アットウィキロゴ

『私の運命はきっと貴方だったのに、貴方の運命は私じゃなかった』


(キャラ) セイバー(ヤマトタケル)、エスデス、龍賀沙代





憐れみを、下さい。








「どうした?ここで死にたくはないだろう」



腰まで伸ばした水色の長髪に、グラマラスな長身を軍服で包んだ『帝国』の美女将軍──エスデスが。
このバトルロワイアルで初めて発した言葉が、それだった。
捉えた獲物の身体を右手一つで軽々持ち上げて。嗜虐心に満ちた下卑た笑みを隠そうともせず。


「あ…ぐ………!」


不運にもバトルロワイアル開始直後にエスデスに発見され獲物となった少女が呻く。
…エスデスに負けず劣らず、美しい少女だった。
烏の濡れ羽色とでも言うべき艶やかな黒髪を桜色のリボンで纏め、喪服である黒の和装に身を包んだ少女。
その振る舞いを一言でいうなら、大和撫子。形容するならその一言で事足りる。
人を殺傷する事は愚か、傷つける事すら想像しがたいそんな少女が。
覇権国家帝国にて、最強と謳われた女将軍に釣り上げられている。


「早く目覚めて見せろ。その能力、ただ腐らせておくには勿体ない」


12月25日の朝に、親がプレゼントを隠し持っているのに気づいた子供の様な声色と表情で。
エスデスは、少女に責め苦を与える。
気道を圧迫され苦悶を覚えながら、途切れ途切れの声で少女は「何故」と問いかける。
だって自分は何も持ってはいない。
何も見せられるような物は持っていないのだ。


「何故、とは惚けた事を言う。お前も自覚している筈だ」
「ち……が………!」


…違う。
うるさい。
知らない。そんなものは知らない。
私はそんな人間じゃない。そんな力なんて知らない。
知らないのだ。
言葉にしないまでも、雄弁と。
少女は、視線だけで己の意を語るが。


「くくっ、ふっ」


当然ながらその視線にエスデスが阿ることはなく。
ある種の確信を抱きながら、最強の女将軍は嘲笑った。
やはり、この娘は見た目通り清らかな乙女などではない。
今しが瞳の奥から覗かせた、昏い眼光がその証左だ。
帝国最強として磨き上げた戦術眼。そして野生の勘ともいうべき第六感が。
少女が必死に隠そうとしている忌まわしき本心と力を見抜く。



「つべこべ言わず力を示して見ろ。此処は戦場だ。どの道力のない弱者が生き残れる場所ではないぞ」


暴威を振るいながら、しかしエスデスのその言葉は純粋な善意から出た物だった。
この地には強者の気配がそこかしこから感じられる。一つや二つではない。
そんな生と死の最前線に放り込まれた、何の力も持たぬ弱者の末路など蹂躙の二文字しかありえない。
だからこそ力があるなら振るって見せろ、躊躇いなど不要だと彼女は教示しているのだ。
この弱肉強食の世界で、生き残る為に。


「あ……いや………ゆる、し…………」


内側で何か恐ろしい物が膨れ上がっていくのを感じながら。
それでも少女は女将軍の命令に対し否を意思を示した。
例え殺されるとしても。自分の内側になる物を押しとどめたかった。
だってこれを一度解き放ってしまえば。
きっともう、戻ることはできない。その確信があったから。
だから必死に拒んで、自身に責め苦を与えている張本人の慈悲を呼応とする。


「ダメだな。知らなかったか?慈悲を乞う時に弱者が行うべき事は二つ。
強者を納得させる理由を吐くこと、そして強者を楽しませること以外にない」


そしてお前は、そのどちらもできていない。
無慈悲な断絶の言葉と共に、エスデスは吊り上げていた少女の首をいったん離す。
一瞬の浮遊感と共に少女の臀部に衝撃が走り。
尻もちをついた彼女の鳩尾に向け、ヒールの踵を降ろし、ゆっくりと圧力をかけ始める。
命令は、既に拷問へと変わっていた。


「…まだ何故こんな事をするのかという目をしているな。
────単純さ。好きなんだ、こうして蹂躙することが」
「……んぎ……っ!ぃい、いあああ……ッ!!─────ッ!!」


筋金入りの嗜虐趣味。
抉る様に、けれど決定的な損傷を負わないように。
最強の女将軍の手際は実に的確で、少女がこれまで経験した事のない痛苦を提供する。
鳩尾を徐々にプレスされていき、臓器が喉元から飛び出るのではないかという圧迫が襲う。
エスデスにとって少女は、既に己の欲求を満たす玩具だった。


「…否と言うなら、そろそろ本格的な拷問に入るとしよう。できる限り私を楽しませてくれ。
爪を一枚一枚剥いでいくから、お前もしっかり自分の爪が剝がされていく様を見るんだぞ?」
「やめ、てくだ………やめ………」


苦悶を伴った静止の声を上げるモノの、抵抗は圧倒的な暴力によって封じられており。
それ故に、彼女が暴虐を阻む術はなく、少女が壊されるのも時間の問題だった。
1人の英霊(サーヴァント)が、その場に現れなければ。



「その娘から離れろ、下郎」



その時。凛、と響く声が木霊する。
痛みと苦しみの只中にある意識でもその声は不思議な程よく響いた。
少年のようでもあり、少女の様にも聞こえる声。
思わず、エスデスのみならず、その一瞬は少女すら視線が声が聞こえた方角へと吸い寄せられ。
果たして目にした声の主は声で抱いた印象通りのいで立ちをしていた。
精悍な少年のようでもあり、少女のようにも見える容貌。
射干玉の黒髪を三つ編みで纏め、純白の和装に袖を通し、
握られた蛇行剣が、何より目を引く。
現れたのは、そんな剣士だった。







出会って一目で、帝国最強と謳われた女将軍エスデスは確信した。
目の前の東方出身と見られる剣士は、容姿こそ幼い物の、
恐らくだが───今まで自分が出会ったどの剣士よりも強い。
敏感にそれを感じ取ったからこそ、誰何の声を向ける。



「セイバー。貴様にこれ以上名乗る名は持ち合わせてはいない」
「つれないな、セイバー。宴に招かれた以上は覇を競わないで何とする?
それに反抗的な態度を取りすぎれば首輪を爆破される恐れもある、間引きは必要だろう」
「その詭弁を通したいのなら、少しは下卑た笑みを抑える努力をしたらどうだ」



お前の様な極上の獲物が釣れたのだから、やった甲斐はあったな。
言葉にしないもののそう思いながら、エスデスはその手に氷のサーベルを形作る。
凡俗な敵ならそれだけで戦意喪失しそうな殺気を浴びてなお、セイバーは涼し気な顔を浮かべて。
それを認めてからエスデスは更に笑みを深め、戦闘欲求のボルテージを一段階高める。
そして、少女の眼前に尖ったハイヒールの踵を持ち上げて、セイバーに告げた。



「これはさっきの離れろ…と言う言葉に対しての返答になるが。
この娘を救いたいなら、離れさせてみるがいい。この私…エスデスを退けてな」



言葉と共に、ギロチンの様に踵を振り下ろす。
それとほとんど同時が僅かに早いタイミングで、セイバーの姿が掻き消える。
放たれた弓矢の様な吶喊。エスデスをして危機感を覚える突撃速度。
それ故に乙女の顔面を崩壊させるのを中断し、その場を飛び抜き防御態勢に入らざるを得ず。
大気を震わせる衝突音と共に、夜の闇を剣閃が閃いた。






───早い。
セイバーの剣閃は、最強と名高い将軍エスデスすら、瞠目するものだった。
鋭さも、見た目からかけ離れた重さも正しく一騎当千の兵(つわもの)と呼べる水準。
その中でも特にエスデスの琴線に触れたのは、その技量と経験だ。
我流ではあるが、間違いなく数えきれない実戦の元磨き上げられた殺人技術。
それはエスデスの闘争本能を右肩上がりに昂らせていく。
その衝動に思う存分身を委ね、数秒で百に迫る氷弾を形成。弾幕じみた射出を行う。



「───若旦那の宝具の雨を思い出すな」



重機関銃の様に飛来する氷の礫を、振るわれる刀身と付随する剣圧のみで退ける。
一撃でも見舞えばその華奢な肢体が吹き飛ぶ殺意に晒されながら、セイバーには笑みすら浮かべる余裕があった。
それを見た瞬間、エスデスの胸が高鳴り目の前の剣士を捻じ伏せたいという欲求は留まる事を知らない。
最初は礫だった氷はやがて砲となり、槍となってセイバーに迫る。



「なんの──ッ!」



放たれる殺意に向けて、セイバーの剣の切っ先から凄まじいエネルギーが立ち昇る。
迎撃の為都度振るわれるそれが何であるか、すぐさまエスデスは看破した。
水だ。凄まじい水圧から生まれるエネルギーを、セイバーは切っ先の推進量としている。
恐らくは、水を操る帝具の使い手なのだろうと推察できた。



(あぁ、であれば惜しいな────)


もし、セイバーの操る帝具が別の能力であったなら。
もっと面白い勝負になっただろう。そう感じる程、エスデスとセイバーの能力の相性は最悪だった。
氷を放っているからか、ブラックマリンという帝具を操る部下の様に直接水流などで攻撃はしてこないが。
デモンズエキスを統べる自分を相手取るには、その程度の対策では甘すぎる。
その気になれば、直ぐに決着はついてしまうだろう。
その確信があったからこそ、エスデスはセイバーに問いかける。


「時にセイバー、お前は気づいているか?
お前の目には私が悪鬼の様に映っているかもしれんが───」


エスデスと言う女は、戦闘力の高さのみで将軍に上り詰めた訳では無い。
幾千の部下に畏敬を抱かれ、幾万の敵に敵意を向けられてきた身だ。
暗殺されようとした経験も十や二十では効かず、覇権国家帝国の将軍は馬鹿では務まらない。
相応に、他者への観察眼も叩き上げで磨かれてきた。
その目で以て、彼女は少女のプロファイルを語った。


「セイバー、お前も気づいているだろう?"あれ"に纏わりついた怨念を」


エスデスが天性の勘と、数えきれない実戦で培った観察眼で感じ取った娘の力。
数えきれない怨念がべったりと纏わりついた忌まわしい蟲毒の蟲の集大成。
癒着して一体化しているため、最早雪ぐ事も払い落とす事も出来ない、あれはそう言う呪いだ。
そして、エスデスも女だからこそ分かる。そんな物を内包している少女自身もまた。
身も心も遠い異国の姫君の様に無垢な乙女ではない。常世全てを呪わずにはいられず。
救う事など出来ない。そう言う手合いだと最強の女将軍は断言した。


「……だが、彼女は貴様に虐げられて尚、自らの力を表に出すことを良しとはしなかった」


────盈月は残す。数多の強者を誘い、集うための『災い』として。


セイバーは知っている。己の中の鬼を封じ続ける事が、どれほどの成果か。
たとえその身に宿した物は救いようがなくとも、それでも暴力を振るう事を彼女は良しとしなかった。
そんな彼女の行いに応えぬことは、善き行いではない。
だから、エスデスの詰問に対して答えを返すセイバーの眼差しに、揺らぎは感じられなかった。
柄を握る手は緩まない。
一切の迷いを生じさせず、セイバーは答えを返す。


「貴様の様な暴威に晒されても、彼女は善であろうとした。
────だから、私は彼女が示した成果に応える。それだけだ」
「……そうか」


返答を聞いて。
セイバーの紡いだ答えを、エスデスは笑わなかった。
彼女個人の価値観で言えば下らない物だったけれど。
それでもセイバーの剣技と躊躇なく答えを返したセイバーの矜持には一定の敬意を払う。
そして、だからこそ。


「セイバー、私の部下(モノ)となれ。お前の剣は、私の元で振るってこそ価値を抱く」
「寝言は寝て言ったらどうだ」
「無論、ただの言葉でお前が私に阿るとは思っていない。私が勝ったら……さ」


パキンッ。


渇いた音を立て、エスデスが言葉を紡ぐと共にセイバーの下半身が一瞬で凍り付く。
当たり前の話だ。セイバーの様に水分を周囲に拡散させる戦い方では。
エスデスがそれを見逃す筈もなく、また凍結させるのは造作もない。
下半身が凍り付けば、これ以上の戦闘は不可能。
氷弾の雨を、今のセイバーが阻む術はない。
如何様にも料理できる様になった段階で、今一度エスデスは問いかける。
先ほどの返答、気は変わったかどうかを。


「返答は変わらん。この程度で勝ったつもりかエスデス」


セイバーの返答は簡潔だった。
だって、彼はまだ敗れていない。
虚勢でも韜晦でもなく、事実としてセイバーはその事実を語る。
そして、窮地の中にありながらやはり彼は自信を孕んだ笑みで以てエスデスを誘う。



「私を己のモノとしたいのだろう。
だが───まだお前は私を屈服させられた訳では無い。これで決着と言うなら、片腹痛い」
「…………フッ!くくくく……!あぁ!であれば、最後まで私を失望させてくれるなよセイバー!」
「無論だ、エスデス。決して凍てつかぬ、開闢の雫というものを見せてやろう」



セイバーの焚きつける様な挑発を受けても苛立ちはなく。
しかし己の中の征服欲に忠実に。
エスデスは体内の帝具・デモンズエキスの駆動率を引き上げる。
ここまで挑戦を挑まれて、手加減をする方が礼を欠くというもの。
それ故に、セイバーの殺害すら視野に入れた攻勢に動く。



「セイバー。お前の操る全ての水分は、私の支配下だ」



かざされた掌に水分が集まり、巨大な氷塊を形成していく。
それが衝突すれば、セイバーの華奢な肉体など容易に挽肉に変わるだろう。
幾千、幾万の敵を絶望の淵に追いやって来た、零下の殺意。
だがそれと対峙してなお、上半身のみでセイバーはその手に携えた剣を振り上げ構える。
面白い。この一撃で以て屈服させて見せよう。
その決定の元狙いを定める。戦意揺らがぬセイバーを下すための、決着の一撃を。



「大言を吐いたんだ。これで終わってくれるな───ッ」



受ければまず間違いなく上半身が消し飛ぶ。そんな一撃を前にして。
窮地の中に遭っても、セイバーの瞳が揺らぐことはなかった。
ただエスデスが技を放つ数秒前に小さな声で、何某かの呟きを漏らし。
次の瞬間、光と共にセイバーの下半身を覆い縛り付けていた氷の戒めが砕ける。
まるで、内側からの水圧に食い破られたかのような破壊。
その様を見てほう、と息を吐くものの、エスデスに動揺はなく。
既に生み出した氷塊は、セイバーの矮躯を潰して余りある。今更動けるようになった所で既に遅い。


(問題ない、私の方が早……ッ!?)


ず、んッ
瞬間、エスデスの左半身に形容し難い圧力がかかる。
粘着質で、まるで流行り病の様に五体から力を奪う、そんな圧力が。
意識が引き寄せられ、思わず異変が現れた方向に視線を向けると、そこには。
先ほど蹂躙しようとした少女が此方に向けて手を向けていた。
強者に一矢報いる弱者の一刺しとでも言うかのように。目を見開いて。
少女の唇が、ゆっくりと動く。


そのひとに、てをだすな。


それを目にしたエスデスはちっと舌打ちをするものの、意趣返しをしている暇はない。
類稀な戦闘本能と経験値が警鐘を鳴らしていたからだ。
意識を眼前に引き戻すと、既にセイバーは剣を振り下ろそうとしており。
雑魚に構っていては競り負ける。力には力で抗さなければならない。
斯くして、強大な二つの力が今激突を果たす。




「グラオホルン────!」
────絶技、八岐怒涛。



カウンターの一撃は、大河の如く。
想定を遥かに超えた一撃に、エスデスの視線が見開かれる。
グラオホルンの氷塊を激突の瞬間粉砕した威力もさることながら。
エスデスが真に驚愕したのは、セイバーの剣から放たれた力の奔流が凍結しない事だ。
否、凍結してはいるものの、速度がまるで追いついていない。
こんな事態は、エスデスが帝具デモンズエキスをその身に宿した時から終ぞない不条理であった。
それほどまでにデモンズエキスの母体となった超級の危険種は強力だったのだから。
───対峙したのが東方最古の神殺しであり、魔性殺しでさえなければ。



「────、」



聖杯戦争。別名を盈月の儀に招かれた彼の英霊(サーヴァント)の御名を、ヤマトタケル。
魔と神、そして末路わぬ民を屠って来た日出る国最古の征服者。
振るうは三種の神器と呼ばれた神造宝具。覇者の冠無き皇国の象徴兵装(レガリア)。
尊き刃から生み出される斬撃は、個を対象とした物でありながら軍を砕く。
その一撃を目の当たりにしてエスデスは目前に迫った死の脅威も忘れ息を呑む。
これは、この剣は。この光は何と。




何と、眩く美しいのか────、







……逃がしたか。
英霊ではない様だったが、令呪の縛りも無い界剣の疑似解放でも仕留められなかった先ほどの女。
油断ならぬ相手だという認識をさらに強め、周囲を鋭く睥睨してからやっと剣を収める。
逃してしまったのは遺憾ではあるが、敵も少なくないダメージを負ったはずと言う事で今は良しとする他ない。
それよりも今は。


「君、怪我はないか。これでも周囲に気は使ったつもりだが」


黒の和服と桜色のリボンを舞い上がった粉塵で僅かに汚した少女は、放心状態だったのか直ぐに反応できず。
二度目、三度目の呼びかけでようやく返答する事ができた。
怖気からか膝を地面につけ、じっとセイバーを見上げ尋ねる。


「あの……あなた様は………一体………」
「取り合えず君の敵ではない。だがしかし、何と聞かれれば……ううむ」


盈月の儀の参加者ではない少女に、己の事を何と説明したものか。
腕を組みながら思案に耽るセイバーだったが、少女にとって、セイバーが何者であるかは重要でなかった。
何故なら、彼女にとって最も重要なのは。



「……っ!あなた、様は…………私(わたくし)を連れ出して、くれますか?」



血を吐く様に、絞り出す様な声で。
少女はセイバーに向け、そうだ尋ねた。
そうして、何かが溢れた様にそっと駆け出し。
セイバーの胸へと躍る様に飛び込んでくる。


「…………君。名は、何という」


そんな少女を抱き返すことはせず。
割れ物を扱うように、そっと肩を両の掌で受け止めて。
少女の眼を、黒曜石の様に黒く輝く瞳で見つめながら尋ねる。


「龍賀沙代……沙代、とお呼びください。セイバー様」


───少女が身に纏う世界が、赤らむ。
瞳の彩と頬がほんのりと朱に染まって。
出会った時からずぅっと。縋る様に見つめ、語り掛けてくる沙代と名乗った少女。
熱に浮かされた様な雰囲気を纏いながら、身を寄せてくる少女が今抱いている感情に名前を付けるなら。
それはきっと、恋でも、愛でもなく。
雛鳥が最初に見た生物を親と思うような。きっとそんな────刷り込みだったのだろう。


「そうか………サヨ」


セイバーは沙代の視線から瞳を逸らさない。
ただ、穏やかな眼を沙代に向けて。
そして、彼女の瞳の奥にぼんやりと浮かぶ光の色を見て思うのだ。
あぁ、やはり。この少女の瞳の奥に浮かぶ光は。




───盈月は残す。俺のために残す。
───盈月は『災い』として永遠(とわ)に残す。




盈月の儀の終着点。願望器である盈月を前に、自分にそう告げた無二の友にとても似ていた。
鬼を孕んだ瞳。目覚めてしまえば太平の世では生きられぬ魂。
その時が訪れれば斬り捨てられるまで、止まる事の出来ない者の瞳だった。
だが、まだその時ではない。理不尽な暴威を前にして、彼女はその選択を拒んだ。
忌むべき力を、他者を救うために使ったのだ。
ならば善成す皇子として、彼女の味方となろう。セイバーは己の立ち位置をそう定めた。


「案ずるな。この邪法は………必ず終わらせる。私の手でな」


もし目の前の少女が道を踏み外す事があれば。
きっとそれで迷う事はない。彼は無二の友と対峙した可惜夜の夜のように、成すべきことを成す。
だが、叶うのであれば。
セイバーは、小碓命は。少女が道を外れる事無く可惜夜を越え。
慈しい朝日を迎えられるよう小さな祈りと共に、その言葉を沙代に告げた。






セイバーの最期の一撃。あれはエスデスをして死を覚悟する物だった。
五体揃って生き残れたのは、偏に能力の相性がエスデスに圧倒的に有利だったからに他ならない。
何とか真っ先に到来した大波濤を表層だけ凍らせる事によって、飲み込まれる前にわざと自分から吹き飛ばされた。
その代償に吹き飛ばされ、撃ちつけられた全身が痛む。
彼女の胸の内は体のダメージが些事に思える程甘く熱い疼きに高鳴っていたからだ。



「セイバー……」



恋をしてみたいと常々思っていた。
将軍の器となる可能性。
危険種の狩りができる腕前。
年下。
この辺りの条件は間違いなく満たしているだろう。断言してもいい。
いで立ちから東方の出である事が推察できるので、辺境出身と言う条件も良しとしよう。
無垢な笑顔とは少し逸れるが、あの自信に満ちた笑みも愛らしい。
何方か上か、是非とも理解(わか)らせたい。


「次に会った時は覚悟していろ」


がばりと立ち上がり、復活を果たす。
身体こそダメージを負っている物の、満ちる戦意は数十倍でも温い程だ。問題はない。
エスデスはこれまでの生涯の中でも類をみないほど高揚を覚えていた。
次はセイバーを下し、屈服させ。そして、



「───お前を、私の物にする」



最後に魅せられた、剣から放たれた純粋なる力。
その力に、その力を御するセイバーの姿に、力を絶対とするエスデスは魅入られてしまった。
狂おしいほどに、恐らくは本当の名も知らぬ剣士を手中に収めたいと思ってしまった。
部下ではなく、恋人として。



「殺し合いも満喫し、セイバーも手に入れる。最高の戦場だな、ここは!」



仄かに朱に染まった頬は恋する少女そのもの。
初めての恋はふつふつと無限の高揚と活力をエスデスに齎し、停止不能の暴走を約束する。
そうして周囲にとっては死ぬほど傍迷惑な決意と共に、最強の女将軍は再び進軍を再開した。
きっともう、誰にも止められない。



【エスデス@アカメが斬る!】
[状態]:ダメージ(大)、精神高揚(特大)、セイバーに対する執着(特大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×0~3
[思考]:セイバーを手に入れる。
1:セイバーを手に入れる。
2:他の参加者を蹂躙し、殺し合いを楽しむ。
※第三巻から参戦です。






捕まって、一目見ただけで分かった。
目の前の青い髪の女性は、きっと私の内にある呪を出したところで太刀打ちできない。
御爺様と、あの村そのものと同じ。逆らったところで、自分の無力を見つめる事になるだけ。
だから、これでいいと思った。このまま終わらせようと本気でそう思っていた。

あの村であっても、東京であってもこの世は所詮苦界。
穢れ切った私を見てくれる人なんて、きっといない。
だから、このまま終わらせよう。ただ何の力もない小娘として。
自分は何も傷つけなかった被害者、という小さな慰めだけを糧として。
そう、潔く終わりを迎えるつもりだったのに。


けれど、貴方が私を見つけてしまったから。


死を待っていた私の前に現れた。得体のしれない、けれどとても強い人。
龍賀の積み重ねた罪禍すら、セイバーと名乗ったこの方の剣の前には一刀で鎮められるだろう。
そう確信するほど、セイバー様の放った剣の輝きは眩くて。
私は、その輝きに魅せられてしまった。
無意識のうちに、手を伸ばして。そして、焦がれるままに……



───あなた、様は…………私(わたくし)を連れ出して、くれますか?



血を吐くように、絞り出すような声でそんな事すら尋ねていた。
行きずりの娘が出会ったばかりの男に身を委ねるような浅ましさ。
突然こんな事を言い出しても受け入れられるはずがないことは、私にだってわかっていた。
だからもしかしたら色々な事を諦めるための、半ば言い訳を探していたのかもしれない。
どうせ自分は受け入れられないと、そう言い聞かせるための問いかけだったのかもしれない。


───案ずるな。この邪法は………必ず終わらせる。私の手でな。


事実、セイバー様の返事は私が望んでいた物ではなかった。
違う、私が連れ出してほしいのは……その眩き剣で壊してほしいのは………
胸の内で、そんな言葉が木霊する。私の事情など、セイバー様が知る由もないというのに。
落胆と、同時に自分の予想していた通りの言葉が返ってきた後ろ昏い安心感。
そして………それ以上に強い執心を、私は抱いていた。


「……サヨ、どうした?」


だって、セイバー様は。私から瞳を逸らさなかった。
私の前に現れた時から、今に至るまでずっと。視線を逸らさず見つめてくれた。
ただ、力強い瞳で私だけを見てくれた。
その事実は、望んでいた返事を返してくれなかった落胆すらねじ伏せて。
ずっとずっと、諦め続ける人生だった私が。連れ出してくれるのであれば誰でも良かった私が。
生まれて初めて…………心の底から、この人が欲しい。
どんな事をしたとしても。


「大丈夫です。何でもありません、セイバー様」


セイバー様の三歩後ろを歩きながら。
胸の奥で、何か。どろりとした物が零れた気がした。
……今、私はどんな表情をしているのだろう。



───どこにも自由なんてものは無いと思っていたのに。
───貴女が見つけてしまったから、私は。


【セイバー(ヤマトタケル)@Fate/Samurai Remnant】
[状態]:魔力消費(小)
[装備]:天叢雲剣@Fate/Samurai Remnant
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×0~2
[思考]:主催者を倒し、この殺し合いを終わらせる。
1:悪を斬り、弱きもの達を守る。
2:エスデスは次会えば斬る。
※最終ルート、可惜夜に希う終了後より参戦です。
※はぐれサーヴァントとして現界しています。
※上記の影響で天叢雲剣の完全開放は制限されています。

【龍賀沙代@ゲゲゲの謎】
[状態]:腹部に鈍い痛み(小)、セイバーへの執心(極大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×0~3
[思考]:セイバー様に従う。
1:今はただ、セイバー様の御傍に。
2:セイバー様に仇成す者は……
※水木と出会う直前から参戦です。


【支給品紹介】
『天叢雲剣@Fate/Samurai Remnant』
セイバーの霊基と結びついており、支給品枠を一つ消費するのと引き換えに没収を免れた。
スサノオ神話にて生み出され、ヤマトタケル伝説にて振るわれた神剣。
効果については使用者が選択可能。破壊を望めば、一帯に無尽の暴威をもたらす。
或いは何をも傷付けず、護ることや、救うことを望むならば―――神剣は、対界規模の奇跡を顕すかもしれない。
なお、現在セイバーはこの力の完全開放を行うことはできない。








前回 キャラ 次回
採用No.12『罪を背負いし者たち 採用No.14『新世界の神と魔神の絶叫
ヤマトタケル
紗代
エスデス

>TOP

最終更新:2026年08月09日 18:35