『シン・バトルRワイヤル エピソード62/新たなるワイルドハント』
地下の用水路は湿った闇と薬品じみた匂いに満ちていた。
ドゥークーはマントの裾を静かに揺らしながら前を歩いていた。
湾曲したライトセーバーの柄が腰に収まりフォースで周囲の気配を絶えず探っている。
傍らを歩く五十鈴華は華道の家元令嬢らしい清楚な姿勢を保っていたが、肩にわずかな緊張が残っていた。
その時だった。
定時放送が始まったのは。
『一時限目、お疲れ様でした』
死亡者名簿が淡々と読み上げられていく。知らない名前が次々と流れる中、ドゥークーの表情に変化はなかった。
シスの暗黒卿として独立星系連合の指導者として死は日常だった。
ましてや名も知らぬ者の死など特に心を動かすものではない。
一方、五十鈴の反応は違った。
死亡者が読み上げられていく中、頰から徐々に血の気が引いていく。
『園みどり子』
その名前が聞こえた瞬間、五十鈴の肩が大きく揺れた。
「……みどり子、さん……?」
生徒会の園みどり子。大洗女子学園の風紀委員長であり戦車道の仲間。その名前が死亡者として読み上げられた。
五十鈴の喉が小さく鳴る。信じられないという想いが先に立つ。
(みどり子さんが、この島で……死んだ?)
死亡者発表は続く。
そして次の名前が五十鈴の心を容赦なく抉った。
『秋山優花里』
五十鈴の口から短い吐息が漏れる。手が小刻みに震え始めた。
同じあんこうチームの一員。戦車の知識に詳しい友人。沙織やみほ、麻子と一緒に五十鈴自身も多くの時間を共にしてきた仲間だ。
その優花里の名前が死亡者として呼ばれた。
「優花里さん……嘘、ですよね?」
掠れた声が地下の闇に溶ける。五十鈴の目が急速に潤んでいく。
華道の家元令嬢として人前で乱れた姿を見せてはならない。
そう自分に言い聞かせても涙は止まらなかった。
膝から力が抜け、その場にへたり込む。
五十鈴は顔を覆うように手を当て肩を震わせた。
「みどり子さんも……優花里さんも……死んでしまったのですか」
声が詰まる。友人たちの顔が次々と脳裏をよぎる。
戦車道の練習中に笑顔を交わした日々。
作戦会議で真剣な表情を見せる優花里。
風紀委員長の仕事を淡々とこなすみどり子。
彼女たちとはもう二度と会えない。
ドゥークーは何も言わなかった。
周囲を警戒しながらも視線は静かに五十鈴へと注がれている。
この娘が自分の悲しみと向き合う時間を静かに見守る。
五十鈴はしばらく顔を覆ったまま肩を震わせていた。
やがてゆっくりと顔を上げる。
涙で濡れた目がドゥークーを見つめた。
「……申し訳ありません。お見苦しい姿を……お見せしてしまいました」
「人の死を悼むことに見苦しさなどない」
五十鈴は深く息を吸い華道の精神で心を整えようと努めた。
悲しみに溺れていては友人たちの死を無駄にしてしまう。
「伯爵さん。私、大丈夫です。もう、立てます」
五十鈴は震える膝に力を込め、ゆっくりと立ち上がった。
「無理はするな。悲しみは、すぐに消えるものではない」
「はい……ですが、ここで立ち止まっていては何も変わりません」
華道の家元令嬢として戦車道の砲手として培ってきた精神が悲しみの中でも彼女を支えている。
ドゥークーは小さく息を吐き、口元にわずかな笑みを浮かべた。
「……君は強いな」
「いいえ。ただ……負けたくないだけです」
五十鈴は深く頭を下げた。
友人たちの死を胸に刻み、この殺し合いを生き抜く。
それが今の彼女にできる唯一の供養だった。
ドゥークーは地図アプリを開いた。
第一回放送を境に島の情報が更新されている。
五十鈴も同じようにスマホを操作し、更新された地図を見つめていた。
指が画面の上で止まり、大きく見開かれた瞳が「大洗女子学園」の表示を捉える。
「……大洗女子学園」
五十鈴にとって、それは単なる施設名ではなかった。
自分たちが通う学校であり、友人たちと過ごした日常そのものだ。
この島に大洗女子学園が再現されている。
五十鈴は地図を見つめたまま唇を強く結んでいた。
しばらくの沈黙の後、顔を上げる。
その瞳に決意の色が宿っていた。
「伯爵さん。大洗女子学園へ行きたいです」
五十鈴の声は静かだったが芯が通っていた。
華道の家元令嬢としての礼儀を保ちつつ、はっきりと自分の意思を示している。
「私の通っている学園です。みほさんが参加している以上、そこへ向かうと思います」
ドゥークーは五十鈴の言葉を最後まで聞きゆっくりと頷いた。
「その可能性は高いだろう。私に異論はない」
五十鈴は深く頭を下げ感謝の意を込めた。
「ありがとうございます」
みほがいるかもしれない場所へ向かうことができる。
五十鈴は小さく息を吐き、口元にわずかな笑みを浮かべた。
「礼には及ばない。地下を出れば、地図に従って進路を取れるはずだ」
ドゥークーが前を歩き出す。
五十鈴はその後ろに続いた。
悲しみは消えない。
だが立ち止まっていては何も変わらない。
みほと合流する。
それが今の彼女にできる最善の行動だった。
地下の闇が徐々に薄れ、出口の光が近づいてくる。
出口を出ると朝の渋谷の空気が肌を撫でた。
ビルの隙間から差し込む朝陽が湿った服をわずかに暖める。
二人の足音が無人の通りに静かに響く。
みどり子と優花里の死を胸に刻みながら五十鈴は前を見据えていた。
◆
朝の渋谷はすでに血腥い匂いを孕み始めていた。
シュラはゆっくりと通りを歩きながら視線を左右に泳がせていた。
着崩した上着の下で鍛え上げられた筋肉がわずかに膨らみ、十文字の傷が朝の薄明かりの下で醜く浮き上がっている。
ビルの隙間、路地の奥、シャッターの下りた店先。獲物の気配を探る。
グランという球蹴り野郎は逃がしてしまったが島にはまだ子供がいるはずだ。
子供を小蘭に殺させれば、この玩具はさらに壊れて自分に依存する。
猫猫を殺させるための下地作りとしても十分に価値がある。
傍らを歩く小蘭の足取りは覚束なかった。
顔の半分は乾きかけた返り血で赤黒く汚れ、頬や顎には複数の青黒い痣が浮かんでいる。
二人はゆっくりと歩き続けた。
朝陽が徐々に高くなり、ビルの影が短くなっていく。
その時だった。
定時放送が始まった。
『一時限目、お疲れ様でした』
森口が淡々と死亡者の名前を並べていく。知らない名前が次々と流れる中、シュラの耳に聞き慣れた音が引っかかった。
『チャンプ』
シュラの口元が歪む。
『エンシン』
どちらもワイルドハントのメンバーだ。シュラは肩をすくめた。
「早々に死んじまうとは使えねぇな」
イゾウがいれば、いくらでも巻き返せる。
シュラはそう割り切った。
『チャンプ』
二回目だ。シュラは小さく鼻を鳴らした。
「なんだよ、同じ名前の奴でもいたのか?」
シュラの関心はすぐに薄れた。まさかチャンプが二度死んだわけでもあるまい。
放送のミスか、あるいは同名の参加者がいただけだ。
名前はさらに続いていく。知らない名前、聞いたことのある名前が交互に流れる中、シュラは退屈そうに聞いていた。
『イゾウ』
「……は?」
低い声が喉の奥から漏れる。イゾウ。ワイルドハント最強の男。刀を扱う腕は群を抜いており、シュラが心から信頼していた男だ。
イゾウがいればオールマイトごとき斬り捨てられるはずだった。
なのに今、その名前が死亡者として読み上げられた。
「……嘘だろ」
シュラの声が低く沈む。十文字の傷が朝の光の下でよりいっそう醜く歪んだ。
小蘭が恐る恐るシュラの様子を窺った。
「どうしたの、シュラくん?」
「黙ってろ」
短い言葉で制する。小蘭はすぐに口を閉じて俯いた。
イゾウが死んだ。ワイルドハント最強の男がこの島で命を落とした。
チャンプやエンシンならまだしもイゾウだ。絶対に死なないと思っていた男が死んだ。
シュラの口元から愉悦の色が消えていく。
ワイルドハントの戦力は大きく減った。
小蘭が小さく息を呑む音を立てた。
シュラの表情が今までとは明らかに違っていたからだ。
愉悦に歪んでいた顔が険しくなっている。
シュラは深く息を吐き肩を回した。関節が鳴る音が朝の静けさに響く。
「イゾウが、ワイルドハント最強の男が死んだ……俺もちったぁ真面目にやらなきゃならねえみたいだな」
小蘭は理解できていなかった。
イゾウという名前も、ワイルドハントという組織も、彼女にとっては未知のものだ。
ただシュラの機嫌が明らかに悪くなっていることだけは痛いほど伝わってきた。
頭を撫でてもらえない。殴られるかもしれない。その予感が少女の胸を冷たく締め付ける。
シュラはデイパックを下ろして中身を漁り始めた。
ランダムで支給されたアイテムがいくつか出てくる。
シュラの手が止まった。
細長い長方形の柄。片手で握れるほどの長さ。
シュラは柄のスイッチらしき部分に指をかけ、半ば興味本位で起動させた。
振動音が朝の空気を震わせた。
真っ黒な刀身が柄からゆっくりと伸びていく。
平らで刃先に向かってわずかにカーブを描く形状。
刀身そのものは漆黒だが、縁をぼんやりとした白色の光が取り巻き、不気味な輝きを放っていた。
「……刀、か」
シュラは黒い刀身を見下ろし、低く呟いた。
ダークセーバー。
それはマンダロリアン指導者の証であり、ライトセーバーと斬り合うこともできる武器。
だがシュラの専門分野は体術だ。
刀を振るうより拳で骨を砕く方が性に合っている。
シュラは黒い刀身を凝視したまま、ふとイゾウの顔を思い浮かべた。
「……イゾウが生きてりゃ、渡してもよかったかもな」
だがすぐにシュラは自分の考えを否定した。
「いや、あいつは江雪一筋だったか」
イゾウの愛刀、江雪。あの男は他の刀など眼中になかった。
シュラは小さく鼻を鳴らし、黒い刀身を軽く振ってみた。
甲高い音が朝の空気を裂く。予想以上に使いやすい。
野心家であるシュラの手にこの武器はよく馴染む。
黒い刀身が朝の光を吸収するように沈み、白い縁だけが不気味に輝く。
「……悪くねえな」
シュラはもう一度、刀身を振った。横薙ぎ、縦の斬撃、突き。
体術で培った身体の使い方が自然と剣の軌道に乗っていく。
イゾウが死んだ今、使えるものはすべて使わなければならない。
シュラの口元に笑みが浮かんだ。
「これなら使ってもいいかもな」
朝の渋谷に二人分の足音が再び響き始める。
シュラの足取りには、これまでより少しだけ力がこもっていた。
二人が次の角を曲がった瞬間、空気が変わった。
足音を止めたシュラの前に怪物が現れた。
黒い外殻と細長く特徴的な頭部。
その生物の名はエイリアン、別名ゼノモーフだ。
シュラの目が細められる。
「……危険種か」
見たことのない姿だった。Dr.スタイリッシュが残した危険種とも違う。
シュラの手が自然とダークセーバーの柄にかかった。
試し斬りには丁度いい。口元に愉悦の色が浮かぶ。
だがエイリアンは攻撃してこなかった。
尾を左右に揺らし、頭部をわずかに傾けシュラと小蘭を交互に見ている。
しきりに何かを伝えようとしている様子だった。
喉の奥から低い音を漏らし、爪で地面を軽く掻く。
攻撃の予備動作ではない。むしろ対話を求めるような仕草に見えた。
「……なんだ、こいつ」
シュラが低く呟く。言葉を話せない獣のような相手だ。本来なら意思疎通など図れるはずもない。
シュラの脳裏に支給品の一つが浮かんだ。
プリキットグミケース。
説明書きによれば中に入っているジュエルグミを食べると三分間だけ、外国語どころか動物の言語まで理解できるようになり、こちらの言葉も相手に伝わる。
シュラはプリキットグミケースの蓋を開けて中のグミを口に放り込んだ。
甘ったるい味が舌に広がる。
エイリアンが再び喉を鳴らした。
『……白髭を……倒す……協力……』
シュラは眉を上げ、黒い頭部を見据えた。
「白髭だと? 誰だ、それ」
『……白髪……赤い剣……電撃……右腕を……斬られた……』
シュラは面白そうに口の端を吊り上げた。
「で、俺に協力しろってのか。その白髭を殺すために」
『……お前の力……必要……』
シュラは腕を組み、黒い頭部を値踏みするように見た。
本来なら強者と積極的に戦うのは避けたい。
イゾウが死んだ今、無駄な消耗は禁物だ。
弱い獲物を狙い、小蘭にトドメを刺させて玩具を壊していく。
『……白髭のそばに……若い娘……いる……』
シュラの目がぎらりと光った。
「若い娘、だと?」
『その女……白髭が……守っている……』
白髭が守っている若い娘。
それを小蘭に殺させれば依存はさらに深まる。
シュラの口元に悪辣な笑みが広がった。
「……面白いじゃねえか」
強者と戦うリスクはあるが若い娘を小蘭に殺させるのが優先だ。
「いいだろう。乗ってやる」
シュラはダークセーバーの柄に手をかけたままエイリアンを見据えた。
「ただし条件がある。白髭を殺した後、そいつのそばにいる若い娘は俺がもらう」
エイリアンの頭部がわずかに傾いた。
『……構わない……白髭を……殺せれば……いい……』
シュラは低く笑い、小蘭の頭に手を乗せた。
少女は怯えたように彼を見上げ、すぐに俯く。
指を動かして髪を撫でると小蘭の体から力が抜け安堵の色が浮かんだ。
「小蘭。いいニュースだ。新しい獲物が見つかった。若い娘だ。そいつをお前が殺せ」
小蘭の瞳がわずかに揺れた。
逆らえば殴られる。頭を撫でてもらえなくなる。
少女の唇が震えながら動いた。
「……うん。殺すよ。シュラくん」
「いい子だ」
シュラは満足げに頷き、小蘭の頭を撫でた。
エイリアンは尾を揺らし、先導するように路地の奥へ歩き出した。
「なあ、お前」
『……なに……』
「ワイルドハントに入れてやるよ。死んだエンシンの代わりだ」
イゾウが死にチャンプとエンシンも死んだ今、戦力は大きく減っている。
この見たことのない危険種を代わりに加えておくのも悪くない。
エイリアンの頭部がわずかに傾く。
『……ワイルドハント?』
「ああ。俺の部下だ。お前はエンシンの後任にしてやる」
エイリアンは尾をゆっくりと振り、思考を返してきた。
『……わかった……お前の部下になる……』
「話がわかる危険種じゃねえか」
シュラは満足げに頷いた。その会話を後ろで聞いていた小蘭の足がぴたりと止まった。
「……シュラくん」
掠れた声が響く。シュラが振り返ると小蘭が顔を上げていた。
痣だらけの頰に、どこか期待するような色が浮かんでいる。
「わたしもワイルドハントになりたい」
その言葉にシュラの眉がぴくりと動いた。
「……はあ?」
「ワイルドハント。わたしも、なりたいよ。シュラくんの役に立ちたい」
小蘭の声は震えていたが意思は固かった。
ワイルドハントになれば、もっと撫でてもらえるかもしれない。
もっといい子だと言ってもらえるかもしれない。
シュラはしばらく小蘭を見下ろしていた。そして喉の奥で低く笑った。
「……ぷっ、はははは!」
愉しげな笑い声が地下の階段に反響する。
エイリアンが振り向き頭部を傾ける。
シュラは腹を抱えるように笑いながら小蘭の頭に手を伸ばした。
「お前、本気で言ってんのか?ワイルドハントになりたいって」
「……うん。なりたい。シュラくんの……本当の仲間になりたい」
小蘭は真剣な顔で頷いた。
涙の滲んだ目がシュラを見つめている。
「いいぜ。なら、お前はチャンプの後任だ」
小蘭の目が大きく見開かれる。
そして嬉しそうな笑みが頰に広がった。
痣だらけの顔で返り血の乾いた跡を残したまま少女は純粋に喜んでいた。
「やった! わたし、ワイルドハントになれた! シュラくんの本当の仲間になれたよ!」
声が弾む。依存の鎖がさらに深く心に食い込む音がした。
シュラに認められた。仲間になれた。頭を撫でてもらえる。
それだけで少女の世界は明るく染まっていた。
レイを殺した感触も、子供を殺したいと言わされた罪悪感も、今はこの喜びに押し流されていく。
シュラは満足げに笑みを深め、もう一度小蘭の頭を撫でた。
「これからはチャンプを目指して働けよ」
「……うん! シュラくんのために、ちゃんと殺すよ!チャンプくん目指して頑張る」
小蘭は力強く頷いた。
ナイフを握る手が、これまでより少しだけ強くなっている。
シュラの部下としてワイルドハントの一員として期待に応えなければならない。
それを見たエイリアンが低い音を喉から漏らす。
『……人間は……奇妙……』
「気にするな。こいつはそういう玩具なんだよ」
シュラは軽く手を振り再び歩き出した。
小蘭は弾むような足取りで後に続く。
ワイルドハントになれた。
その喜びが少女の表情を歪んだ笑顔で満たしていた。
◆
大洗女子学園の正門をくぐった瞬間、五十鈴の足が止まった。
再現された校舎は朝の光を浴びて静かに佇んでいる。
無人の校庭、静まり返った校舎、風に揺れる木々の葉音だけが耳に届く。
五十鈴にとってここは日常そのものだった場所だ。
戦車道の練習で何度も通った道、友人たちと笑い声を交わした教室、生徒会室への廊下。
すべてが見慣れた風景として広がっている。
「……本当に大洗女子学園です」
五十鈴の声が感慨深げに漏れた。
二人は正門から中へ進んだ。
五十鈴が先導する形で校内を散策し始める。
「みほさんが、ここにいるかもしれません」
五十鈴は静かに言った。
みどり子と優花里の死を知ったばかりの心に僅かな希望が灯っている。
ドゥークーは五十鈴の横顔を一瞥して低く応じた。
「焦らないことだ。まずは周囲の安全を確認する」
「はい……」
五十鈴は素直に頷き、歩きを続けた。
校舎の窓ガラスが朝陽を反射して校庭の片隅に置かれたベンチが静かに影を落としている。一見平和な風景だがドゥークーの感覚はすでに張り詰めていた。
フォースで攻撃を察知して身を翻す。
同時に彼のマントが切り裂かれた。
ナイフが切り裂いたような痕跡が残っている。
ドゥークーはすぐに体勢を整えて周囲を見渡した。
左側の窓ガラスにミイラのような男が映る。包帯を幾重にも巻きつけた醜悪な人型がガラスの中で動いた。
ドゥークーの左手から青白い稲妻が奔流となって放たれる。
窓ガラスを直撃し、瞬時に蒸発させる。
「鏡を通して攻撃してくる……か」
厄介なことに、この付近にはまだ鏡になりそうなものが多すぎる。
五十鈴が震えながらドゥークーのそばに寄る。
「伯爵さん、あのミイラ男は!」
「鏡を利用した攻撃だ。油断するな。次は別の反射面から来る」
ドゥークーはすぐに五十鈴に指示を出した。
「鏡になりそうなものがない場所はないかね」
五十鈴は一瞬だけ考え込む。
大洗女子学園を知り尽くしている彼女にとって答えはすぐに出た。
「……グラウンドの中央はどうでしょうか。広くて平坦で、反射するものがほとんどありません。建物からも離れています」
ドゥークーは短く頷いた。
「そこへ急ごう」
「はい!」
五十鈴は最短ルートを把握していた。
二人は走り出した。ドゥークーが後衛を務めフォースで周囲を警戒しながら五十鈴を守る。
校舎の窓を過ぎるたびにドゥークーは稲妻を放って反射面を潰していく。
だがミイラ男は別のガラスに映っては消え、執拗に追ってくる。
五十鈴は息を弾ませながらも正確に道を示した。
「この先を右に曲がって、すぐにグラウンドです!」
二人は最後の角を曲がり、広大なグラウンドへと飛び出した。
朝陽を浴びた平坦な地面が広がっている。
反射するものがほとんどない空間だ。
ドゥークーはすぐに五十鈴をグラウンドの中央へ誘導して自らもそこに立った。
五十鈴は膝に手をつき、大きく息を吸った。
先ほどまでの緊迫がようやく少し緩む。
ドゥークーは即座に五十鈴の背中へ回った。
「背中合わせだ。瞳は鏡の代わりにもなる」
瞳孔もまた光を反射する。
背中合わせになることで互いの視界を守り死角をなくす。
ドゥークーの判断は速かった。
五十鈴はすぐに従いドゥークーの背中に自分の背を預けた。
その時だった。
校舎側の入り口から二人の人影がゆっくりと現れた。
先頭を歩くのは褐色の肌をした男。
顔に十文字の傷を持ち、着崩した上着の下から鍛え上げられた肉体が覗いている。
その後ろを小柄な少女がついてくる。
シュラと小蘭だった。
グラウンドの中央に立つ二人を見てシュラは口元を歪めた。
「ハングドマンを振り切りやがるとはな」
シュラはダークセーバーの柄に手をかけスイッチを入れた。
低い振動音とともに真っ黒な刀身が伸びる。
「てめえが白髭か。この刀の試し斬りには、ちょうどいい相手だ」
シュラは黒い刀身を軽く振りドゥークーを指差した。
五十鈴が小さく息を呑む。
ドゥークーは湾曲したライトセーバーの柄を握った。
「てめえを殺したあとは、その女を小蘭に殺させる。いいな、小蘭?」
「……殺すよ、シュラくん。ワイルドハントとして」
満足げに頷いたシュラがダークセーバーを構える。
「叩き斬ってやるぜ!」
シュラが地を蹴った。
黒い刀身が朝の光を切り裂き、一直線にドゥークーへと迫る。
鍛えられた肉体により振るわれる斬撃。
ドゥークーはライトセーバーを起動させた。
鮮烈な赤い剣が点灯してシュラの斬撃を優雅に受け流した。
黒い刀身と赤い剣が交差し、バチバチと音が響く。
この男の攻撃は速いが剣技は素人同然で読み切れる。
シュラが大きく踏み込みダークセーバーを振り下ろした瞬間、ドゥークーはライトセーバーで彼の腕を断った。
かつてアナキン・スカイウォーカーの腕を斬り落とした時のように容赦なく。
シュラのダークセーバーを握った腕が肘のあたりで切断されるはずだった。
赤い剣が肉を切り裂くが切断面が炎に変わった。
シュラの右腕は切り落とされたように見えたが、断面から橙の炎が噴き出し、一瞬で元の形に戻っていく。
「驚いたか、老いぼれ」
メラメラの実。
体を火に変化させ物理ダメージを無効化する自然系の力だ。
ここに来る前にシュラはメラメラの実を食べていた。
説明書きに泳ぐことができなくなると明記されていたので、これまで使用を躊躇っていた支給品だ。
大臣の息子である自分がカナヅチになるのは本意ではない。
だがイゾウが死んだ。ワイルドハント最強の男が命を落とした以上、リスクを取らざるを得なかった。
「興味深い力だな」
ドゥークーの声に驚きはなく、むしろ分析するような響きがあった。
「余裕こいてんじゃねぇぞ!」
グラウンドの中央で赤い剣と黒い剣が激しく交錯する。
ドゥークーのライトセーバーが弧を描き、シュラの胴体を斜めに切り裂いた。
斬撃の感触は確かに肉を捉えたはずだったが、シュラは体を火に変えることで斬撃を無効化する。腕を斬られた時と同じだ。
「……無傷か」
ドゥークーが低く呟く。
シュラはダークセーバーを振り上げた。
口元に嘲りの笑みが浮かぶ。
「俺は無敵になったんだよ!」
黒い刀身が鋭く閃く。シュラの斬撃が連続してドゥークーに襲いかかる。
ドゥークーは赤い剣で次々と受け止める。
剣が交わるたびに激しい音が響き、ダークセーバーの白い縁が光を散らす。
ドゥークーは一歩、また一歩と後ろに下がり距離を取る。
十分な距離を確保した瞬間、左手を開いた。
青白い稲妻がシュラに向かって放たれる。
空間を歪めるような勢いで電撃が直進した。
シュラの本能が警告を発する。
反射的にダークセーバーを構え、稲妻を受け止めようとした。
黒い刀身が稲妻を捉え激しい音が響くが完全には防ぎきれなかった。
稲妻の一部が刀身をすり抜けシュラの肩と脇腹を掠める。
電撃が体を駆け巡る。炎に変えられるはずの肉体に鋭い痛みが走った。
筋肉が痙攣し、一瞬だけ体勢が崩れる。
ロギア系の悪魔の実の能力者であってもフォースによる攻撃は有効。
シュラは歯を食いしばり体を安定させる。
「……思ったより使えねえ果実だな」
低く舌打ちする。メラメラの実の弱点を実感した瞬間だった。
イゾウが死んだことで仕方なく口にした果実だが完全に無敵になれるわけではないようだ。
「だが俺なら、こんな力でも使いこなせるぜ!」
シュラが低く叫び、片腕を大きく振りかぶった。
「燃え尽きろ!」
拳が炎に包まれ、巨大化しながら一直線にドゥークーへと放たれる。
メラメラの実の必殺技、火拳。
シュラの拳から放たれた炎が朝の空気を焼きながら迫る。
グラウンドの地表が熱で歪み、熱波が五十鈴の頰を打った。
ドゥークーは冷静に左手を開いた。
フォースで炎を真っ向から受け止める。
見えない力が炎を包み込み、そのまま真横へと逸らした。
巨大な火の塊がグラウンドの端へ飛び校舎の壁を焦がしながら爆発する。
黒煙が上がり、熱気がグラウンドを包んだ。
シュラは火拳が逸らされたのを見て舌打ちした。
「それなら新たなるワイルドハントの実力を見てやろうじゃねぇか」
校舎の影からエイリアンが躍り出た。
「ジジイを挟み撃ちにするぞ、危険種」
エイリアンは無言で応じ、ドゥークーと五十鈴の反対側へ回り込んだ。
尾を左右に揺らしながら二人を挟み込む位置を取る。
シュラが正面、エイリアンが背後。完璧な挟み撃ちの形が完成した。
自分を追いかけ回した怪物の登場に五十鈴の体は僅かに震えている。
だが目には決意が宿っていた。
みほと再会するためにも、ここで倒れるわけにはいかない。
「ハイエロファントグリーン」
五十鈴が静かに囁く。緑色の人型が彼女の背後に現れた。
「私も戦います」
ドゥークーは背中でその決意を感じ取り短く応じた。
「よかろう。背中は任せた」
「はい!」
シュラは二人の様子を見て愉しげに笑った。
ダークセーバーを振り一歩前に出る。
「へぇ、女も戦う気か。いいぜ。 小蘭に殺させる前に少し遊んでやるよ」
エイリアンは低く喉を鳴らし、尾を大きく振る。
ドゥークーは赤い剣を構え、五十鈴はハイエロファントグリーンで敵の動きを警戒する。
背中合わせの二人は互いの呼吸を感じながら次の攻撃に備えた。
「さぁ、老いぼれ!このシュラ様が命の授業をしてやるぜ!」
講師シュラと教務補佐エイリアンによる命の授業が開講された。
〔秘密警察ワイルドハント 残り4人+1匹〕
【D-7/朝/1日目】
【シュラ@アカメが斬る!】
[状態]:負傷、全身に無数の打撲、疲労(中)
[装備]:帝具「次元方陣シャンバラ」、ハングドマンのスタンドDISC@ジョジョの奇妙な冒険、ダークセーバー@マンダロリアン
[道具]:基本支給品一式、ペンチ、プリキットグミケース、不明支給品× 0~2
[思考]:ワイルドハントとイェーガーズを従えて玩具を蹂躙する。
1:白髭を殺して、連れの女を小蘭に殺させる。
2:小蘭を殴り、撫で、殺させ、褒める。
3:小蘭の依存をさらに深めさせる。
4:いずれマオマオを見つけ出し、小蘭に殺させる。
5:イゾウの死を受け、ワイルドハントの戦力を立て直す。
6:他のワイルドハントのメンバーも集結させる。
7:エスデス、イェーガーズを大臣の権力で従わせる。
8:戦力を整えてからオールマイトに報復する。
※一度の戦闘で使用できるシャンバラの回数は二回です。
※使用時の体力消費を%で計算することでシュラに限らず全ての参加者が同様に二回までとします。
※ハングドマンは制限でエリアを越えた追跡はできません。
※メラメラの実を食べました。
【エイリアン@エイリアン】
[状態]:『恐怖』を学習、小程度損傷、ディフィンドによる傷(ファウード栄養液により右腕は90%完治)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:狩りを絶対『再開』する。
1:シュラと連携して白髭を殺す。
※エイリアンに支給されたデイバッグは会場の何処かに放置されています。
【小蘭@薬屋のひとりごと】
[状態]:精神的損耗、返り血、顔に複数の痣、シュラへの依存(中)、ワイルドハントになれた喜び
[装備]:ナイフ
[道具]:基本支給品一式x3
[思考]:シュラくんに褒められたい。
1:シュラくんの言うことに従う。
2:チャンプくんのような立派なワイルドハントになる。
【ドゥークー伯爵@スター・ウォーズ】
[状態]:負傷(小)
[装備]:湾曲型ライトセーバー
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~2
[思考]:『命の授業』を滅ぼす。
1:シュラとエイリアンに対処する。
2:五十鈴華を生きて帰す。そして、駒(同志)を集め指揮する。
3:他の参加者の存在をフォースで察知し、交渉または排除の判断を下す。
4:首輪を解除する手段を探す。
5:ゲームに乗った参加者は、『特等席(死)』へ招待しよう。……私はあいにく、容赦は好まんものでね。
6:マスター(ダース・シディアス)を討つ。だが、今は時期尚早だ。十分に策を練った上で臨む。
7:アナキン・スカイウォーカーを止める。
【五十鈴華@ガールズ&パンツァー】
[状態]:疲労(小)
[装備]:ハイエロファントグリーンのスタンドDISC@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3
[思考]:華道の精神で心を整える。
1:私も戦う。伯爵さんと一緒に。
2:ドゥークー伯爵と共に行動する。
3:大洗女子学園でみほと合流する。
4:戦車道の経験を活かして冷静に状況を分析する。
5:……頑張ってください、アソーカさんっ。
【支給品説明】
【ダークセーバー@マンダロリアン】
黒いプラズマのブレードを放出する古代のライトセーバー。 円筒形のブレードが放出される一般的なライトセーバーとは異なり、ダークセーバーの刃は平らで金属の剣のように刃先に向かってカーブを描いている。ダークセーバーの刀身は真っ黒だったが、ぼんやりとした白色光に縁取られ、不気味な輝きを放つ。
【プリキットグミケース@名探偵プリキュア!】
グミケースの中にはジュエルグミが入っており、そのグミを食べると3分間だけ外国語や動物の言葉が自国の言語として聞こえるようになると同時に、こちらの言葉も相手の国の言葉や動物の言葉に変換される。
【メラメラの実@ONEPIECE】
ロギア系悪魔の実。外見はオレンジ色のメロン型であり、どことなく炎を彷彿とさせる形をしている。 食べると全身が炎になり、火炎を操る事が出来る。
最終更新:2026年10月26日 02:00