@貴重品
- バヨネット@武器:銃剣
※バヨネットはパラソル+ディフェンダーには魔導アーマーのパーツが流用されており魔導ビームを撃てます
- 双眼鏡@貴重品
- 不明支給品@魔王が初期に所持していたもの
- デイバック(基本支給品)×18
アララトス遺跡地下71階。
花舞い散る異界の楽園に、杯で顔を覆って寝そべる女が一人。
女――メイメイは、ゆっくりと杯を顔からどける。
「人の想いか……分かってた、つもりだったんだけどねぇ……」
少しばかり人の世界を渡って、人を理解したつもりではあったが、まだ未熟であったということか。
自嘲しながら、メイメイは胸元から眼鏡を取り出し、尖耳に掛ける。
そして、杯に再び酒を注ぎながら、仮の主の放送を心の中で反芻する。
回を重ねるごとに、感応石など無意味なほどに、言葉に感情が乗っていく。
今か、今かと、待ち人に焦がれる恋人のように。
果たして待っているのは、希望か、欲望か、勇気か、愛か、それとも――
「理想なのかしら。ねえ、魔王サマ?」
くい、と酒をあおりながら、楽園に住まうもう一人の魔王に問いかける。
だが、酒を飲み干せどもその返答はなかった。
「ちょっとちょっと、無視はひどいんじゃなぁい?」
怪訝に思いながら、メイメイは彼へと目を向ける。
虹色に輝く巨大感応石、その前に座り込むジョウイ=ブライトへと。
感応石の光にその周囲は淡く白んでいるが、血染めの冥界に染まった赤黒い外套だけは、その色を固持している。
地面を覆う魔王の外套は、まるで楽園を冥界に変えてしまうかのように、周囲に溶け込んでいた。
「――――あ、ああ……すいません……聞き取れなかったもので……
……もう少し、大きな声で、言ってもらえると助かります……」
今気づいたとばかりに、少しだけ首を持ち上げ、メイメイに背を向けたままジョウイは彼女に応ずる。
「……オル様ぁー、とりあえず貴方のことぉー認めてくれたみたいだけどぉー、よかったわねぇー」
「そうですね……とりあえず、貴種守護獣程度には、挑戦権を貰えたようで」
大声で言うメイメイに、ジョウイは返答する。
どことなく上の空の調子で、本当に喜んでいるようには思えない。
「なんか白々しいわねえ」
「そんなことはないですよ。いずれ、返礼には伺いますよ……“あの天空の玉座に”」
酒を注ぐメイメイの手が止まり、危うく杯から酒を溢してしまいそうになる。
杯を手首で操り、滴をうまく拾い上げたメイメイは、されど呑むことなく黒い背中を見据える。
「私、言ったっけ?」
「いいえ。ですが……やっと“識れました”。
放送のときなら、必ず“そこ”から感応石に意志を送ってくるはずでしたから」
空中城の小型感応石からここの巨大感応石を経由して、島全域に放送を行う。
その構造を逆手に取り、ジョウイは、核識を継いだ魔王はついに玉座を視界に捉えたのだ。
「もっとも、オディオもそこは分かっているでしょう。
僕が今更それを知ったところで、何がどうなるというわけでもないですから」
だが、ジョウイにとってそれはあまり重要な情報ではないらしい。
彼はやはり、あくまでも正門から入城するつもりなのだ。たった1人しか入れない門から。
「……ねえ、一つ聞いていいかしら?」
口を湿らせ、言葉を待つことしばし。沈黙を許可ととったか、メイメイは尋ねた。
「なんで、奇襲を避けたの? やろうと思ったら、行けたんじゃないの?」
「二番煎じで勝てるとも思えなかったので。時間が無いからこそ、万全を整えますよ」
「どのくらいかかりそう?」
「そうですね…………」
メイメイの問いに、ジョウイがしばし沈黙する。
魔王の外套が大地に更に溶け込み、どくりと、遺跡全体が僅かに震えた。
「“じゃあ”あと3時間で」
こともなげに、ジョウイはそう答えた。
くいと酒を呑むメイメイの眼鏡は、逆光で白んでいる。
「前から気になってたんだけど……結局貴方、彼らをどうしたいの?」
しん、と静まり返る。言葉が途切れたというだけではない。
花の靡きも、樹のしなりも、水の流れさえも、この箱庭の全てが、静寂に染まった。
「――――逃げて欲しい。
もしも、もしもこの墓場から逃げおおせてくれれば……まだ、諦めもつくから。
優勝することを諦めて、直接オディオと一戦交えることも、考えられたから」
血染めの背中はただそう答えた。鷹揚一つつけず、事実を諳んじるように、無感動に。
メイメイはしばし、その答えの意味を噛み締めながら、杯の水面を見る。
散り落ちた花弁の一枚が、そっと水面に降り立つ。
どくり。
その瞬間、水面が波立った。花弁によってではない。
杯が、持つ手が、メイメイの身体が、座る大地が、この部屋が――――遺跡が、震えた。
カタカタと、ガタガタと、グラグラと、哄笑するように、叫喚するように、痙攣した。
星の下に眠る死喰いが、ではない。この遺跡そのものが震えた。
誰かの心情を代弁するかのように、冥界の奥底から、卑しく響き渡る。
「……僕は……」
頭を上げて、伐剣の王は偽りの空の向こうに手を伸ばす。
「……誰かが死んで嬉しいと思ったことは、ない」
ぐちゃりと、虚空を握り潰す。金色の瞳が見つめる掌の中には、何も無かった。
【F7 アララトス遺跡ダンジョン地下71階 二日目 日中】
【ジョウイ=ブライト@幻想水滸伝Ⅱ】
[状態]:クラス『伐剣王』 ダメージ:小 疲労:極 金色の獣眼(右眼)
首輪解除済み 腹部に傷跡 『魔王』としての覚悟
紋章部位 頭:蒼き門の紋章 右:不滅なる始まりの紋章
[スキル]:紋章術・蒼き門(Lv1~4)、不滅なる始まり(Lv1~3)
フォース・クレストソーサー(Lv1~4)
アビリティドレイン、亡霊召喚、モルフ召喚
返し刃のダブルアタック 盾の鼓動は紅く輝く
[装備]:キラーピアス@DQ4 絶望の棍 天命牙双:左 ハイランド士官服 魔王のマント
[道具]:賢者の石@DQ4 不明支給品×1 基本支給品
[思考]
基本:優勝してオディオを継承し、オディオと核識の力で理想の楽園を創り、オディオを終わらせる。
1:3時間で、魔王として地下71階で迎撃の準備を整える
2:参加者を可能な限り殲滅し、その後死喰いを完全な形で誕生させる
3:メイメイに関してはしばらく様子見
[参戦時期]:獣の紋章戦後、始まりの場所で
2主人公を待っているとき
[備考]
※ルッカ、リルカと参加している同作品メンバーの情報を得ました。WA2側のことは詳しく聞きました。
※無色の憎悪の『始まり』を継承し、憎悪を限定的に制御できるようになりました。
ただし、毒性はそのままのため、日没までには憎悪に喰われます。
※マリアベルの欲望の残滓を魔剣に取り込んだことで、アビリティドレインが使用可能。
無色の憎悪を介して伐剣王が背負った(魔剣に想いを取り込んだ者)の能力を限定的に使用できます。
ただし、その為には死の痛みも含めた全てを背負う必要があります。
また、ロードブレイザーのようなジョウイの理想に全く繋がらない想いは背負えません。
※アビリティドレインにより『災いを招く者』の力と誓約しました。
その力とグラブ・ル・ガブルにより、亡霊騎士をモルフ化しました。
この2体のみ維持のための魔力コストがなくなりましたが、破壊されれば再召喚はできません。
※放送時の感応石の反応から、空中城の存在と位置を把握しました
*ロザリーが見たのは、死喰いに喰われたルクレチア@LALでした。
ルクレチア以外の場所(魔王山等)が死喰いの中にあるかは不明。
*召喚獣を使い、遺跡ダンジョンの地下1階~地下70階までを把握しました。
*メイメイが地下71階に待機し、オディオにも通じる状態でジョウイを観察しています
*死喰いの誕生とは、憎悪によって『災いを招く者の闇魔道』を起動させることで、
グラブ・ル・ガブルとプチラヴォスの亡霊をモルフとして再誕させることです。
ただし、現在は闇魔道の半分がジョウイの魔剣に封じられたため、
現時点ではジョウイにもオディオにも不完全な形でしか誕生できません。
――――さて……彼らはどうするつもりなのかしらね……
ジョウイを、そしてC7に集う彼らを傍観しながら、メイメイはようやく震え終わった酒に口をつける。
互いの初手は、示し合わせたように『待ち』となった。
ジョウイは既に己が在り方を決めてしまった。それが揺らぐことは、恐らくないだろう。
ならば後は、地上の彼らがどう決めるかが、この後の歴史の形を決定する。
――――少なくとも、オルステッド様の城にはいくのでしょう?
存在にさえ気づけば、行くことはもはや難しくはない……
死闘を乗り越えた彼らの手元には、欠片とはいえついに全ての貴種守護獣が揃った。
加えて、聖剣も鍵もある。辿り着くことは決して不可能ではないだろう。
賢者の智慧も揃った今、首輪も解除できるだろう。後は、そのあとどうするか、だ。
――――オルステッド様から逃げるのもいいでしょう……空中城は未知の世界……方法が無いわけではない……
逃げることは恥ではない。これだけの死を、想いを省みた今ならば、その貴さがわかるはずだ。
――――あるいは、オルステッド様を倒す……あの方を倒せば、貴方たちは元の世界に帰ることもできる……
少なくとも、その程度のことくらいは私にもできるようになる……
戦うことは間違いではない。これだけの命を、祈りを託された今ならば、身体を突き動かすものがあるはずだ。
――――あるいは、魔剣を携えて現れた最後の魔王……彼もまた玉座を目指そうとしている……
理想を夢見たおろかでとうとい魔法……彼と向かい合えば、最後にはオルステッド様に辿り着くことになるでしょう……
決着をつけることは過ちではない。愚かであることは、賢きであることに劣るとは限らない。
世界に正解などないのだ。あるのは、選択とその結果だけである。
――――魔王オディオといつ、どう向かい合うかは貴方達しだいよ。だけど、くれぐれも早まらないことね……
貴方たちは、まだ“集まった”だけに過ぎないのだから……
おぼろげだけど、まだ届き、掬えるものが観える……
A6の地……みなしごの住まう家の中……銀色に輝く一枚の占符……
A7の地……海の藻屑と共に漂う……昭和の魂……
他にも、目を凝らせば、観えるモノもあるでしょう……
必ず見つけなければならない訳ではない。それも含め、選択と結果である。
――――どうか、どうか過たないで。
魔力がどうだ、核がどうだ、感応石が、聖剣が、魔剣が、魔術が、
必殺技が、合体技が、奇跡が――――そんなものじゃ、あの人に“本当の意味で届かない”。
それで終わるならば、あの雷で全ては決着している。
対峙するのは、あの“オディオ”。全ての魂の雷でもまだ照らし足りぬ、憎悪の天。
「必要なのは、一献の返盃。この墓碑<エピタフ>を駆け抜けて辿り着いた貴方の、答え」
この島にいたあらゆる人たち、否、全ての出来事の積み重ねた答え。
でなければオディオには届かない。全てを憎む始まりの彼を変えるには、それほどの想いが必要になる。
「難しく考えなくていいのよ。貴方にとって一番、大切な想い。譲れないもの、守りたいもの。それが、答えよ」
メイメイは誰かに、あるいは全ての者に向けるように、酒を向けた。
いよいよ開宴。最後の戦いは、オディオとの戦いは既に始まっている。
「この戦いの行くすえ……私がここで、見届けさせてもらうわ……」
虚空への乾杯。其れを以て、もっとも静かな最終決戦が此処に始まった。
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最終更新:2014年01月04日 16:32