ですろり~チカラ~ ◆iDqvc5TpTI



やっほー、ちょこなの~!
んっとね、きづいたら、真っ暗なおしろにいたの~。
しびれるりんごをまた食べちゃったみたいなの!
だって、やっぱり、おっきなおいすにすわった人がいたもん。
アクラの父さまといっしょで、魔王なんだって!
んっとなんかむずかしいことも言ってたの。
考えてもむだなの。だって、むずかしいことなんだから!
それでね、それでね。なんか、みんな、さわいでたの。
でもちょこね、子どもだから他の人の後ろからじゃ前が見えなかったの!
いっぱい、いっぱい、冒険したのに。
そしたらね、こんどはいつのまにかはえてたサボテンさんが教えてくれたの~。
おとなはけっこんするもんだって。
ちょこ知ってるの。ずっと、ずーっと、ずぅーと一緒にいることなのー。
……父さまが、そう言ってたの。
だからね、ちょこ、おねーさんと結婚したの!
わーいのー!

○月○日 ちょこの日記1より



「ちくしょお、ちくしょお、ちくしょおおっ!!」

ボロボロの軍服を引きずり、顔の左側を覆う大きな刺青を施した男――ビジュは悪態をつきつつ砂漠を南下する。
彼の手には一振りの剣が握られていた。
サンダーブレード。
そこそこの切れ味を誇る上に、装備主の魔力をも強化する優れものだ。
使い慣れた召喚獣タケシーに通じる召雷能力もあり、ビジュはこの支給品を当たりだと判断していた。
だからこそ、近くを歩いていた二人連れの人間へと襲いかかったのだ。
帝国軍所属の軍人とはいえ、加虐心が強く、任務にかこつけそうした欲望を満たすことから問題児とされてきたビジュに、殺人への躊躇は無かった。
加えて、それまで誰にも会わず、夜とはいえ砂漠を延々歩き続かせられた彼は相当苛立っていた。
何よりもその二人組の組み合わせが気に入らなかった。
若い女一人に小娘一人。
この島に連れてこられる直前に散々な目に合わされた相手を、嫌でも思い出させるその組み合わせが。

結果彼は敗走し、今へと至る。

「化け物め、そうだ、この島もあの島と同じだ、そうに違いねェ!!」

黒焦げにしてやるつもりで放った雷の呪文は小娘の方に簡単に弾かれた。
見たところ特殊な装備もしていないただのガキにだ。
しかもそのガキはあろうことか、何の媒体も無しに、巨大な火の鳥を召喚しやがったのだ。
まともじゃない。
あんなのは、人間技じゃない!!

「召喚獣だ! あのガキも、魔王も、いや、他の参加者で知らねえ奴も、きっと皆召喚獣だ! 糞がッ、人間様への逆襲のつもりかよ!?」

殺してやる、殺してやる、殺してやる!!
この島にいる奴全部、殺してやる!!
心の中で何度も何度も呪詛を吐くビジュ。
だが、悲しいかな、サモナイト石のない彼に見せつけられた力の差を埋める手立ては無い。
逃げることすら支給されたうつせみの玉という道具を使ってやっとこさだった。
あと少し使うのが遅ければ、火の鳥に飲み込まれ、服どころか全身が跡形もなく焼き尽くされていただろう。

「……あん、道具? そうか、そうかそうか、支給品か、あひゃひゃひゃひゃ!!」

いつしか砂漠を抜けきり、目の前には荒地が広がっていた。もう少し進めば草原だ。
ここまで来れば追いつかれはしまい。安堵した途端ふと思いつく。
自分に支給されていた道具は、未使用のもう一つも含め、まあそれなりには使えるものだった。
しかし、だ。もっともっと、強力な道具を支給された参加者もいるのではないか?
例えばサモナイト石、例えば大砲、例えばあの女教師が使っていた碧の光を放つ魔剣が。

「イヒヒヒヒヒヒヒッ! いくら奴らが化け物じみてようがよォ? あの『力』を前にしちゃ手も足も出ねェよなあ!!」

方針は決まった。
道具だ。まずは強い道具を手に入れることからだ。
利用できるなら強者に取り入るのもありだが、さっきの二の舞は御免だ。
当面は弱いと確認できた奴、もしくは怪我して弱った奴を狙って道具を手に入れる。
繰り返してけば、いつかは当たりを引けるはずだ。
化け物達はその手に入れた道具で始末してけばいい。
そうやって次々と力を増やして皆殺しだ!

「いいぜ、いいぜェ! あの女教師も、さっきの化け物も、殺す、殺す、殺してやる!! アヒャヒャヒャヒャヒャ!」


【G-4 南東平野に入ってすぐ 一日目 黎明】
【ビジュ@サモンナイト3】
[状態]:軍服黒焦げ、全身に熱の余波による軽度のダメージ
[装備]:サンダーブレード@FFⅥ
[道具]:不明支給品(確認済み、それなりには使える)×1、基本支給品一式
[思考]
基本: 皆殺しだ!
1:弱者を狙って有用な道具を手に入れる。
2:アティ、アリーゼ、女二人連れ(ちょことアナスタシア)は後で殺す。
3:他の強者も道具がそろいしだい殺す。
[備考]
※参戦時期は不明。お任せします。(ただし、死亡前です)
※ちょこやオディオ他を召喚獣だと思っています。
※うつせみの玉@アークザラッド2は使い捨てだった為、なくなりました。



アナスタシアは呆然としていた。
男に襲われたことに、では無い。
その男をいとも容易く目の前の少女が撃退したことにだ。


†††


「ひゃはは、ひゃははは! 死ねエェェェェェ!!」

遡ること数十分ほど前、彼女とちょこは突如緑の髪の男の襲撃を受けた。
振り下ろされた剣から迸る雷光。
ロードブレイザーという世界を焼き尽くしかねない脅威と戦ってきた彼女からすれば大した事のない一撃に見えた。
それでも、聖剣の加護が無い今の彼女にとっては、十分傷を負わしうる攻撃で。
当然当たるわけにはいかなくて、必死で後ろに飛び退いた。

繋いでいた手も離して。
自分が生き残る一心で。
一人だけ死の顎から逃げた。

直撃。
ちょこの幼い身体を電撃が打ち据える。
大人に致命傷を与えるには程遠い威力ではあったが、相手は幼子だ。
最悪、死んだかもしれない。
そう考えた瞬間、胸の奥が僅かに軋んで。

「おいおい、逃げやがったよ! こいつ、ガキを見殺しにしやがった! ヒヒヒヒヒヒヒ!」
「すっごーい! ピカって光ってビリビリ~ってきたのー!! ゴーゲンのおじーちゃんみたーい!!」
「いひっ、ひゃはははは!うひゃははははは……は?」

それがどういう感情か理解する間もなく、驚愕することとなった。
無傷だったのだ。
落雷を浴びたはずの少女は変わらず笑みを浮かべ、その場でぴょんぴょんぴょんぴょん跳ねていた。
あろうことか跳ねるのに合わせて万歳までしている様は、それだけを見れば非常に可愛らしいものであったが。

「て、手前ェどおして!?」
「今度はねー、ちょこの番なの! いっちゃえ~!」

声に合わせ炎を纏った巨大な鳳がちょこの前に顕現する。
それだけで砂漠は昼間の姿を取り戻したかのように熱を帯びた。
歪む空気、立ち込める熱風。
良く見知った光景が広がっていた。
規模こそ控えめだが、ロードブレイザーの炎は、いつもこんな風に命を寄せ付けないものだった。

「ひいぃぃぃ……っ!!」

砂塵を舞いあげつつ迫り来る炎熱に男が悲鳴を上げ、デイパックへと手を突っ込む。
怪鳥の爪と嘴が男の服を焼き焦がしにかかるなか、必死で取り出した緑色の玉を男は放り投げた。
それで、決着だった。
鳳凰をも飲み込む莫大な量の煙が辺りに蔓延。

「けほけほ。真っ白で、何も見えないの~」

ようやっと視界を取り戻した時には男の姿はどこにも無かった。


†††


「とうちゃ~く!」

そんなできごとが無かったかのように、ちょこは目を輝かせておおはしゃぎしている。
新婚旅行のとりあえずの目的地として設定していた塔は、なるほど、覗き見たことがあるとはいえ、
実物はそれ以上におもしろい形に感じられ、観光にはもってこいだとは思う。
無論、アナスタシアの胸中を占める問題を跳ね飛ばす程ではないが。

(……『力』)

ちょこが行使したのは紛れもなく力だった。
この殺し合いの舞台で生き抜けうるだけの力。
アナスタシアの望みを、『生きる』という『欲望』を叶え得るだけの力。

神様は随分アナスタシアの境遇を嘆いていてくれたみたいだ。
出会いすら覚えていないずっと傍にいてくれたあの子の。
彼女が愛した世界を救うために遂に別れの時を迎えてしまったルシエドの。
『剣の聖女』の『力』の片割れである存在に匹敵するだけの新しい『力』を与えてくれたのだから。

(嫌だなぁ、わたし……)

かってアナスタシア・ルン・ヴァレリアという一人の人間の想いを見ないようにして、
綺麗に飾り付け『英雄』という名の生贄として捧げた世界に今の自分が重なる。
ちょこをちょことして見ずに、『力』として見るようになっってしまった自分が、堪らなく汚いものに思えた。

「どうしたの、おねーさん? お腹痛いのー?」

考えていることが表情に出ていたのだろうか?
ちょこが心配そうに覗き込んでくる。
痛いの痛いのとんでいけーとお腹をさすってくれる少女の純粋な優しさに崩れてしまいそうになる。
それでも、彼女は、アナスタシア・ルン・ヴァレリアは。
精神体にしか過ぎない旧支配者に肉体を与えるまでに強い『欲望』を持った女性は。
ちょこを利用することを、選ぶ。

「ねえ、ちょこちゃん。おねーさんが、居なくなっちゃったらちょこちゃんは悲しい?」

びくりとちょこが大きく震える。
いつも浮かべていた笑みが消え、涙がとめどなく溢れだす。

「おねーさん居なくなっちゃうの? 父さまや、シルバや、村のみんなみたいに。
 さっきまで一緒に居てくれたおにーちゃん達みたいに」

やだやだと悲痛な声を上げ、地団太を踏み、ちょこがアナスタシアにしがみつく。
読みは当たった。
ちょこはやけにアナスタシア一緒にいることに拘っていた。
そこからこの幼い少女が過去に大切な人達を失ったのだということは容易に想像がついた。
だから、甘く、アナスタシアは囁く。

「大丈夫。わたしは居なくなったりしないよ。ちょこちゃんが、守ってくれるんでしょ?」
「うん! ちょこ、戦うの。おねーさんを守るために戦うの……」

先程までの泣き顔はどこへやら。
華の咲いたように笑うちょこにアナスタシアは続ける。

「じゃあ、ひとつお願い。ちょこちゃんのパック、中身見せてもらえないかな?」
「いいよー、なんかいっぱい入ってるけど、ちょこにはよくわからないからー」

デイパックを渡すとちょこはとことこと駆けだして、塔の観光を再開する。
アナスタシアはこれ幸いとちょこの支給品と自分の支給品を比べ、
生き残ることに適した道具と自分には不要な道具を入れ替える。
気にはしないと思うが、一応数は初期と同数に揃えておいた。
最後に二人の名簿を取り出し、ランタンの火にくべる。
ちょこの大切な人の名前が書かれているかも知れないからだ。
アナスタシアを優先して守ってもらうためには、他にも知り合いがこの地にいることは不都合なのだ。
そして、それはアナスタシア自身にも言えることだった。

彼女は、これからちょこを『使い』人を殺す。
知り合いの名前を見つけ、これ以上覚悟を鈍らせるわけにはいかない。
何としても手に入れるのだ、自身の幸せを。

「ちょこちゃん、お待たせ」
「はーいのー! じゃあ、一緒に、中を探索するのー!」

地を蹴り、抱きついてくる幼女に手を伸ばし、思う。
もしかしたら、他人を求めていたのは自分も同じだったのかもしれないと。
ロードブレイザーが倒され、世界が救われても、彼女は救われず、事象の地平に一人っきりだった。
その永遠に続いた孤独が、無意識のうちに理由をつけてちょこを殺さない道を選ばせたのかもしれないと。
いや、殺さないのではない。ただ、後回しにしただけだ。
自らに言い聞かせ、聖女は魔人を抱きしめる。
二人の行く末はわからない。
けれども、今この時の二人は、傍目には仲の良い幸せそうな姉妹にしか見えなかった。




【F-4 砂漠の塔(背塔螺旋) 一日目 黎明】
【アナスタシア・ルン・ヴァレリア@WILD ARMS 2nd IGNITION
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:不明支給品1~3個(負けない、生き残るのに適したもの)、基本支給品一式
[思考]
基本:生きたい。そのうち殺し合いに乗るつもり。ちょこを『力』として利用する。
1:砂漠からの脱出。
2:背塔螺旋を探索する。
[備考]
※参戦時期はED後です。
※名簿を未確認なまま解読不能までに燃やしました。
※ちょこを『力』を持つ少女だと認識しました。
※ちょこの支給品と自分の支給品から、『負けない、生き残るのに適したもの』を選別しました。
 例えば、防具、回復アイテム、逃走手段などです。
※襲ってきた相手(ビジュ)の名前は知りません。



【ちょこ@アークザラッドⅡ
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:不明支給品1~3個(生き残るのに適したもの以外)、基本支給品一式
[思考]
基本:おねーさんといっしょなの! おねーさんを守るの!
1:逆さまな塔を探索するのー!
[備考]
※参戦時期は不明。
※殺し合いのルールを理解していません。名簿は見ないままアナスタシアに燃やされました。
※アナスタシアに道具を入れ替えられました。生き残るのに適したもの以外です。
 ただ、あくまでも、『一般に役立つもの』を取られたわけでは無いので、一概にハズレばかり掴まされたとは限りません。
※襲ってきた相手(ビジュ)の名前は知りません。 



やっほー、ちょこなの~!
変なおにーちゃんがピカピカーって雷落としたのー。
ちょこもね、メラメラーって負けずにがんばったー。
でもね、おにごっこには負けちゃったの。
くやしいよ~。
その後でね、塔で泣いたり笑ったりしたの。
おねーさん、あったかくって、大好き!
そういえば、おねーさんって、ムチムチプリンなのかな?
逆さまな塔を探検しおわったら、きいてみるの~!

○月○日その2 ちょこの日記より

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最終更新:2010年06月25日 22:55