『Komm, süsser Tod』
(キャラ) 松坂さとう、ダンテ(2007年アニメ版)、八百歳比名子
……甘い。
甘い、
甘い、
甘い、
甘い、
甘い。
……甘い。
……「どんな味なのかな」って気になることって、そんなに悪いことなのかな。
冷たい夜の街。ショーケースの向こうの、大きなデコレーションケーキ。
「クリーム真っ白だなぁ」とか、「上のサンタさんも食べられるのかなぁ」とか。
……普通、思うよね?
私が覚えてる限り、初めてちゃんと知った『甘い』は、あのケーキだった。
……まぁ、チョコケーキだったんだけど。イチゴが酸っぱくて残したけども。
でも、口に入れた瞬間ふわって溶けて。形がなくなっても、まだ舌の上に残ってて。
最後の何ナノグラムかも分からない甘さまで、名残惜しく飲み込んだ時。
──気がついたら、あの時の私の前に、しおちゃんがいた。
………………ねえ。
『甘い』を好きになることって、そんなに悪いことなの?
そんなに、責められることなのかな。
その味を好きになっただけで、私は苦しまなきゃいけないの?
「間違ってる」「普通じゃない」って、せっかく見つけた甘いものまで苦くされなきゃいけないの?
……私には、ぜんぜん分かんないよ。
……。
……なに言ってるんだろ。私。
意味、分かんない。
頭がゴチャゴチャする。
……。
……甘い。
「……『にっじー』。──」
「──虹夏さん……だから、にっじーなのかな。……なにそれ。名づけ人、虹夏さん? マイネームイズ・にっじ~? ……ふふ、ウケるかも。──」
「──…………ウケる、は違うか。…………違わないのかな。──」
「──……………もう、知らないよ」
散らかった脱衣所。白く曇った鏡。
「お風呂入ってくるから待ってて」と、しおちゃんに『甘い嘘』をついてから、どれくらい経ったのか分からない。
生温いドアノブに触れる。
これで、十六回目。
手をかけるのも。少し捻って、戻すのも。
扉の向こうで『あの子』が死んでいると知りながら、開けるか開けないかで時間を潰すのも。
──全部、これで十六回目。
……意味わかんないよね、こんなの。
「ごめんなさい」って謝りたいのかな。
それとも、「あなたが悪いんだよ」って、もう聞こえもしない相手に言い訳したいのかな。
──動かなくなったあの子の瞼を、そっと閉じさせたのは、
──自分の手だっていうのに。
「……」
…………やっぱ、あまいや。
……口の中のミルクチョコ。
名残惜しいからさ、ポケットからもう一個取り出して。包装に指をかけて。
「………………いいや、もう」
それで、やめた。
「……」
……そこから先の景色は、なんだか全部、コマ送り。
瞬きをするたび、私の身体だけが勝手に次の行動を終わらせていく。
──1カット目。
私は脱ぎかけだった靴下を元の高さまで戻した。
……理由? 知らない。でも私、こういうのちゃんとしてないと気持ち悪いし。
──2カット目。
カチ、カチ、カチ。
うるさい時計を見る。長針と短針がピースしてる。……どうでもいい。
その隣に、人ひとりなら出られそうな大きな『窓』があった。
──3カット目。
気付けば、小さな洗濯機の上に立っていた。
洗剤の甘い匂いがして、「……あ。これ飲むっていうのも──」とか、今さらそんなこと考えてた。
──4カット目。
……やっぱり時計がうるさくて、思わず舌打ちした。
それで。
窓を開けた。
冷たい風が、顔に当たった。
──5カット目。
────私は、もう落ちていた。
「わぁ~、空って気持ちいい~……」
──……なんてのは言ってないかも。
言う暇、ないしね。
6カット目。
金平糖みたいな星空に、ちょっとだけ見惚れた。
7カット目。
木のてっぺんを、すごい速さで通り過ぎた。
8カット目。
走馬灯なんて見れなかった。
──9カット目。
──私の真下を、ちょうど誰かが歩いてることに気付いた。
「………………」
10カット目。
──どうしてこのタイミングなの? って思った。
11カット目。
──避けてよ。……無理か。上なんて、見ないもんね。
12カット目。
──ああ。これ、当たるんだ。って分かった。
「…………」
13カット目。
『……なんで私、二人も』って。
「……」
──14カット目。
私は、その不運な誰かさんから目を逸らした。
……まぁ目、合ってないけど。合うわけがないし。
そして、コンマ数秒後の未来なんて知らない、その茶色い頭頂部を見下ろしながら。
私は、このどうしようもなく間の悪い世界が、心の底から嫌になった。
……最期。
もう一回だけ、言いたかった。
『なんで私、二人も──』って。
────ッ、
──、
──、
─────────。
「…………え、」
「……え…………?」
それで、何カット目~とか。
さっきまで数えてたことを思い出した時。
……その女の子の頭すれすれで、宙ぶらりんになっていた。
「やれやれ。今度は空からか? モテる女は違うな、比名子」
「……え。……ダンテさん。……、その……」
「……え?」
……そこでようやく、知らない男に片腕一本で抱えられていることに気付いた。
「にしても、随分派手な登場だな。次は玄関から来てくれると助かるぜ。──」
「──お嬢ちゃん、名前は?」
──私はまた、
知らない誰かの腕の中にいた。
◆
…………
………
……
…
しょっぱい。
しょっぱい、
……潮辛い。
……海って、不思議だと思う。
浜辺で聞く波の音には、リラックス効果があるらしい。
なのに、全身を海に包まれてしまえば、安らぎなんてどこにもない。
光を求めて必死に泳ぐとか。暗い水底へ、引きずり込まれていくとか。そういう劇的な感覚も、別にない。
ただ、口元から零れた潮辛い泡が、ぽつ、ぽつ、と昇っていって。
名前も知らない魚が何匹か、私の視界を横切っていく。
……それだけ。
──「君を喰べたい」だなんて、人でなし。
────人間なんかじゃない、人でなし。
……私が、アイスを渡した時。
あの時の、美胡ちゃんの目は印象的だと思った。
バス停の前での、あの時の……汐莉さんの目も、覚えている。
どしゃ降りの窓に映った、私自身もそうだった。
人って、目だけは上手に嘘をつけないから。
目だけは、その人が隠したかったものを、ほんの少しだけ勝手に滲ませてしまう。
だから私は、人の目を見るのが、あまり好きじゃなかった。
…………『出かける』前も。
お父さんと、お母さんと、お兄ちゃん。三人の並んでいる遺影とは、なるべく目を合わせなかった。
写真なんだから、何も変わるはずなんてないのに。
…………目は。
目だけは、海よりずっと、濃淡がはっきりしている。
今もそう。
三人で入った喫茶店。
窓ガラスにぼんやり映る、いつもと変わらないように『見せたい』私の目。
カウンター席で料理を食べる、何を考えているのかよく分からないダンテさんの目。
……それから、向かい側。
その、
瞳の奥の、
甘くて、とろけきったみたいな──、
「……しょっぺえ」
「え?」 「…………あ、……」
「おい比名子。どうやらこの店じゃ、ピザは塩漬けが秘訣らしいぜ」
「…………すみません、ダンテさん。……私、サラミ多めと間違えたみたいです。……注文タブレット」
「やれやれ。味がしないだけオリーブはまだマシなのかもな。なあ、さと──」
「あっ、比名子ちゃん謝らなくていいよ! そんなの、全然気にすることじゃないから!」
「…………」
「ううん、分かるよ~……! こんな状況だもん。ぼーっとしちゃうことくらい、あるよね?──」
「──ほら、次は私がやるから。ね?」
「…………いえ。……私が、やりますから。……さとうさん」
────さとうさんの、
────『甘み』にしか見えないその目。
「…………デラックスピザのLサイズ、一枚。……アイスコーヒーと──」
「待った。俺もさすがにピザと心中する気はないぜ。次はストロベリーサンデーだ」
「…………はい。ストロベリーサンデー。……あとは、」
「うん。アイスミルクティー。コーヒーって、私ちょっと苦手なんだよね~。……ニガいから」
「……はい」
「……。……比名子ちゃんは?」
「……え、」
「飲みたいものはないの? なにか」
「…………いえ。……今は、大丈夫ですよ」
「そっかぁ……。じゃあ無理しなくていいよ? ね!」
「…………ありがとうございます」
甘くて、優しい目。
私が何を間違えても、全部そのまま包んでしまいそうな目。
……『自分が落ちてきた理由』なんて、何でもないみたいな、さとうさんの目。
「大丈夫」。
──そう、自分に言い聞かせながら。
私はもう一度、注文タブレットに触れた。
………
……
…
◆
美胡ちゃん。
小さいころから、ずっと私のそばに『いてくれた』、美胡ちゃん。
……何もかも、自分の全部が消えてしまえばいいと思う時ほど、記憶の隅に置き忘れていたような、小さなことを思い出す。
中学一年生。冬休みに入る少し前。
美胡ちゃんは「そっかぁ~」って言って、作りかけの雪玉を置いて。
それから不意に、私の手を握った。
“なにかあったんなら、ほんっとに私を頼ってよね!!”
“自覚ないかもしれないけど、……比名子の目を見れば、分かるんだからさ!!”
『目を見れば分かる』──か。
美胡ちゃん。
「…………」
「…………」
今、さとうさんは。
ダンテさんのストロベリーサンデーを、子供みたいな目でじっと見つめていた。
「…………おい」
「え?」
「“ジィ~~~”じゃねえよさとう。そんなに俺のサンデーが気になるか?」
「え!? いや~~、別に? 美味しそうに食べてるな~って。見てるこっちまで幸せになるっていうか~……」
「泣ける話だ。じゃあ最後まで見届けてくれ」
「なんですかそれ~!? 私、一口ほしいなんて言ってませんし~」
「そいつは助かる。一口で半分消えちゃかなわねぇからな。ガキと暮らしてると、甘いモンの恨みは怖いんだぜ」
「えっ、ダンテさん子供いるんですか? ……あ、なんか意外かも~」
「俺が親に見えるか?」
「見えないから言ってるんですけど~。……あーもう、いいかな! 比名子ちゃん、タブレット貸してくれる?」
「……あ、はい」
注文を終えると、さとうさんは傍らのストローを咥えた。「ん~、甘い~……!」
幸せそうに目を細めて。
「アイスミルクティーって、ガムシロ二個くらい入れないと物足りないんだよね~」
なんて。
私へ向けられる目も、ずっと同じだった。
…………さとうさんに、申し訳ない。
私はさっきから、この人の目を避けてばかりなのに。
さとうさんは、ずっと、笑ってくれている。
──ボンッ
「わっ。……ほんとに来た~。分かっててもびっくりするよね、いきなりボンって」
「……はい。……ちょっと、びっくりしました」
「だよね~。……って、ダンテさんもう食べてるし。ほんと驚いたりしないですよね~」
「溶けるのを待つ趣味はないんでね」
「いや、そういうことじゃなくて~……」
「なら何の話だ?」
「……もういいです。いただきま~す」
「……」
そしてまた、さとうさんは運ばれてきたパフェを一口。
クリームを口に含んで。
本当に美味しそうに。
本当に、幸せそうに。…………食べ続けていった。
「ん~~~~! 甘い~~~~~! 比名子ちゃんも一口どう?」
「え、……私は」
「遠慮すんな。勘定なら森口センセーが好きなだけ皿洗いバイトして立て替えるさ」
「………………。いえ、……お腹、空いてなくて」
「そう~? ……ふ~~ん」
……本当に、何事もない。
──違う。何でもないみたいに、さとうさんはまた一口。
甘いクリームを幸せそうに頬張った。
「…………」
「にしてもさとう」
「ん~~♡ ……あ、なんですか?」
「“猫がいたからつい……”ってのは、パティの見てるガキ向け番組でももう少しマシな言い訳するぜ」
「はい??」
「空から降ってきた理由だよ。本当は何があった?」
…………。
「……~~……。えーと……、」
「言いたくねぇなら聞かねぇよ。他人の秘密で腹を膨らませる趣味もないんでね。──」
「──ただ、うっかり窓から落ちた奴の顔には見えなかった。それだけだ」
…………。
「あー……、まぁ、そう思われても仕方ないですよね~……。…………でも、ほんとなんですよ?」
「猫がいた?」
「猫がいたんです」
「なるほど。ずいぶん罪作りな猫だ」
「もう~……猫ちゃんは何にも悪くないですよ~?」
………………。
『うっかり落ちた』。
『飛び降り』。
……『事故には見えない顔』。
本当にさとうさんが、猫を追いかけて落ちただけなのか。私には、分からなかった。
どれだけ目を見ても、そこに浮かんでいるのは、温かい思いやりばかりだったから。
第一印象から、今までずっと。さとうさんは、『つらいものを隠している人』には見えなかった。
……美胡ちゃんみたいに、利害なんてなくても、誰かのそばにいてくれる人。
私の腕を隠している、黒いハイネックインナー。
さとうさんは、その理由を聞こうともしなかった。視線さえ、そこへ落とさない。
私を見る時は、いつも顔を見る。
私の小さな声を、聞き返したりもしない。
何を言っても、私がこの場にちゃんと溶け込めるような言葉を返してくれる。
……まだ乾ききっていない制服にだって、何も聞かなかった。
だから。
…………もし、私が『願い』を話したら。
さとうさんは、どんな顔をするんだろう。って。
初対面の人に、そんなことを考えるのはおかしいと思う。
それでも。家族のこと。……汐莉さんのこと。
今なら全部…………。
全部……。
「……」
──本当は私は今日、家族のところへ『行く』つもりだった。
「……なんにしてもだな。いいか? ヤバい奴に取り立てられて、明日にも首括らなきゃならないってんなら分かるぜ」
「なんですか~、ダンテさん~~」
「だが、自殺ってのは一生に一度しか切れないカードだ」
「……ちょっと、やめてくださいよ! ね、比名子ちゃん~」
──行くつもりしか、なかったけど。
「……比名子ちゃん?」
「最初の一枚でオールインする馬鹿はいねぇ。『生きてりゃいいことある』なんて安いことは言わねぇが──」
「ダンテさんもうやめましょうって! …………比名子ちゃん?」
──目の前に。
──……私がしようとしていたことを、同じようにしようとした人がいて。
──…………そんな人の目。
──その目に映っている私は、
「……命までチップに乗せるのは、最後でいいだろ」
「比名子ちゃん!」
…………。
…………甘く、
どこまでもユラユラ揺れていたから────。
「……あ。…………ごめんなさい。……聞いてました」
「よかった~……。急に黙っちゃうから、眠いのかと思ったよ~」
「寝て何の問題がある。冬山の小屋にしちゃあ、この店は18℃とポカポカ日和だ」
「もう! そういう話じゃないですって!──」
「──……比名子ちゃん、一緒に……乗り越えようね!──」
「──……うん、……なんでも、ね……!」
「…………。……はい」
握られた、私の右手。
その上に重なる、さとうさんの左手。
空になったパフェグラスには、私と、さとうさんが重なって映る。
さとうさんは幸せそうにストローを咥えている。
……さとうさんは、心の底から甘そうに笑っていた。
……だから、私は、
余計に。
「……あの、……すみません。……さとうさん」
「ん? ……謝らなくていいよ! こういう時はさ、『ありがとう』って──」
……余計に。
「すみません。……無理して、飲んでくれてたんですよね」
「え?」
「────『アイスコーヒー』」
「…………」
「……苦いのは、ニガテだって……さっき、言ってましたから」
「え」 「……あ?」
…………。
……余計に。
「……私が間違えたのに、何も言わないでくれて……。──」
「──……すみ……。…………ありがとうございます。さとうさ──」
「し、しおちゃんッ!!!!!!!!!」
「……え」 「…………あ?」
「なんで……。──」
「──なんで……忘れてたんだろ……? 私、なんで……っ、しおちゃん……しおちゃんを……っ、──」
「──私……私、ずっと……甘い……お城、しおちゃんと……っ、なのに、なんで……なんで私……っ、──」
「──し、しおちゃん……っ!!!──」
「──お、お願いしますっ……!!! アパートまで、一緒に……っ、来てください!! お願い、しますっ!!!!」
──一番最初に出会った時の。
──……私と同じ濃淡をしていた、さとうさんの目が気になって仕方なかった。
【D-6/喫茶店】
【松坂さとう@ハッピーシュガーライフ】
[状態]:しおへの焦燥(大)、虹夏への罪悪感(激甚)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:しおちゃん……しおちゃん!!!
1:帰らなきゃ。しおちゃんのところに帰らなきゃ。会わなきゃ。今すぐ、今すぐ今すぐ今すぐッ!!
2:なんで忘れてたの? 私が? しおちゃんを? なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで。
3:嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!!!!
4:甘い。苦い。甘い。苦い苦い苦い苦い苦い苦い苦い苦い苦い苦いッ!!!!!!
※さとうの支給品・支給武器は【D-4/アパート333号室室内】の脱衣所に放置してあります。
【八百歳比名子@私を喰べたい、ひとでなし】
[状態]:自殺願望(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1~3
[思考]:……さとう……さん?
1:さとうさんを、一人にはしたくない。
2:……でも、私は。私は、どうしたいんだろう。
【ダンテ@Devil May Cry(2007年版アニメ)】
[状態]:ダメージ(小)
[装備]:ドラゴン殺し@ベルセルク、ケルベロス(ライトヘッド、レフトヘッド)@GUNGRAVE
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0~1
[思考]:……あいにく、世の中ってのは俺を早帰りさせてくれねぇらしい。
1:比名子から目を離さない。
2:さとうに付き合い、アパートへ向かう。……今日は女に振り回される日、か。
3:あの女(ソリテール)との再会は御免だ。次のデートはもう少し大人しい女を希望する。
4:エボニー&アイボリーとリベリオンを探す。浮気した覚えはないんだが、随分と機嫌を損ねてるらしい。
最終更新:2026年08月15日 11:08