夏休みまっただ中。
開放中の図書室で佐々木と勉強していた……もとい、
佐々木に勉強を教えて貰っていた俺である。
困ったことに冷房が半ば故障していてお互い汗が噴き出てくる。
休憩を兼ねて校外の自販機まで来て、さすがにここは俺が奢ることにしたが、
運動部の連中も買うので、二つしかない自販機には売り切れが目立つ。
○っちゃんの350ml缶でいいか、と聞いたら、隣の自販機の紙パックのジュースがいいとの回答だ。
「○っちゃんは嫌いか?」
「嫌い、というわけでもないのだけどね。ただのこだわりだよ」
がこん、と落ちてきたグレープフルーツジュースを佐々木に手渡し、
なんとなく○っちゃんが買いにくくなった俺も紙パックのリンゴジュースなど買ってみる。
「濃縮還元している時点でそのままではないとわかっているんだけどね。
それでもジュースは100%が好きなんだよ」
「ほう」
なるほど、○っちゃんも小○井も100%ではないな。
「幼稚園の頃だったかな。家族と一緒に農園に行ったときに、
果実の生搾りのジュースを飲ませてもらったことがあってね。
それまで飲んでいたジュースが全て紛い物に思えるほど美味しかったんだよ」
「そりゃ確かに大違いだろうな」
「それで、家に帰ってからどうしてそんなに違うのかと調べて、ジュースには100%とそうでないものがあると知ったのさ」
「幼稚園児のやることか」
俺の幼稚園児の頃は……やめよう。比較すると虚しくなる。
「以来、親にジュースを頼むときは100%を、という変なこだわりができてしまったのさ。
もちろん、街中で買える100%ジュースは大半が濃縮還元で、そこまでの再現性は無かったがね」
説明してかえって口が渇いたのか、佐々木は早速ストローを差し込み、軽く唇を舌先で湿らせてから
つう、と吸い上げた。何気ない仕草だが佐々木がやると評論家が吸い上げているようで妙に様になる。
こちらも図書館まで待っていられずにストローを差し込んだ。
「そうそう、キョン、知っているかい。このパックの表示だがね」
ふと何か思い出したのか、佐々木が○ニッツメイドのパッケージに描かれたグレープフルーツの断面絵を指した。
「このように、果実から直接果汁が漏れるような絵柄は、100%ジュースにしか使ってはいけないという規定があるんだよ」
「なんだそりゃ。えらく細かい規定だな」
「果実の搾汁そのままであると消費者に錯覚させないための規定なんだそうだよ」
というところから佐々木の講義が再開した。
受験には相変わらず関係ないが、ひとまず俺の人生を潤してくれるものであることは疑う余地がないひとときである。
参考・果実飲料の表示に関する公正競争規約
ttp://www.jfftc.org/cgi-bin/data/bunsyo/A-21.pdf
「不当表示の禁止事項」について