『その血のさだめ』
第七シアター。
上映作品『ピンクダークの少年(OVA)』を映し出す銀幕の前に、二人の影があった。
「『敵は外に逃げた』。そう叫べ」
「……ぃっ、ぐっ…………!」
「聞こえなかったか? オレは命令しているんだぞ。お前のゴミのような仲間に向けて、『敵は外に逃げた』。早く叫べよ」
ドゥクン、ドゥクンッ。
薄い皮膚の下で脈打つ、確かな生命。
岸辺露伴の首筋。そして、背後のゼオン・ベルの指先に伝わる──温かな血潮。
先の三頭政治で負った傷を癒やすには、いくらか血が必要だった。
ゆえにゼオンは、映画見たさにノコノコ迷い込んでくるバカを待ち伏せるつもりではあったが、まさかこうも早く朝食にありつけるとは。
まずは、この原作者を名乗るゴミの血を、一滴残らず吸い尽くす。
その後は、先程から微かに気配を感じている『仲間』共も滅する。
吸血の邪魔になるため、今はあの鎧を脱ぎ捨てているゼオンだが、──連中が外へ逃げた隙に装着すれば、何の問題もない。
『グランシャリオ』──。
──その一声が、血祭りの幕開けとなる。
無論、そんな腹の内を、わざわざ獲物に教えてやる義理はない。
ゼオンは露伴の首を掴んだまま、あくまで優しく、慈悲深く、言い聞かせていた。
「あ……あいつを引き込めば……」
「あ?」
不意に、露伴の唇が動く。
「あいつを差し出せば……ほ……本当にっ。僕の命は……助けてくれるのか?」
声が震えている。
その醜態がよほど愉快だったのだろう。
ゼオンの口元が、愉悦に歪んだ。
「なんだ、そんなことか。フン……いいだろう。約束してやる」
「…………!」
「そいつの『養分』と引き換えに、お前の命は見逃してやる。どうだ? 悪い取引ではあるまい?」
「……ほ、本当……なんだな……?」
「チッ……! 何度も言わせるな。助けてやると言っているんだ!」
『ピンクダークの少年』は、勇気と人間賛歌を描き、多くの読者を虜にした傑作漫画。
だが、その生みの親である岸辺露伴の瞳に、今、映っているものは一つしかない。
かつて、あのエイリアンによって骨の髄まで刻み込まれたもの。
死の淵で味わった、あの絶対的な無力感。
──『恐怖の再演』。
「さあ、叫べよ」
「…………」
しかし。
恐怖を知らず、ただ闇雲に人間へ挑みかかるノミに、『勇気』などというものは存在しない。
『勇気』とは、『恐怖』を我が物とし、それでもなお、一歩を踏み出すこと。
いくら強かろうと。いくら傲慢であろうと。
他者の命をゴミとしか見做さぬこの吸血鬼には、決して理解できぬものがある。
「早く、叫べよ! 漫画家!」
「……っ、…………」
ゆえに、たった一言を返す。
露伴のその手は、最後の最後まで。
一枚の原稿を握り締めていた────。
「だが断る。──────露伴、もう十分だ。あとは『お兄ちゃん』の仕事だからな」
「「……ぁ?」」
「283プロの星、いきまぁす!!」
不意だった。不意すぎた。
岸辺露伴──その真後ろから、場違いなほど明るく、弾けるような『少女』の声が響き渡った。
どういうわけか。
ゼオンに、金髪アイドルと楽しく昼食をかわすなどという──『存在しない記憶』が一瞬流れ込み。
そして、浮かんだ瞬間には、跡形もなく消し飛んでいった。
♪THE IDOLM@STER SHINY COLORS♪
『赤血操術・百斂』
《歌:八宮めぐる♡》
…
……
………
◆
──数刻前に遡る。
映画館へと足を踏み入れた岸辺露伴は、ロビーから続く廊下を歩いていた。
【新作追加・上映ラインナップ】
- 『ドロテア・コイエットの日本紀行』
- 『幽玄真影流』
- 『銀河一の賞金稼ぎ』
- 『スペシャルライブステージ ~笑顔のユニゾン♪~』
- 『由比ヶ浜家の日常【リビング編】』
- 『M(昭和31年制作)【初回特典つき】』
……
…
「……『M』。フリッツ・ラングか? なんの特典くれるんだよ、なんの」
その題名を一つ、また一つと目で追っていくうちに、露伴の眉間には深い皺が刻まれていったが──そんなことは関係ない。
露伴のお目当ては、七番シアタ―にて上映中の、かの作品だった。
「……ハハ。初見の方には、まず原作をオススメするがね」
映画館の入口看板に大きく書かれていた、『ピンクダークの少年(OVA)』。
自らの描いた線に色がつき、声が与えられ、紙の上でしか生きられなかった登場人物たちが動き出すのだ。
期待はしない。
されど、このアニメーションに惹かれた参加者には、『期待』に値する。
律儀にもホットドッグとドリンクを手に、露伴は扉へ手を掛けようとしたものだったが、
「……けてっ。助けて……くださいっ…………!!」
「は?」
悲痛な叫び声が、次第にこちらへ近づいてくる。
息を切らし、傍らへ駆け寄ってきたのは、いかにも自己肯定感の低そうなアイドル──風野灯織だった。
露伴は基本的に、若い女が嫌いだった。(自分の読者であれば話は別だが)
こういう連中に自著を与えても「かわい~」「映える~」──浅薄な感想しか漏らさないだろうという、歪んだ偏見を持っていたためである。
そんな種族がセコセコやってきて、おまけに開口一番が『助けてください』ときた。
一通り話は聞いてみたものの、露伴の眉間の皺が薄まる様子はなかった。
「……いや、待て」
「はぁ、はぁ……。……っ、ぅ…………」
「今、何と言った?」
だが、話を聞いていくうちに、露伴も次第に耳を傾けざるを得なくなる。
灯織は、手の甲に爪を立てながら語っていた。
自分は逃げてきた。──ただし、『アレ』から逃げたわけじゃない。
誰かに助けてほしかった。──ただし、『自分』を助けてほしいわけじゃない。
「じゃあ僕は何から助ければいいんだ」と、露伴は苛立たしげに頭を掻いたが、返ってくる答えは同じだった。
「……めぐるを、私の……と、友達をっ…………助けてください…………」
その折。
何かが、廊下の向こうから飛来した。
「なッ!!? お前っ!?」
『あれぇ? 露伴センセ?? ねぇ? ねぇ? ボクを助けて。ねぇ?』
既視感にしては、あまりにも目に焼き付き過ぎていた。
眼前に現れたのは、殺し合いの開始直後、自分と佐倉千代に襲いかかってきた『チープ・トリックのDISC』。
どう一周回って自分の元に帰ってきたのかは不明だが、灯織によると先程まで自分たちはそれに追いかけられていたのだという。
だが、そんな回収し損ねたゴミの事情など、今はどうでもよかった。
『センセ。ボク言いつけ守った。悪い奴しか追ってない。だから、助け──』
「言いつけを守った、か。グローグーは褒められずとも言いつけを守るのだがな。化け物がッ」
────爆ッ散ッ。
たった一撃だった。
『少女』の拳が、飛来してきたDISCを真正面から捉えた。
砕け散った破片が床を跳ね、乾いた音を立てる。
「な」
「ヒッ!! ………………め、ぐる……」
そこに立っていたのは、金髪の美少女だった。
鼻梁には、薄気味悪い黒いテープ。
華やかなアイドル衣装とは不釣り合いな、死人のように青白い顔色。
血濡れの拳。
明るい声色にまったく合っていない、その口調。
「……すまない、灯織。……もう二度と、お前を悲しませるような真似はしない。……だが、この映画館は、もう──」
「ヘブンズ・ドアッ!!!」
「むっ」
緑色の生命体を抱えた──八宮めぐる──『らしき存在』。
灯織など助ける気は、露伴には毛頭なかったが、その友達が奇怪な存在に取り憑かれているなら話は別。
取材半分で、ヘブンズ・ドアーをめぐるへ打ち込もうとし。
「…………ほう。お前もめぐるを傷つけるつもりか。……ならば容赦はせん」
グシャッ。
対して、八宮めぐる《脹相》は、指をそのまま露伴の右肩へと突き刺した。
──野太い絶叫と。
──悲痛な少女の叫びが、交差した瞬間だった。
「や、やめてっ……!! お願い、もうやめてよぉっ!! めぐるぅぅっ!!!!」
◆
ロビーにて。
床に腰を下ろしためぐる《脹相》は、グローグーにチュロスを渡す。
「半分こだ。おれは兄だから、小さい方でいい」、「んぅ!」。
すっかり懐いてしまったグローグーは、嬉しそうにチュロスを受け取り、一口。
もぐもぐ、もぐもぐ。
シナモンシュガーの味が口いっぱいに広がると、その大きな耳がぴくりと揺れた。
つぶらな黒い瞳をキュッと細め、なんとも幸せそうな顔になる。
やがてチュロスを平らげたグローグーを、めぐる《脹相》は、自分の膝の上へと抱き上げる。
今度は、読み聞かせの時間だった。
『ピンクダークの少年』第三十一巻。
めぐる《脹相》は、アイドルらしい声色で、描かれた台詞を一つひとつ丁寧に読み上げていく。
彼女《彼》は、決して満面の笑みを浮かべているわけではなかった。
それでも、──そこには、どうしようもなく幸福そうな『兄』がいた。
「…………第三十一巻ッ。そこから読み聞かせるアホがどこにいるッ」
「…………もう……やだよ…………。めぐる……っ」
対して。
ソファにぐったりと腰掛ける被害者二人は、時間が経つほど深い陰が落ちていたのだが。
「……グローグー。あのとき、お前が名乗ってくれたことを、おれは嬉しく思っている」
「んぅ……?」
「めぐるを縛っていた茨を、おれたちは一緒に取り除いた。……お前がいなければ、あの子を救えなかったかもしれん。──」
「──安心しろ。……おれは、大切なものを守るためなら、何度でもこの命を懸ける」
顔を両手で押さえ、もう限界と言った様子の灯織に、かける言葉が思いつかない。
右肩の激痛も相まって、露伴はどうしようもなく頭を抱え始めた。
「『おれ』……ねえ。……その身体で、よくもまあ……」
「……お願い、します……。露伴先生……っ。私、どうしたらいいのか……もう、わからなくて……っ」
天国と地獄が、これ以上ないほど鮮やかに分かれた映画館のロビー。
灯織が涙を堪えながら説得して以降、どうにか形ばかりの和解に至った四人は、その絶望的コントラストに酔いしれていた。
灯織は、比較的話の通じる相手である露伴に、これまでの経緯を打ち明けていた。
例の放送が行われた後、遠方から奇妙なDISCが近づいてきたこと。
グローグーがピクっと警戒したこと。自分が咄嗟に、その小さな身体を抱き締めたこと。
──めぐるがふと、目を静かに瞑ったこと。
──「わたしの代わりに。全部お願い」。
──今にして思えば、それが、めぐる本人から聞いた最後の『さよなら』だったこと。
そこから始まった文字通りの血祭りも、
イルミネの声のまま、凄惨な光景を作り上げていくめぐるのことも、
ずっと繋いでいた手を離してしまったことも。
その一つひとつを、灯織は話した。
『自分の友達が、自分のせいでおかしくなってしまった』。
『グローグー──あの子も、すっかり今のめぐるに懐いてしまった』。
『誰でもいいから、助けてほしい』。
誰かを責める言葉は、一つもなかった。ただ、自分を責める言葉ばかりだった。
露伴は思わず、深く溜息をついた。
「助けてほしいのは、むしろ君なんじゃあないのかね」
「………………」
「……ああ、すまない。だが、あのイカレ女は確かにこう言ったはずだ」
「……イカレ女って、言わないでください……っ」
「…………」
震える声の灯織。
再度、露伴は溜息をつかざるを得なかった。
「……『この殺し合いが終わったら、おれをめぐるの身体から祓ってくれ。真乃、灯織、めぐる……お前たち三人を、草葉の陰から見守れるだけでいい』」
「……」
「ハッ、涙ぐましい限りだよ。無論、僕は袈裟を着てなけりゃ『破ァッ』をやる趣味もない。助けてと言われても、依頼料だけ貰ってトンズラが関の山だが。……聞いてもらおうじゃあないか、風野灯織」
「…………はい」
露伴は、痛む右肩をさすりながら、ソファの背もたれに身体を預けた。
自称兄貴のめぐるへ、恨めしそうに視線を向け、再度向き直る。
「この殺し合いにおいて奴を利用することと、友情を優先すること。……さて。正解はどっちなんだろうね」
「…………」
「僕は知らない」
露伴はそれ以上、何も言わなかった。
慰めもしなければ、答えを押しつけることもしなかった。
──分かっている。
──『正解』が、どちらなのかくらい。
お兄ちゃんもどきの怪異が、本気で自分たちを気遣ってくれていることも。
その優しさを拒絶するのが、どれほど自分勝手なことなのかも。
今のめぐるを拒めば、グローグーも、めぐる自身も、危険に晒すことになるのだということも。
──衝動的に、手首を噛み切りたくなってくることも。
それでも、今めぐる《脹相》の行っている優しさは、自分の知っているめぐるの優しさじゃない。
だから、余計に。
余計に。
「…………っ」
『でも私は、これ以上、……めぐるに迷惑を掛けたくないんです』。
胸の奥に押し込めていた言葉を、どうにか喉から引きずり出そうとした時だった。
「……絵師の露伴」
「ァあ?」 「……っ、ぅ……」
「絵師の露伴。……さっきは悪かった。おれは謝るのが下手だ。だから、これをやる」
「『岸辺露伴』のニュアンスで僕を呼ぶんじゃあないッ! この腐れ外道がッ!!」
件のめぐるが、二人の元へ近寄り、露伴に絆創膏を差し出した。
絆創膏一つでは、どうにかならない傷──ではないものの、露伴は鬼の形相で金髪少女を睨み続ける。
灯織はめぐるの目からすぐ逸らし、顔を曇らせた。
ただ、声が聞きたくて話しかけてきたわけじゃないだろうに。
めぐるの力なく垂れた右手。その絆創膏を、グローグーが食べちゃった折。
「……すまない、灯織。……これはさっき、グローグーにも伝えたことだ」
「は?」 「……」
「この映画館には、特級クラスの化け物が潜んでいる」
ふと、彼女《彼》の目の下に──赤黒い血の紋様が浮かび上がった。
「……おれは、兄としての宿命から逃げないつもりだ。──戦いになる。おれから離れるな」
「「は?」」
『誰もお前をお兄ちゃんと認めてねえんだよ』。
──そんな露伴の想いは、最悪の想定と、足元にてピンクダークの少年をもぐもぐ食べられる音で、かき消されていった。
めぐる《脹相》はゆっくりと首を巡らせた。
その視線の先には、一枚の扉。──第七シアターにて、おぞましいほどの『血の気配』がすると語る。
血の匂いではない。血の『気配』。
既に何らかの惨劇が起こった後なのか。
あるいは、これから上映されるのが、スプラッター映画の四次元上映なのか。それはまだ分からない。
それでも──『いる』ッ。
赤血操術の使い手であるめぐる《脹相》には、二人には知覚できない何かが感じ取れているのだと。
「映画館に来る前からその兆候はあった」「だが、灯織に追いつくことを優先した」「すまない」。
そう飾り気のない悔恨を滲ませ、めぐるは二人の顔を見つめ直した。
「……」 「……」
無論、それで道理が通るはずもない。
ましてや露伴に至っては、たまたま映画館に居合わせただけで、肩を負傷させられ、漫画を食われ、挙げ句の果てに逃走不能の処刑場へ放り込まれたのである。
とうとう、露伴が声を荒らげた。
「おい、おいおいおいおいおいおい~~~~~~ッ!! 逃げるも無駄だと?! 何を根拠にそう言えるんだッ?」
「……おれは、戦闘経験がない。だが、壊相。血塗。……弟たちに似た気配がするんだ。奴からは」
「は????」
「おれにとって、弟は大切な存在だ。……だが、お前たち人間にとっては…………言うまでもない筈だろう」
「……は? はぁ??」
神妙な面持ちと、おまけにその声が、余計に癪に障る。
露伴は続けて苛立ちをぶつけた。
「だからってどうするって言うんだ!! なんだ? 君が責任持って潰しにいくというのか? A型だかB型だか知らんが、そのヘモグロビンの気配に、先陣を切って!!」
「そのつもりでいる」
「はい???」 「……ッ! めぐる……!」
「……無論、この身体を傷つけるつもりはない。おれは、お前たち三人を連れて、必ず生きてここを出る」
『お前たち三人で』──括られたことが、何よりも屈辱だったのだろう。
いよいよ堪忍袋の緒を切らした。
「僕は関係ない」「巻き込むな」。至極もっともな主張を、自分本位に喚いた。
そう。正論であるからこそ、めぐるは何も言い返さなかった。
言い返せなかった、という方が正しいのかもしれない。
しばし、沈黙が訪れた。
嵐の前の静けさ。
ふと、グローグーの頭を撫でためぐるは、呼吸を置く。
覚悟を決めたように、露伴の肩へ手を伸ばした。
「……一理ある。おれは普通の人間とは違う。奴が狙っているのがおれならば、わざわざ逃げるお前を追う理由はない。──逃げろ、露伴」
「だから気に入った。……良いだろう。この岸辺露伴、囮として先陣を切らせてもらう」
──そして露伴は、必死に止めるめぐるを無視して、地獄の門を駆け抜けていった。
◆
『まあ、気持ちは分かる。……サンタクロースが両親を強盗殺人して、その金で次世代ゲーム機をプレゼントしたとして。果たして子供は喜ぶだろうか』
“……露伴、先生”
『バケモノの善意は、人間社会じゃ殺意と大差ない。……同情するよ、風野灯織』
眼前のスクリーンには、かつて自分が夢見た光景が広がっていた。
──『ピンクダークの少年』。
席についた途端、首筋に激しい痛みが走ろうとも、露伴は必死で笑いを堪えていた。
どれだけ、ゼオンが冷える声で囁いても、露伴の興奮は収まらなかった。
『恐怖』。
かつて、死の淵で味わった、絶対的な無力感。
──『恐怖の再演』。
──その恐怖を、そっくりそのまま、自分を痛めつけたアイドル野郎に味わわせることができる『復讐の愉悦』。
「さあ、叫べよ」
「…………」
「早く、叫べよ! 漫画家!」
「……っ、…………」
この高慢ちきなガキを、自分の味方に引き入れるか。
いや、死ぬ可能性の方が大いに高いが──なんでもいい。
ゼオンの要求を拒むつもりなど、毛頭なかった。
大声で叫ぶ準備も、とっくにできている。
そんな余裕からだろうか、露伴はふと背後へ小声をかける。
「(……数ある映画共から、これを選ぶとは。君の審美眼は、評価に値する)」
「あ?」
「(…………いいだろう。これが終わったら、是非とも読ませてやる。僕はファンを大切にするんだよ。ハハハ!)」
「(……ッ!? だ、黙れッ!! 誰がこんなモノのファンだッ!!!)」
ピンクダークの少年のファンと、勝手にみなしたゼオンへ──。
「だが断る。──────283プロの星、いきまぁす!!」
「「ぁ?」」
────その『存在しない善意』に、めぐるは最大限に答えてくれた。
………
……
…
◆
ゼオン・ベル。
──この帝王に関して、あらかじめ知らねばならないことがある。
まず、『瞬間移動』。
石仮面の影響から、瞬間移動を行うたび、激しい頭痛と耐え難い目眩がゼオンを襲う。
ましてや、遠距離への瞬間移動など論外。脳の血管が破裂し、そのまま脳出血による死を迎えかねない。
ほんの一瞬。されどその一瞬が、戦闘においては致命的な隙となるのだ。
次に、ジガディラス・ウル・ザケルガ。
ジャウロ・ザケルガ。
ラージア・ザケル。
レード・ディラス・ザケルガ。
ソルド・ザケルガ。
ガンレイズ・ザケル。
──現状、封印ッ。
いずれも、劇場の天井を吹き飛ばしかねない『大技』である。
屋根を破壊し、外の陽光を招き入れるなど、自殺行為も同然。
では、最も基本的な術である『ザケル』ならばどうか?
──否ッ。
普通の魔物が放つザケルを爆竹とするならば、魔界の王を目指す少年のザケルは、まさしく『爆殺』ッ。
その威力を知る者ならば、たかが映画館で、軽々しく撃てるはずもない。
そして、帝具『グランシャリオ』もまた同じく。
瞬間移動──生物が感じてはならない激痛に耐え、ゼオンは今どうにか『敵』との距離を取る。
これさえ身に纏えば、戦況は瞬く間に一変する。
たかが血を操るだけの小娘など、鎧の性能を試すための木偶にすぎなくなるはずだった。
が、
「もうお前は見飽きたッ! ……『グランシャリ──」
「百斂──《穿血》」
「チィッ!!!」
──バシュウウウウウウウッッ。
血色の閃光が、一直線に空間を貫いた。
音速を超える血液の狙撃。
帝具を地面に突き刺す暇さえ与えない、容赦のない一撃ッ。
相手は、敵の変身を待つという『戦いの不文律』さえ知らぬ爆弾娘なのだ。
距離を取れば撃たれる。
装着を試みれば撃たれる。
かといって、今のゼオンには瞬間移動を繰り返す余裕もない。
結果として、帝具『グランシャリオ』は、身を守るための鎧どころか、持ち運ぶだけでも煩わしい重たい剣でしかなくなっていた。
──事実上、封印ッ。デイバッグに封印ッ。
「……卑怯だと笑え。待っている余裕など、……お兄ちゃんにはないのだからな」
「この……貧弱者がッ」
ゆえに、『地の利』。
『地の利』──を──『得られた』。
強すぎるがゆえ。
ゼオンがあまりにも強すぎるがゆえ、神を怒らせたのか。
その力の大半が、劇場という運命に封じ込められているという──圧倒的デバフ。
「あぁ僕は思うなッ!! せめて君は『お姉ちゃん』だろッ!? このクソッカスの血みどろ娘がァァァァッ!!!」
「きゅぅ……」
あいさつ代わりは、出口へ放たれた血液の弾──『百斂』数個のお披露目だった。
ファンサービスのつもりか、戦いでところどころ綻び、白い素肌を覗かせるアイドルコスチューム。
ひらひら躍るスカートの裾に、「ハァハァ」と漏れ出る甘い吐息。
血のついた人差し指を、ちろりと舐める仕草まで、なんとも愛嬌たっぷり。
────グローグーのフォースによって、足音立てずに急接近した八宮めぐる《赤血操術師》。
────その傍らに立つ、小さな戦う生命体・グローグー。
──feat.スクリーンを守るのに夢中な人畜無害・岸辺露伴。
銀幕に映る物語が終幕を迎えようとも、現実の幕は下りない。
一人と一匹、対するは一人の吸血鬼。
──見下ろされる『血を使う者』と、見下す『血を欲張る者』。
血を血で洗う闘いは、すでに『長丁場』の様相を呈していた──。
「……王を決める戦いでは、お前のようなふざけたゴミがウジャウジャと現れた」
「……」
「そいつらの末路がどうなったことか……わざわざ教えてやる必要もないだろう?」
「…………戯言をッ」
「『死なせてください』と言え。バケモノがッ!」
「……来るッ! 隠れろ、グローグーッ!」
『戦闘潮流』。
──血のざわめき、再戦。
これほどの長丁場に至ったのは、決してめぐるとグローグーが善戦しているからではない。
数多の制約を背負いながらも、ゼオン・ベルがあまりに強すぎるのだ。
その『手札』は、未だ底さえ見せていないのである。
「晴れ空オーシャン……サンシャイン☆シエスタ──『苅祓』ッ!」
「それも見飽きたんだよ、豆鉄砲がッ!」
めぐるは掌に血液を凝縮させ、数枚の円盤状の斬撃を立て続けに放つ。
ギュルルルルッ────。
赤い刃は座席を斬り裂き、床を抉り、勢い余ってスクリーンへと迫る。
「ガァアアアッ!! 気をつけろと言っただろうが、このバケモノ共がァッ!!!」──岸辺露伴の大狼狽。
されど、ゼオンにとっては、溜息をつく価値すらない児戯であった。
続けざまに放たれる《穿血》。
血液の散弾、《血星磊》。
そして再び、《苅祓》。
血飛沫が舞い、金髪が踊り、可憐な声が劇場いっぱいに響き渡るが、──当たらない。
一発たりとも。一撃たりとも。
圧倒的スピードを誇るゼオンにとって、その全ては、ただのイカれたアイドルによる、騒々しいファンサービスにすぎなかった。
「……くだらん。血眼になって繰り出したのが、血の無駄遣い。お前の大道芸もいい加減飽きて来たぞ」
「……大道芸、だと? ……めぐるが積み重ねてきたもの、そのすべてを知らん童が……笑うなッ」
「君もにわかだろうがッ?!! オイオイオイオイ~~~~~~ッ!!!!!」
ゼオンの口を塞がんばかりに、めぐるは見えないマイクを握り、次々と攻撃を繰り出す。
俗に言う、『遠距離攻撃』。
血の刃をまとった接近戦も、血の鎧による打撃も捨てた、射撃の連続である。
八宮めぐるの運動神経は抜群だ。
数々の運動部から助っ人を頼まれるほどの身体能力は、戦闘においても存分に発揮されている。
だが、運動神経と戦闘経験は別物。
ましてや『赤血操術』を扱うなど、この肉体にとっては初めての経験である。
脹相の戦闘技術を、アイドルの身体で再現する。
その無茶苦茶なコレオグラフィー☆にも、いよいよ限界が近づいていた。
弾むたび揺れる、柔らかな胸元。
ふわりと舞い上がるスカート。その裾から、ちらりと覗く太腿。
太陽みたいに軽やかなステップ──《赤血操術》。
ただでさえ血の制御に精一杯のめぐるに、──気付けば眼前にいたゼオンなど、捉える余裕がなく。
「……グッ、速いッ! 速すぎ──」
「それはオレを褒めているのか? それとも、これから食らう技を褒めているのか? ……奴隷が!」
スクリーンの敵役が「最高速度でブチ抜いたる」と吠えた、その瞬間。
──『気化冷凍法』。帝王ディオ・ブランドーが編み出した技。
ゼオンの指先が、めぐるの腕を掴む。
直後、凄まじい速度で、白い霜が肌を這い上がった。
コォォォォォ……。
ズキュゥゥゥゥゥンンンッッッ────。
「ぐッ……! が、ああッ……!! ぐおおおおおおおおおッ!!!」
壊死ッ。凍死ッ。永久凍土ッ。
波紋疾走を流すのに必要な血流を凍結させることで、波紋を流せなくさせる──生命の熱そのものへの蹂躙。
赤血操術の原理など、ゼオンには知る必要もない。
ただ、血を操るというのなら、その血を凍らせてしまえばよい。
至極単純にして残酷な解答は、めぐるを確実に追い込んだ。
「体温上昇……赤鱗躍動が使えんッ。──」
「──ならばッ! 九相図兄弟……ファイヤーッ!!!!」
そしてめぐるは、とっさの判断で、自らの胸元へと腕を滑り込ませた。
柔らかな膨らみが、押し込まれた腕に合わせてむにゅりと形を変える。
弾力、温もり。
わずかでも『熱』を取り戻し、血の流れを繋ぎ止めるために。
鋭くッ、鈍くッ。
「オイオイオイオイオイッ!!! やっていいことと悪いことがあるだろッ!!」
「グッ……! ……想像力が豊かだな、露伴。だが……下劣な妄想は、おれは好かん」
「想像だとッ!? 見たまんまだろうがッ!! このトンチキがァッ!!!」
ジュワァァァ……ァァァァ……ッ。
胸の奥から、今は深く眠る『めぐる』の悲鳴が聞こえる気がする。
他人の肉体を借りながら、その肉体を傷つけ続ける。
守るべき少女に、苦痛を押しつけている。
それでも、今は戦うほかないこの苦痛が、何より耐えがたかった。
そんな脹相の苦痛も虚しく。刹那。
悲鳴。──雷鳴ッ、────鼓膜を劈く、凄絶なる『轟き』ッ。
「『バルギルド・ザケルガ』」
「…ッ!!」
ゼオンが、嗤った。
「わざわざ詠唱してやったのだ。……ちゃんと叫べよ?」
『拷問用電撃』。
轟音とともに放たれた雷撃が、めぐるの全身を容赦なく蹂躙する。
三人と一匹しかいない劇場内にて、割れんばかりの拍手と大歓声が響き渡った。
「ァァ───────────────────────────────ッッッッ!!!!」
「フンッ。もっと歌えッ、踊れッ、血でも吐いてみせろッ!!」
「───────────────────────ッッッッ!!!!!!」
「お前の望むことなら、何でも許してやるぞ? どうした、さっきまでの威勢はどこへ行った?」
「────────────ッッッッッッ!!!!!!!!!!」
「一番チッポケな術の中で、永遠に苦しんでいろッ! 何もできない雑魚がッ!!」
その場に留まり続ける電撃が、めぐるの身体を焼き続ける。
無論、拷問とはいえ、ゼオンがこのアイドル術師から何かを吐かせたいわけではない。
意識を失うことさえ許されぬ苦痛の中で、この場で最も厄介な敵を、ただひたすらに削り取る。
それだけで十分だった。
悲痛な雷撃の最中、
ゼオンは嗤った。
──めぐるは、固く目を閉じ、ただ絶叫するばかりだった。
ゼオンは、牙を剥き出しにして笑った。
──めぐるは、喉が裂けんばかりに叫び、訪れかけた『走馬灯』を必死に拒んだ。
ゼオンは笑い飽きて、鼻で嗤った。
──めぐるは、真人によって殺されたと聞かされた弟たちへ、届くはずのない手を伸ばしかけた。
そして、ゼオンはとうとう拷問にさえ飽きてきた。
「だから歌えと言っているだろうが。命令ひとつ聞けんゴミがッ」
《バルギルド・ザケルガ》の雷撃の中、未だ痙攣し続けるめぐる。
その姿へ、ゼオンは鋭利な指先を向けようとして、
「(……グッ。壊相、血塗…………虎杖………)」
薄れゆく意識の中。
めぐるは、弟たちの名を呼んだ。
「(…………『いたどり』? …………誰だ、その名はッ……)」
──そのとき、ゼオンへ果敢にも掌《フォース》を向けるグローグーの姿が、めぐるの目に飛び込んだ。
──小さな、小さな弟の身体を捉えた、その瞬間。
めぐるは苦痛も痺れも忘れ、ただ本能のままに飛びかかり、その身を庇った。
「あ!?」
「ん……ゆっ…………!」
網膜さえ溶けそうな視界の中、しなくてもいい勇気を振り絞った小さな弟を、めぐるは抱きしめる。
怒りもない。喜びも、悲しみもない。
(……もういい。お前は、もういいんだ……!)
(……おれの反対を押し切って、ここまで一緒に戦ってくれた。……もう、十分だ……)
長きにわたる死闘で疲れ果てた、愛すべき弟の温もり。
ルーク・スカイウォーカーの教えを胸に、幾度となく宙を舞い、攻撃をかわし続けてくれた、その眠たげな瞳。
「んんっ」との声に、めぐるはただひたすらに、噛みしめた。
「……感動の再会かッ。なんだ? その弟もどきを殺さん限り、お前は本気を出せんのか」
「……ァ?」
そんなめぐるらへ、あまりにも冷えた水を差す雷帝。
ゼオンが悠然とマントで身を覆ったため──我を忘れて振るわれためぐるの拳は、虚しく阻まれたが。
「……お前……『弟』はいるか」
「あ?」
揺らぐ。
揺らぐッ。
無表情に燃える怒気が、揺らぐッ。
この死闘で初めて、二人の視線が真正面から交わった瞬間。
──映写機の音さえ、無音に感じた瞬間だった。
「フン……いたらどうした? オレは、空気にいちいち名前をつける趣味などないぞ」
「…………そうか。嫌いなんだな、兄弟が」
「あ? 当然だ。オレは『兄弟』という言葉が大嫌いなんだよ。お前だって、生ゴミと同じ括りにされるのはごめんだろう」
「…………」
その言葉を聞き終えたとき、めぐるの眉が、わずかに動いた。
その表情を見て、ゼオンは勝ち誇った。挑発が効いたのだと。
胸元にしまわれたグローグーは、谷間からめぐるの鼓動を聞いた。ボディソープの匂いに包まれながら、静かな覚悟を悟った。
岸辺露伴は、退屈そうに溜息をついた。「とうとう諦めたか」と、見限った。
──否ッ。
その三者、誰一人として、正しくはない。
めぐるが抱いたもの。
それは怒りでも、覚悟でも、ましてや諦めなどでもなかった。
「……ならば、教えてやる」
沈黙を破ったのは、この場の誰よりも静かな声だった。
「デキが良かろうと、悪かろうと。兄は弟の手本なんだ」
「あ?」
「兄が道を誤ったのなら、弟はその道を避ければいい。兄が正道を歩んだのなら、弟は後をついてくればいい。──」
「──おれには手本がない。何度も何度も間違える。──」
「──それでも弟の前を歩き続けなければならん。──」
「──グローグーも、灯織も、血は繋がっていない。だが、それがどうした。弟たちに恥じぬ背中を見せるためなら、おれは何度でも、『お兄ちゃん』になる」
──だからおれは強いんだ、と。
めぐるの顔に浮かぶ感情は、何ひとつなかった。
笑わない。
怒らない。
泣きもしない。
「──覚えておけ、雷の童。守るものの『重さ』を知らんお前には、勝敗の鍵は理解できん」
「……ハァ。知らないのか? 重いものは『足枷』って呼ぶんだよ。……殺してやる」
ただ、満身創痍のその無表情に、血の紋章だけが、消えざる誓いのように赫々と燃えていた──。
──そんな、エンドロールの予感がする時だった。
「め、めぐるッ!!!! もうやめてぇッ!!! 謝るから……私が悪かったから、もうめぐるを返してぇえええええええッ!!!!!」
「なッ」「あ」「んゅ……」
「ひ、灯織ッ! ここへは近づくなと言ったはずだ……!!」
「あぁ? ……フンッ」
一方にとっては不運。一方にとってはこれ以上ない天啓。
激しい戦闘の連続に、とうとう耐えきれなくなったのだろう。
守るべき少女が、劇場の出入口から飛び出してきた。
──格好の、獲物が。
「もう……やめて!!! やめ──」
「……ッハハ! 血女、守るものが多いと大変だなぁ? ──その重荷、オレが一つ残らず殺して軽くしてやるッッ!」
「なッ! やめろッ!!」
瞬間移動──。
頭痛も目まいも、あの女の頭蓋骨を砕くことだけを考えればなんてことがない。
兄だの弟だの、ゴミに名前をつける愚かさを教えてやる。
掌を伸ばすことで精一杯なめぐるを無視して、雷帝は灯織に拳を突き出した。
「死ねッ。オレの前に二度と──」
──そして、全てを思い出した、その瞬間。
──怒りのあまり、ゼオンの思考は焼き切られたように、真っ白になった。
「……ァ、あ……」
「……やめろ、と。おれは忠告したはずだ。雷の童」
…
……
“あいさつ代わりは、出口へ放たれた血液の弾──『百斂』数個のお披露目。”
“出口へ、『設置』した”
“『百斂』──数個ッ”
……
…
「ィ……ィイイイイイイイイイッッ!!! ァァァッ!!!」
「……お前を巻き込んだおれに、……兄を名乗る資格などない。すまない、灯織」
「ッざけるなぁああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ────」
マントも、もう間に合わない────。
『超 新 星』
──Illumination STARS☆
ゼオン目掛けて、一点集中で殺到する無数の『百斂』。
その全弾をまともに浴びたゼオンは、壁へ激突し、天井近くまで跳ね上げられ、勢いよく床へと叩きつけられる。
──そして最後は、『ピンクダークの少年』のスクリーンを派手に突き破り、とうとう意識を手放した。
「な、なぁあああああああッ!!!! ぼ、僕の作品がァアアア!!!! この……見返り美人で芸術が止まってる野蛮人がァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!」
………
……
…
◆
血戦から、しばらくして。
映画館の外。
灯織はグローグーを胸が痛むほど強く抱き締め、声にならない息ばかりが漏れていた。
もう、この小さな命の温もりに縋っていなければ、自分が壊れてしまいそうだった。
隣を歩くめぐる《脹相》は、その姿が気掛かりでならなかった。
血の繋がりはない。それでも、めぐるから託された以上、この宿命《さだめ》を守り抜く。
──D-8方面から感じる、『弟の気配』のためにも。
めぐるは、そっと灯織を抱き寄せた。
「ひっ。い、嫌……!! もう、やめて…………。やめ──」
「……おはよ! 灯織!!」
「……………え?」
懐かしい声。懐かしい笑顔。
「め、めぐる……!? めぐるなのっ!? めぐ……めぐるっ!!!」
「いや違う。『おやすみ、灯織!』……そう伝えるよう、言われていた」
「ゎ」
そして灯織の目から、完全に光が消えた。
…
……
『わたしの大切な人。イルミネの全てを。……どうか託します、脹相さん』
“…………分かった。俺は、全力でお兄ちゃんを遂行する”
……
…
──八宮めぐるが、自らの意志で、その身体を託したという。その現実を拒絶し続ける中。
徐々に奇妙な冒険は、まだまだ続く。
↙ 𝑻𝑶 𝑩𝑬 𝑪𝑶𝑵𝑻𝑰𝑵𝑼𝑬𝑫
【C-5/朝/1日目】
【八宮めぐる(脹相)@アイドルマスター シャイニーカラーズ】
[状態]:脹相に完全受肉体、疲労(中)、右腕の凍傷(小)、全身に傷
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:おれは灯織たちを絶対守る。……しばらく休んでくれ、めぐる。
1:D-8を目指す。……わからない。分からないが、おれは会わなきゃいけない人がいる気がする。
2:真人の言っていた『弟をぶっ殺した虎杖』という言葉が気に掛かる。
3:傷を治したい。めぐると灯織に、これ以上迷惑を掛けたくない。
4:……露伴。
※肉体強度不足により「赤鱗躍動」が使用不可。
※脹相が完全受肉しており、肉体の主導権を握っています。ただし、めぐる本人の人格は消滅していません。今はまだ深い眠りについています。
※声は八宮めぐるのままです。
【風野灯織@アイドルマスター シャイニーカラーズ】
[状態]:首に圧迫痕、絶望(大)、病んでる
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3
[思考]:私なんかに何ができるんだろう。
1:……お願いします。誰でもいいんです。私じゃ、めぐるを助けられなくて……。だから、どうか……お願いします……。
2:全部、私が悪いんです。私がもっとちゃんとしていれば……。罰なら、いくらでも受けます。だから……めぐるだけは……。
3:……ヒナさん……。キー坊……さんっ…………。
【グローグー@マンダロリアン】
[状態]:疲労(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3
[思考]:灯織、めぐると一緒にいたい。
1:灯織とめぐるを守る。
2:めぐるの中の存在(脹相)が好き。
※参戦時期は、ルークとの修行を終え、ディン・ジャリンの元へ帰還してしばらく経った頃(『マンダロリアン』シーズン3・第4話付近)です。過去の描写との整合性や、今後の展開への繋げやすさを考慮して設定しています。
※グローグーはフォースを通じて、記憶や感情を他者へ伝えることができます。ただし、明確に受け取れるのはフォースの熟練者、あるいはそれに類する能力を持つ者(『超新星』における新田ヒナなど)に限られます。
………
……
…
◆
無人の筈のスクリーン。
本が、焼け焦げる匂い。
白目を剥いて倒れていたゼオンは、その匂いに弾かれるように飛び起きた。
「あぁッ!!! あぁぁあああ!!!」
先の戦闘の余波か。
燃えていたのは、魔本ではなく、──ピンクダークの少年一巻。
「……チッ。何をしてんだ、オレは……」
慌てて消そうとした自分が、バカらしくなってくる。
痛む全身。破れ果て、もう見れないピンクダークの少年。
ティッシュクズのようなそれが、今の自分と重なって、痛みと共に嫌になってくる。
「くだらん」と。
ゼオンはマントの埃を落とし、無理矢理にでも切り替えることにした。
燃え尽きた漫画本を決して見ないようにして、どうにか。
その時だった。
「最新刊だ。この世界じゃ誰も読んだことはない。今刷りたてほやほやの最終巻だからな」
「……………何だ。お前か、漫画家」
ご親切にも──ではないが。
世界で一冊のみのそれと、ホットドッグを差し出す愚かな人間が、自分に声をかける。
もう、ゼオンは怒鳴り散らす気力すら残っていなかった。
「……やはり、マヌケを見ているとイライラする。今、お前を血祭りに──」
そう言いかけた時。
ゼオンの言葉が、途切れた。
「さて。さっきの続きだ。吸血しろ」
「…………は?」
「僕を殺せ」
露伴は、差し出した最終巻を引っ込めようともせず。
ただ、破れたスクリーンを一瞥した。
「それとも、クレジットまで見てからにするか?」
………
……
…
『君は、僕の漫画──そのアニメーションを見てくれた』
『……それ以上も、それ以下もないんだよ。僕には』
──何も映らないスクリーンを前に、二人は席に座る。
少年と、漫画家。
「……お前の死体なんか、すぐに潰して捨てるぞ。ゴミのようにな」
「陳腐な比喩だな。君はゴミ以外に何を捨てるという?」
「…………」
ゼオンは指先を、露伴の首筋へと突き立てた。
再演だった。恐怖の再演。
その地獄の時間の中で、露伴はポップコーンを一粒、口へ放り込む。
その隣で、ゼオンはホットドッグにかぶりついた。
「……お前のことなど、どうでもいい。殺したら、すぐに忘れてやる。くだらん人間なのだぞ」
「ああ。作家が作品以外で顔を覚えられるようじゃあ、おしまいだからね」
「…………」
露伴は、ストローに口をつけた。
ゼオンは、もうホットドッグを食べなかった。
「…………本当に、殺すのだぞ」
「それで、ピンクダークの少年は面白かったか?」
「……」
「もっと楽しみたいのなら、ぜひ原作を手に取ることをおすすめする」
「…………」
パンくずが一つ落ちた。
一つ、だけ。
最後。映写機が一瞬、ガガッ──と跳ねた時。
ゼオンは、ふと尋ねた。
「……漫画家。『兄』とは、なんだ」
「そうだな。人間は、大切なものほどすぐなくす。……失くした時、血眼になって探すのが兄という愚かな宿命なのだろう」
「…………そうか」
何気ない質問だった。
魔界の王を目指す少年の、ただの気まぐれ。
意味などない。
知ったところで、何かが変わるわけでもない。
「…………死ね。岸辺露伴」
「あぁ。僕の作品を見てくれてありがとう。ゼオン君」
ズキュンッ──。
もう、話すことがなくなったから。
それだけだった。
………
……
…
映画館を出たゼオンは、馴染み切った右掌を太陽へとかざした。
グランシャリオは纏っていない、その生身の手を、太陽に。
痛みはあった。火傷を紙やすりで薄ら撫でたような、不快な激痛だった。
──それでも、死ぬことはなかった。
「……ゴミばかり用意しやがって。森口、優勝した暁には、お前も必ず殺してやる」
上映作品『M』。
龍賀一族の製造過程を描いた映画にして、一名限定の入場特典。
──『血液製剤M』。
幽霊族の血を使い作られたこの薬は、投与された人間は凄まじい力を発揮する。
何日も飲まず食わず眠らず、疲れもなく昼夜働く事が出来る。
吸血鬼かつ、魔物であるゼオンだ。
その相乗効果が組み合わさった結果、一時的ながら太陽を克服した。
せいぜい、三十分ほどであるが、これは大きな進歩だった。
今度こそグランシャリオを突き刺し、声を上げ、鎧を身に纏う。
映画館傍で、ペットのように待っているセンゴクのヤギにも、目もくれない。
ゼオンは、そのまま、一歩。一歩。太陽の下を、確かに踏みしめていく。
次なる獲物に、今度こそ本当の実力を見せるために。
「優勝するのは、このオレだ」
──もしかしたら。
──あの血使いたちを、映画館の外で皆殺しにする未来もあったのかもしれない。
──第七シアターで上映されていた映画が、『ピンクダークの少年』でなければ。
【岸辺露伴@岸辺露伴は動かない(ドラマ版) 死亡確認】
【残り76人】
【C-5/朝/1日目】
【ゼオン・ベル@金色のガッシュ!!】
[状態]:吸血鬼化、Mによる一時的な太陽克服
[装備]:石仮面@ジョジョの奇妙な冒険、修羅化身グランシャリオ@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(東方仗助)×1~2、ランダム支給品(岸辺露伴)×1~2、ランダム支給品×0~2
[思考・状況] 基本方針:優勝する。
1:鎧(グランシャリオ)の性能テスト兼弱者狩りを行う。
2:映画館には二度と近づかん。
3:ヴォルデモート、宿儺と連帯し、会場の西で弱者を狩る。
4:次の日没時にD-3へ向かう。
5:映画の『兄』に嫌悪感。もしこの会場にいるなら殺す。
6:映画の『ピンクダークの少年』にはより激しい嫌悪。作者がこの場にいるなら、絶対殺してやる。
7:……あぁ、殺したんだったな。……くだらん。
※ファウードを乗っ取った直後からの参戦です。
※露伴の血を吸い、傷を回復させました。
※グランシャリオ装着中は、ゼオンのマントを併用できません。
【追加情報】
※吸血鬼化の副作用により、瞬間移動を行うたびに、激しい頭痛と目眩が生じます。遠距離へのワープを行うと脳出血で死亡します。
※『血液製剤M』は、幽霊族から作った不死の薬です。吸血鬼と魔物の血が混ざった結果、一時的に日光への耐性を獲得しました。ただし、直射日光を連続で浴び続けた場合、約30分で全身に重度の火傷を負い、死亡します。
※グランシャリオ装着中におけるゼオンの術の制限については、後続の書き手にお任せします。
※Mによって得た強化に関しては、日光克服のみとします。
【修羅化身グランシャリオ@アカメが斬る!】
ゼオンに支給。
全身鎧の帝具で、インクルシオの改良型。透明化機能はないが、安定した性能を発揮する。
通常時は大剣の形を取り、斬撃武器としても一級品。
【血液製剤M@鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎】
幽霊族の血を採取して作った秘薬。
上映映画『M』を最後まで鑑賞した、先着一名にのみプレゼント。(気が付いたら手に渡っています)
以降、『M』が上映されているか否かは後続にお任せしますが、血液製剤Mを手に入れることはできません。
※映画館では参戦作品に纏わる映像が流れていますが、基本的に名簿に載っている参加者は直接登場しないものか、
登場しても顔が影などでボカされており、直接繋がらない様になっています。
その為一方的に参戦している参加者の情報(能力・人となり)を得る事は極めて難しいです。
最終更新:2026年10月20日 22:53