『テイルズ・オブ・アライブ』
【CLONE WARS】
──“When it comes to the bond between Master and apprentice, I don’t think there’s any choice at all.”
(師弟再会を前にして、選択の余地なんてない。私はそう思いたい)
話を聞く限り、ドゥークー伯爵は、マスターに殺されたらしい。
なのに生き返って、今度は私を助け、共闘まで持ちかけてきた。
敵の親玉が私を助けて、信じていた師匠が私を殺そうとする。
……まったく。銀河中を飛び回ってきた私でも、こんなのは初めてだ。
なのに今、頭から離れないのは、伯爵の話なんかじゃなかった。
“砂漠は嫌いだ。一度埋まれば誰にも見つけてもらえない。太陽に焼かれて、喉が渇いて、それでもすぐには死ねない。……あんな場所で生きるのは、生き地獄だ”
『なにそれ。スカぴょん、砂ばっかり見てたんじゃない? 地獄にだってオアシスはあるんだから』
“………………”
ずっと前。戦争の合間に交わした、どうでもいい会話。
私の軽口に一瞬だけ顔を曇らせて。すぐに、いつもの澄ました顔に戻った。
私のマスター──アナキン・スカイウォーカーの、あの表情が。
………
……
…
◆
……へえー、悪の親玉も、普通に朝ご飯食べるんだ~……なんて。
当たり前なんだけども、なんだろう。銀河をひっくり返そうとしてる『シス卿』が食事って、ちょっと変な感じがした。
場所は、近くのレストラン。
私の隣にはイスズという女の子。
──そして向かいには、ドゥークー伯爵。
テーブルの傍には、伯爵のデイバッグから出したらしい二人のクローン兵が、護衛みたいに控えている。
ついさっきまで「共和国は腐敗している」だの「分離主義には大義がある」だの、偉そうに語っていたその口で。
悪の伯爵様は、黙々と食事を続けていた。
「あの……ドゥークー伯爵さん。やはり、考え直していただくことはできませんか?」
「考え直す、か。……残念ながら、平和主義というものは私の最も苦手とする思想でね。イスズのお嬢さん、悪いが克服を手伝ってもらえるかな?」
「……茶化さないでください」
「これは失礼」
イスズの話を聞きながら、伯爵様はグリーンピースをナイフで器用に寄せていく。
それからフォークを一突き。五粒。刺し直しなしで、きっちり五粒。
カチャカチャカチャカチャ、几帳面に食べてる。
「伯爵さんのお考えにも、理由があることは分かりました。ですが……だからといって、主催者さんを殺めてよい理由にはならないと思います」
「なるほど。実に君らしい。だが、原理はどうあれ主催者には『死者を蘇らせる力』がある」
「……」
伯爵様はエレガントに水を一口。……で、またきっちり五粒、ブスッ。
外さない。落とさない。
「いずれ我がマスターを脅かそう者を、野放しにするほど私は寛大ではない。……死体を蘇らせるなどと……。墓には墓の秩序というものがあるのだ」
「……伯爵さんも、そのお墓から出てこられたのでは?」
「……なるほど。常々君は、見かけによらず随分と容赦がない」
で、また例のカチャカチャ。
……あれ、イスズまで見よう見まねでやってる。すっごく食べづらそう。
「安心したまえお嬢さん。君は無事に送り届ける。約束しよう。その後で私が誰と戦争を始めようと、君には一切関係のない話だ」
「……それでは、安心できません」
「ほう、まぁいい。今は食事中だ。血生臭い話は厨房に任せよう。我々まで肉を捌く必要はあるまい」
「…………伯爵さん」
はいはいオーケー、また貴族様の優雅なグリーンピース食い。
……っていうか、なんでそんな面倒な食べ方してるの?
スプーンなら一発で掬えるのに。ほら、私みたいにさぁ。
──とか思ってたら、向かいの視線が急に痛くなった。
『マナーが欠如している』だの、『アナキンの教育が知れる』だの……目線だけでめちゃくちゃ語ってくるじゃん。
……っていうかー。
あーもう、言わせてもらうけど!
「しかしジェダイ・タノ。……その無作法には呆れを通り越して感心すら覚えるな。いくらジェダイが元老院に従順とはいえ、食事まで犬を真似る必要は──」
「ちょっと待ってよ!!!」
バンッ!
「朝ごはん豆だけってそれ本気?! 犬の方がもっとマシなの食べてるから!!!」
「…………」 「……豆、ですか……」
「……いや、違う違う。何言ってるの、私」
頭を抱えて座り直す。
……もう。どうしちゃってんだろ、私。
やっぱり少し調子が狂うよ。
マスター……。
「……おかしいでしょ? ……アンタとは組めるわけないから!」
「ほう。あれだけ話してなお、その結論かね。……聞かせてもらおう、ジェダイ・タノ」
…
……
………
“今からでも遅くない。ジェダイに戻ってくる気は、本当にないのか? パダワン”
『……まだ私のこと、パダワン扱いしてる? マスター』
“………………アソーカ”
………
……
…
「……その『ジェダイ・タノ』って呼び方、やめて。私もうジェダイじゃないんだから」
「ほう、失礼したな。元ジェダイ・タノ」
「…………ほんっと、嫌い……!」
……ついていくべきじゃない。
そう分かっていたはずなのに、私は十数分前──ドゥークー伯爵についていくことを選んだ。
それからずっと、ドゥークーはあれこれ理由を並べて、私を自分の側へ引き入れようとしている。
しかも厄介なことに、そのどれもがちゃんと筋の通った話だった。
……おかしいよね。分かってる。
私はかつて、銀河の平和を守る『ジェダイ』だった。
そんな私が今、その敵であるダークサイドの言葉に納得しかけてるんだから。
……うん。これはマスターには黙っておこう。
『討つべき敵は同じだ。ならば手を組むことの、何が不満なのかね。貴様らジェダイが好んだ和平とは、そういうものではなかったか』
──言い返せなかった。
『一人で行くのも君の自由だ。だが戦力を分ければ、それだけ救える者も減る。……君は私への嫌悪と、見知らぬ者の命。どちらを優先するという?』
──それにも、何も言えなかった。
『私を警戒しているのなら、それも結構。だがタイムリミットはわずか二日だ。その程度で君を私の思想に染められるのなら……私はこれほど長く戦争などしておらんよ』
──もう、嫌になるくらい正しかった。
「……沈黙では議論にならんぞ、元ジェダイ・タノ。反論があるのなら喜んで聞こう」
「…………っ」
今も変わらず、ドゥークーは悠然とナプキンで口元を拭って、私の言葉を待っている。
隣では、イスズが心配そうにこっちを窺いながら、二皿目に手をつけている。
……分かってる。
耳にタコができるくらい、こんな選択が愚かなことくらい分かってる。
でも。
……でもっ!
「まあいい。食事を続けよう。今すぐ理解しろとは言わん。いずれ分か──」
「……ごめんなさい」
「…………何だ」
「私、やっぱり。……マスターを見捨てられない」
「…………」 「……アソーカ……さん?」
「どんなに間違ってても。どんなに変わっちゃってても……それでも、あの人は私のマスターだから」
「…………愚か者が」
……自殺行為だとか。長い目で見れば何の得にもならないとか。
言われなくたって、もう嫌になるくらい分かってる。
それでも──これが、私の『選択』だから。
あの日。信じていた仲間に罠にはめられて。
ジェダイ評議会からは、犯人だと決めつけられて、追われて。
ようやく無実だと分かった途端、今度は「これは君にとって大いなる試練だった」なんて歓迎されて。
あの時、ジェダイ聖堂の階段を下りながら、マスターへ向けた私の言葉なんて。
ドゥークーもイスズも、知るはずがないんだから。
──“……もしよかったらさ、マスターも。一緒に……”
口に出せなかったから──マスターもそれを知らない。
「さっきアンタ、イスズに言ったでしょ? 『君には関係な話だ』って。…………同じ。シスとかジェダイとか、そういうんじゃない」
「……」
だから今度は、私が行きたい。
「私は私のために、マスターに会いに行く。…………ごめん。じゃあね」
「……あ、アソーカさん……」
デイバッグを手に取って、席を立つ。
二本のライトセーバーに触れる。冷たい金属の感触を確かめてから、一本ずつ腰に差した。
……自暴自棄になったわけじゃない。
でももしも、この先にあるものが、私が生きてきた全部の『最後』になるのだとしたら。
……最後に会いたい人くらい、自分で選びたい。
私は目を閉じて、──それから一度も振り返らなかった。
「待て、タノ。ならば最後に一つだ」
「……」
……まだ何かあるわけ?
今度こそ私を黙らせる、とびっきりの正論でもくれるつもり?
そんなことを考えながら振り返る。
「イスズのお嬢さんに、きちんと別れを告げてから行きなさい。彼女は最初から最後まで、君のことを案じていたのだよ」
「…………え」
でも、思っていたのと全然違った。
その瞬間だけ、ドゥークーはただ二人の若者を見送る──ひとりの伯爵に見えた。
……悲しそうに私を見るイスズに、結局「ごめんなさい」って、それしか言えなくて。
「うむ、それで良い。……これは私からの惜別だ。『彼ら』も連れて行くがいい」
傍にいた『クローン兵』たちを連れて、私はレストランを後にした。
……どこか馴染みのある姿なのに、彼らから微かに『不穏な気配』を感じることだけが、どうしても嫌だった。
【支給品説明】
【ストームトルーパー@スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望】
……要するに、ダースベイダーの横にいる白い奴。原作では敵側。
殺し合いでは、装甲の内部に人間は存在せず、ロボットのように命令に従う。
標準装備としてブラスター・ライフルを所持している。
………
……
…
◆
『ジェダイは悪か、と?──』
『──……そうだな。悪と断じてしまえば、彼らと同じになる。──』
『──ならば“必要悪”とでも呼んでおこう。銀河が彼らを必要としなくなる、その日まではな。──』
『──恐怖も、復讐心も、人が生きる上で自然に抱く感情だ。それらを理解するのではなく、ただ『暗黒面』と名付けて排除にかかる。……ジェダイ共に、進歩など期待できると思うかね? タノよ』
暗い地下用水路を歩くたび、水を踏む音と一緒に、ドゥークーの言葉が何度も反響する。
たぶん、ジェダイだった頃の私なら即座に反論していた。
二本のライトセーバーを構えて、「そんなのシスの詭弁よ!」って胸を張って言い返したはずだった。
……今の私は、ただマスターに会うためだけに。この暗い通路を突き進んでいる。
「……」
「おい、ジェダイ」
「……」
「おいジェダイ! 馬鹿か貴様は! 前を見ろ!!」
「…………え? ──あっ……!」
だから私は、クローン兵にグッと肩を掴まれて、ようやく意識を現実へ引き戻された。
完全に──目の前の『それ』に気がついていなかった。
「ったく、さすがはジェダイだ。危機管理力に関しては、虫けらをも上回るだろう」
「…………」
「よしてやれ。ジェダイは前を見る必要がないのだからな。なあ? ジェダイの小娘」
「…………はいはい、分かってる」
……あと一歩。
足を踏み出していたら終わっていたことくらい、言われなくたって分かってる。
私のつま先、ほんの数センチ先で足場のプレートが途切れていた。
その直下に広がっていたのは、巨大な貯留槽。
黄緑色の、見るからに身体に悪そうな液体が、波ひとつ立てずに溜まっている。
しかもご丁寧に、足元の床には『足元注意!』なんて書いてある。
……自分の不甲斐なさに苛立って、腹いせ代わりに錆びついた鉄柵を強く握りしめた。
だけど──そんな自分のヘボさよりも。何よりも。
「……待って。なに、『これ』……?」
黄緑色の液体の底。
光も届かない深みに沈んでいる──黒い『影』の存在が、私の胸をざわつかせていた。
「首輪があるな。……試射がてら撃ち込んでみるか? どうせお前たちの仲間か何かの成れの果てだろう」
「ダメ、待って!」
私は慌てて、片方のクローン兵を制止した。
……待って。……何なの、一体……?
少なくとも、私の知っている生き物じゃない。
どこか遠い星から来た、見たこともない生命体。
まるで眠っているみたいに、水底でじっと座り込んでいるけど。
……この寒気、どういうつもり?
「死んでいるのか……? アウター・リム辺りの生き物か?」
「知らん。だが、少なくとも人間には見えんな」
……おかしい。
ドゥークーと別れてから、私はずっと『フォース』の力を頼りに歩いてきた。
生まれた時から私の中にあって、マスターとの日々の中で磨いてきた、目には見えない力。
その繋がりだけを頼りに、マスターの気配を探し続けていたのに。
……さっきから感覚が狂っている。
マスターのフォースを感じたと思えば消えて、また感じたと思えば遠ざかる。
それでも途切れ途切れの気配を必死に追いかけて、ここまで来て。
私が引き寄せられるように辿り着いた場所にいたのは──見たこともないバケモノ。
分からない。…………私、一体どうしちゃったっていうの。
「まあいい。お目当ては、こんな化け物じゃないんだろう?」
「……」
「なら、さっさとそのアナキンとやらを探すぞ。……俺たちだって無給で付き合わされているんだ。しっかりしろ、ジェダイ」
「……さっきからうるさすぎなんだって。お金もらったところで、定時まで見張り台で油売ってそうな癖に」
「ハハ。さすが高給取りのジェダイ様。言うことが違う」
「…………」
……無視しよう。
私は来た道を引き返した。
行き先なんてない。ただ、進むしかない。
やがて見つけた不気味な螺旋階段から、深い地下へと降りていく。
一段、また一段。妖しい蛍光色を放つ水槽を脇目に、暗闇の奥底へ。
頼れるものは、今にも消えてしまいそうなフォースの糸だけ。──マスターの気配。
ずっと隣で背中を預け合ってきたんだから、見間違えるはずなんてない……絶対に。
「しかし、くだらん催しだ。もし我らがダース・ベイダー卿がおられれば、一時間もかからず焦土に変えてるだろうに」
「ほざけ。あのお方はどちらかといえば主催者側だ」
でも、一段降りた時。ふと脳裏を掠めた。
──マスターのフォースって、どんな感じだったっけ?
……一度そう思ってしまったら、もう駄目だった。
深い穴に足を取られたみたいに、その疑問から抜け出せなくなる。
「……まったく、反乱分子の連中は無駄な血を流すのが好きで困る」
「違いない。我らが銀河帝国なら、このような無秩序は断じて許さん」
「無事に脱出できたら、酒場で一杯やるか」
「ハハハ、悪くないな」
一段。また一段。
ぴちゃ、ぴちゃ。
湿った靴底が階段を踏むたび、不快な水音が暗闇に響く。
どうして?
どうして今になって、フォースが上手く使えない? 私は何を間違えてる?
……集中して、アソーカ。
「そうなると惜しいことをしたな。あの奇妙なバケモノでも干物にすれば、いい酒の肴になったものを」
「おいおい冗談よせ、気色悪い」
「なんだ? 案外かわいい顔をしていただろ。よく見てみろよ」
「あぁもういい、吐き気がする。こんなのと結婚するくらいなら俺は──」
あっ。思い出した。
マスターだけじゃない。
昔から、何度も言われたことだった。
──ぴちゃ。
…
……
………
『さすがじゃんマスター。やっぱ歴戦のジェダイともなると、これくらいの戦場じゃアクビものってわけ?』
“軽口を叩くな、スニップス。僕たちはジェダイだ”
“恐れに心を支配されちゃいけない。……闇はそこから忍び寄る”
………
……
…
ぴちゃ──。
「…………おい、あのバケモノ……どこへ消えた…………?」
『恐怖』。
そんな感情に呑まれてはいけない。
恐れは暗黒面へ通じると、ジェダイ聖堂で耳にタコができるほど教え込まれてきた。
じゃあ、私。
いま、何をそんなに『怖がって』いるの────?
「あッ! ……ぁ、おいっ!! 待て!! 助けてぐ──」
────ぴちゃんっ。
…………
………
……
…
◆
──恐れは、暗黒面への入り口じゃ。
──恐れは怒りに。
──怒りは憎しみに。
──憎しみは苦痛へ。
──恐れは暗黒面じゃ。
──暗黒面は恐れじゃ。
──恐れは入り口じゃ。
──入り口はどこじゃ。
──どこじゃ。
──どこじゃ。
──ここじゃ。
じゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃ
じゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃ
じゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃ
じゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃ
じゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃ
じゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃ
じゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃ
じゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃ
────ぴちゃんっ
「…………ぁ、」
二本のライトセーバー。
長い一振りと、それより少し短いもう一振り。
二本の光刃を同時に操る、私がいつも使っていた二刀流──『ジャーカイ』。
どれだけ激しく飛び回っても。どれだけ敵に囲まれても。
この殺し合いでも、それは変わらない。そう思っていた。
でも、今はその戦闘法もできない。
手のひらに残るはずのしっくりとした重みはなくて。
一番『近くにある』短刀すら、金属床の向こうで静かに転がっている。
──どこに落としたかもわからないもう一本へ、この狭い換気ダクトからそう、愚痴りたかった。
──ひた、
──ひた、
「…………ぁ、……ぃや……」
全部、ぶちまけたかった。
私はマスターの隣にいて、最前線でフォースと剣技を学んできた。
だから、それなりのプライドも自信だってあった。
「マスターの鼻を明かせるくらい強くなったんだから。……ほんのちょっとは」──なんてさ。
現に、今もちゃんと戦えていた。
クローン兵の白い装甲の隙間へ、バケモノの黒い指が何度も何度も潜り込んで。
ぐちゃ。ばき。ぐちゃ。
夢中になって兵士を食い散らかしているスキに……私は、『見えない力』であいつを突き飛ばすことができた。
ちゃんと、できたんだ。
逃げるときだってそう。
崩れかけた足場から足場へ飛び移って、一度だって足を踏み外さなかった。
鋭い爪も届かなかった。
逃げ切った。
私なら、ちゃんとできるって証明した。
少し狭い用水路へ逃げ込んだ時だって。
ガタ。
バタ、バタ、バタ、バタ、バタ。
天井の鉄板を打つ足音に、残ったクローン兵がパニックに乱射していたけれど。
……私は必死にフォースの感覚を研ぎ澄まして、ソイツの気配を探知しようとした。
「ァアダィヤアアアアッッ」
不意に降り注いだ悲鳴。
長い尻尾で胸貫かれて、天井へ吊り上げられた兵士の姿を見ても……。
……元・ジェダイとして、フォースがあるから平静を保てていた。
自分に言い聞かせていた。
──ひた、
──ひた、
「………………、ぃ、ちが……」
分かっていた。
どうすれば生き残れるかなんて、分かっていた。
天井に向かって、あのバケモノを討つことだけは絶対にダメ。
爪。口。尻尾。……それから、酸の血。
広場におびき寄せば、私は負けることはない。
……死ぬことはないって。
右肩の火傷が、熱を持って激しく疼く。
身体が震えても、その答えだけは間違えていなかった。
間違えて、いなかったのに。
……マスター。
────ひた、
──ひたっ。
今の私は、もう逃げ道の無い換気ダクトで、縮こまって。
酸性の血液が垂れる、ひた、ひた、って音を聞いて。
目の前にはもう──粘つく大量の唾液を撒き散らす、バケモノの大口が開かれていた。
「シュー……、ハーー……。シュー……キィィッ……」
「ぁ……」
……指を一本、ソイツの顔の前に突き出す。
…………フォースで、《マインド・トリック》で、操ればいいというのに。
「…………お願……い。──」
「──…………私を……つれていって。マスターの、ところに…………」
「ィィキィイイイッッ」
どうしてこんな変な命令、しちゃったんだろう。
鼻を刺す、薬品みたいな臭い。
開かれた黒い口。
その奥から、もう一つの顎が、ゆっくり、ゆっくりと伸びてくる。
目を逸らしたいのに、逸らせない。
……あと何秒? いつ来るの? 次の瞬間? それとも、その次?
怖い。……認めたくないけど、怖い。
…
……
………
『……今回だけは見逃す』
“マスター……!”
………
……
…
「……マス……タッ…………」
怖かった。
何も分からないまま、ただ『その時』を待つ。
もう「スカイガイ」「スニップス」なんて呼び合うことも望めないのが、私にとって一番の。
──恐怖だった────。
──ガタンッ。
「…………え……?」
「ギッ!? キィイイイイイィィィィッッッ」
突然、目の前の怪物の巨体がズルリと沈んだ。
……違う。落ちたんじゃない。
『見えない力』に力任せに引きずられ、ダクトの床板ごと下へ叩き落とされたんだ。
予想なんてしていなかった。何ひとつ望んでもいなかったというのに。
下から響く、聞きたくない『声』の主を、理解した瞬間。
──ずっと暗かった換気ダクトに、光《シスの暗黒》が反射していた。
「……強い暗黒面を辿って来てみれば。なんだ、貴様か。──」
「──右腕の具合はいかがかな? 我が旧友よ」
◆
【♪──Hierophant Green(高潔なる伯爵)】
……目の奥に滲んだ熱を堪えて。
私は床に開いた穴から、そっと真下を覗き込んだ。
身を低くして、牙を剥き出しにするバケモノ。
その正面にはイスズと、
──アイツが。
シワ一つないマントを纏った、伯爵気取りのあの男。
別に、シスの電撃《フォース・ライトニング》を放っているわけじゃない。
赤いライトセーバーを灯しているわけでもない。
ただ直立したまま──光すら『宿していない』柄を、バケモノへ向けている。
それだけ。それだけなのに──あの凶暴なバケモノは、一歩も動けていなかった。
牙を剥いて。喉を鳴らして。
長大な尻尾を床に這わせたまま。
一歩だって前へ踏み出せないでいる。
「……まぁ待て。そう恐れることはない、エイリアン。貴様と少しばかり揉めたのは、遠い昔の話じゃないか」
「伯爵さん。つい先ほどのお話ではありませんか?」
「……ふむ。君は時折、実に容赦がないな。イスズのお嬢さん」
アイツは、上のダクトにいる私には一切目を向けない。
まるで最初から気づいていないかのように、ただ目前の異形だけに眼光を向けている。
「さて……言葉を解する知性があるかは知らんが、聞きたまえ。互いに利のある提案だ。貴様にとっても、決して悪い話ではないはずだ。──」
「──もっとも。本来ならば、あの口喧しいタノにも聞かせてやるつもりだったのだがね」
そこで一度、アイツは白髪の首をゆっくりと振って、わざとらしく辺りを見回す。
「……ふむ。生憎、この場にはいないようだ」
「…………」
……刃なんて、一寸だって出ていない。
なのに私には、はっきりと見えた気がした。
光のないその切っ先が。寸分違わず、バケモノの喉元を捉えているのが。
一歩、動く。
アイツは、目の前のバケモノにだけ届ける──『はずの』言葉を、朗々と語り始めた。
「……私は、一度死んだ身でな。──」
「──師の手を借りねば私一人討てぬ小僧に、首を刎ねられた。……そして気が付いたらこの悪趣味な催しの只中だ。──」
「──さて、涎を垂らしている場合ではないぞ、エイリアン。ここからが肝要だ。──」
「──私は殺された。そして『次に気がついた時には』ここにいた。──」
「──……この意味が、分かるかね?」
バケモノは答えない。
伯爵が一歩進めば、一歩後退する。それがバケモノなりの返答だった。
「私はあの瞬間、ひとつ知った。死とは、『無』なのだよ。──」
「──痛みはあった。後悔もあった。最期には、随分と多くのことを思い出した。……だが、その先には何もない。……実に興味深い話ではないか。──」
「──我がマスターが銀河にもたらそうとしているもの。その果てに待つ景色を、私は誰よりも先に見せてもらったのだからな。……分離主義者としては、礼の一つでも申し上げるべきなのだろう。──」
「────ならばだ。その『死という特等席』は、我がマスターのために死守せねばなるまい」
一歩、距離が縮まる。
伯爵様──ドゥークーは、静かに笑ったように、私には見えた。
……ずっと牙を剥くだけだったバケモノが、ようやく喉の奥から声を絞り出す。
「シュー……ハーー……」
「そう。絶対にくれてはならんのだ。それは、この催し物に放り込まれた、名も知らぬ子供にも」
意味なんて、通じているはずがない。
会話にすら、なっていない。
なのに、ドゥークーが近づくたび。バケモノが声を返すたび。
まるで、互いに一言ずつ言葉を交わし合っているかのような錯覚を覚える。
「ッ……キィィィィ……」
「ゲームの打破を目指す、愚かな者達にも」
また、距離が縮まる。
バケモノが長大な尻尾で懸命に床を叩いても、また一歩。
「ギィッ……キシャアアァァッ」
「イスズのお嬢さんにも。モールにも。……先走るしか能のない小娘にも」
「ィッ!! キィィィィ……ィィィッ……」
さらに、半歩。
……あんな化け物、普通なら間合いに入ることすらしちゃいけないというのに。
ドゥークーは欠片も動じない。
耳を刺す咆哮すら意に介さず。
「そして────スカイウォーカーにも」
「ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!」
────最後に残った距離を、自ら力強く踏みつぶした。
「どうかね。君にもぜひ協力してほしい」──そう言いかけた、刹那だった。
「……っ!?」
二つの影がほとんど同時に、私の目の前まで跳ね上がってくる。
一つは、あのエイリアン。
私なんて目にも留めない。
ドゥークーから逃げるように、私の横をすり抜け、そのままダクトの暗闇へと消えていった。
そしてもう一つ。
──ポトッ。
「え? ……え……っ?」
乾いた金属音を立てて、私の膝元へ落ちてきたもの。
それは、ライトセーバー。
──ドゥークーが握っていた、最後の最後まで刃を灯すことのなかった、
──私の長刀、『緑色のライトセーバー』。
「……………………っ」
……あー、やめた。
お礼なんて言ったら、絶対つけ上がるし。アイツ。
この借りは、次に会った時に返せばいい。
床の穴は、もう二度と見下ろさない。
ふう、と深く息を吹き出し、しつこい涙をフォースで払いのける。
そしてダクトの奥に転がっていた短剣も引き寄せ、両腰のホルダーに収める。
二本の冷たい金属の感触が、私に確かな温もりと勇気を与えてくれた。
──アンタが、そういう態度ならさ。
──私だって私なりに、『自分の弟子』を見つけて、マスターを止めてみせる。
──死が怖いってことくらい、もう十分分かった。アンタに教えてもらわなくてもね。
────授業は終わり、ドゥークー……っ!
【C-7/早朝/1日目/地下】
【エイリアン@エイリアン】
[状態]:『恐怖』を学習、小程度損傷、ディフィンドによる傷(ファウード栄養液により右腕は90%完治)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:狩りを絶対『再開』する。
1:今はあの白髭を殺せる者を探す。
2:誰であれ、とにかく人間を利用する。
※エイリアンに支給されたデイバッグは会場の何処かに放置されています。
【アソーカ・タノ@スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ】
[状態]:疲労(中)、負傷(中)、右肩に火傷(中)
[装備]:ライトセーバー(大小二振り)
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~2
[思考]:マスターを止める。
1:『パダワン(弟子)』を探す。……マスターに対抗する力になるかもしれない。それに、何かが変わるかもしれない。
2:冷静に情報収集と状況分析を優先する。
3:無防備な子供や弱者を見捨てるつもりはない。
4:ジェダイ・テンプルの階段で飲み込んだ『あの言葉』を、今度こそマスターへ。
◆
………
……
…
私と伯爵さんは今、並んで静かな地下通路を歩いています。
「……なぜ、追わなかったのですか? 伯爵さん」
「おやおや。あのエイリアンを連れていくつもりだったのかね? ……やめておきたまえ、イスズのお嬢さん。さすがに君の気品が疑われる」
「ち、違います! ……アソーカさん、……アソーカさんのことです。気付いていらっしゃったんですよね?」
「ふむ?」
私の問いかけに、彼はマントの裾を揺らし、少しだけ目を細めました。
「ハハハ、よしたまえ。ジェダイから『暗黒面』を感じ取れるはずがなかろう」
「…………」
……やはり私には、この方のことが分かりません。
ドゥークー伯爵さん。根っからの悪い人ではない……そう言い切ってしまっていいのかさえ、私には分からないのです。
もし本当に心優しい人なら、……床に残されたストームトルーパーさんたちの骸を、通り過ぎるような真似はなさらないでしょうから。
きっと最後まで、心を許しきってはいけない方なのでしょう。
……ですが、
「いいかねお嬢さん。『予期せぬ死』は、神にしか作れん。──ならば、『予期せぬ生』はどうかな」
「え?」
「それを生み出せるのは、今を生きている者だけだ。出会いは常に何かを生む。君も、あのジェダイも。……微々たるものだが、私に今後の宿命を与えてくれたらしい」
「宿命……ですか?」
「もちろん」
ドゥークー伯爵さんの足が、ピタリと止まりました。
「この悪趣味な殺し合いは、私が滅ぼす。──」
「──そして、暗黒面に身を委ねるだけの器がある者には、相応の『死』へ座ってもらう」
「…………」
「我がマスターもまた同じく。弟子の手で最期を迎えられるのであれば、本望というものだろう。……命のやり取りとは、本来それほど慎重に選ばれるべきものなのだよ。──」
「────……ああ、永遠の別れだ。クワイ=ガン」
……その方の名を呟いた一瞬だけは、
──大切な誰かを失った老伯爵が、そこにあったのです。
【C-7/早朝/1日目/地下】
【ドゥークー伯爵@スター・ウォーズ】
[状態]:負傷(小)
[装備]:湾曲型ライトセーバー
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~2
[思考]:『命の授業』を滅ぼす。
1:五十鈴華を生きて帰す。そして、駒(同志)を集め指揮する。
2:他の参加者の存在をフォースで察知し、交渉または排除の判断を下す。
3:首輪を解除する手段を探す。
4:ゲームに乗った参加者は、『特等席(死)』へ招待しよう。……私はあいにく、容赦は好まんものでね。
5:マスター(ダース・シディアス)を討つ。だが、今は時期尚早だ。十分に策を練った上で臨む。
6:エイリアンよ、また会おう。再開の時、貴様のそばにいるのが利用相手なのか、それとも『仲間』だったのか、気になるものだからな。
7:アナキン・スカイウォーカーを止める。
【五十鈴華@ガールズ&パンツァー】
[状態]:疲労(小)
[装備]:ハイエロファントグリーンのスタンドDISC@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3
[思考]:華道の精神で心を整える。
1:ドゥークー伯爵と共に行動する。
2:友人たちが巻き込まれていないか心配。
3:戦車道の経験を活かして冷静に状況を分析する。
4:……頑張ってください、アソーカさんっ。
最終更新:2026年10月09日 20:55