「ファンガイア」と呼ばれる怪物をご存じだろうか。知らないの無理はない。彼らは人の身に成り済まし、闇に隠れて人間のライフエナジーを吸って殺してしまう、怖~い怪物、つまるところヴァンパイアだ。どうだ、恐れ入ったか。さて前フリはここまでだ。
御機嫌よう諸君。
俺の名前はキョバットバット3世。コウモリのファンガイアであるキバット族の名門、キバットバット家の遠縁の親戚にあたるまぁ平凡なよくある家の生まれ、らしい。
表現が曖昧?知らん。こっちにもいろいろと事情ってもんがあるんだ。
それより俺は今は署事情によりある少女と共に人間を襲うファンガイアを退治している。
ここにもいろいろと入り組んだ事情があるんだが、それについては追々話そう。
で、その少女というのが……
「キョン、君は一体虚空に向かって何を語っているんだい?」
下を見ると栗毛のショートが似合う美少女がバイオリンを片手に立っていた。
「ああ佐々木。ファンガイアとかその他諸々について元ネタを知らない人のために軽く解説していただけだ」
しかし俺をキョンと呼ぶのはやはり何かおかしい気がするのだが……これがご都合主義のなせる技か。
佐々木はバイオリンを作業用の机の上に置きながら、
「くっくっ…そうかい、それは非常に興味深いね。僕も聞かせてもらおうか」
すまん今終わった処だ。
それに語るのは主にお前の役目だと思うんだが………まぁいい。
次は何故こんな世界になったのかについて、茶でも飲みながら話そうと思ってたんだ。
「なら取り敢えず人間体になりたまえ。その手の平サイズのコウモリの姿の君もなかなかどうして可愛らしいとは思うが、やはり人型の方が話しやすい」
「俺はこの方が楽なんだよ。それと俺のような漢に可愛いは褒め言葉じゃないぞ」
特に気にはしていないが、苛立っている風に両翼を軋ませてみた。が、俺の紅い目に映る佐々木には俺が怒ってないは見透かされていたようだ。片手でノミを弄びながらこちらを見上げてニヤリと唇を歪めた。
「それは失礼。君の尊厳を傷つけたなら謝ろう。もちろん君が可愛いだけの人間じゃない事はわかってるさ」
今はファンガイアだけどな。
目前の親友はそれを流して、
「それに今日は大安だ、さすがに奴らも現れないだろう。たまにはそんな君とゆったり休日を満喫したい……」
そのときだった。
ちゃりちゃり、と部屋に隅に飾ってある赤い自転車のベルが不意になり出す。この自転車は別に佐々木の親の最高傑作と言う訳ではないんだが………
やれやれ。
「くっくっ…何だろうね、この計ったようなタイミングは。どこかで神様が見てるんじゃ…………どうやら今日もゆっくりティータイムという訳にはいかないようだ」
俺はわざわざ人の姿になる必要が無くなったからいいが……まぁ面倒なのに変わりはない、早く済まそう。近くだ、急ぐぞ。
「ああ、いくよキョン!」
おう、よーしダルっと行こう。
「いや、そこはキバろうよ………」
同時刻某所。向かい合う若い男と青く輝く怪物………
「神は過ちを犯しました」
そう、これは僕らの神様の犯した………
「貴方達の様なファンガイアをこの世にあらしめた過ち………」
これは……ちょっとした恐怖ですよ。
「その過ち………神に選ばれし者である僕が正します!」
畜生、地域限定超能力者の方がまだよかったのに!
「ボォォォォォォ」
奇声を上げて馬面の青い神じ……でなくファンガイアが襲いかかって来た。
僕は専用のブレードを構え、「ふーんもっふ!!」
の掛け声と共にそれを振るう。
すれ違う二つの影。散る火花。そして間髪を入れず振り向き座間の二撃目を放つ。敵に背中を向けたらダメでしょう?
「これで終わりです!」
「ボォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
トドメをさせる、と少し油断したのがいけなかったか。奴が裏拳を放ったのに気付けなかったようだ。
ペキャっ
え、何この音。
いやな感触だ。右手がさっきより軽い。
恐る恐る手元を見る。…と、僕の手が握っていたのはさっきまで凛々と輝いていたブレードではなく、ただのひん曲がった鉄屑だった。
……ああこういうのを死亡フラグって言うんだな。
僕はあきらめた。マッガーレ…
「ボォォ!」
「ぶふぁっ!」
馬面のローキックがモロにみぞおちに入った僕の記憶はそこで一旦途切れた。
「どうやらなんとか間に合ったようだね」
「アウトでもよかったんだけどな」
到着してみると今まさに古泉がファンガイアにライフエナジーを吸われんとしていた。何故古泉とわかるかって?昔の人は言いました。「分かってしまうのだからしょうがない」と。
「どうやら喋ってる暇はないみたいだ。いくよキョン!」
佐々木が俺の体を掴み首筋に持っていった。
「ハァハァ………」
そして俺はその白く透き通った肌に優しく噛み付く。本当は痛くないように少し舐めたりとか色々手順を踏んでいるのだが、全てを描写するのは難しいのと、下手するとエロパロへ池と言われ兼ねないので、誠に遺憾ながら省かせてもらう。
「がぶっ……!」
一瞬佐々木が恍惚とした表情になると噛んだ首筋から黒い血管が伸びてそれが編み合わさりステンドグラスのような模様となって佐々木の白い肌を覆った。腰の部分にはいつの間にか真っ赤なベルトが現れている。
そして佐々木は俺を持った右手を前に突き出し、
「…………変身」
ベルトに装着した。
『説明してやろう。勘違いするなよ、規定事項だからだ。
この佐々木という女にキョバットが噛み付くことで、よくわからない力――禁則事項だ――が目覚めて、佐々木は仮面ライダー佐々キバになるのだ!
アバウトだって?アンタのような古い頭の現地民には理解できないだろうから省いて説明してやっただけだ。
ありがたいと思え、ふん』
佐々木の体を白い光が包む。その光が散るとそこに立っているのは最早佐々木ではない。仮面ライダーなのだ!
「解説ありがとう二人とも。しかしこのモーション本当に必要なのかい?」
何故だ。戦闘形態になるのに変身は必要だろう。それとも魔法少女みたく服を散らして裸体を晒したいのか?オススメはしないな。見たいけど。
「そういうことじゃない。何故その戦闘形態がゴスロリメイド服なのかを聞いているんだ……」
服なんて飾りです。偉い人にはそれが分からんのですよ。しかしだからこそ飾るべきだ。そして俺の趣味だ。嫌なら明日はウェイトレスだ。
「なら仮面は?これはどう見ても……」
赤縁眼鏡に見えるかも知れんが違うぞ。ライダーマスクだ。フォームチェンジで色が変わる優れ物だ。
「………もういいよ。僕が悪かった」
分かれば良いんだ。それより早くしないと古泉が喰われちまうぜ。
「うわぁ!忘れてた!」
続きは書いてない。
最終更新:2008年07月08日 20:35