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『踏み出す足、焼けつく肺』






紫雨こころ──キュアキュンキュンと秦谷美鈴は、気絶した美樹さやかを連れて、渋谷の街中を歩いていた。

邂逅した二人の少女は、数分の情報交換を終え、共に行動して互いの探し人を探すという方針で一致。

古畑任三郎との合流、そして美鈴の知人である花海佑芽を探すという方針に。


「紫雨さん。その方は、殺し合いに乗っていたんですよね」


だが、さやかを背負うキュンキュンに、美鈴は難色を示していた。


(一応アイドルプリキュアの正体は隠してるんだけど、こんな状況じゃ仕方ないか……)


最早、正体を隠すのを諦めたキュンキュンは、変身しながら本名で呼ばれる奇妙な感覚を味わいながら、後方から声を掛けた美鈴へと振り返る。

「連れて行くおつもりですか」

美鈴は、さやかを殺せとは言わなかった。
十数年間蓄積された倫理観は、そう易々と殺人を良しとはしない。
しかし、殺し合いに乗っていた人物をわざわざ連れて行くのを認めるほど、彼女もお人好しではなかった。
起きた後に、優勝を諦めてくれるような都合の良い思考回路はしていないだろう。
殺し合いに反対する人物や、花海佑芽達と合流できても、さやかが傍にいるだけで彼女らにも危険がある。
しかも、さやかを背負って両腕が塞がっている現状では、美鈴の身をキュンキュンに守ってもらうのにも支障が出るだろう。


できることなら、置いていったほうが良い。

美鈴でなくともそう考える者の方が多いはずだ。


「この人も昔は正義の為に、戦っていた人だと思うんです」


それでも、キュンキュンはさやかを降ろす素振りを見せず、頑なに拒否していた。


「……けれども、今は」


美鈴には、さやかの背景など分からない。容姿以外、名前すら知らないのだから。
仮にさやかがかつては善人であったとしても、殺し合いを肯定して人を襲っていたのは事実だ。
他ならぬキュンキュンの口から語られ、交戦していたのも彼女だ。
どんな理由があるにせよ、いつ寝首を搔くかも分からない殺人者を連れていたくはない。

「分かっています。だけど、見捨てたくないんです」

やはり、キュンキュンは頑なに、自分の意思を曲げようとはしない。

「この人が、どんな理由で魔法少女というものになったのかは分からないけど、最初はきっと誰かを助ける為だったんじゃないかなって」

名前すら知らない少女の善性を信じて。

「何の根拠があって、そんな事が言えるんですか」

美鈴からすれば、最早馬鹿々々しいとすら思えたかもしれない。
この少女の何を知っているのか、何の裏付けがあるのか、是非とも聞いてみたい。

「戦うことの怖さは、私自身よく分かっているつもりです」

プリルンという妖精に事前の説明もなくスカウトされ、戦いを強要された時のこと。
プリキュアをただのアイドルグループだとばかり思っていた彼女は、



『え、何言ってるの? ステージは!?』

『大丈夫プリ! こころは絶対、アイドルプリキュアプリ!』

『アイドルが戦ってる……一体どういうこと……?』


『────わたし、アイドルプリキュアになんてなれない……』


『プリッ!?』


暴れ狂う怪物に怯え、戦いの恐怖に足がすくみ、プリキュアであることを一度は拒んだのだ。



「支えがなければ……、きっと恐怖に押し潰されてしまっていたから」


それでも。

一目惚れした推し、キュアアイドルとウインクのようになりたくて。
二人と同じステージに並び立ちたくて、ここまで走ってきた。



『魔法少女がテレビでやっているような正義の味方だって考えているなら、キュゥべぇに騙されてるよ』



さやかにもきっと、憧れていた正義の味方がいたはずだ。
でなければ、正義の味方なんて比喩はきっと出てこない筈だから。
まるであれは過去の自分を揶揄しているかのようだった。


「支えになるものが、この人にもあったんじゃないかなって」


中学生の女の子が戦いに身を投じるなんて、生半可な覚悟ではできないのを、キュンキュンは身をもって知っている。
少なくとも、最初はあったはずのその憧れを。
きっと何かを守りたかった原初の想いを。
誰かを想う気持ちを見失っているのなら、取り戻させてあげたい。


「……そう都合よく改心してくれるとは、とても思えませんが」


相手の善性を信じたい気持ちは理解できても、美鈴がその青髪の少女を信用することはどうしてもできなかった。


「いざという時は、わたしが止めます」


美鈴の葛藤を察した上で、キュンキュンは強い意思を宿した瞳で彼女を真っ直ぐに見つめ返した。

「それに……このソウルジェムというものがなければ、多分この人は戦えないと思うので」

魔法少女に変身させさえしなければ、さやかはただの無力な少女に過ぎない。
その冷静な計算もまた、彼女の中には確かにあった。


「紫雨さん」


美鈴は苦々しい顔をして言う。
もっと根本的な懸念を。


「もしも、この人を本気で止めるおつもりなら……紫雨さんはもっと────」



────傲慢になられた方が良いのでは


□


□



「アイドルとしてのあなたには、自分だけを見て欲しいという欲が欠けている気がします」


美鈴がキュンキュンの立場であれば、さやかを自分がいなければ生きていけないと思わせるほどに心へ入り込み、夢中にさせるだろう。
それほどのことをしなければ、到底彼女を説得するなど不可能なのだから。
八十人以上を殺して優勝を目指す、それは生半可な覚悟じゃない。
そんな相手を諦めさせるには最早洗脳染みた魅了で、その心を埋め尽くさなければ、人はそう簡単には変われない。


「まず、あなたにこの人を惹きつける魅力がなければ……この人を変えるには力不足では」


「傲慢……」


これまでアイドルプリキュアというチームで活動してきたが故に、彼女の輝きは夜空に群生する星のように光を放っていた。
しかし、決して物語の主役は彼女ではなかった。

全員が一つになって放つ輝き。そしてその中央にはいつだって、咲良うた──キュアアイドルという最高の一番星が鎮座していた。

(そうだ……今のわたしは、一人だから……)

仲間たちの力を借りることは、もうできない。

誰かを救いたいという無垢な善性だけでは、さやかには届かないかもしれない。
『自分だけを見てほしい』と世界を歪めるほどの強烈なエゴがなければ、背中の殺人者を繋ぎ止めることなどできないのではと、美鈴は語っていた。


(うた先輩、なな先輩、プリルンとメロロンもいない……)


少なくとも今の自分には一番星になれる輝きがない。
仲間がいない一人きりの自分を、美鈴の目からはそう映っていたのだろう。


「一つ、お聞きしても?」


美鈴の声は、静かで、恐ろしいほどに澄んでいた。


「紫雨さんは……そのブローチとリボンで、プリキュアという戦士になれたのですよね?」

「……ええ。そうです、けど」

意図を掴みきれず、キュンキュンは戸惑いを隠せないまま、美鈴は静かに自身のポケットへと手を差し入れる。
そして、そっと取り出されたそれを、視界の真ん中に提示してみせた。

「わたしにも支給されていたんです。似たようなものが」

「っ……!? これって、ウインクの……!? どうして、美鈴さんが……」

こころの息が止まった。
美鈴の手のひらに鎮座していたのは、見間違えるはずもない、推しであり仲間であり先輩でもあるキュアウインクのアイドルハートブローチとプリキュアリボンだった。
なぜ彼女がそれを持っているのか。ウインクの身に何があったのか。一瞬最悪の想像が脳裏をよぎり、こころの瞳が激しく揺れ動く。

「やはり、お知り合いのものでしたか」

こころの動揺を観察するように見つめながら、美鈴の唇がかすかに言葉を紡ぐ。

「申し訳ありませんが……この殺し合いが終わるまでの間、こちらはお借りします」

「借りるって……何を言っているんですか……!? それは、なな先輩の──」

こころの制止を静かに遮り、美鈴は手の中のアイテムを固く握りしめた。
その指先にこもる力は、生き残るための、不退転の決意そのもの。

「最初は使い方が分かりませんでしたが、これがあれば変身できると分かった以上……わたしも、紫雨さん以上のプリキュアになれるはずです」

「……っ、……」

圧倒的な傲慢さを提示してみせた美鈴の言葉が、こころの胸を強く突き刺す。


「……分かりました」


名簿にキュアウインクこと蒼風ななの名前はない。
美鈴が彼女を害したとはいえず、森口がアイテムだけを盗み出して美鈴に支給したのだろう。
なな以外にプリキュアに変身できるのか不明だが、もしも可能ならば美鈴の身を守るための武器になる。
キュンキュンにそれを奪い返す権利はなく、万が一の戦力として数える事もできるが。


──わたしも、紫雨さん以上のプリキュアになれるはずです。


そう言ってのけた美鈴の豪語だけが、胸の奥に冷たく澱のように引っかかっていた。






らしくない。

秦谷美鈴は、自分の言動と行動を振り返り、そう思っていた。


自分のペースでほどほどに歩いていきたいという、美鈴の信条からすれば、些か急な行動に出ていたからだ。
手の中のブローチの重みを強く実感しながら、美鈴が思い浮かべたのはやはりあのヒロト(グラン)という少年。


(緑川さん……)


予想通りに亡くなった緑川リュウジの存在も大きい。

美鈴が見た、リュウジの命が散華するのを表したような、夜を引き裂く神々しい輝き。

それは到底、人間という肉体が放てる物理的な光などではなかった。

あんなものに対抗するには、マイペースに歩いている場合ではない。
息を切らして、肺が苦しくなろうとも、この命を奪い合う残酷な世界では全力で疾走を続けるほかない。


(まりちゃん……)


本気を出さなければ、二度と帰れない。

冴々とした光をたたえた、宇宙で一番美しき月の元へ。



【H-4/早朝/1日目】

【紫雨こころ(キュアキュンキュン)@キミとアイドルプリキュア♪】
[状態]:健康、キュアキュンキュンに変身中
[装備]:アイドルハートブローチとプリキュアリボン・キュアキュンキュン@キミとアイドルプリキュア♪
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×0~1、美樹さやかのソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ
[思考・状況]
基本方針:殺し合いなんて心キュンキュンしないこと絶対に止める!
1:この人(美樹さやか)は説得したいけど……
2:今までと違って、一人で戦わなくちゃいけないんだ。
3:美鈴さんと行動して、古畑さん達と佑芽さんという人を探す。
[備考]
※ダークイーネ撃破直後から参戦です。


【秦谷美鈴@学園アイドルマスター】
[状態]:疲労(大)
[装備]:アイドルハートブローチとプリキュアリボン・キュアウインク@キミとアイドルプリキュア♪
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0~2
[思考・状況]
基本方針:生きるために“本気”で動く。
1:紫雨さんと行動する。古畑という人と佑芽さんを探す。
2:わたしもプリキュアになれるはず……。

※初星コミュからの参戦です。



【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(小)、精神不安定、ソウルジェムに濁り(小)、気絶
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×0~2
[思考]:優勝して、人間に戻る。
1:目に付いたやつを殺して回る。

※電車でホスト殺害後~魔女化前からの参戦です。
※ソウルジェムの穢れはリセットされていますが、再び穢れが最大まで溜まると魔女化します。



【アイドルハートブローチとプリキュアリボン・キュアウインク@キミとアイドルプリキュア♪】
秦谷美鈴に支給
キュアウインクへの変身を可能にする。カラーは青。
固有技は『ウインクバリア』。
青いダイヤのバリアを張り攻撃を防げる。
さらに張ったバリアを足場代わりにするなど応用性も高い。

現状、本来の変身者(蒼風なな)以外が変身できるかは不明。






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005:『Kの奸計/希望に縋る少女たち』 こころ
005:『Kの奸計/希望に縋る少女たち』 美鈴
005:『Kの奸計/希望に縋る少女たち』 さやか


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最終更新:2026年09月04日 19:51