闇深くなれども ◆UbXiS6g9Mc



ルフィと別れた伏黒は、北東へと歩を進めていた。
目下のところ不足しているのは情報だ。
今のところ伏黒が持っているのはこの殺戮遊戯の主催者である羂索に関するある程度の情報だけ。
だがそれも天元や九十九由基といった呪術の世界の深層にいる者たちから伝え聞いただけで、羂索の真意や目的については不明瞭なままだ。

さらにこの死滅回游ならぬ死滅跳躍という儀式についても、伏黒の呪術師としての常識を覆す事柄がいくつも存在している。
参加人数だけを比較すればこの島で殺し合いに巻き込まれている人間は数十人。数千人から数万人が巻き込まれている可能性がある死滅回游に比べ少ない。
しかし集められた参加者の背景を考えると、実際には死滅回游以上の規模で行われている儀式である可能性があるのだ。
ルフィと交換した情報が真とするならば、ルフィの生まれ育った世界はまったく別種の世界。
歴史や地理だけでなく物理法則まで異なっている、まさに異世界のファンタジー世界だ。

(時間や空間に作用する術式はあっても、異世界に繋がる――ましてやそこから人間を連れてくるなんて離れ業は、俺が知ってる術式だけじゃ到底不可能だ)

伏黒は考える。
羂索には――伏黒たちが知らない、異世界の協力者が存在するのではないか?
無論、羂索の単独犯だという可能性は残っている。羂索も数百年の長きにわたって呪術界で暗躍をしてきた術師だ。
伏黒が知らぬ呪術の深淵に到達し、時空を越える術を手に入れていたとしてもおかしくはない。
だが異世界を繋ぐ能力を持つ何者かと羂索が協力して死滅跳躍を開催していると考えれば、そのほうが自然に辻褄が合う。

(……考えることは山積みだな。だけど考えるだけじゃ始まらない。今は何よりもまず、動くことだ)

そのため、目標を図書館に定めた。わざわざ地図上にランドマークとして設定されている以上、何かしらの意味や価値がある施設のはずだ。
図書館という施設の利用目的を考えれば、そこに配置されているのは情報だと考えるのが自然だろう。
主催者の不利益になるような情報があるとは思えないが、他の参加者についての情報などは資料の形でまとめられている可能性がある。
伏黒にとって未知の世界や技術、能力について知ることが出来れば、それは大きなアドバンテージになるはずだ。

だが、その前に――と、伏黒は近くに存在するもう一つの施設について考えを巡らせた。
その施設の名は夜桜邸。伏黒は図書館へ向かう前に、夜桜邸に寄ってみることにした。
地図に記された施設は幾つもあるが、病院や港といった一般名詞だけ記載されたものと、雄英高校や石神村など固有名詞が載っているものがある。
夜桜邸は後者にあたるが、参加者名簿の中にも夜桜という名を持つ者が三名存在していた。

(この夜桜という一族の邸宅――と考えるのが自然だな。凶一郎、四怨、六美……名前に数字が入ってるのも共通点だ。
 となると、この夜桜家の面々は夜桜邸を目印に集まってくる可能性が高い。寄ってみる価値はあるよな)

 ◇ ◇ ◇

数十分後――伏黒は誰とも遭遇することなく夜桜邸に到着していた。
伏黒の眼前に広がる夜桜邸の姿は――

「デカすぎるだろ。いや、広さだけなら禪院の家も似たようなもんか……」

月光のか細い光量しかなくとも一目でただの建物ではないと分かるほどに巨大な、まるで城のような屋敷。
その前で伏黒は一人佇んでいた。
地図に記載されているからには特別な施設なのだろうとは予測していたが、これほどのものだとは思ってもいなかった。
夜桜というのはよほどの資産家か名家か――ならば名簿に載っていた夜桜の人間たちも、それなりの上流階級の人間なのだろうか――そんなことを考えながら。

「……見られてるな、誰かに」

伏黒は、何者かの視線を感じていた。直接の視認ではない。おそらくはカメラ越しの視線だ。
これほどの巨大な邸宅ならばセキュリティ関連の設備もそれなり以上のものが備え付けられているだろう。
訪問者――或いは侵入者を感知する仕組みが作動していてもおかしくはない。

見られている。探られている。測られている。
屋敷に近づく男がどんな人物なのか――カメラ越しに伏黒を見る者は、それを知りたがっている。
ならば、伏黒はどうすべきか。彼が選んだのは、正々堂々と正面から近づくことだった。
彼にやましいところはない。素性を明かした上で無闇に敵対する意思はないことを示し、接触を図る。
あとは相手の出方次第だ。協力できそうな人物なら協力し、危険人物ならばぶちのめす。

両手を上げて何も武器を持っていないことを主張し、玄関へとゆっくり歩いていく。
玄関扉の前で立ち止まる。扉の向こうに、何者かの気配を感じた。伏黒は扉越しに語りかける。

「俺の名前は伏黒恵だ。この殺し合いに乗るつもりはない。今はここから脱出するための情報と仲間を探してる」

伏黒の言葉を聞いた扉の向こうの人物は――ひそひそと小声で何かを囁いた。どうやら会話をしているようだ。
現時点で複数人で行動をしているということは、目についた人間を手当たり次第に襲うような好戦的な人物ではないということだ。
しかしすぐに伏黒の前に姿を現さないということは、虎杖や七海、東堂といった伏黒の知人というわけでもなさそうである。

ひそひそという喋り声が途絶える。何者かが扉に手をかける気配。
さて、鬼が出るか蛇が出るか――伏黒が接触に備え、気を引き締めたのとは裏腹に。
扉を開けた青い髪の少女は、朗らかに笑って伏黒を出迎えた。

「こんばんわ、伏黒くん。そしてようこそ、夜桜邸へ。
 私は夜桜家十代目当主の夜桜六美――この夜桜家の主です。どうぞよろしくね」

 ◇ ◇ ◇

かくして六美とすずの両名の歓迎を受けた伏黒は、夜桜家の居間に招かれることとなった。
最初こそ多少の緊張と警戒はあったものの、すぐに警戒は解かれ、三者ともに同年代だということもあって場の空気は急速に緩んでいく。

「はい、すずさん伏黒くん。ごめんね、こんなものしか出せなくて……」
「とんでもない! こうやって温かいもの飲めるだなんて、もーれつありがたいよ六美さん」
「どもっす」

六美が用意した茶をすする三人。六美としては飲み物だけではなく茶請けの一つでも一緒に出したかったのだが……

「いつもならもっと色々置いてるんだけどね……何もないの。私たちの家なのに、まるで他人の家みたい」

本来ならば大家族のために備蓄されているはずの大量の食品類が、今は空っぽになってしまっていた。
それだけではない。家族以外の侵入者を排除するための大量のトラップも、辛三や嫌五の部屋に大量に転がっているはずの武器や道具も、一切合切がなくなってしまっていた。
容れ物としての建物は六美がよく知る夜桜家そのものだというのに、その中身が――物が、人が違うだけで、まるで別の家のように思える。
六美が愛おしく思っていた夜桜家が何で構成されていたのか、改めて知った。それらが、とてもかけがえのないものであるということも。
物憂げな表情を浮かべた六美の内心を察したのか、すずが励ますように言葉をかける。

「……私、普段の六美さんの家も行ってみたいな。ね、ここから帰れたら遊びに行ってもいい?」
「すずさん……うん、約束ね。……あ! そういえば私、家にフツーの友達を連れてきたことってなかったかも……?」
「えー、ホント!? あ、でも……だったら私が一番乗りしちゃうとまずいかな……」
「ううん、そんなことないよ。すずさんが遊びに来てくれたら、私嬉しい」

女子二人の可愛らしい会話。そこに水を差したのは、伏黒の一言だった。

「盛り上がってる二人には悪いですが……もしかしたら、この事態が解決したとしてもそんなことはできないかもしれません」
「えーっ、どういうこと?」
「伏黒くんがそう言うってことは……何か理由があるのかな? 私も詳しく聞きたいな、その話。
 あ、それと……伏黒くん、ちょっとかしこまってるよね。最初に名前を聞いたときと感じが違うし。
 ほら、私たちみんな同じ歳みたいだし、敬語なんか使わずにいつも通りでいいよ。ねっ、すずちゃん?」
「そっすか。じゃあ、俺もそっちのほうが楽なんでそれで」

伏黒はルフィとの出会いと、彼から聞いた異世界の情報を六美とすずの二人にも包み隠さずに話した。
六美とすずの二人はそんな物語のような世界の人間までこの島に呼ばれていることが信じられなかったようだが、そもそも今の状況が現実離れしすぎている。
ここで更に事態のフィクション度が少々上がったところで、たいして変わりがないんじゃないかと受け入れてしまったようだった。

「それじゃあ伏黒くんは、そのルフィさんって人の世界だけじゃなくて、私たち三人が暮らしていたのも別の世界の可能性がある……って言いたいの?」
「ああ。俺たちはみんな日本に住んでいたから差異が目立たないだけで、実はまったく違う世界から集められているかもしれない」
「うーん……並行世界、パラレルワールドってやつ?」

まさか話のスケールがここまで壮大になるとは思っていなかったのか、六美とすずの女子高生二人は頭を抱えた。
彼女たちも妖怪やスパイ、夜桜の血といった一般社会とかけ離れた裏の社会に足を突っ込んでいる人間ではあるが、ここまでの事態は想像もしていなかった。

「となると……誰かが助けに来てくれることを期待して待つっていうのもあんまり良策じゃないかもね」
「この殺し合いの主催者――羂索はそれを一番警戒してる。俺らの先生にとんでもない人間がいるんだが――」

伏黒は五条悟という最強の術師とこの悪趣味な企画の主催者である羂索について情報を開示していく。
この殺し合いの主催者である羂索は、元々は伏黒たちと同じく呪術に深く関わりを持つ世界の住人であったこと。
羂索が五条悟という世界を一人で変えてしまいかねないほどの力を持った人間を排除しようとしていたこと。
羂索の策謀により五条は呪具に封印され、死滅回游というこの殺し合いによく似た儀式が日本中で開催されることになったこと。

「俺が知っているのはここまでだ。死滅回游を止めるための準備に奔走していた途中に俺はこっちの殺し合いに巻き込まれることになった。
 俺がいた世界の日本は羂索と死滅回游のせいで大混乱だ。夜桜と花奏はこの話を知ってるか?」

二人揃って首を横に振る。
それだけの大事件が起きていれば嫌でも耳に入ってくるはずだが、六美もすずもそのような話はまったく聞いたことがなかった。
少なくとも伏黒が住んでいた日本と少女二人が住んでいた日本は、よく似た別の世界に存在していることが明らかだ。

「羂索はこう言っていた。忌々しい六眼、つまり五条先生の介入を防ぐためにこの空間を準備したと。
 おそらくこの結界は、外部からの介入と内部からの脱出の両方を防ぐことを最優先に作られている」
「それにもしこの島が私たちの世界とはまったく別の世界にあるなら、誰かが助けに来る可能性も限りなく低くなるか……」

三人の間の空気が重くなり始める。情報を共有すればするほど、この殺し合いの螺旋から抜け出すことが困難であることがわかっていく。
この殺戮遊戯の主催者は、複数の世界を移動し、数十人の参加者たちを誰にも抵抗されぬうちに拉致し、能力を制限する力さえ持っている。
参加者がいくら主催者に抵抗しようとも、力の差は明白だ。その抵抗すらもすべて主催者の手のひらの上で終わってしまう可能性だって高い。
だが、たとえそれが困難な道程であるとわかっていたとしても、立ち向かうことすらせずに諦めたくはない。

「……私は嫌だよ。あんなやつの言いなりになって、みんなと殺し合うだなんて」

絞り出すようなすずの声が、静かになりつつあった室内に響いた。
すずの言葉に六美も頷く。

「うん、私も。ねぇ、伏黒くん。私たちはこの殺し合いを止めたい。みんなとまた笑って再会して、元の世界へ帰りたい。
 そのためならなんだってする。だから、私たちに力を貸してください。お願いします」

六美は伏黒へと深々と頭を下げた。すずも六美の行動に倣う。
少女二人の覚悟を見て、伏黒は小さく息を吐く。

「二人とも顔を上げてくれ。そんなに頭を下げられちゃ、まるでこっちが悪者だ」
「伏黒くん……ありがとう!」
「礼を言われるようなことでもない。元々こちらも同じことを考えてた」

伏黒の基本行動方針も協力可能な参加者を集め、犠牲者の数を極力減らした上でこの事態を打破するというもの。
すずと六美の申し出を断る理由はなかった。

「なら、これからどう動くか……だな。さっきも話したように、現状だと俺たちが取れる有効な行動は少ない。
 だから俺はまず、今後の行動の指針になる情報を集めるために図書館を目指そうと思ってる。
 夜桜と花奏に決めてもらいたいのは、俺と一緒に図書館へ向かうか、このままここに留まるか――だ」

伏黒から持ちかけられたのは今後の行動について。
情報を集めるために図書館へ向かうという伏黒の行動方針はそのままだ。
だが、六美とすずの二人と共に行動をするのか、二人を夜桜邸に残したまま単独行動をするべきか、伏黒は決めかねていた。

「私としてはここに残っておきたい気持ちもあるかな。太陽やお兄ちゃんたちだったら、ここを目指して移動してくる可能性が高いと思う。
 私もみんなとは早く合流したいし、太陽たちなら戦力面でも頼りになるよ。
 だけど伏黒くんが求めてるような情報を探すなら、人手は少しでも多いほうがいいでしょ?」

伏黒は頷く。六美が言うとおり、図書館の規模が分からない以上は少しでも多くの手と目が欲しい。
わざわざ地図上に図書館を明記している以上、そこにはなんらかの意味――情報が眠っていると考えるべきだろう。
だが有益な情報がすぐに見つかる場所に配置されているとは限らない。
数十万冊の蔵書の中からたった一行の情報を見つけ出す、そんな気の遠くなるような作業が要求される可能性すらある。

「六美ちゃんが行くなら私も行くよ。どーせ一人でここにいたって、私に出来ることなんてないしね。
 よーし、そうと決まったらやる気がもーれつ湧いてきた! じゃあ、準備が出来たらしゅっぱーt……」
「いや、その前にもう一つだけ、二人と話しておきたいことがある」

すずの意気揚々出発宣言を遮る伏黒。出鼻をくじかれたすずはジト目を伏黒に向ける。
そんなすずの視線を意にも介さず、伏黒は話を続けた。

「この儀式が羂索の想定通りに進行した場合の推移について、俺が考えたことを二人にも伝えておきたい」

死滅跳躍――この儀式の目的は、参加者同士の殺し合い。
殺せば殺すほどポイントが加算され、ポイントを消費することで儀式からの脱出や新たなルール追加などを行うことが出来る。
一人殺せば5ポイント。ルール追加には25ポイントが、脱出には50ポイントが必要となる。

「このルールだけ見れば、参加者同士の殺し合いを促進させることが目的のように見える――
 だけど俺は、逆にこのルールがあるからこそ殺し合いが膠着する可能性もあると考えてる」
「えっと……どういうこと?」
「参加人数と獲得ポイント、報酬のバランスが取れていない。
 死滅回游にも似たようなルールがあったんだが、あっちは数万人規模で行われていた。
 対してこちらは数十人。会場内の総ポイント数が少なすぎるんだ」

伏黒は指折り数えながら二人への説明を続けていく。

「仮にポイントの獲得がもっとも無駄なく行われたとする。このとき脱出可能な最大人数は5人だ。
 だが、実際のところそう上手くいくことはないはずだ。現状のルールだとポイント獲得者が死亡した場合、それまでに獲得したポイントは失われることになる」
「会場内のポイントが少なくなればなるほど、報酬獲得での脱出は難しくなる……ってことだよね。
 こうやって考えちゃうこと自体、羂索の考えに乗せられてるみたいでイヤだけど……」

人の命をポイントに換算し、もっとも効率的なゲーム終了について考える。
その行為そのものに嫌悪感を抱きながらも、そこで思考を停止してしまっては状況の打破には繋がらないと、すずと六美は顔をしかめながら話に参加する。

「極端な例だろうけど、残り10人になった時点で生き残ってる参加者がみんな0ポイントだったらもう誰も脱出することができない……。
 うん、伏黒くんが言ってたこのルールが状況の膠着を招く可能性について、なんとなくわかってきたかもしれない」
「50ポイントの獲得を目指す奴がこの問題に気付いた場合、より積極的になるはずだ。
 会場内のポイントがどんどん減っていくなら、出来るだけ早くポイントを集め切る。現状ではもっとも正攻法の攻略ルートといってもいい。
 だが、10人の殺害――それもろくに休む暇なく連戦となると、よほど腕に自信があるやつしか挑まないだろう」
「そこで鍵になるのが追加ルールってわけだね」
「ああ。50ポイントで脱出というラインはルール変更でも変えられない可能性が高いが、そこに至るまでの過程を簡易化するルールなら羂索に受け入れられる可能性がある。
 たとえば参加者間でのポイントの譲渡を可能にする、殺害した相手のポイントも獲得できるようにする――あたりだな」

羂索の最終的な目的が分からない以上、受け入れられる追加ルールのラインもはっきりとは分からない。
だが儀式の遂行を円滑にするための、参加者への餌となるようなルールならば受け入れられる可能性も高いのではないか。

「乗り気になった参加者の多くがその考えに至ったとき、状況は変わっていく。
 ポイントを持った敵対者をすぐに殺してしまえばポイントが無駄になる。
 ポイントの譲渡が可能になるまではあえて殺さず、追加ルールが適用されてから殺す――なんていう選択肢が生まれることになる」
「25ポイントを集めたとしても、自分でルールを追加するんじゃなくて他の参加者に追加させてタダ乗りを狙う……って立ち回りもありそうだね。
 囚人のジレンマだとか、ゲーム理論っていうのかな。四怨姉だったらこういう話も詳しかったかもしれないけど」
「現状だとゲームクリアまでのハードルが高すぎる。でもルールを追加しようとしたら、追加する人だけ損をすることになる。
 だから様子見をする人が増える……ってこと? うーん、筋は通ってるように聞こえるけど……」
「もちろん参加者がこの考えの通りに動くわけじゃない。なんせ自分の命がかかってるんだ。
 こんな異常事態で、普段の道理が通じるとは思わないほうがいい。
 だが少しでも話が通じる奴が相手なら、利があれば思いとどまってくれるかもしれないだろ。
 自分を今殺すのは得策じゃない。もっと良いタイミングがあるはずだ――ってな」

「……正直なところ、二人を俺の探索に付き合わせることには抵抗がある。ここで待機してもらうほうが安全なのは間違いない。
 それでも今は、少しでも人手が欲しい。勿論協力してもらう以上、二人のことは俺が守る。
 だけど――絶対だとは言い切れない。俺のこの手は、どこまでも無限に伸びる魔法の手なんかじゃない。
 届かず、掴めず、取りこぼしてしまうことだってある。だからこそ二人には自分を守るための手段を一つでも多く持っていてもらいたいんだ。
 これはその一つのつもりだ。殺すなと、感情ではなく理性に訴えかける。そういう説得のやり方だってあるということを知ってほしい」

伏黒は知っている。たとえどれだけの力を持っていたとしても、周りの全てを救うことは難しいということを。
呪術師という稼業を続けていれば、嫌でも死は身近な物となっていく。
助けようと、救おうとした対象が物言わぬ骸と成り果てることが珍しくもない世界だ。
夜桜六美と花奏すずという二人の少女が善人であることは、僅かな交流の中でも感じ取れた。
率直に、死んで欲しくないと思った。彼女たちのような人間が誰かの欲望の犠牲になってしまうのは間違っている。

「――ありがとう。気持ちはよく伝わったよ、伏黒くん。
 大丈夫。私もすずちゃんも、伏黒くんほどじゃないかもしれないけど覚悟はしてるつもりだから」
「うん。私もさ、こんな最悪なこと……どうにかしたいって思ってて。でもどうしたらいいのか分からなくて。
 だけど、六美ちゃんと伏黒くんに会えて、二人と一緒に話せて、気持ちは固まったよ。
 私はやっぱり、こんなこと許せない。私だけじゃ何も出来ないかもしれない。
 でも六美ちゃんの優しさや、伏黒くんの頭の良さを見てて思ったんだ。
 一人では足りないものも、みんなとなら補い合える。みんなの力を合わせることが出来れば、きっと何でも出来る」

三人は頷き合う。まだ出会って間もない三人。もしかしたら生まれ育った世界すら違うかもしれない三人。
だけど、三人の思いは同じだ。こんなふざけた殺し合いは許せない。帰らないといけない世界が、また会いたい人たちがいる。
新たな決意と共に、三人は立ち上がった。


【G-7/夜桜邸内/1日目・黎明】
【花奏すず@あやかしトライアングル】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式。ランダム支給品1、折り紙一式@現実、早川アキの髪の毛@チェンソーマン
[思考]
基本:出来れば、誰も殺したくない
1:六美、伏黒と共に図書館の探索
2:出来れば早く祭里に会いたい
3:カゲメイは必ず止めないと
4:六美さんとその太陽さんって人の関係が羨ましい
5:これ(早川アキの髪の毛)、元の持ち主に返したほうが良いのかな……?
[備考]
※参戦時期は7巻以降。
※夜桜六美、伏黒恵と情報を共有しました。ただし妖巫女等の情報は喋ってはいません。

【夜桜六美@夜桜さんちの大作戦】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品2
[思考]
基本:皆が居るのに、こんな趣味の悪い事に屈したりなんてしない
1:すず、伏黒と共に図書館の探索
2:早く太陽に会いたい、太陽が心配
3:凶一郎お兄ちゃん、何かしらやらかしてなければいいんだけど……
4:皮下真には最大限の警戒
[備考]
※参戦時期は最低でも10巻、夜桜戦線終了後から。
※花奏すず、伏黒恵と情報を共有しました。ただし夜桜家の秘密等は喋ってはいません。

【伏黒恵@呪術廻戦】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式。ランダム支給品1~3
[思考]
基本:殺し合いの打破
1:すず、六美と共に図書館の探索
2:一通り探索を済ませたら鬼ヶ島でルフィと合流
[備考]
※参戦時期は146話後、虎杖と共に秤先輩の所へ向かっている最中
※この死滅跳躍を開催した羂索が未来の存在で、未来では五条が復活し死滅回游が何らかの形で失敗したのではと考えています


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感電 投下順 霜を履んで堅氷至る
感電 時系列順 運命の悪戯のあとしまつ

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桜と花 花湊すず 禁書
桜と花 夜桜六美 禁書
まだ見ぬ未来 伏黒恵 禁書


最終更新:2025年08月11日 22:47