二年前の七夕の日のこと。須藤の家の屋上、クラスで仲の良い数人が集まって七夕祭をした。
『受験に無事合格しますように』
『綺麗で話の合う嫁さんと、平凡だが楽しい生活が送れますように』
俺のこの願いを見て、クラスメート達は「もっと具体的に書かないと願いが叶わないよ」と口々に言ってきた。
検閲するな。
そういや、佐々木はどんな願いなんだ?
『受験に無事合格しますように』
『話の合うお婿さんと、平凡だが楽しい生活が送れますように』
なんだ、俺と同じか。
しかし、クラスメート達が更にニヤニヤになってきたのは何故なんだ?
「キョン君と佐々木さんは同じ願いなんだね」「良かったね」
夜の9時頃、俺達は帰宅することになったが、佐々木を送り届けるのは何故か俺の仕事になっっている。
自転車持ってきてなかったので一緒に歩いて帰る俺達。
「しかし、理性的なお前が七夕などというイベントに参加するとはな」
「別に七夕の伝説を信じているわけでわないけど。こういうイベントも面白いものだよ」
「そうか」
「それにこのイベントは、自分が何を望んでいるかを確認するのには最適と思わないか?」
「なるほど、そんな効果があったか」
俺の願いか。とりあえず書いたありきたりな願いじゃかなわないのかな?
「ところで、君は七夕伝説を信じていないみたいだな。最初参加するつもりが無かったように見受けられるが」
「メンツが少なかったからなー」
最初は俺を入れて五人だったが、その後男子五人と、佐々木を含めた女子六人を入れた大所帯になった。
「要は、女の子がいないと面白くないというわけか。君は実にわかりやすい」
佐々木にスケベ認定されるのは実に悔しい。
「お前はそう言うが、男だけでつるんで楽しいのは三人までで、四人を超えればむさ苦しいだけだぞ。
お前はそれでも一応女だから、そういう経験無いのだろうけど。その証拠に、戦隊物でも女が一人か二人入っているじゃないか。
年頃の綺麗な女の子でなくて、うちの妹のような小学生でも、40のおばさんでも、70過ぎの婆さんでも、お前みたいな男女でも、一人いれば全然違うんだ」
えーと、怒らせたかな?
「すまん、男女というのは失言だ。忘れてくれないか?」
「付き合ってくれたら許すよ」
俺と佐々木が付き合う?突然の申し出にドキドキする。
「こちらこそよろしくお願いする」
「君は内容も聞かずにOKするのか?お人好しすぎるぞ」
へ?付き合うにあたって何か条件をつきつけられるのか?
「ちょうど行きたい展覧会があって。一人で行くより君と一緒なら倍楽しいと思ってね」
「なんだ、そうか」
喜んで損した。
変な期待しなければそれでも十分楽しいことなんだが。
「しかし、七夕といっても自分達の願いも叶えられない奴らに祈ってもな。ずっといっしょにいたいんだろ、あいつらは」
佐々木はそれを聞くとアマガエルのように笑い出した。
「君は、願いを叶えてくれるのが織姫と彦星だと思っていたのか?」
「違うのか?」
「願いを叶えるのは二人を引き裂いた天界の神様だよ。
引き裂かれた二人がかわいそうになって、でも贔屓はできないから、今日の日を下界の僕達を含めた全ての人の願いが叶う日にしたのさ」
「ということは、願いが叶うのは今日だけか。頭を良くしてくれと頼んでも、頭が良くなるのは今日だけということだな」
「下界人のしょぼい願いなら一生続くのじゃないかな。伝説の通りなら」
都会の空だったが、その日は晴れていて星がきれいだった。珍しく天の川が見えた。
別れ際佐々木は俺に言う。
「キョン、来年の七夕もいっしょに祝おう」
「おう、約束するぞ」
その時は、佐々木と別々の高校に入る未来を予想もしてなかった。
結局、俺はその約束守らなかった。正直いろいろあって覚えてなかったから。
何をやっていたか佐々木に正直に言ったら烈火のごとく怒るのだろうか。それとも笑って許してくれるだろうか
「去年はいっしょに七夕祝えなくてすまなかった。今年はその埋め合わせをするので勘弁してくれ」
「良いよ、今年は去年の分まで楽しもう」
佐々木の顔は、お袋が単身赴任から帰ってきた親父を80%の喜びと20%の怒りで見守るものに似ていた。