SS, コピペ一覧/壁の向こう側に・下 - 【オリウマ】サクラグローリアを語るスレ@wiki

ゲートの中からこんにちは
カランドローネです
今回の模擬レースの私の枠は9人立ての5番
差し寄りの先行である私としては悪くないところです

しかしこのレース一番の実力者であるアローちゃんの枠は2番
逃げもできる先行の彼女としては絶好枠です
この模擬レース恐らくは逃げを後ろからマークして先行抜け出しを狙うアローちゃんを
後続がどう捕らえに行くかという展開になるでしょう
残念ながら逃げの皆さんはアローちゃんと正面からやり合う事になるために残れなさそうです
正直同じ先行の私も大分厳しいところではあるのですが、なんとか最終直線で差し切りを狙いたいと思います

さあ、ゲートイン完了
スタートに向けて私は集中を高めました

『壁の向こう側に・下』

ゲートが開くと共に三人がハナを切って出ていきます
予想通りアローちゃんは逃げ二人の後ろへぴったり貼り付いてマークの体勢
そこから2バ身離れて後続が一塊で続きます
私は後続の2番手に落ち着いてアローちゃん達を追走します

最初の３ハロンを過ぎてペースはここまで1800としては平均ペースと言ったところ
コーナーの入口にさしかかるここまで流れに大きな変化はありません

さあ、練習コースの緩いコーナーといえども、ここからが年明けから特訓を積んだコーナリング技術(右回り)の見せ所
アローちゃんの背中を見つめつつ、大きく踏み込むと同時に体重を蹄鉄の右前側に乗せるイメージで
体をコーナーの曲線に沿わせて前に前にと押し出していきます

蹄鉄を芝に打ち込むざくりとした感触
体重を乗せて蹴り出す時の足先の使い方を確認しながら丁寧にコーナーをクリアしていきます

チラリと後ろを確認したアローちゃんと一瞬目が合いました
私の気のせいかも知れませんが、アローちゃんは少し驚いていたようにも見えました
男子三日合わざれば刮目してみよ！
況やウマ娘をや！
私だっていつまでもコーナーで大外へ吹っ飛んでいくばかりではないのですよアローちゃん！！

さあ、4コーナーも終わりに近づいてきました
このコーナーを抜けた後は、500m弱の直線を残すのみです
直線に入ったら全力でアローちゃんを捕まえにかかる！

そう決意して大きく次の一歩を踏み込んだ時

ふかっ

ん？
なんですかこの感触？
なんだか布団に脚を載せたようなおかしな感触が？

そう思った次の瞬間

ずるり

あれ？
足元が
変な風に

滑ってててててて！！？？

「このおっ！？」

思わず叫ぶと同時に強引に逆の脚を前に出して踏み込み、力ずくで体勢を立て直します

変なタイミングで踏み込んだものですから体は思いっきり勢いがついたままで外へと振られていき、
体勢を立て直したときには私は外ラチへ向かって全力疾走で突進していました

あ、アカン

これラチへぶつかったら死ぬ奴だ

頭の奥の方で変に冷静な自分が判断を下す中、体は全力で踏み出した脚を支点に無理矢理進行方向をゴールへと向けて行きます

「曲がれえええええ！！！？」

最早自分でも何を言っているのか判りませんが
何かを叫びつつ思い切り方向転換したことでなんとか外ラチとの熱烈なハグは避けることが出来ました

そのまま外ラチギリギリを全力でゴールへと走りつつ前の方を確認してみれば
既にアローちゃんはゴール目前、私の周りを走っていた子達も殆どが私の前にいます

やらかしたアアアア！
脳内で絶叫しながら再び全力で前を追走します

最早本能のままに可能な限りの速さでゴールまで走りきった私ですが、やはり逸走の影響は大きくハナ差で6着に滑り込むのが精一杯でした……

レースの後、トレーナーさん達の大多数は勝利したアローちゃんに群がり
一部のトレーナーさんは２着、３着の子に声を掛け、
私達の目の前でスカウトが行われていきます

その隣にいる私達敗者は目を向けられる事すらありません

彼女達と私達の間には、レースの前までは何も違いなどありませんでした
しかし、2分足らずのレースの後、勝者と敗者の間には目に見えない、動かしようのない壁が横たわっていました

これが、レース
これが、トゥインクルシリーズ
2分足らずで価値のあるものと価値のないものが峻別される、残酷な現実

私は今まで、レースというものを何も知らなかったのだ
ここでは勝つ事以外に価値はない
勝てなければ
どれだけの名門だろうと
どれだけの美人だろうと
どれだけのタイムを練習で出そうと
どれだけの努力を積み重ねようと

この壁の向こう側に行く資格はないのだ

資格を得られなかった私は、資格を得た彼女達をただただ放心して見つめることしか出来ませんでした