『名探偵に鎮魂歌を』
キーン、コーン──、
カーン、コーン────。
第一回放送を告げるチャイムの音が鳴り響くなか、無数の剣と、青の光弾が飛び交っていた。
剣に光が触れ、爆散し、それでも剣は特攻するかのように、物量を絶やさずに飛来する。
光弾もまた剣の物量に遮られながら、その勢いと物量は減る事がない。
二つの点の攻撃が、延々と激突して爆音を鳴り響かせる。
(埒が明かないわね)
無名の大魔族ソリテールは、内心で舌打ちをする。
滅却師(クインシー)バンビエッタ・バスターバイン。
聖文字”E”「爆撃」(The Explode/ジ・エクスプロード)。
自らの霊子を打ち込み、打ち込んだものを例外なく爆弾へと変える。
あらゆる防御は意味を為さず、防ぐことができない。
ソリテールはこの能力に対し、同じだけの物量をぶつけることで、爆破を自らに到達させないという対策を練った。
だが、それはジリ貧だった。
まずソリテールは片腕がなく、そちらの回復に魔力を割いている。
対して、バンビエッタは禅院直哉との交戦から、食事を挟んで、数時間回復に努めていた。
互いの魔力と霊力の量には、差があり、先にソリテールがガス欠になる。
それがソリテールの出した結論だった。
「あははは!! 無駄無駄ぁ!! そんな、豆鉄砲じゃ私の静血装(ブルート・ヴェーネ)に傷一つ付けられないわよ!」
「ちっ…奔放な割にはガードの固いお嬢ちゃんだ!」
爆撃の隙間を縫うように、精密に放たれた浪漫砲台パンプキンの射撃も、バンビエッタの静血装によって硬質化した皮膚を破るには至らない。
相応のピンチに陥っているというのに、威力の向上が見込めないことに、レオン・S・ケネディもまた舌打ちをする。
──人を殺す魔法(ゾルトラーク)
剣と爆撃の暴風雨の中、放たれたのは、『人を殺す魔法』。
ソリテールの世界において、多くの人間を殺害してきた、今は亡き腐敗の賢老クヴァールの残した最強の貫通魔法。
だが、それすらもバンビエッタの霊子に触れた瞬間、性質が爆弾へと変換される。
(やはり、駄目か)
爆散して、消滅する人を殺す魔法を眺めながら、ソリテールは目を細めた。
飛び道具の打ち合いに関して、バンビエッタはまさしくほぼ無敵の能力を有している。
攻撃は最大の防御とはよくいったものだ。
「爆撃」を振りまくことで、あらゆる反撃を封殺して、相手を爆散させることができる。
まさしく、攻防一体の能力。
(いい魔法だわ)
探求の末に、結局魔力をただぶつけるだけの魔法とも呼べない魔法に行きついたソリテールとしては、
これ程までに、優れた魔法を発現させたバンビエッタとも、是非お話をしてみたいところではあったが。
生憎と、そんなものに応じてくれる様子はなさそうだ。
溜息を静かに吐きながら、ソリテールは思案を巡らせる。
(こちらは明らかに火力不足、どうにかしてあのパンプキンの威力と速射性をあげないと、あの娘を倒せない)
いっそ、人を殺す魔法で、レオンを貫き、殺す寸前まで追い詰めれば、パンプキンの威力を増大させられるだろうか。
試してみる価値はあるか。
ソリテールは尻目で、レオンを見つめながら照準を定めて──。
「レオンさん、ソリテールさん!!」
青い衣装に身を包んだ、小豆色の髪の少女の姿を認めて、ソリテールはその判断を見送った。
〇
「話は大体わかった。二人とも、ここまで来てくれてありがとう」
八神隆之は、合流した上条当麻と小林みくるとともにビルの陰に身を潜め、古畑任三郎からの伝言に耳を傾けていた。
「この詳細名簿も助かったよ。おかげで、あの女がどんな能力を使うのかまで、はっきりわかった」
────そうだ、名は? 私はバンビエッタ・バスターバイン。
────俺は、八神……。
────おっさんには、聞いてないっての。そっちの方よ。
容姿を気に入ったからだろうか、レオンから名前を聞きだす前に自ら名乗ってくれたのは、僥倖だった。
みくるの持ってきた詳細名簿から、バンビエッタという名前をタップすると、顔写真付きで彼女の経歴と詳細な能力まで記載された名簿が表示される。
『見えざる帝国』(ヴァンデンライヒ)、『星十字騎士団』(シュテルンリッター)の滅却師、「E」の聖文字。
霊子を打ち込んだものを爆弾に変え、さらにそれだけではなく、『滅却師完聖体』(クインシー・フォルシュテンディッヒ)という奥の手まで隠している。
能力はそのままに、規模をさらに増大させ、空を自由に舞う翼すら得る。
「空じゃ、俺の『幻想殺し』(イマジンブレイカー)も届かない」
悔しそうに、上条は言う。
触れてさえしまえば、バンビエッタの静血装も無力化し、「E」の聖文字の力も発動できない。
だが、幻想殺しの力は、上条の右手首から上で触れた物のみに適用される。
しかも、上条本人の身体能力は、多少喧嘩慣れした日本の男子高生の域を出ない。
鳥のように空を舞う相手に、上条が右手を届かせる手段はない。
「……こんなの、どうやって戦えばいいんですか……」
みくるは、小さな肩を震わせていた。
見通しが、完全に甘かった。
爆弾を無制限に作り出し、空すら舞える怪物。
銃で撃とうが、平然とする強固な体。
とても、人間がまともに戦って勝てるような相手とは思えない。
今はまだ、レオンとソリテールが辛うじて応戦しているが、ソリテールの剣の魔法がなければその拮抗も容易く崩れてしまう。
しかも、バンビエッタはまだ奥の手を隠し持ち、ソリテールは隻腕というハンデ付きだ。
地力の差は明白であった。
「まずいね」
八神にとっても、これ程までに隔絶した強さを持つ参加者がいたのは、完全に計算外だった。
あの最初に出会った青い髪の少女ですら、恐らく、この殺し合いのアベレージでは弱小の部類に入るかもしれない。
(先に、みくるちゃんだけを逃がして……上条君も……それしかないか……)
ソリテールが、何処まで八神達に協力するかも分からない。
この劣勢の中で見切りをつけて、ソリテールがバンビエッタに寝返るか、逃げる可能性も十分にあり得る。
その前に、理由をつけて二人をもう一度古畑の元へ帰して、戦場から離せば全滅だけは避けられる。
レオンと八神の命の保証はないが。
「もう一度、もう一度支給品を確認してみましょう! なにか、使えるものがあるかも!!」
みくるは、自分のデイパックをひっくり返し、中身を地面にぶちまけた。
森口に主催としての良心を期待するのは癪だが、これが殺し合いであるならば、バンビエッタに対抗できる武器を配っているかもしれない。
だが、八神の知り得る限り、あんな超人と渡り合える武器など想像もできない。
それにそんなものがあれば、既にみくるも確認済みの筈だ。
期待はできない──
はず、だった。
〇
世界が、丸ごと終わった日。
イリヤスフィール・フォン・アインツベルンが人類最後の一人となったその日。
美遊・エーデルフェルトは、首のない泥の巨人からイリヤを庇い、命を落とした。
踏み潰された愉快型礼装サファイアも同様に。
〇
『────申し訳ありません。一度、完全に破壊されたのちに再修復されたからでしょう。
再起動までに時間が掛かってしまい、今ようやく起動しました』
「だから……わたしが見た時には、ただの玩具にしか見えなかったんだ……」
みくるのデイパックに支給されていた、六芒星にリングをあしらった小さな玩具。
それは、自らの意志を持ちサファイアと名乗る魔法のステッキだった。
「……事情はある程度、……一度君と君の持ち主が亡くなったはずなのに、気付いたらここに呼ばれたってことまではよくわかった」
首のない巨人が無数に現れ、ダリウス・エインズワースという男が世界を滅ぼした等というスケールのデカすぎる話は、八神には理解しきれなかった。
だが、サファイアは武器であり、その持ち主である美遊という少女が亡くなってしまっていること。
そして、八神では理解しきれないスケールのデカい戦いに、サファイアはついていけるポテンシャルを秘めた武器である事だけは、理解できた。
「急で悪いんだけど、俺達も切羽詰まっている。君の力を借りられるなら、是非協力してくれないか」
『こちらも、事情はある程度把握いたしました。協力は惜しみません』
美遊の死を悲しむ暇もない。
何度も鳴り響く爆音を聞きながら、サファイアは泣く暇も惜しんだ。
『ですが……』
彼女に顔が存在していれば、サファイアはきっと目を伏せていたことだろう。
『お話を伺う限り、幻想殺しの力がある上条様は、私を扱えません。
そして、失礼ですが八神様は、魔術師ではない。
私たちカレイドステッキは無制限に魔力を与えられますが、使用者の素質によって操れる魔力量が異なります』
重々しく、サファイアは言う。
上条は論外。
八神は魔術師としての才能がない。
「魔術の礼装なら、フェルンを連れて来れば……!!」
「いや、一回放送後に古畑さんたちは移動してる。今から、追いかけてここまで引き返す間に、全滅してると思う」
葬送の大魔法使いの唯一の弟子であれば、カレイドステッキを操るのに値する力量を持つが、
当のフェルンはこの場にはおらず、彼女を連れてくるにしても時間がない。
『……みくる様……私と、契約なさってくださいませんか』
サファイアはリングの両脇にくっついた小さな翼を、みくるの顔へ向けた。
「わ……わたし……!?」
『はい……勝手ながら、みくる様のMS(魔法少女)力を計測させていただきましたが、18万もあります。
これは、私の姉ルビーの主であるイリヤ様が1万であることを考えると、かなりの数値です』
某スカウターのような機械を、何処からともなく取り出し数値を測るサファイア。
みくるには、何のことか意味が通じなかったが、とにかく自分がサファイアを握る適性があるのだけは分かった。
『胡乱な話とは思われるでしょうが……この場で、一番私を握るのにふさわしいのはみくる様かと』
「待てよ! 魔術師ならまだ、ソリテールが……」
「いや、ソリテールを強化するのは反対だな。
裏切る可能性が上がってくる。バンビエッタもヤバいけど、あっちも警戒しなくちゃならない」
八神はソリテールを完全に信用していない。
魔族を根本的に信用してはならないという、フェルンの忠告を忘れてはいなかった。
「だけど、小林は……戦いなんて、やったことが……」
喧嘩すらしたことがない、細い手足で、しかも体力のないみくるに戦闘など任せられない。
上条の言う事は至極真っ当ではあった。
『戦いに必要なスキルは、私が補えます。サポートも……勿論、危険は伴いますが……』
「いくら、サファイアが強い武器でも、小林が戦い慣れてるわけじゃないだろ!!
そんな、簡単に強くなれるようなもんなのかよ?」
『それは……』
表情のないサファイアだが、彼女も自分の提案が荒唐無稽であるのを自覚し、俯いていた。
カレイドステッキは優れた魔術礼装だが、使い手が未熟であれば、その本領を発揮できない。
初めてルビーを握ったイリヤが、遠坂凛にあっさりと気絶させられたように。
『……そうですね。上条様の言う通り──』
この場で、最も適性があるとはいえ、やはり争いなどしたことのないみくるには、あまりにも荷が重い。
「やります。わたし、やります!!」
だが、みくるは自分の胸を手で抑えて、サファイアの声を遮った。
「MS力なんて、何のことだか分かりませんけど……サファイアさんが、強い武器で……それを、わたししか扱えないのなら。
わたし、皆さんの力になりたいんです。
上条さん、一緒に頑張ろうって……言ってくれましたよね」
「それ、は……」
完全に、上条は押し黙ってしまった。
頼って、良いのだろうか。
上条も理屈では理解している。現状、手詰まりの状況を打破するには、リスクの大きな博打が必要になるのを。
自身の命をベットするのなら、上条は迷わなかった。
だが、能力者や魔術師でもないただの女の子の命を、懸けなければいけないなんて、上条には受け入れがたい。
「分かった。みくるちゃんの力を、俺は借りたい」
噤む上条の代わりに、八神が口を開いた。
「八神さん……!」
「ただし、命を懸けるのは……みくるちゃんだけじゃない。”俺達も”、だ。
上条君も、それなら納得できるだろ?」
そうして、八神は力強く笑った。
〇
妙な、コスプレ少女が現れた。
それが、バンビエッタの第一印象だった。
ファンシーな杖を持って、身体の線に沿うように仕立てられた紫色のボディスーツ。
両脇腹が大胆に開かれ、その少女──小林みくるの白い肌が露わになっていた。
「ふーん…随分と頼もしい、助っ人が現れたじゃない」
皮肉たっぷりに口元を歪め、バンビエッタは鼻を鳴らした。
とても、戦いに向いた装備とは思えない。子供向けのアニメのキャラのような服装に、バンビエッタは失笑する。
手にした杖に至っては、武器というより玩具にしか見えない。
舐められているのかしら。
嘲笑とともに、バンビエッタは指先へ霊子を集中させる。
それに合わせるように、ソリテールの剣が宙を舞う。
彼女の剣戟に合わせ、バンビエッタは霊子を打ち込んだ。
次の瞬間、剣と霊子が衝突する。
爆発的に膨れ上がった破壊の奔流が、ソリテールの剣を爆砕し、衝撃波が空気を震わせ、爆炎が視界を覆い尽くす。
「ば、バリア!」
みくるの叫びが響いた。
爆発するソリテールの剣。その下に、もう一層の障壁が展開されていたのだ。
透き通る障壁が、爆炎と剣戟の狭間に割り込む。
そして、弾けたはずの爆発が、反転した。
「な、ッ!!?」
バンビエッタの顔から、嘲笑が消える。
自ら放った爆撃が、障壁に触れた瞬間、叩き返されたのだ。
迫る爆炎。
回避するには、あまりにも近く。バンビエッタは静血装で、身を固める。
「チッ……!!」
爆風が髪を煽り、頬を焼くような熱が走るが、バンビエッタにほぼダメージはない。
「私の爆撃を反射した……?」
だが、本来防御不可能の「爆撃」を跳ね返された事に、バンビエッタには揺らぎがあった。
(なるほどね)
クスと、ソリテールは小さく口元に笑みを作った。
恐らくは、あの魔力の障壁に反射機能が付与されている。
バンビエッタの「爆撃」は、防御不可の絶対爆破の性質を持つが、障害物が二つあった場合はその限りではない。
つまり、ソリテールの剣を爆破したとしても、その爆破には爆弾に変える能力は備わっておらず、第二の防壁を張れば防ぐ事が出来る。
そこへ反射機能付きの魔力障壁を張ることで、バンビエッタの「爆撃」を跳ね返したのだ。
(いいわね、あの杖。
魔力を何処かから引っ張り出してきてくれているおかげで、魔力切れの心配がない)
あんなものがあるなら、自分に手渡してくれればよかったのに。
戦場の中央から、少し離れた場所にいる八神を尻目に、ソリテールは嘆息する。
きっと、裏切ると思われている。
とても優秀な人間だ。人に近い容姿の魔族に絆される人間も多いが、八神はしっかりと線引きをしている。
(まったく……手強いわね)
楽し気に、ソリテールは笑う。
『みくる様……この、バリアと反射能力は』
「いや、攻撃を跳ね返せるバリアって強いかなって……」
元々、サファイアの機能として攻撃の反射が備わっていたわけではなかった。
これは、みくるが直感的にイメージを描き出し、それがそのまま魔力へと反映された結果生み出された防御。
『(……素質はあると思っていましたが、初めての戦いで、魔力の放出を具体的にバリアとしてイメージできるとは)』
プリキュアになるはずだった少女。
本人すら知らない、正史でたどる筈だったその運命とは異なる形で、小林みくるは才覚を発揮する事となる。
「く、ッ……!! この!!」
剣が爆散し、それがみくるのバリアに触れて、「爆撃」がバンビエッタへ跳ね返る。
静血装で防御を固めるが、後先考えずに放たれた「爆撃」は、徐々にバンビエッタの肌を焼いていく。
攻撃が通らない苛立ちと、痛覚が刺激された激怒からバンビエッタは、残された切り札を切った。
「神の炎(ゾフィエル)!!」
滅却師完聖体。
叫びとともに、鮮烈な紅蓮の翼がバンビエッタの背から勢いよく展開した。
次の瞬間、みくるの展開した防御障壁が突如として薄れ、分解されながら、バンビエッタの翼へと怒涛の勢いで取り込まれていく。
「つまらない小細工なんて、全部蹴散らしてやるわ!!」
聖隷(スクラヴェライ)。
極限まで高められた霊子集束能力によって、魔力によって構築された防御壁すら瞬く間に分解されていく。
それどころか。
──人を殺す魔法。
放たれた必殺の一閃すらも、その超絶的な集束力の前に分解され、虚空へと消滅した。
(魔力を、分解……いえ、支配している……?)
紅蓮の光を背負い、宙に浮かぶバンビエッタが、冷ややかな嘲笑を浮かべて眼下を見下ろす。
その瞳には、もはや焦燥の色はない。
ソリテールは笑みを崩さないまま、その氷のような眼光を睨み返す。
「なにか、冴えた作戦はあるかい。大魔族さん?」
レオンがパンプキンの引き金に指をかける。
しかし、どれほど霊力を込め、必殺の弾丸を撃ち出そうとも、周囲に渦巻く霊子の嵐に阻まれた。
パンプキンの銃口から放たれるはずの一撃は、バンビエッタの衣服の裾すら掠めることなく、虚しくかき消されていくのだった。
「ええ……まあ、探偵さんが考えてくれているんじゃないかしら」
遠くにいる、八神を尻目に。
ソリテールは不敵に笑うばかりだった。
「降参する気になった。レオン?」
「レディには手を上げない主義なんだ」
「あははっ! すぐに、参ったって言わせてあげるわ!」
飛んでくる「爆撃」、霊子が打ち込まれたものは、例外なく爆発する。
だが、その例外がレオンとソリテールの前に飛び込んできた。
ツンツン頭が特徴的な少年──上条当麻。
バンビエッタに言わせれば、死ぬほど冴えない男。本来なら顔すら記憶する価値のない、ミジンコ以下の存在。
しかし、この瞬間、バンビエッタは表情を激変させた。
「なんですって……」
キュイーンという、音が鳴り響き。上条の右手に触れたバンビエッタの霊子が霧散したのだ。
「次から、次へと……なんだっていうのよ!!」
二発目、三発目と霊子を打ち込むが、上条は的確に右手を当ててバンビエッタの霊子を打ち消す。
あらゆる異能を消去する幻想殺しの力が、遺憾なく発揮されていた。
駆け出す上条に、バンビエッタは紅蓮の翼を広げて飛び上がった。
(変な右手……近づかない方が良いかも)
上空へ飛翔するバンビエッタの脳裏に、明確な警戒の思考が過る。
これまでに見た事のない異能力。
爆破できないものなどなかった「爆撃」を、たかが人間が素手で消去する。
舌打ちと共に、バンビエッタはさらに高度を上げる。
確実に、あの少年が届かない空へと逃れ、そのまま絨毯爆撃で全員消し飛ばす。
それが最も安全で確実な抹殺方法。
聖隷によって、周囲の霊子を限界まで貪り喰らい、バンビエッタの両翼から眩い光の玉が次々と生み出される。
あの右手に触れた霊子が消されるのであれば、右手で触りきれない点の攻撃で、吹き飛ばせばいい。
無数の爆弾の雨粒を、バンビエッタは地上へと滑り落とそうとする。
──上条君、先ずは君がバンビエッタの攻撃を打ち消して欲しい。
八神が、小さくほくそ笑んでいることにも気づかずに。
──きっと君の右手を警戒して、あいつは空に逃げる。
──でも、八神さん。信じない訳じゃないですけど、そんな都合よく距離を取りますか? 詳細名簿には、剣術も使えるって……能力なしの接近戦を挑んでくるかも。
──君はさ。多分、あまり自覚ないと思うけど、敵からしたらその右手、滅茶苦茶怖いと思うよ。
──能力を消す、正体不明の右手。
──俺が彼女なら、しかも飛び道具があって空も飛べるのなら、絶対に不用意に近づかないな。
──だって、何をしでかすか分からない相手に近づくより、上空から爆弾振り撒く方が安全で確実だろ?
クラスカード『セイバー』!
限定展開(インクルード)!!
「は?」
──もしバンビエッタが空を飛んだら、その後に、みくるちゃんはそのクラスカードってのを使ってくれ。
地上で、小林みくるの手に握られた聖剣の輝き、その霊圧量を目の当たりにして、バンビエッタは間の抜けた声をあげた。
反射するバリアを貼るしか能のないコスプレ少女の何処から、あんな攻撃的な霊圧が潜んでいたのか。
両刃の西洋剣を横に構え、みくるはまるでバットのスイングのように空へと振り上げようとしていた。
膨大な魔力が光の刃となり、対象を焼き尽くす。
騎士王の最強の幻想(ラスト・ファンタズム)が、クラスカードを介し、英霊の座へとアクセスし一時的にみくるの手に握られていた。
(あの霊圧……! チッ、「爆撃」で防げないかも!)
「爆撃」はあらゆるものを爆弾に変えるが、厳密には霊子が打ち込まれたその部分のみが、爆弾へと変換される。
森口によって介入されなかった正史において、
尸魂界二次侵攻において交戦した、狛村左陣の甲冑や、卍解『黒縄天譴明王』に対しても、触れた箇所のみが爆破されていた。
打ち込まれた物全体が爆発に変わるわけではない。
類似能力として。
この殺し合いに同様に巻き込まれた殺人鬼、吉良吉影のスタンド『キラークイーン』は、触れたその物を爆弾に変えられるが、直接接触する必要があり、その点では相互互換にあたる。
莫大な霊圧を叩きつけられれば、「爆撃」で相殺しようにも表面だけを焼くに留まり、押し切られる可能性が高い。
「呑気にあたってやるわけないでしょ!!」
だから、バンビエッタは攻撃を中断して、聖剣の輝きの範囲外へと後退する。
──ここからは、ソリテールにアドリブを振ることになるけど。
「飛べるのは、あなただけではないのよ」
──人を殺す魔法。
あらゆるものを貫通する必殺の魔法が煌めくが、「爆撃」を打ち込まれ爆散する。
だが、その爆風を突き破りソリテールが飛び込んでくる。
幻想殺しを持つ上条当麻の左腕を握ったまま。
そしてゴツンッという音が響き、バンビエッタは背中に掛かる圧を感じて前方へ押し出される。
「こ、の……!!」
レオンのパンプキンによる、精神エネルギーの射撃が直撃したのだった。
静血装でダメージはない。けれども、衝撃そのものを殺しきれるわけではない。
ソリテールに抱えられながら、上条が右手を翳す。
身を捻ってかわそうとするバンビエッタに、幻想殺しの右手が掠った。
次の瞬間、展開していた完聖体が打ち消される。
「く、……!!」
紅蓮の翼が消失し、落下していくバンビエッタ。
すかさず、再度、完聖体を展開しようにも、落下スピードのが早い。
轟音を立てながら落下し、しかし無傷のままバンビエッタは服の埃を払って立ち上がった。
「空から落とせば殺せると思った? バッカじゃない。そんなんで……」
「思ってないさ」
バンビエッタの声を遮るように、八神隆之の声が響く。
振り返ろうとしたバンビエッタがその瞬間違和感に気が付いた。
「足が……! ちょ、どうなってこれ」
黒いボールのような物が、バンビエッタの靴底に張り付き、地面に接着していた。
八神に支給されていたのは、峰田実という少年の頭部からもぎ取れるボール状の物体、個性「もぎもぎ」。
その効果は峰田本人と彼が着るヒーロースーツを除く物体に張り付き、効力が切れるまで粘着し続ける。
八神には、峰田のグローブと一緒にこのもぎもぎが支給されていた。
「弱いわりに頑張ったじゃん。まあ、私とは相性最悪だけどね」
気配を消して、バンビエッタの落下地点まで近づきながら、もぎもぎをセットした。
雑魚の割にはよくやると、褒めてやりたい所だったが。
「爆撃」さえ打ち込んでしまえば、このもぎもぎもすぐに爆散する。
だが、その前に。
みくるが限定展開した、聖剣の輝きが到来する。
もぎもぎのせいでバンビエッタは、その場から動けない。
「……て、っ……ま……ず、ッッ……!!」
〇
「…………、ッ…………!!」
手が震える。腕がカタカタと揺れる。振動で、剣から、情けない鉄音が響く。
小林みくるの恐怖と怖れが、体の表面から滲みだしていた。
『みくる様……』
既に打ち合わせは済ませてある。必ず隙を作り、八神がもぎもぎでバンビエッタを足止めした瞬間に、聖剣を振るう。
上空に逃げた場合はフェイントで、地面に叩き落した後が本命。
全部、予め八神が話した通りに事は進んでいる。
あとは、この剣を思いっきり振るってしまうだけ。
だが、剣が重い。
物理的にではない。
精神的に圧し掛かる負荷が、荷重となってみくるに襲い掛かる。
初めての実戦。
バリアを張るだけではなく、攻撃という相手を傷つける為の手段に。
みくるの中で、抵抗があった。
それに、本当に当たるのか、当たらなかったらどうなるのか。
全員が、ここで殺されてしまうかもしれない。
(本当に……わたし、なんかに……)
いわば、ここまでの戦いはみくるという切り札を、確実に通すための布石。
みくるがしくじれば、全てが水泡に帰す。
あまりにも重い重責に、みくるは躊躇いがあった。
『(やはり、初の実戦では……)』
もしも、みくるがどうしても戦えない場合は、合図を送るように八神から指示を出されていた。
どうにかアドリブで何とかすると、八神は話していたが、今がその時だろう。
『八神さ──』
サファイアにも覚えがある。
イリヤスフィール・フォン・アインツベルンが、まだ戦いの歴が浅い頃に、パニックに陥り一人で逃亡してしまった事があった。
いくら、サーヴァントや魔術師と渡り合えるだけのスペックだけを寄こしたとはいえ。
ただの少女の精神性が、簡単に変わる筈が──。
──友達を見捨てたままじゃ、前へは進めないから……ッ!
サファイアは思い出す。自分を握った少女は、そしてその友達はいつだって、どんな時だって。
『(そうでした。……美遊様も、イリヤ様も……)』
誰かを、助ける為に。
強大な敵を前にしても、戦える人たちだった。
──一歩の勇気が、答えになる。
出会うはずだった運命の少女と。
明智あんなと共に。
奇跡の二人が、共に歩み出した時のように。
『(そして、みくる様、あなたも……)』
みくるは前に、足を踏み出した。
「約束された勝利の剣ァァァァ!!!!」
騎士王の光が、神々しい紅蓮の爆光を呑み込む。
「────後より出でて先に断つもの(アンサラー)」
だが、一人の少女の勇気を嘲笑うように。
その瞬間、因果が逆転した。
〇
「な……に、が……?」
地べたから、上条当麻はゆっくりと体を起こしていく。
数秒前の記憶をたどり、彼は自分が空中にいたはずなのを思い出した。
そうだ。間違いなく、ソリテールに抱えられて空を飛んでいた筈だった。
『斬り抉る戦神の剣(フラガラック)』
上条は確かに見た。空中から、地に落ちたバンビエッタが水銀のような球体が飛び出して、剣のような形状へと変化してゆくのを。
そして、先に届いた筈の騎士王の聖光が、何故か届かない。
動画の巻き戻しのように、その小さな剣の一閃がみくるへと向かっていくのを。
──ソリテール、俺を投げろ。あれは……!!
理屈は分からない。けれど、数多の魔術師と戦った経験から、上条は本能的に理解した。
この右手でなければ、あれは防げないと。
だが、もう既に遅い。剣はみくるの胸へと収束し、その小さな体は投げ出されていた。
あとの記憶は朧気だ。
──ソリテール!!
ソリテールは上条の身体を力任せに掴むと、爆発の可殺範囲の外へと向けて一気に投げ飛ばした。
──その右手、大事にしてね。
自らは、狂乱の爆風の中へと姿を消しながら。
庇われたのだ。
直後、バンビエッタの歓喜に満ちた高笑いとともに、天を突くような爆音と凄絶な衝撃波が周囲を呑み込んだ。
視界が炎と煙で覆い尽くされる中、上条の全身を、嫌な浮遊感と無力感が包み込んだ。
「く……そ、み……んな……」
体が痛むけれど、五体満足。
上条は掠り傷を負う程度で済んでいた。
だから、土埃と砂だらけの体を起こして、声を出す。
爆発で均された、瓦礫だらけの市街地の真ん中で。
「ふーん……一番、冴えない奴が生き残ったんだ」
応答したのは、ただ一人。
白い軍服に付いた埃を払い、上条の前に立つバンビエッタ・バスターバイン。
「……!!」
視界を埋め尽くすように滑り込んでくる、無数の紅の光球。
上条はその一つを右手に引っかけて強引に打ち消すと、そのまま地を這うように横へと身を躍らせた。
轟ッ!
一瞬遅れて大地が跳ね上がり、破滅的な爆風が渦を巻く。
消去しきれなかった暴風の圧力を側面からまともに受け、上条の身体はノーバウンドで激しく地面を転がり、吹き飛ばされた。
「おっそ」
上条が命からがら直撃を避けて、避難した先に既にバンビエッタは立っていた。
滅却師の有する高速歩法を用いて、まるで瞬間移動のように。
足を振り上げ、その踵がギロチンの如く上条の頭を砕こうとする。
両手で地面を押して、上条は飛び上がりその一撃を回避。
立ち上がり、バンビエッタに向かい拳を振るう。
しかし、すぐさまバンビエッタは掻き消えた。
めきめきっ!!
右の脇腹から嫌な音を立てて、上条はサッカーボールみたいに転がされていく。
「ちょっと驚いたけど……、ま、あんたを殺せばお終い」
「……が、ァ……な、んで……」
「なんで? ああ、私に支給された武器のおかげよ。
よく分かんないけど、相手の大技を無効にして、そいつを殺してくれるみたい」
斬り抉る戦神の剣。
敵が、切り札と自覚した攻撃を放つ場合、因果を逆転させその敵を抹殺する、現代に遺った宝具。
条件を満たさなければ、ただの強攻撃に過ぎず。
また、反動により素手で扱えば、手が黒焦げになる代物だったが。
静血装で手を保護したおかげで、痺れる程度に反動ダメージを軽減。
バンビエッタはひらひらと右手を振りながら、けろっとした表情をして、上条を見下ろしている。
「げほ……! ぐ、……」
咳き込む上条。
見た目は華奢な癖に、膂力は並みの男を遥かに上回る。
(こいつ……神裂みたいに、素でも強いタイプだ……!)
聖人と呼ばれる人知を超えた超人たちにぶん殴られようとも、耐えきる上条の頑丈さゆえに、この程度で済んでいるとはいえ。
本当の意味で、普通の高校生がこんな蹴りを貰えば、一撃で戦意を喪失し意識が朦朧となっている。
(このまま、まともに喧嘩をしてたら、確実に負ける……どうにかしないと……)
能力頼りで、素の肉体を鍛えていないタイプであれば、懐に潜り込めばどうにかできる自信があった。
しかし、バンビエッタは仮にも虚(ホロウ)という怪物を討伐する滅却師にして、その頂点である星十字騎士団の一人。
「爆撃」を抜きにしても、純粋な腕力だけで上条を殺すことなど造作もない。
唯一の懸念である右手に対しても、本体の強さが喧嘩慣れした学生の域を出ない上条ならば、早々触られることもない。
「チッ……なんで「爆撃」にだけは、正確に右手を当てられるのよ?」
飛ばした霊子を、上条が打ち消すのを見つめながら、面倒くさそうにバンビエッタは舌打ちする。
とにかく、あの右手の正体は不明だが、消せるのは霊子といった、異能力の類のみ。
その霊子への反応だけは、バンビエッタですら舌を巻く速度。
しかし、それだけだ。
効果範囲は右手の触れられる範囲のみで、上条の強さは死神の席官クラスにすら及ばない。
星十字騎士団の、いわば雑兵である聖兵(ゾルダート)にも、太刀打ちできないだろう。
「近づいて、ボコボコにしてやっても良いんだけど……、その訳の分らない右手を相手に、それはちょっと賢くないわね。
念の為に──全部爆破してやるわ」
点の攻撃には、さしもの上条の前兆の感知も意味を成さず。
さらに、異能の余波によって飛んでくる瓦礫などの破片は、右手では消去できない。
つまり数で攻めれば、「爆撃」でも十分、殺害可能。
バンビエッタの霊圧が高まり、彼女の周りの空間が蜃気楼のように揺らいだ。
「く、ッ……そッッ!!!」
上条にできるのは、前方へと走り出し、霊子が乱射される前に右手をバンビエッタに叩きつける事だけだった。
しかし遅い。
蹴り飛ばされた上条と、バンビエッタの距離は、絶望的なまでに開いていた。
ただの男子高生の全速力で縮められる間合いなど、たかが知れている。
余裕を含ませた笑みを浮かべながら、上条の無意味な抵抗を眺めつつ、バンビエッタは「爆撃」を周囲に展開し、
「──つ、ぅ……!!? あいつ、生きて……」
バンビエッタの顔から煙が吹き上り、目線はガクンと左側へと虚空を捉えた。
瞼を何度も開閉しながら、バンビエッタは右の口端から流れる血を拭う。
(「爆撃」の威力が落ちてる? しかも──)
「おっと、手が滑った」
(私の静血装を、貫通してきた……?)
レオン・S・ケネディの構えた巨大銃による砲撃。
あの男が生きていたことに、驚く暇もない。
静血装で防げる程度の火力しかなかったはず。
何故、急激に威力が跳ねあがっているのか、バンビエッタの思考処理は完全に追いついていなかった。
「おおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」
それでもほんの一瞬だった。
いわば、蚊に血を吸われているのが、気になって掻いたようなそんな程度の油断と隙。
そもそもが、まるで勝負にすらなっていないのだ。
不確定要素の高い上条の右手を警戒こそしているものの、ただの人間風情が、滅却師たる自分に触れられるわけがない。
(な、こいつ……速……い!?)
だが、レオンの繋いだ一瞬という短い時間を、上条当麻は最大限に活用して見せた。
踏み込み、腕の振り、腰の落とし方。
全てが我流であり粗削りであり拙い。
上条当麻とバンビエッタ・バスターバイン。
総合的に見て、バンビエッタの方が実力は上だ。
戦いの技術を磨き上げた彼女に、喧嘩慣れしただけの上条が勝てる道理などない。
だが。
この間合いで、この刹那で、この瞬間に限り。
上条が一手、上回っていた。
常に、魔術師と能力者との死闘に身を置き、殴るという泥臭い行為に、右手だけを武器に泥臭く命を懸けてきた少年の場数が、ここで牙を向く。
バンビエッタの頬に、幻想殺しの右手がめり込む。
次の瞬間、静血装によって強化されていた皮膚が、見た目通りの少女の柔肌へと戻った。
そして、石のように硬い上条の拳が、皮膚を潰し、肉を圧迫し、骨の髄にまで強烈な衝撃を叩き込んだ。
「ぶ!! げ、ェ……!!」
バンビエッタの美声からは想像もつかない、潰れたカエルのような悲鳴が木霊した。
灼けるような顔面の痛みに、脳が揺さぶられ視界がぐらつく。
さらに、上条は右腕を折り曲げて、バンビエッタの顎下へとアッパーを叩き込んだ。
「ぐが、ッッ……!! ご、の……!!!」
痛烈な衝撃。
殴られるなど、バンビエッタからしてみればいつぶりだろうか。
少なくとも「爆撃」の能力を得てからは、早々あることではなかったはずだ。
(このまま、押しきれ……っ!)
自らを鼓舞するように歯を食いしばりながら、上条は何度も少女の顔面に拳を叩き込んでいく。
ゴン! ゴン!! と骨がかち合う固い音が響き渡る。
バンビエッタの血で拳が濡れようとも、上条はその手を休めはしない。
この機を逃せば、恐らく上条に勝ち目はない。
ラッキーパンチが入って、一度パニックになったバンビエッタが冷静さを取り戻せば、全て終わりだ。
(神裂やアックアと違って、こいつはそこまで打たれ強い訳じゃない)
殴って殴って殴り続ける。
バンビエッタの「爆撃」は聖人に匹敵するものの、本人の強固さはそこまでではない。
少なくとも、幻想殺しが触れるたびに、何かを破壊する手応えがある。
上条の知らない、何らかの強化を施しているのだろう。
その下駄を履かせた防御を抜きにすれば、これまでに戦った聖人たちの方が遥かに頑丈だ。
「舐め、るなァッッ!!」
霊子を上条にではなく、その周囲に振り撒こうとする、バンビエッタ。
右手で防ぎきれない、「爆撃」の余波で覆った攻撃ならば殺しきれる。
そう確信した瞬間、無骨な銃声が戦場に響き渡った。
「気移りか? 妬けるね。俺に気があるとばかり思ってたんだがな」
バンビエッタの肩が、激しく跳ね上がる。
金色のエネルギー弾が、飛び散る鮮血と共に彼女の肩を撃ち抜いて通り抜ける。
「なん、で……私の静血装が、貫通するのよ……!!」
突き抜ける激痛に耐えかね、霊子の精密な操作が大きく乱れる。
解き放たれるはずだった爆弾は狙いを失い、ただ虚空へと消え去っていった。
ぐっしゃあ!!
顔面が圧潰されるかのような勢いで、上条の拳が突き刺さる。
何度目か数えるのすら馬鹿らしいほどの痛撃だった。
「──ッッ!!」
その時、バンビエッタが爆発した。
上条に殴られ、その慣性に体を持っていかれ、よろめいた彼女の体が轟ッ! と起爆する。
霊子を自分自身に打ち込んだのだ。
間近にいた上条は避けきれず、迫りくる爆破を右手を翳して防ぐ。
しかし、その爆破の勢いに煽られ、バンビエッタの体は後方へ吹き飛ばされていった。
「しま、ッ……!」
自ら、爆破させた腹から血を滲ませたバンビエッタが口端を吊り上げ、上条は青ざめる。
これはバンビエッタの用意した逃走経路だ。
二者の、致命的なまでの距離が開く。
上条当麻の間合いから、バンビエッタが遠ざかる。
「距離さえ……取れば、あんたらみたいな雑魚……!!」
鬱憤を晴らすかのように叫ぶバンビエッタへ、追随するように駆けだす上条とレオン。
だが、このままバンビエッタが再び完聖体を展開し、完全に空へ舞い上がってしまえば、上条に有効な対抗手段はなくなる。
レオンのパンプキンも、膨れ上がる「爆撃」の密度と威力の前には相殺されてしまうだろう。
「…………、ッ…………!!」
その時、激しい突進を続けていたレオンが、突然その場に膝をついた。
「レオン、さん──!!?」
思わず上条が振り返ると、その背中から煙が上がっているのに気付く。
鼻腔を突く、肉を焼いた独特の香り。
レオンの額には、耐え難い痛みを物語る脂汗が、びっしりと張り付いている。
『なん、で……私の静血装が、貫通するのよ……!!』
バンビエッタは、急激に跳ね上がったパンプキンの威力に対して、疑問を抱いていた。
浪漫砲台パンプキン。それは使用者の精神エネルギーを弾丸として放出する、特殊な巨大銃。
そしてこの武器の最大の特徴は、使用者が追い詰められ、ピンチであればあるほど、その威力が爆発的に上昇するという性質にあった。
例えば。
先ほど、バンビエッタが放った絨毯爆撃のような「爆撃」。
それを回避しきれず、レオンが深手を負っていたとしたら。
それは紛れもなく、彼にとって絶体絶命の”ピンチ”に他ならない。
「行け! 奴を、飛ばすな!!!」
足を止めかけた上条に叱咤を飛ばすのは、致命的な怪我を負っているレオン本人だった。
膝を折りながらも、レオンはパンプキンを握り構えたまま、目線はバンビエッタから外さない。
「……っ! すいませんっ!!!」
上条は一度だけ目を瞑ってから、そして二度と振り返ることなく、疾走する。
「遅いのよ。これで、お終いに──」
上条の到達前に、完聖体を展開し翼で空へと逃れる。空にさえ飛んでしまえば、後はどうとでもなる。
飛行能力を持つソリテールは既にいない。
仮に生きていたとしても、今度は不意打ちに気をつければ問題ない。
そもそも、完聖体を発動させた自身の飛行性能は、ソリテールのそれをも遥かに凌駕しているのだ。
「な、……!!!?」
だが、まさに飛び立とうとした瞬間。
「させるかよ!!」
バンビエッタの視界が黒く覆われる。顔に何かが張り付いていた。
「八神さん!?」
上条の後方から飛来したのは、先ほど八神が手にしていた、もぎもぎ。
煤で顔を汚しながらも、八神隆之は五体満足でしっかりと健在だった。
バンビエッタは顔に張り付いたそれを咄嗟に手で取ろうとして、その手にももぎもぎがくっついてしまう。
触れたが最後。
もぎもぎは、まるで生き物のようにバンビエッタの手に絡みつき、新たな拘束を広げる。
「取れな……ぐ、ご……ぉ!!!」
視界を奪われ、呼吸を塞がれたバンビエッタの隙を逃すはずもない。
バンビエッタの腹へ、上条の拳がねじ込まれる。
腹を貫通させかねない勢いの拳に、バンビエッタが悶えた。
そして、展開寸前だった完聖体の翼が消去される。
(し……し、ぬ……殺され……)
さらに張り付いたもぎもぎは、バンビエッタから呼吸を奪い、彼女から冷静さを奪っていた。
死にたくない。死にたくない。こんな場所で、殺されるなんて絶対に嫌だ。
「伏せろ!」
顔面に張り付いたもぎもぎによって視界を完全に潰されたバンビエッタには、もはやその声の主すら正しく認識できない。
上条は瞬時に身体を反らし、その場へと上半身を深く沈めた。
直後。
上条の頭上を、凄まじい熱量と轟音を伴った閃光が掠め去る。
それは、使用者の致命傷というピンチによって威力が上昇した、レオンのパンプキンによる砲撃。
全てを焼き尽くす圧倒的なエネルギーの奔流が、バンビエッタ・バスターバインの身体を真っ向から呑み込んだ。
〇
小林みくるにとっての幸運は、サファイアが斬り抉る戦神の剣を一度見ていた事だった。
エーデルフェルト邸で、かつて交戦したバゼット・フラガ・マクレミッツが放つそれと比較して、
バンビエッタの撃った、斬り抉る戦神の剣は威力が下がっていた。
本来の使用者ではないバンビエッタの扱いが下手だったのか、それが森口による制限なのかは、サファイアには判断が付かなかったが。
すぐさま、全魔力を左の心臓付近に集中。
威力の削がれた宝具の一撃は、サファイアを纏ったみくるの胸を、どうにか致命的な貫通に至らせずに済んだのだった。
──が、……がは、ッッ……!!!
だが、それはあくまで心臓が破壊されなかっただけに過ぎない。
宝具が放った凄まじい衝撃が胸部を直撃し、障壁を張ろうと、みくるの肉体には絶大なダメージが叩き込まれている。
あまりの激痛に、涙を流しながら胸を抑えながら地面を転がるみくる。
胸にはじんわりと、温かい血が滲んでいた。
心臓こそ無事であっても、蓄積されたダメージは確実に彼女の肉体を蝕んでいた。
──や……が、みさん……!!
それでも、こんなところで寝転がっている場合ではなかった。
約束された勝利の剣の発動が失敗した今、バンビエッタの周りに膨大な数の霊子が漂う。
今、一番危ないのは。
バンビエッタに、もぎもぎを貼り付ける為に丸腰で接近した、八神だ。
──みくる様!
サファイアの制止を無視して、みくるは砲弾のように飛び出した。
霊子に包囲された八神の前に立って、霊子を受ける用の一層目の結界と攻撃を跳ね返す用に二層目の結界、計二重の結界を張る。
直後、荒れ狂う爆破が直撃した。
しかし、その威力は凄まじい。
限界を超えた結界は、爆風の完全な相殺など叶わず、二人の身体は猛煙の中を纏めて吹き飛ばされる。
「…………、…………ぅ」
それでも、八神を助けることはできた。だが、そこが限界だった。
制限されていたとはいえ、仮にも宝具を受けた肉体は崩れ落ちるようにして、地面へダイブする。
それから、サファイアの治癒を受けながら、みくるは身動きが取れなくなった。
上条がバンビエッタと死闘を繰り広げ、そしてレオンが死にかけている今も。
「レオンさん!」
叫ぶ、八神の声が耳朶を打ち。
みくるは無力感に苛まれた。
戦いが終わって、レオンは糸が切れたように倒れる。
八神が腕で支えるが。
その背中に刻まれた爆破の焼け口は、想像を絶する悲惨であった。
肉と骨が垣間見え、彼もまた限界を迎えながらも意志の力のみで立ち、上条を援護していたのだろう。
「昨日、少し……飲み過ぎた、みたい……だ」
軽くジョークを飛ばしながら笑って見せるレオンだが、それが空元気なのは誰の目から見ても明白だ。
口が達者な八神でさえも、言葉を失くしていた。
腕の中で、レオンの命の灯が消えていくのが実感として感じられたからこそ。
「れ……お……ん、さん……」
「小林……」
地面から聞こえるみくるの声に、上条は一瞬手を伸ばそうとして断念した。
右手で迂闊に触れば変身が解除され、サファイアの治癒の恩恵に与れなくなる。
「ご……めんな……さ、い……」
助けることができなかった。
「ソリテールさんも……ごめん、なさい……」
あの時、あの場面で。
手が届く所にいたのは、八神だけだった。
仕方のない事だと、割り切る事などできない。
レオンだけでなく、ソリテールも姿が見えず、彼女は跡形もなく爆散してしまった可能性だってある。
二人も、助けられなかった。
──上条さんを、古畑さんを、神谷先生を、フェルンさんを、八神さんを、レオンさんを、こころさんを、それに……ソリテールさんを。
──わたしの手で、助けられるのだとしたら……!
古畑がその背を押してくれて。
サファイアの力を借りて、みんなで協力して。
それでも。
弱い。
そして、無能だ。
『みくる様……』
即興で時間がなかったために、打ち合わせやサファイアのサポートも不十分だっただろう。
詳細名簿に載らない支給品の力、まさか斬り抉る戦神の剣が支給されているなんて誰に予想できただろうか。
誰もがやれる限りの、死力を尽くした。
「……」
けれども、やはり割り切れない。
喪われていく命、人一人分の重さとはこれほどまでに重いのか。
みくるはその荷重に沈められていくようだった。
──マ…マ?
────ママは眠ってるんだ。
────いいね?
────そろそろ、お前も寝かさないとな。
あの時の自分は、きっとあの少女のような顔をしていたのだろう。
救えなかった人たちの悲惨な末路を目の当たりにして。
「小林みくる……、依頼が……ある」
ふと、レオンの脳裏に、そんな想いがよぎっていた。
「え……、依頼……?」
「君は、探偵……なんだろ?」
ラクーンシティでの、忌々しい記憶の一つ。
レオンが救えなかった親子。
母親を殺され、ゾンビ化を待つだけの娘と。
妻が死に、娘を殺す羽目になったその父親。
彼らが、レオンとそして傍にいたエイダ・ウォンを拒むようにして、固く扉を閉ざした後。
静寂を破って鳴り響いた一発の銃声。
あれからどれほどの時が流れても、それを一生忘れることはないだろう。
────あんな人たちを救いたくて俺は警官になったんだ。
あの娘にとって、自分の死は重い十字架になる。
「この事件の謎を、解いてくれ」
きっと、誰が何を言っても彼女は背負ってしまうのだろう。
「それから、俺の代わりに……アシュリーという娘を助けてやってほしい」
ならば、その痛みをただ背負わせるのではなく。
「これから……少し、長めの休暇になりそうなんでね」
未来へと進むための意味を、託すべきだと思った。
「……頼めるか?」
みくるは、即答できなかった。
探偵テストに受かるどころか、助けられたかもしれない人を助けられず、みすみす死なせてしまうような自分に。
依頼を受ける権利があるのか。
「……」
分かってる。
きっとこれは、自分への配慮だ。
無力感に苛まれたみくるへの、激励のようなもの。
弱い自分に、こんな依頼を受ける権利はない。
「みくるちゃん」
そんな、みくるの心を読んでいたかのように、八神が口を開いた。
「この結末が、ベストなんかじゃないのは確かだよ」
レオンを支える八神の手は震えていた。
悔しさと、やるせなさで。
みくるが自分を責めているように、また八神も自分を責めている。
この戦いで、誰が一番弱く無力だったか。
それは紛れもなく、八神だ。
上条のような幻想殺しの力もなければ、レオンのような戦闘訓練も受けず、またみくるのような魔法少女の才能もない。
この中で、一番弱いのは自分だ。
八神には、痛いほどのその自覚があった。
「だけど……君が来て戦ってくれなかったら、俺達は全員死んでいたかもしれないのも確かだ」
だからこそ。
「君はまだ未熟だ。先輩風を吹かせるようだけど、探偵としても、きっとその魔法少女としてもね」
八神は、静かに語りかける。
みくるの気持ちにも察しがつき、その胸を苛む痛みは自分の事のように理解できたからこそ、
彼は突き放すためではなく、同じ目線に立つためにその事実を口にした。
「でも、技術や経験なんてものは、あとから付いてくる。大事なのは──”諦めない”こと、なんじゃないかな」
「諦めない……こと……?」
「もしも足りないものがあるなら、俺や上条君だって力を貸す。みんなでカバーし合えばいい。
君は、俺を助けてくれた。バンビエッタにやられても、決して諦めずに。そんな君に、探偵の資格がないなんて、俺はこれっぽっちも思わない」
「……ッ!」
八神の真っ直ぐな眼差しと力強い言葉に、みくるはかすかに震える瞳を大きく見開いた。
鼻の奥がツンと痛み、次から次へと涙が溢れ出そうになる。
みくるは、八神がしっかりと肩を貸す先、穏やかな表情で自分たちを見つめているレオンへと、静かにその双眸を向けた。
「……フッ……任せて、大丈夫そうだな」
「…………………………っ、はい……、任せて、ください……!!」
力強く答えたみくるを見て、レオンは穏やかに笑う。
「会えて、良かったよ……名探偵」
八神隆之。
敵に回したくないと思っていたが、今この瞬間ほど、彼が味方でいてくれたことを心から感謝したことはない。
彼らに託したのなら、きっと大丈夫だ。
「久しぶりの休暇だ」
心残りがないと言えば嘘になる。
元の世界で、自分の助けを待っているアシュリー・グラハムを救えないままここで潰れること。
だが、それも。この頼もしい名探偵たちが、きっと引き継いで解決してくれる。
そう信じて。
「……ぐっすり眠らせて貰うさ」
レオンは最後にぽつりとそう言い遺すと、静かに瞼を閉じた。
胸の上下運動が、止まる。
そして──二度とその瞳が、開かれることはなかった。
【レオン・S・ケネディ@BIOHAZARD RE:4 死亡】
【残り75人】
「…………サファイアさん」
「わたし、もっと強くなれますか」
「この殺し合いと、アシュリーって人を助けに行く時だけで構いません」
「力を貸して欲しいんです」
『(──美遊様……わたしのマスターなら……)』
亡くなった美遊・エーデルフェルトなら、きっとこう言うだろう。
力になってあげて、サファイアと。
イリヤやクロ、そして多くの人たちと触れ合い、傷つきながらも大きく変わり成長を遂げた彼女なら、間違いなくそう願うはずだった。
『……はい。みくる様、……全力でお力添えいたします』
サファイアの表面にぽたぽたと涙を零しながらも、みくるはその瞳に確かな決意の光を宿した。
【G-5/朝/1日目】
【八神隆之@JUDGE EYES:死神の遺言】
[状態]:疲労(小)、強い無力感
[装備]:レクイエム(残弾数5)@バイオハザード レクイエム、浪漫砲台パンプキン@アカメが斬る!、峰田のグローブともぎもぎ(大量)@僕のヒーローアカデミア
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×0~2、レクイエムの予備弾薬(12.7×55mm弾)×15、レオンの不明支給品×0~2
[思考]:殺し合いの真相を探る。
0:これからの方針を考える。
1:殺し合いに反抗する参加者と接触する。D-5まで向かう。
2:首輪解除の手がかりを探す。
3:名簿の黒岩満が本物なら警戒する。
4:レオンさん……。
※本編終了後からの参戦です。
【小林みくる@名探偵プリキュア!】
[状態]:胸にダメージ(回復中)、トラウマ(極大)、殺し合いへの恐怖、カレイドサファイアへ転身中
[装備]:マジカルサファイア、クラスカード『セイバー』@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、詳細名簿アプリ(小川さくらのスマホ)、フリーザの小型ポッド@ドラゴンボールシリーズ
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×0~1、小川さくらの支給品×0~2
[思考・状況]
基本方針:レオンの依頼を受け、この事件を解決する。
1:いつか、上条さんや古畑さん、神谷先生を助けられるようになりたい。
2:レオンさん……、わたし、もっと強くならなきゃ……。
3:ソリテールさんも……。
[備考]
※明智あんなと出会う前からの参戦です。
※魔法少女として高い適性があり、バリア(要はミスティックリフレクション)を張るのが得意です。
【上条当麻@とある魔術の禁書目録】
[状態]:ダメージ(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3
[思考]:殺し合いを止める。
1:殺し合いに反抗する参加者と接触する。
2:ハゲ(ヴォルデモート)を警戒。
3:小林が無理をしないよう気にかけてやりたい。
4:レオンさん……。
5:ソリテール……、なんで俺を庇ったんだ?
※右腕が切断された場合発生する、ドラゴンの迎撃及びその他の現象が制限されているかは不明です。
※参戦時期は原作13巻(アニメ版二期)終了以降の何処かです。
【マジカルサファイア@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
小林みくるに支給。
性能は、マジカルルビーと一緒。
【クラスカード『セイバー』@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
小林みくるに支給。
イリヤと違い、みくるは夢幻召喚の使い方を知らないため、限定展開による英霊の宝具のみ具現化できる。
【峰田のグローブともぎもぎ@僕のヒーローアカデミア】
八神隆之に支給。
セット支給されているグローブを除いて、一度くっつくと剥がれない。
制限により、数秒で効力は消える。
──随分と遠くまで飛ばされたわね。
霊子の配分を、バンビエッタはソリテールに偏らせて、「爆撃」を行使したのだろう。
あの中で最も戦闘経験が豊富かつ、飛行手段を持っているソリテールを警戒してのことだ。
おかげで、二重の防御魔法を張り、爆弾に変質した一層目の防御を二層目で防ぐ事には成功したものの、
その防御魔法まで貫通され、はるか遠くへと吹き飛ばされることになってしまった。
「今から行っても、戦いの決着には間に合いそうにないわね」
完聖体を、上条と共に破られたのが余程堪えたのか、かなり念入りに「爆撃」を打たれたようで、数エリアも先でソリテールはようやく落下した。
咄嗟に取り出したこの盾──『いまは遙か理想の城(ロード・キャメロット)』に魔力を通して、防がなければ危なかった。
「……重いわ」
その重量は、あまりにも取り回しが悪く、ソリテールでは戦闘に活用するのが難しい。
しかも隻腕ではなおさら。
ズルズルと引きずりながら、デイパックにしまい込むと、ソリテールは残った腕で汗を拭う。
さて、これからどうするべきか。
(できれば、彼には……幻想殺しには死んでほしくないのよね)
ソリテールが注目しているのは、上条当麻の持つ右手。
あらゆる異能を消去する、魔法の論理的解明を捨てた最も原始的な異能力。
可能ならば、手中に収めたかった。
特に、同じ魔法使いであるフリーレンへの対処法にもつながる。
あの葬送の魔法使いのことだ。ソリテールの名を確認した以上、確実に葬り去る手はずを着々と整えているはず。
ならば、こちらも相応の準備をしておかなければならない。
魔法を封じる肉盾。
しかも、バンビエッタとの交戦を見る限りでは、異能への反応速度が尋常ではない。
それだけに限れば、かの勇者ヒンメルすらも凌ぐ可能性がある。
上条がいれば、対魔法使いにおいては、非常に有利な立場に身を置ける。
八神達に協力的だった理由も、フリーレンを始めとする魔法使いへの対策が含まれていた。
だから、わざわざ身を挺してまで、バンビエッタの「爆撃」から、上条を逃がしたのだ。
(それに、マハトを殺すには……あの右手は、必ず必要になる)
そして、フリーレン以上に、ソリテールにとって、いや魔族にとって最大の脅威といっても過言ではない黄金郷のマハト。
彼の人類との共存という命題は、魔族という種そのものを滅ぼしかねない。
ソリテールが出会ったダンテのような、異世界の魔族との混血を目にしたのなら、自らの命題が正しかったと妄信するだろう。
そうなれば、最早誰にもマハトの暴走を止める手立てはない。
失敗を繰り返し、諦めさせる手段も、人と魔族との混血を目にしたマハトにはもう通じない。
その前に。
マハトには、死んで貰いたいのだ。
万物を黄金に変える魔法。
ソリテールが、決してマハトに勝てないと格の違いを思い知らされた、マハトを七崩賢最強たらしめる、最強の魔法。
これを解析したフリーレンとぶつけ合わせるのも手段の一つだったが。
上条の右手もまた、この魔法に対して特攻的な効果を秘めている。
(マハトを殺せる手札は多ければ多いほどいいものね)
バンビエッタとの戦いの行方にもよるが、今すぐ急いでも間に合わない以上、焦っても無意味だ。
上条のしぶとさを信じながら、ソリテールは腰を下ろして、ゆったりと息を整えた。
まずは、魔力の回復に専念する。
いまは遙か理想の城に、魔力の大半をつぎ込んだために、今は殆どガス欠状態だった。
一旦休息を得てから、上条たちとの合流に向かうとする。
この大気には、微細な封魔鉱が粒子として散っている。
恐らくは、森口が参加者達に制限として強いるために、森口が施したものだろう。
でなければ、一瞬でこの島を黄金に変えられるマハトに、殺し合いなど強制できるはずがない。
魔法を始めとする異能を操る参加者達の力は、この微細な封魔鉱に力を吸われており、本来の力量を発揮できなくされているのだ。
つまり、この封魔鉱の粒子は、参加者たちの魔力を溜め込んでいる。
その粒子に、幻想殺しの右腕が触れれば、蓄えた魔力は一気に霧散することだろう。
不自然に魔力が消失している封魔鉱の粒子を探し出し、追跡すれば、必然的に上条当麻──幻想殺しの居場所を概ねではあるが、割り出せるはずだ。
(それに……彼らと一緒にいるのは、少し窮屈だったものね)
八神たちに協力し、味方と思わせておくのはいいが、少々動きづらかったのも、事実だった。
”お話”は趣味であるので、我慢するのもやぶさかではないが、問題は参加者の間引きだ。
やはり、数人は殺しておき、森口に殺し合いの継続を促すべきである。
ソリテールは、殺し合いに反対する者達が、森口を打倒して脱出するのでも、優勝して元の世界に生還するのでも、どちらの手段でも構わない。
だが、こんな早期に脱出の可能性が否定されるのは避けたかった。
かといって、殺し合いが停滞すれば森口が、何らかのテコ入れをしてきて、かえって脱出派の参加者が動きづらくなる可能性もある。
その為に、何人かは犠牲になってもらいたい。
(26人が死んでいるから、今すぐに何かをするとは思えないけれど)
魔力が回復し次第、
(何人か、役立たずを間引いておいても、いいかもしれないわ)
その最中に、お話をできる者もいれば、趣味と実益も兼ねられる。
無論、八神たちにバレては意味がない。
そうならないように、慎重な立ち回りは必要になるが、八神たち反逆の側に付くべきか、それとも夏油の従順の側に付くべきか。
どちらの選択肢もまだ手元に残されているというのは、この場において何よりも重要な優位性だ。
(フフフ……下手に立ち回れば、ただの節操ないコウモリになりかねないから……その見極めは、慎重にやらなくちゃね)
くつくつと、無名の大魔族は底知れぬ冷酷さを宿して、静かにほくそ笑むのだった。
【A-5/朝/1日目】
【ソリテール@葬送のフリーレン】
[状態]:右腕欠損、負傷(中)、胸に裂傷(小)(どれも治療済み)、魔力消耗(大)、比名子への関心、夏油への興味
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0~1、いまは遙か理想の城@Fate/Grand Order
[思考・状況]:夏油との合流を一時保留。回復を優先。
0:今は回復に努める。
1:マハトには人類との共存を諦めさせたい。
2:人と魔族のハーフ(ダンテ)を危険視。
3:あの子(比名子)は食べてみたい。
4:悪魔に妖怪に呪霊か……。
5:フリーレンとマハト対策に、上条当麻──幻想殺しには、生きていて貰いたい。
6:足手纏いも間引いておきたいわね。
※死亡後からの参戦です。
【いまは遙か理想の城@Fate/Grand Order】
ソリテールに支給。
非常に重い黒い盾。
魔力や呪力といった特殊な力を流すことで、防御力を上げることができる。
真名解放すれば、あらゆる攻撃を弾く究極の守りとして機能する。
ただし、本来の使い手であるデミ・サーヴァントの少女がこの島に存在しない以上、真名解放による絶対防御の発動は望むべくもない。
ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォンンン──────ッッッッッ!!!!!
近くで、隕石の落ちたような音を聞き、セリュー・ユビキタスは宮本伊織の長屋から飛び出した。
神戸しおと泉美には、中で待つように伝えて。
音源地は、ここからそう遠くない場所にあった。
もくもくと立ち上る砂煙。
そして大きく刻まれたクレーター。
間違いない、ここだ。
出来上がったクレーターの真ん中から這いあがって来るのはどんな化け物か。
近くで巨大化させたコロを待機させながら、セリューはその様子を静かに見つめる。
「く、……この……!!!」
現れたのは、顔がボコボコに腫れ上がり、白い服を血で滲ませた軍服の少女だった。
「だ、大丈夫ですか!!?」
ただならぬ様子を見て、セリューは持ち前の善性を発揮して、クレーターの中央へ駆け寄る。
(許さない! あの冴えないウニ頭、絶対にぶっ殺してやる……!!)
怒り心頭のバンビエッタ・バスターバインは、自分に近づいてくる少女を見つめて、速攻で殺そうとした。
幸い顔に付いたもぎもぎは効力を失い、剥がれ落ちていた。
パンプキンの一撃を受けて吹き飛ばされはしたが、静血装の展開が間に合った事で、ダメージは可能な限り最小限に抑えられた。
まだ霊力も十分残されている。
体中痛いが、動きにほとんど支障はなかった。
ゴミを見るような目でセリューを見て、霊子を形成していく。
油断して、近づいてくるあの少女はそれだけで血飛沫をあげて、弾け飛ぶことだろう。
(……いや、待って……)
だが、ここでバンビエッタの脳細胞が、ママチャリのタイヤのように高速回転した。
カチャカチャと音を立て近づいてくるセリューの両腕は恐らく義手だろう。
そこそこ重量があるのに、あれだけ軽やかに走れることから、そこそこ鍛えている感じだった。
横にいる巨大な犬も見るからに強そうだ。
(こいつに、あの上条とかいう奴を倒させればいいんじゃない?)
あの右手が通じない、異能を用いない強者にあのウニ頭の少年は無力ではないか。
そうだ。それがいい!
この少女に、あの上条を殺させればいいのだ。
「た、助けて!!」
「はい! 助けます!!」
「私は……上条と、禪院直哉って奴に……レイプされたの!!!」
せっかくだ。
むかつく奴も巻き込んで、盛大に悪評を吹き込んでやろう。
嘘とはいえ、犯されたなどと口にするのは、いささか屈辱的ではあった。
だが、男の悪評を広めるのであれば、性的な醜聞の方が相手に悪印象を植え付けやすい。
どうせ、この島にいる連中は皆殺しにするのだ。今さら、恥じらう必要もなかった。
「れ……れい……?」
セリューは絶句した。
あまりに衝撃的な告白に、目の前のバンビエッタをただ見つめることしかできなかった。
(確かに、ボロボロですが……)
何らかの荒事に巻き込まれたことは、火を見るより明らかだった。
しかし、本当に彼女は乱暴されたのだろうか。
そう問われると、セリューは素直に頷くことができなかった。
なにせ、彼女は空から降ってきたのだ。しかも五体満足。
普通に考えれば、ただ者ではない。
多分、この人強いだろう。そんな相手に無理やり乱暴できる人間など、そうそういるものではない。
しかも、着衣だって乱れているとは言いがたい。
「ほ、本当ですか……?」
もちろん、強さと貞操の危機は別問題。
だが、それでも疑念を拭いきれないまま、セリューは恐る恐る尋ねるのだった。
【C-2/朝/1日目】
【バンビエッタ・バスターバイン@BLEACH】
[状態]:ダメージ(中)、顔がボコボコ、満腹、ストレス(大)
[装備]:斬り抉る戦神の剣@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ(残り一本)
[道具]:基本支給品一式、現金、不明支給品×0~1
[思考]
基本思考:さっさと優勝するわ!!
0:上条とついでに直哉の悪評を、目の前のそこそこ強そうな女に吹き込む。もし、嘘がバレたら殺せば良いでしょ。
1:陛下に万が一のことがあれば、私が跡を継ぐわ。
2:ストレス発散にイケメンを殺したいわ。
3:あの冴えないウニ頭(上条)は絶対に殺す。
[備考]
※参戦時期は二回目の狛村戦の途中からです。
【セリュー・ユビキタス@アカメが斬る!】
[状態]:健康
[装備]:ステインの刀@ヒロアカ、魔獣変化・ヘカントケイル@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品一式、トガヒミコの制服@僕のヒーローアカデミア
[思考]:悪を滅ぼして、正義を示す。
0:目の前の女性から話を聞きますけど、うーん……。
1:シガラキ先生もしおちゃんも、みんなの笑顔も、私が絶対に守ります!
2:さとちゃんさん……置き手紙、ちゃんと読んでくれたかな? 『大丈夫です。しおちゃんは一時的に預かっています』って。
3:シガラキ先生が帰ってこられるまで、私がしおちゃんを守ります!
4:主催の内通者を探す。シガラキ先生が言うには男性が怪しいとのことだが……怪しい者は見敵必殺!
【斬り抉る戦神の剣@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
バンビエッタに支給、二本入り。
相手が切り札と認識する攻撃に対して発動、因果を逆転させて反撃を先に書き換える。
制限により、威力はかなり削がれている。
また、使い捨てである。
最終更新:2026年10月26日 00:48