『モトリー・クルー』
(キャラ) 八神隆之、レオン・S・ケネディ、上条当麻、フェルン
無機質なコンクリートジャングル。
その一角、とある雑貨屋のテナント内部にて、ブブブという低い音が響く。
「スマホ、鳴ってるよ」
「ああ。後で見るよ」
音の発生源は二人の男、八神とレオンのポケットから。
気さくな言葉遣いとは裏腹に、両者に漂う雰囲気は緊迫に似ている。
よく磨きあげられた黒い床に両膝を着きながら、八神はほんの少し後ろをちやりと見やる。
視界の端には、相も変わらずレオンが銃口を向けている姿が映った。
「それで、魔法使いに襲われた気分はどうだった?」
「あのさ、信じる信じないは勝手だけど、いい加減銃は降ろそうよ。
こっちはバッグまで降ろしてるんだ。フェアじゃない」
「フェアね、まさか殺し合いでそんな言葉聞くとは思わなかったよ。面白い冗談だ」
「だろ? 笑いのセンスには自信があるんだ」
八神の語った経緯は、ふざけているとしか思えないものだった。
フードコートで黄昏れる青髪の美少女に声を掛けたら、その子は魔法を使って自分を襲い掛かってきた。
咄嗟に機転を利かして逃げ延び、先程のショッピングモールで起きた爆発はそれが原因だという。
失笑を通り越して頭を抱えたくなる内容に、レオンは思わず銃口を落としかけた。
「それじゃあコメディアン、一つ質問だ。
仮にその話が本当だったとして、お前はこれからどうする?」
結局、懸念点はそれだ。
元々レオンが銃を向けたのは、八神がどういうスタンスなのかわからなかったからだ。
彼が一般人であればまた別の反応を見せただろうが、ビルを降りる身のこなしから只者ではないのは明白だった。
“魔法少女”の話が本当なのかどうかはさておき、十分警戒に値する人物である。
「曖昧な質問だな。ま、乗る気はないよ。
……無事に生きて帰るのが一番だけど、贅沢を言うなら真相を知りたい。
この悪趣味な『命の授業』の、本当の意図をね」
対して八神の態度は、とても銃口を向けられている人間のそれではない。
勝気な微笑みを浮かべた横顔は、この異質な状況を受け入れているように見えた。
訝しげに肩を竦めながらレオンは本題に入る。
「お前、何者だ?」
「八神隆之、……弁護士だよ」
「弁護士?」
思わぬ返事に面食らった。
レオンは立場上、弁護士という職種と関わったことは一度や二度じゃない。
だからこそ、こんな弁護士はいないと断言できる。
「そういうあんたは警官? もしくは軍人?」
「似たようなもんさ。
にしても、日本の弁護士ってのは随分と武闘派なんだな。法廷が見てみたいよ」
「ちょっと個人的な事情でね、腕っ節磨かないといけない理由があったんだ」
「そんな話、信じられると思うか?」
「だよな」
グリップを握る手に力が込められる。
脅しではなく、いつでも撃てる心構え。
ゾンビやガナードといった怪物だけではなく、必要に迫られれば人間であっても排除する。
そうしなければ生き残れないと、レオンは本能で察していた。
「けどあんたは、俺の話を聞いたら信じざるを得なくなる」
八神の一言に眉を顰める。
警戒心をそのままに、レオンは問いかけた。
「どういうことだ」
「俺は多分、アンタの気づいてないことに気づいている……って言ったら?」
苦し紛れの命乞いではないということは、声質や目で分かる。
得意げに口角を上げる八神の思い通りになっているようで癪だったが、レオンは無言で続きを促した。
「俺の言葉、何語に聞こえる?」
「いきなりなにを──」
「いいから」
そして、投げられたのは突拍子もない質問。
八神の意図が読めないまま、レオンは淡々と答える。
「随分流暢な英語に聞こえるよ」
「……あぁ、やっぱりそう」
「それでなにが言いたいんだ。弁護士」
少し目を丸めたかと思えば、どこか観念したように首を振る八神。
一人で納得する様にほんの少し急かされたのか、苛立ち混じりにレオンが詰める。
信じられないかもしれないけど、とご丁寧な前置きを述べて、八神は口を開いた。
「俺は日本語を喋ってるし、アンタの言葉も日本語に聞こえる」
「……なんだと?」
一瞬、思考が止まった。
この男は何を言っている、と。
八神の只者じゃない雰囲気にどこか期待を抱いていたのに、途端に胡散臭さが勝る。
「おかしい事を言っている、って思うよな。
けど本当だ、それを証明できる術だってある」
「聞きたいね」
「唇の動きだよ。俺の唇、よく見てみなよ。
生憎英語はそこまで得意じゃないけど、日本語とは動きがまるで違うだろ?
試しに言ってみようか、“はじめまして”」
言われて初めて、レオンは違和感に気が付いた。
暗がりに加えて心身共に切羽詰まった状況。普通、相手の顔を注視する余裕などない。
だからこそ、八神に促されてそれに気が付いた途端──鳥肌が立つほどの衝撃が、レオンを襲った。
「例えるなら、翻訳版の映画を見てる感じかな」
そう、ほんの些細な違和感。
レオンが見落としていたそれを、八神はずっと前から拾い上げていたのだ。
八神隆之の得体の知れなさと、目の前で突き付けられる異常事態にレオンは首を振る。
「こんなこと、ありえるのか?」
「理屈は俺もわかんないよ。でも一つ言えるのは、俺とアンタが持ってる常識はこの場じゃなんの意味もないってことだ」
「…………らしいな」
普段のレオンならば嘲笑で終わっていた言葉も、今となれば心拍を揺らす力を持っている。
この瞬間、主導権は八神にシフトした。
八神はレオンの動揺を目敏く見抜き、畳み掛けるかのように喋ることをやめない。
「この殺し合い、変だと思わないか」
「……変?」
「手が込みすぎてる。会場の広さからして、参加者は10人や20人じゃない。
言葉の壁を取り除くのも、この孤島を用意するのも、相当技術と手間がいるはずだ。
おまけにこの人数を、誰にも気付かない内に首輪をつけて一つの場所に拉致する……そんなこと、個人で出来る範疇じゃない」
八神の言う通り、悪趣味な催しと呼ぶにはあまりにも大掛かりすぎる。
なまじレオンも理解力に優れている人間だからこそ、彼の言葉に耳を貸す。
「ただ殺したいなら首輪を爆破すればいいし、そもそも気づかれない内に首輪を装着させられるんならいつでも殺せる。
なら、道楽で殺し合いを見物するのが目的か?
……いいや、だったら俺達のように殺し合いに反対する人間を集める理由がない」
言葉の自由を与えた時点で、八神隆之の独擅場。
もはや、レオンが口を挟める領域に彼はいない。
「俺が思うに、殺し合いをさせることは目的じゃない。
本当の目的を果たすための"手段"なんだと思う」
引き金から指が離れる。
離したのではなく、彼の言葉に“離された”。
法廷でもないのにこの男の口先には、人を従わせる力がある。
「なぁ。アンタが利口な人間なら、その銃──どうするべきだ?」
レオンはとうとう観念したように銃を下ろす。
「レオン・S・ケネディ」
名乗るレオンは左右に頭を振って、詫びるように八神へと手を差し伸べた。
レオンの力を借りて立ち上がる八神は、パンパンとジーパンの汚れを落として口笛を鳴らす。
「それで八神、これからの方針は?」
「とりあえずスマホを確認してみようよ。さっきの通知音が気になる」
言われて、思い出したようにレオンが端末を左手に取る。
画面には参加者の名簿と、マップアプリが更新された旨の通知が届いていた。
「やっぱりな」
「なんだ?」
「渋谷、って知ってるかい?」
「ああ……東京の区だったか。……おい、まさか」
「そのまさかだよ。
この孤島、渋谷の街並みをかなり忠実に再現してるみたいだ」
飲食店や地形、建築物の構造から日本のどこかを模倣したものであることは察しがついていた。
新宿の神室町に拠点を置く八神にとって、渋谷の景観は見慣れている。
ところどころ自分の記憶と異なる場所もあるが、やはり土台はそれと見て間違いないだろう。
「主催の女も日本人だったんだ、そんなに引っかかることか?」
「そう言うと思ったよ。じゃ、名簿アプリを見てみよう」
慣れた手つきでスマホを操る八神。
画面を切り替え、ずらりと並んだ名前にじっくり目を通してゆく。
「明らかに日本人じゃない名前が多い。
それどころか、名前なのか怪しいのもちらほらあるね。
見てよこれ、“謎のヒロインX”とかさ。コードネームにしてもセンスが悪い。
他にも“エイリアン”だとか“黄金郷のマハト”とか、住民票の登録どうしてるんだろうな」
「おい、無駄話が多いんじゃないか? 要するに何が言いたいんだ」
「さっきの話、覚えてるだろ? 魔法を使う女の子の話」
「もちろん。強烈に印象に残ってるよ」
「その子は多分、俺とは別世界の人間なんじゃないかな」
淡々と言い切る八神。
さらりと述べられた言葉に、一瞬聞き間違いかと耳を疑った。
「突拍子もない話なのはわかってる。もちろん断定はできないし、可能性の話さ」
「危なかったよ、また銃を使いたくはなかったからな」
「物騒だなぁ、まあ聞いてよ。
俺達とは別の世界……パラレルワールド、ってやつかな。
そういうところから連れてこられた人間って考えたら、このヘンテコな名前にも、さっき俺が見た魔法にも説明がつく」
ついでに、と。
まるでこの話が前置きであるかのように一呼吸を置く八神。
その態度がどこか勿体ぶっているようで、レオンは眉を顰めた。
「俺の知った名前が載ってる。そして、そいつは間違いなく死んだはずだ」
この時、レオンは自分がさぞ間抜けな顔をしていたように思う。
数瞬間を置いてから八神の言いたいことを察して、思わず嫌な記憶を思い出した。
「死人が生き返った、って?」
「そういうことになるね。いや、厳密には死んでない世界線から来たのかな。
死者蘇生にしても、パラレルワールドから連れてきたにしても、そんな芸当普通じゃ出来ない」
「なら、お手上げか?」
まさかね、と八神が軽く笑い飛ばす。
「希望があるとしたら、この渋谷に似たマップだ」
「なに?」
「主催の森口はわざわざ渋谷の街を模倣した場所を用意した。
つまりそれは、元の渋谷を知っていないと出来やしない。
少なくとも森口は“こっちに近い”世界の住人なんじゃないかな」
頭が痛くなりそうだった。
澱みなく答えてゆく八神のペースに、レオンの頭が追いついてくれない。
言葉の壁、魔法、異世界──そういった非常識を呑み込めず、前段階でつまづいていたのだから。
「仮に森口がそうだとして、そのバックにはとんでもない怪物が控えてるんじゃないか」
「だろうね」
自らを落ち着かせるために提示した疑問点は、食い気味に一蹴された。
「そんな理不尽な力を持ったヤツに、どうやって立ち向かうんだ?」
「だったらこっちも、理不尽な力を味方につければいいのさ」
八神が示したのは降伏宣言ではなく、一筋の希望。
仮定と推測を重ねて出来た絶望の中で、ほんの僅かに見出した逆転の可能性である。
「俺たちが知らない力を持ってて、この殺し合いに反対してる参加者を探そう」
長い話になったが、結論としてはそれだ。
結局自分達二人だけでどうにか出来る問題ではない。
首輪をどうにかするにしても、表立って反逆するにしても、情報と武力が欠けている。
「意味不明な力を持った存在に、積極的に接触しろってことか」
「そう言わないでよ。
実際、さっき会った女の子は言葉が通じたんだ。
説得さえできれば、可能性はあると思うけど」
「……要するに、望みは薄いと。
そういう奴らを説得するのは、殺すよりよっぽど難しい」
「かもな」
レオンが否定的な意見を示すのは、なにも八神が嫌いだからではない。
未知なる力を持った参加者に進んで接触するというのは、それほどリスクの高い行為なのだ。
小さな間違い一つで簡単に命を落としかねないのだから、慎重すぎることに越したことはない。
八神もその意図を汲んでいるのだろう。
レオンの反発を呑み込んだ上で、八神はどこか神妙さを帯びた面持ちで瞳を細める。
「でも、この希望を捨てるようなら“探偵”じゃない」
「……探偵?」
口を滑らせたのか、または故意か。
おっと、なんてわざとらしく笑う八神を見て、きっと後者なのだろうとレオンは思う。
「悪いねレオンさん、俺実は探偵なんだ」
弁護士ってのも本当だけど、なんて付け加えながらあっさりと白状する。
呆然とするレオンは動揺よりも納得が先に出た。
「どおりで」
「お褒めに預かり光栄」
皮肉っぽく笑うレオンへ、八神はひらりと手を振って応える。
そんな彼を呆れたように眺めながら、レオンは先程の会話を思い返していた。
「なら、俺も白状するよ。お前は警察か軍人と言っていたが……半分正解ってとこだ」
「なにその含みのある言い方」
「ホワイトハウス直属のエージェント」
「わーお、どおりで」
八神もまたレオン同様に、あの身のこなしに納得がいった様子だった。
どうやら色々と共通点が多いようで、場所が違えば世間話に興じていたかもしれない。
「こういうの、“二足のわらじ”って言うんだったか」
「お、よく知ってんね。うちら似た者同士かも」
「言ってろ」
軽口を叩き合いながら、二人は店を後にしようとする。
まさにその時、八神はふと違和感に気が付いた。
「…………」
「八神?」
この雑貨屋はそれなりに大きいし、棚も多い分死角が多い。
しかし正面出入口の傍で視界を広く確保していたため、下手な侵入であれば先に気がつく自信があった。
けれど、それは常識の話。
今しがた語った“魔法”という存在に対しては、“普通”なんていう観点は重荷にしかならない。
八神は静かにレオンにアイコンタクトを送り、裏手のドアを指差す。
ちらりと視線を向けて、ようやくレオンもまた違和感に気が付いたようだった。
「…………!」
正面出入口から最も離れた場所にある、従業員専用のドア。
ちょうどレオンの視点からは、背の高い商品棚と吊り下げ型の人工植物に彩られた円柱によって大部分が死角となっていた場所。
そのドアが、ほんの数センチだけ開いた状態で角度をつけられていた。
常軌を逸した八神の考察を受けている最中ならば、たしかに一瞬開閉した程度では見落としていたかもしれない。
いいやしかし、侵入に全く気が付かないことなどあるだろうか。
ドアの開閉に気が付かなかったとしても、足音一つ拾えないなんて────
「…………」
「…………」
互いに音を殺す。
レオンは両手に構えたレクイエムをドアの方向へと向けて、ゆっくりと先陣を切る。
それに続き、八神はレオンと逆方向から忍び寄った。
「そこにいるのはわかってる! 出てこい!」
怒号に近い警告が、静寂を打ち破る。
場所の都合上、隠れられそうなのはショーケースカウンターの下しかない。
ギターやら写真やら置物やら、規則性のないもので乱雑に彩られたカウンターへと注意が向けられた。
「────ッ!」
観念した侵入者──フェルンが勢いよく立ち上がり、紫色の髪が重力に抗って巻き上がる。
両手に握られた身の丈ほどの杖は、あまりに流麗な構えからライフルかなにかと空目した。
しかしそれが杖だと認識した上でも、レオンの照準はミリ単位のブレも許さない。
フェルンとレオン。睨み合う両者から少し離れた場所で、八神はいつでも介入できるよう構えていた。
「それを降ろせ」
「そちらこそ」
互いに動かない──いや、動けない。
レオンは杖の性能を、フェルンは銃の性能を知らないため、迂闊に先手を取れないのだ。
それに、もしもの時は八神がいる。
卓越した速射能力を持つフェルンといえども、全くの同時に二人を射抜くことは不可能だ。
ゆえにこの状況、フェルンが圧倒的に不利ではあるがそれを表に出すわけにはいかない。
そうした一触即発の空気の中、勢いよく開かれたドアが流れを変えた。
「──ちょ、ちょっとストップ! 待ってくれ!」
飛び出したのはツンツン頭の男。
棚に身体をぶつけ、商品を床に落としながら必死に間に割って入る。
即座に取り押さえようとする八神だが、次の瞬間呆気にとられることとなった。
「ごめんなさいっ! 俺がこの子に偵察を頼んでたんです!」
土下座。それも見事なほどに綺麗な。
あまりに迷いなく行われた行為に不意をつかれ、八神はもちろんレオンもフェルンも、その場にいる誰もが彼に注目することになった。
「俺は上条当麻、この子はフェルンです!
ど、どうか撃たないでもらえると……非常に嬉しいですッ!」
ぽかんと呆ける八神とレオンは、互いに目を配る。
困惑するフェルンの様子から、敵対の意思が消えたことを確認して、レオンは肩を竦めた。
「また場所を移さないとな」
「……だね」
◆
場所は変わり、雑居ビル3階の居酒屋。
フェルンを見張りにつけて、八神、レオン、上条の3人は向かい合う形で席に着いていた。
「────なるほどね」
情報交換は円滑とは言えなかったが、得られたものは大きかった。
上条とフェルンは先程、とてつもない力を持った怪物と戦闘を繰り広げたらしい。
一度退けはしたものの、再び襲撃に遭うのを恐れて逃げた先があの雑貨屋だった。
そのすぐ後、二人分の足音が聞こえてきたため慌てて従業員専用のバックヤードへと隠れたと言う。
「フェルンちゃんだっけか、あの子はすごいね。
俺もレオンさんも、全然気づかなかったよ」
「ええ、まぁ……気配遮断には自信がある、って言ってましたから。
最初は俺が偵察に行こうかと思ってたけど、フェルンが名乗り出たんです」
「ほんと、正解だったと思うよ」
軽薄に見える態度とは裏腹に、八神は柔軟に場を回していた。
杖を扱うフェルンの存在、そして上条達が戦ったハゲの怪物の話から、自分の仮説が現実味を帯びてきたと安堵さえ覚える。
同時に、そういった脅威を前にしたら──という緊張を改めて深く刻み込む機会になった。
「にしても、学園都市……ねぇ。
俺の世界じゃそんなの、聞いたこともないよ。
俺も超能力とか使えたら、探偵業も楽になるんだけどなぁ」
「あはは……八神さんは大人なので、能力開発は受けられないかと……」
「なんだ、若さの特権ってやつね」
雑談に移る八神と上条をよそに、レオンは顎に手を当てて深く考え込んでいる様子だった。
いざ魔法や世界観の違いを体感させられて、よほどショックが大きかったのだろう。
今までの情報を頭の中で整理して、ようやくレオンは重い唇を開いた。
「なぁ、八神」
「うん?」
「お前、ラクーン事件を知ってるか?」
「ラクーン事件……いや、心当たりないね」
「一応言っておくと、上条さんも聞いた事ありませんよ」
そうか、とどこか浮かない顔で返すレオン。
話題を切り出した者にはそれなりの責任がある、と言わんばかりの二人の視線に促され、レオンは溜め息をついた。
「ラクーン事件っていうのは────」
そうしてレオンの口から語られる事件の内容は、凍てついた衝撃を走らせた。
八神は眉間に皺を寄せ、上条はあまりのおぞましさに嫌悪感を隠せない。
「レオンさん」
やがて、申し訳なさそうに八神が口を開いた。
「当たり前だけど、街一つ消し飛ばすほどの事件なんて、国を越えたって耳に入らないはずがない。
チェルノブイリの原発事故だって、日本じゃ知らない奴のが少ないんだ。
それに……アンブレラなんて会社もないし、ゾンビだって存在しない」
「ああ…………分かってるさ」
八神とレオンは、自分たちが同じ世界にいると思っていたが実際は違った。
パラレルワールドの存在証明なんていうのは、口にしたその瞬間から、すぐ隣の人間で立証されていたのだ。
覚悟していたとはいえショックを隠せず、レオンは自嘲しながら足を組み、背もたれへ体重を預ける。
「俺が生きてる世界も、本物の世界じゃないってことかもな」
「いや──それはちょっと違うんじゃないですか?」
口を挟んだのは、上条当麻。
「その世界を生きてる人にとっては、自分の世界が“本物”なんですよ。
だから、偽物の世界なんてものはないんだ」
恥ずかしげもなく真っ直ぐに、はっきりと言い切る上条にレオンは目を丸める。
彼の言うことは、ドラマやコミックによく出てくるような綺麗事だ。
けれど今は、そんな綺麗事でさえ慰めとしてはありがたい。
「男前なセリフだね、惚れそうだ」
「え、えっ……か、上条さんにそっちの趣味はありませんよ!?」
気持ちをリセットするために、レオンは頭を横に振る。
狼狽える上条を横目に、八神は軽く咳払いをした。
「話を纏めよう。
ここにレオンさん、上条君の知り合いはいない。
フェルンちゃんの知り合いのフリーレン、シュタルクは信頼出来る。
そして危険人物は────」
「俺達が戦ったハゲと、八神さんを襲った青髪の女の子。
それにフェルンが言うマハトとソリテール、リーニエってやつか」
「お、代弁ありがと。けどもう一人付け足してもいいかな」
ぴし、と人差し指を立てる八神。
テーブルの中心に置かれた端末を操作し、名簿アプリに記載された一つの名前を指し示した。
「ここにある“黒岩満”ってやつは、超凄腕の殺し屋だ。
多分表立って目立った行動はしないだろうけど、それがタチ悪い。
無害な警官を装って、どこかに潜り込んで必ず優勝を目指すはずだ」
「……そいつがさっき言ってた“ゾンビ”か」
「そういうこと。こいつは俺の目の前で銃殺されたはずだ。
同姓同名の可能性もあるけど、警戒するに越したことないね」
八神の知り合いは一人、黒岩満。
魔法や超能力を持っているわけではないが、一流の殺しの腕と人心掌握術を持っている。
場合によっては、異能を持った者よりよほど脅威になると言っても過言ではないだろう。
「俺達4人が集まれたのは僥倖だ。
この調子で人数を集められれば、きっと殺し合いを終わらせる手がかりを見つけられる」
言い聞かせるような八神の言葉は、どこか説得力を秘めている。
弁護士というのは言葉を扱う魔術師なのかもしれない、と上条は思った。
「フェルン、ありがとう! もう大丈夫だ!」
「……話は纏まりましたか」
フェルンを呼び、要点を伝える。
他3人と比べて特に世界観の違いが大きい彼女は、詳細な話し合いは逆に混乱を招くという判断の上で、見張り役を任せていた。
もしも彼女と同じテーブルを囲んでいたら、ことある事に質問の嵐が飛んでいただろう。
「街の中心には人が集まりやすい。
今いるのがG-5。ここから西側のD-5まで向かおう」
全員の顔を見回す八神へ、異を唱える者はいない。
決まりだ、と雑居ビルを後にする4人。
その先頭を歩く八神へ、レオンは畏怖に似た視線を向けた。
ここにいる4人は、統率も規則性もなにもない烏合の衆だ。
無秩序の空間での纏まりがない集団など、単独行動よりもよほど危険といえる。
それを八神は、力を振るわず口先だけで纏めあげた。
もしも彼がいなければ、レオンは未だ異世界の存在を受け入れられずにいただろう。
柔軟に物事を捉えられない者は、遅かれ早かれ命を落とすというのは話し合いを通して理解した。
(────つくづく敵に回したくないな)
最初レオンは、勝ち残る道も最終手段として見据えていた。
もちろん一般人が巻き込まれていると知った今、その道に走る気は毛頭ないが、どちらにせよ無謀だったと思わされる。
単純な戦力にしてもそうだが、八神のような集団を纏めあげるキレ者が多数いるとなれば、殺し合いどころじゃない。
かくして、烏合の衆だった鳥達は規則正しく羽ばたき始める。
向かうはD-5、スクランブル交差点。
散り散りに揺れていた無数の声が、いつしか一つの調べとなって、夜の空気に溶けていった。
【G-5 雑居ビル前/深夜/1日目】
【八神隆之@JUDGE EYES:死神の遺言】
[状態]:疲労(小)
[装備]:不明
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3
[思考]:殺し合いの真相を探る。
1:殺し合いに反抗する参加者と接触する。
2:首輪解除の手がかりを探す。
3:名簿の黒岩満が本物なら警戒する。
※本編終了後からの参戦です。
【レオン・S・ケネディ@BIOHAZARD RE:4】
[状態]:健康
[装備]:レクイエム(残弾数5)@バイオハザード レクイエム
[道具]:基本支給品一式、レクイエムの予備弾薬(12.7×55mm弾)×15、不明支給品×0~2
[思考]:この島から脱出し、任務に戻る。
1:八神の方針に同調し、情報を集める。
2:積極的に殺しはしないが、降りかかる火の粉は払う。
※ クラウザーとの決着後~サドラーとの決戦前からの参戦です。
【上条当麻@とある魔術の禁書目録】
[状態]:ダメージ(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3
[思考]:殺し合いを止める。
1:殺し合いに反抗する参加者と接触する。
2:ハゲ(ヴォルデモート)を警戒。
※右腕が切断された場合発生する、ドラゴンの迎撃及びその他の現象が制限されているかは不明です。
※参戦時期は原作13巻(アニメ版二期)終了以降の何処かです。
【フェルン@葬送のフリーレン】
[状態]:健康、ヴォルデモートへの恐怖
[装備]:フェルンの杖@葬送のフリーレン
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×0~2
[思考]:上条様達と同行。
1:殺し合いに反抗する参加者と接触する。
2:ハゲ(ヴォルデモート)とは戦いたくない。
3:フリーレン様、シュタルク様と合流する。
※マハト編終了後からの参戦です。
最終更新:2026年08月11日 23:08